「巨大機構を相手にする場合は遠距離からまとめて消し飛ぶ火力か、至近距離から吹っ飛ばすのが楽やで。中途半端に寄らせるとそれが逆に足を引っ張る事になるんよ。せやから構築するなら特化させた方が効率はええよ」
「にーちゃん、動きはセンス感じるけど武器系統あんましセンス感じんから、変に拘るよりも使いやすさか趣味で選んだ方が馴染むと思うで」
「貫通弾、装甲破砕弾、爆縮弾のデータ共有するな」
背中に張り付きながら肩越しにホロウィンドウを覗き込みながらアドバイスをくれるジークリンデの言葉は、腹が立つがどことなく経験を感じさせるものであり、素直にそれに従って自分のコアユニットのカスタマイズを行う事にした。おかげでだいぶ、時間を短縮する事に成功し、コアユニットの形態を何個か追加する事に成功した。とはいえ、素人のカスタマイズも同然であり、このコアユニット自体がほぼ未完成品だった事も含めて、本来のスペックには遠く満たないレベルだった。
それでも一旦、コアユニットのカスタマイズを完了させたら今度は魔法のカスタマイズに移行する。といってもやる事はミッドチルダ式からフォーミュラ・エルトリア式へとコンバートする事だが。
ミッドチルダ式を始める魔法。
これとエルトリア式のフォーミュラは
それらの作業が終わる頃には既に数時間が経過していた。
カスタマイズを終えたコアユニットの外見に変化はないものの、カスタマイズ中に何度も変形させてその姿は確認している。問題はそれを本当に運用できるかどうかという話になるが、外に言って傀儡兵ジェノサイドを始める訳にもいかない。そうなると次、戦う時まで試す事は出来ない。それを残念に思いながら、
ベッドの上で座ったまま、動きを止めて休む。
「寝ないんか?」
「なんか、寝たらそのまま二度と起きられない気がするからな」
実際、そんなことはないのだろう。だけど眠ったら最後、そのまま全部が溶けて消えそうな感じはあった。それが少しだけ恐ろしく、眠るという選択肢を自分の中から消し去っていた。だからコアユニットを握ったまま、軽く息を吐いてベッドの上、胡坐を組む様に座って体を休める事にしていた。
頭が痛い。
目の奥がちかちかする。
喉を掻き毟りたい。
爪を剥がしたい。
骨が軋む。
肉が千切れそう。
だがまだ頑張れる。一番恐ろしいのは痛い事じゃない。
閉じた瞬間、泡になって消えてしまいそうで―――。
「……やっぱなんか食うか」
休むのはやめる。ジークリンデを背負ったままベッドから立ち上がる。
「えー、そこはウチとこう、仲良くするところやろー。今なら添い寝するよー」
「なんでいかにも事情あります、って感じで怪しさ満点のハニトラに引っかからなきゃいけないんだ。いや、半分ぐらい引っかかっていいと思ってるけど。だが食欲が勝った」
「おのれ食欲。ぐわー」
ジークリンデが剥がれる様子を見せないので、そのまま歩き出そうとした所を、ジークリンデがちょっと待ってな、と言葉を出す。
「にーちゃん、ちょい体調悪そうなの顔に見えるから、目元隠せるもん用意したほうがええで」
「Is it that bad……?」
頭の上の生物へと向けて言葉を掛ければ、ひよこが足で器用に前髪を引っ掛けながら逆さ吊りになった状態に、目の前まで降りて来ると、こくこくと頭を頷かせてから翼をぱたぱたと羽ばたかせて上へと戻って行った。ひよこがそう言うのならそうなのだろう、と納得する。
「……ん? いま、ウチひよこ以下の扱いされへんかった?」
「Let me see what I can use here」
「ひよこ以下なのウチ?」
うるせぇひよこ以下。室内を見渡し、何か使えそうな材料がないかを確認する。とりあえず室内に設置されている鉄材、ベッドシーツ、グラス、プラスチックっぽいごみ箱あたりが材料として丁度良いだろうか?
「こう……だな」
フォーミュラで物質に干渉、分解、変換、再構築を行う。これを使って今着ている格好―――ダメージが出来てしまったジーンズ、白いシャツ、黒いジャケットという格好の材質をもうちょっと強度の高いものにする。同時に白いマフラーを首に巻き付けて、赤いフレームに黄色いレンズのファッショングラスを作成して装着する。
「Not bad?」
「悪くないで。特に全体的に黒い所が」
「追加されたオプションに関する意見を求めてたんだけど」
追加で鏡を作成し、自分の顔を軽くチェックする―――少々顔色が悪く見えるが、それでもファッショングラスを装着していれば騙せる程度だ。マフラーとグラスで顔を隠せば解らないだろうと判断する。
まぁ、悪くない。雑誌で見たファッションアイテムを即座に実用化出来るこのフォーミュラというシステム、完全な経済クラッシャーだから現実的に考えると存在してはいけない類になる。絶対、この特異性がばれないようにしなければならない。
ともあれ、
「飯だ。飯。体動かすと腹が減ってしょうがない」
「えー、ごろごろ添い寝しよーやー」
未だに文句を言うジークリンデを引きずるように、アースラ艦内へと出る。
「Fuck」
道が解らない。
当然だがマップ何て便利なものはない。これはゲームではない。そして攻略本なんて存在しない。だから初めてきた場所、そこを歩き回ったとしても中がどうなっているか、何てまるで解りもしない。当たり前の話だが案内が必要だった。
「Where did that map button go……」
「ぴよぴよぴよ」
頭の上からマフラーの中へと巣を移動したひよこが頬をぺしぺしぺしと叩いてくる。ゲームじゃねぇんだぞ? と言われているようだった。困った。地味に歩き回ったせいで今、自分がどこにいるのかさえ解らない。
「完全に迷子だ―――食事の匂いで食堂だけでも見つけられない?」
「ウチをなんだと思ってるんよ。こっちや」
「解るのかよ……」
「ぴよぉ……」
先導し始めるジークリンデに従って艦内を歩き出す。今度のジークリンデの足運びは確かなもので、時折空気を確かめるように匂いを嗅ぎながら歩いて行く。
その姿を後ろからひよこと共に半分ドン引きしながら追いかける。
「こっちから美味い飯の気配がする」
「マジか……」
完全にその気配を捉えたのか、ジークリンデがペースアップ。駆け足でその背後を追いかければ、ジークリンデが扉の前で足を止めた。
「ここから美味しいご飯の気配がするで!」
「なんでたどり着けるんだお前」
「野生の勘……やな?」
「そっかー」
「ぴよっぴ」
こいつに付ける薬はねぇな、とひよこがマフラーの内側から呟く。その言葉に頷きながらさっさと食堂でエネルギーを補給する為に、扉を開いて中に入る。
だがそこは食堂ではなかった。
扉が開いた向こう側に見えるのは幾つか並んだベッドの姿だった。確かにご飯の匂いがするのは事実だが、それは今、そこに飯を持ち込んでいる人物がいるからであり、元々そこで食べるような場所ではない。いや、それでも食べ物の匂いを辿れたという事実がある意味脅威的過ぎるのだが。
振り返りながらジークリンデへと視線を向ければ、自分の頭を拳で叩いて舌を軽く出しててへぺろ、なんて表情を浮かべている。その額に一発デコピンでも叩き込んでやろうかと一瞬考え、振り返り、
「―――」
言葉を失って動きを止めた。
「駄目だよなのは、食べなきゃ」
「フェイトも。ほら、食堂で貰って来たよ? あ、駄目だって!」
「でも休んでいられないから」
「私が止めないと……」
その部屋には複数の姿が見えた。ベッドのわきには人の言葉を喋るフェレット、そして犬の耳を生やした女の姿があった。それぞれ隣り合わせのベッドの横に回っており、ベッドサイドに設置された湯気の出ている料理にスプーンを乗せ、それを食べさせようと運んでいる。
だがベッドに座る姿は起き上がろうとしていた。それをフェレットと犬女が止めていた。
だが、そのベッドに座っている姿は、
「シュテル、レヴィ―――ッ!!」
声を荒げながらそれを放った瞬間、喉元にびりっと来る感触を感じた。神経を一瞬だけ刺激され、シュテルとレヴィに見えた姿が、それに良く似た少女へと変わっていた。髪色が違う。顔の形が違う。生き写しかと思うほど似ているが、それでも別人だ。
「えーと……?」
「あ、悪い悪い。人違いだ」
誤魔化す様に笑い声を零す。だが視線はベッドの上に座る少女たちに釘付けだった。
二人とも、相当酷くやられている。レヴィに似た少女は包帯の下に火傷の跡を残しており、首に絞められたような傷跡が残っている。もう一人、シュテルに似た少女の方は片目を不自由にしているのか、眼帯で片目を覆っていた。両手も包帯がまかれており、明らかに動いて良いという様子は見られない。
それほどの怪我を負っているのが、今見ただけでも解った。
ただそれでも視線はこちらに集まっており、
「えーと、貴方は?」
と、フェレットが喋る。動物なら喋るなよ、と一瞬だけ考えてしまうが、此方が反応するよりも早く、後ろからジークリンデが飛びつき、肩越しに口を開けて来る。
「あ、どもども。艦長に聞いた前戦ってた人らやな? ウチらが来た分にはもう心配する必要ないで。ウチらで終わらせるから」
「ジーク」
「ええやん、本当の事やし」
態々敵愾心を煽る様な言い方をジークリンデは口にしていた。挑発的とも表現出来る。目の前の少女たちが怪我をしている状態でも立ち上がろうとしている姿を見れば、この事件に対して何か特別な事情があるのだろう、というのが解る。だがそれを飲み込んだ上で、ジークリンデは煽っていた。
趣味が悪いとしか言えない。なのでジークリンデの額にデコピンを放つ。あだっ、と両手で額を抑えながらうずくまるジークリンデをどうしてやろうか、と考えていると、
「つまり、管理局の隊員?」
「いや、そうじゃないよ。単純に雇われただけだよ。一時的に。俺もこの事件を終わらせないとどうにもならないからな」
「せやからゆっくり養生しててええんよ。直ぐに終わらせるから」
「だからそうやって挑発するなって」
「あぁん」
ワザと少女たちに煽るような言葉を続けるジークリンデの姿を両手で掴む、シュテルとレヴィによく似た少女たちの姿を忘れないように覚えて、そのままジークリンデを抱えて病室を出る。
外に出て、扉が背後で閉まるのを確認してから、ジークリンデを落として視線をジークリンデへと向ける。
「そんな熱い視線向けないでほしーわー」
「Stop playing that game with me girl」
降ろしたジークリンデを腕を組みながら見る。落とされたジークリンデは軽く両手で地面に着地してから逆立ちし、それから体を持ち上げて、立ち上がった。
「なーんーのーことかなー?」
とぼけた様子で立ち上がるジークリンデを前に、変わる事無く言葉を放つ。
「You―――」
今のは流石に解る。
こいつ、食堂に案内なんてする気はなかった。
予め集められていた食料。簡単に動きを合わせて来る事実。まるで此方の癖を見抜いているかのような言動。迷いのない行動。あからさまに見せる好意。冷静に見つめればすべてが怪しく、そして何らかの目的をもって行動しているのが見えて来る。その目的は理解できないが、
それでも何かをしようとしているのは解る。
今の所、それはプラスとなっているから良いものの、この先それがプラスに繋がるとは限らない。
「―――You, what do you want from me」
だが一貫しているのはそれが俺にかかわってくるという事。俺に何かを求めているという事、俺に関わりつづけようとする事実。それだけは間違いなく確かであり、
ジークリンデはおどけながら小さく笑う。
「怖い顔しないでくれへんかなぁ」
傷つくわぁ、と言いながらジークリンデは顔を近づけて来る。唇と唇が触れそうな距離まで近づき、笑みを浮かべたままゆっくりと息を感じられる距離で、言葉を紡いだ。
「だから……仲良うしよう……ね?」
怪しさの塊。
そしてなのフェイ遭遇。重症は重症。眼帯なのはちゃんだよ。これはこれで可愛いのかもしれない。いや、可愛い。