※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

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Death Ⅳ

「内臓損傷。喉は重度の炎症。火傷は当然炭化まで行われる密度。目は視力の低下が確認されている。その上で複雑骨折。神経の一部が切断されている。当たり前のように肉離れと筋繊維の断裂、血管は千切れて内出血を起こしている。それらを全て考慮した上で体(・)内(・)で(・)改(・)造(・)作(・)業(・)が(・)進(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)」

 

 クロノがドン引きした様子でカルテを読み上げながら視線を此方へと向けて来る。

 

「なんで君は生きてるんだ」

 

「ピースピース」

 

 包帯に包まれた両手を持ち上げてダブルピースを浮かべる。全身が痛い痛いとずっと思っていたが、そこまで体の状態が酷いとはまるで思いもしなかった。とはいえ、死ぬ時よりはまるで大丈夫なので、問題ないと思っていたのだが、そりゃあ痛いに決まっているわ、と、漸く自分の状態を聞かされて重病人という状態に納得がいった。こんな怪我、普通は負う事も出来ないだろうが、それを可能にしてしまうあたりが実に魔法という存在のファンタジー染みている部分だった。

 

 クロノの話を聞きつつアースラの医務室、ベッドの上で足を組む様に座っている。その直ぐ横では何時、どこで入手したのかは不明だが、ナース服姿のジークリンデがポテトチップスの袋を開けてくれたので、それを口元へと運んでくれるのを食べている。一緒にコーラもある為、アメリカンスタイルで休めている。このジャンクに秘められたエネルギーこそがアメリカ人を癒す最大の力だと思う。

 

 アメリカンスタイルでリラックスする。後はテレビとスーパーボウルさえ放送していれば最高だった。

 

「病人! だって! 自覚を! しろよ!」

 

「大丈夫、ステイツの人間はポテチとコーラ食って飲んで寝てれば治るから」

 

「胃もダメージ喰らってるから休めって話だよ!!」

 

「はい、あーん」

 

「あんむ」

 

「だから! 手を止めろよ!!」

 

 クロノがカルテの乗っていたホロウィンドウを地面へと叩きつけるように割った。半分キレている様子が見て取れる。その横で一緒にお見舞いに来てくれていたなのはが苦笑いを零すのが見える。ミッドチルダ単体の技術、そしてアースラの設備ではなのはの失明を治療するのは難しいらしく、なのはの右目は未だに眼帯に覆われた状態だった。だがそれ以外の傷の治療に関しては、魔法とアースラの技術でどうにかなる範囲らしく、見た感じは治ってきている様に見える。

 

 ただ、ここにフェイトはいない。

 

 彼女は現在、拘束中のプレシア・テスタロッサと話し合っている最中だ。

 

 ポテトチップスの袋が空になった所で、それを潰して、ごみ箱の中へと魔法で飛ばす。ミッドチルダ式とフォーミュラ・エルトリアとの魔法融合は今の所、上手くいっている。ただ、どことなく違和感を感じているのも事実だ。まだまだ、魔法の成長が出来る。それを含めて自分にはまだまだ課題が残っている、という感じだろう。

 

「ふぅ―――食い終わったし散歩するか」

 

「するな。フリじゃないからな。本当に」

 

 クロノの額に青筋が浮かぶのを笑いつつ、仕方がないなぁ、と片膝を立てる様に姿勢を崩す。ジークリンデもコスプレに飽きたのか、ナース服を何時もの露出の多い戦闘用の服へと上書きするように切り替え、ベッドの端、自分の横に座ってくる。クロノは痛がるように片手で頭を抑えつつ、ため息を吐く。

 

「君も治療が終わったらプレシア同様、聞かなきゃいけない話がたくさんあるから、一緒に本局にまで同行してもらうから。だから、頼むからそれまでおとなしくしていてくれよ」

 

 疲れ切ったクロノの言葉に小さく笑い声を零した。

 

 ―――プレシアとの戦いから1日が経過した。

 

 

♦

 

 

 戦いの後の顛末になる。

 

 なのはの容赦のないバスターを喰らったプレシア・テスタロッサは魔力欠乏症でノックアウト、そのまま魔力封印措置をかけた上でアースラに拘束された。これによりプレシア・テスタロッサが始めた一連の事件は終わりを迎えた―――という訳にはならない。

 

 当然、事件とはその後の事情聴取や原因、再発の防止を行ってから初めて終わるものである。首謀者が捕まったから事件が解決したという事にはならない。ジュエルシードは全て確保され、封印された。そしてプレシア・テスタロッサが捕まった。だが彼女が何故こんな凶行に走ったのかをまず、彼女自身の口から聞き出さないとならない。その上でフェイトの身の振り方、押収されたもの扱い、現地協力者の今後。そういうことを含めて全部どうにか処理してから事件は漸く終わる。

 

 つまり事後処理が地獄の様にある。

 

 プレシアの件とフェイトの件はもちろん、そこに自分の案件もある。

 

 嘘をつくのが面倒になった結果、違法の魔導士扱いになった上、危険な技術を使っているから調査が必要。どこから、何故、どうやってという話をしなくてはならない事になった。時空管理局は正義を守るのに忙しいらしい。

 

 だがそれだけではなく、管理局援軍の本隊が到着する話もある。

 

 完全に破壊されてしまった海鳴市を再生する事、そしてそれだけではなく今回の事件、常に魔力を使って封絶結界という魔法を使っており、そこに隔離して眠らせていた海鳴の人間を呼び起こし、その上で記憶の処理を行う必要もあるらしい。今回の件、プレシアによる被害が大きすぎて、そう簡単にその後の処理が終わらせられそうではないという話だった。

 

 事件が残した爪痕は大きい。

 

 だが今回の件、時空管理局という存在も流石に放置する事は出来ず、全力をもって事件の前の状態まで修復するつもりでいるようだった。まぁ、巻き込まれた側なのだからある意味当然というか、当たり前というか、時空管理局が時空の平和と安全を守るつもりがあるんであればそれぐらいはやって貰わないと困る。

 

 そうやって、事件から1日が経過した今、

 

 簡単な治療が終わり、フェイトは関係者を連れて面会へ、クロノは事後処理の為に奔走し、

 

 自分は病室に隔離されていた。

 

 

♦

 

 

「全く―――いいから、怪我が治るまで絶対に動くなよ?」

 

 そう言ってクロノが病室から出て行く。半ギレの様子を見せているが、それでも間違いなく心配しているのは事実だった。根が善良で優しいという事は見て解る。だからこそ良いリアクションを見せて来るし、からかいたくなるのだが。そんなクロノの姿を見送るも、病室にはなのはが残った。ジークリンデもいる、こいつに関しては事件終了後、アリシアをアースラに預けてから常に一緒だから気にしていない。

 

 悩むだけ馬鹿々々しい。

 

 いや、面倒というべきか。

 

 ジークリンデからは悪意の類を感じないので、深く考えるだけ無駄だという事を悟っただけなのだが。

 

 それはそれとして、なのはが残っていた。少しだけ言い辛そうに両手を後ろに回し、その、と声を零す。その続きを促す事無く、なのはの言葉の続きを待っていると、なのはが口を開いた。

 

「その……ありがとうございました」

 

 そう言って、なのはは勢いよく頭を下げた。

 

「何度も庇ってくれた事、本当にありがとうございます」

 

「Ah……」

 

 なのはの真面目な行動に、どうしたものか、と頭を抱えてしまう。それをジークリンデがニヤニヤと横から見て、笑っている。趣味の悪い奴め。そう思いながらどう、言葉を返せば良いものか、それを悩んでしまう。真面目に対応すればいいのか。茶化せばいいのか。このなのはという少女は自分が思う以上にデリケートな少女の様に思える。

 

 こういうタイプの奴は、真(・)面(・)目(・)に(・)不(・)真(・)面(・)目(・)に(・)生(・)き(・)て(・)き(・)た(・)自分とは、ちょっと縁の薄いタイプだった。

 

「ガーディアンの時も、プレシアさんと戦うときも、攻撃が来ない様に前に出て受けに行った事、本当にありがとうございます。そしてそういう事をさせてしまって、ごめんなさい」

 

 そう言ってなのはは頭を下げていた。その言葉からは責任感の様な物を感じられた。まるで、なのはが何かに失敗したような、なのはが悪いような、そんな自罰的な言葉だった。最初は茶化そうと考えたが、公園でのやり取りを思い出し、あの時のなのはの様子を思い出してから、

 

 茶化すのは良くないな、と判断する。

 

 視線をジークリンデへと送れば、頷きを返して病室から出て行ってくれた。人払いを済ませた所でベッドの上でもうちょっとまともに座り直し、視線をまっすぐとなのはへと向ける。

 

「なのは、感謝してるんだよな?」

 

「はい。その、私の力が足りなくて迷惑をかけちゃったから……」

 

「そーかそーか」

 

 真面目にそう言い切るなのはの姿を見て、軽く息を零す。膝に肘をつきながら、片手でちょいちょい、となのはに近寄るように示す。此方が呼んでいる気配を感じたのか、なのはが視線を上げてから、無言のまま近づき、

 

 その額をデコピンで弾いた。

 

「あ痛っ」

 

 いきなりのデコピンになのはが額を抑える姿を、軽く笑う。

 

「なーにがThank youだ。頭おかしいんじゃねぇのかお前」

 

「え、えぇ……?」

 

 なのはの困惑する姿を見て軽く笑い声を零す。だからいいか、と言葉を置く。この子に伝わりやすいように日本語を吟味し、選ぶ。まぁ、英語の方が得意なのだが。それでも日本人が相手なら、日本語の方が伝わるだろう。

 

「いいか、俺は確かに良い事をしただろう。世間一般で言えばこれは美談かもしれない。自分の身を捨てて、誰かを助ける。とても良い事に思えるだろう?」

 

「はい」

 

 その言葉になのはが頷く。なのはがその言葉に同意したのを聞いて、言葉を続ける。

 

「だからこそ気(・)持(・)ち(・)悪(・)い(・)んだ」

 

「気持ち、悪い?」

 

「おう。自己犠牲は美しいかもしれない。正しいだろうし、良い事でもあるし、美しいかもしれない。だけど気持ち悪いんだ。それがなぜか解るか?」

 

 なのはが困ったように、頭を横に振る。

 

「自(・)己(・)犠(・)牲(・)は(・)究(・)極(・)の(・)エ(・)ゴ(・)イ(・)ズ(・)ム(・)だからだ。究極的に誰かの為じゃない。自分のエゴイズムをそう主張するから自己犠牲になるんだ。だから気持ち悪い。良いか、俺がやった事は決して素晴らしい事だと思っちゃいけない。この馬鹿が、もっとうまくやれよ。馬鹿が、気持ち悪いんだよお前。それぐらい強く批判しなきゃダメだ」

 

「え、でも、そのおかげで私は助かりました……よ……?」

 

「それでもだ。それを絶対に肯定しちゃいけない。良いか、俺には親父も母さんも残っちゃいねぇ。どっちも既に死んでいる。だから多少を無茶した所で心配する人はそんなにいないだろう?」

 

 少し誘導する様に言葉を放てば、なのはが即座に返答してきた。

 

「そんな事ありませんよ。私も、クロノさんも、ジークリンデさんも心配しますし、私だって……」

 

 なのはの言葉に頷く。そしてその言葉になのはがあっ、と声を零した。この子は賢い。だから全てを説明するよりは、自分で気づかせる方がきっと、意味があると思う。だからそうだ、と頷く。

 

「親父も母さんも死んだ。だけど生きているうちは誰かとまた出会って、仲良くなって、そして付き合いとかが出来る。そうすれば自然と心配されるし、心配もする。自己犠牲ってのはそういう連中からの心配を全部蹴り捨てて、それでもやるんだ―――って最低のエゴイズムになる」

 

 だからこそ、気持ち悪い。その言葉に尽きる。

 

「でも……ノアさんは解っていてやっているんですよね?」

 

「俺は俺の事が嫌いだからな」

 

「自分が、嫌い?」

 

 そう、自分の事が嫌いだ。無力で、誰かに頼らないと生きていけないような俺の存在そのものが嫌いだ。消えてしまいたい程に自分の存在が嫌いなのだ。その点に関しては―――やっぱり、なのはは似ていると思う。彼女の態度から何となく似ている部分があったと思うのだが、たぶんこれがビンゴだと思う。

 

「だけど俺達は生きているんだ。生きているし、生きていかなきゃいけない。自分がどんなに嫌いでもそれに折り合いを付けなきゃいけないし、そんな嫌いな自分自身の事を好きになったり心配してくれる連中だっている。それは友人かもしれないし、家族かもしれないし、或いは恋人なのかもしれない」

 

 だけど、嫌いな自分の事を好きでいてくれる人がいるのだとしたら、

 

 消えたいとか、死にたいとか、そんな事は言っていられない。

 

「そういう連中の為に、俺達は無事でいる義務がある。解るか?」

 

「……」

 

 その言葉になのはが小さく頷いた。なのでそのリアクションを見たうえで、

 

「ま、俺はそれを理解した上で滅茶苦茶やるけどな」

 

「今までの話はいったいなんだったんですか!?」

 

 なのはのツッコミに笑い声を返す。

 

「そらお前、気持ち悪く、身勝手なエゴイズムよ」

 

 笑いながらなのはの頭を撫でる。髪の毛がくしゃくしゃになるのをなのははどうしたらいいかが解らず、受け入れている。

 

「俺が好き勝手暴れて自分を犠牲にするのは俺の勝手だ。その結果、俺を心配する人が心を痛めるって結果も理解している。俺はそれを理解した上でこういう風に振る舞っている。心配させないような言葉遣いと我慢の仕方だって覚えた。その上で俺はこうやって体を張っている。俺がそうしたいからだ」

 

 で、と言葉を置く。

 

「俺みたいに突き抜けた考え方しているなら別にいいけど―――少しでも家族の事を考えるなら、考えられるなら無理して通す、何て事を考えない方が良いぞ。少なくとも傍から見ていると気持ち悪い奴なだけだからな」

 

 そう言ってから笑う。それを受けたなのははしばし、無言を貫いていた。呆然としているのか、驚いているのか、或いはいきなりこんな話をされて困惑しているのか。まぁ、正直どれでもいい。眼帯をした少女の姿はどことなく絵になる物がある。だがそれと同時に、その痛々しい姿はあまり直視したいものではない。

 

 なのはは間違いなく、この戦いを最後まで付き合う必要はなかった。それでも眼帯を装着したまま戦いに赴いた。

 

 その精神性は間違いなく危険だ。

 

 英雄的であり、独善的であり、そして破滅的だ。らしくもないが、自分を見ているようでどことなく不安を感じたのも事実だった。少し、喋りすぎたかもしれない。そう思いながらもう片手で自分の頭を軽く掻いて、なのはの頭から手を退ける。

 

「良し! 小言終わり! 帰っていいぞ」

 

「……」

 

 そう告げられたなのはは少しだけそこに立ち尽くし、足を止め、此方へと視線を向けて来る。

 

「……」

 

 口が何か言いたそうに開き、そして閉じる。そしてそのまま頭を下げた。

 

「ありがとう、ございました」

 

「おう。ちゃんと休めよ」

 

 何かを言い返す事もなく、溜め込む様な様子を見せてなのはは病室を出て行った。最後の最後で何かを言うのかなぁ、とは思ったのだが……結局の所、なのはは口に出さずに抱えてしまった。その様子に少女が背負った影の大きさを少しだけ感じられた。とはいえ、ここら辺は全部自分がどう思うか、どう感じるか。そういう事に繋がるのであまりしつこく言った所で逆効果にしかならない。

 

 自分の人生に対してどう、折り合いを付ける。

 

 若い頃ならふーん、そっか、で受け入れて柔軟に変われる。

 

 だが無駄に賢いと、考える事が増えすぎて変われなくなってしまう。年齢の割になのはは達観しており、同時に賢さもある。それが原因なのだろうとは思う。

 

「……はぁ。シュテル……」

 

 呟きながら片手で顔を覆う。結局の所、自分の中に引っかかっている物はそれで、そして口出ししてしまうのもそれが原因なのだろう。

 

「戻ってこれたのか? どうなんだ……」

 

 片手を枕の下に差し込み、そこに分解して隠していた煙草をフォーミュラで再構築する。口に咥え、ライターを探そうとした所で、ライターに火を付けて差し出してくるジークリンデの姿が目の前にあった。一瞬、煙草を落としそうになったが、口元にライターを寄せてもらい、煙草に火を付けて貰う。

 

 ゆっくりと煙を吸い込んで―――そのクソのようなまずさを堪能する。

 

 吸い込んだものをゆっくりと吐き出し、煙が検知されないようにある程度離れた所で分解しつつ、視線をベッドの再び腰掛けたジークリンデへと向けた。

 

「結局、お前はなんだったんだ」

 

「酷いなぁ、ウチやって心臓向けて狙撃されて来る雷を荷物抱えながら逃げ回っとったのに」

 

「いや、そうじゃなくて……あぁ、もういいや。どうせまともに答えないだろうし」

 

「にやりーん」

 

「口で言うかお前」

 

 相変わらずとぼけた様子のジークリンデの姿に諦めつつ、煙草を口に咥えたまま、ベッドに浅く背を預ける。枕の部分が寄り掛かれるように立っている為、完全に寝転がる様な形にはならない。こういう形を変えるベッド、うちにも欲しいなぁ、なんてことを考えながら天井を見上げる。

 

 あの女、俺達と戦いながらそんな事をしてたのか……。

 

 見えないところで殺意の高さを披露していたらしい。まぁ、それが此方に向けられなかったのは運が良いというか……いや、ジークリンデがずっとアリシアを抱えていたからか、と納得しておく。

 

「で」

 

「で?」

 

 ジークリンデがベッドに腰掛けた状態から、此方にしな垂れかかってくる正面に体を預ける様にしながら、頭を肩に乗せてくる。

 

「どや、目的は果たせたん?」

 

「さーてね。俺よりもお前の方がそれに関しては知ってそうだけどなー。なー?」

 

「どうやろねぇ?」

 

 視線を合わせ、溜息を吐き、天井を見上げた。あぁ、ちょっと自己嫌悪。あんまり、他人を疑ったり考えたりするのは好きじゃない。もっと、こう、頭を空っぽにして暴れる方が百倍楽なのだ。もっと世の中に簡単になってくれないだろうか。あの少女たちが無事かどうか、早く知りたい。だけど帰りの手段が解らない。俺はどうやってあの場所に戻ればいいのだろうか。

 

 それとも帰り道はないのだろうか?

 

 まぁ、今は療養しないと話にならないが。

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

 ジークリンデはただ、と言葉を置くと少しだけ言葉を選ぶ様に眼を閉じ、

 

「頑張って、辛い目にあって、そして勝ち取ったもので報われへんのは間違ってるとは思うよ」

 

「そう思うか?」

 

「ウチはそう思うよ。なのはちゃんやフェイトちゃんもそうやけど、にーちゃんが体張って頑張ったんやから報われなかったらそれはそれで間違っているとは思わへん?」

 

「だけどそこで報われないのが世の中じゃないのか?」

 

「ならそんな世の中がおかしいんやろ」

 

「そりゃ、まぁ、そうだな」

 

 苦笑する。まぁ、確かにそれもそうだ。だけどそのままならなさが、世の中の醍醐味という奴でもある。努力した所で報われる訳じゃないし、成功する訳じゃない。それでも努力をしなければ、起きる筈の成功さえもやってこない。そんな理不尽な世の中に俺達は生きている。

 

 ほんと、どこもクソだ。

 

 人生に希望を見失いそうだ。

 

 ただ、まぁ、それだけじゃないし。世の中、捨てたもんじゃないのも知っている。それにほら、美女や美少女が居る分にはもうちょい頑張れる。見ているだけで人生楽しくなってくるし。自分のものになってくれれば言葉もないのだが。

 

「ところで」

 

「ん?」

 

 ジークリンデが言葉を向けて来ると、手を伸ばし、咥えている煙草を軽くつまんで外してきた。

 

 その直後には軽く唇を重ねて来た。下唇に軽く噛みつくように唇を合わせてから外し、ジークリンデが此方の口に煙草を戻してきた。体を寄せた状態のまま、もぞもぞと首元でジークリンデの頭が動き、耳元に息を感じる。

 

「なぁ、そろそろ溜まってるんやない?」

 

 ジークリンデの指が脇腹を撫でて、腰へと降りて行く。そのアピールだけで何を求めているのかは明白だった。この女の得体の知れなさに一瞬萎えた事もあったが、胸に押し付けられる柔らかい感触と、ジークリンデの女の匂いに、そそられる部分があるのも事実だった。

 

「いいのか?」

 

「ウチは何時でも準備はええよ。ずっと、な」

 

 挑発する様な艶めかしい声の気配に、病室という誰かが入ってくるかもしれないというシチュエーション。そしてちょっとした、自分への頑張ったご褒美というのを言い訳に、空いていた手をジークリンデの背後へ―――腰へと、抱き寄せる様に回した。

 

「体が痛いから激しくはダメだぞ?」

 

「調子に乗ったらごめんな?」

 

 これ、絶対に激しくなる奴だ……。

 

 その予感を確信しつつ、空いている手で煙草を取り、吸い始めたばかりのそれを握りつぶして分解しつつ、此方へと顔を向けてきた女と唇を重ねた。




 ご褒美えっちだ……イベントクリアしたらえっちが入るのはエロゲとしては当然だよなぁ?(謎システム

 なのはが嫌悪感を自覚してから改善するまでに必要な時間を考えると相当根が深かったんだよなぁ、って。多分他人からどうこう1回言われた程度で改善できるような子じゃないよねって。

 という訳で次回はえっちで。
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