※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

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Dreaming Ⅲ

「さて―――改めて自己紹介をさせて貰おうかな」

 

 目覚めてから約一日、シュテルとレヴィに看護されるように休んでから次の日には体の調子も良く、歩ける程度には体が回復していた。それこそ一週間も眠りっぱなしだったのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが。それでもそうやって動けるし、考えられるのであれば、やっておく事がある。少なくとも、後回しに出来る事ではない。その為、グランツ研究所の家部分、リビングに集まっていた。ソファに座る此方に対して、シュテルとレヴィが両側から挟み込むように座り、頭の上をひよこが占領していた。

 

 そこで白衣の男がリビングのテーブルに足を組みながら腰掛け、自己紹介をする。

 

「私はフィル・マクスウェル。環境再生とナノ工学の博士だ。そこにいるイリスの父親だって言えばいいかな? 一応は君を治療した主治医でもあるから、そこら辺は素直に感謝して私の息子になってくれてもいいよ」

 

「今なんつった」

 

「この変態の言っていることは話半分で良いから」

 

 フィルの言葉を叩き割った少女―――フィルに娘だと紹介されたイリスが続けて自己紹介する。嘆息しつつ軽く髪を揺らし、此方へとテーブル横の椅子に座りながら言葉を視線と共に向けて来る。

 

「私はイリス……イリス・マクスウェル。海鳴の中学に通ってるこの汚物変態男の娘よ」

 

「アミティエ・フローリアン、このグランツ研究所のグランツ・フローリアンの娘です。どうぞ、アミタでお願いします。ここでは高校に通っています」

 

「その妹のキリエよ。私も学生ね」

 

「女子密度たけぇなぁ……」

 

 思わずその声を零さなくてはならなかった。戻ってきたシュテルとレヴィを除き、増えたのは女子3、男1という組み合わせだった。この女子過剰空間に男が二人だけ、というのは中々目の保養には良いものの、生活するにはちょっと息苦しいかもしれない数だった。それはそれとして、

 

「ユーリもいない、か」

 

「あ、それなら書置きがあります」

 

「書置き」

 

 シュテルが横からユーリの書置きを差し出してくる。それを受け取りながら内容を確認する。

 

 

「旅に出ます。探さないでね!」

 

 

 無言でその書置きを千切って捨てる。思春期の家出かよ、とコメントを零しながら軽く溜息とともに額を押さえる。間違いなく逃げたとしか思えない行動だ。少なくとも単純に姿が消えただけでないのはまず間違いがない。

 

「とりあえず、完全に事情を把握していると解っている人たちは今ここに集まっているよ」

 

「他にも色々と海鳴や暁町にも変化はありますが、いったんそれは後回しとします」

 

 シュテルがそこで言葉を区切り、そこからフィルが言葉を引き継ぐ。

 

「まぁ、これが私(・)達(・)に(・)与(・)え(・)ら(・)れ(・)た(・)こ(・)こ(・)で(・)の(・)設(・)定(・)な(・)ん(・)だ(・)」

 

「設定」

 

「そう、或いは役割(ロール)だ」

 

 初めて海鳴に来た時、魔法等の言葉に対して設定、という風に使って軽くふざけたのを思い出した。だが今ではその設定という言葉の意味が、ガチな部分に突っ込んでいる。少々、笑えなくなってきた。だから設定、という言葉の意味をフィルへと求めれば、フィルは笑みを浮かべる。

 

「そのままの意味さ。私達はここで生きて、生活している。だがこ(・)こ(・)で(・)の(・)生(・)活(・)は(・)全(・)部(・)与(・)え(・)ら(・)れ(・)た(・)も(・)の(・)なんだよ。私は元々別の世界、エルトリアという惑星で環境再生を行う研究をしていた」

 

「私はその研究の一環で生まれた疑似生命体ね」

 

「私とキリエは同じ惑星に生まれましたが、多少肉体的な改造を施されているだけで普通の人間です」

 

「Hmm……」

 

 いきなり別の惑星とか言う単語が出てきた。正直、脳が理解できる範囲を今の一言で超越されてしまったような気分だった。だけど、同時に良く解らない事でもあった。

 

「Ah……待ってくれ。つまり、偽物の記憶を持っている、って事なのか?」

 

「正確に言うと私達が元々生活していた、正しい記憶があります。それに追加されるように、別の記憶を継ぎ足されているんです。ですがそこには経験がない。つまり経験した覚えのない記憶が追加されているんです」

 

「言いたい事は何となく解る」

 

 つまり存在しない筈の記憶が継ぎ足されているのだ。そりゃあ恐ろしいし、違和感の塊だ。

 

「一週間前、つまり貴方が発見されるその瞬間までは誰もその事に違和感を抱いていなかった。つまり、貴方が発見されてからここにいる皆は自分の記憶の違和感を覚えて、本当の自分の記憶という奴を思い出したのよ。シュテルとレヴィから寝ている間に色々と聞かせて貰ったわ」

 

 この海鳴での生活、そして同時にシュテルとレヴィが最初に言っていた歴史改変の話だろう。だが今となってはその話も大分怪しい。根拠となる記憶その物が今では信じられなくなっているのだから。

 

 だがとりあえず、情報を共有する事とする。

 

 自分が一人だけ、過去の海鳴と思われる場所へと飛んでからの話だ。

 

 

♦

 

 

「何で生きてるんだこいつ」

 

「いや、一回死んでるじゃん」

 

「あ、そうだった」

 

 イリスとキリエのやり取りに半眼を軽く向けながら、溜息を吐く。なんだかんだであの崩壊海鳴でのやり取りが懐かしい。かなり暴れたなあ、と思う反面、今から思い出すとあの場所での出来事は、

 

「余りにも都合が良すぎる……そういう話だね?」

 

「あの時はその事に一切違和感を抱かなかったんだけどな。だけど今となると違和感しかない。普通人間が高圧電流に耐えたり、都合よく覚醒したりするかよ。良く考えれば違和感だらけだ。此方を疑わずに中心にするとか、拘束しないとかさ」

 

「そうですね……流石に不用心という領域を超えている事実です。明らかにおかしい」

 

 だけど誰もそれに気づけなかった。誰もそれを指摘しなかった。今の今まで。ここに戻って来て漸くその違和感やおかしさを指摘し、考えることが出来るようになった。そしてその事実に、誰もが首を傾げる。

 

「確かそのエレミアってのとセックスしたら治ったのよね?」

 

 イリスが迷う事無く言った言葉にキリエとアミタが顔を赤くしている。フィルは少し興味深そうに腕を組んで思考しているのが見える。

 

「あぁ、魔力全部と魔法的な才能を消されたよ。だけどアイツの言い分じゃ元々それが余分、というか原因でもあるらしい。或いは原因の一つか?」

 

「面白い話だね……。君に付与されていた外付けの才能とでも言うべきかな? これが消えた事によって、この海鳴において私達は正しい認識力を得ることが出来るようになった。つまり私達が直面しているこの状況、この環境に間違いなく君が関わっているという事になる」

 

 その言葉に両手を上げて広げる。

 

「割とまじめに覚えがない」

 

「だろうね」

 

 此方の言葉にフィルが即座に肯定する様に返答した。その早い切り返しに少し驚きつつ、

 

「マクスウェル所長……今の情報で何かを掴めたんですか?」

 

「いや、全然。アクセラレイター・オルタ」

 

 イリスが迷う事無く銃を生成し、それをフィルへと向けて発砲した。放たれたエネルギー弾をフィルが超加速によって回避する。そのまま煽るように高速状態でフィルが左右へとブレまくってから再び定位置に戻ってくる。その姿をイリスが言葉に表せない怒りの表情で眺めているが、誰もそれに触れない辺り、触れてはならない類の事だと理解し、言及を回避する。

 

「まぁ、私に解るのは私達が現在存在するこの世界の主はノア君を主人公として見立てている、って事かな」

 

「主人公?」

 

 フィルがそうだよ、と言葉を続ける。

 

「だってそうだろう? ふらっと現れた青年。不思議な出会い。義憤に燃え、そして力に目覚めて―――使い古されたストーリーラインさ。どこにでもある、ね。まぁ、その物語を私達に強制させた上で登場退場を自由にコントロールできる存在が居るってことが最大の難点なんだけど……」

 

 その上で相手が誰であるかさえも解らない。そこが問題だろうか? 後はここがどこであるか、という話もある。海鳴の外に出れないのも確認しているし。それを考えると、この海鳴と暁町の狭い範囲が俺達の世界となってしまう。改めて、とんでもない事になっているのを自覚する。

 

「自分の記憶さえも信じられないなんてどうすりゃあいいんだ」

 

 ソファに完全に背中を預けるように倒れ込むと、腹と膝の上にシュテルとレヴィが倒れ込んでくる。こいつらもアレか―――主人公補正、とでも言うべき奴に引っかかったのだろうか? だとしたら、本当に申し訳ないとしか言葉がない。哀れとも言える。これに関してもどうすればいいんだろうか。そんな事で頭を悩ませる。

 

「ノアさんは……私達みたいに記憶のダブりはないんですか?」

 

 アミタの言葉に頭を横に振る。

 

「ない。全くない。俺の人生は一本道で、何も変わっちゃいない」

 

 ほかのみんなはどうやら役割と、そして本来の人生と呼べるべきものを思い出せるらしい。だが少なくとも自分が思い出せる人生は一つだ。それ以外の人生を送ってきた覚えもない。だけど自分はまるで物語の主人公の様に酔っていた。求められるがままに。そしてその結果、こうなっているのだ。自分の人生全てが否定されたような気分になるのもしょうがない。

 

「……」

 

 しばし、室内を静寂が包んだ。だがそれをひよこが頭の上から降りて、肩の上に乗ると頬に軽く身を寄せて来る事で邪魔する。心配してくれているのが解るひよこの行動に小さく笑い声を零しながら、その頭を指の先で撫でる。ぴよぴよ鳴きながらひよこが指を突く。

 

「ま、いいんじゃない? 昔の事は。気にしたってしょうがないしぃ?」

 

 キリエの労わる様な言葉にそうだなぁ、と声を零す。

 

「まぁ、深く考えたってしょうがないか……」

 

 そう言って直ぐに切り替えられる程単純な話でもない。だがそれでも、口で言っておけば少しだけ、マシにはなる。とりあえず、昔の事はなるべく考えない方が良いだろう。俺が誰で、何をして、本当に存在する人間なのかどうかなんて。

 

 あぁ、でも、俺がもし想像上の主人公として生まれたのなら、

 

 成す事、喋る事、その全てが何て……空虚なんだろうか―――。

 

「それよりもこれからをどうしようか、って話だよね。ボクとしては王様を取り戻したいし、グランツ博士も戻ってきて欲しいよ」

 

「そうですね、父にも母にも戻って来てもらいたいですね……」

 

「となると基本的な方針はこの……ふむ……都合の良い演者を舞台に上げて好き勝手やっているんだ、《夢界》とでも呼ぼうか。この夢界の攻略になるかな。少なくともどんな結果にせよ、ノア君は此方側へと戻ってきた。彼方側で何かを成して、そして戻ってくる事。それが私達という存在を呼び戻し、そして干渉から解放したなら―――」

 

「鍵はそこですね」

 

「まぁ、その前に色々と調査も必要でしょうが」

 

 アミタがそう言葉を告げた所で、可愛らしいお腹の音が室内に響いた。音の主であるレヴィの方へと向けると、完全にだらけ切った表情で空腹を訴える視線を向けてきていた。

 

「おなかすいたー」

 

「ふふ、そうですね。軽く頭を使うとお腹が空きますしそろそろ昼食にしましょうか? ノアさんは食欲の方はどうですか? 何か食べられそうですか?」

 

「私とお姉ちゃんで何か作ってあげるから、感謝しながら食べなさいよー?」

 

「あぁ、じゃあなんか軽いもんを頼む。……ありがとう」

 

 アミタとキリエがキッチンに向かう。それにシュテルが腹の上から頭を退けて起き上がり、追いかけて行く。

 

「あ、待ってください。貴女達だけに任せると肉料理ばかりになりますから! キリエは大概アミタには甘いですし」

 

「え、そんな事ないわよ? ……そんな事ないわよね?」

 

 確認しながら去って行くキリエの背中姿に、イリスがため息を吐きながら言葉を零す。

 

「バッカじゃないのアイツ」

 

 そう言うイリスはどことなく、キリエに対して複雑な感情を抱えたような表情をしていた。それをフィルが横から面白がるように見ており、なんともまぁ、めんどくさそうな関係性が見えていた。それを見なかった事にするように視線を反らして、ソファにそのまま横に倒れる。

 

 そこによじよじとひよことレヴィが昇ってくる。

 

「ノア、ノア」

 

「ん?」

 

 上に倒れ込んできたレヴィへと視線を向ける。

 

「お帰り」

 

「……」

 

 ニパり、と笑みと共にそんな事を言うもんだからもやもやとしていた毒気が抜かれる。レヴィへと向けていた視線を外す様に頭を降ろして天井を見上げ、

 

「おう」

 

 短くそう答えた。

 

 情報を軽く整理した所で解ったのが、ここは現実ではないかもしれないという事実。そしてここが一つの世界ではなく、何か特殊なルールと主が存在するという事実だ。

 

 ほとんど、何も解っていないのにも等しい。

 

 だがそれでも、漸く戻って来れた。その感覚が自分の中では強かった。

 

 体にのしかかるレヴィの重さと熱に軽い心地よさを感じつつも、昼間では少し寝るか、と、目を瞑った。




 過去も、経験も信じられない。自分という存在を構築する根幹が崩れて行く。それでも夢の旅は続く。

 という訳でエルトリア組を追加。解った事は極小、それでもヒントは既に出始めている。次回は色々と情報追加だったり、海鳴歩いたり。
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