食事訓練初日と電からのお仕置きも無事に終えた翌日、最高なのか最悪なのかよく分からない状態で隼斗は目を覚ます。
カーテンの隙間から見える空はまだ薄暗い。もう少し寝れそうな感じだ。
グゥゥゥ ギュルル……
静かな部屋にお腹の音が響く。空腹感は全くないし、お腹の調子が悪い訳でもない。
「はあ…」と溜息をついて再び眠ろうとしたら突然頬をつつかれたので顔を動かすと隣で寝ていた電がこちらを見て微笑んでいた。
電「おはよう隼斗。」
隼斗「……んあ、おはよ。」
電「ゆうべはおたのしみでしたね。」
隼斗「それ電が言う?」
電「……///だって、隼斗がとても気持ちいいことしてくれるから///その…///」
隼斗「ふ〜ん……」
ギシ…ギシギシ……
電「んっ…///や、そこは…///」
隼斗「……」ペロ… カプッ
横で寝ている電を覆うように身体を移して首筋に舌を這わせる。下から上にゆっくりと、そして最後に耳を甘噛み。
本気で噛まないよ。噛み切っちゃうから。まあそれはいいとして、これをすると電は絶対抱きついて更に求めてくるのはもう分かってる。
だから今も「もっと…///」とねだってくる。
隼斗「…まだ足んねえの?(あー…だめだ。我慢出来なくなってきた…)」
電「ハア…ハア……///身体が熱くて、ゾクゾクしちゃうのです///おかしくなっちゃう♡」
隼斗「あっそ、じゃあもっとしてやるよ。」
電「ひゃん⁉︎///あっ♡やっ、奥まで入っ…♡もっと、もっと電のこと滅茶苦茶に…///あっ♡あっ♡」
昨日の夜もやって、んで今も朝っぱらからやって、どんだけお互い性欲が強いんだろうな。
正直言って自分は性欲より食欲の方が強いと思ってたのに、今の状況を考えると食欲並みに性欲旺盛ってことか。
まあ…昔を思い出せば思い当たる節があるような…多い、多いな。多過ぎて否定出来んぞ。
それにこんな可愛い女の子から「滅茶苦茶にして♡」って言われたらそりゃもう…頑張りますよ。
現に自分の中にあるSな部分が激しく刺激されて収まりがつかないし、更にどんな反応をするのか見たくて見たくて我慢出来ない。
自分色に、自分好みに、電に俺じゃなきゃだめだって思わせたい。
己の中にあるドス黒い欲望が、支配欲が溢れ出るのを感じつつ、電を強く抱き締める隼斗だった。
ーーーーーーーー
隼斗「ごめん。つい本気で噛んじゃった…大丈夫?」
電「大丈夫なのです。でも、びっくりしちゃったのです。」
あれから気づけば1時間、時間が経つのは早いものだ。そして今は2人でお風呂に入り湯船に浸かっていた。
鎮守府内にある大浴場ではなく部屋に作られた小さめの風呂場なので浴槽も狭い、にも関わらずそこに2人で入ってるから密着具合が凄い。
電を後ろから抱き締める形なのでどうしても反応してしまう部分もあるけど…そんなことはどうでもいいか。
それよりもしている最中に電の首根っこを噛んでしまった。
割と本気でガブっと噛んじゃった。でもすぐ電の声を聞いて口を離したから噛み千切ることはなかったけど、電のすべすべお肌にくっきりと噛み跡が出来てしまっていた。
隼斗「どうしよう…これ痕残るよね。ほんとごめん。」
電「むう〜、これはお返しなのです!」ガブッ
クルリと身体を動かして向き合う形になると電は自分が噛みつかれた場所と反対側のところに噛みついた。
割と本気で噛みついては「う〜〜〜!」と声を漏らす。だが…
電「ふえぇぇ…顎が痛くなっちゃったのですぅ…何で痛がらないのですか⁉︎」
隼斗「痛みはあるけど慣れてるからそんな…正味どうってことないよ。」
電「もう!嘘でもいいから痛がってくれてもいいのです!隼斗の馬鹿!変態!ロリコン!」
隼斗「そこまで言わなくてもいいじゃん!」
そのまま言い合いになる雰囲気になったがお互いのぼせそうなのでとりあえず湯船から上がることに。
身体を拭いていると誰も居ない部屋から物音が聞こえた。電は気付いていないが人間より五感が優れている喰種は聞き逃さない。
隼斗は何も言わずタオルで頭を拭きながら勢いよく脱衣所の扉を開けて部屋へ入る。
それと同時に「きゃああ!!」と女性の悲鳴が響いたことにようやく電も気付いて慌て隼斗の後を追い部屋へ駆け込んでいく。
電「隼斗!一体どうしたのです⁉︎何があったのですか⁉︎…って、飛龍さんに蒼龍さん?」
隼斗「あ、電。部屋に誰かいると思って入ったらいきなり叫ばれてさ。ここ俺の部屋なのに何で叫ばれんだよって感じ。」
飛龍「え、あ、あの…!あの!その…ど、どどどどうしたらいいんだろ⁉︎///」
蒼龍「私に言われても分かんないよ!とりあえず隼斗さん服を着てください!////」
飛龍と蒼龍が叫ぶのも当然のこと。畳の上にへたれこんでいる2人の前に立っている隼斗が全裸だからである。しかも全く隠す気がない。
そこに可愛いイラストの入った大きめのバスタオルを1枚纏っただけの電が現れたことで更に顔を赤くして混乱する飛龍と蒼龍達。
とりあえず落ち着かせないことには進まないと判断した2人は服を着に脱衣所へと戻るのであった。
ー数分後ー
電「麦茶なのです。」
飛龍「ありがとう、ごめんね電ちゃん。いきなり叫んじゃって…」
蒼龍「私もごめんなさい。色々とびっくりしちゃって…」
電「仕方ないのです。いきなり全裸の男性が現れたら誰だってびっくりしちゃいます。」
飛龍「それもだけどまさか電ちゃんまで裸でタオル1枚で出てきたことにも驚いたよ。」
蒼龍「2人でお風呂入ってたってことだよね?てことはつまり、その、えっと…そういう事をした後…てことなのかな?」
電「なのです。」
隼斗「だな。」
飛龍・蒼龍「即答⁉︎」
全く誤魔化すこともなく2人同時に即答したことにまたもや驚かされた飛龍と蒼龍。
2人の関係はとっくに聞いてるから別に可笑しなことでもないし当たり前と言われたらそうなんだろうけど。
でも、電は駆逐艦で見た目は中学生。対して隼斗は見た目完全に大人だし目つき悪いし…これ以上は言わないけど。
とにかく何が言いたいかというと2人が付き合ってますと言っても信じられないし、見た感じだと隼斗が交際を迫って半ば強引にそういう関係を持たせたと思われても可笑しくないってこと。ガチロリコン確定。
淫行待ったなし。事案でしかない。
隼斗「へっ…クシッ!!あ〜…なんだあ?噂でもされてんのか?」
電「噂じゃなくてシャツを着てないから身体が冷えちゃったに違いないのです。いつも言ってるのに言うこと聞かないから…」
隼斗「えー、そんな怒んなくていいじゃんかー。なあ電ぁ、笑ってよ〜、怒んないでよぉ〜。」
電「電は激おこぷんぷん丸なのです!ぷんぷん、なのです!」
飛龍・蒼龍「(可愛い♡すっごい可愛い♡でも…)」チラッ
隼斗「ああもう可愛い。可愛いよ電あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
蒼龍「ねえねえ飛龍、聞いてた通り隼斗さんって電ちゃんの事になると人格変わる話は本当だね。」
飛龍「私もおんなじ事思ってた。てことは、他の3人に対しても同じ反応するのかな?」
聞こえないように小さい声で話していた2人も隣に座る電に抱きついてスリスリと頬擦りする隼斗を見ては吹き出すのを堪えて笑っていた。
ーーあの子はああ見えて感情表現豊かなの。ーー
ーーお兄ちゃんですか?そうですねえ…ただのロリコンです!ーー
ーーそうだな、一言で言えば“馬鹿”だな。だが根は優しいやつだ。ーー
ーー隼斗?知らない子ですね…って痛っ!ちょ、またお腹の肉摘んだわね!待ちなさい!ーー
隼斗のことを質問するとだいたいこのような返答が返ってくる。
みんな彼のことを悪く言わない。怒る時は怒るけど。でも、みんな彼のことが好きだと言ってた。
強く、優しく、誰よりも家族や仲間を大事にする。そんな彼が大好きだって。
自分達も今だからこそ同じことを思ってる。でも最初は違ってた。
喰種は恐ろしい人喰い鬼だとか、殺戮を好み暴虐の限りを尽くす化物だと言われていたし、ずっとそうだと言われてきた。
それだけでなく艦娘を守るのは嘘でその裏では殺したり従わない艦娘は奴の“玩具”にされ死ぬまで犯され苦しめられるなんて噂もあった。
だから正直なところ、当時まだ直接会ったことがない自分達はどれが正しいのか分からなかった。
もしかしたら同じことを思っている艦娘は多いかもしれない。未だ会ったことがない艦娘達は彼の恐ろしい一面しか知らないから無理もないけど、これが続くようなら艦娘の中から彼を否定する者がいつか現れるのではないかと不安になる。
そうなれば彼を“悪”と見なす人間達はここぞとばかりに何かしら手を打ってくるだろう。
それだけは何としても防がなければならない。彼はこんなにも優しくて、温かい人なんだってみんなにもっと知ってもらわなきゃ!
飛龍「ねえ、隼斗。ひとつ提案してもいいかな?」
隼斗「んあ?提案?」
飛龍「うん、提案だよ。その名もイメージアップ大作戦!!」
隼斗「……はあ?」
電「イメージアップ大作戦…いいと思うのです!」
飛龍「でしょ⁉︎電ちゃんが良いって言ってるんだからもう決定だからね!」
蒼龍「私も賛成!何がいいかな?まずは目つきの悪さを直すところからにする?」
隼斗「勝手に話進めんな。それに目つきの悪さは元からだから無理だよ。てかイメージアップとかするだけ無駄だろ。」
雷「やりもせずに諦めちゃだめじゃない!」
響「やってみないと分からない。隼斗もよく言ってるじゃないか。」
暁「仕方ないから暁も参加してあげるわ!一人前のレディに相応しい男にしてあげる!」
隼斗「だから何でお前らノックもせずに入ってくんだよ!どいつもこいつも俺のプライバシーガン無視じゃねえか!」
突然扉を開けて入ってくる雷達に文句を言うも3人は全く相手されない。それどころか勝手に入って勝手に冷蔵庫を漁っては自分達で麦茶を入れてくる。ここは俺の部屋なのにどうしてこうも自由奔放にするかな。コップもお菓子も勝手に持ってきて置いてくし、気づけば着替えまで持ち込まれてるし…しかも駆逐艦娘全員分とご丁寧に箪笥まで用意する周到さ。
最早俺の部屋ではないのではないか?
暁「整形したら?」
隼斗「いきなり何てこと言ってんだよ。やだよ。」
響「私達で育てた花で花飾りを作って、それを頭に乗せて生えてきたようにする。」
隼斗「頭の中がお花畑とでも言いたいの?それとも馬鹿にしてるの?」
雷「毎日笑顔で丁寧語を使うとか?」
隼斗「私に執事になれと仰るのですか?」
飛龍「街のゴミ拾いはどうかな?」
隼斗「違うゴミなら回収(捕食)するけど。」
蒼龍「じゃあ街のパトロールは?」
隼斗「俺が守るのはお前らだけだよ。」
電「全部するのはどうですか?」
隼斗「最早俺じゃなくなるよ。」
ああ言えばこう言うから全く何をするのか決まらない。そもそも隼斗自身が全く乗り気でない時点で進む訳がないのだが、それでも飛龍達はあれこれと案を出していく。少しでも隼斗の印象が良くなれば世間の隼斗を見る目が変わるかもしれないと思っているから本人達は割と真剣に考えてる。薄々勘付いてはいるものの隼斗はどうしても乗り気にならない。
以前にもやったことはあるが大した効果はなかった。寧ろ気味が悪いと避けられ、挙句酷い罵りを受けた。
だから今更イメージアップとか言われても興味無いしどうでもいいというのが本心である。人間にへり下り媚びうるなど更々無い。
自分のことを思ってくれることはとても有難いと思うし感謝するが、同時に退屈だとも思っていた。
叢雲「入るわよ、って…なんだ、先客がいるじゃない。」
朝潮「失礼します。あ、皆さんこちらにいらしたんですね。」
隼斗「……(増えた。いつからここは集会場になったんだよ…)」
叢雲と朝潮が入り、少し遅れて霞と満潮もやってくれる。そして暁達と同じように麦茶を用意してきただけでなくお菓子も持ってきては机の上に広げて食べ始める。もう何も言うまい、考えまいと思った隼斗はそのまま寝そべることにした。賑やかで居心地が良いのは否定はしないがせめて自室ではゆっくりのんびりしたいな…ON OFFの切替大事だもん。
でもそうはいかないのが現実なんだよな。
朝潮「昔は人間の友達を作りたいと思ってたと言ってたから、この世界で実践してみるというのはどうでしょうか?」
満潮「えっ⁉︎何それ初耳なんだけど⁉︎てか何でそんなこと朝潮姉さんが知ってるのよ!」
霞「私も初めて聞いた。いつ聞いたの?」
暁「暁も知らなかったわ。ねえねえ、さっきのは本当?」
隼斗「うん…まあ、そうね。」
電「そうなのですか⁉︎ならもっと早く教えてくれたら良かったのに!」
叢雲「ていうか何で私や電が知らなくて朝潮が知ってるのよ。そこは普通私達に言うとこじゃない?出会いも早ければ関係もあるのに。」
雷「別にいいじゃない。そんなことでいちいち焼きもち焼いてたら身が保たないわよ?」
叢雲「まあ、そうだけど…ただ、私にも言ってくれてもいいじゃないって思っただけよ。」
電「そこは電も同じ気持ちなのです。」
響「そんなことはどうでも良いよ。隼斗、その頃何をしたのか早く教えて。」
何故か両隣に座る電と叢雲がムスッとして拗ねてしまった。だからなのか電は膝の上に座り直すし、叢雲も更に密着しては指を絡めるように手を握ってきた。ちょっとしたことで直ぐにこうして拗ねてしまうところがまた可愛いんだよね。
まあそれは置いといて朝潮と響の質問に答えようかな。
隼斗「だいたい似たようなことはしてきたけど大した効果はなかったよ。そもそも喰種のイメージが悪過ぎて何しても受け入れられないんだから当然っちゃ当然なんだけどさ。だから今もそうだけどやったところで望み薄なんじゃない?正直お前らが居てくれるだけで俺は十分過ぎるほど幸せだから他の人間に好かれようとか思ってないもんね。」
飛龍「でもそれじゃずっと悪く見られるままだよ?辛くない?」
隼斗「そんなの慣れてるからいいんだよ。つか、良く見られたいが為に偽善ぶったり媚び諂う様な真似したくない。確かに人間と仲良くなりたい、その為にも俺達喰種のことを知って欲しい、だからその為に行動を起こさなきゃだめなことも理解してる。でも…今の俺はそう簡単には出来ないんだよ。」
飛龍「どうして出来ないの?やらなきゃだめって理解してるならやろうよ!私達がついてるからさ!」
蒼龍「そうだよ!私達が一緒に側にいるんだから大丈夫だよ!守られてるだけじゃなくて隼斗の力になりたいもん!」
隼斗「そう言ってもらえるのはとても嬉しいけど…」
雷「もーー!!つべこべ言わずにやる!!いい⁉︎決定よ!!」
飛龍「よーし、やるぞー!!」
艦娘達「おおー!!」
隼斗「おい、まじかよ…」
鶴の一声ならぬ雷の一言でイメージアップ大作戦の実施が決定された。
全然乗り気でない隼斗だったがもうなった以上は何を言っても絶対辞めないだろうと観念して大人しく従おうと思うのであった。
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陸奥「イメージアップ大作戦かあ。あんたも大変ねえ…」
隼斗「もうほんとに…これどうにかなんねえかな。」
大淀「あら、私はとても良い取組だと思うけど?ただの化物ではないと知ってもらう良い機会じゃない。」
長門「そうだな。だが、第一印象が最悪過ぎて脳裏に焼き付いている者が多い筈だ。そこをどう払拭するのか、なかなか難しいぞ。」
隼斗「もうやんなくていいよぉ。俺はみんなが一緒に居てくれるだけで十分幸せなんだよ。」
陸奥「あらあら、今日はまた随分と素直ね。お姉さん嬉しいな〜♪」ナデナデ
あれから作戦会議をすると言われ部屋を追い出されてしまう。
いやここ俺の部屋なんだけど⁉︎とツッコミたかったがそれより先に深い溜息が出てしまったのでどうでもよくなってしまった。そしてそのまま執務室に行き、ソファで寝そべって陸奥に膝枕をしてもらっている状況である。
陸奥「でも思ったんだけど、どこで披露するのかしら?ここ以外の場所だとは思うけど流石に街や他所の鎮守府に隼斗を連れて行くのは許可降りないわよね?」
長門「だろうな。それに隼斗が艤装をつけて江ノ島鎮守府を襲撃したことで世間では地上だけでなく海上封鎖もすべきだと声が出ているらしい。近々、ここを取り囲むように大規模な防護壁の建設が始まる。そんな時に街へ連れてくなんてこと言い出したら大事になるぞ。」
隼斗「そんなもんで俺を隔離出来ると思ってるなら大間違いだっての。つかそんなの作る資材あるなら前線に送ってこいよ糞ったれ共が。だから戦線維持が厳しいところが出てくんだよ。本当に勝つ気あんのかこの世界の人間共わ!まだ俺が居た世界の人間共の方がよっぽど強くて全力でぶつかって殺しに来てたってえのに…つまんねえ、まともに戦えねえとかマジ退屈だわ。」
大淀「珍しいわね。隼斗が人間に対して良い評価をするなんて初めてじゃない?」
陸奥「確かにそうね。いつもは虫けら呼ばわりするのにどういう風の吹き回しかしら。」
隼斗「どうもなにも、本当のことを言っただけだよ。この世界の人間は弱過ぎる。腕っぷしだけじゃなくて精神的にもだ。なんだあの兵隊?ちょっと威嚇しただけですぐ泣き喚きやがって、よくあれで軍人が務まるな。白鳩の奴等と全然比べ物にならねえ程の雑魚。だからつまんねえって言ったのよ。」
陸奥・大淀「はと?」
長門「……?鳥がどうかしたのか?」
隼斗「あ?あー…話したことないから知らねえか。喰種専門の捜査官だよ。白いコートを着て、アタッシュケースを持ってる奴はまず間違いなく白鳩だ。ちなみにそう呼ばれる由来は白いコートが平和の象徴である白い鳩を連想させるからだって聞いたことあるけど本当かどうかは分かんない。ただ俺達喰種を狩る正義のヒーローだから実際はそうなのかもね。どうでもいいけどさ…」
そう呑気にあくびをしながら言ってると被せるように「はあ⁉︎」と3人の声が響く。起き上がって、何事?と3人の顔を見るも、どゆこと?と言わんばかりの表情で3人が首を傾げていた。そゆこと、と言おうか迷ったが分かりやすく簡単に説明していく。
隼斗「この世界で例えるよ?喰種が深海棲艦、白鳩が艦娘。以上。」
長門「いや分からん。もっと分かりやすく説明してくれないと困る。」
隼斗「じゃあ追加で説明するよ?白鳩は喰種を駆除・捕獲・研究する専門機関“CCG”に所属する捜査官のこと。んで、俺達と対等に戦える奴等、つまり俺達喰種の天敵な訳よ。生半可な覚悟と実力で挑めば確実に殺されるから出会ったら逃げろと教えられてる。俺も最初は逃げてばかりで中には本当に死ぬんじゃねえかって思うこともあってさ。認めたくないけど、あいつらは“強い”。俺もあいつらに殺された喰種の1人だから、正直に言うともう二度と会いたくないね。」
“人間は虫けらだ”と普段なら全く相手にせず嘲笑うことが多いが、今目の前で説明している隼斗の表情には“恐れ”と“悔しさ”が垣間見れる。
いつもの威勢が全く感じられないこと、そして説明の後半では心なしか声も顎に当てている手も少し震えているように見える。
特に“もう二度と会いたくない”の部分は声が小さくなっていた。
最後に「この世界に居なくて本当に良かった」と付け加え目を閉じ俯く隼斗。
つい先日、初めて弱気な発言や姿を見たがここまで怯える姿は初めてだった。
大淀「喰種を倒せる人間が居たなんて…でも、喰種に銃弾や刃物は通用しないのにどうやって倒すの?私達が使う艤装のような物があるのか、それとも爆弾とか?まさか化学兵器とか言わないわよね?」
隼斗「流石に化学兵器は…でも艤装ってのはあながち間違ってないかな。深海棲艦に有効打を与える武器が艤装のように、喰種に有効打を与える武器も当然あるよ。それが無くても重い物に押し潰されたり、近くで爆弾が爆発したら流石の俺達も死んじゃうけど…でも、それ以外で唯一対抗出来る武器は“クインケ”しかない。」
長門「くいんけ?それが対喰種の切り札ということか。だがどんな素材を使っているのか気になるな。艤装の生産にはどこにでもある資材を使い、そこに妖精の力や技術が込められることで真価を発揮するが、似たような物・技術があるということか?」
隼斗「あるけど、製造方法や材料までは見つけ出すことが出来なかった…でも1つだけクインケの材料になる物は分かってる。これは調べる必要もなかったよ。すぐに分かった…」
長門「何が使われてたんだ?この世界にもあるものか?」
隼斗「……ある。“目の前”にね。毒を以て毒を制すって言葉があるだろ?」
長門「まさか…材料の1つというのは…!」
長門はそこまで言った瞬間に口を閉じ、大淀は持っていたペンを落とし、陸奥は口に手を当て何か言おうとしたのを抑えているようだ。
3人とも目を見開いてこちらを見ているから“何が”材料の1つか分かったということ。
分かりやすい反応をしてくれるから話を進めやすい。
隼斗「そう、その1つが喰種だ。つっても正確に言ったら“赫包”なんだけどね。死体をバラして取り出して、他の材料と一緒にどうにかこうにかやるとクインケの完成ってな訳よ。そうやって次から次へと喰種を殺してはクインケの材料にしていくんだ。中には殺されず死ぬまで隔離されて“処分”されることもあるみたいだけど、とりあえずそれは置いといて…な?毒を以て毒を制するって言葉がしっくりくるでしょ?ほんと胸糞悪い話だよな。もしかしたら俺も死んだ後バラされてクインケの一部になってるかもね。」
陸奥「何よそれ…そんなの余りにも酷過ぎるわ!いくら敵とはいえ非人道的よ!」
隼斗「非人道的、ねえ…でもそれは“人”の“道”と書いて“人道”だろ?俺達喰種は“人”ではなくて“化物”だ。俺達に人道なんかありゃしねえ、人権も守ってくれる法も存在しない。人間にとっちゃ俺達は害悪であり“悪”そのもの、この世の“絶対悪”と決めつけてる。正義のヒーローが悪の手先や幹部を殺しても誰も悲しまないよね?寧ろ良くやったと褒めるよね?喜んでるよね?悪は滅びるべきだと、死んで当然、殺されて当然だと平然と言うよね?だから“絶対悪”の俺達を殺して、その死体を弄ぶのは非人道的には当て嵌まらないんだろうよ。」
コンコン 長門さ〜ん、入ってもいいですか?
隼斗が言い終わると同時に誰かが執務室にやってきたので長門は少し咳払いをしてから返事をする。
入ってきたのは目を真っ赤に充血させた明石で隼斗を見るや否や駆け寄っては今すぐ約束の時だとグイグイ引っ張っていた。
大淀「明石、悪いんだけど今は…」
明石「え、もしかして取り込み中だった?でもごめん、私も今すぐ試したいから隼斗を連れてってもいいかな?」
隼斗「もしかして出来たの?」
明石「勿論!夕張も妖精さんも総動員して完成させたのよ!」
隼斗「仕事早いねえ。ちょうどいいや、陸奥姉達も一緒に来なよ。気になるんだろ?白鳩もクインケも。それに俺が元居た世界がどういうものなのか、喰種がどんな生き方をしていたのかも知れる良い機会だし。」
長門「……分かった、行こう。」
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夕張「お、きたきた。あれ?長門さん達も一緒?まあいいや、隼斗はここに寝てもらえるかな?その後はこのメットを被ってね。あとはこっちでやるから寝る時みたいにリラックスしててね。妖精さん達も準備OK?」
妖精「問題なし!」
妖精「いつでもどうぞ!」
明石「さ〜て、隼斗より強い喰種がどんなものか見ちゃうぞ〜。ついでにその“くいんけ”って武器も拝見させてもらおうかな!」
大淀「ねえ明石、その武器のことなんだけど…」
ここに来るまでにクインケの話を明石にしたのだが肝心な部分まで伝えることが出来ず、また明石も自分の目で見て確認するからネタバレするのは禁止だと大淀だけでなく長門や陸奥にまで口外禁止だと念を押してくるので言い辛かったのだ。
そんなことは知らない明石と夕張は機材の最終チェックを行い、問題が無いことを確認すると2人で一緒に起動ボタンを押す。
遂に「記憶復元装置」、通称“アカムス”(隼斗に「ア○クリじゃん」と著作権の心配をされた)が起動。
フルフェイスのヘルメットに沢山取り付けられた脳波を測定・増幅する小型センサーで記憶を読み取り復元、そうして復元された記憶を仮想空間に反映させる仕組みとなっている。尚これには妖精さんの謎技術がふんだんに盛り込まれているので、他の者が真似して作ることはまず不可能な代物だ。
ー解析完了ー
そんな説明をしてるとモニター内に復元された隼斗の記憶が映し出される。
これまで話でしか聞いたことがなかった隼斗が元居た世界、人間と喰種が争う世界を遂に見ることが出来る。
だが、モニターを見つめる長門達は映し出された光景に衝撃を受けるのであった。