本当にありがたい事です。
なんだろう、温かい……
黒い微睡みの中、水の中を揺蕩う感覚がボクを包んでいた。
(このまま眠ってたいな……)
そう思っていたらクンッと体が引っ張られる感じがした。
ここから出たくないと抗うけど無慈悲にもボクは温かさから引き離されていく。
そして───
「主様、終わりました」
「おう、お疲れさん」
ウェトスから離れた森の中に俺とイヴはテントを張りその中にいた。
イヴの神聖魔法により中は清潔感に溢れていて俺の魔法で人払いと進入不可の結界を張ってある。
旅の途中で何度も使った簡易的な寝床だ。
真ん中には魔羊の毛を詰め込んだ大きな袋を敷きその上に
「肺に快感増幅粒子、血液には残留性の神経過敏毒が回っていました」
「分かりやすく媚香と媚薬で良いよ。疑ってないけど、後遺症は?」
「ありません」
イヴは大聖女としての力をいまだに保持している。
祓魔から解毒治癒まで何でもこなせるのだ。
「ですが処女では無いようです」
処女じゃない?競売場の術式はお粗末なものだったが商品の価値に関わるため処女膜なんかは破らないように徹底しているはずだ。
つまり売られる前に何かあったのだろう。
「ん、んん……」
「お、タイミング良いな」
少女が薄っすらと目を開ける。
「ここは……?」
「よぉ、起きたか?」
寝起きでぼんやりとしているのか俺の言葉に最初無反応だったが段々と意識がハッキリしてきたのか自分の置かれた状況に気付いたようだ。
「ッ!!」
だがそれはイヴによって阻まれた。
「【動くな】」
「あぐっ!な、なんで!?」
ゆらりとイヴから魔力が漏れだす。
「あなたを助けて下さった主様を前に逃げようとするとは……その行為、万死に値して───」
「そこまでだ、イヴ。とっくにこの子動けないから」
俺がそう言うとイヴは渋々ながら拘束を解いた。
イヴの怒気に当てられたのか少女は目に見えて怯えテントの隅で縮こまってしまった。
なまじ絶世の美人だから怒ると迫力あるよな、分かるぞ少女よ。
「今の所俺達は君に何かするつもりは無いから安心しな」
「あ、あなた達は一体……」
「おっと、そうだな。まずは自己紹介からか。俺はアダム、こっちはイヴだ」
「……イズモ、です。それで、ここは……」
「ウェトスから離れた森の中だ。流石に数時間じゃそう遠くには行けなかったわ」
行こうと思えば行けたがまず少女…イズモの治療を優先しようと思いここに留まる事にした。
「他に聞きたいことは?無かったら先にこっちの要件を伝えるけど?」
「……どうやって、ボクをあそこから助けたんですか?」
ぶるりとイズモは体を震わせて問うてきた、触手に責められてるところを思い出したのかな?
というかボクっ娘か、何とも希少な。
「そりゃもうイヴが頑張った!イヴが潜入して、イヴが騎士の上役を洗脳して案内させて、イヴが脱出するための囮を用意した!……あれ?俺何もしてなくね?」
「主様は姿を隠蔽したり証拠を残さないように尽力してくれました。主様の御力無くして成功は無かったです」
「だ、そうだ」
「……取り敢えずイヴさんがとても凄いということは分かりました」
「主様が……」
「イヴがそう思ってくれるだけで充分。後は?何かある?」
「……どうしてボクを助けたんですか?金毛多尾なのに一本しか尾の無いボクを。何も返せませんよ、一文無しなんですから」
「その質問はこちらの要件に関係するな。君を助けた理由は……君が欲しかったから」
「……え?」
分からないかな?分からないだろうな。
「日の光を束ねたような金髪!イヴにも負けない抜群のプロポーション!とても触り心地の良さそうな耳と尻尾!男として、そしてモフリストとして君が欲しかった!」
「……結局、あなたも」
どこか希望があったイズモの目に影が差した。
「あと、君には黒への素質があったから」
「……黒?」
「そう、黒だ。嫉妬、憎悪、怒り、劣等感、羨望……黒い感情が君の中で渦巻いていると俺は感じ取ったから君を配下として、そしてイヴと同じ
俺の言葉を聞いたイズモの顔に動揺が浮かんだ。
「ど、どうして……」
「どうして分かったかって?
「ッ……」
「強かな子だな。競売場から助け出すくらいのお人好しだ、もしかしたら自分のお願いを叶えてくれるかもしれない、そんなご都合展開を考えたと俺は推測した。君の願いが何かは分からないけどね」
イズモは唇を噛んで俯いてしまった。
人って唐突に図星を突かれると動揺するよな、特に頭の良い奴に限って。
「あとはこう……俺の本能的な?配下を増やせ増やせ煩いんだこれが」
「……?」
「ああ、こっちの話。それで、もし俺の配下になると言うんだったら君の願いを可能な限り叶えよう」
「え?」
「俺の配下になるというのは決して軽くなくてね、今の種族は捨てなきゃならんし俺には絶対に逆らえなくなっちまう。だから願いを叶えさせてやることに決めてるのさ」
「……じゃあ、イヴさんも……」
イズモがイヴに訪ねる、否定の言葉が欲しいのかな?
「私は主様の忠実なる下僕にして、性奴隷です。その事に誇りを持っています」
「せ、性奴隷!?まさかボクにも……?」
「ゆくゆくはなってもらうよ?」
「い、嫌だ!!」
イズモは大声を上げて拒否する。
「別に今すぐじゃ無いさ。猶予は取るしなんなら先に願い事を叶えさせてやっても良い」
イズモが苦悶の表情を浮かべる。
性奴隷にはなりたくないけど願いは叶えて欲しい、理解も同意もするよ。
けど流石にそこまで甘えさせることは出来ない。
「俺は君を逃がすつもりはない」
「ッ!」
俺は笑みを消して宣告する。
「君が取れる選択肢は願いを叶えてもらって俺の
別に俺は善人ではない、むしろ悪人側だろう。
欲しい物はどんな手を使ってでも手に入れるし手に入れた以上手放す気もない。
こうして俺に捕まってしまったが最後、彼女に選択肢は究極的に一つしか無いのだ。
「…………………………………………………………先に、ボクの願いを叶えて下さい」
長い沈黙の後、イズモは絞り出すようにそう答えた。
大変な人達に捕まってしまった。
手渡された白のワンピースを着ていたボクはそう思った。
奴隷として売られて日の差さない地下室で怪しいお香を嗅がされて延々と体を触手に弄られた。
狂ってしまいそうな程感じさせられていたのに金毛としての耐性のせいで正気を保ったままボクの体は感じさせられやすく改造された。
あの人達と話している間は我慢してたけど本当はこうして布が肌を擦るだけで背筋に甘い痺れが走ってしまう。
「んっ、くぅ……」
尖った乳首にワンピースが擦れて声が漏れてしまう。
(でもまぁ、あの時よりかはマシかな……)
冷たく固い記憶が呼び起こされてしまう。
群がる男、蔑む女、嘲笑する……妹。
「ッ!」
ギリッと歯を食い縛る。
ズキズキと尻尾の付け根が痛む。
この痛みがあの記憶を忘れさせてくれない。
(絶対に許さない……!)
彼女達への復讐を成すためにボクは選択肢の無かった問いに答えた。
強引で可笑しな人であったけど協力すると言ってくれた以上利用してやる。
(それで、用が済んだら逃げ出してやる)
あのイヴという女の人からは逃げられそうに無いけどアダムという男だけなら逃げられるかもしれないとボクは思っていた。
どうにかして二人を引き離して男と二人きりになれば、尾が一本しかない今のボクでも戦って勝てるかもしれない。
「魔法さえ使えれば……あれ?そういえば首輪は?」
奴隷の首輪は付けられた人の魔力を封じて命令に逆らえなくする。
外すには専用の鍵と呪文が必要の筈だけど……
「……洗脳したって言ってたしその時に外したのかな?」
それにしても特に枷も無く拘束もされてない、今の所不自由無しだ。
「強いて言うならこのワンピースだけど……短すぎない?」
股が見えそうな程ギリギリな丈で少し尻尾を動かすと見えてしまう。
「おーい、着替えられたかー?」
「え、あ、うん……」
着替えるなら外に出とく、なんてボクの裸を見ておきながら紳士ぶっていた男の声がテントの外から聞こえてきた。
「んじゃ入りますよっと……おうおう似合ってるじゃないの」
「み、短すぎないかな……?」
「持ってるのがそれしか無かったの、我慢してくれ」
絶対嘘だ。
「イヴさんはボクよりも背が高いじゃないか、もっと長い奴があったはずだよ」
「それイヴのじゃねぇよ。これから配下を増やすってイヴに伝えたら適当に買っておいた方が良いって言われたんでそこら辺の店で買ったやつだ。配下になったら服は要らないから失念してたんだよ」
「ふ、服が要らない……?」
でもイヴさんは服を着てたし……あれ?どんな服だっけ?
そもそもどんな顔をしてたか思い出せない。
目の前の男もなんかあやふやな気が……
「それよりもメシ作ってるからお前も来なさいな、タダ飯はやらんぞ」
そう言うとアダムさんはボクの手を引いてテントから連れ出した。
すると外には場に似つかわしくない立派な竈が置いてありそこでイヴさんが調理をしていた。
「あ、あの竈って……?」
「持ってたやつ」
「どう考えても持ち運べる大きさじゃ無いじゃん!」
大人一人分の大きさの竈はかなりの重量の筈だ、第一持ち運ぶようなリュックも何もない。
「こうすりゃ運べる」
そう言うとアダムさんは足元にあった薪を自分の影の中に消してしまった。
「え!?」
「んでこう取り出せる」
影の中に手を突っ込むとさっき入れた薪を引き出した。
「じ、次元魔法……」
世界に十人と使える人のいない特異属性の魔法、使う魔力量が桁違い過ぎてまともに発動なんて出来ない筈なのに……
「ち、ちなみにその魔法、容量は……」
「豪邸一軒分は余裕」
ボクはガックリと顎を落とした。
どうやらこの二人から逃げることは諦めた方が良さそうだった。
堕人
人と魔の境が曖昧となった新人種。
元は普通の人間や亜人だが堕王が魔力を浸透させ"堕落転生"を使うことで堕人という種族に生まれ変わる。
寿命は200年ほどでどんな劣悪環境であろうとすぐに適応できる肉体的な強靭性がある。
なお寿命の長い種族が堕転した場合長い方が優先される。
人が成長過程で無くす野生の本能を持ち合わせており特に生殖本能が強い。
魔への親和性が高いので魔法に関しても高レベルで扱える。
平民堕人、戦士堕人、貴族堕人、性隷堕人に分かれており右に行くほど高位の堕人になっている。
平民堕人の下と性隷堕人の上にそれぞれもう一つ階級があるが現堕王であるアダムは上は知らず下は使いたくないと考えている。(必要なら使う)
平民堕人を最低値として戦士堕人は肉体と魔力が強化され貴族堕人になると更に魔物の特性を獲得し自由に扱うことが出来る。(例:アルラウネの植物操作)
性隷堕人は魔性と呼ばれる超高位の魔物か異界の神性を身に宿し権能と同等の力を扱うことが出来る。
魔性は基本的に一人につき一つのみ宿すことが出来る。
更に性隷堕人は睡眠と食事をする必要が無く体も堕王に使われる事に特化するよう造り変わる。
食欲と睡眠欲が無くなった結果性欲が非常に強くなり常に発情、絶頂し堕王の精液を求めている。
堕王の精液は性隷堕人が魔性の力を使う上で必要不可欠なので欠かすことが出来ない。
性隷堕人は堕王の性奴隷であると同時に堕王の目的である神の堕落に大いに関係し全部で13人必要になる。