※この作品はR-18です。

おそらくはありふれた究極的なやりかた   作:Hastnr

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書いてたら妙にボリュームが増えたので分割投稿です。


06-2.剣理活人刀


 

 営業曜日:不定期。

 営業時間:店主の気分次第。

 メニュー:その時次第。

 従業員:基本的に店主のみ。稀に臨時従業員の勤務も有り。

 

 そんな、一風変わったカフェ――しかもただのカフェではなく、いわゆる『メイドカフェ』がもしもどこかにあるとしたら、商売として成り立つのだろうか。常識的に考えれば、それは非常に厳しいと言わざるを得ないだろう。

 しかもそこに『特定の客以外は入店できない』という要素が加われば、もはや利益とを目的とした活動は不可能に近い。

 故に、そんなメイドカフェは存在しない――少なくとも、現実世界には。

 

「――おかえりなさいませ、ご主人様」

 

 来店客の到着を告げる小さな鐘の音と共に、メイド長の清らかな声が出迎える。どこかレトロな雰囲気を残すメイドカフェ『七色虹亭』に、その紅の髪と清楚な佇まいはとてもよくマッチしていた。

 

「ただいま、レイン。予約してなかったんだけど、席は空いてるかな」

「もちろん。ご主人様の為に、スペシャルシートを空けておきました」

 

 楚々とした仕草で、レインはたった一人の主人を店の奥へと誘う。丈の長いロングスカートと一体となった黒いワンピースの上に、フリルのついた白いロングエプロンを重ねた正統派のメイド服。かつてメイドカフェで働いていただけあって、特徴的な紅い髪を白いヘッドドレスで彩るその姿はいつ見てもサマになっている。

 アイドルとしての活動に重心を置くべく、メイドカフェでのアルバイト自体は辞めてしまったレインだが、現在はここ――キリトのプライベートVR空間内に小さなメイドカフェを構え、気が向いたときだけ店を開けていた。

 

「ささ、こちらへどうぞ」

 

 レインの言うスペシャルシートは、店の入口からはちょうど死角になる位置に用意されていた。周囲を壁で囲われたブースめいた席に案内されたキリトが、高級レザー製と思しきソファに腰掛けると、レインもその隣へ腰を下ろした。

 

「スペシャルシート特典として、私が直接、ご主人様にご給仕させていただきます」

「なるほど。それは確かに、スペシャルだな」

「そう言っていただけて何よりです。それではご主人様、ご注文はいかがいたします?」

 

 一流のメイドとして振る舞いながら、レインはコンソールウィンドウにメニュー表を表示してキリトの方へと向けた。その内容は意外と本格的で、お茶請けやドリンク類を始めとして、パスタやオムライスなどのカフェ系の食事メニューに加え、アルコール類や手作りのスイーツ、変わったところではボルシチやピロシキなどのメニューが数多く記載されていた。

 正直な所、がっつり食事を摂ってしまっても問題ない程度には空腹を覚えているキリトだが――この後の『行為』の事も考え、軽めの物で済ませる事に決める。

 

「じゃあ、この……チーズトーストとドリンクのセットを。ジンジャーエールで頼むよ」

「はーい。かしこまりました」

 

 キリトの注文を入力した後、レインはウインドウの隅にあった注文ボタンを押す。微かな効果音と共にメニュー表としての役目を終えたウィンドウが閉じても、レインはソファから立ち上がろうとはしなかった。

 

「ちょっと待っててね。今、優秀な新人メイドさんがお料理してるから」

「新人? いつの間に……」

「意外な所でご縁があってね。おかげで、キリトくんのお世話っていう優先度の高い業務に集中できて大助かりだよ」

 

 仔犬のように愛くるしい仕草で身を寄せてくるレインの姿に、キリトの顔からも思わず笑みが溢れる。甘える彼女の背にキリトが左手を回せば、レインはもっとスキンシップを求めるかのようにより一層体を近づけた。

 

「そういえば、レイン。最近、アイドル活動の方は順調なのか?」

「おかげさまで、結構上手くいけてるよ。時々だけど、アイドル合同イベントにも参加できるようになってきたし。固定ファンもだんだん増えてきたよ」

「さすがレインだな。どんどんステップアップしてるじゃないか」

「えへへ、ありがとう。それもこれも、キリトくんやみんなが応援してくれてるおかげだよ」

 

 ひとしきり照れたように笑ったあと、レインは身体をもたれかからせ、抱きつくようにしてキリトの胸板に顔を埋めた。その仕草に若干驚かされつつも、キリトは彼女の髪を優しく撫でながらレインを受け入れた。

 

「レイン?」

「あのね、キリトくん……。アスナちゃんが、キリトくんを皆で幸せにしようって持ちかけてきてくれたとき……私、本当はちょっとだけ迷ったの」

「……うん、まあ、そうだよな普通……」

 

 いくら正妻様(アスナ)ご公認とはいえ、現代社会を生きる真っ当な女性がいきなり一人の男の後宮に入れと言われてそう簡単に首を縦に振れるものではないのは当然だろう。

 ――などというありきたりな事をキリトが考えていると、レインはふるふると首を横に振った。

 

「違う違う。たぶん、キリトくんが考えてる方じゃないよ。私が迷ってたの」

「え?」

「ほら、アイドルってだいたい恋愛厳禁でしょ? 私が迷ってたのは、そっち」

「お、おう……」

 

 ハーレムに入るのは即決したのだろうか――というキリトの疑問を軽く受け流すレインの、上目遣いの視線がキリトの瞳を捉えた。

 

「キリトくん。私が『アイドル活動に専念するために《ALO》を引退する』って言ったとき……わざわざバイト先へ探しに来てまで、止めてくれたでしょ」

「ああ。そんなこともあったな……あの時は焦ったよ。『当店に指名制度はありません』なんて言われてさ」

「あはは、あったあった。でもおかげで七色ともまた姉妹に戻れたし、今でもすっごく感謝してるよ。

 ――で、それを踏まえて……私は思ったのです」

「思ったって……何を?」

「今みたいに、アイドルとVRゲームは両立できるけど……さすがに、アイドルと『キリトくんの恋人』の両立は難しいんじゃないのかな、って」

 

 キリトの胸板の上に人差し指をあて、ぐるぐると回して『の』の字を描きながら、レインは訥々と言葉を口にする。

 実際、レインの言う通りであることは間違いない。

 アイドルがラブソングを歌うことは許されても、恋愛に耽ることは許されないのは、西暦2020年を越えた現代に至ってもそれは変わらない。たとえばの話、ARアイドル・ユナに突然恋人の存在が発覚しようものなら、各種メディアやSNS上での騒ぎはえらいことになるだろう。

 レインが――もとい、『枳殻虹架』がアイドルとして躍進していくのであれば、男の存在は邪魔にしかならない。芸能関係に疎いキリトにも、それは容易に察せられた。

 

「キリトくん。私ね……キリトくんの事、大好きだよ。すごく大切な人だって思ってる。

 でも……アイドルのお仕事も、アイドルでいることも、同じ位に大切な私の夢なの。どっちか選ぶなんて、できない。

 だからね、その……。キリトくんの恋人になるのは、私が『レイン』でいる時だけ……このVR空間限定の恋人でも、いい?」

「ああ。当たり前だろ、レイン。むしろ、ここにいる間だけでも俺の恋人で居てくれて嬉しいよ」

 

 ほんの少しだけ不安そうな顔色をにじませるレインを、キリトは力強く抱き寄せる。その腕の強さに、わずかに驚いた様子を見せたレインだったが、それでも体を離そうとはしなかった。

 たった一人の男の元へ集う、十人以上もの女性。その関係を恋人と呼ぶのであれば、彼と彼女らが堂々と恋人でいられるのは、このプライベートVR空間だけだ。元より大っぴらにしにくい関係であること、現実世界でイチャつきにくい諸事情を抱えた者が何人かいること、未だ一学生の身分であるキリトには何か問題が起きた時に責任を取れないこと――そんな事情が重なった結果の産物ではあるが、それが結果的にレインにも都合よく働いていた。

 

「よくばりすぎかな、私。大好きなアイドルのお仕事も、大好きな人も諦めたくないなんて」

「いやいや、レインの『よくばり』っぷりなんて普通だと思うけどな。

 俺だって、剣一振りじゃ物足りないから二振り目も持ってるような『二刀流』だし……」

「恋人関係は『多刀流』だけどね」

「うっ、よりによって本家本元の多刀流サマにそれを言われると……」

 

 言葉を詰まらせるキリトをからかってやりつつ、レインはゆっくりと顔を上げ、キリトの瞳を正面から真っ直ぐに見つめた。

 

「これからも、アイドルの『枳殻虹架』を応援よろしくね。キリトくん」

「ああ。いつかレインが‥…枳殻虹架がトップアイドルになる日まで、全力で応援させてもらうよ」

「ふふっ、ありがと。それとね……」

 

 怪訝な顔をするキリトと視線を合わせたまま、レインは一度言葉を切る。そのまま二、三度、ゆっくりと深呼吸をしたあと、改めて口を開いた。

 

「その……『枳殻虹架』がアイドルを引退する時は、絶対、『一般の男性の方と入籍しました』ってプレスリリースを出すって決めたんだ。

 だから……そっちもよろしくね? キリトくん」

 

 それだけ言って静かに目を閉じたレインは、そのまま唇を差し出す。これから多くの人へ、華やかなメロディに彩られた歌声を紡ぎ届けていくのであろう艷やかな唇。その稀有なる唇を、凡俗な欲望にまみれた一人の男に捧げる。

 レインを含めた数多くの女性と男女の契を結び、彼女らの想いを全て受け止めると腹を決めた時点で、キリトは彼女らの人生そのものに責任を取ることを決意している。故に今、レインが差し出す口づけを拒む理由などどこにもありはしなかった。

 

「約束するよ、レイン。『一般の男性』としてさ」

 

 固く静かな決意と共に、歌姫の小さな顎に手を添えたキリトは、彼女の唇をそっと引き寄せて口づけを――。

 

「えー、ご主人様に店長サマ。

 大変いい雰囲気のところ申し訳ありませんが、あたしはいつまで待ちぼうけを食らってればいいんでしょうかね」

 

 ――交わそうとした、まさにその寸前。スペシャルシートが収まるブースの入り口から聞こえてきた、揶揄と不満が入り混じった声が、重なろうとした唇と唇を押し留めた。

 驚いて振り返ったレイン越しに、もう一人のメイド――桜色の髪が目を惹く彼女の姿を捉えたキリトは、観念したように片手を上げた。

 

「えーっと……どこらへんから待たせちゃってたかな……リズ」

「ご主人様がメイド喫茶に足繁く通ってレインを指名しまくった挙句、『俺の所へ帰ってこいよ。妹と一緒にひいひい言わせてやるからさ』ってがっつり口説きました――って話をしてたあたりから」

「すまん……本当にすまん……。

 待たせたのは謝るから、だからその悪意ある脚色付きの誤解を広めるのだけはやめてくれ……」

「しょうがないわねえ。ご主人様たっての願いとあらば、呑まざるを得ないのがメイドの悲しい所よ」

 

 やれやれとでも言いたげなため息をつきつつ、リズことリズベットはようやく首を縦に振った。

 右手に持った銀盆の上に、注文通りのチーズトーストの乗った皿とジンジャーエールの入ったグラスを載せたリズの出で立ちは、レイン同様のメイド服。ただしその方向性は、レインのそれとは180度真逆ではあったが。

 純白のフリルがたっぷりと使われた、太ももの半ばにも届かないミニ丈のスカート。白リボンがあしらわれた黒いオーバーニーソックスが強調する脚のラインと、スカートとの間に除く肌色の絶対領域。そして足元を淫靡に演出するダークカラーのハイヒール。

 メイド服の胸元と肩口には大きなカットが施されており、両肩はもちろん、深い谷間を造る柔らかそうな双丘、その北半球を惜しげもなく見せ付けている。首に締めた細いリボンタイや肘上から指先までを覆うロンググローブはもちろん、通常は白一色であることが多い頭飾り(ブリム)すらも黒染めにしているのは、やはり主たる男の趣味を慮っての事なのだろう。

 そんなトータルコーディネートは、家事仕事とは別の方面で主人に奉仕するメイドだと無言のうちに指し示していた。

 

「ご注文のチーズトーストとジンジャーエールでございまーす」

「ありがとう、リズ」

 

 実に扇情的なメイド服を身にまとったリズは、注文された品をテーブルの上に置くと、そのままキリトの隣に腰を下ろした。見せ付けるように組まれたリズの両脚から覗く絶対領域に理性を溶かされそうになりつつも、キリトはどうにか視線をテーブルの上に戻すことに成功した。

 白い丸皿の上に載せられた、二枚のチーズトースト。少しだけ厚めにカットされた食パンをカリカリになるまで焼いたあと、チーズを載せて軽く温めるという一手間を加えることで、小麦由来の香ばしさと乳製品の風味の両方を堪能できるというシンプルかつ奥深い一品。4つにカットされたトーストの断面に、とろけたチーズが流れ込む光景がキリトの食欲中枢を誘惑する。

 人間が持つ三大欲求の一つ・食欲が大いに刺激された事で、残りの欲求が相対的に低下する。結果的に理性を取り戻したキリトが、ひとまずは食事を済ませようとした所で、横から伸びてきたレインの手がトーストの載った皿に触れた。

 

「レイン……?」

「まあまあ、いいからいいから」

 

 虚を突かれたキリトが動きを止める中、レインはチーズトーストの一切れを指先で摘む。とろけて伸びるチーズの糸を器用にまとめたあと、レインはキリトに向けてトーストを差し出した。

 

「当店よりのスペシャルサービスです。はい、ご主人様。あーん」

「え、えっと……さすがにそれは……」

「あーん?」

「あ、あーん……」

 

 微笑みを浮かべるレインが放つ、有無を言わさぬ圧力。それに屈したキリトが口を開けると、レインは口の中へトーストをそっと給仕する。ちょうど一口で収まるサイズだったトーストを口内に納めながら、キリトは若干の気恥ずかしさと共に咀嚼した。

 外はかりっと、中はふわっとした食パンの食感に、まろやかなチーズの味がよくマッチしている。味付けはチーズの塩気のみだが、それで十分な程に味覚が満たされていくあたり、中々に質のいいチーズを使っているのだろう。

 

「おふっ、あつっ……いやでも、うまいな。これ……」

「でしょ? 特別なミルクを使った、当店自慢の手作りチーズを使ってるからね。

 ささ、もう一つどうぞ。ご主人様」

 

 差し出されるがまま、キリトは二切れ目のトーストへ齧り付く。シンプルであるが故に、よりはっきりと分かる素材の良さが舌の上に広がっていく感覚が実に心地良い。

 あっというまに二切れ目を胃の腑に納めると、レインとは反対側に座ったリズがジンジャーエールの入ったグラスにストローを突き入れ、しずしずと差し出してくる。スペシャルの名を冠するだけあって、まさに至れり尽くせりといった具合だ。

 

「ありがとう、リズ」

「どういたしまして。チーズとは違って、こっちはごく普通のジンジャーエールだけどね。

 まあ、あたしの愛(・)情(・)がたっぷり籠もってる分、特別な逸品ってことにしといて」

「そのつもりでいただくよ。……そういえば、さっきレインが言ってた『特別なミルク』っていったい……?」

 

 ストローを唇の端に挟み、キリトはグラスの中身を吸い上げる。よく冷えたジンジャーエールは、リズの言う通り何の変哲もないジンジャーエールだったが、これまた彼女の言う通り愛情が詰まっている事は間違いない。

 しゅわしゅわとした炭酸が弾ける感触と共にキリトが喉を潤しているその横で、おもむろに口を開いたのはレインだった。

 

「実は最近、この辺りで牧場を経営してるっていう女性と知り合って……そこの牧場で取れる新鮮なミルクやバターを仕入れられるようになったの。ね、リズっち?」

「そうそう。父娘で牧場を運営してるそうなんだけど、不思議なことにお父さんの姿を見たこと無いのよね……。

 飼ってる雌牛の品種も『シルフ』とか『ウンディーネ』、『スプリガン』、『プーカ』っていう変わった名前のばっかりらしいし……」

「不思議だよねー。教会の近くに行くと、気持ちよさそうな啼き声が時々聞こえるんだけど……うー、やっぱり気になる。あの娘さんに聞いてみようかな」

「それがいいわね。今度『レプラコーン』っていう新しい品種をまとめて仕入れるそうだから、その時に聞いてみましょ」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべて言葉を交わすメイド達の間に挟まれたキリトにできることと言えば、口に含んだジンジャーエールを吹き出さないように笑いをこらえることのみだった。

 その後も、愛しき妖精達から絞った濃厚ミルクで作ったチーズを載せたトーストをレインに、愛情の篭もった特製ジンジャーエールをリズに供され続けることしばらく。

 すっかりテーブルの上を空にしたキリトは、満足げなため息をこぼした。

 

「ごちそうさま。レイン、リズ。想像以上に美味かったよ」

「「どういたしまして、ご主人様」」

 

 綺麗に声を重ねた二人のメイドが、コンソールウィンドウを操作してテーブルの上の食器を手早く片付けていく。あくまで優雅に、しかし無駄のない所作で。

 そんな光景を微笑ましく眺めながら――キリトはようやく、己の身に異変が起きている事を理解しつつあった。

 

「……ん? 『ステータス異常』?」

 

 視界の左端上部、通常ならHPバーなどのプレイヤー情報が並ぶエリアに浮かび上がるアイコン群――プレイヤーのステータスに変化が加えられた状態を示すものに気づき、キリトは思わず怪訝な声を出していた。

 表示されたアイコンは計5種類。敵も味方も見境なく攻撃対象とする『バーサーク』。自身の体力が徐々に回復する『リジェネレート』。異性Mobから受けるダメージが増えるが、与えるダメージも増える『テンプテーション』。飼いならし(テイム)成功率を上昇させる『テイムアシスト』。敵Mobから逃亡できなくなる『ウォーモンガー』。

 どれもこれも商業VRMMOでデフォルトに存在するバフとデバフばかりであり、《ザ・シード》規格をベースとしたこの空間内に存在している事自体はさほど不自然ではない。

 ただ、商業VRMMOほどに本格的な戦闘システムを実装していないこの空間におけるバフ、そしてデバフは、『アイコンが表示される』以外に何の意味もないのだが。

 

「――どうかされましたか? キリトくん」

「あれ? どうしたのよ、キリト。鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しちゃって」

 

 手早く片付けを終えたメイド達が、左右からキリトの瞳を覗き込む。男が不意に立ち上がったりできないよう、両の太腿の上にそっと手を置き、にんまりとした意味深な笑みを浮かべながら。

 

「キリトくん、なんだか苦しそう……なんだか、女の子が目の前に居たら無理矢理襲っちゃいそうな顔してる……。ね、リズっち?」

「いやいや、あのキリトに限ってそんなことあるわけ…………うわ、あるわね。

 しかもこれ、割とヤバい時の顔だわ」

「どうして急に……もしかして、さっきのトーストかジンジャーエールに何か入ってたとか?」

「そ、そんな……! あたし、変なものなんて一切入れてないわよ!? 

 ――愛情はたっぷり入れたけど」

 

 心配そうな顔をしようとしつつもそれに失敗しているレインは、至近距離でキリトを見つめながら、空いている片手で男の股座をさわさわと撫でる。

 一方、その反対側でわざとらしく狼狽してみせながら、リズは露わになっている自らの胸の谷間に二本の指を挿し込むと、中から半透明の小さな袋を引っ張り出す。その袋にキリトが視線を向けた途端、システムがフラグの起動を検知し、アイテム情報を示すサブウィンドウが展開される。

 そこに映し出されたのは、『優しいあの人もケダモノに変えちゃうバフ&デバフ付与スペシャルブーストドラッグ ――武具店より愛を込めて―― 』とかいうアイテム名だった。

 胡乱の極みもいいところだが、当然ジョークアイテムだ。見た目も名前も薬物とはいえ、アミュスフィアの中で使えるアイテムなのだから体に害があろうはずもない。たとえそれを経口摂取しようが、あるいは静脈注射されようが肉体にも精神にも何の影響も及ぼさない。

 できることといえば、せいぜい『ステータス異常アイコンを表示させる』というのが関の山だ。

 

「おい……『愛情たっぷり』ってそういう事かよ、リズ……!」

「ようやく気づいた? まぁったく、相変わらず鈍いご主人様ですことで。ねー、レイン?」

「確かに、そうかも……って、そういうことじゃないでしょ。もう」

 

 一向に悪びれる様子の無いリズを軽く嗜めたあと、レインは改めてキリトの方へ視線を向けた。当然、片手は男の股座に置いたままで。

 

「この度は当店のメイドが失礼をはたらきまして……誠に申し訳ありませんでした、ご主人様。『七色虹亭』の店長として、心よりお詫び申し上げます。

 それで……ご迷惑をおかけした代わりと言ってはなんですが、当店のスペシャルサービスをご賞味いただけないでしょうか」

「スペシャルサービス?」

「はい。店主である私も含め、お詫びに誠心誠意サービスさせていただきます♥

 きっと、ご主人様にはお気に召していただけるかと……♥」

 

 たっぷりの媚びと共にへりくだって見せながら、レインはストレージから小さな鍵をオブジェクト化し、そっとキリトの掌の上に乗せた。

 鈍い銀色をした、何の変哲もない鍵。もしここが現実世界であれば、その鍵がどの部屋の扉を開けるためのものかをキリトに知る術はない。

 なにせ、現実世界ではアイテムを注視したらサブウィンドウが立ち上がり、『生意気メイド調教部屋(オシオキルーム)の鍵』などというアイテム名が表示されることは無いのだから。

 

 


 

 

 信賞必罰。功績には報償で報い、罪科には必ず罰を与えること。

 人の上に立つ者として良き人間たらんとするならば、信賞必罰を守るのは基本と言える。たとえばそれが一国を治める王であっても、あるいは見目麗しいメイド二人を従えた好色な主であるとしても同じ事だ。

 ゆえに、玉座に座った主の脚の間に跪き可憐な唇で太い逸物に奉仕し続けている紅い髪のメイドのように――主をしっかりと喜ばせる者には、ちゃんと報いてやるべきなのだ。

 

『んっ――いかがですか、ご主人様?』

「すごく気持ちいいよ、レイン。また、上手になったな」

『えへへ。そう言っていただけると、お仕えする者としては冥利に尽きるよ……♥』

 

 塞がってしまった唇の代わりに合成音声システムを使ってキリトと会話しつつ、レインは脇に流れてしまった紅い長髪を軽くかき上げ、目の前の肉棒へ愛おしげに口づけを重ねる。

 キリト専用娼館『黒夜館』の一角。レインが渡してくれた鍵で開いた扉の先は、その館の一室へと続いていた。しかも、ただの部屋ではなく、SMグッズや大人のおもちゃの使用を目的とした通称『調教部屋』に。

 

『どうしましょうか、ご主人様。このまま一度、すっきりなさいますか?』

 

 普段の彼女ではなく、あくまで性処理役のメイドとして振る舞いながら、レインは上目遣いで主の意向を問う。無論、その間も口腔による奉仕を休むことは無い。反り返った肉棒の裏筋を、舌の表側でなぞるように丁寧に舐め上げ、亀頭を唇で包み込むようにして先走りの汁を受け止める。そのまま頬をすぼめ、唇で輪を作ったまま顔を前へと進めて肉棒を根元まで飲み込む。

 

『こちらの方も、たっぷり溜まっておられるようですし……あまり我慢するのも、体に毒だと思うんだけどなー?』 

 

 ずっしりとした重量感を感じさせる陰嚢を片手で優しく揉み拉きながら、レインは頭ごと唇を上下させて、キリトの肉棒へのフェラ奉仕を続ける。

 唾液でコーティングされた肉棒を吸い上げる度、レインの唇からはじゅるじゅるという粘ついた音が響く。亀頭の先から肉棒の根元までをレインの口が丹念に行き来するたび、ぐぽぐぽと下品に奏でられる音漏れと共に。

 

「そんなこと言って、本当は自分が欲しいだけなんじゃないのか。レイン」

『うん。だって私、キリト君のメイドだよ? ご主人様からいただけるものは、なんだって欲しいに決まってるよ。

 なでなでのご褒美でも、お給金でも……ここで熟成されてる、濃くて美味しい精液でも、なーんでも♥』

 

 口全体、そして喉奥まで使って奉仕しながら、レインは主よりの褒美をねだる。長い舌が蛇のように蠢きながら、肉棒にまとわりつく――そのねっとりとした感触と愛情の篭もる刺激は、陰嚢に溜まっていた精子達を導くには十分に足りる。

 

「レイン、このまま口の中で……」

『はあい、承知しました。ご主人様♥』

 

 許しの言葉を得たレインは、さらなる激しい口腔ストロークで主の逸物を責め立てる。やがて、より一層堅さを増した肉棒の感触から射精の兆候を見て取ったレインは、肉竿を頬の内側でしごきあげるようにしながら顔を引き起こす。

 亀頭だけを口に含みながら、レインが目を閉じたまさにそのタイミングで――熱く滾る子種汁達が、レインの口内目掛けて一斉に噴き出した。

 

『わぷっ、んふっ……♥ ご主人様のご褒美ザーメン、元気いっぱい……♥ 

 おちんちんも口の中でびくっびくって震えながら、いっぱい精液だそうって頑張ってくれてる……♥』

 

 どくどくと吐き出される精液を受け止めながら、レインは奉仕する喜びと共に濃厚な精臭に酔い痴れる。叩きつけられる白濁した奔流の感触に、ふうふうと荒く乱れたレインの鼻息が、彼女の興奮を如実に表していた。

 普段ならこのまま精液を飲み込む所だが、あえてレインはそうせずに白濁液を口内に溜め込む。そうして、ともすれば口の端から溢れ出してしまいそうな程に多量な精液をどうにかこうにか口内に収めきったあと。レインは唇の縁を肉棒に這わせ、付着した唾液と精液をこそげ取りながらキリトの逸物より唇を離した。

 

「ふうっ……ありがとな、レイン。金玉の中身、全部吸い上げられるかと思ったぞ」

『ご主人様がお望みなら、いつだってそうするよ。

 でも、一回分の射精でこんなに出るんだから……溜まってるの全部出されちゃったら、私、精液で溺れ死んじゃうかも♥』

 

 レインは口を大きく開き、射精されたばかりの精液をキリトに見せつける。どろりと重たい白濁の海の中では、レインの紅い舌が溺れるような仕草で蠢きながら、にちゃにちゃと卑猥な音を響かせつつ子種を攪拌している。

 そう遠くない未来、一流のアイドルとして世界に羽ばたいていくであろうレイン。誰もがうらやむその唇に、己の子種を吐き出してマーキングしたのだという事実が、キリトの征服欲を満たしていく。それは同時に、レインが抱く被(・)征(・)服(・)欲(・)とでも呼ぶべき、少々マゾヒスティックな欲望を満たす事をも意味していた。

 口内全体で精液を味わい、わざと音を立てて咀嚼しつつ、レインはゆっくりと立ち上がるとそのままキリトに背を向ける。清楚なメイド服を装備解除し、レースをたっぷりとあしらった黒いランジェリー姿になったレインの足が向かう先は、同じ男を主と仰ぐもう一人のメイドのもとだ。

 

「……なによ、自慢しに来たってワケ?」

『うん、その通り。ほらみて、リズっち。キリトくん、私のお口まんこの中でこんなにたくさん出してくれたよ?」

 

 妖艶な眼差しと共に、レインは大きく口を開けてキリトが射精したばかりの精液を見せつける。

 紅い舌の動きに追従し、風船ガムのようにおおきなあぶくを作り出す精液を眺めさせられるもう一人のメイド――もとい、リズベット。挑発的なレインに対し、持ち前の負けん気で力強い不敵な視線を返すリズベットだったが、二人が置かれた立場の差はその程度で覆せるような物ではない事は簡単に見て取れた。

 何せ、過激な下着一枚とはいえなにがしかを身につけているレインに対し、リズベットは生まれたままの姿を晒している。その上、天井から伸びる鎖に繋がった手錠によって両腕の自由を奪われているとあっては、最早その差は歴然だった。

 

「べ、別に……うらやましくなんかないし」

『そう? せっかく分けてあげようと思ったけど……じゃあ、私が全部いただいちゃうね』

「えっ、待っ……」

 

 両腕を真上に伸ばさせられた状態で拘束されている以上、リズには何もすることはできない。

 ごくり、ごくりと喉を鳴らしながら、レインが精液を飲み干すのを止めることも。キリトのお情けに預かれなかった事に、愕然とした表情を浮かべる自らの顔を隠すことも。

 

「――はぁっ……美味しかったぁ♥ 粘っこくて、お腹の中にずしっとくる感じが、もう最高……♥

 体の内側からキリトくんの女にされてくみたいで、ゾクゾクしちゃう……♥」

 

 物欲しそうなリズの目を見つめたまま、レインは個人ストレージから『プーカのミルク』をオブジェクト化。小瓶に入った白いミルクに口を付け、口内全体に行き渡らせるようにしながら、残っていた精液の残滓ごと嚥下する。

 精子一粒すら残さず空っぽになった口内をリズに見せつけたあと、レインはくるりと後ろへ振り返り、キリトの方を向いた。

 

「さて、ご主人様。スッキリなさった所で……始めよっか。オシオキ」

「ああ、そうしよう。オススメの商品リストを用意してくれるか、レイン。金に糸目はつけなくていい」

「はーい♪ お財布の大きなご主人様、だーい好き♥」

 

 丸出しにしていた逸物を閉まって玉座から腰を上げたキリトは、ストレージウインドウを開いていそいそと準備を始めるレインの隣へ歩みを進める。

 拘束されたまま事態の推移を見守っていたリズと目が合うのは、半ば必然的だった。

 

「ふふふ。簡単にあたしをどうこうできるとは思わない方がいいわよ、キリト。

 この鎖も手錠も元はあたしが作った物なんだから、こっそり仕込んでおいた解除コマンドで――」

「ああ、それか。さっき潰しておいたよ。もちろん管理者権限でな」

「え?」

「常連客に向かって一服盛るとはいい度胸だ。その度胸に免じて、たっぷりお返しさせてもらうからな。リズ」

「えっ?」

 

 無防備な姿を晒しながら唖然とするリズの肉感的な体を、キリトはそっと抱き寄せる。普段アスナやリーファ、それにルクスが近くにいるおかげであまり目立つ事は無いが十二分に豊かなサイズをしたリズの胸が、体に押し当てられて潰れるむにゅりという感触を楽しみながら、キリトは彼女の耳元に唇を寄せる。

 

「リズ。やめたい時の合言葉は……」

「いつも通り、『転移結晶』でしょ。ちゃんとわかってるわよ」

「それならいいんだ。あと、これは一応オシオキだけど……無理はしなくていいからな」

「それもわかってるわよ。……でも、ありがと」

 

 密やかに囁くリズのつややかな唇と軽い口づけを交わした後、キリトは体を離した。

 いかなる行為に及んでいても、相手が『転移結晶』と口にした時は直ちに止める。そういった緊急エスケープ手段を取り決めておくことの重要性はキリトも理解しており、現にこうしてしっかりと用意している。

 たとえここが、何をしようと現実の体は傷一つ負わないVR空間だとしても――いや、むしろ体が傷つかないからこそ、望まない行為で相手の心を傷つける事が無いよう、丁寧に気を配るのは当然のことと言えた。

 

「さて、と。リズに脱出の手段が無いことをわからせたところで……レイン」

「はい、ご主人様。こちら、当店おすすめの商品リストでございます」

「ありがとう。さて、どれにするかな……」

 

 うきうきとした笑顔を隠そうともしないレインが、アイテムリストが表示されたコンソールウィンドウを差し出す。

 商品名と金額の他、商品のサムネイル画像と簡単なアイテム説明が並んだごく標準的なリストをざっと眺めながら、キリトは攻め手を脳内で構築していく。

 そんな風に思案を始めて、約10秒後。キリトが初手に選択したのは、リズ自身がかつて開発したアイテム『ジュエルメイカー』――その、最大容量版だった。

 

「――ひっ!?」

 

 聞き慣れたSEと共にジュエルメイカー最大容量版がオブジェクト化され、同時にリズが引きつった悲鳴をあげる。

 ジンジャーエールを思わせる淡い黄金色の薬液をみっちりと充填した、大人の腕でも抱え込めるかどうかという程に太いシリンダー。注入口を真上に向けて調教部屋の床から天井目掛けてまっすぐそびえ立っているその容器は、太さのせいで天板も広く、誰かが妙な形の短い背もたれが付いた椅子だと言い張れば納得してしまいそうな程だ。

 その強烈な太さとバランスを取るかのように、薬液を収めるシリンダー部分も長い。優に1メートルは軽く越すほどだ。その支えとなっているのは、薬液を押し込む為に使用されるピストンハンマー部分。自重でシリンダー部が堕ちていかないのは、おそらくシステム側による補正が働いているためだろう。

 

「とりあえずは、こいつから使ってみるか。カメラの用意を頼むよ、レイン」

「オッケー♪ カメラドローンちゃん、起動!」

 

 コンソールを操作してカメラドローンを起動させたレインが、早速録画を開始する。その事を確認した後、キリトはリズの背後へと回る。そのまま彼女の両膝の裏に手を回すと、股をぐいと左右に割り開くようにしてリズの体を持ち上げた。

 その動きに反応したカメラドローンが、自動で焦点を調整。隠す物なく晒されたリズの秘所を、はっきりと映像データとして記録していく。

 

「なっ、なななななんで撮るのよ、キリト!」

「なんでって……あのサイズのジュエルメイカーを使うのは初めてだから、記念にさ。

 それにほら、あんなすごい量をこれからリズの中に入れるんだから、記録しておかないともったいないだろ?」

「もったいなくない! 絶対にもったいなくない! っていうか、あんな量全部入るわけないでしょ!?」

「そうか? やってみなくちゃわからないだろ。挑戦する前から諦めるなんてリズらしくないぞ」

「諦めるとか諦めないとかの次元じゃ無いわよこれ! 死ぬ! 絶対死んじゃう!!」

 

 唯一自由になる首から上をぶんぶんと振って、リズは必死に抵抗する。端から見るとリズの意思を無視して強制的に拷問へかけようとしているかのような光景だが、もし本当にリズが嫌がっているのであれば出てくるはずのワードは一向に出てこない。また、ある程度自由に動かせる手首から先を使ってコンソールを操作すれば一瞬でここからログアウトできるのだが、なぜかそうする素振りは一切見受けられない。

 つまりは――そういう事なのだ。

 

「ほら、リズ。力抜かないとちょっときついぞ」

 

 何でも無いように囁きながら、キリトはシリンダーの端部分から伸びている注入口の真上にリズの体を持って行く。

 両脚はカメラに向けて広げさせたまま、慎重に位置を調整。注入口の先端とリズのアナルの位置がちょうど重なったところで、リズの体を少しだけ下ろす。

 

「ちょっ待っ心の準備が――――んんんうっぅ!!」

 

 ずぷり、という手応えと共に、注入口がリズのアナル内に消える。

 キリトの両腕に脚を支えられたまま、天井と平行になったシリンダーの先端部分に軽く腰を下ろす格好になったまま、リズは突然の肛門侵略に身もだえる。

 

「んぉ、あ゛っ……♥ ふひゅぃ……。

 あ……あっ、あんた、ねぇ……。んっ、女の子に、いきなりなんてこ……ああああダメダメダメまだ離さないで! やだ! お願いだからぁ!!」

 

 今のリズの体、そして体重を支える要――つまりは両膝の裏に回されたキリトの腕の力が緩むのを感じ取った瞬間、リズは思わず叫びだしていた。

 仮に今ここでキリトが両手を離せば、リズの体重は全て真下にあるシリンダーを直撃する。そうなったとき、内部に充填されたジュエルメイカーの薬液がどうなるかは――想像するに難くない。

 

「わかったよ、リズ。ゆっくりやろうな」

「ええ、そうよ! ゆっくり、ゆっくりだからね!」

「――しかし、こうして近くで見るとよくわかるけど……リズの肌ってキレイだよな。手触りもすべすべだし」

「そ、そう? ありがと、キリト。……でもなんで急に?」

「手触りもすべすべだし」

「ね、ねえ! 何で今二回言ったのよ!? ねえ!?」

 

 何かを察したリズの叫びが調教部屋の中に木霊する。

 しかし、時既に遅し。その叫びが終わるよりコンマ数秒早く、キリトの両手がリズの膝裏からうっかり外れた。それと同時に、リズの両腕を拘束していた天井の鎖がなぜか緩む。

 仕方ない。誰でもミスはするし、どんなアイテムにも不具合はある。それが偶然重なったというだけなのだ。キリトがわざと手を離したように見えたのも、レインがコンソールに向かって何か不自然な操作をしていたように見えたのも、きっと目の錯覚だろう。

 たとえその偶然の重なり合いの結果、リズの体、そしてその自重がシリンダー部を直撃したとしても――それはきっと不幸な事故なのだ。

 

「ひ――――んあ゛おぉおああぉおほおふぃいいいひいいっっぃいいいい♥♥♥」

 

 すとんと真下に堕ちたリズの臀部は、両足を下ろす余裕も無いまま、まるで椅子に座るときのようにシリンダーの平たい面に乗る。必然、その体重は全てシリンダー部にかかる。

 もとより軽く力を込めるだけで沈むシリンダーと、その内部に限界まで詰められた大量の薬液、そしてそれらを支える不動のピストン部。そこに真上からリズの重みが加わった結果、シリンダーは沈み、ピストン部は動かず、薬液は圧迫され――結果、唯一の出口である注入口から噴出する事になる。

 つまりリズは今、半ば自分自身の手で、ジュエルメイカーの薬液を自らの体内に注ぎ込んでいるような状態に陥っていた。

 

「お、お゛ぅ゛っ♥ お゛ぢり゛、おぢりぃいぃ灼げる゛うぅううふゅ゛ううう゛う゛う゛うぅ♥♥

 い゛っ、いひい゛ぃぃいぃい♥ ごわれっ、ごわ゛れ゛りゅ゛ううぅぅうぅぅぅ♥♥」

 

 人間一人分の重みに圧迫されて間欠泉の如く噴き出す薬液が、リズの体内に容赦なく叩きつけられる。こういった、過激を通り越してもはや危険とでも言うべきプレイをしても何の問題も起きないのはVR空間のいいところだ。

 

「うわー、リズっちすっごい。どんどん入ってくよー。全部で何十リットルあるのかな、これ」

「ちゃんと録画出来てるか、レイン?」

「ばっちりだよ。キリトくんこそ、今度こそリズっちの体、支えてあげてね?」

「ああ。後ろに倒れたりしたら危ないからな」

 

 端から見ているレインとのんびりと会話しているキリトが背を支えている合間にも、シリンダーはリズと共にどんどんと沈み、それに正比例する速度と勢いで薬液がリズの体内へ消えていく。そろそろ人体の限界を越える程の量が注ぎ込まれようとしているが、VR空間なので何の問題も無い。

 また、VRアバターは基本的に人体の臓器や器官までは再現しないため、薬液を注ぎ込みすぎて内臓が破裂したりすることもない。

 ただそれは同時に、物理的な容量限界が存在しないという事も意味している。つまり、注がれた物の量と重さは内部パラメータを書き換え続けながら延々と記録されていき、同時に肉体の持ち主はその感触を際限無くフィードバックされ続ける。

 

「お゛っお゛っお゛ぅっ゛♥♥ おひぃ゛っ♥ 止ま゛って、どま゛っ゛でぇえぇえひいいひひいぃいいい♥♥」

 

 注入された薬液の重量は、そっくりそのままリズ自身の重さに加算される。重さが増えたことで薬液にかかる圧力は増し、圧力が増した事で噴出の勢いも加速し、そしてまた大量の薬液を流し込んで重さを増す。そんなループ構造がリズの肉体を激しく苛み、冒涜的な快楽を味わわせ続けていた。

 その体が倒れないように後ろから抱きかかえて支えるキリトの腕の中で、リズは背中を三日月のように反らせながら、びくりびくりと体を震わせる。口の端からは喘ぎ声と共に唾液が飛び散り、カメラに向かって開かれた股座からは愛液が止めどなく噴き出してはシリンダー部分を濡らしていく。

 

「ん゛お゛っ゛♥ んひっ゛♥ ひ゛ぃ゛いいいぃぃいぃいぃっ♥

 んっお゛ぉおぉおぉ゛おほおお゛おおおほおぉぉぉお♥♥♥」

 

 発情を迎えた動物のように啼き喚くリズ。その体に全ての薬液が収まりきるまで、トータルで10分以上を要した。

 

「お゛ほおぁおぉおおあぁぁぅ……あ゛ぅっ……♥ はひゅっ……♥」

 

 ようやく空になったシリンジは、容器の上端をピストンハンマー部分に密着させたまま静止し、まるで変わったデザインのスツールであるかのようにリズの体を乗せている。

 ぐったりと脱力したリズの体を支えたまま、キリトは彼女の体を持ち上げ、刺さりっぱなしになっていた注入口を引き出した。

 

「よーし、お疲れ。リズ。偉いな、ちゃんと全部入ったじゃないか」

「――おふっ……♥ きっ……きりとの、ばかぁ……♥ はなさないれって、いったのにぃ……」

「悪い悪い。つい、手が滑ってさ」

「ばか……ばーかぁ……♥」

 

 役目を終えたジュエルメイカーの容器が消滅していく傍らで、キリトはリズのアナルへ黒々とした栓をはめ込む。まだ力の入らないリズの体からキリトが手を離せば、ようやく保持力を取り戻した鎖がその体を引き、つま先が僅かに床につく程度の高さでリズを宙づりにした。

 ゆらりゆらりと微かに揺れるリズの体は、大量の薬液を体内に注ぎ込まれているとは信じられない程、少し前までと同じボディラインを保っている。それもそのはず。リズの体内に入っているのは巨大シリンダーに充填されていた薬液そのものではなく、『これだけの量のジュエルメイカー薬液を体内に格納している状態です』というデータなのだから当然だ。

 両腕を真上に上げたサンドバッグのように吊られたリズの体を優しく抱き寄せながら、キリトは彼女の唇に己の唇を重ねた。

 

「んんっ……♥」

 

 最初の行程を無事に終えた女をねぎらう優しい口づけに、リズはほとんど無意識に甘える。もう少ししたら次なる責め苦が襲い来るのだという予感に浸り、そして期待しながら。

 下腹部を圧迫するジュエルメイカーの薬液は、体内で絶えず蠢きながらリズを刺激する。気を抜くとすぐに甘い声が漏れ出てしまいそうになる自分を抑え込みつつ、リズは唇同士のふれあいを堪能する。

 そうして、しばしの口づけの後。名残惜しさを残して離れていく唇の感触に誘われ、リズが閉じていた瞼をゆっくりと上げれば、メニューリストをキリトへ差し出すレインの姿が視界に映った。

 

「お次は何をご所望ですか、ご主人様?」

「そうだな……。頑張ったリズにはご褒美をあげたいし……。よし。じゃあこの可変鞭(マルチウィップ)を頼むよ」

「はい、可変鞭ですね。かしこまりました」

 

 頷いたレインがコンソールを操作すると、キリトの手の中に一振りの黒い鞭がオブジェクト化される。平べったくなった先端部分に、よくしなる軸とグリップ部で構成されたその鞭は、いわゆる乗馬用鞭に非常に近い構造をしていた。

 その可変鞭を二、三度軽く振って感触を確かめたあと、キリトは先端部分をリズの頬へ押し当てながら、ぺちぺちと音を立ててなで回す。

 

「頑張った女の子にあげるご褒美が鞭って、ちょーっとひどいんじゃない? キリト」

「普通はそうだろうな。でも、リズはこういうの嫌いじゃないだろ?」

「……ん。まあ、ね」

 

 嘯きながら、キリトは鞭の先端をゆっくりと下へスライドさせていく。

 首筋に触れ、鎖骨をなぞり、たっぷりとボリュームのあるバストを撫でて屹立した乳首を突く。肌の上を撫でる固い鞭の感触に熱い吐息を溢しながら、リズは首を縦に振った。

 

「まったく……キリトのせいであたし、お尻に変な物入れられたり、鞭で叩かれて喜ぶよう変態になっちゃったじゃない。

 ……あんたのとこ以外に嫁にいけない体にしてくれちゃった責任、きっちり取んなさいよね?」

「言われなくても、俺以外の誰にもやる気は無いよ。リズ」

 

 リズの肌の上を滑り落ちる鞭の先端が、彼女の下腹部に触れる。いずれキリトの子を孕む場所、その直上を鞭の先で撫で回されながら、リズはいつものように勝ち気な、そしてなんとも嬉しげな笑みを浮かべていた。

 その顔をもう一度見つめ、瞳と瞳で視線を交わし合ったあと。キリトはゆっくりとした足取りでリズの背後へと回る。

 

「まずは、ウォーミングアップから行こうか。リズ」

 

 手にした乗馬鞭をゆっくりと振り上げる。その構えが顕すのは、《SAO》時代から付き合いのある単発袈裟斬りソードスキル・スラント。

 モーションを認識したシステムが、乗馬鞭に発光エフェクトをまとわせた瞬間――リズのきれいな背中目掛けて、キリトは乗馬鞭を振り下ろした。

 

「――くぅぅっ!!」

 

 斜め上方から振り抜かれる鋭い一撃が、リズの背を直撃する。

 平たく加工された先端部が肌に触れた瞬間、ぱあんっという破裂音を奏でて打擲されるリズを昂ぶらせる。同時に、体内に伝わる振動がは先にどっぷりと詰め込まれたジュエルメイカーの薬液、そして硬化しつつあるジュエルボールにも伝わり、不規則な蠕動となってリズを体内から嬲る。

 

「ふむ。毎度毎度思うけど、やっぱり剣とはちょっとばかり勝手が違うな……」

「そ、そうなの……ところでキリト。まさか、一発で息切――ひぅっ!!」

 

 リズの言葉が終わるのを待たず、キリトは二撃目を見舞う。横一閃を描くソードスキル・ホリゾンタルを叩きつけ、容赦なくリズの背を嬲る。

 鞭が奔った部分にダメージエフェクトが適用され、赤い光が傷跡のように描かれる中、リズは鋭い一閃の感触と衝撃に悶える。まるで引き絞られた弓のように大きく反られたリズの背に、キリトは続けざまに鞭を叩きつける。

 

「んんっ! くゅぅっ!! あっ……♥ はあんっ♥」

 

 打擲の一撃が奔る度、普段のリズの様子からは想像できない程に甘い鳴き声がこぼれ落ちる。ダメージエフェクトの赤い光は次々に増えていき、リズの背中はあっという間に傷跡で染まっていく。

 《SAO》時代から鍛えたソードスキルを存分に活用して鞭を振るうキリトに、手心を加えているような様子は微塵も無い。単発ソードスキルはもちろん、二連撃、三連撃と、様々な技を容赦なく叩き込んでいく。

 

「きり、っとぉ♥ んっ! もっと、もっとぉ! いっぱい、叩いて、んぐっ♥ いっぱい、教えこんでぇっ♥

 キリトの剣のぉっ゛! 振りかた、使い方――あたしに、全部ぅうぅっ♥♥」

「ああ。ちゃんと体中で覚えて……またいい剣を造ってくれよ。リズ。

 そぉら、もう一発だ!」

「くひぃいぃいっ!!」

 

 一際強烈な一撃に、リズもまた一際大きな悲鳴をあげる。

 こういう関係を結ぶようになって以降、新たな剣を鍛つ前、キリトとリズの間で行われるようになった密やかな儀式。振るわれる鞭の一撃を通して、キリトの剣閃の速度、威力、最も勢いが生まれる瞬間――その全てをリズの体に直接教え込む。

 たとえばこれがアスナやユウキ、リーファやアリスあたりだったなら、キリトと直接斬り結んで掴む事が出来るだろう。だが、リズがそうするには戦闘系スキルが不足している。職人系ビルドなのだから当然だ。

 故にリズは、使い手の癖を理解しその力を最大限引き出す一振りを造るため、自らの体にキリトの全てを直接刻み込む苦行へ挑み続ける――というのを口実にして、少しばかりハードなSMプレイにハマっていた。わざとキリトの不興を買うために一服盛ったりするのもそのためだ。

 

「ほら、リズ。次はどこを叩かれたいのか、レインの目を見ながら言ってみろよ」

「おっ、お尻ぃ♥ おしり、思いっきりオシオキしてよぉ♥ キリトぉ♥」

「よしよし、わかったわかった」

 

 キリトはコンソールを操作し、リズを吊るチェーンの長さを伸ばす。手首の位置がゆっくりと下がっていくのに合わせて、リズは体を前に倒しながら尻を突き出す。

 じくじくと熱い滴を垂れ流す女性器と、黒い栓が突き刺さった尻穴を晒しながら、リズは期待満面の笑み浮かべたままふりふりと尻を振る。その挑発的な仕草に、知らず知らずのうちにサディスティックな表情をさせられながら、キリトは乗馬鞭を振り下ろした。

 

「――くうぅっ♥! ぴゅひぃっ♥」

「相変わらず叩きやすいな、リズのデカ尻は!」

「ひぅっ♥ んんんぅぅぅ♥ びしって、びしってくるの好きぃいいっ♥」

 

 打撃のリズムが一辺倒にならないよう緩急を付けながら、キリトはリズの臀部へ乗馬鞭を叩きつけていく。

 人体の構造上、背中より遙かに脂肪分が多く柔らかい臀部は、鞭の一撃を余すところなく受け止める度にぶるりぶるりとダイナミックに震える。その感覚が被虐者であるリズを興奮させ、その手応えが嗜虐者であるキリトを昂ぶらせる。

 本来、打撃を伴うSMプレイにおいて、こういった肉付きの良い部位以外を狙うのは危険な行為とされる。だが、それに従わなくても安全が担保されるのが仮想空間の便利なところだ。

 

「……ね、ねえ。キリトくん」

「ん? どうした、レイン?」

 

 おずおずと声をかけてきたレインに、キリトは鞭を振るう手を止めて視線を向ける。

 胸元に手をぎゅっと寄せ、視線をあちこちに彷徨わせる落ち着きの無さを披露したあと、レインは改めて口を開いた。

 

「えっと……キリトくんは、リズっちが変なお薬を飲ませたから、その罰としてこういう事をしてるんだよね?」

「ああ。確かに、そういう面もあるな」

 

 乗馬鞭の先端でリズの尻肉をぺちぺちと撫でながら、キリトは頷く。

 

「その……私、思ったんだけどね。

 お店のスタッフがしたことの責任は、店長も取るべきっていうか……リズっちばっかりに責任負わせるのもよくないっていうか……ね?」

 

 ハムスターの鳴き声のようにか細い声に、躊躇いと羞恥を含んだ上目遣いを添えて、レインがどうにかこうにか言葉を口にする。彼女が何をどうしたいのかは、さすがのキリトでも理解できる――が、同時に妙な悪戯心も湧く。

 はあはあと吐息を漏らすリズの口元に手を伸ばし、舌先を二本の指で弄びながら数秒ほど思考を巡らせたあと。結局、キリトが選んだのはひねくれた回答だった。

 

「悪いな、レイン。何が言いたいのかよくわからないからさ、もっとはっきり言ってくれないか? レインが何をしたいのかをさ」

「うぅ……わかってるくせに。今日のキリトくん、いつもよりいじわるだよぉ……」

「イヤなら無理しなくていいんだぞ。これはフリとかじゃなくて、本当に」

「大丈夫、言う、ちゃんと言うから…………よし。

 わっ、私も……リズっちみたいに、キリトくんにオシオキしてもらいたいです……♥」

「……そこまで言うなら、仕方ないな。リズみたいにたっぷり可愛がってやるよ、レイン」

 

 熟れたリンゴの様に頬を真っ赤に染めて嘆願するレインに、キリトは満足げな頷きを返す。そのまま視線を下に向ければ、現在オシオキ真っ最中のもう一人の鍛冶師と目が合った。

 

「ふぅっ、ふう……なによぉ、キリト。あたしは放置プレイってわけ?」

「ご明察。ちょっとレインと遊んでくるから――」

 

 そう言って、キリトは唾液にまみれた指をリズの頬で拭う。そうして指先を綺麗にしたあと、リズの尻穴を塞いでいた栓を何の前触れも無く引き抜いた。

 

「ひゅぃぅっ!?」

「俺が戻ってくるまでちゃんと我慢してるんだぞ、リズ。できなかったら、ご褒美抜きだからな」

「おっ、ほおっ♥ ぐうっ、ら、楽勝よ、こんなの……! ひゅぅひぃっ♥」

 

 体内に詰め込まれたジュエルメイカーを押しとどめる栓を失ったリズは、括約筋に必死に力を込めて肛門を締める。既に球体(ジュエル)化を終えた薬液を体外へ排出しようとする本能に抗うリズは、玉のような汗を浮き上がらせながら被虐の悦楽に溺れる。

 そんなリズの横を通り過ぎたキリトは、コンソールウィンドウを操作して二人掛けのソファを呼び出すと、レイン共々ソファに腰を下ろした。ちょうど、リズとは正面から向かい合う位置だ。

 

「おいで、レイン」

「うんっ」

 

 黒い下着姿でソファに座るレインを、キリトはそっと抱き寄せる。端から見れば華奢だが、こうして抱きしめてみるとレインの体は適度に肉感的であることがわかる。

 彼女の後頭部に回した手で、キリトがつややかな紅い髪を優しく梳いていると、レインがそっと耳元に唇を寄せる。

 

「その……リズっちみたいに、叩いてくれないの?」

「いやいや、いきなりそこから始めたらただの暴力だろ。

 特にレインは、ああいうことするの初めてなわけだし……できるだけ気持ちよくなってもらえるよう、ゆっくり慣らしていくからな」

「優しいんだね、キリトくん。ぜひ、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

 

 柔らかなレインの体を抱きしめたまま、キリトはコンソールウィンドウを操作し、彼女の下着を装備解除する。一瞬で生まれたままの姿となったレインが気恥ずかしそうに身を預けてくる中、キリトは彼女の体を強く抱きしめた。

 互いの温もりと心臓の鼓動を伝え合いながら抱擁を続け、レインの体のこわばりを少しずつ解いていく。

 

「えへへ……なんだか、変な感じ……。

 これからキリトくんに苛められちゃうのに……ぎゅってしてもらうと、安心してきちゃう……♥」

「安心させたくてやってるんだよ。レイン、ちょっと緊張してるみたいだったからさ」

「誰だって緊張するよ、こんな状況……でも、キリトくんにぎゅってされるのは好き」

「じゃあ、キスされるのは?」

「もちろん、もっと好きだよ」

 

 そう言って微笑むレインの唇を、キリトの唇が奪う。

 ほんの少しだけ、ミルクの後味が残る口内にするりと滑り込んだ舌先を、レインは優しく迎え入れる。愛情を確かめ合うように、ゆったりとしたテンポで舌と舌を絡め合う。その間にも器用に動き回るキリトの手が、レインの体を揉みほぐしていく。

 

「んっ……♥」

 

 体同士を密着させたまま続けられる、たっぷりと時間をかけた永いキスの最中。唾液が絡み合う水音と共に、僅かに空いた隙間からレインの切なげな声が漏れた。

 それを合図にして、どちらからともなくキスを終えれば、互いの間に唾液の細い橋がかかり、そして見る間にぷつりぷつりと千切れていく。

 

「――それじゃあ、始めるぞ。レイン。俺も気をつけるけど……無理だとか、イヤだと思ったら、いつでも止めていいからな」

「うん……♥」

 

 こくりと頷いたレインは、キリトに促されるままソファの座面に両膝をつけ、背もたれ部分に両腕を乗せて体を安定させる。ちょうど、体の正面と背もたれの正面部分が向かい合うような体勢だ。

 膝関節を開いて太ももを伸ばすようにしながら、レインが尻の位置を上げる。準備の良いメイドの頭を軽く撫でたあと、キリトはその手をレインの臀部へと持って行く。

 手触りの良い尻をしばしの間なで回し、レインをたっぷりと焦らす。そうして、彼女の感覚を下半身に集中させたタイミングで、キリトは平手に広げた手を上げ――勢いよく振り下ろした。

 

「ひゃうっ!!」

 

 キリトの手がレインの尻に叩きつけられ、小気味いい打撃音を上げると同時に、レインの口から悲鳴がこぼれ落ちる。彼女の白い臀部の上には真っ赤な手の痕が刻み込まれ、レインが打擲された事をはっきりと主張していた。

 その光景を満足げに見下ろしながら、キリトは今し方レインを打ったばかりの手で、レインの背中をあやすように摩る。

 

「どうだ、レイン。初めて叩かれた気分は」

「なんだか、不思議……。叩かれた感触はあるし、すごくびっくりしたのに、でも全然痛くなくて……」

「さて、なんでだと思う?」

「……あっ! もしかして、ペイン・アブゾーバー?」

「大正解だよ、レイン」

 

 フルダイブ型VRMMOにおける身体感覚キャンセル機能の中でも代表的なのが、この『ペイン・アブゾーバー』と呼ばれる痛覚緩和機能だ。その名の通り、フルダイブ中に人体に与えられる痛みを無効化する機能であり、大抵のVRMMOはこれが無くては成り立たない。

 全身麻酔に近い働きをすることから医療分野でも活用されているこの機能は、形式上『どこまで痛みを再現するか』という段階的な制御システムが組み込まれてはいるが、最低レベルである『一切の痛みを再現しない』という状態から動かされる事は基本的に無い。

 キリトのプライベートVR空間においても、それは同様だ。

 

「すっかり忘れてたよ、ペイン・アブゾーバーがあるってこと。

 ……でも、こういうことしてる時まで痛みがキャンセルされちゃうなんて、なんだかちょっと面白いね」

「確かにな。でも、痛いって感じなくて済む分――」

 

 キリトは不意に手を振り上げ、再び掌をレインのヒップへと振り下ろす。

 すぱぁんっ、と甲高く響く打撃音がレインの耳に届くより早く、重く強い一撃の感触が彼女の神経を揺さぶる。

 

「ひゃひっ!!」

「俺も遠慮しなくて済むし、『叩かれて苛められてる』ってのが鮮明に伝わるだろ? こんな風にさ!」

「くひぃっ! まっ、また来たあっ! ひあんっ♥」

 

 往復ビンタの要領で、キリトは掌をレインの尻へ何度となく叩きつける。

 《SAO》時代から鍛えた体術スキルを応用したその掌は、最大効率で以てレインの尻肉を嬲り、赤い手型を刻み込んでいく。

 こうした手を使った苦痛調教は、一般的に『スパンキング』と呼ばれる。手のひらを使うことで強弱を調整しやすく、道具を使うのと比べて危険性が少ないというメリットがある。現に、キリトも一打一打、強弱と打撃場所を変えながらレインを責め立てていた。

 

「んっ♥ はあっ、はあんっ♥ キリトくんの手、んぅっ、きもちいい、かも……♥」

「レインの体も、手触りがよくてすごく気持ちいいよ。おかげで、叩くのに気合いが入る」

「ひあんっ♥ もー、キリトくん、んんっ、ったらぁ♥ はぅっ! ひいうぅぅっ!!」

 

 キリトは叩く手を時折止めては、レインの頬を撫で、唇を交わし、体に優しく触れる。もとより苦痛を与えるのが目的ではないし、レインはこういったプレイは初めてに近い。今もそこで必死に耐えているリズのように、間断なく責め立てられる事を喜ぶほどの域には達していないだろう。

 嗜虐行為と愛情行為、その二つをゆったりとしたテンポで切り替え、苦痛と快楽を交互に与えながら、キリトはレインの体に被虐の喜びをじっくりと教え込んでいく。その過程が進む度、共に手のひらから打撃音が響き渡り、調教部屋内にリズムが生まれていく。

 

「ほら、見てみろよレイン。レインのお尻、もうすっかり真っ赤になってるぞ」

 

 赤い手型で埋め尽くされたレインの尻をスクリーンショットに収めたキリトは、その画像を小型ウィンドウに移し、レインの眼前へと差し出した。

 

「うっわあ……ほんとに、全部真っ赤になってる……。どうりで、お尻全部がじんじんすると思ったよ……♥」

「初めてでここまで耐えられるヤツ、なかなかいないぞ」

「本当? そう言ってもらえると……ちょっと嬉しいかも」

 

 照れ笑うレインの尻を、キリトは手のひらで優しくなで回す。幾度となく叩かれた事で刺激を伝達しやすくなった尻肉への愛撫に、レインはまるで発情期を迎えた猫のように甘く身をくねらせる。

 そんなレインの痴態を記憶に焼き付けつつ、キリトは空いている手でコンソールを操作し、乗馬鞭の形態を変化させる。

 

「思った以上にレインの成長が早いから、次はこれを使ってみようと思うんだけど……どうかな、レイン」

「これって……?」

「『九尾鞭』っていうらしい。さっきの乗馬鞭と違って、こういう遊びのためだけに造られたものなんだってさ」

「そうなんだ……こんなので叩かれたら、どうなっちゃうんだろ……」

 

 グリップより先の部分に、細く平べったい形状をした短い鞭が複数ついた九尾鞭を見ながら、レインが興味深げに頷く。乗馬鞭ほど威力が集中しない代わりに、広い範囲を一度に叩くことが出来るこの九尾鞭は、調教の定番アイテムの一つだ。

 柳の枝のように連なりしなる鞭部分を、レインの背の上に滑らせてからかいながら、キリトはこれから行われる調教を想像させて焦らす。

 熱い吐息と共に、まだか、まだかと瞳でねだるレインの興奮が高まり、そしてほんの少しだけ落ち着いた正にその瞬間――キリトは九尾鞭を振り上げ、レインの尻肉目掛けてほぼ垂直角度で振り下ろす。その鋭いモーションが再現するのは、縦切り型ソードスキル『バーチカル』――の、強化版である二(・)連(・)撃(・)ソードスキル『バーチカル・アーク』。

 

「――っっっっああああっ!!」

 

 V字を描くソードスキルの軌跡に乗って、九尾の鞭がレインの尻を打つ。初撃の振り下ろしが右の尻肉を穿ち、その衝撃がレインに伝わるか伝わらないかという僅かな間隙を縫って放たれる二撃目の振り上げが、レインの左の尻肉を下方から打った。

 

「かはっ……はあっ、あ゛ぁっ……! ……っくぅ……!!」

 

 ほんの一呼吸分の間に叩き込まれた二連撃に、さしものレインも余裕を失い、荒い呼吸を繰り返しながらなんとか正気を保とうとする。

 つい先ほどまで行われていたスパンキングで刺激に対する防御を弱められたヒップに、容赦なく叩きつけられる九尾鞭の連撃。受け手の気が緩んだ一瞬を狙って的確に振るわれたその連閃は、レインの体を揺さぶるばかりにとどまらず、その心にすら響き、未知なる被虐の快感を以て陵辱する。

 こうした鞭による攻撃は、大抵の場合、一閃の速度と威力が正比例する。疾い一撃とは即ち重く強力な一撃なのだ。そして、この手法や思想が通用するのは鞭だけに留まらず、剣の道にも相通ずる。

 つまり、《SAO》時代からトッププレイヤーの座を駆け抜け続け、アンダーワールドで本格的に剣の腕を磨いたキリトが振るう鞭の速度は、その剣閃同様に速く、重い。

 

「これ、かなり効くだろ。レイン」

「……うっ、うん……効いたよ……。頭、おかしくなりそう……♥」

 

 震えた声で返答するレインの腰はがくがくと揺れ、背もたれに体ごと抱きつくようにしてどうにか保たれている姿勢は今にも崩れ落ちそうだ。一方、その弱々しい態度とは対照的に、紅潮した頬と共に覗く官能の笑みを見て、嗜虐心を搔き立てられない雄が一体どこにいようか。

 

「じゃあ、次は連続でいこうか」

 

 そう言うが早いか、キリトは再び九尾鞭を振るう。ひゅっという風切り音と共に、九本の鞭それぞれにソードスキルの光が宿り、そのままレインの背面を直撃する。

 

「あ゛あぁっぁぁぁっ!! んんぅうぅうっ! これ、ぅぅううっ、すごぉおいひいぃっ!!」

 

 九本の鞭は扇のように広がりながら、ほとんど同じタイミングで、なおかつそれぞれ僅かなタイムラグを挟みながら広範囲に着弾する。その威力と衝撃は、絞りの効いたショットガンの直撃を受けるにも等しい。

 短い鞭がしなることによって生まれる遠心力の働きによって、振り抜きの威力は更に高められ、レインの体を物理的に苛む。

 

「あひいぃぃ゛っ! くうふぅううぅっ!! いたくないのに、いたぃ、痛いよぉお! なんで、なんでええぇぇ♥」

「痛いだけなら、止めようか? レイン」

「はあっ、はあ……やだ、やだあっ! もっと、もっと、くひぃいっ♥ もっとしてくれなきゃ、やだよぉっ♥」

 

 すぱんっ、すぱんっ、と激しい音を立てる九尾鞭に打たれながら、レインはさらなる打擲を哀願する。

 不規則なリズムで与えられる衝撃はレインの体中を揺さぶりながら、奇妙な酩酊感をもたらし、レインが元々秘めていたマゾヒスティックな資質を開花させていく。

 

「なんでぇっ、んひいぃ♥ いやっ、いやあっ♥ なんでえっ、こんなにぃぃっ、きもちいぃいのおっ♥」

 

 鞭で打擲される度、レインの体を駆け巡る痛覚信号。それ自体はペイン・アブゾーバーによってキャンセルされるが、痛覚信号を感知した肉体は痛みを緩和すべく本能的に快楽物質を生成して分泌する。

 本来であれば生成された脳内物質は痛みと中和・希釈されるが、今ここにレインを苛む痛みは存在しない。故にレインの中枢神経は、一撃を浴びる度に生じる快楽物質のほぼ100%を快感として変換する。

 そうした大量の情報がレインの脳へ伝達された結果、レインの意識は快楽の奔流の中に溺れ堕ちゆこうとしていた。

 

「ふむ。やっぱり、レインは素質があるな……。なら、このあたりはどうだっ!」

「ひゃひぃぃんっ♥」

 

 続けざまに叩き込まれる九尾鞭のラッシュ。その一打一打が柔肌に食い込む度、レインは甘やかな悲鳴を上げて身を撓らせる。

 たとえばそれは、むっちりとした太もも。

 

「んんっ、ふうっ♥」

 

 雪原のように白く美しい背中。

 

「あっ……くうぅうぅうっ♥」

 

 赤い手型が刻まれた尻肉。

 

「いぅっ――つっぃいぃいいいっ!!」

 

 レインの体の後ろ側全てを塗りつぶそうとするかのように、次々に九尾鞭が振るわれる。

 本来であれば痛みと共に徐々に覚えていくはずの快感、それを一足飛びに覚え込まされていくレインは、官能に噎び泣きながら無意識にキリトを誘惑する。

 

「レイン。もうちょっと、脚を広げてくれ」

「う、うん……」

 

 促されるまま、レインは膝と膝の間隔を開ける。

 必然的に露わとなる、乙女の秘所。ぷっくりとした媚肉をキリトが指先で割り開けば、既に欲情の滴を溢していた蜜壺の奥から、とろりとろりと愛の蜜が新たに溢れ出してくる。

 

「こっ、ここも打たれちゃうの……? ここもキリトくんのおもちゃに、んん、されちゃう、の……?」

「さて、どうしようかな」

 

 わざと答えをはぐらかしながら、キリトは九尾鞭のグリップ底部でレインの媚肉をなぞる。

 

「えらいな、レインは。軽く打っただけで……もう、こんなにドロドロだ」

「ひゃぅう……みないで、キリトくん……♥」

「おいおい、見てるのは俺だけじゃないぞ。リズだって見てるし、実はさっきからカメラドローンで録画もしてる。

 だから、あとでたっぷり見てもらおうな、レイン。みんなや……特に、セブンにはじっくりとさ」

 

 レインの羞恥心を高まらせながら、キリトは再び九尾鞭を振るう。

 精神的な刺激と肉体的な刺激を同時に与えることを企図したその振る舞いは、確かな効果を持ってレインへ作用した。

 

「ひぐぅっ! みな、みないでぇっ!? いやっ、セブン、みちゃだめえええっ! ――んに゛いぃいぃっ!」

 

 痴態を他人に、そして血の繋がった実の妹の目に晒される未来を想像して怯えるレイン。ただその体を侵す興奮は、それまで以上に熱く激しい物と化している。

 

「よく言うよ。セブンに見られることを想像して、興奮してるくせにっ!」

「してないっ、してな゛いぃい゛っ♥ んん゛んっ♥ ひいぃいいんっっ!!」

「ならどうして、ここがこんなに濡れてるんだっ! 自分が変態だって妹に知ってもらいたいんだろ!」

「ちがう、違うのぉおっ! ふひぃいぃっ! ひいいぃいいっっ!!」

 

 鞭の痛みと、妹の冷たい視線という被虐の二重奏を味わうレインに九尾鞭を叩き込みながら、キリトは一瞬だけ視線をリズの方へと向ける。

 一人だけ鞭打たれるレインへの嫉妬。次に待つお仕置きへの期待。我慢する苦痛。我慢させられる快感。放置プレイを極められながら必死に排泄欲求と戦うリズの顔には、それらが渾然一体となって浮かんでいる。

 そろそろいい頃合いだろう――そう判断したキリトは、おまけの追撃を何度か叩き込んだあと、九尾鞭を振るう手をおもむろに止めた。

 

「ふぃぐひぃいっ♥ ……はあ、はあっ……キリト、くん?」

「すごいな、レイン。初めてなのにここまでついてこれるなんて、俺が思ってた以上に優秀だよ」

「ふぅっ、ふうぅっ……えへ、そうなの、かな……。

 だとしたら、たぶん……キリトくんが気持ちよくしてくれたおかげだよ……♥」

 

 レインの長い髪をかきあげながら、キリトは彼女の頬にそっと口づけを落とす。

 荒く乱れていたレインの呼吸が整うまでの間、優しいボディタッチと共にゆったりとした時間を過ごす。これがあくまで、愛情に基づいた行為であることを伝えるために。

 もちろん、もうひとりの鍛冶師にも同様に。

 

「ちゃんと言いつけ通り我慢できてるな。さすがリズだ」

「い、言ったでしょ、これぐらい楽勝だって……」

 

 レインが落ち着くのを確認したあと、キリトはリズの方へ近寄り、ピンク色をした彼女の頭を撫でる。

 

「もうちょっと、我慢できるか?」

「もっちろん」

 

 強気に微笑むリズの項に、額に、首筋に、頬に、そしてもちろん唇に――彼女に課した苛烈な責めの分、たくさんの口づけを贈りながら、キリトは彼女をじっくりと労る。

 

「リズが頑張ってくれたから、レインもこっち方面に興味を持ってくれたんだ。誇っていいんだぞ、リズ」

「誇ってどうすんのよ、こんなの……まあでも、褒められるのは……いいかも」

 

 どうにか顔を上げたリズと、姿勢を崩して振り返ったレインの視線がキリトの姿を捉える。主人から与えられるお褒めの言葉は、『飴と鞭』という言葉を引くまでも無く、排出欲求に耐え続け、そして鞭打ちに耐え続けてきた二人の心に甘く染み渡る。

 そして同時に、リズとレインは直感的に理解した。労りを顕す優しい左手を以て二人の頭を交互に撫でるキリトの目には、未だ獰猛な嗜虐の光が宿っていることを。

 

「だからさ。次のオシオキは、今まで使ったことの無いヤツを試してみようと思うんだ。

 ……たとえば、こいつとかさ」

 

 妖しく誘うキリトの右手の中で、九尾鞭の形状が変化していく。

 九本の鞭が拗くれながら寄り集まり、一筋の細長い鞭へと収束していく。竜の鱗めいた独特の装飾パターンを描きながらしゅるしゅると伸びていく鞭は、やがて片手用直剣の刀身の倍を越えない程度の長さまで成長すると、そこでようやく延伸を止めた。

 まるで最初から一振りであったかのように継ぎ目もねじれもないその黒い鞭の先端はわずかに膨らんでおり、それが人を効率的に打擲するためのアイテムであることを如実に示していた。

 

「ま、まあ……あたしたち、一応、今はあんたのメイドなわけだし……ね、レイン?」

「そうだね。ご主人様(キリトくん)がしたいっていうなら……」

 

 優秀な鍛冶師にして極上のメイドである二人は、おずおずと控え目に応じつつも、決定的な意思表示となる言葉だけは口にしない。

 だが、答えとしてはそれで十分だった。緊急エスケープ用の合い言葉を使わない時点で、彼女らは自らの運命を決定付けたも同然なのだから。

 

 しなやかな一本鞭のグリップ部を握ったキリトは、そのまま鞭を振り上げ、先端を床へと叩きつける。

 大気を裂くような鋭い風切り音を前座に従えて響くのは、素手や乗馬鞭、九尾鞭とは比べものにならぬほど重く、そして収束された破裂音。

 支配者の証たるその音こそが、何よりも雄弁なキリトの答えであり――びくりと震えた体とは対照的に、決してキリトから視線を外さない期待と興奮に蕩けた瞳こそが、自ら奉仕者の地位に身を置いた乙女達の答えだった。

 


 





06-3.BLADE ARTS Ⅲ へ続く。
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