満潮の発言から急遽決まった演習(争奪戦)。
電、叢雲、時雨、夕立、吹雪、朝潮、満潮の7人が2000に演習場へ集結した。
トーナメント制、今回の参加者が7人なのでシード枠を1つ設置。公平にジャンケンで勝った者が選ばれることとなった。
満潮「やった…!勝ったわ!」
ジャンケンの勝者は満潮。無事シード枠を確保、2回戦からの参戦が決まった。
これは幸先良いスタートだと思って1人ベンチに座り水を飲みながら対戦表を眺める。
最初に当たるのが朝潮、もしくは電なら練度はほぼ互角なので問題ない。経験値の差で勝負が決まるかもしれないがそこは気合でどうにかしよう。ただこれが夕立、時雨の場合は一気に難易度が跳ね上がる。
特に夕立とはあたりたくない。改二まであと少しという練度に加えて野生のような鋭い感覚を持ち、また夕立だけに宿る“ソロモンの悪夢”が解放されると身体能力が飛躍的に跳ね上がるのが非常に厄介この上ない。
時雨は夕立ほどではないが常に冷静で相手の行動を先読み出来る。冷静沈着な狩人という感じか。
吹雪は努力家で負けん気が強い。どれだけ押されても決して退かない精神力を持っている。
叢雲はここぞという時は怒涛の勢いで苛烈に猛攻撃を加えるので油断ならない。
夕立、時雨に次ぐ実力者であるのは間違いない。
妖精「……では、対戦表はこのような結果になりました!」
第1試合 電 対 朝潮
第2試合 時雨 対 叢雲
第3試合 夕立 対 吹雪
満潮「(よし、よし!!電か朝潮姉さんのどちらかが最初の対戦相手ね。これならなんとかなりそうだわ。)」
妖精「ではでは、電さんと朝潮さんは早速準備してください。他の人達はベンチに座ってくださーい。」
時雨「満潮、ルールはもう聞いてるから大丈夫とは思うけど、最後にもう一度説明聞く?」
満潮「大丈夫よ。いつもの演習ルールに対人戦闘が追加されてるのよね?経験ないけど善戦してみせるわ。」
時雨「そっか、あまり無理はしないようにね。お互い頑張ろう!」
そう言って時雨は満潮の肩をポンポンと叩いてベンチに座って夕立と話しながら海上に立つ電と朝潮を見ていた。
吹雪と叢雲も同じく眺めてはジュースを飲むなど普段と変わらない様子。そして自分の隣には遅れてやってきた霞が座る。
暁は電に声援を送り、響と雷も後に続いて応援していた。
そしてこれから戦う電と朝潮は向かい合い、お互いに握手して距離を取る。
朝潮「電さん、お互い正々堂々全力で戦いましょう!」
電「朝潮さん、宜しくお願い致します、なのです。」
妖精「お互い挨拶も済んだところでそろそろ始めるです。ではでは…戦闘、開始!!」
審判妖精の掛け声が演習場にマイクを通して響き渡る。
隼斗を巡る乙女達の熱く、激しい戦いが今ここに始まった。
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演習場で満潮達が激闘を繰り広げている時、新設のトレーニングルームで隼斗は1人汗を流していた。
満潮達の戦いが気にならないわけではないが特に行く必要もないだろと思い、食事を終えてからずっとここで1人自己鍛錬に励むことにしたのだ。艤装を使った戦い方も最初に比べたら様になった、だが自分は元々艦娘ではなく喰種であり艤装ではなく赫子を使う。赫子を使わない時は拳を使う。つまり肉弾戦、己の肉体が武器となるわけだ。だからこうして身体作りに励むのだ。
誰しも生まれながらにして強者ではない。地道な努力、数え切れない程の場数を踏み、敗北も重ね、血を流しながら、それでもより強くある為に戦い続けた者だけが強者となれるわけだ。勝ち続けた者が強者ではない、負け続けても何度でも這い上がり喰らいつくことが出来る者が本当の強者だと思っている。あと、そこに加えるなら“現状に満足しない”ことか。
隼斗も現状に満足していない。自分が目指すべき場所に届いていないからだ。
喰種の中でも更に凶暴で強大な力を有し、他を寄せ付けない存在“赫者”。隼斗が目指した場所がそれだった。
全ては大切な家族、そして大切な人を守る為に“強さ”が必要だと判断したからだ。
そう、強くなければ何も守れない。己も、大切な人も、誰一人守れない。数え切れない敗北と喪失の中で悟った隼斗が出した答えはただ守る強さではなく、守る為に全ての敵を屠る強さを手に入れること。そして身につけた暁にはそれを実行することだった。
世界などどうでもいい、人間も喰種も正味どうでもいい、ただ守るべき家族と大切な愛する人が笑顔で暮らせるだけでいい。
それだけが唯一の望みであり、己の為すべき責務であると今でもこの考えは変わらずに持ち続けている。
全ては彼女の為に、彼女達の為に、己が命尽きるまで戦い、屠り、喰らい続ける。
故に更なる強さを渇望し、貪欲に求め続けるのだ。
隼斗「……ふう…ちょっと休憩すっか。」
左手に持っていたダンベルをゆっくり床に置いてタオルで頭を雑に拭きながら一気に水を飲み干していく。
以前のような実戦訓練が出来る相手がいないので少々物足りなさを感じるがこの世界では仕方がないことだ。
まだこうして筋トレが出来るだけ有難いと感謝しなければいけない。
隼斗「……まだ本調子には程遠い感じか…だめだ、全然足りない。」
筋トレや深海棲艦との戦いで肉体維持は出来てるし、戦闘経験の衰えも起きていない。だがどうしても満足にいかないことがある。
それは食事だ。“食料”は送り込まれてくるが最初こそ100人の食料が届いたが、その次からは20人と大幅に減少。そう何度も大勢送り込むことは出来ないらしい…まあ、もうそれはいい。要は満足な食事が出来ていないから本調子にならないということだ。
空腹にならないだけマシだがやはりそこはお腹いっぱいなるまで喰べたい。今のままでも十分戦える、だが自分よりも強い強敵が現れた時は本気を出さなければならない。その時は激しく赫子を消費することになる。“あの姿”で戦うと耐え難い空腹感に襲われて理性を失ってしまうからこそ、普段からよく喰べておかねばならない。でなければ確実に艦娘までも喰らうことになる。
だがいかんせんこの世界ではそう満足いく食事は出来ない。やはり早急に手を打たなければ取り返しのつかないことになるのは目に見えている。でも現状打開策がないから今はただ、与えられる肉と深海棲艦を喰べながら蓄えていくしかない。
それでも微々たるものだが…
隼斗「赫子の消費を抑える為にもやっぱ艤装のみの戦い方に切り替えた方がいいのかな…うーん…」
本当は赫子を使って敵をズタズタに引き裂き斬り裂き噛み砕きたい衝動に駆られるけど、こればかりはしょうがないよね。
飢えたら理性が飛ぶ、つまりそれは艦娘を危険に晒してしまうこと。守るべき対象を自分の手で殺すわけにも…
ーー守る?守るんじゃなくて殺す対象だろうがよ!!ーー
隼斗「……黙れ。」
ーー人間は敵。人間は餌。人間はおもちゃ。殺すも弄ぶも好きにしたらいいのに。ーー
隼斗「どうするかは俺が決める。いちいち口出しするな。」
クソが…人が真剣に考えてるときに邪魔しやがって。
ーーまだ人間と仲良くなれるって思ってるの?人間は信用出来ないよ。どうせあの娘達も裏切るに決まってる。ーー
ーーギャハハハ!!懲りないねえ…まだ糞みたいな夢にしがみついてんのかな?ーー
ーー何故奴等を守る?奴等は人間だ。敵だ。だからあの時躊躇無く襲ったろ。ーー
ーーこれ以上奴等に情を湧かすな。ーー
……分かってる。分かってるから…もういい加減…
隼斗「黙れ!!」
頭の中で囁く声を振り払うように近くにあるサンドバッグを思いっきり殴りつける。
鈍い音を立てて鎖で吊るしていたサンドバッグが壁まで飛んでいき床に落ちて中身の砂が溢れてしまう。
だがそれでも気が治らないのかそれに馬乗りになって何度も拳を振り下ろす。何度も、何度も何度も殴り続け終いには原型を止めていないサンドバッグが無残な姿で床に転がっていた。
頭の中で囁く声の主は誰かは分からない。いつから聞こえるようになったのかも分からない。
時に優しく、時に勇気づけ、時に残酷な声を囁くそれは一体何なのか全く分からない。分からないが会話している自分がいる。
その度に多重人格では?と少し不安になってしまうがこれが定着しているのもまた事実だ。
ーーまあ好きにしろ。ところで話は変わるが最近気になることがあるんだよ。ーー
隼斗「……あ?まだ何か言いたいのか?」
ーーお前も分かるだろ。ここ最近、“臭う”よな?ーー
その瞬間、隼斗の動きが止まる。声の主が言うことに思い当たる節があるからだ。確かに、最近ごく稀に“臭う”ことがある。
ふと気付いた時に感じる臭い。他の誰も知らない自分しか知らない臭いがこの鎮守府で本当にごく稀だが臭う。
だがその度に自分の中で否定していた。そんなことはない、と…あり得ないことだと言い聞かせていた。
隼斗「仮にそうだとして、俺達が気付かない筈がねえ…」
ーーまあ、確かにな。だが注意しておけ。この世界に喰種が本当に俺達だけという確固たる確証がないんだからな。ーー
隼斗「まあそうだけど…」
ーー…ん?誰か来るな。随分と急いでる感じだ…ーー
隼斗「……?んー、確かに急いでるな。なんだ?もしかして壊した時の音でも聞こえたのかな。」
ーー自業自得だな。ちゃんと謝れよ?ーー
「言われなくてもそうするよ。」と思いながら入口に視線を移したと同時に勢いよくドアが開いて誰かが飛び込んでくる。
誰かと思えばその正体は霞だったのだがどうも様子がおかしい。走ってきたから肩で息してるのは分かるがどこか表情も強張ってるように見えるし、何より袖の一部が破れてるのも気になってしまう。
霞「はあ、はあ…見つけた、ここに居たのね。」
隼斗「どしたの霞ん?とりあえず水飲む?」
霞「ありがと、ちょっとだけ…もらうわ。ゴク…ゴク……ぷはっ!ふう…って呑気に飲んでる場合じゃなかったわ!」
隼斗「何かお急ぎの感じ?随分と慌てて来たみたいだけど。どしたの?」
霞「隼斗!今すぐ私と一緒に演習場へ来て!叢雲が、叢雲の様子がおかしいの!」
隼斗「……?叢雲が?負けて機嫌がすこぶる悪いとか?」
霞「そんなことで慌ててあんたを呼びにくるわけないでしょ⁉︎馬鹿こと言わないでちょうだい!」
隼斗「あ、うん。ごめんなさい…(ふえぇ…かすみん恐いお…)」
ーー威勢良すぎだろこのガキ…俺達相手によくまあ面と向かって言えるもんだ。ーー
霞に一喝されて固まっていたが早く来いと手を掴んで引っ張るので仕方なくついて行くことにした。行かないって断ったら何言われるか分かんないから恐ろしい。霞もとっても可愛い女の子なんだが、怒ると恐いんだよ。でもまた怒ってる表情も可愛くてついつい怒らせることしちゃうのよね。……いや小学生か俺わ。
そうこうしてる内に演習場まであと少しのところまでやって来た。だが次の瞬間、隼斗は突然立ち止まり霞は手を引っ張っていたのでつられて立ち止まってしまう。何故急に立ち止まるのか怒ろうと振り向いた時、霞はその言葉を飲み込み動けなくなった。ここに来るまでずっと後ろから「かすみ〜ん。ねえ、かすみんってばー。」と甘えるように言っていた隼斗だったのに、今目の前に立つのは戦場で見る隼斗になっていたからだ。しかも赫眼状態でその眼は演習場に向けられていることから何かを感じ取ったのかもしれない。
霞「……は、隼斗。ねえ、あんたまで急にどうしちゃったのよ。」
隼斗「…………」
ーー……“臭う”な。しかも演習場方面から臭う。ーー
……あり得ない。一体どうなってんだよ…しかも前より濃くなってる。
隼斗「……嫌な予感がする。霞、急ぐぞ。」
霞「え、うん。て、ちょっと何⁉︎自分で走れるってば‼︎」
その場で霞を肩に担いで全速力で走り出す。霞はスカートがめくれないように手で抑えながら何か叫んでいるが隼斗の耳には全く入ってこない。霞のスカートがめくれてパンツが見えることよりも“臭い”が濃くなってること、そしてそれが演習場方面から臭うこと、更に叢雲の様子がおかしいこと…何故だか分からないが嫌な予感がどうしても拭えない。それしか頭に無かった。
どう考えてもこの世界では起こらないことだ。あり得ない。それにこの鎮守府に自分以外の喰種が存在することもあり得ない。
いくら平和ボケしかけてるとはいえ見落としたり気配を感じ取れないなど…だが今ははっきりと臭う。演習場に近づくにつれて臭いは増していき、そこに“いる”と感じ取れる。
隼斗「……っ、おいおい…まじかよ。」
ーーあれが“臭い”の正体。灯台下暗しとはこのことか…ーー
演習場に着いた時に目に飛び込んできたのは傷だらけで血を流す夕立とそれと対峙するように立つ2本の“赫子を生やした”叢雲の姿だった。
霞「嘘…さっきまではあんな姿じゃなかったのに…」
叢雲「うふふ…ふふ、アハハハハハハハ!!なあに?もう終わりなの?さっきまでの威勢はどこに行ったのかしらねえ?」
夕立「はあはあ…ゲホッ、ウザいっぽい…めちゃくちゃムカつくっぽい!」
時雨「やめなよ夕立!これ以上は危険だよ!」
吹雪「叢雲ちゃん、お願い目を覚まして!もうやめてよ!」
電「吹雪ちゃん危ないのです!ここは隼斗が来るまで…!」
霞「みんな!隼斗を連れて来たわ!時雨と電は2人をこっちに連れて来て!隼斗、お願い。」
隼斗「……分かってる。(何で叢雲が赫子を…あり得ねえ。そんな筈は…)」
ーーそんなことはどうでもいい。問題なのは…ーー
叢雲「あら?うふふ…へえ〜、いい男がいるじゃない。私好みだわ…きっと美味しいんでしょうね。食べちゃいたいわ…」
隼斗「そりゃどうも。(何がどうなってんのか分かんねえけど最悪だ。よりによって“隻眼”かよ…!)」
隻眼の喰種で真っ先に思い浮かぶのは“隻眼の王”。大勢の喰種を率い、喰種の頂点に君臨する最強の喰種。
絶対強者なイメージがある為、隼斗はこの世界で初めて冷や汗をかいた。そもそも隻眼の喰種と戦ったことがないから正直言って未知数の相手であり、それに加えて艦娘に喰種の力が組み合わされたとなると余計未知数。ただでさえ艦娘は常人より強いのに隻眼はないだろ。
タチの悪い冗談だ。勘弁して欲しい。
叢雲「ねえ、あなた私のモノにならない?たっぷりと可愛がってあげる。嬉しいでしょ?」
隼斗「………」
叢雲「ちょっと、シカトしないでくれるかしら?死にたいの?いい度胸してるわね。」
隼斗「……考えても仕方ねえか。叢雲、ちょっと痛いけど我慢しろよ。」
こうなったらやることは1つ。喰種化した叢雲を叩き潰して黙らせる。手荒いやり方だが言葉がダメなら力技でねじ伏せるしかない。
昔から色々とあれこれ考えるのは性に合わないし、特にこういう時はいつも戦って解決してきたんだから今もそうすりゃいいんだ。
叢雲「……っ⁉︎きゃああ!」
吹雪「叢雲ちゃん!!待って!お兄ちゃんやめて!」
電「だめなのです!今行けば吹雪ちゃんまで巻き込まれて大怪我するのです!」
暁「そうよ吹雪!今はお兄ちゃんに任せるしかないんだから。不安だろうけど…ね?もう、任せるしかないわよ。」
吹雪「でも、でも…!お兄ちゃんの眼、“本気”なんだよ⁉︎」
大きく深呼吸して息を整えると同時に激しく燃え盛る炎の如く出現する羽赫の赫子。そこから撃ち出された赫子が叢雲の赫子を紙切れのように吹き飛ばし、追い討ちをかけるように両足の甲に深々と1本ずつ赫子が突き刺さる。だがそれでも攻撃の手を緩めない隼斗は距離を詰めて叢雲の顔を掴んでは、その勢いのまま強引に押し倒して地面に叩きつけた。
そこには一切の躊躇も無く、一切の容赦も無し。
頭から血を流しながら反撃に出る叢雲だったが呆気なく防がれて再び頭を強く叩きつけられる。
とてもじゃないが仲間に対して、まして自分を好いている女の子に対する救いの手とは思えないやり方だが今この状況では仕方のないことかもしれない。現に隼斗が暴走した時も自分達は同じことをした。故に誰も隼斗を止めることが出来ず、ただ状況を見守ることしか出来ずにいたのだ。そして隼斗の二撃目を受けてようやく叢雲は沈黙。隼斗も何も言わずそっと叢雲の頬を撫でて深いため息を吐いた。
吹雪「叢雲ちゃん!しっかりして!叢雲ちゃん!」
隼斗「……気絶してるだけだ。とりあえず医務室へ運ぼう。吹雪、叢雲の着替え持って来てくれる?」
吹雪「うん、すぐに持って行く。でも、もうこれ以上叢雲ちゃんを傷つけないでね…」
隼斗「分かってるよ。ごめんな、吹雪…本当にごめんな…」
今はそれしか言えなかった。叢雲を抑えるにはこうする他なかったとはいえ、かなり手荒な真似をした自覚はある。
謝って済むかどうかは分からないが…とにかく、今は医務室へ急ぐことにして全員で向かうのだった。
事情を聞いた明石と夕張が駆けつけ応急処置を施す間に後からやってきた長門に事情を説明。当然何故そうなったのか質問攻めされたが今の隼斗にはそれ対する答えを持ち合わせていなかった。どれだけ考えても当て嵌まる原因が思いつかない。現時点で喰種化が起きる可能性はほぼ0に近いというのに…
喰種化が起きるとしたら“喰種化手術”が真っ先に思い浮かぶがそれは決してない。
自分がする訳ないし、何より艦娘にそのような知識がないから到底考えられない。
他に思い浮かぶのはRC細胞の異常。喰種だけでなく人間にも微量ながら存在する細胞だが喰種はこの細胞の数値が人間に比べて異常に高い。
何らかの原因で叢雲のRC細胞が増加して喰種化を引き起こしたのではないか?
だがそもそも艦娘にRC細胞が存在するのか、それ以前にこの世界で存在するのかさえ分からない。
隼斗「……なあ、夕張ちゃん。ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど。」
夕張「調べて欲しいこと?うん、いいよ。何を調べたらいいの?」
隼斗「実は…」
/
〜翌日 医務室〜
吹雪「あ、お兄ちゃん!こっちこっち!」
隼斗「相変わらず元気だな吹雪。よお、叢雲。調子はどうよ?」
叢雲「……っ、痛っ…んっ、しょ!…ふう、まあまあってとこかしら。特に後遺症もないみたいだしね。」
隼斗「いやいや無理して起きあがんなよ。横になったままで良かったのに。」
叢雲「大丈夫よ。それより…私の身に何が起きたの?」
隼斗「…喰種化。」
ここで嘘をついても何の意味も無い。もう、正直に話すしか…
叢雲「……え?」
吹雪「喰種化…?何それ、お兄ちゃんどういうこと⁉︎」
隼斗「言葉通りの意味だよ。叢雲の身体が喰種に変化しつつあるってこと。そうなる方法というか原因は知ってるけど、これがどれも当て嵌まらないんだよ。何で喰種化が起きたのか全く分からない…」
吹雪「お兄ちゃん、その喰種化を止める方法は…治す方法はないの?ねえ、あるよね?あるよね⁉︎」
隼斗「ごめん…治す方法知らないんだ。そもそも治るかどうかも分かんねえ。」
吹雪「そんな…そんなのないよ…!ちゃんと調べてよ!分からないで済まさないで!」
叢雲「ちょっと吹雪、あんた落ち着きなさいってば!」
吹雪「落ち着いてられないよ!叢雲ちゃんこのままだと喰種になっちゃうんだよ⁉︎人間を食べる化物になっちゃうんだよ⁉︎私はそんなの絶対嫌だ!叢雲ちゃんがそんな化物になるのは「吹雪!!」……⁉︎」
叢雲「あんた…言っていいことと悪いことがあるでしょ…!」
吹雪「……っ⁉︎あ、ち、違うの。そんな…私、そんなつもりじゃ…お兄ちゃん、私…」
隼斗「気にすんな、吹雪は何もおかしな事言ってないよ。叢雲もそんな怒るなよ。吹雪はお前のことが心配で言ってんだからさ。とにかく、今はどうやって喰種化を抑えるかが最優先だな…ちょっと調べてくるから時間くれる?」
吹雪「調べるってどうやって…」
隼斗「アテはある。どうなるか分からないけどやるしかない。じゃあ…俺行くわ。」
吹雪「あ、待ってお兄ちゃん…お兄ちゃん!どうしよう…私、そんなつもりじゃなかったのに…」
叢雲「……吹雪、後で隼斗に謝りなさい。私も一緒に行くから。」
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隼斗「……化物、か。もう慣れてる筈なんだけどなあ…」
あの時もそうだった。今と同じことを思い、悲しくて泣きそうになったのを覚えてる。
隼斗「流石に…信頼している人間に真正面から言われるのはきついな…」
吹雪が悪いというわけじゃない。誰だって自分のような化物になりたくないのは分かるし、身内がなるのも嫌がるのは当然だ。
誰も喰種になりたいとか望まないだろう。人間より強くても、人間のように自由に生きることは出来ない。
日の当たる場所より日の当たらない場所で生きることを強いられる。仮に日の当たる場所に居ても隠れるように過ごさなければならない。
バレたら即終了、死ぬだけだ。喰種というだけで生きることも存在そのものも否定される人生など誰が好き好んで選ぶのか。
いや、今はどうでもいい。今は喰種化を引き起こした原因と進行を抑える手立てを見つけることが大事。
明石と夕張が不眠不休で作り上げた記憶復元装置を再び使う時がきたが、果たして本当に見つけることが出来るだろうか?
単に忘れてるだけならいいけど、そもそも最初から知らなければ無意味な気もするが…こればかりはやってみないと分からない。
考えてもどうにもならないなら、出来ることから行動に移して行こう。
〜工廠〜
明石「事情は妖精さんから聞いてる。準備出来てるから今すぐにでも出来るよ。」
隼斗「根回し早いな。けど助かるよ、ありがと。明石姉、こっから長丁場ってやつになるけど大丈夫?」
妖精達が先回りして明石と夕張に事情を説明したようで既に準備万端の状態でのお出迎えを受けた。
本当に仕事が早くて助かる。
明石「何言ってんのよ、長丁場なんていつものことじゃない。大丈夫よ。それよりも何か手がかりを見つけてきてね。」
夕張「同時進行で別の記憶も調べてみる。気になる箇所は抜き取って保存するから後で確認してね。」
隼斗「あいよ、んじゃ2人とも悪いけどこっからよろしくね。」
明石「よーし、じゃあいくよ!復元装置起動!」
装置の起動音と共に徐々に意識が薄れていき、そのまま眠るように意識が離れて過去の記憶へと飛んでいく。
原因不明の喰種化。その原因究明と対応策を探す長い長い1日が始まった。