道路を走る。前へと向かって、全力で、跳び込む様に。全身を前へと押し出す様に速度を乗せ、踏み込む一歩一歩に力を乗せる。目の前には進路をふさぐように騎士が見える。振り上げてくる剣が振り下ろされるよりも早く接近する。跳躍する。その頭上を宙返りする様に、逆さまに超えて行く。それを超えて行く中で右手で握った銃の引き金を二度引く。一発目の銃弾が頭部を粉砕し、二発目がその下の胴体を吹き飛ばす。まだ威力が高過ぎる。もっと貫通力を上げなくてはならない。破壊しながら貫通する。爆裂する弾丸では駄目だ。レーザーバレットみたいな弾丸が理想的だ。
後もう一つ、手数を増やす為に銃が欲しい。ヴァリアントアームと全く同じものだ。
そう考えながら騎士の背後に着地した所で、フォーミュラが応える。破壊したばかりの騎士をフォーミュラが材料として取り込み、分解し、再構築する。そしてそれをそのまま、左右対称にしてあるヴァリアントアームへと一瞬で変換を完了させ、左手に右手に握るヴァリアントアームとほぼ同じ姿をしたハンドガンが生み出された。
「Why didn’t you tell me that you could’ve done that……?」
「ぴよ」
どうせ燃料不足で出来なかったのだろうが。自分の中で答えを出しながら更に走り出す、弾丸を再調整しながら一回転させるように手の中で遊んでから握りなおし、正面に布陣する無数の騎士を見る。
「Now, that’s what I’m looking for」
両手を前に突き出す様に構えた銃口を、一切足を止めることなく連続で引き金を引いていく。無数に発射される弾丸はフォーミュラの知覚補正により、正確に急所を狙って射撃されていく。盾を持つ騎士は防御しようと動くが、弾丸が容易く盾を食い破って穴を開けながら貫通し、破壊する。先ほどのバーストショットに比べれば破壊は小さいが、スマートであり、拳大のサイズは開いている為、満足のいく結果となっている。
故に連射する。
正面に向けて一発一発を当てるように射撃しながら走り込み、倒れる騎士を足場に連続で跳躍しながら飛び込んでゆく。空に上がりながら逆さまになり、軽く横に回転しながら銃を射撃しながら落下し、転がりながら着地して前へと向かって走り出す。
その姿を横から騎士を蹴り飛ばしながらジークリンデが一瞬で追いつき、笑いながら次の騎士を殴り飛ばして粉砕する。
「はは! にーちゃん動きは滅茶苦茶やのに楽しそうやな」
「楽しくなきゃ世の中、生きている意味もないだろ?」
「そらそうや」
笑いながらジークリンデはスピードを上げるように前に出た。跳び蹴りで正面の騎士を粉砕し、その残骸を蹴り飛ばしてショットガンの様に弾丸として放った。その合間に出来る隙間に弾丸を撃ち込みながら前へ、前へと向かって走って行く。足元の大地の感触、心臓の鼓動を全身で感じながら風を切って、これまでにない速度を乗せて進んでゆく。全ての騎士が反応出来る訳ではなく、いくつか撃ち漏らしがあるも、それを通り過ぎてからあちらが反応して手を伸ばそうとしてくる。
だが振り切る。
風に髪が後ろへと流されて行く。発生する風圧に負けないように腕を交差させた状態で、前方に見えるトラックに向かって跳躍する。
その上に乗れば、この先は崩れた道路、衝突したトラックや車、それによって道がまともに存在していないのが解る。まともに移動しようとすれば時間がかかるのを、
「お先に行かせて貰うでー」
「おぉっと」
軽く横転したトラックの上を踏むと、そのまま重力を感じさせない足取りで一気にジークリンデが前へと飛んだ。トラックの上から次の車両の上へと跳躍し、移動しながら迫ってくる騎士を蹴りと拳で一撃で粉砕している。その破壊力はオーバーキルの一言に相応しい。それに負けていられない。そう笑い、再び前へと向かって駆け出す。
邪魔する様に正面から車両を吹き飛ばしながら騎士が突撃し、空からも襲い掛かってくる。迷いのない交差撃ちでコアを射撃し、貫通しながら散って来る残骸を足場に蹴って跳躍する。
跳んで、次の足場を求めて落下し、落下先に待ち構える騎士を頭から足元まで打ち抜いて頭に着地する。その衝撃で騎士の姿が傾き、ゆっくりと奥に向かって倒れ始める。その間に周囲を見渡しながら近づいてくる騎士を連続で射撃して行く。右、左、肩越し、腰の裏に回して、腕を広げ、両側へと射撃する。素早く連射を終わらせれば倒れた騎士が橋となって横転した車両間が歩いて渡れるようになる。
「Thank you! I love you!」
歩きながら渡り、振り返りながら銃を持ち上げて手を振り、銃口で投げキッスしてから正面へと振り返って再び走り出す。笑い声をげらげらと零しながら置き去りにし、破壊した騎士共を飛び越えて走る。連続で跳躍を繰り返して崩壊した道路を駆け抜けながら横転した車両の道を抜け去り、崩壊した道路の上へと転がる様に着地する。
大通りをそうやって抜け切った所で、ジークリンデが既に立って待っていた。正面にやってきた姿に銃を上へと放り投げながら手を出し、勢いよくハイタッチを決める。落ちてきたころには二つの銃がコアユニットへと姿を戻しており、それをキャッチする。
「楽しそうにやるなぁ、にーちゃんは」
「実際、今までの人生で一番スカっとする気持ちだったよ。トリガーハッピーになる気持ちも解るわ」
振り返りながら残骸だらけの集団に向けて中指を突き立てる。それなりに距離を稼いだが、完全に離脱しきったという距離ではない。現に残された僅かな騎士が接近して来る上に、その後方から増援らしき姿も目撃出来る。敵の兵力は無尽蔵に増えるらしい。少なくともこれだけあっさりと破壊されながらも直ぐに送り込んでくることが出来る程度には。
だが勝負は決した。
今、立っている場所は都心に墜落した巨大戦艦の直ぐ傍だった。半透明の膜―――バリアの様な物が張られている為、それ以上前に進む事は出来ない。後はこのバリアが開いて、向こう側へと抜ければ安全を確保できる。
安全を、
確保できる。
「……開かないなジーク?」
「せやな。なんか開かんわ」
腕を組みながら二人そろって、戦艦が張っているバリアの方へと視線を向け、それからゆっくりと背後へと猛スピードで迫ってくるロボット集団へと視線を向ける。見た目は非常に格好良いのだが、物凄い大きさの質量が速度を上げて突撃して来るという姿は恐怖の対象でしかなかった。
「Hmm……interesting」
「いや、興味深いじゃないでにーちゃん。どうするんやこの後」
「……Nock nock, anyone there?」
バリアを拳で軽くこんこん、とノックする。バチン、と弾かれる感触に少し驚きつつも、ノックして留守を確認する。反応がない。視線をジークリンデへと戻せば、近くの車を持ち上げてそれを砲弾代わりに投げている姿が見えた。投げつけた車が衝突を起こして爆破炎上する結果にガッツポーズをとっている。
「で、どやった?」
「留守みたい」
「留守なら仕方があらへんな……」
コアユニットを口で掴んで、近くの瓦礫をフォーミュラで干渉する。ナノマシンが瓦礫や道路を覆って行く。更に追加で魔力をエネルギーのリソースとして消費して、手を広げ、虚空を掴む様に手を瓦礫の方へと伸ばしながら―――それを正面へと引き寄せる様に、手を真ん中へと持っていく。それが衝突する様に小山になり、同時に物質が変換されて鋼鉄となる。
即席の鉄塊砲弾完成。それを指のスナップで手元へと召喚魔法で引き寄せる。それをジークリンデの前に設置し、その上にひよこが飛び乗る。元気にスパークしながらやる気十分なのをアピールし、
優雅に一礼を彼女の横で取る。
「Present for you, lady」
「え、ええの? それじゃあ―――」
鉄塊の前に立ったジークリンデが拳を限界まで振り上げ、
「えいやっ」
限界まで引いた拳を全身で捻り込む様に鉄塊へと叩き込む。拳の形に鉄塊が一瞬だけへこみ、ひよこを乗せたまま異常な速度で鉄塊が射出された。電撃を纏った鉄塊が進路上の障害物を全て粉砕しながら一番近くにまで接近していた騎士の姿へと衝突し、その姿を爆散させながら貫通する。その背後にいた騎士に衝突してから進路を逸れて弾かれ、バウンドする様に別の騎士へと衝突し、
そこから更に2体巻き込んで壊れた。
「Strike!」
「気持ちええ具合に飛んだなぁ」
衝突の衝撃と、それに続く爆破によって吹き飛ばされてきたひよこが必死に翼をぱたぱたと動かしながら滞空し、落ちて来るように頭の上に戻ってきた。お前、上に乗ってただけだけどな、と思いながらも頭の上に倒れたひよこをねぎらう様に指で突いてやりながら、クリアされた正面を見てから、振り返る。
依然、バリアがそこに残っていた。
「Nock nock?」
拳で再びこんこん、とノックをして確かめる。だがやはり、反応はない。或いはその奥で何かをしているのかもしれないが、此方からはそれが伺えない。実に困った話である。腕を組みながら唸る。
「開かんなぁ」
「そうだな」
「困るなぁ」
「そうだな……今度はお前がノックしてみるか?」
「え、ウチ?」
えー、とジークリンデが声を零しながら指先をつんつん、と合わせて突く。それに合わせやや内股になりながら腰をくねくね、と動かす。
「でも、ほら、ウチ貞淑やし? そんな粗暴な事なんてできへんわ……」
「貞淑」
振り返り、上半身と下半身が泣き別れている騎士たちの姿を見て、腕を組みながら指を顎に当て、首を傾げる。
「You’re joking」
「ウチ程乙女な子も珍しいよ?」
「Hmm……? 実は違う言語を喋っている可能性が出てきたな」
「えー、それは酷くないん?」
無言で親指を戦場の方へと向けながら近くの瓦礫を目の前に召喚する。反射的に回し蹴りを飛び上がりながら放ったジークリンデがそれを砲弾として蹴り飛ばした。射出された瓦礫が新手に衝突し、その速度と質量で粉砕した。
「Once more please?」
「ウチ、貞淑な乙女やから」
「Ok,そこまで言い張るってなら認めよう。乙女らしいノックってやつを見せてくれ」
「えー、ウチがぁー? 仕方がないなぁー」
ジークリンデが恥じらうふりをしながらバリアに近づき、両手の拳を慣らし始める。もうその時点で貞淑という概念が疑われ始めるが、それを一切気にする事無く、軽いジャンプを繰り返して体全体をほぐす様に運動を始める。
「ふぅ―――」
息を吐き、握った拳を後ろへと引っ張り、上半身を大きく持ち上げながら拳を振りかぶる。もう完全にノックという規模では許されない一撃をバリアに向かって放とうとした瞬間、
「―――待て! 待ってくれ! 今通すからその動きを止めるんだ! その魔力を引っ込めるんだ!」
「お」
ジークリンデが拳を放とうとした瞬間にバリアの向こう側から声がする。奥へと視線を向ければ、黒いコートの様な服装を纏った少年が杖を片手に、浮かんだ状態で両手を突き出し、焦りながらやってくるのが見えてきた。もう、それだけで彼がこの世界出身の存在ではないことが理解できてしまう。やっぱり、ジークリンデが言っていたように時空管理局とかいう組織の人間なのかもしれない。
―――それにしては異様に若く感じるが。見た目、年齢はまだ十代前半の子供の様に思える。
「これを遮断するときは全体を一度遮断する必要があるから、一か所だけって風にはいかないんだよ……」
黒い少年はそう言うとホロウィンドウを浮かべてから確認し、手を振った。
戦艦を囲っていたバリアが消えた。それと入れ替わるように複数の魔力光による魔法陣が出現し、それが戦艦の周辺を覆う。それがどうやらバリアの代わりを果たしているようだが、
「さぁ、こっちへ! 長くは持たない!」
「んじゃ、お邪魔しまーす」
「あー、漸くベッドで眠れそうだ」
「なんで君たちはそんな余裕そうに歩いているんだ!?」
ジークリンデと並んで、振り返りながら適度に煽るようにのろのろと戦艦の方へと向かって歩いて行く。その様子に少年が半分切れているのが見えるので、近づきながら腕を広げる。
「……えーと」
「おいおい、歓迎のハグは?」
「そんな! ものは! ない!」
半分というか完全に切れた様子で返答して来る少年の姿に、同じようにジークリンデが腕を広げる。
「ウチに対する歓迎のハグは?」
「……ない!!」
一瞬だけ空いた間を見て、ホロウィンドウが出現した。そこには緑髪の女性の姿が映っていたが、ややジト目で睨むように視線を少年へと送っていた。
『クロノ?』
「かあさ―――艦長はそんな目で僕を見ないでください! 調子が狂うなぁ、ほんと……」
疲れた様子で片手で顔を覆いつつ呟くと、盛大に溜息を吐きながら地上に降りて来る。それに合わせたのかどうかは知らないが、再び戦艦を覆うバリアが出現し、魔法陣が消え去った。バリアのオンオフではなく、魔法の方に準備がかかった、とみていいのだろうか?
「ふぅ……とりあえず、君達の素性や事情を聴かせて貰わなきゃいけませんから、ついてきてもらいますよ」
「あ、敬語が付いた」
「今更取り繕わなくていいのになぁ」
「解ったよ、これが天敵って概念だ」
頭を抱える少年の先導に従って戦艦の方へと向かいつつ、
漸く、この世界の事情や出来事、それを把握できる場所へとやって来たという予感があった。
暴れるのが楽しいコンビ。滅茶苦茶暴れて暴れて派手に笑って暴れるタイプ。
地味にショタ時代のクロノを書くの初めてだったりする。