ラプターを走らせ、ローレルに戻る。
ローレルに、まだ遊んでいない施設があるからだ。
ローレルは娯楽都市。遊ばないのは勿体ない。
今回は外の宿に泊まらず、国の中の宿でチェックインをする。
「よし、出るぞ」
「…ねぇシェイ、この首輪なんとかならない?」
「ならない。それは身分証明書のようなものだ、奴隷と証明できる物が無かったらお前5秒で拐われるぞ」
「そもそも奴隷のあなたが主人になんということを言うのです」
フレイヤはよくわかっている。
チヨは奴隷という立場を良くわかっていない。
一度彼女に奴隷という立場を教えるのも良いかも知れない。
体に教える方で。
「さて、今日行くのはあそこの店だ。二人には外で待っていてもらう」
俺が指差したのは大人のお店。
媚薬やアッチ系の魔道具が売っている。
「へぇー。なんのお店?」
「チヨ。いくら主様がお優しいからと言って、なんでも聞いて良いわけではありません。主様、チヨは私が押さえておきます」
「頼むフレイヤ。ついでにチヨに奴隷がなんたるかを教えてやってくれ」
「了解しました」
フレイヤに口をふさがれ、むーむーと唸るチヨを置き、俺は店へと足を踏み入れた─────
◆
シェイが店で物を選んでいる最中。
フレイヤはチヨに奴隷とは何かを教えようとしていた。
「いいですか、チヨ。奴隷とは────」
「すまない、少しいいだろうか?」
フレイヤの言葉を遮って現れたのは、金髪に青い瞳をもった、女なら微笑んだだけで殺してしまうような顔を持った青年。
傍らに清楚な雰囲気の少女、魔女の少女、猫耳を持った少女が並んでいる。
「…どちらさまでしょうか?」
「人探しをしていてね。このティアラの持ち主なんだが…」
「───ッ」
青年が取り出したのは蒼銀のティアラ。
キラキラと日の光を反射するそれは、フレイヤを驚かせるには充分だった。
何を隠そう、それはフレイヤが【天使】だった時につけていた物だったのだから。
「この町の女性に着けてもらって回ってるんだ。君たちにもそれを頼みたい」
青年は一番近くにいたチヨにそれを被せようとするが…。
「ボクには無理だよ。大きすぎるもん」
「…狐獣人」
猫耳少女の負の念のこもった呟きに気づかず、青年は今度はフレイヤにティアラを装備させようとする。
「お断りします」
「…なんでかな?俺は【勇者】だよ?その俺が為し遂げようとしているんだ、意味があるとは思わないのかい?」
「あなたに探される心当たりはありませんし、たとえ探されていてもあなたと話す必要はありません」
「…へぇ。そんな事を言っちゃっていいんだ?【勇者】だよ?魔王を倒す、アレ。知らない?」
「存じておりますが、あなたが勇者という証拠も、またございません」
勇者と名乗る青年は青筋を浮かべフレイヤをなんとか言う通りにさせようとする。
しかしフレイヤはもちろん抵抗の意を示し、ついに勇者は切れた。
「お前、さっきから生意気な口を!勇者である俺にそんな口を利いたら…こうなるんだ!」
すらりと腰から剣を抜き、フレイヤの頭目掛けて突きを放つ青年。
しかし、その刃は届くことが無かった。
「俺の女に何をしようとしてるんですかねぇ…」
「…誰だ、お前」
黒い服装に身を包んだ青年に、剣を止められていたからだ。
◇
ありったけの媚薬やら道具やらを買って店から出た直後、フレイヤが誰かに斬られそうになっていた。
瞬時に髪の毛の影から板を作り、刃を止めたは良いものの…。
「俺の女に何をしようとしてるんですかねぇ…」
「…誰だ、お前」
いつもなら『だだの影法術士だけど?』と言うところだが、今回は職業を明かしてはならない。
この顔、見覚えがある。
憎き勇者だ。俺を、殺した、あの勇者。
「…だだの旅人だけど?」
「嘘を言うな。旅人が俺の剣を止められるものか」
「俺がめっちゃ強いって可能性は?」
「俺より強い者などいるはずがない。俺は【勇者】だからな」
やたらと【勇者】を強調していることから、俺を脅そうとしているんだろう。
ただ、コイツはまだ経験が少なすぎる。
「おい、そこの二人!今すぐ武器を降ろせ!」
「…ほら、兵隊だ。国の中で剣を抜くことは禁じられているらしい。剣をしまってくれないか」
俺はまだ板で剣を受け止めている状態であり、体勢が辛い。
未だに剣をしまおうとしない勇者に、兵隊が数人がかりで羽交い締めにする。
「俺は【勇者】だ!こいつは倒さねばならない!クソッ、離せ!【勇者】にこんなことをしていいのか!」
「何であろうと国内で剣を抜くのは犯罪だ!…そこの黒い君も、事情聴取のために来てくれないか」
「わかりました。フレイヤ、チヨ。ちょっと一緒に来い」
フレイヤとチヨを呼び、兵隊についていく。
…まさかこの段階で勇者と会うとは。
予定より早いが、特に問題はないだろう。
敵の手の内はなるべく早く知っておきたい。