―――言葉よりも早く弾丸が飛来する。
「っ―――!」
体を横へと全力で投げながら右手を突き出すように構える。その間も体は横に動き、そして倒れて行く。それを何とか筋力で逆らいながら倒れないようにコントロールしつつ、VAリボルバーに乗せて引き金を引く。銃声と共に銃口からフォーミュラが形成させたエネルギーの弾丸が放たれる。流す様に横へと銃身を引きながら放った弾丸にはその慣性が乗る。故に正面から弾丸は衝突せずに、僅かにズレながら衝突し、削り合いながら角度を乗せて弾く。
それは導くままに当たり、そして逸れる。神技とも言える技能はしかし、行うだけであればそこまで難しくないのは、既に実証されていた。本当の問題はこれを行えるかどうかではなく、常に脳味噌を圧迫するように襲いかかってくる現状だった。
なぜなら今、正面には十数という弾丸が一気に飛翔してきているのが見えるからだ。
「一発対処した程度じゃ駄目ですよー」
正面、ガトリングガンへと変形されているヴァリアント・ユニットをアミタが構え、攻撃を行っている。その砲身から大量に吐き出される弾丸を前に対応を迫られている。どことなく楽しそうな姿にイラつき、叫び返す。
「解ってるんだよ!」
ここで防御してはならない。ここで防御すると上から抑え込まれて、そのまま叩き潰されるだけだ。防御という行動は本当に何もできなくなったときに最後に取る行動だ。なぜなら防御は絶対にリソースの減少を発生させる行いでもあるからだ。故にクレバーなのが受け流す事であり、ベストが回避する事。それらの状況を取得し、即座に判断する必要がある。
故に出来る事に対応するように動く。
武器をVAリボルバーからVAショットガンへと切り替える。そのままノータイムで射撃し、散弾で正面に放つ。それで瞬間的に空間に穴を開けて回避できる道を作る。
「残念、不正解です」
「は―――」
だがどれだ。
その選択に思考を割いた瞬間、ガトリングの砲身が目前で停止した。
「はい、詰みです」
「……あぁ」
武器を降ろしながらゆっくりと息を吐いて、体から力を抜く。アミタも同じようにガトリングを降ろすとそれをコアへと姿を戻す。同じようにコアの状態へと待機させながら首の裏を軽く掻く。
改めて始めた戦闘訓練、その成果は―――あんまり、芳しくなかった。
「今、何で対応するかで迷いましたね?」
「解ってる、解ってるんだ……あー、糞!」
軽く吐き捨てながらアミタに背を向けるように逃げた。ジークリンデの武芸が使えるようになったからと言って、強くなったという訳ではなかった。逆にアミタからすればカモの様な物だったらしく、戦闘訓練を初めて以来、惨敗が続いていた。ぼろ負けも良い所で格好良い所なんて何一つありもしない。煙草の一つでも欲しくなる体験続きになっていた。
「思うように動けねぇ」
自分が悪いんだと解りつつ悪態を吐き、片手で髪を掻き毟った。
自分の過去を疑い始めてから、何というか―――判断が付きづらくなってきた。
一種のスランプとも呼べる。
今まで自分がやって来た事、経験したことが信用できないから、活用出来ない。即ち経験的なリセット状態だとも言える。その為自分が咄嗟では動けず、反応が遅れる。無論、今の交差を見ればそれが致命的な隙になるのは見えている。故にこのエルトリア組で現状一番強いアミタがスパーリング相手で此方のフォーミュラを使用した戦闘経験を積むのを手伝ってくれている。
こうやって何をした、どうやって動いた、どうやって防いだ、何を使った。それを経験し体に覚えさせることで戦う時、咄嗟に反応を取れたり、判断で迷う事がなくなる。プロのスポーツ選手が何度も何度も試合を繰り返して試合中の動きを試すのと同じだ。型や技を練習して完璧にマスターした所では意味はないのだ。それを正しく運用する経験を積み上げる事で初めて意味が出て来る。
そう言う意味ではあのエレミアという一族はクレイジーの極みを超えていたのかもしれない。最強の個人を生み出す為にひたすら子供へと全経験を継承するというのはあり得ない考えだ。
一番最初にこれを思いついた奴はマリファナキメるついでにコカインも一緒にキメてたんじゃないか? と今更ジークリンデの話を思い出しながら思う。
「ふぅー……あちぃ」
神経を常に尖らせながらアミタの攻撃を迎撃し、そして次善策を頭から捻り出し続ける。経験を積むためではあるものの、常に全力疾走しているようなものだから、気づけば凄い量の汗を掻いていた。軽く頭を振れば玉のような汗が地面に向かって落ちる。海鳴臨海公園は今、魔法による人除けが張られており、人が近づかない場所として利用出来ていた。その上である程度フォーミュラにも非殺傷レベルまで出力を下げて訓練の為に運用中だった。
「そうですねー……もう4時間続けていますしそろそろ一度休憩を入れましょうか」
「あぁ、じゃあ汗を流すわ」
息を吐きながら上に来ていたシャツを脱ぎ、公園の噴水まで近づく。そこで勢いよく頭を噴水の中に沈め、体を一気に持ち上げる。頭からかぶった水を一気に撒き上げて体へと落とし、それが全身を濡らしながら戦闘訓練で火照った体を冷やしてくれる。それで雑に汗も洗い流し、軽くリフレッシュする。
「ふぅー……」
魔法を使って人払いをしているから見られたり、迷惑だったりする心配はしなくてもいい。ここは無断で貸し切りにしているような状態だ。そもそも、そういう配慮をした所で意味があるのかどうか、という部分もあるのだが。ここで盛大に暴れた所で国が動くのだろうか? そこまで設定は出来ているのか?
考えた所で無駄だろうが、それでも考えたくはなる。
「ふぅ……」
噴水の縁に腰掛けながら軽く頭を揺らして水滴を飛ばす。日差しは暖かく、そして風が吹いている。しばらくすればこれも直ぐに乾くだろう。故にこのまま乾くまで座って休憩しようかと思った所で、
「はい、これをどうぞ」
「おう、悪い」
訓練を見守っていたシュテルがタオルとスポーツドリンクを差し出してくる。それを受け取りながら軽く顔を拭き、キャップの外れたそれを喉の中へと流し込んでゆく。かなり体を動かしていた事もあり疲れているが、この疲労はどことなく心地よく感じられた。
全力で体を動かして得られる疲労―――ここまで真っ当なものは、ひさしぶりに感じるものかもしれない。渇いた喉を潤して一気に飲み終わったペットボトルを横に置く。終わった所で正面に、笑顔でシュテルが待っている。
「さあ、惚れても良いんですよ」
「台無しだよ」
シュテルの背後に立っていたアミタが申し訳なさそうな表情をしている。自分もシュテルを無視し、軽くタオルで顔を拭き直し、髪を軽く拭いてからそれを肩にかける。手櫛でササっと自分の髪の毛を整えて、コアユニットの表面を指で軽くなぞって弄る。
「アレ、ここは私に熱いキスが来るところでは。そしてそのまま押し倒されてビーストモード……!」
「ノアさんはやはり、使う武器の種類をもっと制限して、その上でそれぞれの習熟を上げていくのが一番だと思いますよ」
「おーい」
「何を使うかでちょいちょい悩んでる部分もあるからな」
「おーい」
煩いぞ雌猫、と言わんばかりにひよこキックが飛んだ。顔面を横から蹴り飛ばされたシュテルが転がり、その反動で宙返りを取るひよこが此方の頭の上へと着地して来る。割とよく見る光景なので普通に無視するとして、
「武器……武器かぁ」
「ないんですか? ノアさんは使い慣れた武器の方は」
「あのな、地球って世紀末じゃないんだ。寧ろ銃さえ握ったことのない人間の方がはるかに多いんだぞ?」
「そうなんですか? その割にはなのはさん、戦い慣れている部分があったので……」
あのクレイジーサイコ戦闘幼女、絶対に親に隠して暴れているだろうとは思っている。此方の海鳴では起きてないからまだいいのだろうが、彼方の海鳴のなのははきっと教えていないのだろう。じゃなきゃあんな風に体を使うことが出来る訳がないだろう。まぁ、それはともかく、
「俺が触ったことのあるもんなんて鉄パイプとハンドガンとリボルバーぐらいだよ。後はチェーンソーか」
爆薬とかならそれとなく結構弄った覚えはある。爆弾の一つや二つ、今でもまだ作れる気がする。だが武器、と言われると困る。
「ノアはこっちに来る前、悪さをしていたと言ってますが……具体的には?」
「ストリートギャング」
「あー」
その答えにアミタとシュテルが声を合わせて納得の声を漏らした。まぁ、本当に存在するのかどうか怪しい過去なのだが。それでも自分に設定されている限りは、ストリートギャングでそこそこ悪さしていた。アメリカでは割と楽に銃が手に入るし。一度手に入れてしまえば後は悪さし放題だ……警察に捕まらなければ。まぁ、そういう訳で割りと銃を撃つ事自体の経験はあるが、
現代の地球で、そんな武器を持って殴り合いの殺しに発展する様な自体は稀だ。殺し合っても撃ち合いになるだろう。
「うーん、そうですか。ですが武装はなるべく馴染むもの、或いは習熟させると決めたものが良いんですよね。私も武装種類に関しては結構絞っていますし。それに数が少ないって事はそれだけ選択と悩みの余地を削るって事でもありますから。絞れば絞るほど良いです。ですがフォーミュラの強みは多様性。それを完全にも削らない為には」
「何種類かを使い分ける、か」
そう言われても使い慣れた武器なんて思いつかないのだから、困ったもんだ。
「そこまで悩む必要はありませんよノア。大体の武器でしたら補助プログラムを通して最初は基本的な使い方を学べますし。後は使い続ければ勝手に体が覚えます。最初は軽い気持ちで使えばいいですよ。武器の相性なんてもの、飛べばほぼないですし。趣味で選べばいいんです、趣味で」
「身も蓋もねぇ……」
だけどそう言われると……そうだなぁ、と声を零す。一番手に馴染むのはリボルバーだ。だからこいつはそのままにしておきたい。その他と言えば、
「あんまりちまちましたのを振り回すのは好きじゃないな。デカいのをガツンと叩きつけたいな」
「ほうほう」
「後は一気にズドン、と叩き込むのも豪快で気持ちよさそうだよな」
「成程」
「私達で手伝えそうな範囲で何とかなりそうな武器モデルを探してみますか」
「ぴよぴよー?」
「ネット使って検索すればいいのか。賢いなお前」
「相変わらずなんで会話出来てるんでしょうかこの主従」
「さ、さあ……?」
フォーミュラからインターネットへと接続し、それをホロウィンドウとして表示させながら、歴史上存在する武具の数々、そのデータを出現させる。流石先端科学というか、未知のテクノロジー。ネットで出現する武具のデータをそのまま3D投射する事でモデルを出現させる事さえ可能としている。時代はやはりVR、という事なのだろうか。いや、ここに時代もクソもないのだが。
「一応、剣、斧、槍だったら博士のテストに付き合う為に全部習熟しているので、問題なく教えられますよ」
「本当に万能だなこいつ……」
強くて優しく、何でも出来て心も強い。ここまで来てほぼ完璧超人と言いたくなるようなアミタ、果たして彼女に欠点はあるのだろうか? そんな弱点を探る様な風に思考を巡らせる中で、ちょっとだけ気になる武器を見かけた。それは二つの長剣の柄と柄を繋げて作る武器、ダブルセイバーと呼ばれる武器だった。かなりマイナーというか一般的ではなく、長さからすると槍の様にも扱える。ただ形状を見れば解るように、かなり扱い辛く、そして危ない武器でもある。何せ、振り回しているだけで自分をまきこみかねない武器だからだ。
だが、何となく気に入るものを見た瞬間に感じた。
「何か、気に入ったものでもありましたか?」
横から覗き込んでくるシュテルを迎撃する様にひよこが蹴っている。雌臭いと言っているのが解る。お前、最近縄張り主張激しいよなぁ、と軽く笑い声を零しながらネットで見た形状を確認しつつ、ヴァリアント・ユニットを軽く握り込んだ。
「こう、か」
そのまま周りの物質を分解して取り込み、それをパーツに変形させる。直径1.5メートルの剣を二本接続してくっ付けた、細長い槍の様なダブルセイバーを作る。持てる部分が中央にしか存在せず、両側に存在する鍔の部分から先は長い刃が伸びている。合わせて全長3メートル程の長さとなっている。手に感じる重さは―――まだ、軽く感じる。もっと重い方が好ましい。反射的に、そう感じてしまった。
「……気に入ったんですか?」
「……おう」
「男の子は好きですね。浪漫とか。実用性が薄いの」
「おう……否定は出来ない」
そういう言葉にはなんだかんだで憧れがあるというのも事実だ。とはいえ、この武器は―――というより形状は、どことなく親近感があった。
間違いなく今までの生活で自分が見たような覚えはないのだが……ただ、まぁ、なんとなくだ。なんとなく、気になっただけだ。だからまぁ、これでいいんじゃないか? とは思わなくもない。
「となると後は遠距離武装ですね! 重くて大きいと言えばやっぱりランチャーですよ、ランチャー」
「となるとやはり時代を先取りしてCWSストライクカノンやレイジングハート・ストリーマのデザインや機構を参考にしたモデルとかどうでしょうか?」
「あぁ、良いですね。私もルシフェリオン・エストレアとかやってみたいですし」
「近接用砲撃形態……確かに魅力的に感じます」
蛮族系女子の会話だった。モデル、機構、システムの話をされ始めるとまるで意味が解らないので、武器をコアへと戻して膝に肘を乗せるように頬杖を突き、軽く息を吐いた。
夢界から帰還して1カ月。
まだ、海鳴には何の変化もなかった。ただ、日常ばかりが過ぎて行く。
武装1、リボルバー。武装2、ダブルセイバー。武装3、ランチャー。武装は後1個で確定かなぁ、って所。ここしばらくノータッチというか、余り触れていないタイプの武器や防具を使おうかなぁと考えていたり。
しばらくは海鳴で平和な時間。