※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

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Far Earth
Dreaming


「はーん、ここが海鳴か」

 

 バスから降りた場所は海鳴という都市を一望できる丘の上だった。そこから海へと向かって広がる海鳴の姿を眺めながら、自分が住んでいた海の向こうの姿を思い出し、率直に思い浮かんだ言葉を口にする。

 

 体が全く動かない

 

「田舎だな」

 

 口が勝手に動く。

 

 そんな言葉しか口に出なかった。メインに見えるのは住宅街だ。そんなものはもう既に見ている。繁華街や多少のビルの姿が見えて来るが―――基本的には田舎だ。しばらく住んでいたんだからそんな事は既に知っている。大きな港がある訳でもなく、普通に生きていく為の都市。海が近いというだけで、それ以外にさしたる特徴は見えない。都会と呼ぶには少々物足りなさを感じるような場所だった。動け、動け、動けよ。とはいえ、静かに、穏やかに暮らしていく分にはそこまで悪い場所である様には思えなかった。少なくとも海の方から吹いてくる風は心地よさが混じっている。クソが、なんで自由に動くことが出来ないんだ。空気も悪くない。或いは住み着けば気に入るような場所なのかもしれない。そんなことを考えながらポケットの中に手を伸ばす。それじゃない。フォーミュラ、フォーミュラに手を伸ばせ。

 

 その中に突っ込んであるスマートフォンを取り出す。魔力がないからフォーミュラが動かねぇ。繋いでいるイヤホンのコードが揺れるのを視界の端で捉えながらスマートフォンのメモアプリを開き、ほかにフォーミュラを動かせる燃料はなんだ?そこに入力してある住所を確認する。それをグーグル先生のマップアプリと連動して、住所を入力する。再びスマートフォンをポケットの中に押し込む。生命力を燃焼させる。生命エネルギーを使用する。

 

「ぴよっ!」

 

 マフラーの中に隠れていたひよこが飛び出す。燃焼した生命で稼働したフォーミュラが生み出した僅かなエネルギーを吸収して変換する。

 

 イヤホンの向こう側からはお気に入りのロックが聞こえる。少し古い曲だが、最新が常にベストであるとは限らない。80sのロックは今でもレジェンドと呼べるものがいくつもある。音楽をゆっくりと聞きたいところではあるものの、最新のよりは、そちらの方が好みであるという部分は確かにある。やっぱり、趣味が入っているかもしれない。そんなことを考えながら右手でイヤホンのコンソールにひよこがなぜか怒って、電撃ではなく七色のオーラを纏っていた触れて音量を調整しつつ歩き出す。

 

 向かうべき場所はスマートフォ七色に輝くひよこのホームラン宣言が入るンがガイドしてくれる。電子音声によるナビゲーションは今の時代、そこまで珍その標的は真っ直ぐ顔面しいものではない。目的地までXメートル、右折、左折、直進、そういう一歩、二歩、と助走をつけ始める事を一つ一つ音声で指示してくれる。

 

「ぴよっ……!」

 

 流石にそのたびに音楽の音量がその時だけ下嫌な予感しかしないがるのがやや難点というか、どうにかすれば修正出来るのだろうがあいにくとそこまで機械関係に明るいわけじゃないし、設定のどこを弄ればいいのかわからない。その上で面だがスーパーひよこは助走をつけている倒だという部分もある為、もうそのままでいいやと放置している。不あ、なんかもう滅茶苦茶勢い乗せようとバックしてる快さも付き合っていればそのうち慣れてしまう。不快である事が日常的になって忘れてしまう。

 

「ぴ―――よっ!」

 

 人間とは結構シンプルに出来ている生き物である。慣れてしまえば大体、どうとでもなる。

 

 そしてその瞬間、ひよこは光となった。

 

「ごふっ―――」

 

 顔面にひよこが突っ込んできた。まともな魔法的な防護がない今、本気のひよこアタックは物凄い衝撃を伴って、痛みと共に体を吹き飛ばした。顔面から軽くきりもみしながら吹っ飛んで行くのを整えようとするが、生命エネルギーをフォーミュラの燃料に消費したばかりだ。

 

 体にまるで力が入らない。ひよこに吹っ飛ばされた所で道路に転がり、そのまま動きを停止する。痛い。超痛い。滅茶苦茶痛い。

 

「超痛ぇ……」

 

 転がった状態のまま、呟く。だがその呟きに合わせて体の感覚を感じられる。肉体のコントロールを得ていた。自分の体がマリオネットの様に動かされていた不快感はもうない。

 

 そう、いうなればこれで素面だ。まとわりついていた不快感も、無駄な強さも、全てが拭えて消えた。それをジークリンデが持って行って消し去った。故に道路に転がった状態で、軽くせき込みながら体を持ち上げる。

 

「ぴぃよっぷ!」

 

「少しは、加減しろ……!」

 

 近くまでやって来たひよこをデコピンで弾きながら、上半身を両手で支えてから何とか立ち上がる。弾かれたひよこが転がってから再び走って戻ってくる。近づいてくるとジャンプして体を這いあがり、何時も通りの位置まで戻ってくる。そうやってひよこを受け入れた状態で軽く背筋を伸ばし、視線を反対側へと向けた。

 

 つまり、自分が来た―――海鳴の外へと。

 

「……まだ、エネルギーは残っているな?」

 

「ぴよ」

 

 勿論、とひよこが応えて来る。ひよこからマフラーを通してフォーミュラへとエネルギーが送られて来る。これで生命力が回復する訳ではないので吐き気とだるさが一切消えないが、それでもフォーミュラは稼働する。

 

 これは素質でも才能でもなんでもないのだが―――これも、夢の産物ではないのだろうか?

 

 だがフォーミュラナノマシンが肉体内に残留し、消えていない以上これはセーフ判定なのだろう。周りの物質をナノマシンで分解し、そして再構築する。使いやすいリボルバーの形へと。銃口が向けられる先は、暁町でもない、別の街へと―――外の街へと繋がる道路だ。この近辺を散策するのであれば向かわない方角でもある。

 

 そっちへと向けて、引き金を引いた。

 

 一瞬で吐き出された破壊力の塊は空間を貫きながら飛翔し、空間を食い破るように放たれた。車を一発でスクラップに変えることが出来る弾丸は街の出口へと向かって飛翔し、

 

 何も存在しない、虚空に衝突して弾けて消えた。

 

 その瞬間を見逃す事無く、視線を虚空へと向けてから、ゆっくりと腕を降ろす。ふぅ、と息を吐きながら弾丸が消えた場所へと移動し、軽くその場所に触れる。

 

 その向こう側には道が続いている筈なのに。

 

 手を伸ばせば、見えない壁の様な物にぶつかる。そこから先には両手を押し付け、体当たりしてみても割る事が出来ない。ポケットの中に手を突っ込み、スマートフォンを取り出してみる。

 

 そこには依然、親父の遺言がちゃんとメモとして残されていたようだった。これは真実だった……?

 

「……」

 

 何が本当で、何が嘘なのか。それが夢から覚めた事で、曖昧になって解らなくなってきた。疑おうと思えば何でも疑うことが出来る。何が真実で、何が虚構なのか。それを探る必要がある。自分が知っている事で何が正しく、そうではないのかをも。

 

 あの、三人娘たちは本物なのか?

 

 この世界はなんなのだ?

 

 あの世界は過去の世界じゃなかったのか?

 

 なぜ、外へ行けないのだ。

 

 ここは―――どこなんだ。

 

「……」

 

「ぴーよ?」

 

「あ、あぁ……大丈夫だ、大丈夫」

 

 マフラーから顔を出すひよこの事を軽く撫でる。というかこいつ、真っ先に動けてたけど一体どういう生物なんだ……? マフラーから顔を出して頬を突いてくるひよこの姿を軽く眺めてから、息を吐く。ゆっくりと虚空の壁から離れ、そのまま近くのバス停のベンチへとゆらゆらと歩き、座り込む。

 

「あー……痛ぇ……」

 

 焼けつくような感覚に腕を伸ばして見てみる。先ほどまではそこに、健常な肉体があったはずだ。だがま(・)る(・)で(・)高(・)温(・)で(・)焼(・)か(・)れ(・)た(・)よ(・)う(・)な(・)火(・)傷(・)が自分の腕に張り付いていた。いや、見覚えがある。これは雷撃を喰らったときに体に負った傷だ。高圧電流によって肉体を焼かれた時の火傷だ。それが再び自分の体に現れ、そして蝕んでいる。何故、と言葉にしようとして、

 

 都(・)合(・)の(・)良(・)い(・)回(・)復(・)が(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)事(・)実(・)を(・)思(・)い(・)出(・)し(・)た(・)。

 

「なる、ほど、なぁ……」

 

 腕だけではなく、体中の傷が再び開くのを感じながら、ふらふらと足を進ませながらなんとかバス停のベンチまで戻ってくる。そこでほぼ倒れるようにベンチに座り込み、感じる激痛に言葉を失う。

 

 なんで俺、こんなもんを耐えられていたんだ……?

 

 ご都合主義の排除とは、よく言ったものだ。ジークリンデめ、本当に根こそぎそういう物を消し去って行ったらしい。体中が痛くて痛くてしょうがない。だがその中にはどことなく、清々しさを感じられた。

 

 或いは―――解放感、かもしれない。

 

 だがそれで傷が、痛みがどうにかなるものではない。

 

 痛みに呻きながら徐々にやばい、と思いながら意識がフェードアウトして行くなか、焦る様子のひよこが目の前で右往左往する背後から駆け寄ってくる姿が見えた―――。

 

 

♦

 

 

「―――あぁ、成程成程。つまりは幸福な夢は見れない、と。そうおっしゃると」

 

 そ(・)れ(・)は椅子に足を組んだ状態で座り、身の丈程ある杖を抱えながらも笑みを絶やすことなくどこかを眺めていた。

 

「誰もが特別である事を願う。強い事。格好良い事。出会いがある事を。勝利を。逆境を。愛を。運命を求め、そして試練を乗り越える事を求める。他人には持たぬ自分だけの証を欲し、そしてそれを打ち立てる。成程、誰もが見る様な手垢にまみれた台本だ。しかしなれど、だからこそ多くを魅了する」

 

 私はそれを、歓迎しよう。

 

「需要があるというのは悪い事ではない。誰もが潜在的には幸福を求めている。幸せになることを望みとして生きている。故に、退屈となる。幸福とはつまり満ち足れた状態でもあろう。成程、成程。満ち足りていれば、何も求めず、変化はなく、常に同じ状態で変わらなくなるだろう」

 

 確かに、それは退屈であろう。

 

 そ(・)れ(・)はそう笑いながら言った。確かに、退屈だろう。だからこそ冒険とロマンを、物語を求める。

 

「故に私は幸福な夢を見せてあげたのだが―――なにかな、これでは夢を見れない、と言うのかな? 実に酷い話だ。幸福で、特別で、誰もが羨む様な夢。どこにでもある様な脚本。それでは満足できない、と?」

 

 然り、

 

「貴方はそういう人なのであろう」

 

 だが幸福な夢を、特別である夢を否定された事をそれは肯定した。実に楽しそうに。

 

「きっとそう、貴方の人生は幸福ではなかったのだろう。貴方は現実の厳しさを知っている。故に受け入れる事が出来た。あぁ、確かにエレミアの献身は可愛らしかった。だがそれまでだ。もう、彼女は夢から覚めてしまった。もう都合の良い手札はないぞ? あぁ、何。無論、私も私で果たすべき事は果たすさ―――」

 

 そう、と言いながらとんとん、と杖の底で床を二度叩いた。

 

「人は痛みには堪えられるが、幸福には勝てないという」

 

 とんとん、と叩いた。

 

「なら幸福に抗える者は果たして、痛みに屈せずにいられるのだろうか?」

 

 虚空を見据える目は潰れている。その両眼から光は閉ざされ、二度と正しく物を見る事はない。だがその法師は虚空へと常に視線を向け、人の目では見られないものを見続けていた。

 

「ならば次の夢は当然、苦(・)痛(・)に(・)満(・)ち(・)た(・)夢(・)になるであろう」

 

 人とは、幸福になりたがる生き物である。故に一番最初に見る夢は常に甘い夢だ。成功、飛翔、挑戦からの獲得。これが最も浅い夢だとも言える。なぜなら誰もが最初に夢を見るが、それをやがて忘れてしまう。誰も、最初に見た夢を覚えていない。甘い、甘い希望に満ちて幼稚な夢を。

 

 そしてそれを忘れた頃にやってくるのが、

 

 苦痛の記憶。

 

 苦痛の夢。

 

「失敗。挫折。絶望。痛み―――そう、痛みだ。誰もが一度は痛い目を見て、甘い夢を捨てる。故に甘い夢を剥げば当然のように悪夢が顔を見せる。あぁ、もしかしてそれを知って夢を終わらせたのかエレミア? だとしたら思っていた以上に貴様は残酷な性質のようだ」

 

 笑い声を零し、虚空を見つめ、

 

「あぁ、それでは次の悪夢で逢いましょう。更に、深く……」




 楽しそうだなこいつ。

 という所で主人公補正消滅、外付け才能消滅、魔力枯渇、苦痛耐性消去したんでここからが本番ですよ。
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