「解析完了」
モニターにそう表示された後、構造物が構築されていく。
鉄骨剥き出しの古びた柱、崩れ落ちた壁、粉々に割れた窓ガラス、床や壁に着いたペンキを見るに何処かの廃墟内であることは分かるがこれはいつの頃の記憶なのだろうか。
だが次に目に入った光景でそれどころではなくなってしまった。
目の前には多くの人達が血塗れで倒れていたのだ。中には腕や足が千切れている者もいることから戦闘に巻き込まれた人間達なのであろう。
誰もがそう思っていた。そう見えたのだから。
だがそれは間違いだった。
視線がすぐ近くで倒れている者に向けられた時、ようやく“誰”が倒れているのか理解した。
薄らと開いた目を見て、それが赫眼だと気付いた。つまり…
長門「これは…まさかここに横たわる者達全てが喰種だというのか?」
明石「そう、みたい…ほら見て、壁にもたれてる人の眼も赫眼…あっちも、そしてこっちも…」
「……ここまでか…」
長門「この声…」
陸奥「静かに。まだ何か話してるわ。」
ーーーーーーーーーー
「……なかなか思い通りにいかないもんだね、人生ってやつは…」
視線が動き自分の手元を見ている。血塗れで、所々深い傷を負っているようだ。
その後、再び視線が正面に向けられると先程まで誰もいなかった筈が1人の男が立っていた。
「…同感だ。お互い、守りたいものを失ってきたからな。」
「よく言うよ、あんたはまだ全てを失ってない…俺は…全て失った………」
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陸奥「ねえ長門、あの格好って隼斗が言ってた…」
長門「ああ、間違いない。あの男が“白鳩”と呼ばれる者だろう。」
隼斗の目の前に現れた男の服装と手に持っているアタッシュケースを見てそう確信した。
確かに隼斗が言うように“強い”。戦う姿を見ていなくとも目を見れば分かる。あれは多くの戦いを生き抜いてきた強い目をしている。
そして記憶は先へと進んでいく。これが“死”の記憶とも知らないまま。
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捜査官「もう終わりにしよう。小細工はなしだ、正面から行かせてもらう。」
左手に槍状のクインケを、右手に盾のクインケを構え、重心を前に傾ける。
喰種「……なら、終わらせてみな、人間‼︎」
声を荒げたと同時に、バキバキと音を立てて上半身と両腕を赫子が覆っていく。
体に纏う赫子は甲冑を、そして両腕に纏わりつく赫子は右腕だけ剣状の赫子を形成していく。
と、同時に腰から6本の赫子を生やすと弾丸の如く相手に向かって突き出す。
捜査官「うおおおおおおお‼︎‼︎‼︎」
迫り来る赫子を交わし、1歩近づき、そして盾で受け流し、また1歩近づいていく。
喰種「 ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"‼︎‼︎‼︎‼︎」
赫子を交わし、迫り来る捜査官を確認すると、咆哮を上げ、地面を力強く蹴り
一直線に突込んでいく。
瞬間、互いが突き出した槍と剣がぶつかり合い、両者の腕に凄まじい衝撃が走る。
衝撃が過ぎて、少し間が空き、突如剣が砕け散る。最早、満身創痍の身では赫子に強靭さがないようだ。
瞬時に小手で防ごうとするが無慈悲にも槍が貫き、手首から上を吹き飛ばすと
そのまま心臓目掛けて突き進み、体を覆っていた赫子ごと心臓を貫く。
喰種「くっ…そ……ごめん、み…んな……ごめ……」
赫子が灰のように宙を舞って消え去り、喰種は捜査官にもたれ掛かるように崩れ落ちる。
その体から槍を引き抜き、ゆっくりと地面に寝かせ
捜査官「……終わったよ、みんな。SSレート“羅刹”、討伐完了。」
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突如始まった戦いはものの数分で終わりを迎えた。
凄まじい速度で繰り出された赫子の連撃を物ともせずに真正面から受け流しつつ確実に距離を詰めているかと思いきや、身体の芯から震え上がらせる咆哮を上げて今度は隼斗が距離を詰める。そこからは一瞬の出来事だった。
男の持つ槍が赫子を砕き、手首を吹き飛ばし、心臓を貫いた。
一瞬の出来事に長門達は追いつけず理解した時には隼斗が力無く崩れ落ち、男がその身体を抱きとめてゆっくりと寝かせるところだった。
それを見た時、ようやくこれが何の記憶か理解した。
長門「これは…隼斗が死んだ時の記憶。」
陸奥「みたいね。それにしてもあの人見てよ、全然傷1つないわ。あれだけの攻撃を受けていながら無傷だなんて…信じられないわ。」
明石「それもですけど1番驚いたのは赫子や喰種の皮膚を打ち破ったあの武器が凄いですよ。あれが“クインケ”と呼ばれる武器。」
大淀「喰種が持つ赫包を素材の1つにした対喰種の切り札。これほどとは思いませんでした。ですが、この武器があるからこそ人間は喰種と対等に戦うことが出来る訳ですね。」
夕張「でも1番最初に見る記憶が隼斗が死ぬ時のだなんて…正直見たくなかったな…」
明石「うん…あ、待って、まだ続きがあるみたい。」
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「…すまない、隼斗くん。私は、君も救うことが出来なかった…!」
「………」
「どうか、安らかに眠ってくれ。また会おう、さようなら…」
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男の手でゆっくりと瞼が閉じられていき、そこで映像は終わる。
最期の時に男が隼斗に対して言った言葉の意味は何だったのか疑問が残る。“君も救うことが出来なかった”とは一体どういうことなのか?
明石「あの人、泣いてるように見えたけど…敵じゃないの?くん付けで呼ぶってことは知り合いなのかな?」
夕張「隼斗に人間の知り合いがいたってこと?それはないんじゃない?」
大淀「だとしたら一体どういう関係なんでしょう。ただ敵対しているとは思えない感じがしましたが…」
陸奥「それに“らせつ”とか言ってなかった?隼斗と呼んだり“らせつ”と呼んだり、隼斗が起きたら聞きたいことばかりね。」
明石「じゃあ、次は私との約束を果たしてもらおうかな。えっと、どこかな〜…」
長門「なんだ。まだ見るのか?」
明石「隼斗が言ってたんです。“元居た世界じゃ俺はそこまで強くない”って…おい、マジかよ!!ってなっちゃいますよね⁉︎私達から見たら十分過ぎる程強いのにそれで“そこまで”って言われたらねえ…じゃあ隼斗より強い喰種はどんなのか気になりましてね。」
長門「隼斗がそれほど強くないだと?冗談だろ。」
明石「私もそう思いましたけど、そうじゃないみたいです。なんでも隼斗と同じ実力を持つ喰種は沢山居て、しかもそれ以上の喰種も存在するって言ってました。もう気になって気になって仕方ないんですよ!あ、これかな?」
カタカタとキーボードを叩いて次の記憶を選択して再びモニターに視線を向ける。
先程とは違う場所で少しだだっ広い空間、目の前で腕組みをしてこちらを見下ろす女性が映し出された時、その場に居た全員が驚きの声を上げた。何故ならその女性が長門と瓜二つであったからだ。ただ目つきが悪い。どこかの誰かさんを彷彿させる目つきの悪さで、こちらも睨みつけられてるようで恐い。
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「おい隼斗、テメェ…虫けらの分際であたしに勝てるって?ほんの少し強くなったぐらいではしゃいでんじゃねえぞ?」
「別に勝てるとは言ってねえけど、傷の一つぐらいはつけれると思うよ?」
「言うじゃねえか。本当にそれが出来たら今日抱いてやるよ。」
「いや遠慮しとく。まあ、そんなことは置いといて…本気でやるから。死んデ後悔スんナヨ!!」
「糞ガキが…格の違いを教えてやる。」
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そこからの展開はあっという間だった。
隼斗の初動は羽赫の赫子による精密射撃。羽から撃ち出された赫子で頭・心臓・四肢の付け根を正確に捉えていた。
直後、地面を踏み抜く程の強さで力強く地面を蹴り上げて一気に距離を詰める。
今度は鱗赫の赫子に切り替え、鞭のようにしならせてこれまた弾丸の如く6本の赫子が相手の手足や首に突き刺さった。
開始早々、隼斗の怒涛の先制攻撃により戦闘開始から20秒も経たずして決着がついた。
勝者は、長門似の喰種。隼斗の連撃を避けることなく全て受けて尚、無傷であり懐に来た隼斗の頭を鷲掴みにしては地面に叩きつけた。
そしてピクリとも動かずただただ頭から血を流す隼斗を再び腕組みをして正に虫けらを見るような眼で見下ろす。
その姿は先程とは違い、まるで中世ヨーロッパの騎士が着けていたフルプレートアーマーを彷彿させる赫子を纏っていた。
あれだけの攻撃を受けても傷一つないとはどれほど強靭な硬さをしているのか。
しかし何より驚くべきことはあの隼斗をたった一撃で仕留めたこと。
暴走した隼斗を止める為、扶桑達は主砲による集中砲火を繰り返し浴びせ四肢を吹き飛ばすことでようやく仕留めたというのに。
それをたった一撃で仕留めたのだ。この者の実力は隼斗より格上であることは間違いない。
どの世界にも強き者の上には更に強き者がいる。人間も、艦娘も、深海棲艦も、喰種も、例外なく存在する。
だがやはり
深海棲艦も喰種も
間違いなく
ーー“化物”だ。ーー
一度記憶の内容や新たな情報を纏める為、記憶解析は一時中断。
隼斗が死ぬ原因となった白鳩の存在とその実力、クインケの威力、長門似の喰種の存在、聞いていた話よりも内容が濃く、かつ新たな疑問や興味が湧いてくるのでホワイトボードに箇条書きで記していく。
隼斗の“俺はそこまで強くない”発言はあながち間違えではなさそうだが、だとしたらそちらの世界での強さの基準は一体どうなっているのだろうか?世界が違えば基準も違うのかもしれないが、ここまで違うものなのか?強さの基準が高過ぎないか?
白鳩。喰種と戦う者で対喰種専門の殺し屋と言っていた。人間でありながら喰種と対等に渡り合い、討伐する実力を持つ。
武器は赫包を利用したクインケと呼ばれるものを使う。映像を見たがその威力は申し分無いものだ。
長門似の喰種。目つきの悪さと口の悪さ、纏う空気と放つ殺気以外は長門そっくりだった。
だが1番驚くべきは隼斗を一撃で仕留めた圧倒的な実力を持っていること。しかも攻撃を全て受けても微動だにせず、かつ無傷。
この喰種も隼斗を知っているみたいだが…しかし“抱いてやる”とは…聞いていて恥ずかしい。
明石「あれ?おかしいな…この記憶だけノイズが走ってる。何でこれだけ?」
妖精「見ちゃダメ。」
明石「え?何で?」
夕張「あ、もしかして何かやましい記憶だったりして。妖精さんは隼斗に優しいな〜。」
妖精「ううん、そんなんじゃないよ。とても悲しい記憶。とてもとても…悲しい記憶……他にも悲しい記憶は沢山あったけど、この記憶が深く濃く隼斗に刻み込まれてる。」
妖精「見せてはいけない、またあの悲しみと怒りを思い出させてはいけない。だから敢えてノイズを入れたの。」
妖精「あの姿は憎悪と怒りの権化。」
妖精「何故人間が隼斗を“羅刹”と呼ぶのか理解出来る。あの姿が本当の隼斗なのかもしれない。」
夕張「妖精さん達どうしちゃったの?ねえ明石、ちょっと妖精さん達の様子が恐いんだけど。」
明石「分かってる。ねえ妖精さん、一体何を見たの?何の記憶だったの?」
妖精「妹さんが殺された時の記憶。この装置は本人も追体験出来るようになってる。だから絶対見せてはいけない。」
明石「なるほど…妖精さんの言う通りにするわ。今日はここまでにして一旦起こそうか。」
/
隼斗「……」
明石「お疲れ様。気分はどう?」
隼斗「……う〜ん、どうって言われても…何か不思議な感じ。てかさっきのみんなも見てたんだよね?」
明石「ばっちし見てたよん。長門さん似の喰種にワンパンでやられてたとこもね。」
隼斗「あれは俺が慕ってた姉さんの1人だよ。無茶苦茶鬼強くて一度も勝てたことがないんだ。てかそんなことより白鳩がどんな奴かちゃんと見た?あれもあれで強いっしょ?」
長門「ああ、とても人間とは思えない程だった。お前の攻撃を難無く避けて一撃で倒すとは恐れ入るよ。」
長門の発言に少しムッとしつつも隼斗は特に反論はしなかった。ムッとしながらも「そうなんだよね〜」と苦笑いで言ってるぐらいで隼斗も相手の実力を認めているように感じる。今までの言動や振る舞いからは考えられないことだ。
それに人間を虫けら呼びしているのであればその虫けらに敗北することはプライドが傷つかないのだろうか?
喰種として、一組織の長として、これほどまでに屈辱を味合わされたにしてはすんなりと認めれるものだろうか?
隼斗「……長門姉、どしたの?すげえ難しい顔して…シワが増えちゃうよ。」
長門「いや、あの男の実力を認めているように思えてな。意外だなと思っていたんだ。それとシワが増えるは余計だ、馬鹿者。」
隼斗「や〜ん怒ってるぅ。んま、悔しいけど認めてるよ。こう見えてちゃんとそういうのは真摯に受け止めるタイプなの。」
長門「本当に意外だな。」
隼斗「まあな、でもこうも思ってる。もし俺があの時と違って万全の状態で、かつ本気で全力で戦っていたらどちらが生き残るのかなって。ただの負け惜しみだけど…でももし、もう一度出会うことがあれば戦ってみたい。人間でもう一度会いたいと思うのはあいつだけだ。」
そこに憎しみや怒りなどはなく、純粋に再開を望み、再び刃を交わし、互いの命をかけて殺し合いたいと願うのみ。
一度も勝利はなく、一度も敗北もなし。地上に出て、組織を立ち上げてからの1年間で何度も死闘を繰り広げてきたがあと一歩のところでいつも殺せなかった。だが最後に軍配が上がったのは人間で、喰種は死んだ。そのたった一度の敗北で死を迎えたのだ。
あの泣き虫でもやしっ子でいじめられっ子だった奴がここまで化けるとは思わなかった。その原因となったのも俺達喰種が関わっているんだから自分達で撒いた種ってことだ。なるべくしてなった、ということかな。それが無ければまた違う未来もあったのかもしれない。
お互い憎しみに駆られるのではなく、手を取り合って生きていくことが……
まあ…もう過ぎたことだし、何より“もしも”の話をしたところで無意味だけどね。
記憶の復元作業は一旦終了、その場で解散となった。
再び鎮守府内を彷徨う隼斗が次に来た場所は以前憲兵が使用していた宿舎だった。普段自分達がいる場所が本館としたらその少し離れた場所に離れのように建てられている。ここに来て数ヶ月経つが一度も来たことがない、というか気にしたこともなかった。
隼斗「……な〜んでここに来たかな。まあいいや、中入ってみよ。」
宿舎には鍵はかかっておらず普通に入れた。入ってすぐのとこには勤務表や曜日毎の訓練が書かれた紙が貼られてある。
それを少し見た後は奥へと進んでいくと共同スペースがありソファやテレビ、雑誌にお酒が飲めるバーカウンターが完備されていた。日頃の職務を終えてここでくつろいでいたのだろうか。どうでもいいけど。
更に探索を続け憲兵が使用していた部屋も1つずつ確認していく。やはり軍属だけあって部屋の中は質素なものだ。
どこかの糞豚の部屋は豪勢な物ばかりが目立っていたがここはどうやら違うらしい。特に気になるものはないなと思いながら見ていると机の上に置かれた紙が目に入る。近づいて徐に開くとそれは手紙だった。その横には写真があり手に取って見ると家族写真だろうか皆が笑顔で映っていた。手紙の内容も読んでいくと近々家族に会うことになっていたらしい。
隼斗「……この部屋の奴は家族に会えるのを楽しみにしてたんだな…」
手紙と写真を机に置きそっと手を合わせた後に部屋を出ていく、というのは嘘で実際は躊躇なくそれらを握り潰して横にあるゴミ箱へと投げ捨てた。その時の表情はどこか嬉しそうな感じで片方の口角が吊り上がるほどだ。もしもここに自分以外の誰かがいて、今の自分の顔を見たらどう思うだろうか。何故そのようなことをしたのか怒るだろうか?何故笑っているのか問い詰めてくるだろうか?それ以前にドン引きされるかもしれない。でも、仮にそれをされたとしてもどうでもいい。
だって…
“楽しいから”
そう、楽しい。何が楽しいかって?写真に映る女性とその子供から“大切なもの”を奪ったから。その人間が大切にしているものを奪うのが楽しいから笑ってる。そして想像する。奪われた時にどんな表情をしていたのか、どんな声を上げて泣き叫んでいたのか、想像するだけで笑いが込み上げてきては遂に我慢出来ず隼斗は声を上げて笑った。楽しんでるように、狂ったようにただただ笑っていた。
「楽シイ…もっと、もっと…奪いタい、殺シタイ…!」
奪われた。俺達喰種も奪われた。大事な家族を、友達を、仲間を、大切な人を…同じように人間に奪われてきたんだ。
自分の目の前で、知らない所で、奪われ続けてきた。そんなのはもう嫌だ、二度とごめんだ。もう誰も失わない、奪わせない。
人間が俺達から奪うなら、俺達はそれ以上に奪ってやる。同じ“大切なもの”をこの手で奪い尽くしてやる。
人間は自らを“正義”といい、喰種を“悪”だというが大いに結構。俺は“悪”だ、それも飛び切りタチの悪い“悪”だ。
だがそもそもこの世に“正義”など存在しない。それはただの“妄言”であり、“戯言”でしかない。命を奪うことが“悪”だというのなら喰種も人間も一緒だろう。喰種は人間を、人間は動物を殺して血肉を喰らう。殺す対象が人間か否か、たったそれだけ。やっていることは変わらない。
この世で生きていく以上、他の生物の命を奪うことは至極当然のことであり必要なこと。
それが“悪”というのなら
「人間も喰種も皆同じ、この世は“悪”しかいない。」
そしてそれを受け入れよう。
俺は…
ギシッ は、隼斗…なのです?
声に反応してゆっくり振り返ると扉のところで怯えながら立ち尽くす電の姿があった。怯えるのも無理はない。部屋の真ん中で狂ったように笑いながら飾られている写真を赫子で切り裂き、一部は“喰べて”いる光景を見たら誰もが恐怖を感じるに決まっている。
しかもブツブツと楽しいだの殺したいだの、挙句喰い足りない、もっと奪わせろだの狂気じみた独り言を大きな声で言いながらそのような行為をしていたら余計恐ろしく見える。大の大人でも小便漏らすだろう。
電「あ、あの…!ここで、何しているのです?そんなの食べたらお腹壊しちゃうのです。」
隼斗「……あ?ん?…プッ!うえ、紙喰ってんじゃん。気持ち悪っ…」
床に吐き出したものを見て自分が無意識に写真を食べていたことに気づき、流石にこれは自分でも引いてしまう。
電が怯えきってるから何とか落ち着かせる為にハグしたり笑顔で話しかけると少しは落ち着いたように感じるが大丈夫だろうか。
隼斗「驚かせてごめんね。」
電「とっても怖かったのです…隼斗が隼斗じゃなくなったみたいでとても怖くて…」
俺じゃなくなったみたいで、か…まあ、あれが本当の俺なんだけど。
電「妖精さん達がここに行くのを見たって言ってたから来たけど、ここで一体何をしてたのです?」
隼斗「んー、特に用事はなかったんだけど気づいたらここに来ちゃったから探検してた。そんな興味惹かれるものなかったからつまんないなーとは思うけど、まだ行ってないとこあるからもうちょっとだけ探検するよ。電も来る?」
電「え、いや…い、一緒行くのです…」
隼斗「……?無理に合わせなくてもいいよ?」
電「ううん、一緒なら大丈夫なのです。」
隼斗「そっか、じゃあ手繋ご。それなら俺も安心出来るから。」
いまいち反応が悪い電が気になるが原因はどう考えても俺だろうなあと反省しながら宿舎内の探検を続けることに。
部屋を見て、机を漁って、次の部屋へ、その繰り返しで途中から飽きてしまった。何も面白くない。つまらん。
隼斗「もういいや、飽きたし部屋戻ろっか。」
電「………」
隼斗「……?どったの?」
電「…ビデオ……」
隼斗「……⁉︎」ビクッ
急に立ち止まるから何事かと思っているとゆっくりと手を伸ばしある方向を指差すではないか。
誰もいない宿舎でビデオが勝手に動くなど明らかに心霊現象。妖怪のせいに違いな、いや間違いない!!
お化けは大大大大大大大大大大大大大の苦手なんだよ!
だから瞬間、身体がビクッと反応してしまう。直立不動、動かざること山の如し、ただのビビリなだけですけどね。
電「……ふふ、あはははは!隼斗、今とってもびっくりしてたのです!見ちゃったのです♪」
隼斗「ふぁ⁉︎な、なんだ嘘かよ…やめてよもうぉ……」
電「電はビデオって言っただけですけど、隼斗は何を考えてたのですか?びっくりするようなことでも考えてたの?」
隼斗「え、いや…お化けかと思って…な、なあ電、嘘だよね?本当はお化けとかいないよね?いないよね⁉︎」
電「え、う、嘘に決まってるのです。ちょっとびっくりさせようと思って言っただけなのです。」
隼斗「だよね、そうだよね。そうだよね⁉︎嘘だよね⁉︎」
ガタッ ギィィィ
隼斗・電「……⁉︎」
ああ…ああああ…ぁぁぁぁあああああああああ
突然背後から聞こえる不気味な声と足音にぎこちなくグギギと首を動かして後ろを振り返る。
するとすぐそこに、なんなら目の前に黒髪の長髪で血だらけの巫女服を着た女の霊が立っていた。
隼斗「あばばばばばb…」
電「……」
血塗れ巫女服の女「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
隼斗「ぎゃああああああああ!!!!出たぁぁぁぁぁぁ!!!!」
電「………(はわわ、物凄くびっくりしてるのです。これは予想外の反応なのです…)」
血塗れ巫女服の女2「キィィィィィィィィィ!!!!!!」
隼斗「いやあああああああああ!!!!こっちも出たぁぁぁぁぁぁ!!」
ーー緊 急 脱 出 !!ーー
隼斗「城門突破ぁぁ!!」
電「へっ?はわーーー!!」
ドガァァン!! きゃああ!! ちょ、ちょっと何⁉︎何が起きたの⁉︎
血塗れ巫女服の女「……あら、行っちゃったわ。」
血塗れ巫女服の女2「ふふふ、あはははは!面白くてお腹痛いw」
/
隼斗「〜〜〜っ///」
扶桑「うふふ、そんなに怖かったかしら?もうおどかさないから大丈夫よ。」
山城「くく、やっぱりだめwおかしくて笑っちゃうわ!あはははは!」
叢雲「あんたの悲鳴外まで聞こえてたわよ?まさかあんなに…ぷふっw」
電「ちょっと、びっくりさせ過ぎちゃったのです。よしよししてあげるのです♪」
雷「お兄ちゃんもお化けは怖いのね。いいわ!こういう時はこの私を頼ってくれてもいいのよ?」
隼斗「お化け怖いに決まってんだろうが!!何処にでも現れて…やだあああ!!引きずり込まれるぅ!!うわーん、電ぁ助けてよぉ!」
響「なるほど、隼斗はお化けが苦手なんだね。じゃあ今度一緒にホラー映画見ようよ。」
隼斗「俺の話聞いてた⁉︎ねえ、響は俺の話聞いてたの⁉︎お前は鬼か⁉︎」
暁「へえ〜仕方ないわね。今度から夜トイレに行く時は一緒行ってあげるわ。感謝してよね?」
隼斗「はあ⁉︎お前は俺以上にビビリだろうがよ!!1人でションベン行ってこいや!!」
暁「あ、暁だって1人で行けるもん!ば、ばば馬鹿にしないでよね⁉︎プンスカ!」
血塗れた巫女服の女幽霊は何と出撃から戻ってきた扶桑姉妹だった。
隼斗が宿舎に入ったと同時に帰還し入渠しようとしていたところを雷達と遭遇。ちょっとした悪戯をするから一緒に来ないかと誘われたので一つ返事で承諾、参加したというわけだ。結果は大満足である。あの隼斗がビビり散らして壁をぶち壊し、外へ逃げていったのは最高に面白くてお腹を抱えて笑ってしまった。
本当はもっとお化け役が待機していたのだが隼斗が外に逃げてきたので見つかってしまい驚かすことは出来なかった。
ちなみに外で待機していたの隼斗の部屋にいたメンツで、皆がお化けの仮装をしていた。それはそれで隼斗はびっくりしていたそうだが。
恥ずかしいのか顔を真っ赤にして追いかけ回す隼斗を微笑みながら見ていた電だがふと思うところがあった。
あの時部屋で見た隼斗、そして今みんなを追いかけ回す隼斗、戦う時の隼斗、キレた時の隼斗、暴走した時の隼斗、優しく抱きしめてくれる時の隼斗、慰めてくれる時の隼斗、隼斗は色んな表情や感情を見せてくれる。感情表現が豊かとも言えるが、正直言って時折分からない時がある。一体どれが本当の隼斗なのだろうかと考えてしまうのだ。そのどれもが隼斗だと分かっている、分かってはいるが先程の姿や声、雰囲気を見た時もそうだが心の底から恐ろしく感じることもある。それは憎悪からくるものかもしれない。だがそういう時にある言葉が脳裏に浮かんでくる。
“壊れている”
妖精さん、そして隼斗自身が言っていた言葉が頭に浮かんでしまうのだ。
それに隼斗が艤装を使うようになってから共に戦う妖精さん、通称“隼斗隊”の妖精さん達がそう言うのだ。
妖精は言葉を介さず意思疎通も出来る。いわば一種のテレパシーのようなものが使える、だからこそダイレクトに響く。
隼斗の内に潜む狂気が声を上げ血肉を求めて殺戮を欲していることを。
いずれ分かる時が来る。
それは“最悪”な形で突然訪れる。