※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

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History Lost Ⅱ

「魔法は存在します。そしてそれに魔法の世界がこの次元の外側に存在していたというのも解っておいてください。この話における大前提ですから」

 

「Ugh……おう。解った」

 

 一瞬だけ茶化そうかとも思ったが、少なくとも先ほど自分が直面した現象は、とてもだが自分の脳味噌で理解できる範囲を超えていた。一回、完全に騙されたものだと思って少女の―――シュテルの言う事を完全に聞いてみる事にした。それを信じるかどうかは、その完全な証明がなされた時でいい。それまでは話半分に聞いて、とりあえずは知識にしておくことがいい。その為、言葉を挟まずに話を聞き続ける。

 

「簡単に言うとパラレルや異世界とは違う構想、壁を超えた向こう側に次元の海が存在し、世界の一つ一つがそこに漂う島だと想像しておいてください。これが次元世界構造であり、基本的に私達が存在するマルチバースです」

 

「解りづらいからホワイトボード持って来たぞ」

 

 そう言ってディアーチェが小型のホワイトボードを持ってきて、そこにマーカーで次元世界論を絵にする。デフォルメの少女たちや世界の絵を描いており、どことなく可愛さを感じる。

 

「で、この次元世界には魔法技術と魔法文明が存在していました。この世界、地球はちなみに魔法文明も技術も数年前までは存在していませんでしたね。大体は【時空管理局】によって監視、制限されていたりするんですが、ちょっとした事件でこの海鳴の一部だけ魔法技術が広がっていたりしました……まぁ、これは本筋と関係ありませんか」

 

 横に置いておく、とシュテルが話を続ける。

 

「私達は基本的にリンカーコアという魔法器官を体内に備えています。これを保有する事によって生物は魔法を使用する為の魔力を体内に溜め込み、使用する事が出来ます。魔法文明の発達にはこれが必要であり、これにたどり着いたからこそ、魔法文明は開化しました」

 

 ですが、まぁ、とシュテルが言う。

 

「この魔法文明が絶滅しました」

 

「んん??」

 

「というか魔法概念そのものが大体滅びました」

 

「んー??」

 

 ホワイトボードにMagic wiped out、と文字が書かれ、宇宙の絵に大きなバツ印が追加された。流石にマテ、と言葉をそこには挟み込むしか出来なかった。

 

「今のはちょっと理解出来なかった。無職の23歳児にも通じる言葉で頼む」

 

「これ以上なく悲惨な言葉のチョイスに逆にこちらが困るんですけど」

 

「やーい、無職やーい」

 

「レヴィ!」

 

「俺に相応しい職がそのうちやってくる」

 

「真顔で言いよった」

 

 軽く茶番を挟み込みつつ、シュテルにもうちょっとわかりやすい様に説明を求める。それにシュテルがそうですね、と言葉を挟み込む。少し悩んでからもう一度そうですね、と小さく呟きながら首をかしげる。

 

「簡単に、と説明されると少々難しいものでして。説明しようとすればするほど専門用語を使う必要になるので。なので魔法文明と技術がほとんど全て死滅した上で、唯一生き延びる事に成功した私達のリンカーコアやエグザミアでの供給とかを話した所で通じるかどうか怪しいですし」

 

「Ah……まぁ、確かにいきなり細かい設定を語られても困るな」

 

「今、完全に設定って言い切った」

 

「まぁ、確かに設定と言われてもしょうがない話ではあるからな」

 

 ディアーチェが頷いている。まぁ、細かい話は分かりづらいという事で省いてくれているので、解りやすく話を求めれば、

 

「このウィザーディングワールドが消えて」

 

「イギリスにホグワーツはありませんからね」

 

 魔法文明が消えた、という言動をまともに受けるのであれば、その魔法文明に関して高町一家が深く関わっていたというのであれば、つまり魔法の消失に合わせて高町一家も綺麗にデリートされた、という話なのだろうと思える。荒唐無稽だが一応は話が通る、ほとんど妄想染みた内容である事さえ意識しなければ。

 

「それに高町一家も消えた。そしてあー、お前らは何とか残った」

 

「本当に残っているだけ、の状態だがな。そしてそもそもこれが正しい、という風に認識も変わっている筈だ」

 

「だが覚えている」

 

「そうだ―――そこだ、何故貴様は高町の事を覚えている……?」

 

 ディアーチェが腕を組みながら視線を此方へと向けて来る。だがそれに対する答えは両手を広げてさあ? としか答えることが出来なかった。知っているから知っているとしか答えようがなかった。そもそも魔法とか、ファンタジーな要素は23年間の人生の中で今日が初めてなのだから、疑われてもしょうがない。

 

「しかもしっかりとリンカーコアを備えている……何故だ?」

 

「俺が知るか。親父の遺言果たす為に海を渡って訪ねた相手が歴史から消え去ったって話を聞かされた俺の身にもなれ」

 

「まぁ、確実に被害者側ですよね」

 

 そもそも今している話の時点でちんぷんかんぷんなのだから、原因とか理由とか原理とか、そういうのを求められても困る、しかも魔法は信じてもいいが、それを取り巻く要素に関しては半信半疑だ。だが遺言を果たせないのは困る。その為に関係も家も財産も全部遺言を果たす為に投げ込んで日本までやって来たのだ。

 

 何の成果もなく終わる事だけは、本当に困る。

 

 それじゃ何もしないのと一緒だ。

 

「Hmm……」

 

 腕を組みながら天井を見上げる様にソファに倒れ込み、考えを巡らせる。

 

 結局の所、

 

「何がしたいんだ」

 

「元の世界を取り戻したいんです、私達は。もしかして何か知っているかもしれないと思いましたが、まぁ、反応から魔法を全く知らないって事は解りましたけど、それでもまだ希望はありますから……」

 

 その言葉に少しずつ、シュテルの言葉が弱々しくなってくる。その希望という物にも、余り自信がない様子は見て取れる。少なくとも思いつめる事が出来る程度には、この話に関しては本気なのだろう。不安や恐怖、絶望感という感情は何をどうあがいても偽る事は難しい。演技と本物というものは、その空気からしてまるで違う。

 

 シュテルから感じられる絶望感は、本物だ。

 

「―――さて、話も煮詰まってきた所だ。一旦頭を切り替える為におやつにするか」

 

 ディアーチェが空気を一瞬で切り替える様に手を叩いた。それにつられるようにレヴィが瞳を輝かせる。シュテルも軽く深呼吸をして空気を入れ替えた。一瞬で空気を入れ替え、そしてそれに適応できる三人娘の仲はそれなりに良好らしい。見た感じ、リーダーはディアーチェの様に感じられた。良い娘たちだと思う。言っていることが真実かどうかは別として。

 

「とりあえず、何か複雑な事情があるってのは理解しておく」

 

「まぁ、それぐらいでいいでしょう」

 

「全部教えても理解されるかどうかわからないしね」

 

 レヴィはそういいながらソファに倒れ込み、シュテルの膝の上に頭を乗せるとけらけらと笑う。まぁ、俺もいきなりこんな話をされた所で色々と困る。ただ解るのは、この少女たちは本来の生活を取り戻したいという主張を持っているという事だった。そしてその助けに俺がなれるかもしれない、という事実でもある。

 

 その事に対しては正直、なんだかなぁ……としか言葉が出てこない。

 

 都合が良いというか、流れが綺麗すぎるというか。なんというか、都合のいい部分にしか目を向けていないというか。まぁ、それはそれでいいのだ。問題は俺が付き合うかどうかという話になるだけだし。

 

 そこらへん、義理も義務も自分には欠片も存在していないのだから。

 

「……まぁ、いっか」

 

 ここでしばらく足止めされるのは目に見えている。存在しない一家を追いかけた所で意味はない。だとすれば多少なりともファンタジーではあるが、知っている所と一緒に行動している方がまだましだろう。となるとしばらくは海鳴で暮らす必要が出て来る。その事を考える再び憂鬱になりそうだった。

 

 ソファに深く腰掛けながら片手で顔を覆い、息を吐く。

 

「なんか疲れた中年オーラがする」

 

「言いたいことは解りますけど失礼ですよレヴィ」

 

「お前ら……」

 

 ぼろくそ言ってくれる。やや少女たちのとっつきやすさに驚きながらも、

 

「金も寝床もないから今夜はどうするかを考えてたってだけだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「こっちに来る旅費でお金は使い切ったんだよ。元々は高町家に泊めて貰って、働きながら帰りの旅費を稼ごうと思っていてな」

 

「一文無し」

 

「880円ならある」

 

「ジュース」

 

 残念、缶コーヒーである。

 

 だがシュテルはあぁ、成程と声を零すと。

 

「なら部屋が結構余っていますし、ここにしばらく泊まれば良いでしょう。元々の主であるグランツ博士は意味消失によって消えてしまいましたけど、研究用の資金とかは割と残っているので、数年は何もせずに生きていけますよ」

 

「Hmm……」

 

 とても魅力的に聞こえる。タダで寝泊りできる場所があれば、後は昼間の間にバイトを探せば此方でもなんとか生活する環境は整えることが出来る。魅力的な話には聞こえる―――聞こえるのだが、必然的にこの少女たちと付き合って行くという選択肢でもあったのだ、それは。

 

縁(・)を(・)切(・)る(・)な(・)ら(・)今(・)だ(・)。

 

 そんな声が聞こえた気がする。まぁ、確かにだろうと思う。義理も義務もなければ、妄言に近い言葉の連続。まともに話を聞いている方が問題あるのでは、と思えるかもしれない。

 

 とはいえ、

 

 ―――シュテルの瞳には、縋るようなものが見える。

 

 笑顔で、平静を装いながらもその瞳の中には怯えが見えていた。俺に対してではない。彼女が見えている何かに対して、怯えている。それが彼女の瞳の奥に見えていた。だがそれはシュテルだけではなかった。レヴィも何も恐怖も不安もない事を演じているのが、瞳に揺れる色から見えている。その恐怖は果たして、知らない男が目の前にいるからだろうか? それともそれに頼ろうとしている事に対する恐怖だろうか?

 

 或いはもっと、別の物だろうか?

 

 だがどちらにしろ、そんな感情を隠して振る舞う少女たちを見捨てるという選択肢は、男に対して残されていない。

 

「魔法を教えてくれるサービスはあるのか?」

 

「えぇ、それぐらいでしたら何時でも、満足するまでどれだけでも」

 

「お、シュテるんが結構グイグイ押してる。やっぱりラブ? ラブなのシュテるん!?」

 

「違いますから、ちーがーいーまーすーかーらー!」

 

 シュテルの食いつきをレヴィが茶化し、ソファの上で二人が絡み合う様に暴れる。先ほどまで聞いていた話を思い出せば、子供らしさなんてまるで見えなかったが、こうやったふざけだした途端に子供らしくなってくる。そのアンバランスさはどこか、不安定さを感じさせるものがある。見ていて心配になってくるものがある。

 

「……」

 

 口を開かず、じゃれ合うレヴィとシュテルの姿を反対側のソファに座りながらぼうっと眺めていると、心地よい紅茶の匂いが漂ってくる。個人としてはコーヒー派ではあるものの、漂ってくる香りには魅了されるものがあった。視線を奥へと向ければ、トレイの上に紅茶と茶請けのスコーンを運んでくるディアーチェの姿が見えた。なんとなくだが、エプロンを装着している姿は似合っていた。

 

「巻き込むような形で済まないな。我らももはや半分諦めていた所だったからな……まさかこんな形で僅かな希望が見えるとは思いもしなかったのだ」

 

 そう言いながらディアーチェが目の前に紅茶とスコーンを置いてくれる。それを受け取り、持ち上げながら香りを楽しむ―――うん、美味しそうだ。いや、実際に美味しい。口にしなくても匂いで解る。

 

「まぁ、俺も困っていた所だから助かったのは事実だしな。しばらくは世話になるな」

 

「うむ。我らだけだとどうしても幾つか問題があったからな。保護者としていてくれると色々と助かる」

 

 綺麗に丸め込まれている気がするし、根本的な問題が解決しているわけでもないが―――それでも、父が死んでから自分の人生に新しい流れが来ているような、そんな気がしていた。

 

 生きている事に意味はない。親父は生前、そう言っていた。

 

 自分の成す事、起きる出来事、そしてやり遂げた事。それを通し意味を見出すのだ、と。

 

 だとすればこれもまた、自分の人生の一部だと思えばいい。魔法なんて面白そうなものが出てきているのだ、深刻に思う必要はない。軽く、遊ぶつもりで関わればいいのだ。

 

 海鳴でのそれとなく騒がしい日常が始まる。




 なのは系列で完全な地球人ベースの主人公って地味に初めてだな……。
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