が、文才無いのでマイルド風味です。
覗き見た部屋の中は金色と赤色に塗れていた。
ボクが居た頃とは違い明るくなっていた室内は今まで見てきたどんな部屋よりも大きくすり鉢状になっていた。
側面には腰掛けるための段差があり扉の反対側には特等席なのか一段高くせり出した豪華な椅子が鎮座している。
そしてそこにはボクと似た顔立ちの少女が歳に見合わない醜悪な笑みを貼り付け部屋の中央を凝視していた。
ヤクモ、ボクの妹にしてボクを貶めた憎むべき仇敵。
本来なら今すぐに飛び出してその顔を八つ裂きにしてやりたい、けどそれよりも衝撃的な場所があった。
すり鉢の中央、そこに立てられた二つの木製の十字の杭。
ボクが会いたかった、救いたかった人達がそこに並んで磔にされていた。
「おとう、さん…… おかあ、さん……」
お父さんは体中に鉄の杭が突き刺さっていて腕は千切れかけていた。
お母さんは体中痣だらけで肌色を探すのが難しいくらいだった。
さらにお母さんの腹は孕んでいるかのように膨らんでいた。
いや、事実その通りなんだろう。
お母さんの腫れて厚ぼったくなったアソコからはボタボタと男の薄汚い欲望の塊が落ちてきていた。
『───次、早くしなさい』
耳が腐り落ちるようなおぞましい声が何かを急かした。
すると側面の最前列に座っていた中から二人の女性と一人の男性が出てきた。
男性は股間をいきり立たせ女性達は杭を手にしていた。
やめろ、扉を蹴破って突入しようとするけどボクの手を握っていたイヴさんがそれを制止した。
「今入ってしまえばあなたの復讐の機会は大きく遠のきます。耐えてください」
「でも! お父さんが! お母さんが!」
「耐えてください」
ぎゅっと握られた手は力みすぎて白くなっている。
その痛みが膨れ上がっていたボクを辛うじて押し留めていた。
三人がお父さんとお母さんたちに近づく。
女性二人が杭を持った手を大きく振り上げお父さんの体に杭を突き刺した。
『があああああああああああああああああっっっ!!!』
死に体だというのに上がる悲鳴は嫌に生々しく耳に残った。
お父さんに杭を突き刺した女性たちは吹き上がる血を浴びて恍惚の表情を浮かべている。
同時に肌が灰がかっていく。
「【
「なに、それ……?」
「死にかけの奴の魂を現世に縛り苦痛を与え続けそいつの血を浴びることで存在を人から外れさせる邪法だ。これを使うと人じゃなくて別の存在───半アンデッドになる。こうなると普通に殺すのは無理だ、心臓を潰しても頭を飛ばしてもすぐに直る」
「そんなこと! 何のために……」
「さぁな、予想は出来るが…… まだ何かあるようだぞ」
そう言われボクは再び視線を戻した。
次はお母さんの番だった。
男は腰を突き出すように磔にされているお母さんに醜い股間のソレを突き入れた。
「お゛!? ぎゃ、がぁぁぁ……」
男が腰を前後する度にお母さんは獣のような声を上げて口から煙のようなものを吐き出していった。
その煙はついさっきお父さんに杭を突き刺した女性達に纏わりついていく。
「【
アダムさんがそう零した時だった。
『ぐ、おおおぉぉぉぉ……』
腰を動かしていた男が限界を迎えたのかお母さんの中に白濁を吐き出して胸の辺りから白い靄を出し、同時にさっきの女性達が急に苦しみだして黒い靄を吐き出した。
吐き出された白と黒の靄はやがて一つになっていき白と黒が蠢く丸い石が出来上がった。
パチパチと手をたたく音が響いた。
『あはは! おめでとう! その“殺生石”はあなたの物よ。それを使ってもーっと妾の役に立ちなさい』
『はぁ、はぁ、はぁ…… ありがたきお言葉、感謝の極みです……』
『うふふ…… さぁ、次よ……』
また同じ様にヤクモの声に従い男女が前に進んできた。
「殺生石……なるほどな。道理で死に向かう邪法と生に向かう邪法を合わせているわけだ。ということは」
彼は眼を部屋の天井を見つめた。
「やっぱりな。ここはただの悪趣味な娯楽施設じゃない。儀式場だ」
「ぎ、儀式?」
「ああ。天井を見てみろ」
ボクは言われるがままに天井を見た。
そこには黒と白の二つの勾玉が円状になった図式、陰陽図が複雑な魔方陣と共に描かれていた。
「あれは“
「……巻物」
「なに?」
「昔、ボクの教育係の一人だった叔父さんが持ってきたことがあったんだ。ボク達の祖先がこの大陸に来たとき祖国から持ってきた巻物を。それをボクに渡してガッカリしてた」
「たぶんそれだな。一定以上の素質を持つ金毛多尾にしか使えない巻物、こっちじゃ魔導書だがそれを使える奴を探して妹が合致した」
確かに素質で言うなら七本の尾を持つヤクモの方が上だろう。
「イズモ、酷なことを言うがご両親の事は諦めろ」
「っ! なんで!? まだ二人とも生きてるよ!? 神聖魔法が使えるイヴさんなら二人を治せるでしょ? だったら!」
「……妙に冷静に状況を見てるなと思ったらイヴを当てにしてたのか。確かにイヴなら生きている限り治せるしそれがお前の願いなら叶えることも吝かじゃない」
「じゃあ!」
「生きていたなら、だ」
その言葉に冷水を浴びせられたように背筋が凍った。
「い、生きてるよ……? だって二人ともひ、悲鳴を上げて……」
「【
へたりと腰が抜けた。
ついで沸々と怒りが沸き上がってくる。
「役立たず!! 願い事を叶えるって言ったじゃないか!! だったら叶えてよ! 脅されてたのかもしれないけどボクに優しくしてくれた二人を助けてよ!! 出来るんでしょ!? イヴさん、出来るんだよね!?」
縋る様にボクはイヴさんに同意を求めた。
「……死者は蘇りません。それが自然の摂理で絶対不変のルールです。神聖魔法はどんな怪我をも癒すことが出来ますが、死者を蘇らせる事だけは不可能です」
だけど現実は非情で理不尽なものだった。
「ぅ……ぁ……」
『んぅ?外に誰かいるの?ダキニ、見てきなさい』
『御意』
「っ! まずい、イヴ!」
「【
「【
光が爆発した直後伸びた影にアダムさんがボクとイヴさんの手を引いて飛び込みボク達は一瞬でその場を後にした。
「どう? 何かいた? 新しい玩具だったら良いんだけど」
「……いえ、ただのネズミでした」
「えー、ネズミぃ? 汚いわね、私の社には相応しくないわ。ダキニ、早急に追い出しなさい」
「御意、直ちに……」
ダキニと呼ばれた男、イズモとヤクモの叔父は少女に跪き俯せた顔に酷薄な笑みを浮かべた。
(もうすぐだ、もうすぐでこの俺が……)
トプン、という音と共に俺達は暗い影の中から森の中に飛び出した。
「っだぁ! 危なかったぁ……」
【渡影】は影の中を進むことの出来る魔法、一見便利そうに見えるが影が濃く繋がってなければならない上に影の中は水のように呼吸が出来ないので長時間潜ることが出来ない。
「無駄に装飾が多い上に光源が一定間隔であって助かった…… 影が外まで繋がってるなんて奇跡だぞ」
「主様の人徳の成せる技です」
「影に人徳も何も無いだろ…… イズモ、無事か?」
「……なんで」
「ん?」
「なんで、ボク達がこんな目に合わなきゃいけないの? わがままを言ってたから? ボクが金毛多尾だから?
玉藻の前は
だが玉藻の前を知る他の種族の間で玉藻の前は女神ではなく天災を引き起こす大妖怪、九尾の妖狐として恐れられている。
その生まれ変わりと言われている金毛多尾を忌避する種族も少なくない。
「……憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
(洗脳が解けたか)
イズモに掛けられていた洗脳は性的な行為に対しての誤認と感情の抑制だ。
今までも驚いたり憎んだり少し笑ったりと感情は動いていたが一定の降り幅から逸脱はしていなかった。
本来ならもっとコロコロと表情が変わる感情豊かな子だったのだろうが洗脳のせいで表に出せず、溜め込んだ感情が今一気に爆発した。
絶望や地獄を知っている奴は
その為ある程度は知っていてその上で快楽に浸れれば最高だったのだがこちらの予想以上にイズモは情が深かったようでその落差が大きい。
あるいはそれを知っていたからこそ洗脳した奴は感情の抑制を施したのかもしれない。
「イズモ」
俺の声にゆっくりと振り向きドロドロと濁らせた金色の目を俺に向ける。
「皆が憎いか……なんて決まりきった事は聞かない。見りゃわかるからな。だけど苦しいだろ? 憎しみに、怒りに囚われるのは」
「…………」
「胃がムカムカして頭がガンガン煩くて胸を掻き毟りたくなる…… 最悪な気分だろうさ」
「……あなたに何が分かるの?」
初めて会ったときより以上に棘のある口調だった。
「いつもヘラヘラしていつでもどこでもイヴさんと乳繰り合って悩みなんて無さそうな事ばかりしてるあなたに! ボクの何が分かる!!」
感情が振り切れたのか激しい当たりだ。
だが残念。
「分かるぞ」
「え?」
「俺は今も復讐の最中だ。五年前からな」
俺の言葉にイヴが目をそっと伏せた、お前は悪くねぇよ。
「苦しいよなぁ、辛いよなぁ、地獄に身を置くのは本ッッッッ当に嫌だよなぁ」
けれど、
「忘れて楽になんざなれねぇんだよなぁ…… なんせ忘れちまったら自分が自分で無くなっちまう」
三年前の地獄が泡のように浮かんでくる。
どれもこれもさっき見た光景よりも遥かに人の悪性が透けて見えるヘドロ以下の所業ばかりだ。
「だからな、分かるんだよ。お前の苦しみも、憎しみも、怒りも、辛さも、全部全部分かるんだよ」
「…………」
「なぁイズモ、お前は既に俺の物だ。誰にも譲るきは無いし手放す気も無い。お前の全てを俺は束縛する。代わりに俺はお前の望みを可能な限り叶えよう。残念ながらご両親は助けられないがその先を手伝うことは出来る。地獄を見たもの同士、俺はお前の助けになろう」
「…………」
「イズモ、君はどうする? 何を成したい?」
俺は手を差し伸べた。
洗脳が解けた時点で土壌は耕された、種も撒かれている。
「────い」
「はっきりと」
「───さい」
「お前の心の声はそれだけしか出ないのか?」
涙に潤んだ濁った目、されど真っ直ぐに先を見据えた目が俺を貫いた。
「───ボクに、復讐を果たせるだけの力を下さい」
俺はニィィと笑った。
「その願い、この堕王アダムが叶えよう」
さぁ、黒い水を注ごう。
大輪の淫花を咲かせるために。
世界
惑星の凡そ1/4を占める超大陸であり地軸に対して横方向に長い。
その東西を二分するように中央に大国"ヒュマンハイブ"が存在し東の山脈二つを挟んで聖教会の本国、"イリア聖教国"が国土を持つ。
更に東には死人や霊が世界中から集まる"
東の最端には八つの島国からなる
西側には獣人族や森人族といった亜人の国々が乱立し"ヒュマンハイブ"と交易等を行っているが近年"ヒュマンハイブ"で亜人の奴隷化が著しく関係が悪化してきている。
北側の未開領地は吹き荒ぶ吹雪に一年中覆われており魔王を頂点とする魔国"ゲヘナエデン"があるとされている。
ヒュマンハイブ
世界最大の大国、元は複数の人類国家だったがある一国が覇を唱えて"敵に利益を与えて動きを縛る"という侵攻を行いほぼ無血で統一した。
表向きは魔国に対抗するための統一だが、実際は"イリア聖教国"による宗教侵略を防ぐため。
王には血継式の固有魔法と儀式魔法の合成である【王の法】があり"ヒュマンハイブ"の国民に対して絶対命令権を有している。
宗教に対しては厳しく取り締まっており、ありとあらゆる宗教を認めているが改宗を強制したり国に申請せず布教を行うと死罪が与えられる。
イリア聖教国
世界で最も規模の大きい宗教"イリア聖教"を国教としている国家。
人間至上主義を掲げ人間以外の種族は全て女神エミイリアが作った道具と認識しており、人間に隷属しない亜人は殺し、隷属しても衣服は全て剥ぎ取られた状態で文字通り道具の様に扱われている。
勇者や聖女といった強大な戦力を保持し大陸各地で強制的な改宗と亜人の粛正を行いその版図を徐々に広げていっている。
国家としては世界最古でトップである教皇は数千年生きていると噂されている。
続く───