影法術士は家を貰う
「わぁ~!キレイだねぇ~!」
俺達は今、獣人の里の近くの崖に来ている。
チヨの案内で、せっかくだから朝日を見ようということになった。
「……」
「どうだ、フレイヤ?」
「…はい。とても、美しいです」
白い髪の毛を風にたなびかせ、潤んだ瞳で朝日を眺めるフレイヤ。
元は天使だからな。神の降臨と言われている朝日には思うところがあるのだろう。
と、そんなことを考えていると、ふいに頭の中に声が響いた。
『順調に配下を増やしてるようっスね、後輩?』
「…お前は」
『あの時にいた8代目っス。覚えてるっスよね?』
「…あぁ、覚えている。感覚操作が上手いとか言われていたな」
『おっおう。そこまで覚えてるとは…。まぁ良いっス。後輩クンに少し話があるんスよ』
ちらりとフレイヤ達を見る。
未だに朝日に夢中だ。
「いいだろう。だがその前に、一つ質問がある。どうやって俺に話しかけている?」
『それは…後ろを見て欲しいっス』
指示通り、振り向いて朝日を背中に受ける。
すると、俺の影がうごめき、その手を動かした。
もちろん、俺は腕を動かしてなどいない。
『後輩クンの漏れでたマナを使って、影が濃くなる時間帯に話せるようにしたんス』
「つまりは、夕方や今のような朝しか使えない、と?」
『頭良いっスね、その通りっス。漏れでるマナもマナなんで、交代制にしてるっス。今日は俺の番っスね』
「…そうか。それで?話とはなんだ?」
『後輩クンに家を譲ろうと思ってるっス』
「家だと?」
『そっスそっス。影法術士が代々受け継ぎ、居城にしてきた代物っス。そこに、俺の作った道具があるんスよ。家と一緒に有効活用して欲しいっス』
俺は顎に手を当て、考える。
旅をしなければ中々集まらないだろう。
しかし、影法術士のスキル【影魔法】は汎用性こそ高いものの、あまり長旅には向いていない。
休める場所も欲しいし、8代目の残した道具とやらも気になる。
「わかった。その家、譲り受けた」
『やりぃっス!じゃあ、場所の情報を叩き込むっス。そこは先代先輩や14代目後輩が適役っスから、少し席を外すっス』
しばらくの間声が聞こえなくなり、また俺の頭に声が響いた。
『しばらくぶりだな、15代目』
「あぁ、あの時俺に魔法をかけた奴か」
『必要な事だった。許してくれ』
「構わない。それより、家の情報を贈ると言っていたが、わかるのか?」
『無論だ。私もそこに住んでいた』
「そうか。わかった、初めてくれ」
そう言葉にした瞬間、俺の脳に膨大な情報が流れ込む。
家の場所、部屋の位置、罠、武器、過去の【特上】のデータ……。
それらが全て一瞬で脳に焼かれ、俺は思わず頭を押さえた。
『これで終わりだ。お疲れさま』
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…。ありがとう。すぐに向かう事にする」
『それはよかった。そろそろ漏れでたマナも無くなる、また今度だな』
そう言って消える声。
フレイヤ達を呼び出し、次の目的地をラプターに伝える。
そのとき、情報のことで頭が一杯だった俺には聞こえていなかった。
「スクープだ…。世界に一つの影法術士、その受け継ぎ手…ついに見つけたよ」
草むらに隠れていたある女の声が。