※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

4 / 42
Seaside City

 暁町、研究所近くの公園で直ぐ近くにミニテーブルなどを広げながら、軽くポーズを取った。

 

「Summon」

 

 指をぱっちん、とスナップさせて弾く。それに合わせて10メートル先に待機させてあったナイフが手元に出現する。それを指先に引っ掛け、回転させるように指の上を這わせ、親指の所まで来たところで弾いて上へと押し出す。回転しながら上へと飛んできたナイフが落ちてきた所で、それを掴む。

 

「おおー」

 

 その芸にレヴィとシュテルが両手で拍手を送ってくる。ナイフを弾いて回転させながらキャッチするのを繰り返し、落ちてきたものを掴んで両手で挟む。

 

「Unsummon」

 

 言葉に合わせてナイフを送還させ、見た目なら手の間に挟んでナイフが消えたように見せる。だが実際の所はナイフが初期位置に戻っているだけであり、手を広げればまるでマジックを使ったかのように手の中からナイフが消えている。

 

 それから指をスナップし、指の間から出現する様にトランプのカードが召喚される。それをぱららら、と下へと向かって落としながら送還する事でトランプが虚空に消えていき、召喚魔法で上から落ちて来る。それを片手で掴んで纏めながら手の中に挟んで姿を消し、手を合わせてスライドさせれば隙間からナイフが生えてくる。それを指の間に挟んでからナイフを隠す様に動かしてナイフが消える。

 

「こんなもんか」

 

 用意しておいた帽子の中からひよこを引っ張り出しながら、出てきたひよこを頭の上に乗せて、魔法を使ったマジックショーを軽く完結させる。レヴィが此方の見せたマジックショーの内容に満足する様に両手で拍手を繰り返している。それに合わせて軽くお辞儀すれば、頭の上のひよこがぴよぴよと鳴いている。シュテルがほー、と声を零す。

 

「それにしても魔法を使ったマジックとはよく考えましたね。これは確かに種も仕掛けもありませんし。見破る方法が存在しませんよ」

 

「寧ろなんでお前らは魔法の話をするたびにそれで戦う事ばかりを話し出すのかが俺には解らねぇよ」

 

 魔法という技術を学び始めてから1週間が経過した。つまり三人娘たちと海鳴での生活1週間目になる。その間に魔法に関する基本的な知識や技術を学んでいる。召喚魔法はそこまで難しくはなかった。最初に契約し、次に同意を得て、そして召喚するという3ステップで行える召喚魔法は無機物が相手であれば、前者の2ステップを無視して行うことが出来る。とはいえ、召喚できる物には距離などの制限が存在し、

 

 半径20メートル以内の物体を召喚するのが自分の限度だった。

 

「おかしいですね……適性が100もあれば次元を超えて召喚できる程度の事は可能な筈なのですが……」

 

 なんて発言がシュテルから出ているほか、魔法の補助具であるデバイスを保有していない事も原因で、魔法を思ったほど自由に扱う事は出来なかった。シュテルはこれではまともに戦えないと嘆いていたが、何故そこで迷う事無く戦う事を選ぶか、というのが良く解らなかった。魔法であり、自由に不思議な事を起こせるのだ。だったら戦う事ばかりではなく、他の事に目を向ければいいのではないか? という話であり、

 

 それでいきついたのがマジックだった。

 

 元々ステイツに居た頃、色々と小銭を稼げそうなものには手を出していた。父子家庭だった影響で、贅沢なんて出来なかった。となると何とか自分でお小遣いを稼ぐ必要が出てくる。手品、奇術、或いはマジックと呼べるそれはちょっとしたお小遣い稼ぎには便利な技術だった。

 

「僕達にとって魔法は戦闘技術にイコールするからねー」

 

「最も魔法文明が栄えていたアルハザードは消滅、ベルカは育ち過ぎた魔法兵器によって消滅、ミッドチルダも広がり過ぎた次元世界に治安の手が回らず常にどこかと戦っているような状態ですからね」

 

「魔法文明滅んだままでいいじゃねぇかこれ」

 

「否定できない……」

 

 聞けば聞くほど、魔法文明とかいうのは危険でしかない様に思える。

 

「というかその【時空管理局】って真っ黒なんだろ?」

 

「えぇ。トップは数百年を生きている脳味噌ですよ。次元犯罪者の動きをコントロールして、犯罪を発生させて、それを管理局で制圧。ほかにも自分たちを延命する為の新技術を求めて非人道的な実験に数えきれないほど手を出していますね」

 

「僕達もその筋では一度狙われてるんだよね」

 

「魔法文明超いらねぇなこれ」

 

「そうですね」

 

「うん」

 

 ですが、でも、とシュテルとレヴィは笑った。

 

「取り戻しませんと」

 

「うん、だよね」

 

 その言葉は自分に言い聞かせるような、どことなく必死な、そんな感じがした。そこまで本気になった事がないので―――いや、そもそも自分が人生で本気になったことがあっただろうか? 自分が記憶する限り、なかった。だから目の前の少女たちの、どれだけ説得した所で、話が通じなさそうな姿は新鮮だった。頑固だから話が通じないのではなく、覚悟が決まっているから話が通じない。

 

 少しだけ、羨ましく思える。

 

「まぁ、別にいいけどな。俺はどうにもできそうにないからなぁ! 期待外れで悪いな」

 

「まぁ、確かに落胆しなかったと言えば嘘ですけど。それでも私達以外に魔法が使える人が出てきてくれただけでも十分ですよ。正直、こうやって貴方が登場するまでは夢でも見ているのか、狂ってしまったのか。それさえも解らなくなりそうでしたからね」

 

「だからノアは軽く構えていればいいよ。僕達は魔法を一緒に使えればそれだけで十分過ぎるぐらい楽しいから」

 

「Hmm……」

 

 帽子を被り、ひよこを隠しながら少しずつ慣れてきた召喚魔法を使い、服の中にひよこを召喚する。それに反応してひよこが服の内側を上って来て、首元からその姿を出してくる。

 

「ぴよっ」

 

 小さな翼で敬礼する様に出てきた所でポーズを決めるひよこを見て、よくやったとその頭を軽く撫でる。

 

「そのひよこ、ほんと芸達者だよね……」

 

「研究所の庭で昼寝してたのを見つけたんだけど一瞬で気が合ったからなぁ」

 

「ぴよぴよ」

 

 名前はまだない。だが恐ろしく賢い奴だ。一度教えた事は一度で学習し、細かい芸にもちゃんとしたリアクションをくれる。だから売り上げの一部で美味しい餌を与える事を約束に契約を結んでいる。つまりそう―――最初の召喚獣である。

 

 そこらへんで拾ったひよこが。

 

 まぁ、何もなしよりは遥かにマシであるのは事実だった。まぁ、気分だけはサマナーという奴だった。特に何か出来るという訳ではないが、マジックのパートナーには丁度良い奴だった。何よりも愛嬌があるのがいい。

 

「よ、そ、と、と―――」

 

 足元のジャグリング用のピンを蹴り上げて、キャッチしながらまず最初にジャグリングを始める。召喚魔法を堂々と使ってそこにノーアクションでピンを増やし、ジャグリングの内容を増やす。

 

 流石に昼間からそうやって派手なパフォーマンスを始めれば、公園で遊んでいる人達の目にも入る様になる。とりわけ、親連れの子供とかには良く見える。ジャグリングでピンを高く飛ばしながら魔法でピンを召喚して追加する。投げ込まれていないのにいつの間にか増えて行くピン。その様子に首を傾げながらも、ジャグリングにひよこが飛び込む。

 

 そうやってひよこがジャグリングのサイクルに混じる。

 

「あ、凄い」

 

「本場のマジックショーに比べればあんなの子供だましよ」

 

「でもほら、ひよこさんが楽しそう」

 

「もう……」

 

「Hey、そこのボーイズ&ガールズ。このお兄さんの夕飯に一品追加する手伝いをしてくれないかな? よっと」

 

 頭を軽く振って、被っていた帽子を落とす様に足を延ばし、キャッチする。そうやって帽子を足の上に乗せれば、その中にひよこがジャグリングの輪から飛び出して入り込む様に着地する。そしてそのまま、おひねりを要求し始める。その姿に小さく笑い声が上がり、おひねりが投げ込まれてくる。

 

 ジャグリングからカラードトリック、ナイフ芸を召喚魔法を混ぜて披露してゆく。

 

「元の世界だと魔法は隠すものでしたからね、こうやって堂々と金儲けに使う方法は思いつきませんよ普通」

 

「管理局いないからね、今」

 

 堂々と魔法を使った所でそれを咎める存在はいない。だとしたら、種も仕掛けもないトリックとして使ってしまった方がかえって人々は納得してくれる。まぁ、しなくても別にいい。こういう大道芸はそこそこいいお小遣いになる。見た目が派手であればそうであるほど、受けはいい。魔法はそういう意味では優秀だ。

 

 おひねりが帽子の中に投げ込まれ、硬貨がひよこにヒットする。その衝撃にひよこがよろめき、帽子から落ちた―――ところで頭の上に落ちてくる。あまりにも不可思議な現象を前に見物している観客たちが首をかしげながらパフォーマンスを眺める。

 

 その中で、少しずつ魔法を使って投げるピンを減らして行き、最終的にいつの間にか無手になる。ジャグリングに使っていた道具は降ろしたわけでもないのに目の前に整列されており、帽子を片手に軽く礼を取る。パフォーマンス終了の合図に拍手が向けられる。それに対して何度か頭を下げながら追加のおひねりを受け取り、帽子の中を確認する。

 

 その中には細かい硬貨が入っている。100円、500円玉などが入っているものの、求めていた千円札は入っていない。

 

「Fuck, Jap共しけてやがる。全部で2800円か……」

 

「今はインターネットが発達していてそれなりのパフォーマンスはネットを見ればどうにかなるものですし、あまりこういうストリートパフォーマンスでお金は稼げないと思いますよ」

 

「ノアならお金持ってそうな女の子コマす方が早いんじゃない」

 

「あー……」

 

 やったやった。そしてバレて父親に3階の窓から投げ捨てられた時があった。それ以来、そういう事はやっていない。だからレヴィの言葉には苦々しい表情を浮かべ、芸を終わらせた所で荷物を纏める事しかできない。

 

「え、なに、そんな事やってたんですか」

 

「おーっと、ここでシュテるん噛みついた―――!」

 

 荷物を纏めているとぐいぐいとシュテルが近づいてきて此方を覗き込んで来ようとする。その視線から逃げる様に顔を反らせば、素早くシュテルが割り込んでくる。此方の表情を伺おうと回り込んでくるその速度は、まず間違いなく魔法を使って強化されているものだった。

 

 絶妙なウザさ……!

 

 滅茶苦茶話を聞き出そうとするシュテルを回避する様に視線を逸らすが、やはり魔法による強化が入っている分、シュテルの方が動きが無駄に早い。対抗する様に体に魔力を巡らせるが、その程度では魔法による強化には及ばない。精々、体が良く動く様になる程度だ。

 

 なので、シュテルの頭の上にひよこを置いた。

 

「いいじゃねぇか、俺の過去なんて。俺、イケメンだし」

 

「貢がせてたの?」

 

「さあ?」

 

「待ってください! 彼女とか! 恋人とか! そういう話を!」

 

「ほんと必死だなお前!」

 

「いいじゃないですか……ちょっとぐらい……!」

 

 そう言ってくるシュテルの頭を両手で掴んで抑え込みながら、助けの視線をレヴィの方へと向けるが、レヴィはキャンディを口の中に放り込むと、サムズアップだけ向けてそのまま研究所の方へと向けて歩き出す。

 

「帰ってアニメ見なきゃ」

 

「おい……おい!」

 

 純粋な筋力でシュテルに負けそうな事実に泣けてくる。魔法が原因だとは解っているのだが。それでも簡単に負けるのは癪なので、シュテルの突進の矛先を僅かにずらして回避しながら、そのままひよことパフォーマンスに使用した道具を回収しながら急いで逃げ出す。

 

 が、すぐにシュテルが追いついてくる。

 

「やっぱり恋人がいるんですね?」

 

「お前には関係ないだろ!」

 

「家賃として情報を要求します!」

 

「こいつ……!」

 

 研究所へと帰る途中のレヴィに追いつき、しがみついて揺らしてくるシュテルを引きずる様に研究所へと帰って行く。

 

 堂々と魔法を使っても咎めるような存在のいない海鳴で、

 

 また、なんでもない、何の進展もない日々が過ぎて行く。




 住所不定無職ストリートパフォーミング23歳児ひよこ主。

 野生のひよこが仲間になった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。