※この作品はR-18です。

【BL】in the room   作:白千ロク(玄川ロク)

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「眠いの?」

「少しな。腹一杯になったから、眠気が襲ってきた……。あ、理紅は早く食べろよ。話があるんだろうが」

「ああ……うん。解ってる」

 

 じっと眺められて熱くなる顔を逸らし、理紅は残るパンをかじり始める。胸中は穏やかさの欠片もないが、平静を装いながら。

 

「ごちそうさま」

 

 どうにかこうにか食べ終わり、口直しにと炭酸ジュースを一口飲んだ。シュワシュワと弾ける炭酸が、籠る熱を引かせるような気がした。

 

 手を拭いたウェットティッシュを、腕を伸ばした里緒に渡して、ゴミを纏めたその腕を取る。

 

「兄さん、あっちで話そう」

「ああ」

 

 怒られる姿など、例え幼馴染みだろうと見られたくない。そうした考えから、里緒は小さく頷く。

 

 ゴミ捨てや後片付けを頼み、ふたりは場所を移動した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 腕を引かれながらここまでくる間、流れる沈黙が怖かった。理紅は当然のように頭にきていることだろう。

 

「りぃちゃん」

「は、はい!」

 

 里緒に向き直りながら声を放つ理紅は、里緒の大きな声に首を傾げた。

 

「りぃちゃん、どうかしたの?」

「え、どうって……、なにが? いまからお前に怒られるんだろ?」

「なに言ってるの? 怒りはしないよ」

 

 理紅は困惑気味に笑いながら、里緒の横髪を撫でる。反して里緒はポカンと口を開け、理紅を見上げた。

 

「――は? いやいやいやいや、理紅がなに言ってるか解らないわ。みんなの許可もなく勝手に佐藤さんを連れてきちゃったわけだし、怒られるのも道理だろ?」

「俺はね、俺が気に入らないことでも、りぃちゃんのすることなら無条件で許すことにしてるから。といっても、限度はあるんだけどね」

 

 丁寧に前髪を掬い避けたそこに唇を寄せ、コツンと額を添えたあと、理紅は「それに俺が言いたいのは――」と話を続ける。

 

「佐藤に気を付けてってことだよ。なにかされたら、すぐに俺に言って。解った?」

「それ、を……、言いたかったのか?」

 

 まるで小さな子供に言い聞かせるように、顔を近付けて言うことでもないだろうに。

 

「うん。それ以外になにがあるの?」

「こ、これじゃあ……、見ようによっては、キ……、キス、してるように見えるだろ!」

「りぃちゃんは、キスぐらいで騒ぐんだ? もっと進んだことをしてるのに?」

 

 いたずらっ子のように笑う理紅は、里緒の耳に顔を寄せてそう囁く。

 

「っ! そ、れはっ……」

「真っ赤だよ。耳まで」

「りっくん!」

 

 笑い混じりに囁く理紅を引き剥がし、里緒は「理紅のアホ」と顔を逸らす。

 

「ごめん。りぃちゃんが可愛いから、いたずら心が湧いてきてさ」

「あ、謝れば……、許すなんて、思うなよっ」

 

 顔を戻した里緒は真っ赤な顔で理紅を睨み付けるが、理紅は「ごめんなさい」とまた横髪を梳く。ぴくりと躯を竦めた里緒は抱きしめられた。理紅の吐息が耳に触れ、心臓に悪い。

 

「りぃちゃんが許してくれないと、俺はおかしくなりそうだ」

 

 ふたたび額に口付けられ、里緒は唇を尖らせた。どうこうしても、結局は弟に勝てやしない。潜在的にか、それとももっと別のなにかがあるからかは解らないけれど。

 

「……くそっ……、許すよ! 許す! 理紅のバーカ! どう足掻いたって、どうせオレは理紅には勝てないんだからなっ」

「それはどうだろうね。俺もりぃちゃんには勝てないし」

「嘘を言うな、嘘を」

「嘘じゃないよ。ありがとうね、りぃちゃん」

 

 今度は手の甲に唇を寄せて笑う弟に、兄は「ふざけんな!」と叫んだ。未だに頬を染めながら。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ゴミを捨てに行く和己を見送り、レジャーシートを畳む紗智は、真由理を眺めて眉を寄せた。

 

「アンタ、なに考えてるの?」

「それはこっちの台詞だし。なにあれ、理紅くんはなにを考えてるの!? お兄さんしか見てないじゃない! あの空気はなに!?」

「キャンキャンうるさいんだけど。なにって言われても、昔からああで、アンタが入る余地はないの。だから、諦めなさいって言ったじゃない」

「嫌……! 諦めない!」

 

 なにが真由理を動かしているのか謎だが、「理紅くんを振り向かせるの」と前向きだ。

 

「これは忠告だから、よく聞きなさい。アンタがどんなに頑張ったって、虚しくなるだけよ。理紅が振り向くことはないわ。――絶対に」

 

 「それでも、万が一の可能性があるなら私は諦めないから!」と吐き捨て、真由理は走り去っていく。ポジティブ過ぎる思考は時にウザいと解った。

 

「人の話を聞けっつの」

「姉ちゃん、顔怖いから」

 

 真由理と入れ違いで戻ってきた和己は、若干引き気味に姉を見た。

 

「無理。アレの相手は無理。人の話なんて聞きやしないし! なんであんなに意固地なのよーっ。癒し……、そう! 私の癒しをよこしなさいぃい」

「ちょっ……!? なにキレてんだ。落ち着けって……!」

 

 肩を揺さぶる紗智を宥めながら、里緒たちを待つ。紗智の癒しは里緒であり、里緒自身はもちろんそんなことは知らない。

 

「紗智ー、お待たせ。……なにしてんの?」

 

 走り寄る里緒を一瞥し、紗智は弟の肩から手を外す。

 

「里緒! 里緒ぉおぉ!」

「うおっ! なんだ、どうした!?」

 

 がばりと抱きしめ、ぐりぐりと頬を擦り寄せる紗智の背中に手を回し、里緒は「なにかイラつくことでもあったのか?」と問うた。

 

「あったあった。ついさっき」

「紗智、俺のりぃちゃんになにしてるの?」

 

 少し離れた位置にいたはずの理紅に、無理矢理里緒を引き剥がされた紗智は「なにするのよ」と眉をつり上げた。理紅は「なにって」と里緒の肩に手を置いて引き寄せ、「嫉妬だよ」と笑みを浮かべる。

 

「バ……っ! バカかお前は!」

「俺はりぃちゃんがいないとダメだから」

「なんでそんな台詞がホイホイと出てくんだよ」

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