「あぁ、おう。保護者代理のノア―――だ。これで未納分は払ったよな? 文句ないよな? あぁ? 振り込みは確認してるから問題ないだろう? じゃあな。―――良し。支払いの方を確認したぞ」
電話を切りながらディアーチェへと視線を向ければ、ディアーチェが息を吐いた。何をやってるかと言えば、未成年だからとディアーチェ達じゃ出来なかった支払い関係の手続きなどを保護者代理という扱いにして一気に終わらせただけである。とはいえ数か月分溜まっていたのも事実だし、払えないなら研究所と土地―――というかそれを持っていく事を目的としていたらしく、ディアーチェ達に支払わせなかった部分がある。まぁ、ここら辺の土地は金になるってのが見えているのでしょうがない。半分無理やり金を振り込んで電話で脅しを入れて了承させて、手続きは完了。
三人娘の住まう研究所に泊まった翌日、最初の仕事を終わらせた。
「助かった。何を言っても子供では無理だと押し通されてしまってな」
「もっと早く他の人に頼めよ」
「頼めればそうしている。だが問題として我らに親身にしてくれるような人々は全員消えてしまってな。残されたのは買い物先の店主ぐらいよ。まぁ、そういう訳で我としても非常に助かった。感謝を受けといてくれ」
「おう」
感謝されたのならそれを素直に受け入れる事は大事だ。じゃなければ働いた意味がない。という訳で、ディアーチェからの感謝を尊大な態度で受け取り、一仕事を終えた。これでここにまだいられるのだろう、この少女たちも。まぁ、この年齢で野宿というのも辛いだろう。問題が解決されたのであればそれはいい、
……のだが、
「さぁさぁ、さっそく魔法の適性を調べましょう、そうしようそうしましょう」
それを見守っていたシュテルが鼻息を荒くしながら待っていました、と言わんばかりに寄ってくる。そのやる気の満ちっぷりには少々気圧される部分もあるが、少女が迫っている姿を前に、腰を引かせるのは男のやる事ではないと思う。意気揚々と迫ってくるシュテルの額を片手で抑え込みながら軽く苦笑を漏らしつつ、落ち着いた所で両手を広げる。
「Well, let’s get started then?」
言葉に応える様にシュテルもサムズアップを向けて来る。それを見てディアーチェが呆れの溜息を吐いてくる。
「シュテル……貴様少々浮かれすぎではないか?」
「何を言うのですか王。今まで何も出来なかった状況に漸く変化が訪れたのですよ。これは変化の兆し、漸く状況が動くというものです。レヴィの見ているニチアサ系列なら彼が主人公としてなんか、こう、凄い感じの才能を秘めている筈です」
「アニメ脳か貴様……!」
だがディアーチェも腕を組み、首を傾げ、ちょっと解るとか呟いている。この少女たちの先行きは本当に大丈夫なのだろうか? そんな不安を抱えながら、
先日同様、研究所裏の生活空間―――つまりは研究所にある家になっている部分、リビングに集まっていた。この場にレヴィがいないのは彼女だけ朝風呂を長々と楽しんでいるから、という理由が存在している。まぁ、それはさておき、やる気満タンのシュテルは片手に青いビー玉を乗せていた。
そしてそれが一瞬輝くと、その上に半透明のウィンドウが出現した。
「うぉ!? ディスプレイ!? AR!?」
「あぁ、そう言えば地球ではメジャーではない技術ですよね、ホロウィンドウ」
「ここら辺は普通に文化の違いを感じるものよな」
そう言いながらシュテルは宝石を握り込み、次の瞬間には一瞬の光で掌の中に魔法の杖が―――実にメカニカルなものではあるが、握られていた。質量的にまずありえない変形を目撃して、それに驚かない理由なんてなかった。阿呆の様にトリックだなんだと口にする事はないが、それでも何かのドッキリを疑いたくなる様な変化だった。それに気を取られていると、ホロウィンドウに絵や文字が描かれてゆく。
「ルシフェリオンの起動も久しぶりですね」
「我らの魔力はエグザミア頼りだからな、現在。ユーリの為にも無駄遣いはできん。それよりも我も手伝おう」
「あ、お願いします」
ホロウィンドウの下にホロボードを生み出して、二人がそれに入力しながら情報を操作していくのが解る。その具体的な内容に関しては全く分からず、少なくとも見た目は少女である二人が自分よりも遥かに頭が良いという事は理解できた。何せ、明らかに意味の解らない数式とか言語を音速で処理しているのだ。これで頭が悪いなんて死んでも言えない。
そう思いながら光景を眺めていると、目の前に新しいホロウィンドウが出現した。
適性とリンカーコア、と書かれている。
「待っている間に読んでいてください。今適性チェッカーを再構築しているので」
「使う機会がなかったから消去してたからなぁ」
「おー……了解」
目の前に浮かんでいるホロウィンドウにゆっくりと、手を伸ばしてみる。指先で触れるとホロウィンドウはそれに合わせて僅かに動き、そして更に掴んでみれば、何か、半分存在しないような物質を掴んでいるような、そんな不思議な感触が指に感じられた。夢でもなんでもないな……なんて、今更頭の片隅でこの状況を否定する材料を探しながらも、ホロウィンドウに書かれている文字を読む。
リンカーコア。全ての魔導士、つまりは魔法を使える存在が保有する魔法器官。物理的に肉体に存在しているのではなく、魔法的な物質で体内に備わっている。このリンカーコアの性能によって個人の使える魔力の量が決まり、それが魔導士としての才能に直結するものでもある。ある程度は成長する。大体成人を迎えると成長しなくなる。
魔法適性、どんな魔法を使えるかの適性。魔法はそれぞれが多くのカテゴリーを保有し、系統や型等で別れる。最も大きな分類はミッドチルダ式とベルカ式。更にそこから空戦と陸戦に分かれ、フォワード等の分野に分かれる。
「結構本格的な設定だな」
「だから設定って言わない。設定じゃなくて現実ですから」
「冗談だと思っているが、その適性が魔導士としての戦術や戦略を構築する為の指針になるから何一つ笑えぬぞ」
「Hmm……」
つまりここに書いてある適性をベースに自分が出来ることが解り、そしてそこから更にスタイルなどを決めて行くらしい。空戦で強いのはミッドチルダ・スタイル。射撃や砲撃、妨害などを使って徹底したミドルレンジとアウトレンジからの戦闘を使いこなすスタイルとなるらしい。相手を一切近づけず、接近した所を拘束魔法等で捕まえ、トドメの砲撃魔法でフィニッシュを決めるのがミッドチルダ式の花形でもあるらしい。
「我やシュテルが得意とするタイプであるな。どちらかと言えばこちら側に近いな」
「まぁ、私達はベルカとミックスしていますから純粋とは言えませんね。ちなみにレヴィはベルカ寄りのミッドですよ」
「アテにならねぇなこれ」
「基本的な部分ですから……」
そしてミッドチルダ式と大きくスタイルを二分するもう片割れが、ベルカ式、ベルカ・スタイル。ベルカは自己強化、瞬間強化などを重ねて一瞬で接近しながら相手を倒すスタイルが非常に優秀であり、一対一における戦闘ではミッドチルダ・スタイルの相手を空戦で一瞬で落とす事さえも出来る。
「ミッドチルダ式存在する意味あるのこれ?」
「ベルカが頭おかしいだけですから」
「それに合わせて要求量も高いからな。アレだ。ミッドは量産型、ベルカはエース型だ」
「はぁーん」
本当に、良くできた設定だった。まぁ、ホロウィンドウを弄っている時点で設定もクソもないが。魔法は間違いなく存在するだろう。それは今、嫌って言うほど実感している。
ともあれ、様々な魔法体系が存在するのをシュテルのリストに見せて貰っていると、新しいゲームの説明書を読んでいるような感覚を味わえるので、少々楽しくなってくるのは事実だった。結果がどうあれ、魔法が使えるのであればそれだけで十分に楽しめるものだろうとは思っている。なんにせよ、魔法を使うことが大前提の話だ。
とりあえずは、自分がどんな魔法を使えるのかどうかを調べなくてはならない。
「さて、こんなものですか?」
「うむ、穴はない様に思える。後はエルトリア式か? だがあれはぶっちゃけ異質すぎるし」
「考慮するだけ無駄ですね。まぁ、こんなもので良いでしょう。ノア、これから適性検査を施すのでじっとしててください」
「Ok……C’mon!」
中腰になりながら両手を叩いてかかってこい、とジェスチャーを取るとシュテルが此方を数秒ほど眺めてから手を振るう。それに合わせてデジタルな膜が此方を囲んだ。
「おぉぅ?」
「検査は数秒ほどで終わりますから」
そう言っている間に囲み終わってシリンダーの形に変わったデジタルスクリーンは頭のてっぺんから足元までをスキャニングする様に光を走らせ、次の瞬間には姿を喪失させて、一つのホロウィンドウを表示させる。そこには様々な魔法の名前が書かれている。その横で数値が変動している。恐らく、結果が出たら数値が固定されるのだろう。
「0で才能なしどころか使用するのは無理、100であれば空前絶後の才能とも表現できますね」
「100あるなら聖王クラスだな」
「ホーリー・キング。ディアーチェの親戚?」
「いや、我も王だけど違うから」
「キングスとキング……くくく……」
「あー! 言ってはいけない事を! 言ってはいけない事を貴様!!」
仲が良いなぁ、とじゃれ合う少女たちを横目に、検査終了と表示されるホロウィンドウを見た。同じように確認したシュテルがディアーチェの頬を掴まれたまま、笑う。
「まぁ、大体の適性は偏っているものですから、希望通りの魔法が得意じゃなくてもがっかりしないでくださいね。0じゃなければ努力さえすれば何とかなります―――」
適正が、表示される。
放出:0
強化:0
拘束:0
移動:0
転移:0
「か……ら……」
形成:0
回復:0
飛行:0
「え、えぇー……」
召喚:100
収束:0
探知:0
支援:0
解析:0
魔力量:B+
「……」
「……」
「……」
ホロウィンドウに浮かび上がった内容に全員が一瞬で黙った。内容をもう一度確認し、手に取って、浮かべてみて、掲げてみて、クローズアップして確認し、そしてそれを前に浮かべて首を捻る。そしてシュテルとディアーチェを無言で眺める。
「いや、ほら……B+も魔力があるなんてやるじゃないですか!」
「え、魔力量B+しかなかったの? 僕とかシュテるんとかAAあるし、王様に至ってはSSSあるけど」
新たに参入した声にリビングの入り口へと視線を向ければ、首にタオルをかけた風呂上がりのレヴィがほかほかした様子で入ってきた。そして三人分の視線を同時に受けて、一歩後ろへと下がる。
「え、なにこのお葬式みたいな雰囲気」
お前少し黙っていろというオーラを少女たちから受けてレヴィが一瞬で黙る。何かを察したレヴィがゆっくりと近づき、そして適性検査が書かれたホロウィンドウを確認する。そして確認したレヴィがゆっくりと両手で顔を覆う。
「ほんとごめん」
「ステイツに帰るわ」
振り返ろうとした所でシュテルが後ろからしがみつく。
「まぁ! まあ、まあ、まあ、ほら! 適性100ですよ! 凄い数字出ましたよ! 私でも100とか持ってませんよ! ほら、凄い数字ですよ!」
その言葉に足を止め、振り返りながらレヴィを見る。
「あ、いや。召喚魔法って魔法生物を呼び出す魔法だからそもそも契約出来る魔法生物が文明や世界諸共全滅している今だとぶっちゃけ置物……あと強化魔法で支援出来ない召喚士とか存在している価値が薄い」
レヴィの言葉を聞いた瞬間、頷きながら笑顔でチョップをホロウィンドウに叩き込んで粉砕し、そのままシュテルを腰にしがみつかせたまま、出口を目指して歩き出す。
「ステイツに帰るわ」
「待ってください! ほんと待ってください! 私が悪かったですから! ね! 適性に関係ない魔力の使い方とかありますから、待ってください!」
「アレ、完全にDV夫に捨てられそうな妻の図だな……」
「何を言ってるんですか王! 早く止めるのに協力してください!」
「録画録画……」
「レヴィ、何をやってるんですか。や、やめ、あ、ちょ! 行かないでください! お願いしますから!」
―――世の中、期待するときは程ほどに抑えておかないと失敗した時に、予想以上にダメージを受けるものだ。
それをこの日、心で良く理解する事が出来た。
何時だって都合の良い話には裏があるのだから。なんとなくこんなオチになる予感はしていても、実際に遭遇してみると落胆は酷かった。
そんな、海鳴での一日だった。
住所不定無職無能23歳児。