※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

37 / 42
Winding Up Ⅴ

 自分を囲むように二つの機械が浮かんでいる。イリスが用意した設計図を読み込んでフォーミュラにより再現されたそれは独立したユニットとして自動的な運動を行っている。形状は菱形に近く、しかしかなり機械的なデザインをするそれは、別パーツとして形成されてから動いており、AI制御によって此方の意思とは関係なく稼働し続けている。ただし、そのエネルギーはフォーミュラ経由である為、エネルギー管理はこちらで行わないと急に落ちる所がある。今のステータスが網膜投射で投影されている。

 

「VAフォートレス問題なく稼働中」

 

「よし、問題なさそうだね」

 

 此方の報告を聞いてマクスウェルは満足そうな表情を浮かべた。このフォートレスと呼ばれる装備は元々、魔法技術によって作成された機械兵装であり、とある戦いに置いて使用者を自動防御するために用意されたものだと言われている。物理的な防御力だけではなく、魔法障壁を一つ一つがリソースを割いて纏う事によってスタンドアローンの自動防御ビットとして稼働する他、突撃させる事でバッシュさせる事も可能な完全な科学兵装となる。それによって魔法が通じない相手に対して物理的な打撃効果を生み出す事を目的としているほか、砲撃や射撃メインの魔導士の遠距離戦闘を一定のリソースを最初に割いた後は、フリーハンドで援護する目的で生み出されている。

 

 それをフィルがエルトリアの技術で再現、フォーミュラを使用したヴァリアント・アームズのシステムに組み込んで流用している。故にVAフォートレスという名称を付けているが、実際はヴァリアント・ユニットをそのコアには使用していない。素材となる物質さえ存在すれば後はそこから生み出す事が出来るようにフォーミュラに登録、改造されてある。

 

「やっぱり根幹となる科学理論が同じだからフォーミュラでカレドヴルフ社の兵装は再現できるね……となると技術的にストリーマの再現も出来そうだ。じゃあノア君、そのままヴァリアント・アームズの起動を頼むよ」

 

「了解」

 

 フォートレス・ユニットを展開したまま、ヴァリアント・ユニットを稼働させる。フォーミュラによる物質変換を行いながら武装変形させ、まずは基本的なリボルバーへと変形させる。それを実験室に設置してある的へと向けて構えれば、AI制御されるフォートレスが自動的に射撃体勢に入った此方の動きをサポートするように、死角と隙間をカバーするように入る。

 

「良し良し、AIの方も問題はなさそうだね。じゃあ次は近接兵装への切り替えを宜しく」

 

「了解」

 

 リボルバーから今度は両刃剣へと変形させる。中央に持ち手が存在し、その両側から肉厚な刃が伸びている。試作段階では細長い剣をくっ付けたようなフォルムにしていたが、最終的に大剣をくっ付けたような、分厚く、そして重い鉄塊の様なダブルセイバーへとその姿を変えるようになった。重量は重く、普通に振るうには一苦労するレベルの重さと、複雑な形状をしている。だが片手で握り、肩に担ぐように持ち上げると自動的に自分の握る手を撫でる様な感触を感じる。

 

 見えなくても、聞こえなくても、そこにいて助けてくれているという感触がある。

 

 ダブルセイバーを構えれば、それに反応して素早くフォートレス・ユニットが動く。先ほどは防御し辛い死角を守ってくれたが、今度は横に展開し、そこで浮遊してから軽く旋回する様に周囲を回り、攻撃に備えた状態へと移行する。近接武装を手にしていても、問題なく稼働するのが見える。

 

 それに合わせ、軽くダブルセイバーを振るう。まずは踏み込みからの切り下ろし。重量のある機械的なフォルムの鉄塊を振り下ろせば、それに従ってフォートレスが開く側面をカバーし、振り下ろしから前転する様に重量を流しながら体を滑らせ、持ち上げながら薙ぎ払い、回転させ、重量を受け流す様に動きを連続させる。それに合わせるようにフォートレスは此方の動きの範囲に重ならない様に先に動き、攻撃の時に開き、カバーしきれないポイントを旋回する。

 

 足元を強く踏み、摩擦を生みながら軽くバトンの様に片手でダブルセイバーを回転させてから担ぎ直す。超重量の武器は振り下ろしから入り、そのまま重量を殺す様にそれを流れに乗せて動かし続けるのが基本。そうやって重量に慣性を合わせて、重量というものを流し、負担がかからない様にする。

 

 問題なく、動きの全てにフォートレスがついて来れた。

 

「動作確認、問題なし」

 

「うん、後は耐久実験かな。そっちの方はアミタ君かイリスが手の空いている時に頼むとして、今回はここまでにしようか」

 

「うっす」

 

 フィルの実験終了コールに全てを解除しながら実験室を出る事にする。

 

 

♦

 

 

「君も、大分フォーミュラの使い方に慣れて来たね」

 

 キリエとイリスは買い物へ。アミタはそんな二人に拉致られる形で出かけている。レヴィとシュテルは海鳴へと定期的にユーリの気配を追いに出かけている。本気で隠れたユーリを見つけ出す事はほぼ不可能に近いらしいが、それでも試さずにはいられないと、二人は定期的にユーリを探しに出て行く。やはり、自分の知らない事を知っているであろうユーリを問い詰めたいのだろう。

 

 そう言う訳で現在、グランツ研究所にはフィルと自分という男が二人だけ残されていた。

 

 普段は女ばかりの姦しいこの環境も、女子が出払っていると無駄に広く感じられる。だがここに住み着いてもう主観では数か月、という長さになってきた。季節も徐々に夏に入ってきた頃であり、季節の移り変わりという概念がこの世界にも存在する事を教えてくれる。

 

 それに合わせ冷えたレモネードを冷蔵庫に常備する様になり、今も実験終わりにレモネードをグラスいっぱいに入れて、リビングのソファに転がりながら飲んでいる。フィルも別の椅子に座って、テレビを見ている。

 

 実験後の休憩中に、そんな事をフィルが言ってきた。

 

「そうかぁ? 未だにまともにアクセラレイター使わせて貰えないんだけど」

 

「アレはフォーミュラ技術で駆使する最大奥義みたいなものだからね。個人用にフォーマットする必要があるから、一カ月や二カ月ではどうにもならないものさ。だけどそれを抜きに良くフォーミュラを扱えているものだと思うよ。これは元々地球人向けのシステムじゃないからね」

 

「そんな事言われてもなぁ……」

 

 必要と迫られているから使えるようになった。これはそういうもんだろう。出来なきゃこの先、苦しんで死ぬってだけの未来が見えているのだし。だったら俺が自分で出来る範囲の事は何でも、完璧にこなせるようにならなくてはならない。高校もまともに出てないし、学もない。それでも一度聞いて、見て覚えた事は忘れないようにしなくてはならない。馬鹿だから解りませんという理論は通じないのだ。だからやるだけだ。やらなくちゃならないから、やるのだ。

 

 クッソ面倒だ。

 

「まぁ、まぁ。賞賛は素直に受け取っておきたまえ。なんだかんだで君は頑張っているという事を私は知っているからね」

 

「まぁ……ありがとよ。俺もあんたが居なきゃやれない事は多かっただろうしな」

 

 そこは素直に感謝しておく。突っ張った所で意味はないし。それに色々とフォーミュラ周りのメンテナンスや調査に関しては頑張っているのも知っているし。今は魔力をフォーミュラで運用する研究を行っているらしい。だがそれも、シュテルやレヴィが直接フォーミュラを使える訳ではないから、困っている所もあるらしい。そこで自分が魔力を使えれば、助かるのだろうが。

 

 まぁ、魔力なんて元々持たない人間なので。

 

 あったら良かったのになぁ、と思っていると、

 

「ぴよ」

 

 ひよこが口にミニクッションを咥えながらやって来た。ソファに転がっている此方の姿を見つけると、クッションを胸に投げつけ、その上へとダイブして飛び込み、そのまますやすやと胸の上で眠り始める。こいつがこうも寝ているなら、しばらくは起き上がれない。自分もここで一眠りしてしまおうか。

 

「私はね、元の時間軸か世界か、どちらにしろ本来の流れに戻ればただの犯罪者として時空管理局に拘留されている身なんだよ。それがこうやって外に出て自由に研究を行えるんだ。だから君にはね、正直感謝の言葉しかないんだ。おかげでこうやって、唯一の心残りだった魔力によるフォーミュラ運用の研究が出来る」

 

「正直、俺にはどうしたもんか、って感じだけどな」

 

「それでもだ。君が間違いなくこの騒動の中心だ。君が居なければこれは恐らく始まらない。だからね、感謝しているのさ」

 

「そりゃどーも」

 

 感謝されても、困るだけだが。正直な話、良い事よりも気持ちの悪い事と、恐ろしい事ばかりで素直に状況を喜べない。これでもう少し、自分の事さえはっきりすれば楽しめるのだろうが……少なくとも、今の自分にそれを楽しむだけの余裕はなかった。あるとしたら全部忘れた時ぐらいだろうがそう簡単に忘れられる事でもないし。ここにきて、男子会以外で楽しむという概念を割と諦めている部分がある。

 

 なのはを脅した部分もある。正直、あっちもどうしたものか、と軽く頭を悩ませている所がある。

 

「そういう訳でね、私も日ごろの感謝の気持ちをちょっと君に示そうかと思ってね」

 

「流れが怪しくなってきたな」

 

 フィルが懐から何かを取り出してきた。もうこの時点で嫌な予感しか感じられないのだが、フィルは取り出した小瓶を自慢げに見せつけて来る。

 

「なにそれ」

 

「媚薬だよ!!」

 

「嘘だろお前……」

 

「まぁ、正確に言うともうちょっと違うけど、軽く酔っぱらって体を火照らせて、その気にさせる薬だよ!」

 

「なんてもんを作りやがったこいつ」

 

「これをイリスの食事に入れてあげるよ!」

 

「止めろよ!! ほんと止めろよお前!! 冗談じゃないからな!」

 

 今の環境で一人に手を出した場合、間違いなく地獄を見るに決まっているのに、なんでそんな提案をしてくるのだこのカスは。いや、マジでイリスはこいつに関しては正しい。こいつただの犯罪者のクズだわ。

 

「だが待ってくれ、ノア君。君がそのエレミアの武技を獲得する上でセックスしたんだろう? つまり君はセックスした相手の能力を学習できる能力を持っているかもしれないんだ―――これはもう、試すしかないじゃないか」

 

「ほんと自分本位だなこのカスは!」

 

「何を言うんだ、私は本来拘留中だよ?」

 

「しかも認めてる……あぁ、もう、黙っててくれ。自分から針の筵になる予定はないんだ」

 

 たとえ、そういう能力があったとしても使う訳がないだろう。そりゃあ美少女の類は大歓迎なのは確かなのだが。それでも一度タガが外れた場合、それを元に戻すには滅茶苦茶苦労がいる。そういう例を知っているのでダメだ。特に今の環境、女だらけでもあるし。一人に手を出したらずるずると次を襲いかねない。だがその前にエルトリア姉妹に殺されかねない。後イリスにも。だから絶対に手を出す訳にはいかない。出来たら外の女を用意するのが一番だが現状、そんな奴は海鳴にはいない。

 

 だから我慢するしかないし、するつもりでいる。なのになんでこの男、それをあっさり破壊しようとするのだろうか。

 

「第一全員君が押し倒せば解決するとは思わないかい?」

 

「思わねぇよカス。お前の頭おかしいよ……」

 

「えー」

 

 明らかに不満という様子のフィルを放置して目を瞑る。解った、イリスのこいつに対する態度は大体妥当だったという事実を。今度からこいつにだけは相談するのを止めておこう、そう決めてひよこの腹を軽く指で突いてからフィルから視線を反らす様に眼を閉じ、そのまま眠る事にする。

 

 こいつと喋っていて、良い事がないという事をついに悟ってしまった。

 

 はぁ、と軽く溜息を吐きながら早く他の連中が帰ってこないか、それを願いながら眠りにつこうとする。

 

「……ほんとうにいらない?」

 

「いら! ない!」

 

「こっちの痺れ薬は……?」

 

「そっちも! いら! ない! 薬に頼らずとも女ぐらい誘えるわ!! 人をなんだと思ってるんだお前!」

 

「良い実験材料」

 

「お前さあ! ……はぁ……」

 

 相手するだけ無駄だと理解し、言い返すのを止めて、そのまま目を瞑る。もういい、無視する。そうじゃなくてもやる事はたくさんあって大変なのだから。

 

 この犯罪者死なねぇかなぁ……。

 

 切実にそう願いながら逃げるように目を閉じた。




 声だけは良い犯罪者の野郎。なお本日2更新目で。

 という訳でフォートレスも採用という事で。武装もどんどん出てきて準備整ってきたから、もうそろそろかなぁ、って感じで近づいてきているネクスト悪夢チャレンジ。

 だがその前にしなきゃいけないことがあるね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。