「はあはあ…もうだめです。これ以上は…」
「諦めちゃだめ!絶対みんなで生きて帰るの!」
無事に包囲網を突破した第1艦隊だったが側面と後方から尚も追撃、強襲を仕掛ける深海棲艦にジリ貧の戦闘を強いられている状況だった。途切れることのない攻撃が少しずつ、だが確実にこちらの体力と弾薬、燃料を奪い士気も戦意も徐々に削られていく。第2艦隊との通信は可能だがあちらもかなり劣勢の状態であることが確認出来た為、現在合流すべく近くにある孤島へと向かう。
真っ直ぐに鎮守府へ向かうのが最善の策ではあるが一度体制の立て直しと再編成の必要があると判断した為のやむを得ない選択だった。
1番気がかりなのは隼斗の意識が戻らないこと、これまで負傷しても再生していたにも関わらず今回はその兆候が見られない。
再生速度が明かに遅いことに違和感を感じるが自分達にはどうすることも出来ずもどかしい思いをしながらひたすら孤島を目指す。
撤退を始めて40分後、ようやく第2艦隊と孤島で合流。一時的に陸地へと上がり隠れるにはうってつけの洞窟を見つけては全員で中へと入りようやく一息つくことが出来た。だがゆっくりする訳にもいかず応急措置に艤装の点検、燃料弾薬の残量残数確認を行いながら、これからどうすべきか話し合うことにした。
金剛「やはり、ここは戦力を集中して一点突破するしかナイネ。燃料はまだ何とかなるケド、弾薬と艦載機の残りが厳しい以上はそれしか方法はありまセン。それに鎮守府にも別働隊が攻め込んで増援が望めないとなると…」
赤城「それしかありませんね。艦載機の数は確かに少ないですがこちらの航空戦力はまだ健在ですので制空権は何とかなりそうです。」
霧島「金剛お姉様、あとは頃合いを見て一気呵成に突撃するだけですが、とりあえずは偵察に出た榛名の報告を待ってからでもいいかもしれません。」
加賀「榛名なら戻ってきたわ。さあ、さっき私に伝えたことをみんなにも報告してちょうだい。」
榛名「まず最初に、ここからの脱出はほぼ不可能です。理由は、島を完全包囲された上に通ってきた入江の入口は特に厳重に抑えられてる。それと更に敵の増援、戦艦棲姫が更にたくさんの深海棲艦を引き連れて来て正面に展開。迎え撃つ気満々です。」
金剛「…チッ、厄介な奴が来たもんデスネ。これも全て戦艦棲姫の作戦通りで私達は掌の上で踊らされてるってことデスカ…」
苛立つ金剛を隣で比叡が宥めている間にも時間は過ぎていく。苛立っても仕方ないと分かってはいるがどうしてなかなか抑えられない。
奥では手当てを終えた隼斗に必死に声をかける吹雪と叢雲の声が聞こえてくる。それを聞いて更に焦りが込み上げてくる。
赤城「隼斗に一体何が…再生が進んでないなんて。」
鳳翔「以前までは生えてこなくとも傷口はすぐに塞がってたんだけど、今回はそれが起きていない。原因は分かりませんがこのままだと命の危険があることは明白です。何としても鎮守府に帰り、隼斗を助けないと。」
金剛「時間が惜しいネ…皆さん、ここで立ち止まってても仕方ありマセン。覚悟を決めていきますヨ。」
鳳翔「そうですね。行きましょう!」
再び艤装を纏い立ち上がると静かに洞窟を出ていき、遡って来た川を目指す。途中、敵の艦載機が頭上を通りヒヤッとする場面もあったが何事もなく通過していったことに少しだけホッとする。だが問題はここからだ。入江に出る手間で再度前方を確認すると報告通り大量の深海棲艦が隊列を組んで入口を封鎖している。何処にも隙が無い布陣に再び舌打ちをする金剛だが、最早他の選択肢はない。
ふと後ろを振り向けばみんなが自分を見ていた。誰の目にも諦めは感じられない。先程まで泣き続けていた吹雪も叢雲も強い眼差しをしている。誰もここで終わるつもりはない。死ぬ気は無いと。
何も言わず頷くと全員が頷き返す。そして大きく深呼吸して突撃の号令を出す金剛を先頭に決死の突撃を開始。
それに気づいた深海棲艦達の砲撃と雷撃、そして艦載機による爆撃が雨の如く降り注ぐ中を進んで行く。
金剛「退きなサイ!この、虫ケラ共!!」
霧島「いくわよ、全門斉射ー!」
比叡「榛名!10時の方向にル級elite!」
榛名「確認済みです!ってぇー!!」
鳳翔「赤城ちゃん、加賀ちゃん、全航空隊発艦!!何としてでも制空権を確保します!」
赤城・加賀「了解!!」
吹雪「叢雲ちゃん、私が援護するから隼斗お兄ちゃんのことお願いね!」
叢雲「分かったわ、絶対守る。絶対生きて連れて帰る!」
大艦隊で包囲、待ち構えていたにも関わらず金剛達の決死の突撃と士気の高さに圧倒され次々と沈んでいく深海棲艦達。
だがそれでも未だ数の利は深海棲艦にあり体制を立て直されたらひとたまりも無く物量で押し潰されるのは明白だ。だから進む。
攻撃の手を緩めず、足も止めず、ただ真っ直ぐに突き進む。この勢いを殺してはならないと、止まれば死ぬと、だから前へ前へと突き進む。
戦艦棲姫「無駄ナ足掻キヲ…正面ヲ固メテ壁ヲ作リ、両翼カラ擦リ潰セ。」
タ級elite 「ハハッ!姫様ノ御命令ダ!第6〜8艦隊ハ正面二集結、第10〜14艦隊ハ両翼カラ強襲セヨ!」
比叡「……!金剛お姉様!敵に動きが!」
金剛「一丁前に戦術を使うナンテ…ホント厄介ネ、アイツ!!」
鳳翔「私が切り開きます。隊列が乱れたところを狙ってください!」
金剛「任せましたヨ鳳翔!比叡、榛名、霧島!全火力を叩き込みますヨ!いいデスカ⁉︎」
比叡・榛名・霧島「はい!!!」
鳳翔「…!全航空隊、突撃してください!!」
隊長妖精「うおーーー!!こうげきぃぃぃぃぃぃ!!!」
妖精「たいちょうにつづけー!」
妖精「おりゃおりゃおりゃーーー!!!」
鳳翔隊による急降下からの爆撃と機銃掃射。激しい対空砲火を浴び撃墜されながらも怒涛の勢いで敵の大艦隊に肉薄していく。
一機、また一機と墜ち妖精達の叫び声や墜落しながらも果敢に声を上げて一矢報いる姿に鳳翔は唇を噛み締め涙を堪えた。
何度も何度も「ごめんなさい」と心で謝った。無謀な攻撃をさせて申し訳ないと。だがその結果、僅かに隊列が乱れた。
そしてそれを金剛は見逃さない。大声を上げて号令を出す。金剛姉妹による戦艦4隻の全門斉射がその僅かな乱れに決定打を叩き込んだ。
金剛「よし…!全艦、全速前進!あの隙間から抜けるネ!」
戦艦4隻の全門斉射で敵の隊列に大穴を開けることに成功した。赤城と加賀の航空隊の援護も加わり突破は確実のものとなった。
まだ気を抜くことは出来ないが絶望的状況は脱することが出来る。そう確信したその時、突如爆煙の中から巨大な拳が現れ先頭にいた金剛を吹き飛ばした。何が起きたのか分からないまま金剛は海の上に激しく叩きつけられる。
視界は歪み、平衡感覚がおかしい。耳鳴りも酷く呼吸も苦しい。比叡が近くで抱き起こし声をかけているが何を言ってるのか分からない。
榛名も霧島も自らの身体を盾にして守っている。
金剛「……に…逃げ、な………サイ…」
比叡「お姉様!しっかりしてください!」
榛名「金剛お姉様!くっ…!きゃあああ!!」
霧島「榛名⁉︎この、よくも…!」
鳳翔「金剛さん、しっかりしてください!金剛さん!」
叢雲「そんな…!きゃっ!くっ、あ…隼斗!」
吹雪「叢雲ちゃん大丈夫⁉︎って…あぁ、あああぁぁ…!」
金剛が大破、そして榛名も集中砲火を浴びて大破し遂に足が止まってしまう。霧島も比叡も中波、赤城と加賀も多くの艦載機を失い最早航空戦力は損失したと言っていい状態だった。そして叢雲も敵機の急降下爆撃で吹き飛ばされその衝撃で抱きかかえていた隼斗を離してしまう。
その隼斗を掴み持ち上げるは巨大な巨軀を持つ怪物だった。
戦艦棲姫「突破デキナクテ残念ダッタナ。アト少シノトコロダッタノニ…マア、ヨク頑張ッタ方ダ。」
比叡「戦艦棲姫…!よくも、よくも金剛お姉様を…!」
戦艦棲姫「イイ顔ダ…ソウダ、モット憎メ、モット恨メ、ソウスレバ…オマエハイイ深海棲艦ニナレル。フフフ…アハハハハハ!!」
比叡「ふざけるな!誰が深海棲艦なんかに…!って、叢雲⁉︎」
叢雲「隼斗を、返しなさい!!」
艤装獣「…!ヴォォォ!!」
ドンッ!! バキッ メキメキッ
叢雲「…ッ、きゃああああああああ!!」
比叡「叢雲!くっ、やめて!それ以上は!」
叢雲は一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けるが、戦艦棲姫の艤装獣は巨軀に似合わぬ素早い動きで躱し金剛を殴り飛ばしたように叢雲を空中で捉えて海に叩き落とすと叢雲の胸を足で踏みつける。叩きつけられた衝撃と踏みつけにより口から大量の血を吐きながらもがき苦しむ叢雲を見て面白がる艤装獣。戦艦棲姫は見向きもしないがその表情は愉悦に浸っているようだ。
戦艦棲姫「ソレニシテモ、妙ナ奴ガイテ苦戦シテイルト聞イテイタガ。大シタコトナカッタナ…興醒メダ、殺セ。」
吹雪「いや、やめてぇぇぇ!」
叢雲「くっ…ゲホッ、や、やめ…て…!」
艤装獣「グウウゥ…グウォォォ!!」
グググ ブチッ ブチブチ!!
叢雲「いや…いやああああああ!!隼斗!ゲホッ…ゴフッ!隼斗、隼斗ー!」
金剛「あ…あぁ……そ、んな…(隼斗…私の、大事な隼斗が…)」
鳳翔「そんな…隼斗…」
加賀「鳳翔さんしっかりしてください!」
戦艦棲姫の命令に従い、艤装獣は隼斗の胸から上の辺りを鷲掴みすると一気に力を入れてそのまま身体を引き千切る。
それもまるで叢雲に見せつけるかのように目の前で豪快にやる。降り注ぐ隼斗の血が叢雲を紅く染めていく。
叢雲の悲鳴が響く中、艤装獣は更に楽しみたいのか千切った隼斗を食べ始める。隼斗が人間を喰らうように艤装獣もまた同じように喰らう。
骨を砕く音、肉を咀嚼する音、滴り落ちる生暖かい血液が叢雲を更に苦しめていく。
完全に戦意は砕かれた。大事な家族が目の前で殺された。しかもあの隼斗がだ。強さでは並ぶものがいないと思っていた隼斗がこうも呆気なく死んでしまった。
ーーんあ?金剛お姉様、寝癖やばくね?ーー
ーー紅茶ねえ…美味しいとも思わねえよーー
ーー人生損してマスネ。飲めるようになったら私直々に美味しい紅茶淹れてあげマース!ーー
ーーいやいつだよそれ…まあ、楽しみにしとくよーー
金剛「はや、と…まだ、やくそ…く…」
戦艦棲姫「ソロソロオマエタチモ苦シイダロウ。今スグ沈メテヤル。」
そう言って片手を上げ再び艤装獣に命令を下す。それに従い大きく足を上げ仰向けに横たわる叢雲に向けて振り下ろす。
誰もが目を背け、叢雲も諦めて目を閉じた。が、一向に衝撃が来ない。そして周りの者は潰される音が聞こえない。
恐る恐る目を開きゆっくりと視線を向けると艤装獣の足が寸前で止まっていた。しかもよく見ると何故か足が震えている。
ただ震えてるというより、何かに抗うかのような震え方。何故なら艤装獣はその間にも振り下ろした足に力を入れたり重心を傾けたりしているからだ。明らかにおかしい。
戦艦棲姫は気づいていないのか何度も命令を出すが艤装獣は全く叢雲を踏み潰さない。それどころか急に暴れ始め戦艦棲姫に襲いかかる。
先程の叢雲のようにもがき苦しみながら腕を振り回し声を上げ、それもどんどん酷くなっていく。
戦艦棲姫「ヤメロ!何故ワタシノイウコトヲ聞カナイ!」
比叡「なによ、一体何が…」
霧島「待って。あれは何?黒い、血管?」
比叡「え?」
霧島が指を指す方を目を凝らして見ると艤装獣の両脚と両腕に黒い血管が浮き出ていた。しかも次々と張り巡らされ次第に胴体まで侵食していく。同時に艤装獣の咆哮が悲痛な叫び声に変わっていき、遂にはその場から動かず自分の身体や腕を殴り始める。
理解が追いつかない状況は金剛達も含め戦艦棲姫もその他の深海棲艦も同じで迂闊に近寄れずただただその光景を眺めることしか出来ないでいた。
艤装獣「ヴオォォォォォォ!!!」
天を仰ぎ一際大きな咆哮をあげた瞬間、「ゴシャ!」という音と共に口の中から黒く蠢くモノが飛び出した。
血を吹き出しゆっくりと仰向けに倒れる艤装獣。だが異変は更に続き艤装獣の腹部がボコボコと膨らんでいく。
黒い血管が脈打ち、黒く蠢くモノも同時に脈打つ悍しい光景に恐怖を抱いた時、張り裂けんばかりに膨らんだ腹部を突き破って黒く、そして青い血を纏った腕が現れる。
戦艦棲姫「ナンダ、アレハ…」
比叡「あの腕、いやでも…(まさかそんな筈は…いくら何でも有り得ない!)」
「グググ…ググゥ、&£€※££&※€€※$£※€&※…!」
「ぅぅ…ぅガアアアアアアア!!!!!!」
戦艦棲姫「……⁉︎」
艦娘達「……⁉︎」
腹部からもうひとつ腕が現れたかと思うと内側から腹わたを引き裂き、中から黒い何かで覆われた人のようなモノが咆哮をあげながら姿を現した。その咆哮で海は荒れ、見る者も聞く者も等しく震え上がらせる。人の形をした何か。はっきりと分かるのは頰肉が無くて、白く鋭い歯が剥き出しになった顔に鋭い鉤爪が生えた手、左眼は無く本来1つである筈の右眼が3つになり、ギョロギョロと蠢いていることぐらい。
突如現れた得体の知れない存在に戸惑い、そしてその存在から溢れ出るドス黒いオーラと押し潰されそうな程の重圧と殺気に息が苦しい。
身体も硬直して目を背けることも、艦娘も深海棲艦も本能でこいつは危険だと認識しているのに何一つ出来ない。
「アアァァァァァァ……ギギ…ギギギギギ…!!」ニイィィ
戦艦棲姫「…!全艦、ヤツヲ狙エ!撃テェェェ!!」
それと目が合った戦艦棲姫は瞬時に反応、大声で号令を出す。今殺らねばこちらが殺られる。
これは生かしておいてはいけない、生かしておくべきではない。必ずここで息の根を止める必要がある。
そう瞬時に判断した戦艦棲姫は正しかった。そしてそれはすぐに最悪の形で現実のものとなる。
艦娘などに目もくれず、目の前にいる異形の存在に対して一斉に砲撃。と同時に異形は背中から黒い翼を生やしてはその蠢く翼から迫り来る砲弾に先端が鋭い塊を弾き出して撃ち落としていく。それだけでなく艦娘や深海棲艦のように次弾装填の工程が無い為、連続して打ち出された塊は次々と深海棲艦を撃ち抜いていく。
距離を取った戦艦棲姫は次に爆撃指示を出すが異形の姿がない。
今の今までそこにいた筈の異形が消えたことに驚く暇もなくヲ級の悲鳴が聞こえたので振り向くと「グシャ!」と音を響かせヲ級の顔が握り潰され、指の隙間から零れ落ちる眼球と青い血が海へと還る。
異形は尚も笑い、「ギギギ!」と気味の悪い声をあげて付近の深海棲艦を襲いだす。しかもヲ級とヌ級だけをだ。
戦艦棲姫「(コチラノ航空戦力ヲ潰シニキタ、タダノ化物デハナイトイウコトカ。コノママデハ…!)」
タ級elite「姫様!時間ヲ稼ギマスカラ撤退シテクダサイ!」
ル級elite「我々ガ抑エマスカラ、ドウカ早クオ逃ゲクダサイ!」
戦艦棲姫「オマエ達…」
ネ級「姫様、行キマショウ!アレハ危険過ギマス!姫様ニモシモノ事ガアッタラワタシ達ハ…!」
ヲ級「悲シイ。姫ガイナクナッタラ、誰ヲ頼レバイイノ?」
戦艦棲姫「……分カッタ。ココハ撤退シヨウ。オマエ達、必ズ生キテ帰レ、命令ダ!」
戦艦棲姫の言葉に大きく頷くと再び正面に向き直るタ級eliteとル級elite。必ず姫を守り、生きて帰らせる為にもあの異形を殺す。
そこからは迅速に動き出した。異形に崩された陣形を巧みな指揮で立て直すと包囲陣形から防御陣形へと移行。
密集し分厚い壁を作り戦艦棲姫の背中を固め立ち塞がる。
戦艦棲姫はネ級と生き残ったヲ級、3人を護衛する50隻の深海棲艦に囲まれて海域から撤退を開始した。
その光景を最後のヌ級の口を掴み上下に引き千切りながら異形は見ていた。そして…
「……ハアァァァァ…奪イた、い…貴様達の、“大切”なモノ…!」
そう呟くとヌ級の亡骸を乱暴に投げ捨て深海棲艦達へ突撃する。砲撃と雷撃による集中砲火を浴びながらも最小限の動きで避けつつほぼ一直線に突き進み、瞬く間に到達。そして前面で構えていたイ級やチ級の群を素手と黒い触手でなぎ払いながら尚も前進していく。
比叡「あれって…もしかして、赫子?じゃあ…本当にあれは…」
金剛「隼斗、デスヨ。ゲホッ…はあはあ、だいぶ頭がしっかりしてきたネ。」
榛名「金剛お姉様!良かった、ご無事で。」
霧島「でもあれが隼斗って本当ですか?だって隼斗は、艤装獣に食べられて…普通に考えたら死んだ筈では…」
金剛「そうデスネ、普通に考えれば…でも、あの殺気といい戦い方といい…何よりあの赫子が証拠ネ。引き裂かれて食べられたのにどうやって生き返ったのか分からないケド、常識外れの桁違いな再生力ってことははっきり分かったネ。」
(でも、この胸騒ぎは一体なんデスカ?とても嫌な感じがするネ…)
金剛の言ったことは正しく、異形の存在は紛れもなく隼斗である。姿を変えることは例の商店街での出来事で分かっていたが今回の姿もまた非常に悍しく、その戦いぶりは荒々しく、残忍極まりない。元々そうだと言われたらそうなのだが、どこか違和感を感じていた。
いつも以上に亡骸の損傷が激しい。徹底的に叩き潰し、バラバラにしては戦いの最中にも関わらず捕食を繰り返す。時に腕をくわえたまま、時に首をくわえたまま、野を駆ける獣の如く海を走り次々と深海棲艦に襲いかかる。
砲撃が直撃して腕が吹き飛んでもすぐに再生しては近くの深海棲艦を一撃で葬り、決して立ち止まることなく戦艦棲姫を猛追、遂に戦艦棲姫の護衛艦隊へと辿り着き尚も前進、蹂躙していく。
護衛艦隊との戦闘開始から僅か数分で遂に戦艦棲姫を捕らえ逃げられないよう即座に両脚を斬り落とす。
苦痛に歪む戦艦棲姫の表情を満足気な笑みを浮かべ見つめる隼斗に照準を合わせる深海棲艦達だが砲撃は行わなかった。
その光景にまたしても「ギギギ!」と笑う隼斗はそれを見せる為に戦艦棲姫の髪を掴みグイッと持ち上げる。
戦艦棲姫「ガハッ…!クソッ……コノ私ガ、コノヨウナ化物ニ…!」
隼斗「ギギギギギ!アァァァ…その表情、ゾクゾクする……堪ラナイ、モット、もっと見セロ!」
ドゴッ バキッ
ネ級「…!姫様!キ、貴様アァァァ!!!!!」
戦艦棲姫「グッ…ガハッ!ク、クルナ!逃ゲロ…!」
隼斗が容赦なく戦艦棲姫を殴り、蹴り始めたの見たネ級を始めとするその場にいた全ての深海棲艦達が主人を救う為に隼斗へと突撃。
それを待っていたのか殴るのをやめて正面を向くとニタニタと笑い、戦艦棲姫に語りかける。
隼斗「大切なオマエを取り戻しに来た奴等を殺せば、オマエはどんな反応を見せてくれる?どんな悲鳴を聞かせてくれる?」
戦艦棲姫「ヤメロ…!殺スノハ私ダケデイイダロウ!ヤメテクレ!」
ーーアァァ…イイ顔だ。恐怖に染まったその表情がゾクゾクさせてくれるーー
ーーこれだからヤメラレナイ…楽シイ…モットモット、絶望ヲ与エタイ!ーー
ガパッ キイィィーーーーーーーーーーーーーーーン
戦艦棲姫「…!ナ、ナンダ…コノ音ハ…」
ネ級「クッ、耳ガ…!クソッ、怯ムナ!我ラノ姫様ヲ救ウノダ!」
金剛「……ッ、なんデスカ。この音…!」
比叡「ヒエーー!耳鳴りが酷いですよこれ⁉︎」
隼斗から伸びる6本の赫子が大きく口を開けた瞬間、周囲に耳をつんざく高音が鳴り響き激しい耳鳴りを引き起こす。
それでもネ級達は止まることなく接近、あと数メートルのところまで迫っていた。もう少しで手が届く、もう少しで大事な主人を救い出せる、もう少しで…あと一歩で届く。そして姫と共に生きて帰る。
「……死ネ、虫ケラ共…」
ゴオォォォォォォォォォ!!!!!
ネ級「…!ギャアァァァァァァァァ!!」
ヲ級「ガアアアアアアア!アツイ、アツイ…!」
深海棲艦「ギャアァァァァァァァァ!」
戦艦棲姫「アァ、アアァァァ…!オマエ達ィーー!!アアアアアアアア!!」
「ギギギギギ…ギギギ…ギャハハハハハハハハ!!!」
眼前に迫ったネ級達を襲う青き炎。それは先程まで耳鳴りを引き起こしていた赫子の口から吐き出されたものだった。
それはネ級率いる護衛艦隊もそれに続く防衛艦隊までも飲み込み全てを焼き尽くし灰塵となって散っていく。中には塵にならず焼け残る者がいたが最早原型は留めておらずズルズルと溶けていく。空を飛ぶ航空隊までも焼き払われ次々と黒い雨となって降り注ぐ。
そして至る所で爆発が起き、更に艤装や魚雷や砲弾にまで誘爆を引き起こして辺り一面巨大な水柱が上がる程の大爆発が起きた。
戦艦棲姫「貴様ァァァ!グッ、ギャアアア!」
隼斗「イイ、とても…今ノ表情、俺好みの顔ダ!」
激昂に駆られた戦艦棲姫が力を振り絞り殴りかかるも腕を掴まれそのまま引き千切られる。
悲鳴を上げる戦艦棲姫に隼斗は鋭い鉤爪と赫子をもって容赦無い追撃を加える。断末魔を響かせながらまだ意識のある状態で隼斗と赫子に貪り喰われていく戦艦棲姫。それを離れた場所で金剛達は震えながら見ていることしか出来なかった。
隼斗が人間や深海棲艦を喰らうところは何度も見てきた。惨い殺し方も凄惨な光景も見てきた筈なのに、何故今回はこうも恐ろしく隼斗に対して激しい恐怖や今にも逃げ出したい気持ちに駆られるのか。「今すぐ逃げろ」と本能が訴えてくる。仲間なのに、大事な家族なのに何故本能はこうも真逆のことを訴えてくるのだろうか。生きていたことを喜びたい、敵を倒し救ってくれたことを褒めてあげたい…筈なのにどうしてそれが出来ないでいた。
金剛「皆さん、今すぐ…現海域を離脱します。鎮守府に向けて全速前進、いいですか?絶対止まっちゃだめネ。」
鳳翔「分かってます。今動かないと、私達も…行きましょう。」
吹雪「待ってください!まだ隼斗お兄ちゃんが…!」
赤城「吹雪ちゃん、分かるでしょ。アレは私達の知ってる隼斗じゃないの!」
吹雪「でも…!」
加賀「理解しなさい!でないとこの場で全員死ぬことになるわ!」
吹雪「……っ!」
比叡「吹雪ちゃん、今は生きて帰ることが大事。叢雲ちゃんもこのままじゃ手遅れになるかもしれない。鎮守府に戻るよ。」
金剛達はゆっくりと起き上がり静かに離脱を始める。叢雲を抱き抱えた吹雪は何度も振り返った。
だが隼斗は未だに戦艦棲姫を貪り喰っておりこちらに気づいていない。
吹雪「……隼斗お兄ちゃん…」
それは吹雪にしか聞こえない程の呟き、の筈だった。
「………」ピクッ
吹雪「…あっ!」
加賀「どうし、ッ⁉︎まずい、気づかれた!金剛さん!」
金剛「チッ…勘づくのが早過ぎネあの子。相変わらずの地獄耳デスネ!比叡、霧島!最後尾へまわり砲撃戦用意!」
比叡・霧島「は、はい!」
吹雪の声に反応したのか隼斗の動きが止まりゆっくりと振り返る。
十分な距離は取った。隼斗が遠く、小さく見える。だがそれでもはっきりと分かった。
鮮明に映る隼斗の顔が、次の獲物を見つけニィと笑う。
そして大きな水柱が上がると同時にこちらへ向けて走り出した。
先程と同じように一直線に駆け、金剛達を猛追してくる隼斗に比叡と霧島が砲撃で対処する。本当は撃ちたくない。大事な家族に向けてこんなことはしたくない。けど…こうしなければならない。しなければ確実に殺される。今の隼斗は自分達の知らない隼斗で、隼斗の目に映る自分達はただの敵でしかないことは誰に言われなくとも分かる。
隼斗の眼を見れば一目瞭然だからだ。あの眼は敵にしかしない眼。それを向けるということはそういうことだと。
比叡「嘘でしょ⁉︎何で当たんないのよ!あんなにすばしっこかった⁉︎」
霧島「動きが全然違う。あんなの見たことがない!」
2人の砲撃を交わしつつ接近してくる隼斗だったが一際大きな水柱が立った瞬間、忽然と姿を消してしまう。
それはヲ級の頭を握り潰した時と同じ動きだと瞬時に理解するも隼斗の動きはそれを上回り、突如現れ隊列中央にいた吹雪を横から吹き飛ばした。遅れて金剛が反応するも腹部に蹴りをくらい転倒、周囲にいた鳳翔、赤城、加賀も赫子で薙ぎ払われ海に叩きつけられる。
比叡と霧島が振り返った時、眼前に隼斗の手が伸びて顔を掴もうとしていた。
もう間に合わない、ヲ級と同じように握り潰されると覚悟した瞬間、今度は隼斗の体が横に吹き飛んでいく。
比叡「ゆ、夕立ちゃん!」
夕立「ぽいっ!時雨、今っぽい!」
時雨「了解だよ。追撃する!」
夕立と入れ替わるように現れた時雨の砲撃と魚雷の一斉発射を浴びて更に吹き飛ぶも6本の赫子を盾にしたことでダメージを最小限に抑え、かつ間髪入れずに時雨に対して反撃を行う。だが、ここでも再び隼斗は攻撃を受けて大きく吹き飛ばされた。
2回3回と海面を跳ねた後、体勢を立て直したところに集中砲火を浴びて悲鳴を上げる。
扶桑「攻撃の隙を与えないで!第二射、ってぇーー!」
扶桑の号令と共に響き渡る轟音。降り注ぐ砲弾の雨が赫子を砕き、剥き出しになった皮膚を確実に吹き飛ばしていく。
右腕と左足、右足の膝から下を失い仰向けで倒れる隼斗。右脇腹までも抉れ大量の血が海を赤く染めていくのを見て誰も喜びはしなかった。
こうする他なかったとはいえ、家族を撃つのは余りにも心苦しい。それも自分達を救ってくれた者であれば尚更だ。
隼斗が何故急に牙を剥いたのか分からないまま、扶桑達は負傷した金剛達を連れて鎮守府へと帰投する。
帰投する間は何事もなく無事に鎮守府へ到着出来たことにようやく安心することが出来たが、やはり誰もその表情は明るくなかった。
この日起きた鎮守府防衛戦と第1・第2艦隊救出戦、そして突如起きた隼斗鎮圧戦はようやく終わりを迎えたのだった。