毎日艦娘達の身の回りの世話や鎮守府内の清掃、改修、警備…以前とはかけ離れた生活スタイルにどっぷり浸かって呑気に過ごしていた。
そんな時、明石から声をかけられる。
「待たせたな。」
そう、再びジョブチェンジの時が来たのだ。
喰種の戦場は地上から海へと変わる。今度は海を染め上げる、奴等の血で…
〜工廠〜
明石「ふう…よし、完成ー!」
夕張「いや〜、なかなか良い出来じゃないこれ?結構時間、というか日数かかったけど。」
明石「そうだねえ…地味にこれ作るの1ヶ月もかかったもんね。」
夕張「長かった〜。んじゃ、お披露目しますか。」
ゴソゴソ んしょ… ちょっと、なんで上着てないのよ
え?暑いから てかこれ何? いいから動かないでよー 夕張…あんたどこ触ってんのよ
えっ⁉︎いや… えへへ 明石姉…俺もうお嫁にいけないわ… ぶふっw 何今のw
あんた達あとでシバくから ご、ごめんなさい… なんで俺まで…
〜出撃ドッグ ゲート前〜
ガヤガヤ 一体なんだろう? 新しい子でも来たのかな?
何か聞いてる? 知らないですね お姉様は何か知ってますか?
長門「明石と夕張に言われてみんなを集めたが…一体何が始まるんだ?」
陸奥「また何か作ったんじゃない?それとも…いや、建造の指示は出してないし、んー…」
大淀「ここ最近篭ってばかり…変な発明でもしてなければいいけど…」
ゲート前には艦娘達と妖精達が集まって何事かとずっと話していた。「みんなを集めてね!」とだけしか言われてないから何があるのか、何がしたいのか分からない。その場で聞けばよかったが明石も夕張もすぐに立ち去ってしまったから聞きそびれてしまった。大淀の言う通り、これで変な発明のお披露目だったら…頭が痛い。
金剛「ヘーイ、長門。明石から何か聞いてマスカ〜?」
長門「いや、聞きそびれてな…私も分からない。」
金剛「アー…ソウデスカ〜……これでつまらないショーだったらfuckデース。」
陸奥「ちょっと金剛、最近言葉遣い荒くなってない?隼斗みたいよ。」
金剛「……what?」
長門「確かに、隼斗みたいだな。」
大淀「駆逐艦の子達も時々同じ言葉遣いしますからね。私達がちゃんとしてないとだめですよ?」
金剛「oh…気をつけマース…」
明石「あー、あー…えー、お集まりの皆様、大変お待たせしました!」
艦娘・妖精達「……‼︎」
声がする方へ視線を向けるといつの間にか明石がゲート横の通路扉から出てきており拡声器で話し始める。なんでもここ最近篭っていたのは極秘裏に艦娘を建造しており、今日建造終了したからそのお披露目だという。その割には資材が減っていないが…どういうことだろうか。もう全くわからん。
明石「ではでは、新たに着任した艦娘の登場でーす!」
ガコン ゴゴゴゴゴゴゴ
ゲートが大きな音を立ててゆっくりと開いていく中、全員がどんな艦娘が来るのか注目していた。極秘裏に建造された艦娘とは一体誰なのか各々が想像している間にゲートが完全に開き、中から勢い良く飛び出してくる艦影あり。
長門「なっ⁉︎あ、あれは…‼︎」
大淀「嘘でしょ⁉︎」
電「はわわ‼︎」
漆黒を連想させる黒塗りの艤装と大弓、肩に装備された飛行甲板。鍛え上げられた肉体…見覚えのある顔。
艦娘・妖精達「は、隼斗⁉︎」
隼斗「じゃじゃーん。これで俺も艦娘だあー!アハハハハハハハ‼︎‼︎‼︎‼︎」fooooooooo‼︎‼︎‼︎
長門「あー…これはこれで頭が痛くなりそうだ…」ううぅ…
大淀「あの戦闘狂の隼斗が空母だなんて…資源が…ボーキサイトが消し飛んじゃう…」白目
陸奥「ちょっと、2人とも大丈夫?」
そんな2人を他所に大弓を構え矢を射る真似をしたり、装備した艤装を見ては子供みたいにはしゃぐ隼斗。それを見ていた妖精達が一斉に飛び立ち隼斗の周りをふわふわと漂いながら話しかけていた。頭の上や肩に座ったりと戯れている光景は艦娘そのもの。とても喰種とは思えない。
長門「仕方ない。鳳翔、隼斗の指導係をお願いできるか?いくら喰種でも海では素人だからな。基本から教えて欲しい。」
鳳翔「分かりました。私が責任を持って指導しますね。」
長門「…すまない。相談を受けていながら任せてしまって…」
鳳翔「いえ、気にしないでください。それに、指導係になるということはそれだけ長く接することになりますから色々と教えることが出来る
と思うんです。ちゃんと聞くかは別ですけどね。」クスクス
2人して笑った後、口笛を吹きながら優雅にスイスイ動きまわる隼斗に声をかけると、そのまま近くまで来て首を傾げて2人を見上げる。
長門「隼斗、今日から鳳翔に指南してもらうんだ。いいか、ちゃんと言う事聞くんだぞ?迷惑かけちゃダメだからな?」
隼斗「うん。」
鳳翔「ビシバシ厳しく指導するからね?いい?」
隼斗「うん。」
長門・鳳翔「……(え、気持ち悪いぐらい素直なんだけど…)」
「うん。」と頷く隼斗を見て2人はまるで子供みたいだと思っていた。返事した後は再び口笛を吹きながらスイスイ動きまわりだす。ドッグから艤装を装着した夕張が出てきては後ろから抱きついてちょっかいを出している。それを見ていた電と叢雲がドッグへ走り、同じく艤装を装着して合流しては自分達もと隼斗の手を握り引っ張りまわしていた。途中、何度も転んではびしょ濡れになり、口に海水が入れば悲鳴を上げて咽せる。
それがあまりにも面白くてみんな笑っていた。
鳳翔「では、隼斗。早速始めますよ。弓以外を戻してから私のところへ来なさい。」
隼斗「はーい。」
〜弓道場〜
場所は変わり、鳳翔、赤城、加賀が鍛錬する場所であり、彼女達の神聖な場所「弓道場」へとやってくる。同じ鎮守府内にあるにも関わらずここはとても静かだ。良い意味で静まりかえっていて心を落ち着かせるには最高な場所。
鳳翔「では、まずは精神統一から始めましょうか。隼斗、ここに座りなさい。勿論、正座ですよ?」
隼斗「正座か…あまり長くは保たないけど。これでいいの?」
鳳翔「いいですよ。では、次は目を閉じて心を静めてください。雑念を払い、研ぎ澄ましなさい。」
隼斗「はーい。」
正座する鳳翔の隣で同じように正座して目を閉じる。雑念を払い研ぎ澄ます、これなら簡単だ。静かに、そしてゆっくりと息を吐き心を静めていく。俺はこれから空気になるんだ。
隼斗「………………」
鳳翔「……(とても静かですね。雑念が一切感じられない…心に波一つ立っていない。ここまでとは…正直驚きました。)」
〜30分後〜
鳳翔「……(思いの外長くなりましたね。隼斗は…)…あら、うふふ。」
隼斗「……(そろそろ足がヤバイ…)…あ、タイミングピッタリ。」
2人共同じタイミングで目を開け、同じタイミングで横を向きお互いに目と目が合う。まさかこうなるとは思っておらず2人して笑った後、正座から楽な姿勢に座り直していた。
鳳翔「とても静かでしたね。波一つ立てず、ずっと静かでした。雑念も全く感じなかった…こうも大人しく出来るなら普段からして欲しいも
のですね。」クスクス
隼斗「え〜、俺普段からそんなにうるさいかな?」
鳳翔「冗談です♪あ、今ので少し波が立ちましたね。ショックだった?」
隼斗「ちょっとだけね。あー、鳳翔姉さんの意地悪〜。」むっす〜
鳳翔「はいはい、よしよし♪」
隼斗「むー…子供じゃないんだけど…」
鳳翔「その割には嬉しそうですよ?正直になりなさい。」
隼斗「嬉しい。」
鳳翔「はい、よくできました♪えらいえらい♪」ナデナデ
隼斗「ん〜…はわあぁ〜……落ち着くにゃあ…」
語尾に「にゃあ」をつける発言に流石の鳳翔も吹き出してお腹を抱えて笑い出す。「そこまで笑わなくても…」と再び頬を膨らませて不貞腐れる隼斗を見て微笑みながら頭を撫でる。人を喰らい、殺しを楽しむ一面もあるが、それ以外ではこうも感情表現が豊富で時折子供みたいなところを見せる。
隼斗「んあ…鳳翔姉さん、次は何すんの?」
鳳翔「次は矢を射る練習です。まずは手本を見せますからよく見ててください。」
そう言って立ち上がり弓と矢を持ち的前に立つ。ジッと見ていた隼斗は弓を構える鳳翔の纏う空気が変わったことに気づく。だがそれよりも目を奪われたのが鳳翔の動きである。構える前から矢を放つまでの一連の動きはゆっくりだが綺麗、というより美しく見えていた。そして、遂に放たれた矢は的の中心に見事に突き刺さり、それを見て自然と拍手を送る。
鳳翔「……あら、ありがとう。でも、隼斗も日々の鍛錬を怠らず精進すればすぐにできますよ。」
隼斗「そうかなぁ…的をブチ抜くことは出来ても鳳翔姉さんのような綺麗で美しい動作までは自信がないね。」
鳳翔「大丈夫。私が指導しますから必ず出来ます。赤城ちゃんや加賀ちゃんにも負けないぐらいの立派な空母に育て上げます。」
隼斗「んじゃ、俺も頑張らないとね…て、赤城ちゃん加賀ちゃん?」
「えっ?」という顔で見てくる隼斗に首を傾げる鳳翔。首を傾げる鳳翔姉さんも素敵、可愛い…違うそこじゃない。いや間違えではないがそこじゃない。普段はさん付けなのに何故ここではちゃん付け?
隼斗「え、2人のことはちゃん付けで呼んでるの?」
鳳翔「ええ、そうだけど。私からしたら2人は妹というよりかは娘のような存在だからね。」
隼斗「娘…え、待って。もしかして、お母さん⁉︎」
鳳翔「ふふ、そう呼ばれることもあるわ。ほら、また脱線しちゃうから隼斗こっちに来なさい。今から射法八節をあなたに教えます。」
隼斗「あ、はーい。(射法八節…なんかカッコいい。)」
厨二心に火がつきそうだと思いながら弓を持って近くに歩いていく。まさかここから鳳翔の新たな一面を見ることになるとは、本当にビシバシ厳しくされるとは思っておらず、後に「鳳翔姉さんには絶対逆らっちゃだめだ。」と、どこか遠くを見つめながら隼斗は語ることになるのだった。
〜数時間後〜
出撃や遠征を終えた艦娘達が続々と鎮守府に戻ってくる。皆、報告や食事を行い再び出撃する者や休息に入る者の中に弓道場へ向かう赤城と加賀の姿があり、間宮から鳳翔と隼斗がまだ来ていないと聞き様子を見に行っていた。
赤城「隼斗はいいとして、鳳翔さんが食事もせずに弓道場から出てこないなんてちょっと心配ですね。」
加賀「そうですね。あの子が何か迷惑をかけてなければいいですが…」
そんな会話をしながら弓道場へ到着。扉を開けて中へ入ると弓を構える隼斗とその少し後ろで正座してジッと見つめる鳳翔の姿が目に入り2人は静かに扉を閉めて鳳翔の元へと歩いていく。
鳳翔「あら、2人ともおかえりなさい。隼斗の様子を見に来たのですか?」
赤城「隼斗というより鳳翔さんの様子を見に来ました。まだ食事もされてないと間宮さんから聞いたので心配で…」
加賀「私も心配で赤城さんと一緒に来ました。それとあの子が何か迷惑をかけていないかの確認もですが。」
隼斗「……ん?あ、おかえり。」
赤城「ただいま。ちゃんと鳳翔さんの言うこと聞いてた?」
加賀「迷惑かけてない?鳳翔さんを困らすようなことしてないかしら?」
隼斗「んや別に何も。ちゃんと聞いてるけど…」
鳳翔「2人とも心配し過ぎですよ。ごめんなさいね、隼斗。気にせず続けなさい。」
その言葉に頷くと再び前を向いて弓を構える隼斗を2人は鳳翔の隣で正座して眺めることにした。静かに眺める2人はすぐにあることに気づいた。弓を構える隼斗からとても静かで、それでいて鋭い殺気を感じる。長門が言っていたように心臓を握り潰されるような鋭く禍々しい殺気が溢れて空間を支配していた。
赤城「(空気が重い…身体が動かない。これが長門さんや金剛さんが言っていた隼斗の殺気。これほどのものだったなんて…)」
加賀「(あの時は提督や憲兵達に意識がいってたから分からなかったけど。流石、とでも言うべきかしら…)」
シュッ バンッ
赤城「…ど真ん中。初日で…なかなか筋が良いわね。」
鳳翔「筋が良いだけでなく、飲み込みも早くてね。それに、まだ凄いものが見れるわよ。」
加賀「…と、言いますと?」
鳳翔「見たら分かりますよ。隼斗、第2射構えなさい。」
鳳翔の指示に答えることなく言われた通りに再び弓を構えて的を狙い2射目を放つ。真っ直ぐ勢い良く放たれた矢が1射目と同じ軌道を描き的に刺さった1射目の矢と全く同じ箇所に突き刺さる。その際、1射目の矢は矢羽から鏃まで2射目の矢によって放射状に引き裂かれてしまう。まるで人間を赫子で串刺しにして内側から肉を引き裂くように。弓を降ろしてこちらに振り返る隼斗の眼は赫眼状態と溢れる殺気が相まって抑えきれない程の恐怖心を呼び起こす。鳳翔は微笑んでいるが、この状態の隼斗を初めて直視した赤城と加賀は冷や汗をかき目を逸らすことが出来ず身動きが取れないでいた。正に、“蛇に睨まれた蛙”とはこのことかと2人は身を持って思い知らされた。
隼斗「赤城姉!加賀姉!ねえねえ、今の見た⁉︎どう?凄い?」
赤城「え、あ、あぁ…凄いわね。びっくりしちゃった。」
加賀「そ、そうね。筋が良いから期待しても良さそうね。更に精進しなさい、隼斗。」
隼斗「っしゃああああああ!2人にも褒めてもらえたー!」
急に普段通りの感じで声をかけてくる隼斗に少し動揺しながら返答する2人。つい先程までの殺気は、あの禍々しい殺気はどこへ行ってしまったのか。あまりにも落差が激しく極端過ぎてどう反応すればいいのか困惑する2人を鳳翔は微笑んで見ていた。
流石は鳳翔。これが“艦娘のお艦”そして、“全ての空母の母”であり“空母の原点にして頂点”である彼女の佇まい、風格なのだろう。自分達が娘であるならば、彼女にとって隼斗は息子なのであろう。やんちゃ坊主程度としか思ってないのかも…鳳翔さん恐るべし。
鳳翔「2人とも呑まれてましたね。かくいう私も最初は全く同じでしたが。」
赤城「ちゃんと見たのは初めてだったので…あれほどとは思ってなくて…私もまだまだですね。」
加賀「私もです。話に聞いていた以上でした。私達でさえこの状態、対峙する人間が絶望するのも無理はありません。」
一息ついて冷や汗を拭いながら答える2人とは違い、上機嫌で的の横に行き刺さった矢を抜き、そして自分が壊した矢をまとめて一緒についてきた整備妖精達にそれぞれ手渡していく。
隼斗「…んしょ、ほい。妖精さんお願いします。」
整備妖精1「はーい、お預りしまーす。」
整備妖精2「矢1本につき、金平糖2つ所望します。金平糖寄越せー!」
隼斗「今ないから後で工廠に持ってくわ。それに2個じゃなくて5個あげる。」
整備妖精1・2「えっ⁉︎5個もくれるの⁉︎じゃあ…全部で、ご、ごご、50個⁉︎」
隼斗「1袋分だね。いつもありがとう、お疲れ様です。」
整備妖精1・2「やったー!隼斗大好き!ありがとー!」
「わー!」と喜びながらふわふわと飛んでいく整備妖精達を見送った後3人の元へ歩いてくる。隼斗はそのまま鳳翔の前で正座して弓を自分の横に寝かせ鳳翔に対して一礼する。
鳳翔「はい、よくできました♪一旦ここまでにして休憩しましょう。お疲れ様です。」
隼斗「鳳翔姉さんも、お疲れ様です。ありがとうございます。」
赤城「(あの隼斗が床に手をついて頭を下げてる。)」
加賀「(長門さんと電ちゃん、そして叢雲ちゃんにしているところ以外見たことないから何か新鮮ね。)」
鳳翔「赤城ちゃん、加賀ちゃん。これからは隼斗の姉として空母艦娘の先輩として、隼斗にあなた達の立派な背中を、そして一航戦の誇りを
見せていきなさい。いいですね、赤城ちゃん、加賀ちゃん?」
赤城「はい!…て、鳳翔さんその呼び方は3人の時だけって!」
加賀「い、今は「さん付け」で…隼斗の前でそれは…」
2人が慌てて止めに入るも鳳翔は「あら、つい…♪」と微笑むだけ。そして、それを聞いて口に手をあててニヤついてる隼斗が目に入る。
隼斗「赤城ちゃんに加賀ちゃん。可愛いねw」ニヤニヤ
加賀「頭にきました。」
赤城「隼斗、ちょっとこっちに来なさい!」
隼斗「ぎゃあああ!離せってばなんで怒んだよ!…いだだだだだ⁉︎」
鳳翔「うふふ、本当に仲が良いんだから♪(ずっとこうやって笑っていられるように、私が出来ることをみんなにしていきましょう。そして、
いつの日か隼斗を戦いから解放してあげたい。戦わず、私達と一緒に笑って過ごす日々を送らせたい。必ず…)」
その場で掴み合いになっている3人に声をかけて引き離したあとは全員で食堂へ向かう。ようやく現れた鳳翔を見て安心した表情で迎える間宮はすぐに鳳翔のご飯をお盆に乗せて運んでくる。何故か赤城と加賀もてんこ盛りの定食を自分で用意しては鳳翔を挟むように座り一緒に食べ始める。
間宮「隼斗にはこれ。その、比叡さんから渡してくれって言われたんだけど…」
鳳翔・赤城・加賀「……ゴフッ‼︎(あ、あれは…一体、何?)」
隼斗「あ、比叡お姉様作ってくれたんだ。いただきまーす。」
間宮が苦笑いで持ってきた「比叡特製隼斗定食」。比叡特製カレーと比叡特製豚カツ(本当に豚肉かは不明…というか判別できない)という恐らく世界で隼斗しか食べられないメニューである。最初に食べたあの日から比叡が日々研究を重ねて作り上げた現時点での最高傑作?と言われている。初めて聞いた時は耳を疑ったが普通に食べているところを見て、なんとも言えない不思議な思いだったのを覚えている。
嬉しいような、いやでももっと他になかったのか…と複雑だった。
隼斗「もぐもぐ……やっぱこれ何肉使ってんだろ。人間以外思いつかないけど…あの爺、未だ送ってこないからその線はないし、うーん。」
赤城「ちょっと隼斗、ステーキと豚カツ、唐揚げが食べれなくなるから言わないでよ。」
隼斗「……いや、今も十分食べれてんじゃんか。ほら、口の横にソースついてるって。もう…」スッ
布巾を持ち身体を乗り出して赤城の口元に手を伸ばす隼斗に対して加賀が超絶反応で顔を向ける。だが、時すでに遅し。
加賀「あ…(それは私が…出遅れた‼︎)」
赤城「…え?あら、ん……「ほい、いいよ」…ありがとう。これでチャラにしてあげるわ♪」
隼斗「んだよチャラって。俺何も悪いことしてませーん。」ベー
加賀「頭にきました。」ゲシッ
隼斗「痛っ‼︎なんで加賀姉が怒んだよ…しかも脛蹴りやがって…イテテ…」
鳳翔「こら、2人とも食事中に暴れては駄目ですよ?」
間宮「そうですよ。もう、2人とも大人なんだからお手本にならなきゃ駄目でしょ?」
加賀「ご、ごめんなさい。以後、気をつけます。」
隼斗「はーい、ごめんなさい。てかマジで痛いんだけど加賀姉…」
加賀「あら、そこまで柔だったなんて…知らなかったわ。ごめんなさいね?」チラッ
隼斗「……あぁ?馬鹿にすんのもいい加減に…」ガタッ
鳳翔「2人とも、二度も言いませんよ?どうすべきか…分かりますね?」
加賀・隼斗「……は、はい。ごめんなさい…」シュン…
赤城・間宮「……(これがお艦の威厳。流石です、鳳翔さん。)」
鳳翔に怒られて急に静かになった2人を赤城と間宮は苦笑いしながら見ていた。でも、やはり鳳翔は優しい。横に座る加賀の頭を微笑みながら優しく撫でて顔を覗いている。そして加賀の表情が一瞬でパアァと明るくなりとても喜んでいる。あの表情は鳳翔以外には見せたことはないなと誰もが思うぐらいの笑顔。続けて隼斗にも同じことをするも、男だからか恥ずかしいようで少しだけ顔を背けていた。でもやはり嬉しいのだろう。背けていた顔も元に戻して嬉しそうに撫でられている。そんな2人を見て赤城も頭を撫でてくださいと鳳翔の肩に擦り寄せ始めてしまうがそれにも笑顔で対応する鳳翔を見て改めて鳳翔はみんなのお艦だなと間宮は思う。
今目の前にある光景が正にそう。子供達にご飯を食べさせ、食事中に喧嘩を始めた2人を怒るも優しく撫でてちゃんと元気付け笑顔にさせる
優しい母親だ。ただ、その子供達…食べ盛り過ぎる娘2人とやんちゃ過ぎる息子1人。
間宮「(鳳翔さん、大変だろうけど頑張ってくださいね!)」グッ
鳳翔「……?今、誰か私に声かけました?」
赤城「え?いや、私は声かけてないですが。加賀さん?」
加賀「いえ、ずっと食べていたので違います。隼斗ではなくて?」
隼斗「んあ?ちげえけど…て、加賀姉も口にタレついてる。もう、赤城姉も加賀姉もなんでこう口につくかね…」
加賀「ちょ、自分でやるから…‼︎んっ…「あー、もう遅い。ほい完了」…あ、ありがとう。でも次は自分で拭くからしなくていいわ。」
鳳翔「加賀ちゃん、そこは口の横につかない食べ方をするようにしないとだめよ?」
加賀「そ、そうでした。すみません、鳳翔さん…って、だからその、みんなの前で“ちゃん付け”は恥ずかしいのでだめです///」
隼斗「ぷぷっ、加賀ちゃ…「隼斗〜?また頬つねられたいのかな〜?」…赤城姉、まだ何も言ってないからそんな目で見ないでよ…」
両手を伸ばして意地悪そうな表情で言う赤城に少し怯えながら言い返す隼斗に皆笑い出す。本当にこの鎮守府は隼斗が来てから変わった。とてもいい方向に変わった。隼斗が前提督に代わり鎮守府に君臨することはなく、どちらかといえば自分達艦娘の言うことを大人しく聞いてくれる(さっきみたいに反抗的な態度をとることもあるが基本的に隼斗が返り討ちにされることが多い)
唯一、自分達ではどうすることもできないことは隼斗が戦闘状態に入った時。その時は完全にブチ切れて喰種の本能全開で対象を完全殲滅するまで暴れるから此方も甚大な被害を被る恐れがある。だから、その時はただただ見守ることしかできない。艤装を用いればあるいは、と考えたこともあるが誰もそうはしたくないと思っている。大事な家族を傷つけたくはないし、何よりその状態の隼斗の前に立った時に深海棲艦と同じように戦えるか分からないというのもあるからだ。相手は同じ海を主戦場とする深海棲艦ではなく、別世界から転生した地上を主戦場とする喰種で、これまでとは全く異なる赫子を用いて戦う相手にどこまで対抗できるか余りにも未知数である。
何と言ってもその戦い方が非常に残忍極まりないことも戦いたくない要因の1つだ。あのような戦い方、殺し方、死に方…そして嬉々と肉を引き裂き、血肉を喰らい、狂気に満ち溢れ歪んだ笑顔を見せられたら誰だって恐怖に負け絶望し、簡単に戦意を砕かれるに決まっている。それ以外はただのやんちゃ坊主でロリコンなのだが…本当に極端過ぎて困る。
その後、後片付けして再び訓練に戻る鳳翔と隼斗。そこに赤城と加賀も加わりどうやら次は実際に海に出ての訓練を行うらしい。
こうして着実に力をつけていく隼斗が艦隊に組み込まれ海域攻略や遠征に出る日もそう遠くはなく、そして戦争関係無く深海棲艦と喰種の熾烈な戦いが起きることも今はまだ誰も知らない。