「夏といえば海!今日は大人気の海水浴場にやって来ました!ご覧ください、この大賑わい!」
「いやもう最高っすね!あーもう可愛い子や綺麗なお姉さんばっかしですよ。たまんねえな!」
昼間の食堂内に響くテレビの声。夏真っ盛りということで人気の海水浴場や夏祭り、イベント等の特集番組が連日のように流れている今日この頃。レポーターの若い男性が同じく若くて可愛い女性たちにインタビューをしているが、どう見ても顔と胸しか見ていない。
好みなのか知らないがニヤニヤしてボディタッチまでしているではないか。
比叡「男ってなんでこうもすぐ鼻の下伸ばすかな〜。」
扶桑「殿方全員がこうだとは言えないと思うけど、少なくともこの2人は下心丸出しね。」
山城「ちょっとあんた、せめてズボンぐらい履きなさいよ。パンイチとか汚いわね。」
隼斗「あづい…!山城あづいよ゛。助けて、じぬ!!」
扶桑「あの子はただの丸出しね。ちょっと隼斗、もう少し恥じらいを持ちなさい。もう、駆逐艦の娘達が真似したらどうするのよ。」
隼斗「きゃっ///」
山城「うわ、キモっ!」
比叡「ヒエ〜…寒気がしてきた。隼斗〜、気持ち悪いから紅茶淹れてきてよ。」
隼斗「はーい。何ですぐそうキモいとか言うかな…傷ついちゃう。」
比叡「はいはい、本当のことだから拗ねないの。それとマカロンもお願いね。」
「はいはーい。」と言われた通りに紅茶とマカロンを用意して比叡のところまで運んで行く。
最近金剛から紅茶の淹れ方を教えてもらって以来、金剛姉妹の紅茶は隼斗が用意することになっていて、次は紅茶に合う洋菓子の作り方を教えるんだと金剛は張り切っているらしい。“味”が分からなくても作り方と分量さえ教えたらそれなりの味を再現出来るから不思議だ。
霧島「そういえば昨日聞いたんだけど、お化けが怖くて大っ嫌いなんですってね。」
隼斗「うぐっ、まあ…そうだけど。何?まさか霧島お姉様も響みたいにホラー映画見せる気じゃないよね?」
霧島「あら、先に言われるなんてびっくりだわ。どう?今日みんなで一緒見ない?」
比叡「ヒヒヒ、とびっきり怖いホラー映画を用意してるから楽しみだね〜。」
昨日の宿舎での出来事があっという間に広がり皆が知るところになっていた。どうりで朝から驚かそうとする奴らが多いわけだ。
膝かっくんしてきたり、後ろから急に大声出して抱きついてきたり、角待ちされたりと部屋から食堂へ行くまでの間にまあたくさん仕掛けられたことをはっきり覚えている。全部に驚いて声を上げてしまったことが恥ずかしい。しかも夢にまでお化けが出てきて追い回されたりと踏んだり蹴ったりで泣きそう。
以前ならすぐに察知して角待ちも後ろからの強襲も全てに反応することが出来てたけど…ここにいると平和過ぎるから気が緩んでるみたい。
このままじゃあ不味いなと霧島と比叡の相手をしながら反省していると金剛と榛名がやってきた。
金剛「Hey、隼斗!今日も涼しい格好してますネ。全然ムラムラしない自分にびっくりデース!」
榛名「もう見慣れちゃいましたからね。隼斗がパンツ1枚で過ごしてる姿だけじゃなくて裸も見てますから。」
隼斗「んーまあ確かに。一緒風呂入るからお互い裸見てるもんね。」
金剛「この会話を聞かれたら隼斗は世の男たちからの激しい嫉妬や反感を買いそうデスネ。ま、この私のパーフェクトなボディを見れるんだから嫉妬されるのも無理ナイネ。」
隼斗「パーフェクトって…少し前と比べて二の腕の肉が増えてるよ。」
金剛「What ⁉︎な、ななな何を言ってるか理解出来ないネ。ヒュ、ヒュ〜…」
比叡「金剛お姉様、口笛吹けてないです。」
金剛「老けて⁉︎」
比叡「いえ違います。字が違ってますよ。吹けて、です。とりあえず紅茶を飲んで落ち着きましょう。」
隼斗「もうみんなの用意してるから座って飲みなよ。扶桑姉様と山城姉様の分も淹れてるから飲んでね。」
扶桑「あら、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて頂くわね。」
山城「ちょっとなんで急に私も“姉様”呼びすんのよ。紅茶はありがとう、頂くわ。」
隼斗「前からそう呼べって言ってた癖に。まあいいや、それにしても暑いなあ…俺暑いの無理なんだよ。なんでこんなに地上は暑いの?意味分かんねえぐらい暑い。昔みたいに地下に篭ろうかな…ひんやりしてて快適な地下が懐かしいよ…」
確かに隼斗の言う通りで本日の気温は38℃と真夏日で、しかも明日以降は更に上がって40℃になる予報だ。鎮守府内は妖精さん達のおかげで部屋も廊下も空調設備と冷風が通るダクトまで完備され非常に快適な室温に保たれている。正にオアシスだ。それでも多少熱気は入ってくるから完全ではないが。その入り込んでくる熱気にやられているのが美女達の隣で床にパンツ1枚で大の字に寝ている隼斗である。
側から見たらただの変態。猥褻物陳列罪で即逮捕されてもおかしくない。
榛名「もう隼斗ったら、そんなに暑いなら今ここでホラー映画見たらいいじゃない。榛名は見ても大丈夫ですよ♪」
隼斗「いや…榛名お姉様が良くても俺が良くない。見ないからなあぁぁ…あ、暑い…」
金剛「比叡、榛名、霧島、早速準備ネ!鳳翔と間宮もこっちに来て一緒見るネ!」
鳳翔「うふふ、そうですね。少し涼もうかしら♪」
間宮「私も賛成です。じゃあ、カーテン閉めますね♪」
霧島「私も手伝います!」
比叡「じゃあ私は隼斗を椅子に縛りつけちゃいますね。さあ大人しく観念しなさい、ひひひひ!」
隼斗「ふぇっ?や、やめろぉぉ…離せえぇ…」
暑さでやられた隼斗は難無く椅子に座らされ金剛と扶桑の間に挟まれて完全に捕まった。その間にも手際良く準備され部屋も暗くなり、どこから取り出したのかプロジェクターと大型スクリーンが設置されていた。この食堂は一体どうなっているのか気になるところだが隼斗にとってはどうでもいいことだ。今はこの状況からどうやって脱出するかが大事なのだが無情にも上映が始まる。
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「こ、この館は呪われてる!都市伝説は本当だったんだ!嫌だ、死にたくない!」
「落ち着け!まだそうだと決まってないだろう!とりあえず今は状況整理から、っておい!待て!単独行動は危険だ!」
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隼斗「ば、馬鹿野郎。1人は危ないって分かんねえのかよ…ひっ⁉︎い、いいいい今なんか居たぞ…!」
霧島「うふふ…ただのカーテンよ。まだそんな怖くないじゃない。」
榛名「この程度で怖がってたらこの後耐えられないですよ?」
間宮「確かに。このホラー映画は今年最恐と言われてますからね。」
隼斗「ううぅ…終わった、これはもう終わった…」
鳳翔「ほら、下向いてないでちゃんと見なさい。男の子でしょ?
〜上映開始50分後 中盤〜
比叡「ヒエーーー!!」
榛名「きゃああ!!」
隼斗「ぎゃあああああああああああああああ!!」
金剛「うるさい。」
〜上映開始70分後 終盤〜
隼斗「早く!そんな奴ほっといてさっさと護符貼りゃいいんだよ!うわあああ!!すげえ速さで匍匐前進してきたああああ!!もうだめだーー!!この世の終わりだああああ!!」
金剛「うるさい。」
扶桑「ちょっと静かにしなさい。」
〜上映開始90分後 エンディング〜
霧島「いやあ…何回見ても慣れない怖さでしたね、これ。」
山城「扶桑姉様、今日は一緒の布団で寝てもいいですか?」
隼斗「…………」
金剛「映画が終わって静かになるなんて、普通逆じゃないデスカ?」
上映中は叫んでばかりだったのに対して上映後はまるであ○たのジョーばりに真っ白に燃え尽きて安らかな表情で座っていた。
「この世の終わりだ」と叫んでいた時は隣に座る金剛にしがみついて胸に顔を埋めるほどビビリ散らしており、そこからエンディングに入るまで金剛は隼斗の頭を撫でながら映画を見る羽目になってしまった。普段、あれだけ威勢の良い隼斗がここまでホラー耐性が紙装甲だとは思わなかったが少しいいもの見れたと内心楽しんでしまった。それにこういう可愛いところもあるのだなと、自分の中にある母性をくすぐられる。これはこれで良いものだ。
長門「む、なんだ。どうして部屋が真っ暗なんだ?」
陸奥「ほんとね、って…なになに?あ、これもしかして“貞子&伽耶子VS吉田沙保里”じゃない⁉︎今年最恐のホラー映画観てたの?いいなあ私も観たかったのにな〜」
金剛「いや〜、なかなか内容は怖いけど隼斗がビビリ散らしてばかりでちっとも怖くなかったネ。」
貞子&伽耶子VS吉田沙保里
2020年夏、ジャパーズホラーの二台巨頭と霊長類最強が呪われた館で激闘を繰り広げる超大作。勝つのは呪いか、はたまた頂点を極めし真の実力か衝撃のラストに戦慄する、とのキャッチコピーで人気爆発したホラー映画。
それなりにストーリーは練られていて随所に恐怖する場面もあったのだが、金剛の言う通りでそのほとんどが隼斗の悲鳴で掻き消されたので全く怖くなかった。むしろうるさかった。勝者は呪いでも頂点を極めし“武”ではなく隼斗のビビリ度合いでしたとさ。
扶桑「今みたいに静かにしていれば内容も入ってきたんですけどね。この子ったらずっと怯えてばかりで集中出来なかったわ。」
鳳翔「確かにそうですね。隼斗、起きて。隼斗ー?もう、完全に燃え尽きてるわ。」
長門「これまた随分と安らかな表情で燃え尽きているな。大丈夫なのかこれ?」
陸奥「今のうちに写メ撮っておきましょ。」
赤城「あら?皆さん何をしているんですか?」
加賀「このエンディング曲は、例のホラー映画ですか?」
吹雪「あれ?えっ⁉︎お兄ちゃんどうしちゃったの⁉︎」
夕立「あー!隼斗が果ててるっぽい!」
時雨「果ててる⁉︎くそ、一体誰としたっていうんだい⁉︎隼斗、君には失望したよ!」
満潮「ちょっと時雨やめなさいってば!どう見ても違うでしょう⁉︎」
次から次へと食堂へ集まる度に隼斗の燃え殻を見ては色んな声が飛び回る。改めて隼斗がこの鎮守府に現れて以降、こういうやり取りや雰囲気が多くなったと皆が思っている。本当にこの鎮守府は変わったのだと心から嬉しく思い、感謝していた。その功労者は時雨の理不尽なビンタの嵐に晒されているが全く起きる気配がないが、これはもう放っておこう。
雷「あちゃ〜…これ完全にダメね。意識あるのかしら?もしもーし?」
電「普段の隼斗じゃ考えられないのです。そんなに怖かったのかな?」
隼斗「……」ピクッ
朝潮「あ、今耳が動きましたよ?」
隼斗「い、いいい…」
雷・電・朝潮「………?」
隼斗「電の…声がする…!」ギロッ
雷・朝潮「ひっ⁉︎」
電「大丈夫ですか?映画ならもう終わって今はドラ○モン見てるのです。」
隼斗「電ああああ!今日一緒に寝てくれ!お願い!また夢の中でお化けに追い回されちゃうから!もうやだああ、もうこの世の終わりだああああ…俺はお化けに襲われて死んじゃうんだああ……」
目覚めて電に抱きついたと思ったらこの有様。ホラー映画でまさかここまでビビリ散らして軟弱になるとは予想外な展開。
中には金剛と同じように母性をくすぐられる者もこの日を境に増えたとか。
雷「もう、びっくりさせないでよね⁉︎全く…こっちの方がよっぽどホラーじゃない。ていうか、ちょっとお兄ちゃん!せめてズボンは履かなきゃだめじゃない!部屋ならまだしもここは食堂でみんながご飯食べるところなんだからパンツ一丁はだめよ⁉︎」
隼斗「ううぅ…でも今1人で部屋まで戻れないよ。どこから出てくるか分かんねえじゃん⁉︎」
加賀「はあ、見てられないわね。私が一緒についていってあげるから部屋に戻るわよ。」
隼斗「加賀姉ぇ…いや加賀お姉様!お願いします!」
加賀「電ちゃんも一緒に来てもらえるかしら?その方がこの子も安心出来ると思うから。」
電「はいなのです。電も一緒に行くのです♪」
赤城「うふふ、優しいですね加賀さん。」
加賀「流石にこれ以上は見ていられなかったので。ごめんなさい赤城さん、先にご飯食べててもらってもいいかしら?」
赤城「大丈夫ですよ。隼斗のことお願いしますね♪」
加賀「ええ、任せてください。」
〜10分後〜
加賀「戻りました。」
電「戻ったのです。」
隼斗「タダイマ。」
艦娘達「……⁉︎」ガタッ
加賀、電、そして最後に入って来た隼斗を見た瞬間、食事中の艦娘全員が目を見開いて身構えた。
何故なら先日暴走した時の姿であの悍しい3つの目でこちらをジッと見ていたからだ。今この場で暴走されたらこちらは何も抵抗出来ず死んでしまう、そう思っていると加賀と電は溜息を吐き、隼斗は苦笑いで頭をかいた。暴走ではない?と首を傾げていると加賀と電から説明を受けることに。なんでも、これは隼斗なりの“お化け対策”でありこうしてればお化けも怖くて近づかないだろうと突如赫子を身に纏ったらしい。
ただこの姿は暴走状態と判断されるので誤解させる恐れがあると注意したが「お化け怖いからやだ!」と子供が言うような理由で全く言うこと聞かなかったとか。なのでこれ以上は何言っても無理だと諦めて食堂へ戻って来たという訳だ。
ちなみにこの姿になってもビクついており、食堂へ戻るまでは加賀と電の手をずっと握っていたのは3人だけの秘密。
隼斗「………」ギョロギョロ
叢雲「………」
隼斗「……………」ギョロギョロギョロ
霞「………」
隼斗「………………」ギョロギョロギョロギョロギョロギョロギョロ
叢雲・霞「あーーもう!!その姿でいつまでビクついてるのよ⁉︎ギョロギョロしない!!」バンッ
隼斗「ヒッ⁉︎し、仕方ナイダロ⁉︎怖いんダヨ!!」
叢雲・霞「あんたの姿の方がよっぽど怖いわよ⁉︎」
朝潮「ま、まあ2人とも落ち着いて。あはは…」
暁「そんなにお化けが怖いのね。お兄ちゃんにも怖いものがあるんだ。」
隼斗「イヤソレぐらいアルヨ…俺を何ダト思ってンノ…」
暁「怖いもの知らず。」
隼斗「ダッタラココマデ怯えタリシナイヨ。」
叢雲「…ていうか、姿だけじゃなくて声まで変わるのね。そんな低い声で軟弱なこと言ってるとこ見ると面白いわ。」
確かに姿形だけでなく声まで変わっている。しかも低くて耳によく残るし頭の中に響いてくるその声は悪魔か、はたまた鬼かと思わされる。
本来であれば相手に恐怖を植え付けるものだとは思うが今は怯えているので何とも情けなく感じる。
夕立「どうして隼斗はそんなにお化けが怖いの?トラウマでもあるっぽい?」
川内「あ、それ私も思ってた。ねえねえ、何で何で?」
隼斗「だって、お化けってさ…」
「……殴れないじゃん。」
夕立「……へっ?」
川内「……んん?」
隼斗「殴れないじゃん。」
夕立・川内「……え、それだけ?」
隼斗「うん。」
返ってきたのはトラウマ話ではなく何とも言えない、それでいて隼斗らしい答えだった。霊的存在であるお化けは見えても実体がないから触れないと考える。ホラー映画では普通にこちらを掴んでくるが実際は見えないし触れない。だからすぐ暴力で解決する傾向にある隼斗にとってこちらは触れないのに向こうは触れるというのが末恐ろしく完全にお手上げ状態、故にお化けが怖くて大っ嫌いらしい。
他にも姉達が悪戯で扶桑と山城がしたように仮装しては地下で追い回された話もしてくれた。その時の迫真の演技はまだ幼い隼斗に強烈なインパクトと恐怖を与えてしまい1週間寝れず精神的に病んでしまったとか。流石にやり過ぎたと反省した姉達が四六時中隼斗の側で手を握って過ごしていたらしい。そこには妹の綾奈もいて同じように手を握っていたと。
部屋から食堂まで行く間、手を握って欲しいと言ってきたのはそういう事情があったからかと加賀と電は思い、大きくなってもそこは子供のままなんだなと、クスッと笑って聞いていた。
川内「てかさ、実際にお化けなんているわけないじゃん!そんなの考えすぎだよw」
神通「私も姉さんと同じで信じていません。自分の目で見たものしか信用出来なくて。」
隼斗「マア〜…そうなんだけどサア〜…でも居たんだよ。見ちゃったんダヨ俺…あれは俺が1人で地下探索してた時なんだけど…」
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その日は綾奈も一緒に探索する予定だったけど風邪ひいちゃったから俺1人で行くことになったんだよね。
他の奴等連れて行けば良かったけど元々単独行動してたからその辺は考えてなくて結局1人で探索することにしたの。
んで、実際探索を始めて30〜40分ぐらいかな?
「ここから先はまだ行ったことがねえな。てか何だこの臭い…下水にしちゃえらくきっついな…」
みんなも知ってるだろうけど地下には下水道が張り巡らされてるじゃん?だからそれなりに臭いのは臭いんだけどその時はやたら鼻につくというか何か嫌な臭いがしたの。腐敗臭かと思ったけどもっとキツく感じてすげえ嫌な気分になったの覚えてる。
でも先に進んだのね。だってまだ探索したかったしこの臭いの原因は何か突き止めたかったからそりゃ進むよね?
……で、少し進んだところで違和感を感じて立ち止まったんだよ。何かおかしいって。
薄暗いのは分かる、でもここは異常に暗くてジメジメしてて何より空気が重苦しいの。息が詰まるような、そして何か視線のようなものを感じるって。俺達喰種は人間より五感が優れてるから鍛えればちょっとした物音でも即座に察知出来るしそこに何人いるかも分かる。
でも“何も”感じない。気配も、足音も、声も、息遣いも、全く感じないわけ。なのに視線だけは、見られてるってことだけははっきり分かるんだよ。おかしいよね?何か嫌な予感がする…そう思った時、暗闇の奥で何かが見えた。見えたと言ってもはっきりじゃない。
なんかこう…モヤみたいな感じ。で、それが動いてることに気づいたんだ。
「……何だあれ?動い、て…!」
その瞬間、それまで感じなかった全てが一気に俺を襲って全身に強烈な電撃くらったみたいな衝撃が走った、んで同時に逃げなきゃヤバイ!!って思ったのね。だってそのモヤの動きってふわふわ〜じゃなくて思いの外速く迫ってきてたの。俺の方に向かって確実に距離を詰めて来てた、そしてとうとうそれが何なのかこの目ではっきりと見ちゃったんだ…モヤじゃなくて“人”だって…
黒髪の長髪で
ぼろぼろで所々血がついた白装束を着て
目を見開き
歯を剥き出しにして
笑いながら…
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隼斗「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
艦娘達「きゃあああ!!」ガタガタッ!! ドカッ!! ガタンッ!!
小さく弱々しく話していたのに最後のところで突然大声で奇声を上げたので聞き入っていた全員が悲鳴を上げて椅子から転げ落ちてしまう。
中には腰が抜けて立てない者や泣き出してしまう者も続出する実態となった。特に駆逐艦娘達は全員泣き出して大騒ぎだ。
赤城「ちょ、ちょっと急に叫ばないでよ!びっくりするじゃない!」
霧島「そうよ隼斗!駆逐艦の娘達みんな泣いちゃったでしょ⁉︎」
隼斗「あ、いや…そんなつもりじゃ。ご、ごめんね。ほら、お前らは実際見たわけじゃねえんだからそんな怖くねえだろ。」
暁「うわーん、もう一生1人でトイレに行けないわ!暁はレディになれない、えーーん!」
吹雪「私もだめですぅ!叢雲ちゃん今日は一緒のお布団で寝よう!お願い!」
叢雲「し、ししし仕方ないわねえ。私が側に居てあげるから感謝しなさいよ…グスッ…」
結局、落ち着かせる為に声をかけたり抱きしめたりもしたが全く落ち着くことはなく夜を迎えてしまう。
この日はどうやって夜を過ごすのか検討して出た答えは一ヶ所に集まってみんなで寝ることに決定。その場所が…
夕立「ぽーい!時雨、夕立にもオレンジジュース持ってきて欲しいっぽい!」
時雨「いいよ、ちょっと待っててね。朝潮、悪いんだけどそこに置いてるコップ取ってくれる?」
朝潮「これですか?あ、これは隅っこ暮らしの限定コップじゃないですか⁉︎」
時雨「うん、夕立がネットで見つけて買ったんだよ。夕立は隅っこ暮らし好きだからね。」
暁「ねえ響、ちょっとトイレ行きたいんだけど…」
響「じゃあ行ってくればいい。すぐそこじゃないか。」
暁「え…でも、お化け…」
響「いやすぐそこだから。なんなら時雨と朝潮がいるすぐ横がトイレなんだから1人で行ける。」
隼斗「待って。何でお前ら全員ここにいんの?部屋狭いんだから少しは考えろよ!」
叢雲「うるさいわね。あんたが怖い話しなけりゃここにみんな来てないわよ。あんたのせいよ?責任取りなさい。」
集まる場所はここ、隼斗の部屋。そして駆逐艦娘全員がこの狭い部屋に集結したもんだから部屋の中が良い匂いで充満している。
女の子の匂い、使っているシャンプーとかもあるんだろうけどとても良い匂いがするよね。あのずっと嗅いでいられる感じのやつで、言ってること分かるかな?とにかく良い匂い…男にとっちゃ至極のご褒美よ。
部屋の中はわちゃわちゃして騒がしいけどこの雰囲気は悪くない。
とりあえず明日も遠征と哨戒があるので夜更かしすることなく2300に消灯。
みんなで集まっているから安心しているのだろう、ものの数分で寝息を立てて全員寝てしまった。
先程までの賑わいはなく今は暗い部屋に月の明かりが差し込み開けた窓から入る夜風の音しかない。それ以外に聞こえるのは寝言ぐらい。
隼斗「…ったく、勝手に来て勝手に騒いで勝手に寝て…ほんと自由だなこいつら。まあ…いいけど。」
自分も寝るかとそのままベッドで横になろうとしたが足元でひっついて寝ている時雨と夕立、その横で大の字で寝る響、さっきまで隣に座っていた叢雲が既に占拠していたのでベッドで寝るのは難しい。なので畳の上で寝るかと静かにベッドから足を下ろすも他の駆逐艦娘達が既に寝ている為これも難しい。部屋も狭いから寝るとこがない、強いて言うなら部屋と隣接する脱衣所兼洗面所で寝るしかない、がそこで寝るのもなんかなあ…と思ってしまう。もう寝なくていいやと再び物音を立てず動いて窓縁を跨ぐようにして座りもたれかかる。
ふと見上げればそこには星々が煌めく綺麗な星空が広がり、虫達が音を奏で、そよ風が木々を揺らす。とても静かでそれでいて心地良い雰囲気に浸りながらタバコに火をつける。この雰囲気の中で吸うタバコは食後に吸う時よりも美味しく感じるから不思議なものだ。
そしてこの時はいつも昔のことを思い出しては“あの時はこうだったな…”と胸の中で1人語りながら思い出に浸っている。
あの世界での出来事、思い出、良いも悪いも全て1つ1つ思い出す度に色んな感情が頭の中や胸の中を駆け巡り、次から次へと記憶を振り返っていく。そして今この世界での暮らしや目覚めてから今日までの出来事を振り返りながら死んでいった家族や仲間達へ報告する。
聞いているか分からない、返事もくるわけがない、それでも伝えたいと思ってしまう。でもまあ“いずれ”出会うだろうからその時はもっと話せるようにネタを集めておこう。この世界には“信用出来る”人間がいるよ、と…艦娘という“人間”もいたよ、と…俺達と同じ化物“深海棲艦”もいてそいつらと戦ったんだよ、と…
隼斗「…目的を果たしたら会いに行くよ。」
目的。この世界での生きる目的。艦娘が人間として生きていける世界にすること…以前居た世界では成し得なかったことを、俺はこの世界で
実現する。それに大事な仲間や家族をもう二度と失いたくない、奪われたくない。
隼斗「死ぬのは敵と俺だけで十分だ。」
そうだ、それでいい。いや…それがいいんだ。
目的を果たした先に、生まれ変わった世界に、俺が生きる意味は無い。
全てはあいつらの為に。
俺の全てを捧げて目的を果たす。