昨日の戦闘で多くの中破、大破艦が出たことで今日は全ての任務を中止。
戦艦棲姫率いる100隻を超える大艦隊と隼斗の暴走による被害は大きく、鎮守府の修繕工事に艤装と破損した装備の修繕と開発、入渠時に使用した高速修復剤、結果これまで備蓄していた資材の7割が吹き飛ぶことに。
その内容を帳簿に記し終えた大淀は大きく伸びをしてため息を吐きながら机に突っ伏してしまった。
大淀「はあ〜……あれだけ蓄えてた資材がこれだけしかないなんて。でも仕方ないかぁ…」
ため息をついて体を起こすと「う〜〜ん…」と唸りながら大きく背伸びして頬をペチペチと叩く。
愚痴をこぼしても仕方ないよと言い聞かせて資材帳簿を棚へと直す。これはあそこに、これはそこに、あれは…どこだっけ?と独り言を呟きながらせっせと動いていると執務室のドアが開き長門と陸奥が入ってくる。
大淀「2人ともおかえりなさい。様子はどうでした?」
長門「ふう……まあ、もう大丈夫そうだ。だが他に問題が起きてしまって、そっちの方が厄介だ。」
大淀「別の問題ですか?それはどういう問題でしょうか?」
長門「……本格的に“食糧”の準備が必要になったということだ。それもかなりの“数”がな。」
陸奥「保管…いや、収容施設をどこに作るか考えないといけないわ。それと安全面のこともちゃんとしておかないとみんなが危険な目に遭う可能性もあるから慎重に検討しましょう。それから元帥閣下にも報告しないとね」
大淀「まさか“食糧”って…」
長門「そう、“人間”のことだ。出来ればしたくなかったが、状況的に考えてそうする他ないんだ。」
ーー数時間前 医務室ーー
大淀が執務室で事務処理に奮闘している頃、長門と陸奥は医務室にいた。
ここに来た理由、それは今目の前にいる者と話す為だ。
長門「調子はどうだ。傷は痛むか?」
隼斗「普通だな。強いて言うなら腹減った。」
そう答えながら自身を拘束する夕張特製の拘束具を眺める隼斗。欠損した部位の傷口は塞がり徐々に回復傾向にあるが、左頬の頰肉は未だに無く、赫眼状態のまま。ただ精神状態は安定していて普段通り、つまり自分達の知っている隼斗に戻ったことにホッとした。
だからすぐ本題に入ることにした。
長門「隼斗、今回の件だが。どうして金剛達にも攻撃を加えたのか教えてくれないか?あの時一体お前の身に何が起きた?」
隼斗「そうだな…結論から言うと、皆殺しにしようと思ってた。」
1番聞きたくない言葉だった。
一瞬言葉に詰まっていると隼斗は話を続ける。
隼斗「……ああなるともう、自分でも抑えられない。抑える気がないってのが正しいけど。久しぶりに戦闘で意識飛ばされて頭きてたことと敵の策でみんなの身に危険が迫ったから俺が助けなきゃって思ったんだ。俺が戦って守らなきゃって…でも、俺は金剛達を襲い、殺そうとした。あの時夕立と時雨が止めてなけりゃ比叡と霧島の頭を握り潰してた。扶桑達が撃ってなけりゃあの場にいた全員を殺してた。」
陸奥「どうして…どうしてそんなことしたのよ!助けなきゃって、守らなきゃって思ったんならどうして殺そうとしたの⁉︎」
隼斗「俺がお前ら艦娘を“人間”と思ってることが裏目に出た。俺が人間を憎んでることは知ってるよな?さっきも言ったけど、自分じゃどうにもなんねえ…殺したい、殺して殺して、たくさん殺して血肉を貪りたいって、だから殺そうと思った。でもお前らは大事な家族だ、そこで2人にお願いが…いや、全員に頼みたいことがある。」
長門「頼みたいこと?」
隼斗「もしまた俺がお前らを殺そうとしたら、その時は容赦無く俺を殺せ。いいか?俺の身体を砲撃でも雷撃でも爆撃でも何でもいい、とにかく木っ端微塵にして吹き飛ばせ。途中、何度か再生するかもしれねえけど構うことねえ…再生にも限界があるから徹底的に叩き潰して殺して欲しい。お前らになら殺されてもいいから、絶対躊躇することなく俺を殺せ。」
長門「なっ⁉︎隼斗、お前何を言ってるか分かっているのか⁉︎」
陸奥「あんたこの状況で冗談言わないで!そんなことできる訳ないでしょ!」
隼斗「本気で言ってるし、お前らなら出来る。実際、俺をここまで潰せたんだ。“白鳩”でもない奴にここまでされたのは初めてだよ。艦娘も深海棲艦もなかなか強い。それに、あの状態の俺を前にして戦ったことも素直に凄いと思うよ。だいたいの奴等は逃げ惑うんだけど金剛達は逃げずに攻撃してきたからな。だから俺を殺せると判断した。これは全員に伝えろ。これもお前らを守る為に必要なことだからね。」
長門「ふざけるな!絶対そんなことはしない、皆にもさせない!またお前が暴走するなら、その時は私がお前を殴りに行く!殴って黙らせて連れて帰る!何度でも、何度でもだ!二度と“俺を殺せ”なんか言うな!分かったな⁉︎」
隼斗「……ッ、だからそうしねえとお前らを殺してしまうって言ってんだろうが!俺はお前らを殺したくねえんだよ!同じ喰種でもないのに受け入れてくれたお前らを…こんな俺でも家族と言ってくれて、優しくしてくれるお前らを…!だから、その為に必要だから言ったんだ!そんぐらい分かれよ長門!そこまでお前も馬鹿じゃねえだろうが!」
長門「そうだな、私もそこまで馬鹿ではない。馬鹿はお前の方だ隼斗!」
そう言い放ち隼斗の胸ぐらを掴んで殴り飛ばす。殴られた衝撃で口から歯が2・3本飛び出し、唇の横も切れて血が出てしまうが隼斗も頭に血が上ったのか間髪入れずに殴りかかる。だが拘束具に繋がれているのでその拳が長門に届くことはなかった。2人の睨み合いが続き、長門がいつまた殴るのか分からないし隼斗が赫子で応戦するのも時間の問題という状況だったが陸奥が間に入ったことと、怒鳴り声を聞いて慌てて部屋に入ってきた金剛と明石が更に加わったことでなんとか場を収めることが出来た。
金剛「2人とも落ち着くネ。殴り合う為に話してるわけじゃないんだから、冷静にならなきゃだめデス。」
明石「隼斗もそう熱くならないでよ。まだ身体の再生も進んでないんだからそっちを優先しなきゃね。」
隼斗「再生を優先するなら“人間”を早く寄越せ。」
明石「へっ…?」
隼斗「長門、爺にいい加減早く寄越せって伝えろ。こっちもこっちでだいぶやべえんだよ…いつまで我慢させる気だ。」
長門「その件はそう簡単ではないと言っただろう。それに、だいぶやばいとはどういうことだ。次から次へと一体なんなんだ。」
隼斗「全っ然、喰い足りねえんだよ!前に比べて全然喰ってねえから腹が減ってんだ!比叡の料理や深海棲艦、たった200足らずの人間じゃ物足りねえって言ってんだよ!このままじゃ近いうちに飢えてまた襲うことになる!」
明石「ちょっと嘘でしょ⁉︎」
金剛「まずいデスネ…やはり隼斗を満たせるのは人間の肉じゃないとだめってことデスカ。長門、元帥に報告して対応してもらわないと私達の身が危ないネ。でないと…私達の手で本当に殺さなければならなくなりマス。私もそんなことしたくないネ。」
隼斗「長門、俺にお前らを殺させるな。自分達の身を守る為だと考えて行動しろ。そして爺にも伝えるんだ…100人ありゃとりあえず飢えは凌げるってな。それと生きたまま寄越せと言え。新鮮な血肉を喰えば満たされる。そうすりゃ解決する。」
ーー執務室 現在ーー
大淀「そんなことが…だからそんなに疲れ切った表情をされてるんですね。」
長門「あぁ、昨日以上に疲れたよ。陸奥、お前には苦労かけたな。すまない…」
陸奥「気にしなくていいわ。それよりも早く元帥に報告しないと。いつまた隼斗が暴走するか分からないし。」
長門「そうだな。私から元帥に言おう。大淀、明石と夕張にこの件を伝えて収容施設を作るように伝えてくれ。陸奥は皆にしばらくの間は隼斗に近づくないようにしろと、特に電にはよく言っておくようにな。」
大淀「了解です。すぐに工廠へ行ってきます!」
陸奥「私もみんなを食堂に集めて事情を説明してくるわ。」
長門「あぁ、頼む。さて…(悪いことがこうも立て続けに…なんとかしなければ…)」
ーー大本営 執務室ーー
元帥「大和、横須賀第3鎮守府から連絡はまだかの?」
大和「まだないですね。昨日の襲撃の際にあった報告以降、連絡がありません。無事だといいのですが…」
プルルルルル
大和「直通電話…この番号は…!もしもし、長門⁉︎」
元帥「……!」
大和「全然連絡がなかったから心配してたのよ!ちょうど今も元帥とその話を…え?うん、うん…⁉︎ちょっとそれどういうこと⁉︎」
元帥「…!熱っ!」
急に大声を出して立ち上がる大和に驚いて淹れたてのお茶を溢してしまった。一体どうしたというのか…
それに何故青ざめた顔を…まさか…
元帥「大和、儂に代わってもらえるか?」
大和「は、はい。長門、元帥に代わるからさっきの話を報告して。元帥、お願いします…」
元帥「うむ。儂じゃ、長門そっちは大丈夫か?まずは報告を聞こう。うむ…そうか、ご苦労じゃった。うん?…何?なんじゃと⁉︎それは一体どういうことじゃ⁉︎喰種が暴走したじゃと⁉︎」
元帥が大和と同じ反応をした時、執務室に艦娘が2人入ってくる。
元帥の様子を見てすぐに良くない話であると察したのか黙ったまま大和に事情を聞いていた。
その間立ったまま長門の話を険しい表情でずっと聞き、ようやく受話器を置くと重苦しいため息をつきながら席に座る。
高雄「元帥閣下、あまり良くない内容の報告ですか?」
愛宕「それもかなり悪い内容ですよね?大和さんから聞く前に表情を見てすぐに分かりましたよ。」
元帥「あぁ…とびきり悪い報告が2つあってな。早急に対処しなければならん。大和、大淀を呼んでくれるか?大至急“食糧”調達の準備をしなければならん。本当はこのようなことはしたくないんじゃが…こうなってはもう致し方ない。」
高雄「大至急って…食糧ならどの鎮守府も潤沢にある筈ですが。」
元帥「……そうじゃな、人と艦娘が食べる食糧ならな。じゃが、今必要なのは儂らが食べる物ではない。」
高雄「……?」
愛宕「元帥、まさかとは思いますが…例の…」
元帥「そうじゃ、そのまさかじゃ。あやつが飢えておる…新鮮な血肉を寄越せと。このままでは長門達が危険じゃ。故に早急に対処しなければならんのじゃよ。」
お茶を一口飲むと再び深いため息をつく元帥だったがすぐさま関係各所に連絡を始める。
これから手配に護送ルート、日程などを決めなければならない。元帥達の長い1日が始まるのだった。
それから5日後、横須賀第3鎮守府に1隻の輸送船が到着、“積荷”を降ろしていた。
武装した警察官と陸軍将兵達、憲兵が見守る中で降ろされるのは“人間”という名の“積荷”である。
言葉で表すには余りにも不適切で非人道的な扱いだが彼らは死刑判決を受けた死刑囚。だが、だからといってこのような扱いも、このような最期を与えるのも間違っているのかもしれない。人権団体が見たら黙っていないだろう。
“彼”を前にそれを言える人間はいないだろうが。
何故自分達が鎮守府に連れて来られたのか分からない囚人達は艦娘を見て興奮していた。
檻の中では野郎だけだ。今目の前にいるのは艦娘で、女で、それも美人美少女だらけ。服装を見ても誘っているようにしか見えず抑えられていた性欲が込み上がり、囚人達は歓喜の声を上げて騒いでいた。
「死ぬ前にやらせてくれんのか⁉︎たまんねえなおい!」
「ガキでもいいぞ!俺はガキでも満足できるからさ!あのセーラー服の奴とヤラせろよ!」
「俺はあの巫女服着た女全員だな!孕ませてえー!」
金剛「……最低デスネ。糞虫だらけで反吐が出るネ。」
暁「ひっ!い、今…暁を見ながら言ってた…」
赤城「暁ちゃん、私の後ろで隠れていなさい。」
この後どうなるのか何も知らずに騒ぎ立てる囚人達は敷地内の隅に建てられた倉庫内に連れて行かれ、そこから更に地下室へと降りていき1番奥にある部屋の手前に辿り着く。先程まで女に飢え、死ぬ前に気が済むまで犯してやろうと騒いでいた声もなくなり今は誰も言葉を発さずただ黙って前を向いて立っていた。
地下室に入ってすぐに感じた違和感。季節はまだ夏で気温も30℃近いにも関わらずここは余りにも寒過ぎる。
地下といえどここまで寒い筈がない、現に地下室の温度は空調も効いており25℃と比較的涼しいといえよう。
だが囚人達の背筋を走る嫌な悪寒は鎮まることがなく奥へ行く程酷くなってくる。部屋の前にいる今、妙な胸騒ぎが襲い心臓の鼓動も早くなっていた。それはここまで連れて来た警察官や兵隊達も同じ。それに加えて彼らはこの先に待つ者と結末を知っているから囚人達以上に怯えており、今にも逃げ出したい気持ちでいた。
そしてあらかじめ教えられていた暗証番号を入力すると目の前の扉がゆっくりと音を立てて開いていく。厚さ30センチ程の扉が3層と厳重な作りになっている扉の先は何もない空間が広がっていた。訳が分からないまま部屋の中央に連れて行かれ戸惑う囚人達の手錠と足枷を外して銃を向けたまま部屋を出て行く警察官と兵隊達。拘束を解かれた時に暴れて逃げ出すことも出来たのに囚人達はその場で立ち尽くし全く動こうとしなかった。
銃を向けられていたから? 違う。
これから艦娘をここで犯せると思ったから? 違う。
ここに来た意味が分からないから? 違う。
答えは“あれ”だ。目の前にいる奴に違いない。
警官達は後ろの扉から出て行った。そしてそれと入れ替わるように正面奥の扉から奴は入って来た。
車椅子に座った男とそれを押す少女。そこで理解した。
警官達は自分達に銃を向けていたのではない。
警官達は自分達を見て怯えていた訳でもない。
そして…
自分達がここに来た意味が分かった。
「あ、あれって…まさか、喰種か⁉︎」
「何であいつがここに居るんだよ!あいつは隔離されてるんじゃねえのか⁉︎」
「ふざけんな!あいつら俺達を餌にしやがったな⁉︎」
電「隼斗、お腹空いてますか?」
隼斗「当たり前だ。喰いたくて喰いたくてうずうずしてんだよ…!分かりきったこと聞いてんじゃねえぞガキが!」
いつもなら電に対してきつい言い方をしない隼斗だが、今の状態だと誰に対しても攻撃的な態度と言動が目立つ。
それでも電は嫌な顔せず微笑んで手を掴んで引っ張り車椅子から立ち上がらせると囚人達を指差して隼斗に再び声をかける。
電「いっぱい喰べて、元気になるのです。」
そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。決して開くことのない扉に殺到して助けを求める囚人達を背後から無慈悲に喰らいつく隼斗。
部屋中に散らばり必死で逃げ惑う者達も次々と大きく口を開けた赫子に噛み砕かれたり、身体を赫子で撃ち抜かれたり、なす術なく死んでいく。自分達は死刑判決を受けた身であり死を免れることは決してない、だがこんな死に方があるか?“餌”として喰い殺されるなんて誰が想像していただろうか。
それから少しして100人いた囚人は10分も経たぬうちに全員が肉片と化した。
それをモニター越しで確認した長門と陸奥、そして輸送船に同乗していた元帥と大和の4人が部屋へ入ってくる。鼻をつく酷く濃い血の臭いと目を背けたくなるような光景の中、部屋の中央部で肉を貪る隼斗と近くで腕や足を拾う電の姿があった。
大和「やめなさい、こんなことあなたがする必要はありません。」
電「どうしてなのです?隼斗はいつも電に「あ〜ん」ってご飯を食べさせてくれるのです。それと同じことをしているだけなのです。」
大和「…!い、電さん。あなた、なんて目をして…(まるで“彼”に近い狂気を感じる…この子、彼に染まりつつあるってこと?)」
電「……?じゃあ、電は行くのです。」
大和にペコリと頭を下げて隼斗の下まで駆け足で向かう電。長門から2人はそういう仲だと聞いている。だから電はああやって彼の事を思い健気に尽くしているのだろう。ああやって微笑みながら寄り添うように座って2人で何やら会話をして…こんな地獄絵図でなければ微笑ましい光景でとても絵になっていたに違いない。
長門「隼斗、腹は満たせたか?」
隼斗「…んあ?ああ、長門姉か…少しは腹の足しになったかな。」
長門「これだけ喰べて少しか…あとどれだけ喰べれば満足するんだ?」
隼斗「毎月100は喰ってたから全然足りない。でもいいよ、俺も調整して喰べるようにするから。」
妖精「はやと、のこりははこんでいいの?まだたべる?」
隼斗「んや、残りは冷蔵庫に保管で。でも10個ぐらいは俺の部屋にある冷蔵庫に保管するから置いてていいよ。」
どこからともなく防護服に身を包んだ妖精が現れて隼斗の肩に立っていた。どうやら食糧隊長のようで他の妖精達に指示を出して残骸回収を始める。テキパキと回収・梱包・運送と役割分担を行い流れるように作業を行い、それ以外の妖精は清掃作業をしていた。
そんな妖精に声をかける隼斗は先程までの攻撃的な言動はなく比較的優しい口調で会話をしているところを見るにどうやらいつも通りに戻ったように思える。
今は電の手や指、顔についた血をペロペロと舐めては電を笑わせていた。
電「はわわ!くすぐったいのです///」
隼斗「ん?あぁ、我慢して。」
元帥「お楽しみのとこ悪いが、今いいかの?」
隼斗「あ?なんだ爺、来てたのかよ。やっと寄越してくれたな、一応礼は言っておくよ。ありがとな。」
元帥「儂は全く喜べんがな。しかし、先程長門の問いに答えた“毎月100”というのは人間の数か?」
隼斗「正確には人間と喰種合わせて100体ってとこだな。調達・献上で簡単に集まるから食糧難になることはなかった。だけどこの世界じゃそうはいかねえからさ、結構我慢してたんだよ。バレないように隠れて自分の肉を喰うのも大変だったんだぜ?最初は再生が間に合っていたから良かったけど、途中から鈍くなってきたからそれも出来なくなって困ってた。ま、今喰ったから少しはマシだけど。」
「あ〜、喰った喰った」と電の膝に頭を乗せて寝転がり呑気に大あくび。
頬をつついたり摘んだり、電はされるがままだが笑顔で頭を撫でたり「めっ!」と注意したりで完全に2人の空間に。
複雑な気分だし、調達は分かるが“献上”という単語がひどく気になるが今は聞かないでおこう。
とりあえず最悪の事態は避けることが出来たことに今は良しとするしかないと思うのだった。
〜執務室〜
先程の血生臭い地下室から、今は珈琲の香り漂う執務室に場所を移した元帥達。
電と隼斗は血の臭いが酷くこびりついていたのでお風呂へ向かわせ、今は長門、陸奥、大淀に元帥、大和の5人が部屋におり机を囲んで今後の食糧供給に関して話をしていた。
今回は陸軍と警察の協力を得て極秘裏に行ったが、これを毎月実施していればいづれ世間にバレよう。
仮にバレなくても死刑囚の数が底をつく可能性もあるから代替案を出さなければならない。人肉に代わる何かを早急に用意しなければそう遠くない内に死刑囚という括りでなく犯罪者全般が対象になる恐れがある。一番避けなければならないのは何の罪もない一般人が対象にされること。それだけは絶対あってはならない。だがどうすれば良いのか全然良い案が出てこないのが現実だった。
元帥「比叡の料理は食べれるんじゃったな?全国の鎮守府に存在する比叡に作って貰った料理をここへ輸送するのはどうじゃ?」
長門「いや、多少は腹持ちするが長くは保たん。それだけでは不十分だ。」
大和「牛肉や豚肉などの他の肉ではだめなの?」
陸奥「人間と比叡の料理以外食べれないわ。ちなみに牛も豚も実験済みですぐに吐き出してたわ。とても苦しそうにね。」
大淀「深海棲艦の一部は食べれると本人が言ってました。人型の深海棲艦は同じ味がするからまだ食べれると。ですが、隼斗の食欲を満たせるほどではないのなら、その線も望み薄かもしれません。」
元帥「参ったのお…現状、打開策は全く無いということか。あやつを満たせるのが人間の肉しかないのが非常に厄介じゃな。」
これ以上考えても案が浮かばないと判断した5人は1度中断して食堂へと向かう。そろそろ隼斗と電が戻って来てるだろうし他のもの達にも相談して意見を聞けば何か良い案が出るかもしれないと思ったからだ。食堂へ着くと思った通り、2人は食堂にいたのだが何故か深々と頭を下げていた。
陸奥「ちょっと、どうしたの?隼斗は分かるけど何で電ちゃんまで頭下げてるの?」
電「みんなに隼斗のこと許して貰いたくて…確かに隼斗は暴走して金剛さん達を攻撃してしまいました。大事な家族を傷つけることは許されないし、それは隼斗自身も言ってるのですから守らなきゃいけません。だから間違ったことをしたら怒って、正しいことをちゃんと教えてあげなきゃいけないのです。だって隼斗は大事な家族なのです!だから、その…みんなで、隼斗が同じことをしないように、ならないように一緒に考えたいなって、思うのです…けど、みんなはどうですか?」
後半から声が弱々しくなり恐る恐る顔を上げて前を向くとペチンとおでこを叩かれてしまう。
叩かれたところを咄嗟に手で押さえていると今度は優しく頭を撫でられた。一体誰だろうとゆっくり目を開けるとそこには優しく微笑む暁と響、そして雷の3人が立っていた。
暁「そんなに弱々しく言ったらだめじゃない!こういう時は自信持って堂々と言うべきだわ!それが大人のレディなのよ?」
響「暁はちょっと何言ってるか分かんないけど、電の言ってることは分かるよ。隼斗は大事な家族だし、私達にとってこの世でたった1人のお兄ちゃんだからね。それに今までたくさん助けてくれたし、支えてくれた。今度は私達が隼斗を助けてあげる番だよ。」
雷「そうそう、響の言う通りだわ。お兄ちゃんを助けるのは私達妹の役目よ!みんなで一緒に考えましょ!」
電「暁ちゃん、響ちゃん、雷ちゃん、みんなありがとうなのです!嬉しいのです!」
吹雪「電ちゃん!私も一緒に考えるよ!」
叢雲「私もよ。ボロボロの身体をまた吹き飛ばされるのはごめんだからね。」
夕立「夕立もどうやって抑えつけるか考えるっぽい!」
時雨「いや戦う前提じゃなくてそうならない為にどうするか考えるんだよ?」
赤城「お兄ちゃんを助けるのは妹の役目…それは私達姉の役目でもあるわ。ですよね、加賀さん?」
加賀「そうですね。私達の大事な弟ですから。やりましょう。」
金剛「全く世話が焼ける弟ネ。私直々に厳しくしつけてあげマース!」
比叡「お姉様直々に…!あぁ、いい///」
そこにいた誰もが隼斗のことを責めることはなかった。陸奥から聞いた長門との会話。“もしまた同じことが起きたら俺を殺せ”という隼斗の発言も、そしてその理由が自分達を殺したくないからということも。本当にそれしかないのか?いや、必ずそれ以外に方法はある筈だ。
隼斗が私達を殺したくないように、私達も隼斗を殺したくない。 だから、絶対に解決策を見つけるんだ!と皆が思い、それぞれ意見を出し合って早速会議が開かれた。
隼斗「…艦娘って、どこまでお人好しなんだよ……(こんな人間と出会っていたら、俺達は少しでも救われたんだろうな…)」
「……ありがとう。」
その様子を見て静かにそう思い、感謝の言葉を述べた隼斗の手を優しく握り締める小さな手。視線を向けると電がいつものように優しく微笑んでこちらを見ていた。目が合うとより一層満遍の笑みを見せてくれる。その瞬間、何かが頬を伝って電の手に落ちた。
一滴、二滴と次々と手に落ちていく。隼斗はすぐに頬を伝う何かを拭い、その時やっとそれが自分の涙だと分かる。
何故泣いてるのか分からない。理由は?一体何だ?
“こんな人間と出会っていたら…”と思ったのは事実だが、理由はそれか?
確かに皆が自分のことを思い話し合う姿や優しく微笑む電を見た時に自分の中で救われた気持ちになった。
……単なる勝手な思い込みかもしれないけど。
雷「もう、泣いてないで一緒に考えなきゃだめじゃない!電、お兄ちゃんをここに座らせて!」
山城「あんたのことなんだから早く来なさいよ。」
鳳翔「隼斗、珈琲を用意したから座って飲みなさい。話はそれからよ。」
電「みんなが呼んでるのです。さ、電と一緒に行くのです♪」
隼斗「あぁ…行こう。みんなのところに。」
電に手を引かれて皆が待つテーブルに向かい席に座ると会議が再開された。隣に座る加賀に「シャキッとしなさい」と背中をバシッと1発叩かれた上に金剛からは蹴りのお返しだと頭を拳でグリグリ。そのまま頭の上に顎を乗せて話し出す。身動きが取りにくいからやめて欲しかったが今は落ち着く。とても、落ち着く。電がずっと手を握ってくれていることも大きいが、一番大きいのはこうして皆の輪にいること。
自分を、人を喰らう存在“喰種”を受け入れてくれたことが改めて嬉しかった。そしてその自分の為に色々と考えてくれてることも。
元帥「さて…儂らも参加させてもらうとしようか。」
長門「ああ、そうしよう。きっと良い案が出るに違いないからな。」
長門達5人と少し遅れて妖精さん達も加わりいつの間にか大所帯での大会議になっていた。
どこから用意したのか分からないが大きなホワイトボードに案を書き出して一つ一つ討論。そしてまた新たな案を出しては討論の繰り返し。
それは昼ご飯、15時のおやつ、夕飯と途中休憩を入れながらその日1日中行われるのだった。