「おっちゃーん。この肉鍋っての二つー」
「おーよー。銅貨16枚だ。テーブルにおいといてくれー」
宿屋の一階は窓口と食事スペースとなっており、チェックインした後にそのまま飯を食う事も可能だ。
銅貨をテーブルの端に置き、さらに追加でラプターの餌のグレードを上げてもらう。
ラプターの餌は宿屋の宿泊費込みなのだが、別料金で払えばグレードを上げてくれる。
あいつも疲れただろうし、少しは労らないとな。
「お待たせしやしたー。肉鍋二つ。今日は旅の人が持ってきてくれた熊を使ってるぜ」
目の前にドカンと置かれた鍋には、ごろごろと大きめにカットされた熊肉と、その上からたっぷりとかけられたチーズが煮えていた。
スプーンで肉やチーズをすくうと、下から白菜などの野菜が出てきた。
「おっし、いっただっきまーす」
「…いただきます」
肉にチーズをからめ、口に含んで咀嚼する。
「うんまっ」
最初に口からでた言葉はそれだった。
まず始めに暴力的なボリュームの肉からでる肉汁が口を満たし、チーズの濃厚な味わいが肉の爆発を抑え、本来なら口が飽きるはずの濃いだけの味を旨みへと上手く変換している。
香辛料の香るスープも良い具合だ。
「どうだ?今日のは結構な自信作だぜ?」
「うまい。めちゃくちゃうまい」
「はぐっ、はぐっ…」
フレイヤはもはやこの料理の虜となっている。
…この男、できる!
白菜もスープを吸い、味気なさなど一切合切感じられない。
姉の作る料理もうまいが、この男の料理には別のうまさを感じる。
懐から銅貨を数枚出し、テーブルの端に置く。
きょとんとして銅貨を見つめる男に、俺は称賛の言葉をかける。
「この料理のお代だ。日替わりとはいえ、この料理を一皿銅貨8枚で売るのは安すぎる」
男はしばらく眉をひそめた後、豪快にガハハと笑いだした。
「兄ちゃん良いやつだなぁ!俺もそう言ってもらえて嬉しいさ。ちょっと待ってろ」
そう言うと男はしばらく厨房へ引っ込んだ後、盆になにやらお菓子のような物を二つのせてやって来た。
アイス────氷菓子だ。
「おら、サービスだ。今日は兄ちゃんらのおかげで気分が良いんでな」
「おいおい、サービスって…。俺は正当な代金を払っただけだぞ?」
「なら、兄ちゃんらには特別にくれてやる。タダなんだから、さっさと受けとれ」
ここまで言われたら、逆に断る方が失礼というものだ。
俺はニヤリと笑みを浮かべると、素直にその菓子を受けとる。
そして、男が握手を求めて来たので、自然な流れで握手を返す。
「俺はドルト。【調理師】だ。よろしくな」
「シェイだ。戦闘職に就いている。こちらこそよろしく」
やがてドルトが厨房へ戻った後にアイスを食べたのだが、熊鍋で油っぽい口にミントのような清涼感がたまらなく、それはもう美味しかった。
あの男!やるじゃねぇか!