※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

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Melting Ⅲ

「お、おぉぉお―――!?」

 

 押し倒されるようにマウントを取られ、そのまま抱き着かれる。その余りにも予想外の行動に反応すら出来ずにコンビニの床に倒れ込んでしまった。まさか見ず知らずの女の子にいきなり押し倒されるなんて、誰も思いもしないだろう。つまり押し倒された俺は一切悪くない。腕を広げるような姿勢で倒れた状態で、黒髪ツインテールの少女にのしかかられたまま、完全に動きを停止する。

 

 だがその間に少女は覆いかぶさるように体を倒していた。少女はそのまま顔を胸板に埋める様に此方を抱きしめてから、動かなくなる。接触する体から感じる少女特有の体の柔らかさは少々、今の精神には効くものがある。引きはがそうかどうかを腕を広げた状態で考えていると、少女が顔を持ち上げた。

 

「あ、思わず抱き着いてしもうた!?」

 

「お、おぉ?」

 

 かなり珍妙な日本語が少女の口から出てきた。欧州、ドイツ系かと思ったがどうやら違うらしい。いや、髪色を見ればそもそもそっちの人間ではないのは解るのだが。少なくとも言語はドイツ語っぽさがあったが、自分の知っているドイツ語とは響きが違っていた。完全に未知の言語だった。

 

 とはいえ、困惑していると少女が倒れていた状態から体を持ち上げた。

 

「すまんすまん……いやぁ、はしたない事してしもうたな」

 

「お、おう。そうだな」

 

 答えると少女が立ち上がる。それに合わせて解放された此方も立ち上がる。直ぐ横に視線を向ければ、まだ無事な食料が集められているのが見えた。どうやら先にこのコンビニにやってきた少女が集めたらしい。此方の視線を理解したのか、少女が手を振る。

 

「あ、それ別に食べてもええで。ウチはもう食べているし。まぁ、こんな状況やから文句を言う奴も居ないと思うけど」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

 棚に置いてあるカロリーが高そうな【DXX唐揚げハンバーグコロッケパン】を取って封を開け、それに噛みつく。なんというか―――物凄いカロリーの気配を感じる味をしていた。うん、カロリーの塊である事は間違いがない。ただ、その味に関しては開発者の正気を疑うという言葉しか出てこない。お前らの味覚は絶対におかしい。

 

 まぁ、普通に食えるけど。

 

 カロリー&カロリー&カロリーの味を飲み込みながら冷たくないスポーツドリンクを手に取って、それを一気に飲み干す。

 

 だが足りない。全くと言っていいほどに足りない。この程度では全然空腹もエネルギーも足りない。

 

「拾ってきたのはウチやけど、そこまで食わんから別にええで、好きなだけ食べても」

 

「んじゃ、遠慮なく」

 

 ―――餓え。

 

 今、自分の体に沸き上がっている食欲はそうとしか表現することが出来ない。カロリーの塊を食べたらしばらくはお腹いっぱいになる筈なのに、それでもまだまだカロリーが足りない。次から次にカロリーの塊である総菜パンを手に取って食べる。それでも足りないので温めなくても暖かい弁当を取って、そして喉の中にドリンクを流し込んでゆく。

 

 自分でもあり得ないと思えるほどの食べ物を次から次へと口の中に流し込んで食べていく。それで少しずつ自分の体に活力が満ちていくのを感じる。凄まじいまでの量を食べないとそれが端からフォーミュラによってエネルギーに変換され、そしてその稼働へと回されてゆくのを感じる。食べて、昇華して、変換して、それで体を動かす。だがそれでも少しずつ活力が体に満ちていき、

 

 なんとか、腹を満たす事に成功する。

 

 その頃には棚に乗せてあった大量の食糧が全部消え去っていた。それを眺め、少しだけ気まずさに視線を少女へと向けることが出来なかった。ひよこは床の上に立ってから此方をじっと非難する様に見つめていた。それをしばらく眺めてから少女がけらけらと笑い声を零す。

 

「おぉ、よう食うんやな。見てて気持ちのええ食いっぷりやったな」

 

「……その、悪い」

 

「ええよええよ、ウチは必要な分は食べてあるし。それだけ食べるのを見てればウチもお腹いっぱいよ」

 

 なんか結構緩い子だった。そう言われると安心できるが、心苦しさが微妙に残るのも事実だった。ただ、ひよこはじーっと、此方を睨んでいる。相変わらずひよこの癖に妙に賢いというか人間的だ。ユーリ、余計なものまでこのひよこに注いでいないだろうか? いや、絶対にやってるわこいつ。まぁ、それはともかく、誤魔化す様に咳ばらいをする。

 

「Ah……本当に悪かった。俺はノアだ。宜しく」

 

「ジークリンデ・エレミアや。にーちゃんならジークでもジークにゃんでもなんでもええで」

 

「じゃあジーク。その恰好を見ると……お前も魔導士? なんだよな」

 

「せやで。まぁ、ウチはベルカ系列のミッド出身やけどな。気が付いたら戦場で目覚めるもんやから驚いたわ。たまーに次元の亀裂に飲まれて別次元にたどり着くって話は聞いてたんやけど、まさかウチ自身が経験する事になるとは思いもせーへんかったわ」

 

「おう、成程……?」

 

「わかっとらん顔やな……」

 

 まるで解らない。のは事実だ。知らない情報が多すぎるのがそもそもの問題なのだから、しょうがないのだから。だからジークリンデの言葉にどう反応すればいいかを迷えば、成程なぁ、とジークリンデが言葉にする。

 

「にーちゃん、地球人やな?」

 

「解るか」

 

「ウチの口にしている事、管理世界の人間なら解る事やで。知らないってことは管理外世界出身って事になるし、こんな状況ならこの世界出身が一番濃厚な線やろ? 服装も文明レベルに合致しとるし」

 

「おぉ」

 

「なんやそのアホの子が頑張ったのを見るような目は。ウチ、けっこー頭はええんやで」

 

「いやぁ、悪い悪い」

 

 雰囲気がどことなくレヴィ系だったので。それはともあれ、これでシュテル達以外で初めて魔法のある次元出身の人物と出会えてしまった。今の所全員少女というか女なのだが、魔法を使える条件に実は女である事が優遇されていたりするのだろうか? そんなくだらない事を一瞬だけ考えて脳内から追い出した。くだらない事を考えている場合ではなかった。

 

 コンビニの床に座り込んだまま、あー、と声を零す。

 

「とりあえず」

 

「ん?」

 

「……俺は他の生存者というか、人が集まっている場所を探して進んでいるんだけど。心当たり、ないか? 戦艦っぽいのを目指してたんだけど」

 

「時空管理局の巡航艦やな。あれが大破するなんて相当なもん喰らった証拠やな。少なくとも外の雑魚じゃ絶対に落とせるレベルの代物やないで」

 

「雑魚」

 

 腕を組み、あの騎士を雑魚と言われてしまうのは、少々納得がいかなかった。ただ、まぁ、少女からは間違いなく自分よりも高い魔力を感じる。だとすればジークリンデにとっては雑魚なのだろう。また、年下の少女に負けていると思うと少々不満に思う所もあるが、この世界に入ってまだまだ日の浅い初心者だ。そこは受け入れるしかないだろう。

 

 それはともあれ、

 

「まぁ……ウチも特に行く当てがないのは事実や。となると見てて不安になるにーちゃん残して一人で行くわけにもいかへんからな」

 

「余計な心配だぞ」

 

「せやろか?」

 

 そう言ってにんまりとジークリンデが笑うと、手を伸ばして此方を掴んできた。いきなりの事に驚きながらそのままジークリンデの方に倒れ込み、顔面がジークリンデの胸に押し付けられる。いきなり何事か、という感想と悪くない、寧ろ良いという感想が一瞬で頭の中で芽生え、

 

 直後、衝撃がコンビニを粉砕した。

 

 衝撃が体の芯を抜けて行くのを感じながら急いで顔をジークリンデの胸から持ち上げて振り返れば、

 

 先ほどまで座っていた場所―――ジークリンデによって引っ張られなければ座っていたであろう場所が、完全に鈍い色の金属によって粉砕され、深い亀裂が生み出されていた。そこに突き刺さっているのは斧だ。巨大すぎる斧だ。自分よりも大きく、そしてあの黄金の機械騎士に匹敵する大きさを誇る斧。

 

 そんな斧を、黄金よりも巨大な銀色の騎士が握っていた。黄金とは違って盾は持っていない。だがその代わりに装備されている大斧は今目撃したように、建造物でさえ軽々と粉々にするだけの破壊力を保有している。コンビニを両断する様に放たれたそれをギリギリのところで回避した所を見て、ジークリンデが引き寄せなかった場合の未来を想像し、息を呑んだ。

 

「うーん、にーちゃんと話し続けたかったんやけど、望んでないお客さんやね」

 

 立ち上がったジークリンデはそう言うと小さく手に装着しているグローブを噛む様に呟きながら、引き抜かれた斧がコンビニ外の持ち主の手元へと戻る姿を見た。完全に入り口から吹き飛んでいるコンビニはもう、コンビニとしての役割を果たせなくなっておりその前に陣取る銀騎士の姿、そしてそれが連れてきた金の槍を装備した、翼を生やした機械騎士と共に出口、そして空を固めていた。とりわけ目立つのは斧を握る銀騎士だ。その姿は圧倒的に大きく、立ち上がってひよこを頭の上に乗せながらヴァリアントアームを構えるも、それでどうにかなりそうな気配は全くしない。

 

「さて、にーちゃん、見てるだけなら見てるだけでええんやで、ウチは」

 

「冗談を言うな」

 

 脳内で新しい弾丸の構成を完了させる。前の戦闘で魔力をフォーミュラで収束させ、それを叩きつける事で炸裂として敵を破壊することが出来た。同じように弾丸にエネルギーを収束し、それを接触と同時に爆発させればバーストショットを生み出すことが出来る。フォーミュラを稼働させながらその計算を完了させ、全弾を貫通力の高い通常弾から爆裂弾へと変更させる。

 

 エネルギー補給を終わらせた直後なので、体が軽く感じられる。

 

「女の後ろに隠れて待っているだけの男とか、生きている意味もないだろ?」

 

「ふふふ……せやな、せやろなぁ……」

 

 小さく笑い声を零しながらジークリンデは笑い、拳を握ってをそれを下に振るった。直後、その拳を鋼鉄が纏う。鉄腕。そうとしか表現できない漆黒を纏って拳を作り、ジークリンデが拳を構えた。

 

「うっし、やる気出てきたわ。戦艦の方まで一気に押し通るわ。遅れんといてな?」

 

「誰に物を言ってやがる」

 

 左手を首に当て、軽く首を回してから指の骨を鳴らし、それからヴァリアントアームで軽く肩を叩く。本音を言えば全く自信はない。いや、そもそもこの少女―――いや、女に肩を並べて戦えるだけの実力はないし、本気で動き出せば置いて行かれそうな気配もある。

 

 だ(・)が(・)そ(・)れ(・)が(・)ど(・)う(・)し(・)た(・)というだけの話だ。

 

 男は格好つけるからこそ男なのだ。

 

 女の後ろに隠れて頼っているようでは、そうじゃない。

 

 ましてや、どこからどう見ても自分より若く、背の低い女の子に全部任せる? 強いから? その方が効率的だから?

 

 そういう言葉で飾って隠れる様な奴はロックじゃない。

 

 俺個人の意見で言うなら―――それで引き下がるならチンコを切り落とせに尽きる。

 

「Well then, I’ll show what I’ve got」

 

 フォーミュラ稼働。全身に力をみなぎらせながら、身体能力を大きく向上させる。ジークリンデに並び、正面、武器を構え直した銀騎士の姿を見る。やっぱりアレ、喰らったら痛そうだよなぁ、何て感想を抱いてしまう。だが戦うという意思を抱けば余計なものが頭の中から消えていき、

 

 どうやって目の前のジャンクを破壊し尽くすか、それだけに思考が集約される。

 

 それを横からジークリンデが覗き込み、薄く笑っている。

 

 ―――ゆっくりと、二発目を振り下ろす為に銀騎士が斧を持ち上げる。

 

「支援せーへんよ?」

 

「好きに暴れろ。勝手に追い抜くから」

 

「ウチ、強いで?」

 

「男の強さは格好良さで決まるんだ。なら俺のが強い」

 

「ふふ、くく……ほんと面白いにーちゃんやなぁ」

 

 振り上げられた斧がその頂点に達し―――次の瞬間には加速する。

 

 その速度が、燃料補給を完了したフォーミュラによる強化を得た身体能力、動体視力―――思考速度の中では、まるでコマ送りの様に見えてくる。一瞬で到達するはずの斧がゆっくりと、数秒欠けて振り下ろされてくるように見える。その間に一瞬で飛び出す姿勢を整え、

 

「んじゃ、久しぶりに盛大に暴れさせてもらうわ……!」

 

 飛び出した。ジークリンデと同時に飛び出し、ジークリンデが一瞬でその速度を上回った。素早く接近すると跳躍しながらすれ違いざまに手首を粉砕し、斧と手を銀騎士から切断し、そのまま跳び膝蹴りで胴体を陥没、回し蹴りへと繋げて首から上を薙ぎ払って蹴り飛ばした。ただの格闘連撃を繰り出しただけでもあり得ないと表現出来るその破壊力、手際の良さ、まるで戦(・)う(・)為(・)に(・)生(・)ま(・)れ(・)て(・)き(・)た(・)と表現したくなるような美しい動きの連続だった。

 

 だが負けては居られない。

 

 主を失って落ちて来る斧の上に乗る。それをフォーミュラで接続し、コントロールして―――このまま空の敵に向かって射出する。

 

 斧の上に乗ったまま飛んでくる姿にAIが対応しきれていないのか、空を飛ぶ騎士たちの姿が一瞬停止し、そのまま斧が柄から胸に衝突し、貫通する。空中で大斧の柄に貫通されて落下し始める騎士を蹴って、常識では考えられない動きに硬直した機械へと向けて銃口を定め、空中に飛び出しながら引き金を引く。

 

「Bang」

 

 発射された弾丸は最も近くにいた騎士の姿に衝突すると同時に爆裂する。ぽっかりと半球状に炸裂した事で胸部が露わになるが、破壊力を拡散させすぎたのか、それで倒す事は出来ていない。

 

「Hmm……needs more experiment」

 

 素早く二発目を引き金を引いて打ち込み、今度こそ内部から爆裂させて破壊する。破壊された騎士が落下し、此方の落下が進むのを空中を蹴って一段跳ねる様に戦艦へと向けて跳躍しながら落下を阻止する。

 

 進もうとする意志に対して対応する様に飛行する騎士が一気に殺到する。それに合わせて逆さになって落下しながら引き金を連続で引く。魔力とエネルギーを消費されながら放たれる弾丸が回避しようとする騎士の位置を先取り、その姿に衝突して爆裂する。そうやって数体沈めれば地上から轟音が聞こえる。

 

 上半身と下半身が拳によって分断された騎士は殴り、蹴り飛ばされて近くのビルや建造物に埋められる様に吹き飛ばされていた。真下をその残骸が突き抜けた事を確認しつつ道路の上に着地し、悠々という表情で地上の殲滅を完了したジークリンデが歩いて横にやってきた。

 

「にーちゃん、遅いで?」

 

「悪いな。スロースターターなんだ。後はコーラ飲み足りてないのが原因だ」

 

「運動前に……?」

 

 振り返ることのない肩越し射撃で空に浮かんでいる騎士を射撃し、フォーミュラによる拡大された知覚で命中と撃墜を悟る。それが大地に衝突する音を背後から体で感じ取りつつ、

 

 正面、道を塞ぐように展開する無数の騎士の姿を見た。ハンドガンで軽く肩を叩きながら、左手で拳を握り魔力を集めて纏う。

 

 騎士の群れの向こう側には戦艦の姿が見える―――また同時に、戦艦がバリアの様な物を張っているのもここからなら見える。アレが目標だ。

 

「んー、全部相手するのは面倒やな」

 

「少し昼寝してても良いんだぜ? その間に俺が終わらせるからな」

 

「よう言うてくれるわ―――さくっと突破するで」

 

「Ok」

 

 ゆっくりと歩き出すとジークリンデが拳を持ち上げてくる。その意図を察し、軽く拳を叩き合わせる。

 

「Let’s rock」

 

 歩みを駆け足へ、

 

 そこから全速力で前へと向かって―――飛び出す。




 引き続き表面的には軽薄なアメリカンスタイルでお送りします。

 次回は謎の戦艦に迫る、いったい何―スラなんだ……!
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