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これからも精進していきます!
イズモとヤクモが戦い始めた同時刻───
「ぬおっ!?」
「はいとーちゃーく。あー苦しかった」
儀式場でダキニを攫ってきたアダムはイズモとは正反対の方向に転移してきていた。
「貴様……!」
「へいへいおっさんそう睨むなって。華は無いけど意義ある話をしようぜ?」
「貴様の様な下等種と話すことなど何もない!!」
「生憎とこっちはあるんだよね~」
ヘラヘラと調子を崩さないアダムにダキニは苛立たしさを隠さずに腰に吊るしていた剣を抜き去ってアダムに突き付ける。
「おいおい、もっと平和的に行こうぜ?」
返答は鋭い切り込みだった。
「おっと」
「チッ、【熱波】!」
ダキニの一撃をアダムは避けると次いで放たれた高熱の風を木の陰に隠れることでやり過ごす。
「あちちっ!」
「終わりだ!!」
ザンッ、【硬化】と【鋭化】を付与してある剣は易々と木を斬り倒す。
「ふん、他愛の無い……」
「と、思うじゃん?」
ズブリとダキニの腹を一本の槍が突き抜け半分になった木に縫い止めた。
アダムはダキニが剣を振りぬく寸前に【渡影】で退避し背後に回っていたのだ。
「がっ……」
「だから平和的に行こうぜと…… お?」
アダムがそのまま会話をしようとしたとき、ダキニの貫かれた傷口が蠢き煙を上げる。
「カァッ!!」
「やばっ」
ダキニから瘴気が立ち上ぼりアダムに触れる寸前アダムは槍を手放して飛び退る。
瘴気に触れた木はたちまち枯れ果て砂にまで変わっていく。
そのまま突き刺さっている槍を体から引き抜くと傷口が盛り上がり埋まってしまう。
「……殺生石か。だがおかしいな、殺生石はあくまで触れた者の生死を反転させる物の筈だ。よしんばあの儀式で弄くれたとしても"触れる"という絶対法則は変えられないだろ」
「ふん、喋ることしか能の無い猿でも少しは知ってるらしいな。その通り! 殺生石は触れなければ効果を示さない欠陥品だ、その為あの手駒共にはせいぜい死なない程度の力しか与えられない」
「十分驚異だが……」
「しかし私はそれを超越した! こうすることでな!!」
ダキニが合わせてある服の前を脱ぎ捨て心臓の真上に埋め込まれている殺生石を見せびらかした。
「殺生石を埋め込む……? そんなことすれば普通反転して死体になるだけ……まさか」
「フハハハッ! そのまさかだ! 私は殺生石と同一化することで自分に触れた者の生死を反転させることが出来るようになった! 生かすも殺すも私次第、貴様が今も生きているのは私の気紛れだ! これのお陰で心臓を射抜かれようが頭を撥ね飛ばされようが私は死なず不死以上の力を手に入れた!」
高らかにダキニは笑う。
「これを手にするのは苦労した、なにせ非常に腹立たしくもこれを作るには金毛多尾、それも七尾以上の存在が必要になるのだからな。あの頭の緩いガキを上手く誘導するのは楽ではなかったぞ?」
「うすうす勘づいちゃいたけど……やっぱし微塵もあのヤクモって子に敬意なんて無いんだな」
「当然だ。何故なら真の世界の王はこの私ただ一人、その他など塵芥に等しい! そもそも力だけのあのメスガキが世界を統べることなど出来るわけが無かろうが。私のような至宝の如き頭脳も、品格も無いあの孕み袋に!!」
今まで溜め込んできていた鬱憤が素で怒鳴り散らせる相手に出会ったことで噴出したのか次々と悪態が滑り出る。
「うーむ、まぁあんたのその世界の王(笑)っていう妄想はどうでも良いんだけどさ」
「何だと!?」
「それ教えたの誰?」
アダムの物言いに更に憤慨しかけていたダキニの動きが一瞬止まる。
その硬直にアダムは赤い目を光らせ畳み掛けるように言葉を重ねる。
「天井に描かれてた陰陽陣は一見ほぼ国交を断絶してる極東の物に見えるけど明らかにこっちの大陸ベースの魔方陣が随所に組み込まれてた。それに殺生石は本来なら金毛多尾の最高位、九尾が死ぬときに体の内部に生成される希少な物だ。それを人工的に作り出す方法は研究はされてただろうけど実際に出来たなんて話は聞いたことはない。生死を反転させるなんて暗殺に持って来いな物が裏で話題にならない訳が無いからな」
ダキニの顔が能面のように感情を無くしていく。
「イズモがお前に見せて貰ったっていう巻物の中身を覚えていてくれたおかげでそこまでは分かった。だがどうにも殺生石擬きを作れたという事実に納得がいかない。こんな閉鎖的な集落で碌な研究施設もない場所で作れるほど甘い物じゃない筈だぞ? それにそれを埋め込むにはかなり高度な技術が必要なはず、少なくとも自分で作業は出来ないだろうしそれを成せるほど高度な技術は無いだろ。だとしたら考えられるのは外部の奴がお前に接触して埋め込んだ、例えば……北の大都市“スーノ”の奴とかな」
いつの間にかアダムの軽薄な気配は鳴りを潜め鋭く重いものに変わっていた。
「さて、ここで最初の質問に戻るわけだが…… 大して頭の良くないお前にそれを作れるだけの知識を与え、埋め込んだのは誰だ?」
息をするのも苦しいほどに張り詰めた空気はダキニの一喝で破られた。
「【
散弾のように飛び散る無数の小振りの火球がアダムの逃げ場を一瞬で無くす。
(こいつはここで殺す、この不気味さは必ず私の覇道の障害になる!)
剣に瘴気を纏わせ掠るだけで死に追いやる凶器とし真正面から突き出す。
アダムは【渡影】を使い逃げようとしたが全方位に火球があるせいで影が消され逃げ場を無くしてしまう。
(こいつ、俺の逃げ場を理解して……!)
「死ね!!」
剣がアダムに迫り、届く。
(獲った!)
瘴気が噴出し更に追い打ちを掛けるという念を入れダキニはアダムを殺したことを確信する。
だがその確信は次の瞬間覆された。
瘴気から飛び出してきた手がダキニに埋め込まれていた殺生石に触れ抉ったのだ。
「ご、がぁぁぁぁぁぁ!!?」
抉られた痛みにダキニは悲鳴を上げる。
「なるほどねぇ、こいつだけ他のやつとは別物なのか。ほかの量産型も大概だったがこれは更に
「ばがなぁぁぁぁぁ!! なぜそれに触れて生きている!? それは私の魔力に適応しているもの! 私以外の魔力は受け付けない筈だぞ!?」
「さてなぜでしょう?」
「返せ!! それは貴様が触れて良い物ではない!! それは王である俺の……」
ダキニがアダムに手を伸ばした瞬間、突然周囲の木々が枯れ始めた。
「な、地脈から魔力を……! あのメスガキ何をしている!! これでは殺生石が作れんではないか!? クソ! 返せ! 返すのだ! 私はそれで王になるのだ! 誰もが私を仰ぎ見る真の王に……」
ダキニの体が枯れていく。
殺生石を制御するために集中していた魔力が抉られた傷から流出し強大な力の代償が払われようとしている。
あと数分もすればダキニは死ぬだろう。
「俺の質問に答えたら返してやるよ」
そこで再びアダムの目が妖しく光った。
精神干渉し心理的ハードルを下げているのだ。
ハードルが下がったところに死の恐怖がダキニの背を押した。
「水の勇者だ! あの男が私にこれを埋め込んだ! 自分の言うことを聞けば私の国を作ることを認めると言ったのだ!」
ダキニの言葉にアダムは眼を見開き、昏く淀ました。
「そいつは今どこにいる?」
「貴様が言った通りスーノだ! スーノで研究をすると言っていた! 答えたぞ! 早く、早く返せ!」
アダムは縋ってくるダキニの手をヒョイと避けて集落の方に歩いて行く。
「情報提供ありがとさん。さ、お礼は“返した”ぞ」
アダムの言葉に一瞬呆けるがダキニはすぐに烈火の怒りを見えた。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁああああっっ!! 返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
もはや細枝のようになった手をアダムに向け【火球】を放とうとする。
アダムは一度立ち止まると振り返った。
「あーあ、情報提供してくれたからそのまま逝かしてやろうとしたのによ。まぁ、あれだ。俺の所有物に手を出していた罰がそういやまだだったな」
アダムは這いつくばり【火球】を放とうとしているダキニに片手を向ける。
「それを返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
【火球】が放たれアダムに向かっていく。
アダムは避ける仕草も見せず静かに言い放った。
「固有魔法、【
「よーう、お疲れー」
既に合流していたイヴとイズモに向けてアダムは手を振る。
「あ! ご主人様!」
「お疲れ様です、主様」
「何々、面白そうなことしてんじゃん」
朗らかに向かい入れる二人にアダムはへらへらとした笑顔を向ける。
もうアダムの中にダキニの記憶は無い。
あるのはイズモの触手で弄ばれているヤクモへの興味と今後二人をどう悦ばせるか、次の行き先とその目的のみ。
あの場に残されたのはぽっかりと空いた巨大な穴だけだった。
土埃も枯葉も死体も、何も無い虚ろな穴だけだった。
種族:人間
世界で最も人口が多い種族。
短命多産で成長が早く、20年程で成熟する。
突出した力を持たず全てにおいて平均的な力を有する。
良く言えば明確な弱点の無いバランスの取れた種族とも言える。
短命であるが故に成長速度が他の種族に比べかなり早く同時期に産まれたとして共に育てば人間が一生常に勝つことが出来る。
勇者や聖女といった特別な力を受け止められる器も兼ね備えており"可能性"という分野では他の追随を許さない。
その器の広さゆえ他種族と交わることで良いとこ取りをしたハーフを産み出すことが出来る。
善悪の幅も最も広く世界共通の聖人も歴代最悪の犯罪者も排出している。
極稀に"英雄種"という変異種が生まれ彼らは成長速度をそのままに数百年生きる事ができ総じて英雄として遜色無い力を持ち合わせている。
現在確認されている緋金級冒険者三人の内二人は英雄種である。