あれから1週間。
この鎮守府は提督不在のまま、長門を提督代理として再び以前のように動き出した。
「以前のように」とは言っても違うところはある。出撃や遠征、哨戒などで深海棲艦と戦闘し、小破・中破して帰投はするものの、みんな笑顔で過ごしている。罵声や怒声、失敗しても誰も暴力を振るう奴がいないからだ。ただ一人だけ、違う者はいるが……そろそろ、慣れて欲しいものだ。
電「はうぅ…今回はかなりやられちゃったのです…」中破
隼斗「いやあああああ!電があああ!早く入渠ぉぉぉー!」
全く…電が負傷して戻るたびにこの有様だ。他の者が負傷した時も騒いでいたが、電の時はいつも大袈裟に感じるぐらいの反応だ。電がとても大事なのは分かってはいるが慣れてもらわなければな…
暁「仕方ないわよ。急にル級2体とイ級6体が出現して奇襲受けちゃったんだから…」中破
響「警戒は怠っていなかったんだけどね…」小破
雷「うー、悔しい!私達だってそれなりに練度はあるのに!」小破
確かに、第六駆逐隊の練度は決して低い訳ではない。今回は敵の奇襲と装備の劣化が原因である。明石が居れば装備も一新できるが…連絡して戻って来るようにお願いしよう。だが、その前に…
長門「……こら、落ち着け。艤装もないのにどうするつもりだ。」ガシッ
隼斗「離せ!そいつら殺して来る!」ふぬぬ……
長門「何度も言うがお前は海では戦えないだろ。殺すことより、電の側に居るのが大事ではないのか?
それとも、電より敵を殺す方が大事か?お前の電への気持ちはそんなものだったのか…」
隼斗「…違う。電が大事だ!」
長門「ならば早く電を入渠させてこい。暁達もだ、わかったな?」
隼斗「うっしゃあああ!行くぞお前らー!」
暁響雷電「ちょ、ま…優しくしてーー!」
長門の手を払うと電の元に走り出し抱き抱えたと思えば、赫子を出して器用に使い暁響雷を持ち上げると全力疾走で入渠ドッグへ走って行く。やれやれ、最初からそうしてもらえると助かるんだがな…それにしても、赫子というものは便利だな。
金剛「長門、隼斗の扱いが上手くなってるネ。」
大淀「しっかり“お姉ちゃん”してますね。あと、今回の隼斗も取り乱していましたが…早く慣れて欲しいわ。」
比叡「あれじゃいつか心労で倒れちゃうんじゃない?心配性過ぎだなぁ…電LOVEだから 仕方ないかー。」
吹雪「もう!私も中破してるのにー!連れてってよー!」中破
叢雲「ちょ、待ちなさい吹雪!あんたパンツ丸見えなんだから!」
隼斗の後を追うように走って行く吹雪と吹雪の千切れたスカートを片手に追いかける叢雲。こんな光景も増え始めてきた。あの頃のような雰囲気などなかったかのようだ…これはこれで騒々しいが、悪くないな。
陸奥「ねえ、長門。鳳翔さんと間宮さんが食材調達に出かけたいって。定期便の量じゃ足りなくなってきたみたいよ。」
長門「赤城と加賀がよく食べるからな…これまでの分を取り戻すかの如く食べるから足りなくなるのも当然だ。」
やれやれ…とため息をつき頭に手を当てる長門の肩を、陸奥は苦笑いしながら叩く。とりあえず、街に行って大量に仕入れてこよう。あとは、そうだな…吹雪が作物を育てたいと言っていたな。それに暁達は花を育てたいとも言っていた。今回の買い出しでまとめて仕入れてこよう。
長門「入渠組と哨戒に出ている扶桑達が戻り次第、食堂で昼食をとりながら話し合おう。」
〜30分後〜
ーーー食堂ーーー
長門「………と、言うわけでこれから街まで買い出しに行ってきてもらいたい。」
夕立「ぽい!夕立、隼斗と街に行きたいっぽい!時雨も一緒にいこー!」
時雨「いいね。行こう夕立♪」
山城「姉様、街で一緒に洋服見ませんか?あ、そうだ!夏も近いから水着も買いましょう!」
扶桑「そうねえ…今までゆっくり見れなかったから行こうかしら。」
食後のお茶と紅茶を楽しみながら皆楽しそうに話している。そういえば、こういう買い出しも初めてだったな。以前から街へ買い出しに行くことはあったが、提督と憲兵達の私物を買うだけで私達は荷物持ちだったからな…
隼斗「この世界に来て初めての街、か……どんな人間がいんのかなー。」
叢雲「なら、私と一緒に行く?(これは…更に距離を詰めるチャンスだわ!それに…長く側にいれる///)」
隼斗「だなー、行くか。電も誘おう。俺、電、叢雲、夕立、時雨、吹雪の6人で行こう。」
雷「もう!私達も連れてってよー!」
響「ウラー」
暁「レディーを忘れるなんて酷いじゃない!プンスカ!」
叢雲「そ、そうね。みんなで楽しまなきゃね!あはは!」
くっ…!なかなかそう簡単にはいかないわね。でも、隣は譲らないわ!
電「隼斗とお出かけなのです!嬉しいのです♪」ギュー
隼斗「お、デートじゃん。欲しいものあったら言ってな?奪ってくるから…って、痛い⁉︎」
長門「そこはちゃんと買ってから渡せ、馬鹿者。全く、お前は…」やれやれ…
ドヤ顔で言う隼斗の頭に長門の拳が落ちてくる。長門の隼斗に対する鉄拳制裁が日に日に増えている気がする、と思う艦娘達。だが、そこに怒りや憎しみなどは一切感じられない。戯れてるような、世話の焼ける弟をちゃんと叱っている姉って感じ。大淀の言うように、ちゃんと隼斗の“お姉ちゃん”として接している。陸奥もたまに叱ってはいるがまだ優しく、甘えさせてる感じだけど…怒った時の目が怖いよね。
鳳翔「えっと、じゃあほぼ全員で買い出しってことでいいかしら?」
長門「いや、私と陸奥、大淀は執務に戻る。今回は駆逐艦の子達と引率者として扶桑と山城をつけるから、計10名だ。」
扶桑・山城「え、いいんですか⁉︎」
間宮「じゃあ決まりね♪では早速出発しましょう!」
鳳翔と間宮、買出し組は食器を片付けて食堂を出て行く。駆逐艦の子達はテンションが高く、皆隼斗に何が見たいか、服選びについて来て欲しいとか、逆に選んであげるとか言いながら無邪気に笑っている。隼斗が現れてから私達は笑顔になることが本当に多くなった。隼斗は人間に対して恐怖と絶望、抗えない圧倒的な暴力を振るう化物ではあるが…最近は、本当に化物なのか?と疑いたくなる時もある。
長門「……それだけ平和ってことなのかな。」
陸奥「……?どうしたの長門?」
長門「いや、何でもない。さあ、執務に戻ろう。残りの者達は申し訳ないが不測の事態に備えて待機だ。自由に過ごしてくれ。」
待機組「はーい!」
長門達3人は執務室へ、金剛四姉妹はティータイムの為中庭、赤城と加賀は弓道場へ各々食堂から出て行く。
執務室は鎮守府の2階にあり、廊下からは鎮守府正面側の景色が見える。街へと繋がる道路が伸びており、奥から順に、街、途中に広がる小規模な森林、そこからは開けた平地、そして鎮守府となっている。ただ、平地の一部だけおかしな所がある。
隼斗が「天日干ししたら長期保存できるかな〜?どうかな〜?」と言って作った案山子達。材料は勿論、人間だ。
鎮守府奪還の為に来た憲兵隊の死体を使った物で、ちょうど戦闘が行われた鎮守府正面1km地点の場所に横一線に立ててある。
まるで鎮守府に来る者達に見せつけるように……
長門「……あの案山子を見るのも慣れてしまったな。最初はかなり悍ましかったが…」
陸奥「今じゃここから見る景色の一部としか思ってないからねえ。」
大淀「慣れって怖いですね。ある意味、逞しく生きていけそうですけど。」
そう言いながら窓の外を3人で眺める。そして、ふと気づく。隼斗は鳳翔達と街へ出かけた…隼斗、人間喰べる。街、人間たくさんいる。それはつまり羊の群れに狼ならぬ鬼を解き放つこと。しかも人間を憎み、人間を嬉々と喰い殺す鬼。すっかり隼斗が喰種であることを忘れていたのだ。
長門「…しまった。最近は大人しいから忘れていた。隼斗は人間を喰べるんだったな。」
大淀「……?あ、そうでしたね。でも、今から呼びもどそうにも…」
陸奥「無理ね。車、鎮守府出てったわよ。まあ、みんないるし何より電ちゃんが一緒だから大丈夫よ。あの子の言うことだけは
素直に聞くんだからね。なんたって電LOVE勢だから♪」
大淀「そりゃそうですけど…」
長門「よし、電に任せよう。私以上に隼斗の扱いは上手いからな。」
大淀はそれでも心配って表情をしていたが長門と陸奥が笑いながら執務室に入って行くので観念して自分も執務室へ入って行く。本当に何もなければ…そう思いながら再び資料作成を始めるのであった。
ーーー商店街ーーー
〜1340〜
鳳翔「みなさーん、着きましたよ!」
間宮「では、早速買い物へ行きましょう♪」
艦娘達「やったーー!」
車を商店街近くの駐車場に止めて一同商店街に向かう。商店街に入ると色んなとこから視線を感じる。通行人、店の店員、利用客…こいつらはいい。でもそれらとは別に鎮守府にいた時からずっと感じていた気配もする。間違いない、監視されている。大本営に喧嘩売った日以降からずっと感じていた。だから自然と周りを睨んで警戒する。手に力も入る。いつでも殺せるように……
艦娘達は恐らく監視されていることには気づいていない。鳳翔と間宮、吹雪の3人は八百屋で買い物、その反対側の駄菓子屋では電達の第六駆逐隊が楽しそうにお菓子を選んでいる。残る扶桑達は八百屋の2個隣のお洒落な服屋で服と水着を探してる。みんな楽しく買い物中だから余計に気づかんわな。とにかく、何もなければいい。邪魔しなけりゃ俺も大人しくしておこう…
叢雲「さっきから難しい顔しているけど、どうかした?」
隼斗「んや……別にどうも。つか、叢雲は買い物しなくていいのか?洋服見たいって言ってたろ。」
叢雲「あんた1人だと何するか分かんないから一緒に居るんじゃない。」
隼斗「あらあら、優しい妹さんね。お兄ちゃん嬉しいわ〜」
叢雲の頭を優しく撫でると顔を赤くして俯くも、すぐにこちらを見つめてくる。この子はたまにデレるよね。可愛いなあ叢雲。
しばらく撫でた後、すぐ近くに灰皿が置かれていたのでそこに行き煙草を吸う。叢雲も付いて来て隣に立ってまだこちらをじっと見つめてくる。変わらず顔を赤くしたままでだ。いや〜デレてる叢雲可愛いよ〜キュンキュンしちゃう。
隼斗「どうしたの?まだ撫でて欲しいの?」
叢雲「……うん。もっと撫でて///」
隼斗「こりゃまたえらく素直だな。叢雲のそういうとこ可愛いよ。」ヨシヨシ
叢雲「馬鹿…///でも、ありがとう///」
可愛いのお…もう、もっと撫でちゃう!
わしゃわしゃと撫でてると右脚を叩かれる感触があるので視線を移すと、頬を膨らませた電がこっちを上げていた。
とりあえず、煙草を消して………
電「叢雲ちゃんばかりずるいのです!電も、撫でて欲しいのです!」
隼斗「可愛いなあもう電〜!」わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ
電「えへへ////隼斗に愛されてるのです〜////」
叢雲「私も…もっと撫でてよ!///」ガシッ
隼斗「やーん、叢雲ちゃん今日デレ日なのねー。いいわあ、可愛くてたまらんわ〜」わしゃわしゃわしゃわしゃわしゃ
2人とも顔を赤くしたまま嬉しそうに抱きついている。そんな光景を両手に沢山のお菓子が入った袋を持ち佇んで眺める暁達。
暁と雷も先程の電みたいに頬を膨らませているが、響だけは普段と変わらない様子だ。
暁「むー…2人ばっかり……」
響「なら、言えばいい。隼斗ならちゃんと撫でてくれる。ウラー!」
雷「ちょ、響待ちなさい!もう、私も撫でて欲しいんだからー!」
暁「え、ちょ…私がお姉さんなのよ!私を置いて行かないでよー!」
響を先頭に隼斗に突撃していく3人。それに気づき受け止める隼斗だが、電は背後から響に押し潰され「ふにゃ⁉︎」と可愛い悲鳴をあげる。もう、たまらん。堪りませんな。こんな可愛い子達と戯れるのは最高ではないか!萌えてきたー!
男「おや?これはこれは…横須賀第3鎮守府の艦娘さん達かな?」
叢雲・暁響雷電「……?」
隼斗「……(一般人…ってツラじゃねえな。)」
萌え萌えタイム?を邪魔するように声をかけてくる強面の男。その後ろにも同じ様な男が6人おり、明らかに用心棒って雰囲気を出している。叢雲は暁達を自分の後ろに隠れるように立たせて、相手を睨みつけ警戒態勢に入る。隼斗は再び煙草を吸い始めるも、真っ直ぐ相手を見つめて同じく警戒態勢に入る。
叢雲「……何か御用かしら?」
男「いや、歩いていたら偶然にも見つけたので声をかけたんですよ。東野提督はお元気かな?ここ最近連絡が無くてね。」
叢雲達「……⁉︎て、提督の…知り合い…」
隼斗「………」ぷか〜
東野提督…あの豚のことか。つか、軍人の知り合いにしちゃえらいまた怪しい奴だよなぁ…見た目完全にヤクザじゃん。どういう繋がりかも何となく分かるような気がする。武器・資材の横流し、武器・薬物密輸とかだろうな。軍港だし、一度で大量に仕入れができそう。
男「君は…初めて見る顔だね。それにしても、軍人にしては鋭い目つきだな……どれだけ殺してきたのかな?」
隼斗「……腐る程。なんなら今ここで殺してやろうか、虫けら?」
付き人1「貴様!口の聞き方がなってねえな、舐めてんのかコラァ‼︎」
叢雲達「……!」ビクッ
付き人の1人が隼斗に近づき、今にも殴りかかりそうな勢いで胸ぐらを掴む。隼斗は微動だにせず普通に煙草を吸い、あろうことか相手の顔に煙を吹きかける始末。それだけならよかったが、相手が煙を吸い込み激しく咳き込んでるところに強烈なボディーブローをかます。そして溝おちを抑えて前かがみになった相手の頭を掴み、トドメの膝蹴りを入れる。「バキッ」と何かが折れたような、砕けたような音を響かせて地面に倒れると動かなくなった。叢雲達だけでなく、周囲にいた人々は怖くて動くことも声を発することもできなかった。
男「ははは!いいね。こんなに血に飢えた男を見たのは久しぶりだ!東野提督もいい部下を持っているな。今後もいい関係を
築いていこうじゃないか。私の部下のことは気にしなくていい。相手がどういう者か知らずに勢いだけでかかるからこうなるんだ。
いい勉強になっただろうな。おい、この馬鹿を叩き起こせ。恥さらしが…」
付き人2・3「すみません。すぐに……う、うわああ!顔が、お、親父!こいつ顔が‼︎」
男「ん?…これはまた、随分と派手なご挨拶だ…」
地面に倒れた付き人1の体を持ち上げると、顔の中心部が陥没しており片方の眼球は潰れ、残る1つは飛び出していた。地面と隼斗のズボンの右膝には赤黒い血がついており、先程の一撃がどれほどのものか分かるには十分だった。
隼斗「こっちは最初から虫けらのことなんざ気にしてねえよ。だから、お前も“気にしなくていい”。」
叢雲「ちょ、隼斗、落ち着きなさい!」
電「そうなのです!ここで暴れたら関係ない人達まで巻き込んじゃうのです!」
叢雲と電は隼斗の前に出て止めに入り、暁響雷は隼斗が動かないように足腰に必死にしがみつく。流石の隼斗もこのまま暴れれば傷つけてしまうと考え素直に言うことを聞き動かずにいた。そこに群衆を掻き分けて鳳翔達と扶桑達が現れて隼斗達の元に走ってくる。
山城「ちょっと、隼斗何やってんのよ!」
吹雪「落ち着いてお兄ちゃん!深呼吸!深呼吸して!」
時雨「何があったか分からないけど、ここじゃダメだよ!関係ない人達まで巻き込むのは絶対ダメ!」
鳳翔「隼斗、私達は誰もここで傷ついてないの。だから、あなたが力を行使する必要はない…いいわね?」
男「ふむ、東野提督と違って君は艦娘達と仲が良いな。彼はただの道具として扱っていたからな、君に懐くのも当然か。
そこの電という艦娘も、たっぷりと道具として活用したそうじゃないか。」
電「……⁉︎な、なんでそれを…」
隼斗「…“活用”した?まさか…」ギリッ
隼斗の身体に力が入るのが分かる。眼も少しずつ変化してきてる…このままじゃ時間の問題だ。それに電も顔色が悪い。あの男の言葉で悪夢が呼び起こされてるんだ…でも、何故あの男はそんなことを知っているんだ?その場には提督と憲兵しかいないと電は言っていたのに、どうして部外者の彼がそんなことを…
男「ほら、これだよ。とても自慢気に話していたよ。もっと早くに“こういう”使い方をすべきだった、ってね…」
電「い、いや…やめて!見せないでください!いやああああああ!」
男はニヤニヤ笑いながら写真を何枚か見せつける。どれも電が男達に侵されている写真を…無理矢理咥えさせれているところ、複数の男達に押さえつけられ口や膣、後ろにまで捻じ込まれ泣いて苦しそうな表情までしっかりと収められていた。他の写真も、どれも酷いものばかりが映されていて、見ていて苦しかった。ここまでされていたとは思っていなかったから余計に苦しかった。
電は泣き叫びその場に崩れ落ちる。響雷は電の元へ走り泣きながら抱きしめ、暁は電を庇うように立ち、男を睨みつける。大事な妹を傷つけ、穢されて、更に他人にその姿を晒されたことに怒り震えていた。
鳳翔「その写真、大人しく渡しなさい。」
男「それは無理だ。これはいい商材だからね、もう色んなところから話が来ているんだよ?戦場以外でも君達の力を
貸して欲しい人達が多い。人類への貢献だよ、素晴らしいじゃないか。」
間宮「あなたは…私達を何だと思っているのですか⁉︎私達は、あなたの様な醜い人の玩具ではありません!」
山城「そうよ!聞いててイライラする…早く渡せ!」
男の手から写真を奪い取りそのまま握り潰す。電が少しづつこのトラウマから立ち直りつつあったところに、このような仕打ちをして来た男が非常に憎い。どうしてこんなことが出来るのか、そして私達を醜い男達の性処理道具として貢献しろだと?ふざけるな…そんな事の為に生まれてきたんじゃない。山城の怒りは、もう我慢の限界だった。
電「気持ち悪い!汚い!いや…いやだ、汚いのが体の中にあるのです!あああああああああああ!」ガリガリッ
暁「電、お願い落ち着いて!お願いだから、もう自分を傷つけないで!」
響「血が出てる、これ以上は危険だ!」
雷「ダメよ電!お願い、落ち着いて!」
錯乱状態の電は自分の首や下腹部に爪を立てて何度も引っ掻き回すから出血が酷く、制服が赤く血に染まっていく。暁達が押さえつけても何度も振りほどかれ尻餅をついていた。吹雪と叢雲が加勢してやっと抑えることが出来たが、吹雪と叢雲も頬を引っかかれたり、殴られたりと多少怪我を負った。
隼斗「もう無理ダ…退け、夕立、時雨。このままじゃ、オマエラ突き飛ばしソウナンダヨ…」
夕立「は、隼斗⁉︎時雨、一旦離れて‼︎」
時雨「くっ…やっぱり無理か…」
2人が離れるのを確認した後、ゆっくりと歩き出す。
電「なのです…電には、隼斗がいるのです。ヒヒヒ…そうなのです、隼斗なら出来るのです!」
吹雪・叢雲「きゃっ⁉︎」ドカッ
取り押さえ大人しくなったと思っていたとこに、不意に突き飛ばされ尻餅をつく2人。電は後ろを振り返り、両手を広げて隼斗を呼ぶ。隼斗
はそのまま電の前に行くとしゃがみこんで電を見ていた。
電「隼斗にお願いがあるのです。」
隼斗「……なんだ?」
電「電の体の中に汚いものがたくさん入っているのです。気持ち悪いのです、汚くて、最悪なのです!電の喉とお腹を切り裂いて
全部掻き出して欲しいのです!隼斗は引き裂くの上手だからすぐに出来ると思うのです!」
吹雪「えっ…な、何言ってるの電ちゃん⁉︎」
叢雲「電、馬鹿な真似はやめて!」
電「ここに…たくさん入っているのです。ずっと気持ち悪くて…綺麗にしてください。」
電はそう言いながら隼斗の手を取り、自分の下腹部へと持っていき触らせる。いつもの優しい笑顔ではなく狂気を含んだ笑顔であり目も狂気で染まっていて、とても電とは思えない。隼斗は何も言わず、表情も変えず、ただ人指し指で電のお腹を縦になぞっていく。まるで、どう切り裂くか考えてるように思えた。
電「……どうですか?」
隼斗「…断る。」
電「……して、どうしてなのです⁉︎どうして電が望んでいることをしてくれないのですか⁉︎あの時も、電は本気で言ったのに…
隼斗にならされてもいい、して欲しいって。本当に本気だったのに!今回も本気なのです!なのに何故、してくれないのですか⁉︎
どうせ隼斗も電のこと汚いと思っているのです!大好きとか、愛してるとか…嘘なのです!」
両手を伸ばし隼斗の首を締めていく電を吹雪と叢雲が止めようとするが隼斗は遮るように手を上げて静止させる。そして、そのまま電の頭に手を乗せて優しく撫でる。次第に手の力が緩み、首から手を離して再び泣き始める電を抱きしめて頭を撫で続ける。
隼斗「本当に大好きで、愛してるから出来ないこともしたくないこともあるんだよ。……って聞いたことがあるけど本当にその通りだわ。
俺には電のお腹を引き裂くことも、汚すこともできない。それに、電は汚くなんかないよ。とても綺麗。…本当に汚くて醜いのは
人間であり、そして……」
電「そして…?「レロォ……」…っ、はうっ///あ、やぁ///」ゾクゾク
隼斗は電の頭を撫でながら首元に顔を近づけて目を閉じたかと思うと、首の傷に舌を伸ばして血をゆっくりと舐め上げていく。電は傷を舐められている間、背筋にゾクゾクする程の快感を覚えつつ、隼斗に甘えるように抱きついて悶えていた。舐め終えた後、ゆっくりと眼を開ける隼斗の眼は、赫眼化しており電を包むその腕も黒い赫子に覆われて鋭いかぎ爪が生えていた。そして耳元で呟く。
隼斗「血肉に飢え、その血肉を、命を貪り喰う化物である……俺だ。」二イィ…
立ち上がり狂気に満ちた笑顔で歩く姿はとても悍ましく、だが身体を覆い西洋鎧を連想させる赫子と禍々しい触手のような赫子がより一層見る者の恐怖心と絶望を植え付けるには十分過ぎるほどだ。己が何をしたのか、眼前に迫る異形の化物を前に男は後悔していた。隼斗のことではなく、艦娘達に対しての振る舞いと発言が化物の逆鱗に触れてしまったということに。
男「お、お前は一体何者なんだ⁉︎なんでこんな化物が艦娘と一緒にいる⁉︎」
隼斗「いちいち説明すんのめんどくせえけど…“見せしめ”にするにはちょうどいい。」
男「は?何言って…お、おい!離せーー!」
付き人達「うわあーー!」
隼斗は男達の身体に赫子を巻き付きてそのまま近くの建物の屋上へ飛び上がり、眼下の人間達に見せつけるように宙ずり状態にする。下を見れば先程まで立っていた地面が遠い。これから何をされるのか、男達は震えながら考えることしか出来なかった。その頃地上では鎮守府からずっと尾行・監視をしていた者達が姿を現し、銃を向けて艦娘達を一箇所に集めて同じく隼斗にも銃を向けていた。
吹雪「えぇーー⁉︎ちょっと、何で私達まで銃を向けられているんですか⁉︎」
叢雲「それだけ私達も警戒されてるってことでしょ。隼斗と同じように人間に危害を加えると思ってるんじゃないかしら。」
扶桑「山城、私達がこの子達を守るの。いいわね?」
山城「はい、姉様。その後は隼斗をぶん殴ります。」
扶桑「そうね…まあ、ほどほどに、ね?」
扶桑と山城、鳳翔、間宮は駆逐艦達を守るように囲み立つ。睨み合いが続く中、隼斗の声が響く。
隼斗「よく見ておけ人間共!艦娘を兵器だ道具だと言い、扱い、そして傷つけ虐げる奴がどうなるか!」
鳳翔「一体何を…」
間宮「嫌な予感しかしないです。でも、もう止めることは…」
全員が隼斗に注目する中、隼斗は赫子で掴んでいた男達を上に放り投げる。空高く宙を舞い、そして落ちてくる男達を待っていたのは地上ではなく、ゴツゴツとした肉や骨を噛み砕くには十分な大きさの歯を生やし上に向かって大きく口を開けた赫子だった。
男達「うああああ!く、食われるーー!」
間宮「……やっぱり、って…あんなの見たことないですよ⁉︎どういう構造になってるのあれ⁉︎」
鳳翔「そんなことよりあのままだと…」
バクッ グチャグチャ……ブチィ
「きゃあーー!食ってる、人間を食ってるー⁉︎」
「何なんだよあれ⁉︎深海棲艦の新種が現れたぞー!逃げろー!」
「ご、ご覧ください!深海棲艦の新種が現れて…う、おえぇ…すみません、私、無理です…」
「総員、あの化物を狙え!構え!撃てぇーー!」
時雨「……これはまた…随分とえげつない殺し方だね。」
夕立「うん…でも、なんか慣れてきたっぽい。」
暁「ぴゃああああ!でっかい口が開いて食べてるぅぅぅ!」
響「これは…凄いね。暁なら丸呑みされちゃいそう。」
逃げ惑う人、腰を抜かして泣き叫ぶ人、震えながら惨劇を映像に収める人、一斉射撃で応戦する兵士達。様々な反応を見せる人間達を実に楽しそうにニヤニヤと笑いながら眺める姿は正しく化物であった。
隼斗「俺の目的は、「艦娘が人間として生きていける世界を作る」こと。その為にも、艦娘を虐げる奴、騙す奴、俺の大事な家族を傷つける
奴は全て殺す!“兵器派”だろうが“人間派”だろうが関係ねえ…少しでも当てはまる奴は等しく殲滅対象だ!死にたくなきゃ自分の振舞
いや言動を悔い改めろ、愚かで無力な人間共!」
大声で叫んだ後、隼斗はいつものように笑っていた。狂気に満ちた歪んだ笑顔で、高らかに笑い続けていた。
この惨劇の一部始終は国内に瞬く間に広がり、大きな衝撃を与えることになる。深海棲艦に次ぐ新たな脅威の出現、だが深海棲艦と違い艦娘の為に人間を殺すと明言する化物に世論も荒れに荒れた。一部の者が深海棲艦は愚かな人類に裁きを下す為に送り込まれた“深海からの使者”と言うように、隼斗は艦娘を虐げる愚かな人類を裁く為に遣わされた“地獄の悪鬼”、“暴虐の鬼神”だと。又は艦娘の人間に対する憎悪が生み出した、自分達を守る“守護鬼”ではないかと。
どちらにしろ、人類にとって脅威であることに変わりなく唯一安全とされていた地上からも現れた脅威に戦慄を覚えた。
隼斗に対して大本営が行った海と陸からの包囲・監視は、深海棲艦と喰種の脅威に逆に包囲されるという最悪の形で終わった。