※この作品はR-18です。

Lost Materials   作:てんぞー

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Winding Up Ⅸ

 シュテルとは一度デートしているのに、自分とはしたことはないのは卑怯だという理論で、あっさりとレヴィにデートを取り付けられてしまった。しかも待ち合わせする必要はなく、一緒に家を出て街へと出ようという事で、デート感は薄い。だがこのために軽く準備をしてくるとか、言動の端から本気さがにじみ出ているのが感じられた。

 

 そんなこんなでレヴィとのデート当日。

 

 研究所の前で、軽く着飾った状態でレヴィを待つ事にした。髪型を軽く整え、シャツやボトムスも普段は使わない様なちょっと洒落たやつを着ている。何時も同じ服装を着ているのでは、流石に相手に悪い。そういう事で事前に店で購入してきた新しいモデルの靴も履いていたりする。相手が真剣であれば、それに応えるのも男の役割という物である。

 

 そう言う訳で、レヴィとのデートである。

 

 ちょっとだけ、期待している自分が居ないと言えば嘘になる。

 

 子供らしかった頃はまだだが、今では立派な女と呼べるような気配を見せている。その女の気配をするレヴィを前に、流石に子供扱いする様な事は出来ないし、そういう覚悟できているのなら自分もそういう目線を向けるようになる。つまりは子供ではなく、大人の女として扱う必要がある。今までとは当然扱いが違ってくるし、見方も変わって来る。だがそれを望むのであれば真面目に対応するのが男という生き物だ。

 

 少なくとも自分はそう思っている。

 

 本気の想いに対しては、本気で応える。

 

 そうでなければ、俺も相手も道化でしかない。

 

「まぁ……そうだよな。楽しめなきゃ悪いよな」

 

 シュテルに抱きしめられてあやされたのはちょっと恥ずかしいが―――それでもすっきりしたのも事実だ。アレのおかげで自分の精神が少し落ち着いたのを自覚している。だからこうやって余裕をもって考える事も出来るし、楽しもうと考えられる程度には脳味噌も回るようになってきている。まぁ、それにシュテルやレヴィの事は実際嫌いじゃない。過去が存在するかどうかは怪しい俺だが、それでも彼女たちはここで出会った存在だ。彼女たちは本物で、実在しているのだ。それが解っているから安心する。彼女たちとの出会いは、ちゃんと足跡を残せるのだ。

 

 俺が存在している、という事実を。ならそれで良いだろう。それだけで十分だろう。割とその事実だけで満たされる。過去がどうあれ、今のこの時間は向き合うには十分すぎるものだ。

 

 だから、

 

「ノア、お待たせ」

 

「レヴィ―――」

 

 研究所の方から、歩いてやってくるレヴィの姿に言葉を一瞬で失った。

 

 何時もであれば、動きやすい短パンを履いて走りまわるのがレヴィのイメージだった。だがそのイメージを正面から砕く格好をレヴィはしていた。

 

 緩く、ふわっとしたイメージの夏のコーディネートをしているが、何時もの印象を覆す様にロングスカートを着用した上で、髪型を変えてきていた。普段は運動するのに邪魔だからとツインテールに纏まっている髪は降ろした上で、リボンを編み込む様に飾る事で普段のレヴィには見えない、女性らしさを強調する様な姿を見せるようになっていた。服装も全体で明るさを象徴する様なものであり、レヴィが元々持ち合わせる太陽の様な明るさを阻害していない。

 

 レヴィの元の持ち味をそのまま、しかし女らしさを見せるようになった。

 

 そのギャップが、今日までして来なかった髪型の変化と服装の変化に、いきなり心を撃ち抜かれそうになる。

 

 それを解っているのか、レヴィは歩いてやってくると目の前に立ち、ニヤリと笑った。

 

「どうかな? ボクの姿は。ノアは気に入ってくれたかな?」

 

「気に入るどころか心臓を止められそうだよ……あんまり、それを着るなよ? 慣れる前に死んじまうから。いや、本当に綺麗だよ」

 

「ふふ、ありがとう。なら頑張ったかいもあったかな」

 

 そう言ってほんのりと、レヴィの頬に朱が差す。それでレヴィが僅かにだが化粧しているのが見える。そういう部分でも、何時もは無頓着だったのに。なのに今では薄くだが紅を塗っている。僅かな所でも努力を怠らず、そのすべてが此方へと向けられていると思うと、ちょっとヤバイ。

 

 本気で惚れそうになる。

 

「じゃ、そろそろ行こうかノア」

 

 レヴィが此方に手を差し出してくる。それを取ると、レヴィが両手の指を絡めるように手を繋いでくる。所謂恋人繋ぎ、と呼ばれる手のつなぎ方をすると、横に軽く肩が触れるぐらいの距離で並んだ。

 

「どこに行くとかは……」

 

「決めてないよ。そして決めなくてもいいよ」

 

 ボクはね、とレヴィが笑った。

 

「ノアが好きなんだ。一緒に居てくれる君が好きなんだ。ボクの為に全力で頑張った、傷つきながらも諦めなかった君に心を撃ち抜かれたんだ。しなくてもいいのに、義務なんてないのに。そしてその結果苦しんでいる君を救いたいんだ。だからね、ボクは何かをしたい訳じゃないんだ」

 

 レヴィは言う。

 

「君と同じ時間をボクは独占して共有したいだけなんだ。ボクと君だけの時間が欲しいんだ。ただそれだけでボクは幸せなんだ。勿論、その先があっても全然良いよ! だけどこのデートはただ、ノアを独占したかっただけなんだから」

 

 

♦

 

 

「イリス? どうしたんですかイリス? なんか名状しがたい表情をしていますけど」

 

「やだ、そんな顔をするの……? え、待って待って、キツイ。辛い」

 

「イリス、そこもっと詳しく。ねぇ、イリス。ねぇ」

 

「楽しそうだすね」

 

「アルバム、イリスのアルバムを増やさなくては……アクセラレイター・オルタで加速撮影だ……!」

 

 

♦

 

 

 デートとは銘打ったものの、レヴィは同じ時間を共有したいだけであり、特に行きたい場所なんて存在しなかった。そういう事もあり、二人で軽く相談して向かう場所を決める事にした。海鳴も春からその季節を夏へと移し始めており、大分日差しが暑い季節となって来ていた。これでインドアのクーラーで涼むというのも一つの手だが、折角海鳴という場所に来ているのだからそれはもったいない。

 

 そう言う事で、レヴィと二人でビーチに来ていた。

 

 まだ完全に夏になったとは言えないものの、既にビーチにはそれなりの人の姿が見える。既に熱くなってきた事もあり、ビーチや海風で涼もうとしている姿が散見できる。ただやはり、まだメインの季節ではない為か、それなりに開いている場所がある。

 

 だからビーチまでやってきたら波打ち際まで近づき、波がギリギリ届かない距離をレヴィと、砂浜をゆっくりと歩く。人が少ない所を選ぶと、そのままビーチに二人で並んで、座り込む。流石にそのまま座るのもちょっと服が汚れるので、フォーミュラで軽くマットを生み出し、それを敷いて座る。

 

 肩を並べて海を眺めながら、海から吹いてくる風を浴びて無言のまま、遠くを眺める。

 

 気まずい無言ではなく、どことない、心地よさを感じる。暖かさという物か。少しだけ身を寄せて肩と肩が触れ合うレヴィの存在が、心強い。

 

 だけどそうか……こうやって、一緒にレヴィとだけ過ごす時間なんて今までなかったな、と思いだす。そのせいだろうか、ちょっとだけ罪悪感を感じる。ただそれをどう口にすればいいのか、というのが解らない。だけどレヴィの方はどことなく幸せそうな気配を滲ませ、頭をこてん、と此方の肩へと乗せて来る。

 

「……レヴィ?」

 

「ううん、何でもない。ただね……ボクは幸せだなぁ、って」

 

「そう、なのか?」

 

「うん。ボクはね……マテリアル、ラッセル、そして山猫として三つの記憶を持っているんだ。多分シュテるんもそうだろうけど」

 

「三つ?」

 

「うん。それぞれちょっとずつ異なる歴史の記憶。明確にそれを自覚できるようになったのは、ボクがノアのおかげで甦ってからなんだけどね」

 

 そう言うとレヴィは頭を肩に乗せたまま、黙った。それを受け入れた状態のまま海を眺める。海鳴の外へと出る事は出来ない。だからこの海の向こう側に、本当に世界が存在するかは解らない。自分や皆が全力で攻撃を叩き込んでも海鳴の外に出る事は出来なかったし、海鳴の海から外へと出ていこうとすると、いつの間にか海鳴の方へと向かって飛んで戻っている。まるで無限ループに引き込まれたように、ここから外に出る事は出来なかった。

 

 だからこの海が、いったいどこに繋がっているのか。俺達はそれを知らない。俺は、その向こう側から来たのに。

 

「ノア」

 

「おう」

 

「ありがとう」

 

「……別に、当然だろ」

 

 お前らを、見捨てる事は出来なかった。少なくともそれが強制された行動だったとしても。俺は、今の状態でも。絶対に―――皆を助ける事を選んだだろうと思う。いや、絶対に選ぶ。そこは間違えない。もう、レヴィ達は自分の中では大事な存在になっている。見捨てる事が出来ないほど、大事な物になっている。だから絶対に助け出す。助け出すだろう。その為に俺は止まる事はしない。

 

「ボクはね、ノア。そのノアの行動力……というか守りたい、って気持ちはちょっとおかしいと思うんだ」

 

 レヴィの言葉におかしい? と言葉を呟き返す。その言葉にレヴィが頷いた。

 

「それはまるで家族に対して向ける様な感情だし、そうやってボクらに向けるには時間が短すぎる。たぶん、今はノアが覚えていない、妹って子に本来は向けられる筈だったもんじゃないかなぁ、って思ってたりするんだ。それを忘れてしまっているから、年下のボクらにその感情を向けているんじゃないかな、って」

 

「それは……どうなんだろうな? まぁ、覚えてもいない事に理由は付けられないし……結局は、全力で助けたと思うぜ」

 

「そう言っちゃう?」

 

「言うよ。何度でも。お前らは俺の中では大事な存在だよ」

 

「シュテるんよりも?」

 

「……」

 

「そこは即答して欲しかったなぁ」

 

 余りにも意地悪な問いかけに、うへぇ、と声を漏らすとレヴィが笑った。楽しそうにレヴィは笑い声をあげながら後ろへと向かって倒れる。ぼふん、と軽く砂を弾きながらレヴィは倒れてから、声を零す。

 

「意地悪な質問ごめん」

 

「いや、いいよ。答えられない俺が悪いしな、今のは」

 

「ううん、今のはボクが悪かったよ」

 

 でもね、とレヴィは言う。

 

「ラッセルでも、マテリアルでも、エルトリアでもね? ボクたちは大(・)人(・)に(・)な(・)れ(・)た(・)事(・)が(・)な(・)い(・)んだ」

 

 レヴィが、その青空色の髪を砂浜に広げながらその事実を口にする。

 

「歴史が断絶したのか。その先の未来が存在しないのか。それともボクらはそこまでしか生きられないのか。でもね、僕達が10台の半ばに差し掛かる時なんて一度もなかったんだよ? 三つの記憶を持っているのに。なのに一度もないんだ」

 

「……それは」

 

 なんて、言えば良いのだろうか。それは或いは、死刑宣告かもしれない。お前はそれ以上生きられない。それ以降は存在していない、と。そう言われているのに近い事なのかもしれない。

 

 だからね、

 

「ボクはね、ノアには感謝しているんだ」

 

「俺に?」

 

「うん」

 

 早急に輝くような笑みを見せて、レヴィは言葉を続ける。

 

「ボクらは子供のまま終わるんだ。そういう風に全ての記憶が断絶しているんだ。だけどね、ノアと一緒に過ごしているボクたちはその先にいるんだ。その先の成長と未来を一緒に居られるという可能性を―――夢をボクたちに見せてくれているんだ」

 

「夢」

 

 夢―――或いは夢(きぼう)。

 

 レヴィはこの日常に、この生活に本来の記憶にはない命の続きを見た。そしてそこに尊さを覚えた。

 

「あぁ、そうだよ……ボクはこの先も生きていられるんだ。この先も一緒に居られるんだ。大人になって、恋をして、愛して、一緒になって―――そんな、当たり前の人生を普通に過ごせるようになるんだ。ボクにとってノアと一緒の時間はそういう物なんだ。だからね、ボクは君の事が好きなんだ」

 

 レヴィ・ラッセルにとって、ノアという男は、

 

 夢(きぼう)だった。

 

 だからそこにレヴィは恋をした。終わらない夢を見た。その先に続く未来を見出した。

 

「だけど、うん。そこまで重く見なくていいよ。ボクは単純に、そういうことがあってふつーにノアに恋をしたって話を知って欲しかったんだ。うん……ボクは普通に恋をしたんだ。それだけの話なんだ」

 

 そうやって恋心を語るレヴィの姿は余りにも眩しすぎた。シュテルの恋心も知っていて、それを誤魔化す事は出来ない。二人の愛をちゃんと感じている。ストレートにぶつけられる好意を感じる。そしてその本気から、俺も目をそらしてはならないという事実も理解していた。

 

 絆でレヴィとシュテル同様、繋がるのを感じながらも、レヴィの横に倒れて青空を見上げる。砂地は程好く熱を持ち、海からやってくる風がその熱を運び去って心地よさを伝えて来る。

 

「なぁ、レヴィ」

 

「うん?」

 

「空が青いな」

 

「うん……ボクの好きな色だよ」

 

 そう言ってレヴィは笑った。

 

 その笑顔が、俺は好きだった。




 レヴィはきっと太陽タイプ。一緒に居ると心が温かくなる奴。
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