闘技場とカジノによって財布が銃弾を防げるくらいに膨らんだ次の日。
俺達は、とある奴隷売り場にやってきていた。
表向きは廃業した布工場。
でも裏の顔は、たくさんの獣人を監禁し、貴族達に売っている奴隷売り場。
一回目は勇者が『何も悪くない獣人を売り物にするなんて!』と息巻いて工場ごと爆砕したんだっけか。
ドアを開き、工場の中へ入る。
どこからか商人…ではなく、その使いがやってくる。
商人自体は牢の鍵や金を管理しているので、暗殺や脅しの防止のために、このシステムが使われている。
「お客様、失礼ですが硬貨はお持ちですかな?」
「ここにある。金貨が5枚と堕落した金貨が12枚」
「失礼しました。では、こちらへ」
俺みたいな明らかに金を持っていなさそうなやつが来たら、普通は疑う。
その態度に納得できるので、素直に財布とは別に資金を入れた袋の中身を見せれば、使いは奥へ通してくれた。
「今回はどんな奴隷をお探しですかな?性奴隷、戦闘奴隷、使用人奴隷…」
「戦闘奴隷だ」
「かしこまりました。では、こちらへ」
使いに通されてたどり着いたのは、牢屋がならんだ廊下のような通路。
そこには、数々の獣人が収容されていた。
猫、熊、狼…耳と尻尾を生やした、奴隷たちが牢屋の鉄格子を叩いていた。
「ステルス能力が高いのは猫、単純に力が強いのが熊でございます」
「だせぇぇぇぇ!ここからだせぇぇぇぇ!」
「なるほど、どの動物の血を引くかによって、得意な事が変わるんだな」
「お願いよ!もうこんなの耐えられないわ!」
「るせぇ!お客様はお前らを買ってくれようとしてんだ!ちっとはおとなしくしろ獣どもが!」
老人の使いが魔道具から雷を呼び出し、奴隷たちを黙らせていく。
さすがにやりすぎでは…とも思ったが、捕まるような
俺はなるべく感情を表に出さないようにして、獣人達を見て回った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「コイツで、戦闘奴隷と呼べるモノは最後です」
最後まで見て回ったが、どれも満足のいくような奴隷ではなかった。
媚びへつらう者、泣き叫ぶ者…。
この奴隷売り場はハズレかな…そう思い、最後の一人を見た、その時だった。
そこには、いた。
ぴくりとも動かず、ただ
部屋の角で自らの尻尾を足の間に挟み、膝を抱えている少女は、何故か俺の目を引いた。
「…コイツは?」
「お客様、コイツはオススメしません。気性が荒く、誰にでも襲いかかりますし、なにより、こちらの言うことを聞かないのです」
「買うかどうかは俺が決める」
俺は鉄格子に近づき、その少女をじっとみる。
尻尾と同じ、深い
「そんなに気に入りましたら、どうぞ、鍵です。お近づきください。ただし、怪我をしてもこちらでは責任はとりませんので」
「構わない」
ちょっとずつ素が出ている使いから鍵を受けとる。
「主様、私はどうすればいいでしょうか」
「フレイヤはそこで待っててくれて構わない」
鍵を開け、中に入る。薄暗い牢獄のすみで膝を抱えている少女に近づき、顔を確かめようとすると…
「アアアアッ!!!」
俺に飛びかかってきた。
「…やっぱりか」
俺はこの少女に心の中で称賛の言葉を送り、影魔法で拘束した。
「がっ!?あっ…」
「相手が確実に殺せる位置に来るまでずっと微動だにしない。しかもそれだけの反応速度、ここに来てからずっとその体勢でエネルギーを溜めていたんだろ?」
【シャドウ・バインド】で身動きが取れない少女の顔に触れ、前髪を払う。
「その的確な判断、気に入った。それに…」
俺は少女の瞳を覗き込む。
昔は綺麗であっただろう黄色の瞳は、暗く濁っていた。
俺はそれを見て満足すると、少女だけに聞こえる声で囁く。
「お前からは同族の匂いがする。深い復讐心を持っている同族の匂いがな」
少女は一瞬だけこちらを見ると、驚いた目をした。
俺は笑っていた。理由はわからない。
良い奴隷を見つけた事か。
それとも、復讐を思い出したからか。
それとも、
「お前を買ってやる。その復讐も手助けしてやる。お前の【影】を見せろ」
それを聞いたとたん、少女はこてんと気を失ってしまった。
安心したのか、もしくは体に限界が来ていたか。
どうかは知らないが、そんなことはどうでもいい。
俺は立ち上がり、鉄格子の向こうの使いに言った。
「この奴隷、買おう」