『―――理屈は解らないけど、君ならあの障壁を砕けるんだろう? こっちで援護するから、君で切り込め』
『接近戦で攪乱します……母さんを、止めて見せます』
『砲撃援護とジュエルシードの即時封印は任せてください!』
素早い念話のやり取りが一瞬で行われた。それと同時に
「Cover!!」
「任せ―――ろっ!!」
言葉と共にクロノが足を床に叩き込み、そこを氷が張った。広がるように一瞬で床一面に氷の地面が生まれた。そしてそれをプレシアが破壊する前に
即席の氷の煙幕の完成だった。
「Detonation!」
燃え上がるように力を発揮する。後ろへと向かってVAリボルバーを射撃しながら瞬間加速を最高加速へと変質する。超加速Gの負担も、《点火》したフォーミュラの状態であれば、もはや気にする必要のないレベルで能力が上昇している為、問題なく感覚も、肉体も追いついてくる。故に吹き上がった霧の中、
瞬間的にランダムに周辺に自分を再召喚する様に連続で居場所を切り替えながらVAを変形させて、プレシアの直ぐ横に姿勢を低くした状態で出現する。片手で
一切の躊躇なく殺すつもりでプレシアへと向かって叩き込んでゆく。
だがそれはスパークと共に弾かれる。
プレシアは一歩も動いていない。
だが彼女を守るように雷の剣が浮かんでおり、それが自動迎撃する様に動いた。初見の魔法であるがゆえに、即座にフォーミュラが解析を開始する。だが攻撃を弾くのと同時に、雷剣が閃いた。動き出す前に先に回避用に自分の姿を飛ばし、プレシアの反対側へと回り込み、再び透明の武器を振るう。
雷剣が阻む。
「成程―――何故この環境で転移ができたかと驚いたけど」
消える。加速する。天井を足場にする。だが展開される雷剣は10を超えて、20を超えて、30に到達する。もはや斬撃の結界の様にプレシアの周辺を舞う。
それへと向かって頭上から逆さまに、回転しながら落下する。その足元をバスターが薙ぎ払い、魔力を魔力で喰らい合って雷剣を消し飛ばす。そのまま加速する様に斬撃を振り下ろした。
「こういう事ね」
不可視の攻撃が腕の軌跡だけによって視認できる攻撃として発生し、プレシアを掠める。その姿は歩いても飛んでもいないのに
「Fuck! 真似するのは酷くないか!?」
空間全体を満たす様に放たれた雷に、逃げ場なんて存在しない。
目の前の空間を満たす様に出現する雷は容赦のないプレシアの攻撃だった。消えるなら、逃げるなら、だったら
だがこういう系統の攻撃が来ると解っていれば即座に離脱する事ぐらいは出来る、
即座に自分を後方へと飛ばして、距離を空ける。そしてそれに割り込む様にフェイトとなのはが前に出る。同時に杖を差し出す二人の正面に多重のシールドが出現し、それが部屋全体を覆う雷をせき止める。だがジュエルシードによる攻撃は容易くなのはとフェイトを合わせた魔力を超えるだけの破壊力を保有している。
「抑え、きれな……いっ……!」
「ここを突破されたら終わるぞっ!」
クロノが片手を前に突き出し、フェイトとなのはのシールドを強化する様に自分のシールドを加える。それに合わせ此方もクロノの肩をタップし、周辺の魔力を直接シールドへと注ぎ込む事で合体シールドを一気に強化する。凄まじい圧力と熱量が正面から放射され続け、なのはたちが僅かに押し込まれる。エネルギーを外部供給して強化しても、一つ一つが兵器クラスのエネルギー体を十数個使っているプレシアの攻撃は、到底耐えられるものではない。
防御に回った時点で磨り潰される事が確定する。
なら、
対処法は―――突っ込む以外にない。
ガラスが割れる様な音と共に表面を覆っていた不可視の膜が剥がれ、その下から黒をベースとした赤い文様に刻まれたデスサイスが出現する。実用性という言葉からは程遠い言葉だが、レヴィやフェイトが使っているのを見るとどことなくこのウィザーディングワールドでは人気の武器なのかもしれない。フォーミュラの力を込めて刻まれている赤い文様を発光させ、同時に出力を上げる。
「うっし、突っ込むぞ」
「待て、この中をか? 自殺行為だぞ」
「大丈夫大丈夫、我慢するのは得意だし、ここで大人が体を張らなきゃ何時張るんだ」
正面からプレシアへと向かって飛び込もうとした瞬間、マフラーの中からひよこが頭を出してきて頬を叩く。
「ぴよっ、ぴよっ!」
「ん? What is it?」
「ぴよぴよ! ぴよっ!」
「Hmm……」
「ぴよぴぴよっ! ぴよっ!」
「Ok, let’s try that」
指をスナップさせながらひよこに賛同すれば、クロノが手を前へと突き出したまま振り返ってくる。
「え、会話成立したの!?」
「二人は結構余裕ですね……?」
玉の様な汗を浮かべながらクロノとなのはのツッコミが入る。そこでツッコミを入れられるだけの余裕があるなら大丈夫だな、と軽く笑いながらVAを再変形させ、それをリボルバーへと戻す。ひよこの言っていたシステムを検索し、見つける。フォーミュラシステムの中にある、この状況を打開できる力。
エネルギー消費量に関しては目を反らし、この数秒で終わらせる事を決意する。
「System activation―――」
言葉と共に体内のフォーミュラが超過駆動を開始する。ジュエルシードから供給されるエネルギーを蒸発させるように消費しながら、全身を完全にフォーミュラの反応が、オーラが包んだ。全身の筋肉が引き千切れるような感触と共に、口を開いてシステムを稼働させる。
叫び声を響かせるのと同時に世界の全てがスローモーションに突入するのが見えた。まるで深海の底に押し込まれたように体が重く感じる。感覚が何倍にも引き延ばされるような感じの中、体を動かそうとすれば空間から肉体を剥離させるような痛みが生じる。だがその痛みさえ堪えれば、
世界が停止したように見えた。
プレシアの雷でさえ―――止まって見える。
全身を包む燃え上がる様なオーラを引き連れながらシールドを飛び越え、一瞬で電撃で満ちた空間へと飛び込む。だが止まったような加速世界の中では、その紫電の合間にはわずかながら、潜り込めるだけの隙間が存在するのが見える。普通であれば絶対に入り込む事の出来ない、雷の間に生じる僅かな隙間。
アクセラレイターが稼働している間はその合間に入り込める。虚空を蹴って跳躍、滑り込む様に雷と雷の間を滑り込みながら接近し、超加速された世界の中で、プレシアに正面から接近し、
銃口をジュエルシードを浮かべる片手と、そして腹へと向ける。
ミッドチルダ式の非殺傷魔法を込めながら、
引き金を引いた。アクセラレイターの効果を受けた弾丸がプレシアに射撃と同時にぶつかり、障壁を貫通しながらプレシアの手首と腹部を穿ち、それがアクセラレイターの圏外へと抜けた瞬間に衝撃がスローモーションの世界に沈む。プレシアの表情がゆっくりと、徐々に時間を取り戻しつつある世界と共に、驚愕に満ちる。電流が少しずつ此方へと向かってくるのが見えるものの、
一切気にせず、リボルバーで射撃しながら
ゼロ距離、殴る威力と射撃する破壊力、その二つを推進力へと変えながら同時にプレシアの障壁を割り、体力を割り、そして魔力とジュエルシードへの干渉も喰らう。超過駆動を開始したフォーミュラは今まではとは完全に違う、本来予定されたスペックで圧倒的な力を発揮する。殴りながら行う射撃でプレシアの体が引き延ばされるように押し出され、連続で発生する射撃がその体を打ち付ける。これで本当に非殺傷なの? 大丈夫? 死なない?
そう思った直後にアクセラレイターが限界を迎えて速度が元の時間へと帰還する。
それと同時に雷電が殺到する。
「がっ―――」
全方位から叩き込まれて来る雷に苦痛の声が一瞬漏れる。それ以上の言葉が口から出るのを食いしばって堪えるも、次の瞬間には痛みの感覚が消え去った。その感覚に、久しぶりに通り越してはならない痛みのラインに到達したのを自覚した。
まだ痛みは痛みとして認識できている間がセーフだ。
それを超えた場合、
だが既に射撃と殴打によってプレシアが保有するジュエルシードはその片手から放たれて、部屋に撒かれた。魔法は粉砕され、そして口からは喀血しているのが見える。それが彼女を蝕むものか、或いは自分の攻撃であるかは不明だが、十分に役割は果たせただろう。
俺が全部持って行くのも悪いし、サムズアップを向けながら素直にそのまま倒れることにする。
「今夜は1本4000円のワイン開けても許されると思う……」
全身を貫く雷の感触を味わってから倒れる。
破壊された床のごりごりとした感触が顔面に衝突し、地味に痛みを覚える。だが役割は果たした。十分に。もう心配する必要もない。
既に三人の子供たちが飛び出していた。
「後は、任せろっ……!」
「ワインも?」
「それは自分で買え!」
「終わったらウチのケーキ御馳走しますよ!」
「えーと、えーと……」
「無理にしなくていいから!」
「子供が……!」
軽口になのはが乗り、フェイトが乗ろうと頑張ってクロノがツッコミを入れて―――しかし動きは止まらず、即座に対応が連続で続く。バインドがなのはの手によって入り、最速で動くフェイトがジュエルシードを回収する。そして完全に力が剥がされたプレシアへと向かってクロノが潜り込みながら杖を持たない手をプレシアへと向かって伸ばす。
当然のようにバインドを破壊したプレシアが回避しようとする。障壁でクロノとの間に壁を作る事で一瞬の離脱の為の時間を作ろうとする。
だがクロノの伸びる右腕が―――当然のように障壁を貫通した。
その手は、僅かに淡く、フォーミュラの光を纏っている。態勢を整えようとするプレシアの表情が驚愕に映り、憎悪の炎が目に映る。だがそれよりも早くクロノの手が障壁を貫通し、その向こう側のプレシアへと届いた。
「《ブレイクインパルス》」
「がっ―――」
「母さん!」
プレシアが吐血しながらクロノの必殺を受けて後ろへと倒れそうになり―――踏みとどまる。吐血しながらも最後の一線を精神力だけでプレシアは堪えた。魔法を放つように魔法陣を出現させ、
「まだよ、私がや―――」
「ディバイン! バスタァ―――!」
何かを喋ろうとしたプレシアの言葉が終わる前にその姿をなのはの砲撃が飲み込んだ。なのは本人もプレシアが何かを言おうとしていたのを放った後で気付き、小さくあっ、と声を零すも、既になのはの砲撃は放たれ、完全にプレシアの魔力がその体から吐き出され、
言葉さえも失い、完全に意識を失ってその姿が倒れる。
その姿を見てから、全員の視線がなのはへと集まる。
「ふ、不可抗力! 不可抗力ですから!」
焦りながら両手を振りながら無実をなのはが主張するが、完全に見てから放ったという疑惑が存在する以上、
この事件はプレシアの敗北と共に迷宮入りする事なった。
若干、情けない終わり方だが、
それでも、この戦いはこうやって結末を迎えた。
戦闘おしまい。複数人を同時に描写する戦闘ってのは相変わらず動かすのが難しいなぁ、と思う。同時に複数の人間を動かす構図を文章にするのがまず難しいんだけど。
ともあれ、無印も終わりだね?