頭が痛い。頭の中がガンガンする。耳鳴りがする。眩暈が終わらない。痛い、苦しい、辛い。だけど死ぬほど苦しいわけじゃない。なら余裕だな。
一度死んだ後では何もかもが軽く感じられる。そう、何を比べても死ぬよりは良い。ならやろうとすれば出来る筈だ。我慢も、実行も。
だから俺は勝利する。
そして踏み込む。
ヴァリアントアームズ、剛斧へと変形したそれは直径2メートルほどはあり、自分の背丈を超える程の大きさに設定して作成したものだった。シリーズに合わせて名前を付けるならヴァリアントパニッシャーとでも名付けられる。技巧もクソもない、暴力をもって振り下ろす為の巨大な武器になる。黒と赤の剛斧は片手で持ち上げられるような重量をしていない。だが魔力、そしてフォーミュラで無理やり自分の体を強化した上で、肉体そのものを改造する。
データ上存在するエルトリア人に。武器を扱えるスペックまで。苦痛と引き換えに肉体を成長改造させる。フォーミュラなら、体内に潜む形で存在するナノマシンであれば、それが可能だ。だから腕は片手で剛斧を握る。前へと踏み出す。風を感じる。同時に肌を焼くような魔力の胎動を感じる。
だがそれに構う事無く、全速力で正面から剛斧を叩き込む。人体的にあり得ないと表現したくなるパワーでたたき込む様に踏み込めば、後方へと向かって機竜がバックステップを取りながら口を大きく開く。その口に一瞬で熱量が溜まったのが見えた。
「バインドッ!」
なのはが片手を突き出す様にバインドを出現させた機竜の頭が瞬間的に下へと向けられ、ブレスとでも表現すべき一撃が大地へと向かって放たれる。
一瞬で溶解する地面から亀裂が走り、公園内を走る。そして噴火する火山の様に溶解した熱量が地面から噴き出す。
「Wow」
横にロールする様に亀裂を回避しながら直ぐ横を、溶ける程の熱量が吹き上がるのを捉え、それを撒き散らす様に機竜が空へと飛びあがるのが見えた。僅かな熱が飛び散り体にかかる。それが肌を焦がすのを無視しながら武器を剛斧のまま、
それを全力で投擲した。飛び上がった機竜の翼を打撃する様に投擲した剛斧は回転しながら翼に衝突し、飛び上がった機竜の体勢を崩す。
「シューター……発射!」
追撃する様に複数のシューターを浮かべたなのはがバランスの崩れた姿に殺到し、打撃する。だがその破壊力は機竜を貫通するには至らず、表面を傷つける程度に留まる。
「硬い……いや、ジュエルシードの余剰出力を防御に回してるんだ!」
「解説どうも」
足の裏、靴底にエネルギーを集める。一つの方向へと押し出す様なエネルギーの爆発。まっすぐ、ブースターの様に押し上げる推進力をイメージする。そしてそれに合わせて一気に跳躍を行う。射出されるように空へと打ち上げられ、バランスの崩れた機竜へと向かって一気に飛び上がる。弾かれる剛斧を手元へと再召喚する事で持ち直しながらそのまま、飛行する機竜へと向けて剛斧を振るう。
翼撃と剛斧が衝突し、弾かれる。後転する様に空中で後へと向かって流れ、空中で足を止める様に力を込めて―――空に足場なんてないのを思い出す。
「あ―――れ―――」
当然の様に後ろへと吹っ飛んでいく。回転しながら。
吐きそう。
「の、ノアさ―――ん!!」
「ごめん、実は飛ぶの初めてなんだ」
回転しながら後方へと飛んで行く姿になのはがひきつった笑みを浮かべながら困惑し、その肩の上に乗るユーノが腹の底から声を吐き出して叫ぶ様に言葉を出した。
「実は出来るかもしれないと思ったのに! 思ったのに! あっさり裏切った! この人出来るのか出来ないのかよく解らない!」
ごめーん、と緩い声で謝りながらなのはが地上を蹴って飛ぶのを見た。そのまま自分よりも遥かに綺麗に、無駄なく空へと上がった。その姿を目撃すると同時に体内に格納されるフォーミュラが稼働する。
瞳に直接投影されるように複雑な文字の羅列が出現する―――エルトリアで使用されている基本言語だ。無論、英語でも日本語でも、ラテン語でもない。自分の知らない未知の言語だが、フォーミュラの自動インストールによってその内容は把握できる。目撃した魔法を解析しているのだ。エネルギーを吸収。集積の出来るフォーミュラは
だが同時に解析を行うという事はその魔法の使い方が解るという事でもある。
なのはの使用する飛翔魔法が見える。
―――目を閉ざして集中する。
なのはが使用する飛翔魔法は大きく分けて二つ存在する。一つ目は足元の小さな羽の魔法。これはなのはが飛行する上で姿勢制御等を補助する役割を持っている。つまりこの魔法自体に前へと進む力はない。進力がブレない様にコントロールする為の魔法だ。本体はもう一つ、なのはを包む魔法の方だ。不可視であり、透明になっているが、なのはの魔力がなのはを包む様に存在し、それがなのはを
つまりは玩具の飛行機を手で握って、動かすのと一緒だ。自分の魔力を使って自分の体を持ち上げ、動かす魔法が飛翔魔法の正体。
―――同じ事をフォーミュラでする事は難しい。
魔力で肉体を包み、維持し、そしてそれを自分の意思に合わせて動かし続ける。つまり魔力その物を霧散させないようにコントロールさせなくてはならない。一回魔法を発動させたら終わりという訳ではなく、マルチタスクで維持しなければいけない。そして衝突等が繰り返されるたびに魔力が霧散するので、リンカーコアから魔力を抽出して飛行を維持しなければならない。魔力とかいう不思議すぎる物質だからこそ出来る事だが、また同時にコントロールに対する才能や適正が関わってくる。
それが欠けている為、自分には無理だ。
同じように空を飛ぶ事は出来ない。フォーミュラに出来るのはエネルギーの変換や吸収、そして物質の再構築等だ。エネルギーの操作や収集、その方向性を変える事が得意なのだ。
科学だ。
それはレヴィが教えてくれた事でもある。
つまり
跳躍し、空に上がり、滞空する事は可能だ。
なら何故落下する? 重力があるからだ。そしてそれから逃れる慣性が喪失されるからだ。
なら答えは簡単だ―――
物理的には不可能だが、
物理現象を書き換える事が出来るフォーミュラがあるのであれば、話は別だ。散ったエネルギーを再び集めて即座に再利用するだけではなく、その方向性に干渉出来るこのシステムであれば、魔法とは別の理論で空を飛ぶことが出来る筈だ。
自分の脳味噌では覚えきれない事を、フォーミュラに代理演算を委託する。
そうして飛行するのに必要な計算をさせて―――イメージした事を実現させる。
故に一番最初にする事は
回転しながら飛んで行く体の動きを足場で停止させる。無論、普通に足場を作ったのではなく、動きと共に発生する空気抵抗、摩擦、そのエネルギーを固める事で疑似的にエネルギー力場による地面を形成する。
即ち空に足場を作る。
両足で立ち、後ろへと流されるモーションを足で立って、空を引きずるように火花を散らしながら停止し―――そこから再び体を前へと射出する。足の下で発生させたブースト、それで一気に飛び上がりながら空気抵抗などで発生するエネルギーを再利用する事で
そうすれば、自分に発生する慣性の方向を自由自在に変更できる。
とはいえ、肉体に対して何の保護も行っていない飛行制御。
内臓が潰れる様なGが負担として肉体にのしかかってくる。元々遥かに頑強なエルトリア人が運用する事が想定されているのであれば、当然なのかもしれない。だがその苦しみさえ無視すれば、
―――空を舞う事が出来る。
「Woooo! Foooo!」
「あっ、帰ってきた」
機竜へと向かって高速で飛翔する。内臓の潰れる感触に吐きそうになるが、それを無理やり整えて対応し、正面から機竜へと向かっていく。それに素早く反応する機竜が口を開き、砲撃を放ってくる。
かいくぐる様に一度下がれば、空中で機竜の動きを止める様にバインドが首と翼を掴んだ。動きを止めた機竜の顎の下に潜り込む様に一瞬高度を落とし、
「Dragon Kick!」
そのまま、虚空を蹴って顎の下から首を蹴り上げる様に飛び蹴りを放つ。渾身の蹴りで首が折れ曲がる様に機竜の姿がバインドを纏ったまま蹴り上げられ、それを押し出す様にサマーソルトへと連撃する。蹴りながらやや後ろへと下がって武器を両手で―――二丁リボルバーへと変形させる。そのまま距離の空く機竜の顔面へとめがけて一切容赦のない連射を入れる。
2、4、6、8、10、12。腕を交差させるように構えながら連続で射撃し、衝突するたびに挟異音が響、機竜の顔面を削っていく。否、ほとんど吹っ飛ばすという言葉に近い。一発一発が機竜の顔面を粉砕する様な破壊力で破壊し、完全に破壊力でその体を食い散らかしていく。
「なんとなく解ってたけどやっぱり質量兵器だアレ!」
フェレットの驚愕する様な声が響く。だがそれを無視する様に、弾丸が叩き込まれて食い千切った穴を穿つようになのはがノータイムで砲撃を叩き込んでいく。ヴァリアントアームズの弾丸が叩き込まれた箇所はフォーミュラがエネルギーを喰らい破った事もあり、ジュエルシードの余剰出力で発生するコーティングの様なバリアが、食い散らされていた。故にその穴になのはのバスターが叩き込まれた。
桃色の光が大空を駆け抜けて貫く。
機竜の翼がそれによって根元から消し飛ばされて、片翼の機竜がバインドを引き千切って出力を引き上げる様に光が体内から溢れ出す。
その顔面目掛けて剛斧を投げつけた。
それを回避しながら更に光量を高める機竜に対して避ける動きが見えた瞬間には加速して接近する。
それでも回避しようとする姿に片手を伸ばしてボロボロの顔面を掴み、逃げられない様に手元に再召喚した武器を鎖に変形させる。
両手へと絡みつく鎖がそのまま穴だらけの機竜へと突き刺さり、アンカーされる。その鎖にマフラーが巻き付き、
マフラーに蓄積された電流がひよこに刺激され、フォーミュラと合わせ増幅されて一気に機竜の体内へと流し込まれる。
「
鋼の悲鳴が轟きながらその内部を電流が蹂躙しながら破壊していく。集められたエネルギーがフォーミュラによって吸収、再利用されて電撃が継続するごとに勢いを増して内部から食らいついていく。その回路を破壊していき、機竜を完全破壊へと一気に導く。内部から爆発し始める機竜のエネルギーが霧散し、恐らくは自爆へと入ろうとしていた姿を止める。
そしてその中央部に、赤い宝石の姿が見えた。
ジュエルシードだ。さっさと終わらせるためにそれに手を伸ばそうとし、
「
言葉と共になのはが頭上を取った。それと同時に多重に展開されたシールドが天蓋の様に出現し、空からのあらゆる干渉をシャットアウトする。その直後、
空が紫色に染まった。
一瞬にして暗雲が空を覆い、それとシールドを解るように紫電が一瞬で鋼を融解する領域まで電圧を高め、集う。
轟く雷鳴がそのまま、光の柱となって空気を焦がしながら落ちてくる。なのはが多重展開したシールドで、頭上から落下して来る絶望の塊に対応する。一瞬の閃光からの守護、それをなのはが受け止め―――その体が一気に落下し始める。即座に下に回り込み、此方も全力で落下を止める様に下から支えながらも、それでも収まることのない電撃の放流が上から押し潰しにくる。
高度がどんどん下がって行く。
「プレシアさんは私とフェイトちゃんが戦い終わった瞬間を狙って攻撃してきたんです。ですからやるなら終わった瞬間を狙うって思っていました……けど……!」
降り注ぐ紫電は衰えない。むしろ何か、異様な力が注ぎ込まれているのか事前に準備されていたなのはのシールドに罅を刻み込み、そのまま破壊する様に侵略して来る。なのはが生み出した盾が今にも壊れそうなのは見えていた。
「一つ使うだけでも次元震を起こせるのにこんな使い方を―――」
ユーノの言葉が途中で遮られる。
ガラスの割れる様な音と共になのはのシールドが貫通された。
その未来が一瞬だけ、割れるよりも早く見えた。
故に後ろから支えていたなのはを掴み、抱き寄せ、
紫電に背中を向ける様に体で包み、
―――背中から落ちて来る雷を全身で受け止めた。
血が流れるのを見なきゃ学習しない奴も居る。
ノアはなのはとフェイトを見て、この二人が生きる事がきっとシュテルとレヴィが生きる事に繋がるのだと考えている。それはつまり……?
あ、あとコミケ当選しました。