「この先に、影がある。つまり、人がいるってことだ」
部屋を調べ続け、二人目の部屋へたどりついた。
巡回兵もいたが、影に溶けた(物理的に)。
チヨは手甲から爪を出し、ごくりと唾を呑み込む。
今回は、突入も復讐も、すべてチヨがやることになっている。
チヨ一人で、人殺しをするのだ。
「いいか。せぇーのっ!」
ドアを開ける。
刹那、チヨが部屋に入ったのを確認し、ドアを閉める。
ガタン。誰かが立ち上がる音。
ゴトン。誰かが押し倒された音。
ジャキン。誰かが斬られた音。
「…終わったか。あっけねぇな」
「チヨ。終わりましたか?」
ドアを開け、中を確認すると、血の池に沈んだ熊獣人の男と、返り血を浴び、青ざめた顔で荒い息をしているチヨがいた。
フレイヤはチヨを手を握り、やさしくなでる。
なにせ、はじめての人殺しだ。
ショックを受けるのも無理はない。
熊の死体を【影空】で回収し、チヨに話しかける。
「どうだ?初めての復讐は?」
「はぁっ、はぁっ…げほっ、げほっ。すごく、気分がいいよ」
「そう考えてるように思えないんだが?」
「…はは。お見通しか。でも、大丈夫だよ。次も、ちゃんと殺るから」
そう言って顔を上げたチヨの目には、固い決意の色があった。
俺はチヨに背を向け、次の部屋へと向かうことにした。
◇
そこからは、チヨはちゃんとしたコロシをするようになった。
最初の一人を合わせて合計六人、チヨは相手と話すよ余裕までもった。
チヨ曰く、「なんで殺されるのか理由を教えた方がいい」だそうだ。
そして、ラスト。
六人からの情報を照らし合わせた結果、この扉の先にいる猫獣人の男が狐獣人を売りに出した張本人らしい。
「チヨ。こいつでラストだ。思いっきりやれ」
「うん。わかった」
扉を開け、中に入る。
猫獣人は抵抗できる程の力を持っているので、俺とフレイヤも一緒だ。
「…待っていたよ、狐獣人」
部屋に入ってきた俺達に、そんな言葉が投げ掛けられた。
部屋を見渡せば、他の獣人とは段違いの広さ。
嵌められた、と思って振り返れば、扉の上から槍が降ってきて、扉を完全にふさいだ。
部屋と言うよりかは広間のようだ。
階段の上に猫獣人が立っている。
「…君が、今回の首謀者なんだってね?」
「そうだ、狐獣人。なにか問題があるかね?」
「おおありだよ!」
チヨが声を荒げる。
窓から差す月明かりが、チヨの橙色の髪を際立たせる。
「なんもしてない狐獣人を…!」
「なにもしていないから売りに出したのだよ、狐獣人」
「え…?」
「彼らは最高の才能を秘めている。なのに、なにもしないんだ。稼ごうとも、人間を滅ぼそうとも、我々の下に就こうともしない!そんなやつ、奴隷行き以外になんの使い道がある?」
「このクズ…!」
すげぇ、ナチュラルなクズだ。
猫の癖に生意気な。
「そうだ!なにもしない獣人など、生きる価値もない!奴隷にでもなれば、多少は貢献できるやもしれんが、な!」
チヨが歯を食い縛る。
「ははは!お前たちなど、優れた頭脳を持つ猫獣人に比べたら、ゴミ以下───」
「それ以上口を開くなっ!!」
チヨはついに我慢できなくなり、猫獣人へと襲いかかる。
それを猫獣人は軽々と交わし、空中にいたチヨを肘で壁に叩きつけた。
そのまま腰からナイフをだし、チヨへ一歩一歩近づいて行く。
「あぁ、狐は野蛮で怖い。そうだ、最近忙しくて処理が出来てなかったな。ここはひとつ、お前で発散を──」
カキン。
ナイフが宙を舞う。
猫獣人の足元に、真っ黒い槍が突き刺さっていた。
「さっきからジャマばかり!誰だ!」
勿論、槍を投げたのは俺。
月明かりで
角度を変えれば、月明かりのお陰で
もう一度
「貴様か…!貴様が私のジャマをしたのだな…!?」
「そうだよ?当たり前じゃないか、ハゲ」
「ハ────!?貴様、殺すッ!!晒し首だ!」
「ふっる。見た目だけじゃなくて中身もおっさんか」
「もう我慢ならん!誰だお前は!!!」
おっと、決めゼリフシーン、頂きました。
「俺が誰かって…?ただの
「殺すッ」
んでもって。
結局は俺がやることになるのね。