「ノアー!」
「はいはい、なんだ」
「セックスしよう」
「……」
無言のまま部屋に入って来て宣言するレヴィの顔面をアイアンクローで掴みながら部屋の外へと投げ捨てる。数秒後、廊下を転がったレヴィが全力のスプリントで戻って来て、部屋の中へと飛び込んでくる。それを瞬間的に引き出したエレミアの武技で受け止め、受け流しながらずらし、そのまま部屋の窓の外へと投げ捨て、窓を閉める。だがそれに諦める事無くレヴィが雷を纏いながら凄まじい速度で姿を消し、気が付く瞬間には再び部屋の中へと戻ってきている。
「ノアー! ヤらせろー! 大人しく襲われろー!」
「うるせぇ! 帰れ! こっちくんな! おい、誰か! いねぇのか!」
「ふははははー!」
「来るな……来るんじゃねぇ!! こっちに来るなレヴィぃぃ―――!!」
襲い掛かってくるレヴィを回避、迎撃を続け、救援にやってくるキリエに取り押さえられるまでひたすら襲い掛かってくるレヴィの姿はもう、半ば日常的なもので、キリエもキリエで本当にもう、こいつどうしようもないな、みたいな表情を最近では浮かべるようになってしまった。なお、この時シュテルも居ると攻撃にシュテルも混じってくる。偶にそれを後ろからイリスが支援したり応援したりして状況をまぜっかえす事もあり、グランツ研究所での日々は割と混沌としている。
「ってのがウチでの日常なんだ」
「それを僕に言ってどうしろってんだ。羨まし……くはないな、なんか……」
「まぁ、確かにうらやましいかどうかで言えば割と微妙な所だよなこれ……」
チェーン展開している喫茶店に男が三人集まっている。一人目は無論自分で、二人目は高町恭也。そして三人目はこの海鳴のクロノ・ハラオウン。海鳴で噂のイケメン大学生三人衆である。無論、俺一人だけ大学に通っていないどころか高校すら出ていない。だが世の中、大半の問題は見た目の良さで解決できる。だからこうやってイケメンが三人揃うと大体サービスでオマケしてもらえたりするから、お得だ。
海鳴に戻って来てもう一カ月半が経過している。こうなるとここでの生活も大分落ち着きを取り戻し、日常生活にもルーティーンと呼べるものが出て来る。P&Tのクロノ、翠屋の恭也、そしてグランツ研究所の自分はまぁ、それなりに付き合いのある場所という事もあり、同年代という事もあってしばし顔を合わせる様な事もある。だがこうやって一緒に外に出て遊ぶのは割と珍しい事だったりする。自分も、特に誘って遊んだりするつもりもなかったのだが、
『あんた、ちょっと頭空っぽにして遊んできなさい。勉強とか特訓は全部私が断わっておくから』
そう言ってイリスに研究所から追い出されてしまったのだ。
……精神的に無理が来てるの、イリスにバレてたのかもなぁ。
察しがついていたのかもしれない。イリスは此方のバイタルをモニターしているらしいし。そう考えると自分も割と最近は鬱に入っている部分もあるし、軽い息抜きが必要だったのも事実だ。そんな気分ではないとはいえ、どっかで吐き出せる分は吐き出しておかないと倒れてしまいそうな気分だった。そこでこの二人を見つけたのだから、
丁度良いタイミングだった。暇をしている、というのも。
そうやって野郎が三人、集まった。
「というかお前ら、彼女持ちだしそこらへん遠慮なくファックしてるんだから別に羨ましいもクソもないだろ」
「そりゃそうだけど、それはそれとして美女に囲まれた生活は興味あるだろ」
「お前はお前でいい加減にしろよって言いたくなるけどね」
「えっ」
恭也は恭也で、割と周辺に美女の姿が定期的に目撃されるらしい。まぁ、見た目も性格も良いし、運動も出来るのならモテない理由はないよなぁ、とは思わなくもない。
「というかノアはアレ、下世話な話をするなら食えるだろ、それ。それとも年下はダメとかそういうのか? まぁ、でもそうか。年齢はなのはと同じ位だと考えると抵抗感もあるか……」
「いや、年齢はそこまで……」
「マジか」
「うーん……セーフ……?」
クロノが腕を組みながらセーフかアウトかを唸っている。管理局に存在しなければこういう陽気さを見せる事もあるのか、とちょっとだけ自分の知っている正義の執行者とは違う姿に新しさを見る。それはともあれ、
「いや、お前ら普段から寝込みを襲われて体の柔らかさとか感じて理性がやべぇのなんのって解るだろ気持ち」
「まぁ、解る」
「解る」
どちらも彼女持ちだし、そこら辺のセックスアピール周りに関しては良く解るだろう。だがここは良く考えてみろ。
「今、複数人と共同生活の最中だぞ? これ、一人に手を出せば確実にバレるだろ? しかもほとんど女子メインのコミュニティだぞ―――肩身が狭いってレベルじゃねぇぞ……!」
「あー」
「僕もエイミィとやるときは別の所へと連れ出す必要あるからなぁ。やっぱり家でってのは辛いよね、実家住みだと」
「俺は忍の家で割とやるけど……」
「お前ほんとさぁ」
「僕らキレるよ」
「え、なんで」
クロノと半ギレの様子で恭也を責める。そう言えばこいつの女、金があるじゃねぇかとついでに思い出して更に怒りそうになる。片手で頭を押さえながら解るか? と言葉を恭也へと向ける。
「俺なんて少しは抜いてすっきりしたいのに、近くに居るのは女ばかり、部屋で抜いたら鼻が良いのが居るから直ぐにバレるし、風呂場でやろうものなら確実にバレる! しかも中学生に高校生の集団だぞお前……」
しかもイリスにバイタル見張られているから絶対にバレる。フィルは絶対に面白がって口を出さずに観察とかしているに違いない。というかアイツ性欲どうやって処理しているんだろ。たぶんインポかなんかだろアイツ。
「手を出してバレた時が怖すぎる……」
「それさえなきゃ手を出す事自体に躊躇しないって辺りお前凄いよな」
「多分僕達3人の中で一番ヤバいの君だよ」
「うるせぇわ。ファックでもしなきゃ気でも紛れねぇわ」
酒はまだちびちび飲んでいるけど、こっちに来てから煙草は禁止しているし、ジークリンデ以来セックスも出来ていない。まぁ、酒を飲めればそこそこ嫌な事を忘れられるから良いんだが。それでもそろそろストレスの限界で死にたくなってくる。ここ最近、思考が悪い方向へと流れ続けるのもきっと、息抜きが出来ていないからだ。ただグランツ研究所でおっぱじめようものなら、ほぼ確実にしこりが残る。というかアミタとキリエには特に世話になっているのに、裏切る様な真似は流石に自分の様な屑でも出来ないに決まっている。
「なんか、こう、遠慮なくヤれる人知らない……?」
「お前、今人類で史上最低の言葉を口走っている自覚あるのか?」
「いや、別の場所を用意してレヴィちゃん誘えばいいだろ。ロリコン認定するけど」
「だがおっぱいは大きいぞ」
「じゃあ撤回する」
「酒は入ってない筈なんだけどなぁ、俺ら……」
ちびちび珈琲を飲みつつ適当に頼んだサンドイッチを摘まみ、それで食欲を満たしながら男にしか出来ない様な馬鹿話をする。
……あぁ、そういえば。こういう会話、長い間してなかったな。
一切遠慮のない男の馬鹿話。こっちに来てから女、女、女。しかもチンコを刺激してくるような見た目の良い女ばかりだ。それだけじゃなく鬱憤は溜まる一方。何もかも信じられない事ばかりだが、こうやって吐き出してみると少しはすっきりして来る。
「いや、仮にも恩のある相手だぞ。簡単に手は出せないぞ。置いてもらってるんだからな、俺は。だから、こう……やれる相手の紹介とかをだな……」
「お前来る前に酒をキメて来てるだろ」
「寧ろヤバイ薬に手を出してないか」
「失敬な。手を出してたのは数年前までの話だ」
やっぱりかー、みたいな顔をされても困る。いや、そもそも違うだろ。
「お前ら、良い顔をしているけど美女のお相手はしたいだろ!」
「そこは素直に……まあ」
「でも彼女で満足しているし、好きだし、それ以上を求めるのは人間としてダメじゃないか?」
その言葉に敗北感を感じて頭をテーブルに落とす。そのままはぁ、と溜息を吐いて目を閉じる。そう……そうだ、この二人は彼女が居るのだ。その気になればラブホテルにでも向かってやればいいんだ。楽な身分どもめ。こっちはあれだぞ、イリスに見張られているんだぞ。というかジークリンデとのクビシメックスの後にちゃんと普通に勃起するか心配になってきた。普通のセックスでもちゃんと勃起するよな? 公開プレイじゃないと勃起しないなんて事はないよな?
でも常にイリスにバイタル管理されている事考えたら大体常に羞恥プレイ。
じゃあ問題ねぇか。
いや、問題しかねぇわ。
「おーい……そもそもお前、彼女の類とかいないのか?」
恭也の声に、居たよと答える。
「過去形。絶対にフラれただろこいつ」
「この本性の悪さがバレたんだろ」
「お前らほんと遠慮なくぼろくそ言うな。いや、俺からフったわ」
頭を持ち上げ、椅子に寄り掛かりながらそう言ってのけると、
「あぁ、やっぱりフラれたんだ」
「俺からフったって言ってんだろ」
「正気かこいつ……」
正気だよ! と答える。
「ただ、まぁ、家財一式と家を売っぱらって、何も言わずに日本に来ただけだ」
「ただの夜逃げだろそれ!!」
「関係解消出来てないじゃないか君!!」
恭也とクロノの発言に大丈夫、大丈夫と言葉を置きながら顎に指をあてる。
「いや、足の付きそうなものは全部処分したし大丈夫だろ」
「明らかに大丈夫じゃないだろ。おい、お前正気でそれを言ってるのか……?」
「え、いや、本当に……? うっわぁ……本当にやったのか君……」
「なんでドン引きしてるんだお前ら。蒸発された事ぐらいあるだろ」
「ないよ!!」
久方ぶりに、一切頭を使わない会話をしている。こういう会話をしていると酷く落ち着く。少なくとも、多少は精神的にマシになる。頭を何に使わないにしても、こういう脳味噌を完全に殺す様な会話をしている方がはるかにマシだ。まぁ、それはそれとして偶に致命的な事を口走ってしまう様なときもあるかもしれないが。
「逆にこいつと付き合える女ってどういう奴なのか気になってきた……」
「それは……うん、きになるな」
「えー」
「何がえー、だ。吐けよ」
これ以上は素面では辛いなぁ、という表情を浮かべながら視線をチラリ、と外へと向ける。それを受けて恭也とクロノが視線を合わせ頷く。こちらも視線を二人へと向け、どうよ、と軽くジェスチャーを取りながら了承を取ってみる。サムズアップが返ってきた。そうかそうか。良いか。
一斉に席を立つ。
「じゃあ割り勘で」
「まぁ、あんまり食ってないからここは良いだろ」
「次は酒入るからどこにする?」
「カラオケのフリータイム利用するのが良いんじゃない? 邪魔入らないし。その代わりにやや割高だけど」
「まあ、それでいいか」
「昼間から飲むのも偶には良いよね」
「そうだな。休日だしこれぐらい許されるだろう」
「僕は昼間から飲むのは初めてなんだよなぁ……不安しかない」
大丈夫、夜になる頃には前後不覚になって迎えを寄越してもらう必要があるからちょっと社会的地位を家庭内で失うだけだから。昼間から酒を飲むのも悪くはないぞ。そんな話でクロノを脅迫しつつ支払いを済ませて外に出る。
そのまま、この頭の悪い会話を続けるために男3人、今度はフリータイムのカラオケへと向かう。
結論から言えば、大失敗した。
普段からはブレーキのかかっている二人組のペースを完全破壊し、泥酔した状態で暴露話で盛り上がり、最終的にそれぞれ家の人間を迎えに呼んでもらう必要があるレベルで酔い潰れる結果となった。この時やって来た士郎に全員揃って正座で説教される羽目になり、盛大に怒られた。
この時、迎えに来てくれたのは意外にもイリスで、正気を取り戻したときに何故迎えに来てくれたのを聞いてみれば、
「だってほら」
と、イリスが言葉をどことなく、恥ずかしそうに続ける。
「送り出したのは私なんだから……私が責任を持たなきゃダメでしょ? ったく、他の皆には黙っておくからまた辛くなったら言いなさいよ。適度に見逃してあげるから」
と、言う事で。
普段は悪態ばかりの女の子だが、実は言動が悪いだけで根の部分は良い子であるという事がストレス解消のついでに知れた日だった。
劇場パンフを見れば、事件後のイリスはそれとなくいい子で言葉遣いも普通っぽいというのが良く解ります。だがウチのイリスちゃんはそこらへん、チッ、うるせーな反省してまーす。的なノリで反抗期継続しているので全体的に言葉遣いが最悪です。
これが男子3人が集まった時の会話だよ。