※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

33 / 42
Winding Up

 ヴァリアント・ユニットにより形成された姿はリボルバー、馴染みのあるデザインのそれだ。握っていて一番信頼し、そして安心できるデザインと言えばまずこれだろう。握った時、振り回す時、そして狙ったときに感覚が一番しっくりくる。アメリカで手に入る銃は普通のオートマチックが主要になってくるものの、自分の手に馴染むのは、記憶にある限りは握ったことのあるこいつだ。故に銃を握る、という感覚に違和感はない。

 

 ―――寧ろ。

 

「じゃ、行くわよ」

 

 イリスがフォーミュラで生成した小型ドローンターゲットを浮かばせる。早くはないが、不規則に浮かび上がったそれがゆっくりと左右に揺れながら、的を外す様に動いてくる。それをVAリボルバーを握った状態の腕をだらり、と下げた状態で眺め、

 

「ふぅ―――」

 

 軽く息を吐いた。自分の意識を神経に通す様に集中させる。そうすれば見えて来る。動きが。どうやって撃てばいいのか。体の動かし方が。最適な動作が。まるで自分のものではない様な、そんな業と技術が自分の中に浮かび上がってくる。その内、今一番必要とするものを選択し、自分に装填する。弾丸を撃ち出す銃の様に。それを認識さえすれば後は自然とそのあとの動作を実行するだけで終わる。

 

 腕を振り上げながらリボルバーを三連射。

 

 三つ放たれた弾丸が三機の小型ドローンを打ち抜きながら破壊した。破壊されたドローンはその躯体に穴を開けながらグランツ研究所の実験室フロアに落下し、ショートしながら破壊された姿を晒している。その姿をしばらく、無言で眺めつづけているとイリスの方から声が来た。

 

「凄いわね……正確さと反射速度はスーパーエルトリア人並みね、貴方。まさかあんなゴリラ姉妹と同等の……あぁ、いや、地球にはまだそのポテンシャルの持ち主が居たわね」

 

『全方面的に失礼ですよ、イリス』

 

『そうだよ。なのはと比べたらボクたちの方がまだ人類してるよ』

 

 実験室の外で見守っている連中がヤジを入れて来る。高町なのは、精神力がどことなく捻じれ狂っている、というのが自分の素直な印象だったが。そんなに人間を辞めている子だったのか、アレ。まぁ、隻眼の癖に出撃しようとしていたし。あの小ささでぶっ飛ぶような力を見せていたのだからまぁ、やっぱり人類じゃないのかもしれない。

 

 そんな事を考えると緊張の糸が切れてしまった。再びだらりと手を下げながらVAリボルバーをコアの状態へと戻す。

 

「とりあえず……こんなもんでいいのか?」

 

「えぇ、これで欲しいバイタルデータは取れたわ」

 

 イリスはそう言いながらドローンを解体して元の物質へと戻しながら、ホロウィンドウを複数浮かべてこれまでに行って検査の結果を表示させる―――といっても使用言語はエルトリアの言語がベースとなっており、何が書いてあるのかは自分の目で見てもまるで解らない。だが実験室に居るイリスはちゃんと理解しているようで、それに目を通している。

 

 ここ数日、フィジカルなデータを取るために色々とテストに協力している。

 

 後アルバイトを始めた。グランツ研究所にある資金も無限ではないし、働く必要がある。その為、恥を忍んで士郎さんにはアルバイトとして雇って貰っている。そして空いた時間は次の戦いに備えて体を鍛えようとして―――その前に、こういう形でデータを取る事になった。この射撃以外にも色々とやらされてきた。そしてその結果が今、イリスに集まっている。存在そのものがフォーミュラを集めたような存在であるイリスは、生体型のマシンだと表現できる。その為、この程度の情報処理であれば余裕らしい。

 

『イリス、こっちにもデータ転送を頼むよ』

 

「もう送った」

 

『ありがとう……ふむふむ……ほほう』

 

 研究室の方に居るフィルからの声がホロウィンドウを通して聞こえて来る。空間に投射されるディスプレイを掴んで動かせる光景は、未だに最先端テクノロジーをぶっちぎっていて違和感を覚える。とはいえ、これが魔法のある世界では普通の技術でもあるらしい。特に今はシュテルとレヴィという魔法側の存在と、エルトリア勢の超科学文明サイドの連中が揃っている。

 

 魔法と科学技術のすり合わせが行われており、フィルは日夜楽しそうに笑っている姿が目撃出来る。なんでも、ずっとやりたかった事の一つらしい。

 

 ともあれ、そういう事でスペック診断が入る。どれだけ何が出来るのか、何が得意なのか。そういうことを判断する為のテストの数々をこうやって射撃をして終わらせた所で、イリスからの評価が出て来る。

 

「リンカーコアは―――あるわ」

 

「あるのか。だけど俺は魔力を持たないみたいなんだが」

 

「そうね。リンカーコアがあるけど、その魔力の蓄積可能量が0なのよ」

 

「つまり器はあるけど、底がないから何も溜まらない、って事か」

 

「正解」

 

「だから貴方が魔法を自分の力で使えるようになる事はありえないわ、絶対に」

 

「……そうか」

 

 やはり、アレは夢の中の奇跡という奴か、都合の良い夢というか、そういう類のものだったのだろう。魔法、使えるようになったのは物凄い楽しかったのになぁ、とは思わなくもない。だがなくなった今としては物凄い清々している。少なくともそう思わなきゃやってられない。

 

「その代わりに貴方の体、物凄い優秀よ」

 

 その言葉と共に色々と表示されるが、学が薄いのでそれが良く理解できない為、浮かべられた所で腕を組みながら首を傾げる。

 

『あぁ、つまり肉体としてのポテンシャルは非常に高い、って話だよ。理想的な肉質と骨格をしているというか……そうだね、自然に構築できる肉体としてはかなりハイレベルな出来上がり方をしているよ。所々骨や筋肉にフォーミュラによる強化改造の痕跡があるけど、それも形を変える物じゃなくて密度を増して素の身体能力を引き上げる為のものだ。つまり君は元々から優秀な素質の持ち主だった、という事だよ』

 

「ふーん……」

 

 そうは言われてもなぁ、と思う。

 

「だけど俺のパラメータなんてもん、設定されているもんかもしれないぞ?」

 

『いや、私としてはそれは違うかな、と思っている部分はある』

 

 フィルが俺の存在そのものが設定されている、という事実に対して真っ向から反対する。

 

『そもそもだ、君の肉体に対して魔力、才能、そしてフォーミュラという形で後付けの強化を行おうとした痕跡があるのは認めるよね?』

 

「あぁ」

 

 それは認める。この海鳴に来てから発覚したものだ、全部。この世界が5秒前に作成された様な世界観ではない限り、少なくともそうだった筈だ。そしてフィルはそれが何よりの証拠だ、と声を上げる。

 

『良いかい、君に発見された改造と強化の形跡、或いは後押しは全(・)て(・)こ(・)の(・)海(・)鳴(・)に(・)や(・)っ(・)て(・)来(・)て(・)か(・)ら(・)のものなんだ。つまり私が睨んでいる辺り、我々を巻き込んだ犯人という物が及ぶ力の範囲はこの海鳴を舞台にしている範囲だけであり、その外側に関しては力が通らないんじゃないか? って思っているんだ。だからこそ君が海鳴にやって来てから後付けする様に力を与えたんだ』

 

「つまり元々の部分に関してはノータッチ、って事ね」

 

 イリスがフィルの仮説に成程、と頷く。そして自分も腕を組みながらわかりやすい説明に頷いた。元々存在していた部分に関してはノータッチ……そう言われると確かにそうとも思える部分がある。とはいえ、それを断定できる証拠がある訳でもない。楽観視する事は出来ない。だがそれでも、自分の体がそうであるのは、元々そういうだったという事はイリスが保証する。

 

「ま、変に卑屈になるよりも素直に両親に感謝しなさいよ。私の親はクズでカスでクソの塵芥だけど、貴方の両親はそうじゃないんでしょ? だったら変にひがむよりもそっちに感謝しておいた方が100倍有益よ」

 

『イリス、イリス。そろそろパパの心は痛いんだ。偶には一緒にお風呂なんて―――』

 

 遠くで発砲音が聞こえて来る。イリスの直ぐ足元ではフォーミュラサークルが展開されており、何かを遠隔起動させているのが解る。またフィルが射殺されて―――どうせアクセラレイターで避けているか、と考えてフィルの心配をするのを止める。ここ数日の付き合いであの科学者がどういうポジションに納まっているかは学習したつもりだった。

 

「それよりもその銃捌きよ。やるじゃない」

 

「これは……」

 

 握っているコアを持ち上げて軽く眺めながら、それをVAリボルバーへと変形させる。再び構えるように握り直しながら持ち上げ、軽く回転させてから握り直す。やはり手に馴染む。だがそれ以上の滑りの良さを感じていた。

 

「海鳴の来る前は銃を扱う時もあったのよね?」

 

「まぁ、そこそこ。俺も悪さしてたからな。だけど、地球でここまでスムーズに銃を使える人間なんて、軍人か相当銃を使い込んでいる趣味人でもなきゃ無理だろ」

 

 その言葉に、イリスが此方の言わんとしている事を理解する。

 

「じゃあ、それも《干渉》だって言いたいの?」

 

「……どうだろうな」

 

 腕を持ち上げ、銃を真っ直ぐ構える。その動きを支(・)え(・)導(・)く(・)様(・)に(・)手(・)を(・)合(・)わ(・)せ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)感(・)触(・)が(・)あ(・)る(・)のだ。自分の力ではない自覚。誰か別人の力を使っているという感触があるのだ。いや、使っているというか、借りている? そう、誰かの力を借りているという感触だ。こうやって武器を握って体を動かして、初めて自覚できる。空っぽな自分の中にぼんやりと満たされている別人の力があるのを。前は魔力があったそこは空っぽで、魔法の感覚も空っぽになっている。だがそれと入れ替わるようにそこには、別の感触があったのだ。

 

 だから銃の使い方が解る。滑るように、導かれるように、撫でるように、呼吸する様に体が動く。一番最初に、体の使い方を教えてくれるように、自然と動きを導いてくれる。そんな気がする。

 

 今も銃を構えれば、そのわずかな動きを支えるように手を合わせている感覚がする。

 

 この、どことなく感じた事のある息遣いは、

 

「……ジークリンデ?」

 

 名前を口にして見るとどことなく納得できる。妙に体が良く動くのはこいつの仕業だ、と。それをイリスが妙なものを見る様な視線を向けて来る。

 

「ジークリンデ……ってのはアレよね。彼方側の海鳴で貴方を殺したの」

 

「あぁ。繋がった状態で首を絞め折られて昇天。笑えるだろ?」

 

「完全にハニートラップにかかった……って普通なら見ても良いんだけど。殺されただけじゃなくてこっちに送り返された上で向こうで待ち伏せされていて、それに妙な補正を切らすのに貢献しているんでしょ? 功績だけを上げれば完全に此方側の味方に見えるわよね」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 結果を、結果だけを見れば。

 

 だが不明瞭な部分が多いし、明らかに知っていて隠している部分もある。茶化しながらもその割には献身的に尽くしていた事実がある。だがそのまま消えてしまった事もアリ、彼女の真意が一体何だったのかは解らない。

 

 ただなんとなく、繋がりだけは残っている。不思議と自分の存在や存在意義は疑えても、この繋がりだけは本物の様に思えるものがあった。

 

「ま、海鳴では現在確認の出来ない相手らしいし、今はどうでもいいわね。それよりも思ったよりも早い段階で彼方側へ送り出せそうなことが解ったわね」

 

 イリスの言葉に腕を組みながら目を閉じて思い出す。

 

 八神堂を確認した時を。

 

 一人しか入れない八神堂の奥で確認したものを思い出し、苦い表情を作っているのが解る。あの先へと進むのであれば、まず間違いなくそれなりの力が必要だ。だが現状、このエルトリアチームの中で一番弱いのが自分である自覚はある。その為、こうやって体を動かす前の適性などを調べている。

 

 とはいえ、解り切った事だが自分の体を使う事以外に選択肢はないのだが。

 

「まあ、何にせよやらなきゃいけないことが解りやすいのは良いわ。アミタとキリエからフォーミュラでの戦い方を、私からフォーミュラその物を学べいいでしょ」

 

『何とか外部から魔力をストックさせる方法はないものか……そうすれば魔力式アクセラレイターを私の前で……!』

 

「野望はもう少し声を押さえて口にしてろ塵芥」

 

 止めるのが無駄だと解っているだけに、もはやフィルを止めようともしないイリスの姿に少しだけ笑い声を零しながらふぅ、と息を吐いた。

 

 ―――騒がしい、

 

 実に、騒がしい。

 

 夢の様な非日常が始まりそうだった。




 えれみあん・くらっつ を おぼえたぞ!

 次の悪夢はAs軸予定だという事だけは先に言っておこう。さて、悪夢化したAsとはいったいどんな風な物かな……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。