「里緒」
「紗智?」
紗智の手が横髪にかかり、そのまま梳かれる。
「怒らないの」
「解ってるんだけどさ、やっぱムカつくじゃん」
理紅がくれたのはお礼でだ。里緒が喜ぶと思うもので。それは解っている。それでも感情が乱れてしまうのだ。
「はいはい」
里緒の頭を撫で、紗智は隣の席へと戻る。授業開始五分前の予鈴が鳴ったからだ。里緒は授業の準備をし机に突っ伏していた。
紗智は里緒を眺めながらも、周りの音を聞いている。里緒が突っ伏している原因は、未だに語られる弟のことだろう。かっこいいと騒がれているが、肝心の理紅には届いていないというのに。
理紅がなによりほしいのは、他人の称賛より身内の――愛しくて堪らない兄からの称賛なのだから。
◇◆◇◆◇◆
グラウンドでサッカーボールを追いかける人々を視界に映し、理紅は嘆息を吐いた。二クラス合同の体育の授業は、割り振られたチームで行われる。理紅がいるチームは試合が終わり、いまは審判役として何人か駆り出されていた。理紅や和己は審判をすることはなく座り込んでいるだけだが。
「理紅?」
「つまらない」
「そりゃあ、しょうがないだろ。お前は里緒よりひとつ下なんだし」
「うん。年子だから離れる年数が少ないんだよ。保育園の時も小中学生の時もね。だけど俺は、もっと一緒にいたい」
「家に帰れば一緒にいられるだろ」
「それはそれ、これはこれ。さてと、俺は保健室に行くよ」
理紅は和己に耳打ちし、立ち上がった。その顔を辛そうにさせて。
「先生。ちょっと気分が悪いんで保健室に行きます」
「藍本? ――大丈夫か? 保健委員、藍本を保健室に連れてってやれ」
「ひとりで行けるので」
やんわりと保健委員の介入を阻止した理紅は、眉根を寄せながら小さく笑みを溢す。そのまま歩き出すが、歩幅は小さい。
「先生、俺が付いて行くから」
和己は理紅に駆け寄り、背中に手を添えた。ちなみに和己は保健委員ではないが、いち早く行けば保健委員も来ないであろうと考えてだ。
「そうか、解った。気を付けて行けよ」
保健委員ではないが納得したようなのは、いつも行動を共にしているからであろう。
「理紅、今日の昼飯奢りな」
「いくらでも」
巧くいったと笑む理紅は、このあとのことを考えてさらに口元を緩ませた。
◇◆◇◆◇◆
「りぃちゃん」
「や、やだ……理紅っ」
いま里緒は、理紅によって足を開かされている。背中とパイプベッドのヘッドボードで枕を挟みながら。柵状のパイプに押し付けられる枕は、もはや形を変えている。ベッドの上で半身を起こす理紅は、目の前の肌を夢中で貪っていた。足の付け根に舌を這わせては口付けていく。
「っ……ひ、りっくん……やぁ……っ!」
里緒は必死にスカートを押さえているが、その所為で口ががら空きだ。もちろんのこと嬌声は駄々漏れである。
理紅の手が膝裏を掴んでおり、さらに足を開いていく。晒されるギリギリのラインを凝視しながら。
「りぃちゃん反応しちゃった?」
「ち、が……っ!」
否定するように頭を振れば、理紅は主張するそこに口を寄せ、下着の上から柔く歯を立てる。途端、甘い痺れが全身を駆け抜け、ふるりと里緒の躯が震えた。
「んぁ、あ……!」
「違わないよ。りぃちゃんのここ、勃ってる」
理紅は気分が悪くなり保健室で寝ているからと和己からのメールがあり、授業終わりに駆け付けたが、里緒を待っていたとベッドへと引き摺り込まれたのだ。運よく養護教諭や他の人はいないが、それでもいつ人が来るのか解らない。そんな中でこんなことをする理紅に、里緒は血の気が引いていた。理紅の吐息に反応する息子にも。
歯を立てたのは一度であるが、実に際どいところを舐めており、里緒の喉はひくりと鳴っていた。
「んく……ぅ……りっく、ん……も……嫌だって」
「うん。もうやめる」
最後と言わんばりにねっとりと舐めあげ、音を立てて唇を離す理紅は、スカートを握りしめる里緒の手を取った。
「やめてあげたから、着替えるのを手伝ってね」
「はぁっ!?」
里緒の涙に濡れた目が見開かれるが、理紅はその目元にキスをしながら里緒の手を導いた。ジャージの中へと。
「ほら、りぃちゃん。脱がせて」
「なんで、そんなことっ……!」
「やめてあげたから。俺は誰が来てもいいんだよ?」
「猫を被るからだろ」
「当たり。蹴散らすぐらいはできるしね。だからりぃちゃん、早く脱がせて」
急かす囁きに震えだした指に鞭を打ち、徐にジャージを上げていく。現れた裸体から顔を逸らせば、理紅の手が顎にかけられた。
「りぃちゃん、俺を見て」
「……嫌だ」
「里緒」
「――っ!」
この雰囲気で名前を呼ぶなんて卑怯だと理紅を見上げれば、唇を塞がれる。
「耳まで赤いね」
「うるさい! あ、あとは自分でやれよ!」
「ダメだよ、りぃちゃん」
理紅を突っぱねてベッドから出ようとする里緒の腕を掴み、そのまま抱きしめた。
「理紅っ!」
「少しだけだから。りぃちゃんを感じたい」
腕の中で暴れていた里緒は、耳朶に口付けられて大人しくなる。ふるりと震えながら、理紅の腕を緩く叩いた。
「バカ野郎……。意味解んねーし」
「俺はいつでもりぃちゃんを感じたいの。はい、終了ね。――そこに座ってて」
里緒を離してジャージを脱ぐ理紅は、ベッド脇に置かれた丸イスを指し示す。よろよろと歩み寄って座れば、理紅は「ん」と手を伸ばした。
「りぃちゃん制服」
「ほら」
篭から取り出した制服を渡し、理紅がカッターシャツに袖を通せば、「理紅くん!」とドアが開く。ベッドが置いてある後ろの方のドアが。そこには確か理紅のクラスで見たことのある女の子が立っていた。そうして彼女は里緒の隣に駆け寄り、理紅を心配げに見る。目視でも解るほどに低い背であり、肩を少し越した薄茶色の髪から香る匂いに里緒は同じシャンプーを使っているのかもしれないと思った。里緒からは横顔しか見れないが可愛いとも思う。