叢雲に起きた原因不明の喰種化。
その原因を見つける為に再び記憶復元装置を使い過去の記憶へと飛ぶ。
懐かしい記憶に浸ることもなくとにかく原因に繋がるものはないかと探す。
だがどれだけ探しても、どれだけ遡っても、何も見つけることが出来なかった。
結局は喰種化手術とRC細胞の変異の2つしか分からない。やはりこれは無駄骨だったと溜息をついてしまった。
装置を止めて起き上がると既に外は暗く、明石と夕張の表情に疲労が見てとれる。
時間はまさかの0320。工廠に来たのが1100ちょうどだったから約16時間経っているではないか。
そりゃ2人も疲れるに決まってる。自分はただ眠っていただけだしな。
今日はここまでということで一旦切り上げることにした。2人はそのまま机に突っ伏して爆睡、自分も急な激しい頭痛と吐気に襲われて装置の上で気を失うように眠りについた。翌朝、だる重い身体を起こして執務室へ行き、長門へ調査報告を行う。
未だ原因が分からないことと、喰種化手術のこと、それと夕張に調べてもらっていたことについても説明。
何を調べてもらっていたかというと“血液”。人間、艦娘、そして喰種、この3つの血液データを調べてもらった。
これから分かるのはあくまで喰種か否かということだけで何の対策にもならないが知ってて損は無いだろう。
説明を全て終えた時には長門も陸奥も、そして大淀も難しい顔をしたまま黙り込んでいた。
原因も対策も見つからず叢雲が半喰種となったことしか分からない現状に混乱しているんだろう。それは自分も同じ。
こんなケースは初めてだし、ほぼ同族が出来たというのに全然嬉しくもないし、逆に焦ってる自分も初めてだ。
叢雲に艦娘であると、いや違うな。人間だと振る舞わせるのが非常に申し訳ない。
もし外の連中にバレたら確実に殺される。あるいはサンプルとして人体実験のモルモットにされる。
俺のせいでまた大事な家族が、大切な人が殺される。また奪われる。また失ってしまう。
嫌だ、怖い…またみんな殺されるのが怖い。あんな思いはもう二度と御免だ。もう誰も死んで欲しくない。
…と……やと…
隼斗「……」
長門「隼斗?隼斗!」
隼斗「……へ?」
長門「大丈夫か?急に黙ったと思ったらどんどん顔が青ざめていくから心配したぞ。」
隼斗「あ、あぁ…ごめん、色々考えちゃって…叢雲にはこの後俺から話す。」
長門「…本当に大丈夫か?1人で抱え込まなくていいんだぞ。私達も一緒に考えるから「ううん、大丈夫。行ってくる。」あ、おい!まだ話は終わってないぞ!隼斗!…ッ、本当に大丈夫なのか?あんなに思い詰めた姿は初めて見たぞ。」
明石「昨日工廠に来た時もあんな感じだったわよ。隼斗が来る前に妖精さんから経緯は聞いてるけど…」
夕張「かなり気にしているからそっとしておいた方がいいと思います。それよりも喰種化が起きたという事実をどうすべきか考えなければなりません。元帥閣下にはお伝えしても良いと思いますが、情報がどのような形で漏れるか分かりません。私達だけで留めていたとしても、もし万が一他の鎮守府との共同作戦や救援があった際、その時叢雲ちゃんが再び喰種化して暴走する可能性も考えられます。それを想定して今の内に対策を立てておかないと後々面倒なことになります。」
大淀「確かにその通りです。もしそうなれば兵器派の方々は叢雲ちゃんの捕縛又は排除する行動をとるでしょう。捕まれば解体…ではなく解剖か生きたまま人体実験のサンプルということも…現に艦娘を使った実験が行われてますからね。」
陸奥「胸糞悪い話よね。本当、私達のことをただの道具としか思ってないんだから。」
長門「そんなことはさせない。叢雲をモルモット扱いなどさせてたまるか。それに隼斗が知ったら血祭りでは済まんからな…それも防がなければならない。あいつを止めるには心臓がいくつ必要か分からん。」
陸奥「そうよねえ、その時はあの子“全て”出し切るわよ。そうなったら本当に終わりね。」
大淀「……?出し切るとは一体何のことですか?」
陸奥「ん?あ〜…憎悪のこと。」
大淀「はあ…そう、ですか。(なんだろう…なんか、はぐらかされたような…何か隠したような気がする)」
長門「とにかく、叢雲への説明は隼斗に任せて私達は今後の事について考えよう。大淀、すまないが金剛を呼んできてくれないか?今日は非番で今頃食堂で間宮と鳳翔の3人でお茶会している筈だ。」
大淀「あ、はい。すぐに呼んで来ます。」
陸奥「……色々と問題が起こるわね。まだ何か起きそうだけど今は勘弁して欲しいわ。」
長門「確かにな。よし、今ここで後ろ向きな事を言っても仕方ない。金剛達が来る前に準備しておこう。」
陸奥「そうね、そうしましょう。」
/
隼斗「……とまあ、そういう事だ。ごめんな、結局何も見つけることが出来なかった。でも何もしない訳じゃない。これからもずっと俺が守っていくし、症状の経過観察も明石姉と夕張ちゃんにお願いしてる。それと人前に出た時に赫眼の調整が出来なきゃすぐにバレてしまうからそこも俺が教える。食事のことも俺がちゃんとする。見た目も酷いもんじゃないから安心して。」
叢雲「……そう、じゃあお願いするわ。」
隼斗「それだけ?他に言いたいことはないのか?文句ぐらい言ってもいいんだぞ?」
叢雲「言っても変わらないでしょ?それに私、喰種化が起きたことに対して何の恨みも怒りもないの。隼斗、私が何て思ってるかあなたに分かるかしら?」
隼斗「恨みも怒りもないなら…諦めてる。」
叢雲「馬鹿。あんた本当に馬鹿ね。私のこといっぱい知ってると思ったけど全然だめね。大馬鹿よ。」
隼斗「ごめん…」
叢雲「はあ…あんた相当落ち込んでるわね。私はね、今とても嬉しいの。」
隼斗「……は?嬉しい?」
叢雲の発言の意味が全く分からない。喰種化が起きて“人”でなくなったのに何故嬉しいのか?気を遣って言ったとも思えない。
もしそうならあんなに優しく微笑む筈がない。多少なりとも表情に嘘や気遣いが現れる筈…でもそれが一切無いということは本当に叢雲は喜んでいるということ。だとしたら何故だ?何がそうさせているんだ。
叢雲「あんたと同じになれたからよ。私達が家族として一緒にいても喰種という存在は1人もいない。あんたはこの世界でたった1人の喰種なのよ?言葉にしなくても心の何処かで自分と同じ存在を欲してる。だからあんたは私達と一緒に居て笑ってても何処か寂しそうな顔をしてるわけよ。違うかしら?」
それは違う、と否定したい。でも、否定出来ない。それは間違いではないから。
どれだけ距離が近づこうとも、仲が深まろうとも、俺は喰種であり人間ではない。
人間と同じ振る舞いが出来ても人間にはなれない。
一緒に居るようで、一緒に居ない。喰種と人間の間にある壁は絶対に壊せないから。
叢雲「でもね、もうそんなことは思わなくていいの。あんたには私がいるから。電に夕立、時雨もいるけど私が他の3人よりもあんたのこと理解出来る。もっと深くね。私はそれが嬉しいの。これで正真正銘、身も心も、私の全てが隼斗のものになったの。そして、私自身もあんたと同じになった。それはとても嬉しいことじゃない?狂ってると思う?でも、それだけ私は隼斗のことが好きなの。愛してるわ、隼斗。」
そう言ってベットから降り、椅子に座る隼斗に跨って強引に何度も唇を重ね舌を絡めてくる。
その後、顔を離して見せる表情に隼斗は見覚えがあった。見間違えることなど絶対にない。
己が欲する獲物を手に入れ、底無しの欲に少しでも足して悦を貪る自分と同じあの歪な笑顔だった。
叢雲「これで分かったでしょ?私のあんたへの想い、この抑えきれない気持ち…!あぁ…やだ…凄く、濡れてきた…」
隼斗「お前…(喰種化の原因は俺にあるのは確実。けど、ここまで俺に似ることが起こるのか?)」
叢雲「もうだめ、我慢出来ないの!いいでしょ?いいわよね⁉︎「ぐぅぅぅ〜…」…あ、え、やだお腹が…///」
隼斗「……そこも同じか…食事持ってきてやるから大人しく寝てろ。見た目はちゃんとしたやつにするから。」
叢雲「ちょっと待ちなさい!私も行くわ。1人にしないでよ。」
隼斗「寝てりゃいいのに。まあいいや、とりあえず先に食堂行ってろ。俺は妖精さんと一緒に部屋から材料運ぶから。」
叢雲「別にあんたの部屋でいいじゃない。」
隼斗「何でだよ。食堂の方がみんなもいるからいいじゃねえか。みんなお前のこと心配してたんだから顔見せろっての。」
叢雲「う〜ん…それもそうね。じゃあ先に行って待ってるから早く来なさいよ?」
隼斗「分かったから早く行ってな。」
叢雲が見せた歪な笑顔。どう見ても自分がするものと全く同じ。
自覚あったのかって?たまたま鏡に映ったことが昔あったから知ってるだけだ。それは今どうでもいいことだけど。
ただ、表情だけでなく感情の面でも似ていることに驚いてる。
だいたい俺が狂ってるのは共喰いの影響じゃなくて過去の出来事や自分自身で歪めて壊していったからだ。
だからいくら俺が原因だとしても内面まで似るなんてことが起きるのか?
そんなの聞いたことねえぞ。もう訳分かんねえな…
/
ジュウウ〜
隼斗「……(あ〜…何かずっと考えごとしてたら頭痛くなっちゃったなあ…)」
赤城「あら?隼斗が料理してるなんて珍しいわね。何作ってるの?」
隼斗「あぁ、赤城姉か。今叢雲のご飯作ってるの。こうすりゃちょっとはマシでしょ?」
赤城「えぇ…まあ、そうね。言われなきゃ気づかないわ。それにしても…」
隼斗「どしたの?」
赤城「どこからどう見ても“普通”のステーキにしか見えないわ。それって“アレ”よね?」
赤城が指差す先には“骨付き肉”が置かれていた。何の骨付き肉とは言うまでもない。
それが他の“食材”と一緒に並べられており大変悍ましい光景となっている。それでも最初の頃に比べて特段怯えることもなく、「やっぱりそうだよね」程度しか思わなくなった。逞しくなったのか、それとも単純にそれが“普通”になったのか。
どちらにせよグロ耐性は格段に強くなったのは確かだと赤城は思う。
隼斗「うん、人肉。赤城姉、お皿取って。」
赤城「お皿?はいどうぞ。」
隼斗「ありがと。あとはここにこれを添えて…ソースをかけて…ん、こんなもんかな。」
赤城「わあ、ちょっとこれ高級レストランに出て来そうなステーキじゃない!隼斗、何で私の分も作ってないの⁉︎」
隼斗「…いやこれ人肉って言ったじゃん。赤城姉は食べないでしょ?つか赤城姉のは加賀姉が席に持ってったじゃんか。」
赤城「そうだった…テヘ☆」
隼斗「あー可愛い。」
赤城「だったらもっと気持ち込めて言いなさいよ!あ、ちょっと待ちなさい!こらー!」
何故かは知らないが赤城の「赤城ちゃんうっかり☆テヘペロ☆」な発言を受けるが塩対応で受け流す。
頭痛くなかったらちゃんと対応するけど今は出来ないんだよなぁ…ごめんよ赤城姉。
だから背中を叩くのはやめて。料理溢しちゃうよ。
叢雲「…え、これがアレなの?」
吹雪「わあ、高級レストランに出て来そうな料理だよ⁉︎」
夕立「隼斗って料理出来たっぽい⁉︎凄いっぽい!」
電「隼斗、電にも作って欲しいのです!あ、でも材料は普通の使って欲しいのです!」
川内「いや〜、これ凄い料理だね。ぱっと見普通だけどさ…」
蒼龍「お肉の横に添えてるのって、眼球だよね…」
隼斗「モモ肉のステーキと眼球スライス。味は保証するよん。俺はお粥を頑張って食べるからお前も頑張って食べなよ。」
叢雲「やっぱりいきなり食べるのは怖いからお粥がいいんだけど。」
隼斗「今まで通り食べれるか分かんねえのに喰う気なの?バケツ用意しなきゃ。」
叢雲「だ、大丈夫よ!吐かずにちゃんと飲み込むから!」
そう言って隼斗の前に置かれたお粥を取り上げると口の中へ駆け込んでいく。ご飯茶碗が小さい為かすぐに食べ終わり「おかわり!」と元気良く言っては隼斗に茶碗を差し出す。どんだけ腹空かせてんだと思いながら席を立とうとしたが「あれ?」と首を傾げて空になった茶碗と叢雲の顔を見る。
隼斗「叢雲、お前今普通に喰ったよな?お前、今まで通り食べれるってこと⁉︎え、なに、えっ⁉︎」
叢雲「え?あ…そ、そうね。普通に食べれるわ。え、じゃあ私今まで通りのご飯で良いってこと⁉︎良かった。良かったあ…」
吹雪「良かったね叢雲ちゃん!私も安心したら力抜けちゃったよお。」
隼斗「喰種化起きたのに普通に喰えるって何だよこれどうなってんだよおお⁉︎俺が知らないことばっか起きてもう訳分かんねえ…!」
食事問題があっけなく解決したことに皆は安堵していたが、隼斗自身は頭を抱えて机に突っ伏していた。
隼斗も安堵はしているが喰種化起きたのに今まで通り“普通”に食事が出来ている。こんなこと聞いたことがない。
次から次へと自分が知らないことが起きて頭がついていかないのだ。喰種化が起きた人間は体の構造が変わる。それは味覚も変化させるので人間の肉しか受けつけなくなる、筈なのに全く違う結果になった。もう完全にお手上げである。
隼斗「……(これはこれで嬉しいことだから喜ぶべきだが…こうも過去の知識と違う結果だと次に何が起きるか予測つかねえな)」
そもそもこの世界は元居た世界と違う。妖精とか艦娘とか深海棲艦とかまるで漫画や映画の世界だし、特に妖精さんの謎技術とかいかにもSF映画やファンタジーみたいなものまである。だからこっちじゃ“あっち”の常識が常識でないこともあり得るかもしれない。
なんかもう…訳が分からない。一体どうなってんだか。
隼斗「んまあ〜…食事は問題ねえから良しとすっか。んでも何で喰えたのか全然分かんねえな。羨ましい…」
叢雲「拗ねないの。あんたも訓練続ければその内食べれるってば。」
隼斗「だといいけどねえ…」
叢雲「……(改めて見ると、これ人間の肉と眼球なのよね。どうしてこうもお腹が空くのかしら…やだ、美味しそう…)」
隼斗「やめとけ。」
叢雲「…え?」
隼斗「一度味を覚えたら二度と戻れなくなる。なんて言うんだろ…麻薬みたいなもんかな?空腹を満たすだけじゃなくて“快楽”も満たせるんだよね。お前も一度やった後、何回もせがんでくるだろ?あんな感じさ。その快楽を得たいが為に次から次へと人間を殺して食欲も快楽も同時に満たしていくんだ、と言ってもあくまで俺はって話ね。だから喰っ…て何でそんな顔赤いの?」
叢雲「あ、あんた…!何も今ここで私が何度もせがむこと言わなくていいじゃない!!/////」
そう言われて周りを見ると皆が顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。特に叢雲を。「んー、ごめん」と謝ると同時に「スパァン!!」と気持ちの良い音と「アッーー!!」と誰かの悲鳴が食堂内に響き渡るのであった。
〜その日の夜 2200 屋上〜
隼斗「……痛い。」
謝ったとこまでは覚えてる。その後に凄まじい衝撃が襲ってから目覚めるまで記憶が無い。
あれは一体何だったのか…
ーギャハハ!あれはかなり傑作だったぞ!どうだった?ゾクゾクしてなあい?ギャハハ!!ー
隼斗「笑い事じゃねえっての。下手し首折れてるよ。…ったく、そこまで恥ずかしがることか?」
ーあ〜…まあお前はミサの姉貴が色々と仕込んでたから他の奴等と違って貞操観念が著しく低いんだよ。ー
貞操?なんか聞いたことあるようで、ないようで…知らんなそんな言葉。
ーあらら、これだいぶヤバイやつだよ。分かりやすく言うとただのヤ○チンだってこと、ギャハハハハ!!ー
隼斗「俺が?んな訳あるか、俺は本気であいつらのこと好きだよ。じゃねえと抱くわけねえだろうがよ。」
ーかあ〜…よく言うよ。ミサの姉貴は別として、昔のお前は擦り寄ってきた女を1人残らず抱いてヒーヒー言わせてただろ?覚えてるぜ、お前の周りに裸で横たわり完全にキマってる顔した女が沢山いたあの光景を。なのにお前は全然やり足りねえって顔してたよなあ!本当にお前は絶倫でヤ○チンで糞ったれな男だよ!まあ…俺自身のことでもあるけどなあぁぁアハハハハハ!!ー
好き勝手言いやがって頭に来ますよ。否定出来ないから何も言えないけど。
はあぁぁぁ…もうこいつと話すと毎回疲れるんだよなあ。しかも女の話になるといつも下ネタばっかりだし…
ー次ヤる女を決めてるんだよ。あの神通って女、あれは良い身体してるよなあ?普段あんな表情してるが夜の方はどんな表情するのか見たいよな?ありゃ押せばヤレる。一発で堕とせて毎日せがんでくるぜ。最高だろ?ヒヒヒヒヒヒヒ!!ー
隼斗「……犯すとかそういうの俺が大っ嫌いだって知ってて言ってくるのはお前ぐらいだよ。」
ーなんだまだ気にしてるのか?分からないこともないが…でもお前の中にも同じドス黒いもんあるぜ?それもかなりエゲツない。ー
あ、やっぱり隼斗だ 誰かと話していたような… 気のせいでしょうか?
隼斗「……(タイミングが良いのか悪いのか…)」
ーギャハハ!噂をすればなんとやらってやつだ。神通じゃねえか、あぁ〜…あの身体を強引に犯して滅茶苦茶にしたい!!ー
神通「……?あの、私の顔に何かついてますか?」アセアセ
川内「ちょっと隼斗、神通の顔見過ぎ〜。へんた〜い。」
那珂「(T ^ T)」
隼斗「んや、なんとなく。(とりあえずもう下がれ。失せろ。)」
ーヒヒヒ!仕方ねえなあ、今は引いてやるよ。けどな、あの女とヤる時は教えろよな?ギャハハハハハ!!ー
…やっと消えた。普段ならアイツが話しかけてくるのに…まあ、どうでもいいか。
それよりまだ起きてたんだな。寝つきが悪いのか?
隼斗「3人揃ってどうしたの?怖い夢でも見た?」
川内「いや子供じゃないんだからそんなので怖がらないってば!もう、すぐそうやって子供扱いするよね。」
隼斗「妹みてえなもんだからな。いや、ん?この場合、軽巡って妹になんのか?それとも姉か?分かんねえな。」
川内「私はお姉ちゃんになってあげてもいいよ?でもその前に隼斗に教えなきゃいけないことがあるんだよね。」
隼斗「俺に?なんかあんの?」
神通「さ、那珂ちゃんこちらへ。那珂ちゃんなら大丈夫ですよ。」
川内「そうだよ那珂。ほら、頑張って。」
隼斗「……?」
那珂「……ぁ、ぁ…ぅぅ…」
隼斗「……⁉︎(今…声が…)」
ほんの微かに聞こえた声に思わず柵にもたれていた身体が前のめりになる。本当にほんの微かにだが聞こえた。
間違いなく聞いた。那珂の顔を何も言わずにジッと見て次の言葉を待つ。川内も神通も優しく見守る中、ゆっくりと深呼吸、そして隼斗の目をしっかりと見て口を開けた。
那珂「ぉ、おに…い、ちゃん」
今度ははっきりと聞こえた。まだぎこちなさは残るが、だがはっきりと聞こえた。
その瞬間、隼斗は大喜びで那珂を抱きしめて頭をわしゃわしゃと撫でたかと思うと両脇をガシッと掴んで抱き上げた。
まるで子供が初めて喋った時のように喜んではしゃいでるような勢いだった。
そんな光景を微笑ましく見守る川内と神通の目は熱くなり自然と涙が流れていた。
これまでこんなにも自分達のことで喜んでくれた人間がいただろうか?
勿論、いない。だが今目の前では那珂の声が戻ったことに大喜びではしゃぎ、抱きかかえたままずっと那珂に話しかけ、それにぎこちなく返す那珂を「うんうん」と微笑みながら頷いては急かすことなく耳を傾けている者がいる。
自分達を散々虐げてきた“人間の男”ではなく、まして“人間”でもない。“喰種”と呼ばれる化物だ。
だが、そんなことはどうでも良かった。こうして喜んでくれることが何よりも嬉しかった。
川内「あはは、グスッ…隼斗ってば喜び過ぎだよ。」
隼斗「いやお前喜ぶだろ普通⁉︎やっと声が戻ったんだ。これからずっと話せるんだから嬉しいに決まってんじゃん!」
そう言って那珂を抱き上げたままその場で円を描くように飛び跳ねる。
そんな光景を見て川内と神通は声に出して笑った。これまでの日々がようやく報われたと思った。
那珂が声を失ってからどれだけ辛い日々を送ってきたか。
大好きな歌も歌えず、日を追うごとに塞ぎ込み、笑顔を見ることも少なくなった。
その姿を見る度に心が痛く、胸が苦しかった。ただ抱きしめて一緒に泣くことしか出来なかった。
だがあの時隼斗が鎮守府に現れてその辛い日々をぶち壊してくれた。何もかもを壊し、喰らい尽くし、強引に自分達を連れて帰った。
そこからは何もかもが違って初めてなことばかりだった。そしてそれは自分達が望んでいたことばかりだった。
強引なやり方で、それでいて暴力的で、残虐性が際立っているがその実本当に艦娘を大切に思っているからこその行動だと思う。
ただそのやり方が異常なだけのこと、だと本人に言っても変わらないんだろうな。
その後は時間も遅いのでそれぞれ部屋に戻ることになった。程なくして各々眠りについた時
楽しい夢を見ているのか川内と那珂の間に挟まれて眠る那珂の表情はとても嬉しそうだった。
響「…zzz」ゲシゲシ
暁「むにゃ…はいだらああぁぁ…にゅう…」バキッ
隼斗「うべ…ぅ〜ん…ウヘヘ…zzz」
そしてここにも響と暁に足蹴りされながらも嬉しそうな寝顔をする男がいた。
「幼女に縛られて鋼鉄の洗濯板でフルボッコにされる夢」を見たと翌日語る隼斗はどこか嬉しそうだった。
隼斗「あれは良かった。素晴らしい夢だった。」
電「とんでもない変態なのです。」