1942年、冬のベルツィレ基地でのこと。
この日は基地付近にネウロイの群れが出没しており、二人のエースを筆頭に、ラケルも出撃に駆り出されていた。
「…すごい、二人とも…」
目の前で繰り広げられる戦いぶり。上下左右、360°全てを見通しているかのようにどこからの攻撃にも対応してみせるダイヤのエース。それに続くもう一人のエースは正確無比な狙いで次々とネウロイを片付けていく。
「……私も、負けてられない!」
目に付いた小型から攻撃を始める。人よりも大きいサイズだがコアのない個体だ。耐久性はほぼ皆無で、数発弾丸を撃ち込んだだけであっさりと砕け散ってしまった。だがまだ数は多く、油断できる状況ではない。すぐに別のネウロイが飛び込んでくる。
「わっ!」
ビームをシールドで弾くが、構わずに突っ込んできたネウロイを宙返りでなんとか避ける。そのまま逆さまになりながら、お返しとばかりに射撃を浴びせてやれば運が良かったのか、その場に居たもう一機の小型に流れ弾が命中して両方とも撃墜することができた。
「好調だな」
そこへ寄り添ってきた一人のウィッチ。ラウラ・ニッシネンは仏頂面ながらもラケルの活躍に賞賛を贈る。が、彼女は気を緩ませることはせずすぐに体勢を戻して次の目標に狙いを定める。
「ラプラさんは何機ですか?」
「五機だな」
「…私も負けません!」
「その意気だ」
流れてきたビームを同じタイミングで飛び退いて躱し、戦火の中へ身を投じる二人。スオムスの空を守るウィッチたちの意思は固く、それが功を奏したのか戦いは終始優勢に運んでいた。
だがネウロイの数も減り、終わりが見えてきた頃。残るは中型の一機だけとなっていたが、ウィッチたちの疲労も大きかった。
「…はぁ…はぁ…」
ラケルもそのうちの一人だった。戦闘が始まってからずっと飛び続け、二人のエースに迫る勢いで奮戦していた彼女の限界は近く、冬だと言うのに額に汗を滲ませているほどだった。
「息が上がってるぞ。無理するな」
そこへ再びラプラが寄り添う。明確な疲労が表れているラケルを放っておけなかったのだろう。だが、彼女は首を横に振る。
「っいえ…大丈夫です、私も最後までみんなと一緒に!」
幼いうちから両親を亡くし、24戦隊が家族の代わりだったラケルにとってみんなの役に立つことは大切な意味を持つこと。自分を育ててくれた人たちに、自分の出来ることで恩返しをしたいのだろう。その勇敢な意思が身体を突き動かし、ネウロイへと立ち向かわせる。
「…なら、次で決めるぞ」
「はいっ!」
ラプラが飛び込み、後に続く。集中攻撃によって次々と外板が剥がされていき、やがてコアが姿を現す。あれさえ砕けば戦いは終わると、誰もが確信した瞬間。ほんの少しでも気が緩んだのか、それとも疲弊して気が疎かになっていたのか。最後の足掻きとばかりにネウロイがビームを撒き散らした。
「ラプラさんっ!!」
周囲が真紅の閃光によって彩られる。それは死の光。ラケルを含めた他のウィッチはシールドで防ぐなり避けることができるが、ラプラは肉薄するほどの距離でネウロイに攻撃していたためシールドの展開が間に合わない。
「う、ううぅぅーー………!!間に合えっ…!!」
咄嗟に手を翳し、ラプラに向かって魔法力を込める。
固有魔法の発動。引力によって彼女を引き寄せ、すんでのところでビームを避けさせることができた。
「うあっ!!」
「ラケル…!」
が、そちらにリソースを割いた分、シールドに回す魔法力が少なくなり。身体への直撃は免れたが、弾き飛ばされて推力を失ったラケルは真っ逆さまに地上へと落下していった。
ーーーー
「……う、うう…」
墜落の衝撃で気を失っていたのか、やけに頭が重く感じる。ぼんやりとした視界には夕陽が映っていて、思わずその眩しさに目を細める。だんだん鮮明になっていく世界は逆転していた。
上を見上げると、自分の片足が木に引っかかっている。ストライカーユニットは雪に刺さるように落ちていた。
なんとか自力で抜け出そうにも、もう片方の足は装着されたままのストライカーユニットがつっかえる形で木に引っかかっていてそれなりの力を込めなければ降りられそうにもなかった。こんな時、身体の小さい自分が恨めしい。もう少し身長があれば手を伸ばして手動で取り外すことができるのに、と心の中で嘆いていると雪を割く足音が響く。視界を戻してそちらを見れば、そこには回収用のソリを引いたアウロラが立っていた。
「生きてるか?」
「なんとか…」
満身創痍ながらも気丈な笑顔を見せる。普段の温厚な振る舞いからは想像もできないほどに戦場でのラケルは強かだ。
「ニパより先に落ちるなんてな。ラプラが心配してたぞ」
「えへへ……ちょっと無茶しすぎました」
「ストライカーさえ壊してなければお咎めはないさ。ほら、下ろすぞ」
ラケルとストライカーユニットの回収作業に移るアウロラ。が、身体に触れられた瞬間胸のあたりが激痛に見舞われた。
「あぐ、うぅっ!?」
そして、即座にやってくる息苦しさ。内臓全てを揺さぶられている感覚に呼吸すらままならない。
「どうした?」
「い、いた、いたたっ…!あ、ううう…!!ろ…肋骨、が…」
ラケルは途端に脂汗を浮かばせて悶え苦しみ始める。落下の際、硬い木に衝突して骨が折れたのだろう。今までは戦闘の興奮によるアドレナリンが鎮痛剤の役割を果たしていたが、それが引いた今こうして痛みが押し寄せてきたのだ。
「大丈夫……じゃないな」
「う…はぁ、あぁ…」
「少しの間我慢してくれ。すぐに下ろしてやるからな」
「…ぁ、ああああっ!!い、痛い、痛いっ…!!」
可能な限りそっと下ろしたつもりだったが、それでも振動が肋骨に響くのだろう。いくらウィッチとはいえまだ13の少女が痛みを堪え切れるはずもなく、声を上げて悶えている。
「はーっ…はーっ…」
「よく耐えたな。よし、すぐ連れて帰ってやる。みんな待ってるぞ」
「は、い……ふぅ…ふぅぅ…」
痛みに呻いていたものの、作業が終わるまで泣き出さずにいたラケルを労うように撫でてからすぐにソリを引いて基地へ引き返す。仲間たちの心配を受けながら彼女は医務室へ運び込まれた。
ーーーー
「全治一ヶ月、か。比較的症状は軽いらしい」
軍医に告げられたことをありのまま伝えるアウロラ。ラケルはそれをベッドに横たわったまま聞いている。
「そう、なんですか?」
「ああ。ひどい時だと折れた骨が内臓に突き刺さることもあるからな」
想像しただけで血の気が引いていく。今でさえ少し身体を動かす程度でも痛みが響いて辛い思いをしているというのに、それよりも痛いとなると地獄の苦しみなのだろう。
「ともかく、しばらくは安静にしてるしかないな」
「出撃…も、できませんよね…」
「訓練も禁止だ。二週間もすればまともに動けるようにはなるだろうが、それでも無理に動くのは駄目だぞ」
「…………」
「分かったか?」
「……はい」
皆と共に戦えないのが気がかりなのか、表情に影を落とすラケル。そこへ手を伸ばし、アウロラは笑みを見せる。
「お前はよくやったよ。大活躍だってみんな喜んでた」
「……はい」
「早く治して元気な顔を見せてやろうな」
「…はいっ」
慈しむように頭を撫でられ、目を細めながら身を委ねる。両親を亡くしてまだ数年、傷の残るラケルにとってその暖かさは家族そのものだった。
「また見舞いに来る。軍医さんの言うことは聞くんだぞ」
「わかりました」
部屋を出ていくアウロラの背中を見送り、無機質な天井を眺める。こうして安静にしていると本当に骨が折れているのかと思うくらい痛みはない、が。
「……うぐっ!う、ぅ…はぁ、やっぱり、ダメ…」
起き上がるどころか横を向こうとしただけで鈍い痛みが胸に走る。綺麗に折れているのですぐに骨自体はくっつくと言われたが、それでもすぐには動けないのだろう。考えることは「ブランクが出ないといいな」とか「みんなに迷惑かけてないかな」といった、実にウィッチらしいものばかりだった。
「…………」
ウィッチは魔法力によって身体が活性化されているため、常人に比べて怪我の治りも早い傾向にある。が、こうしてベッドに寝転んでいる時間は実に空虚に思えた。
と、そこへ。
「起きてたか」
「あ、ラプラさん」
医務室のドアを開き、ラプラが小走りでやってくる。珍しく気が急いているのか、ノックをしなかったのもそのせいだろう。彼女はベッドの近くにあった椅子を、すぐ横に寄せて腰掛ける。
「…痛むか?」
「動こうとすると、かなり…」
「……すまん」
「えっ?ど、どうして謝るんですか?」
「私のために魔法力を消耗して…あれさえなければ、墜落もしていなかった」
「そんな、ラプラさんが悪いわけじゃ…」
「いや、私の責任だ。そもそも、お前が落ちる時に私が受け止めてやれれば…」
確かにラプラを引き寄せるために魔法力を消耗し、飛行にまで回す余裕がなくなったのは事実だ。しかしラケルからすれば、元をたどってみると疲労が見えてきた時点で基地に引き返すのを選択しなかった自分のせいだとも言えるし、誰が悪いなどと責めるつもりも毛頭なかった。
だがラプラはそれに強く責任を感じているのか、俯いたまま顔を上げようとしない。彼女の生真面目な性格の表れだ。
「ラプラさんは悪くないです…そこまで自分を責めないでください」
「……そう言ってもらえると気が楽だ。ありがとう」
にこやかに笑いかけると、少しばかり落ち着いた表情を見せるラプラ。普段から表情の変化が乏しい彼女だからか、それだけでも安堵の気持ちは伝わってくる。
「困ったことがあれば言ってくれ。私でよければ手伝う」
「あ…ありがとうございます。頼りにしますね」
ラケルにとって数少ない同世代のウィッチ。それが優しさを見せてくれるのが嬉しく、自然と笑顔がこぼれた。
今でこそこうして気遣い合ったり、共に戦場で肩を並べる仲だがスオムス空軍にラケルが拾われ、ポルターガイスト事件が解決した当初は二人の仲はそれほど深いわけではなかった。アウロラに対して心を開き、他のウィッチとも仲良くなりたいと歩み寄ろうとしていたラケルだが、両親の死に塞ぎ込んでしまっていた負の側面が邪魔をしてなかなかうまくいかずにいた。
『…あ、あのっ……』
『ん?』
『ひゃうっ…!』
とにかく人見知りを無くそうと目に付いた人に話しかけていたラケル。偶然そこへ通りかかったのがラプラ。声をかけられ、振り向いた彼女は———少なくとも幼いラケルにとってそう見えるような———険しい表情をしていて、すぐに萎縮してしまった。
『うぅ…』
『…………』
次の言葉が出せずに、頼りなさげにぬいぐるみを抱える手に力だけが込められるラケル。それを見かねたのか、ラプラはポケットに入っていたコインを放り投げ、目の前で交差させるようにして手に握る。
『どっちだ?』
『…え…』
『右か左。どっちにコインが入ってる?』
『…え、えと…えーと』
その頃からすでにウィッチとしての頭角を表していたのか、彼女は実際にコインを握った方の手を指差す。が、開かれた手は空っぽだった。
『はずれ』
『えっ…!な、なんで…』
もう片方の手を開いてみせるとそこには目当てのコインがある。確かにこの目で見たはずだとラケルは興味津々で訊ねた。
『ちょっとしたトリックだ。お前もできるようになる』
『ほ、ほんと!?すごい、わたしもやってみたい!』
子供らしく単純ながら、それが二人の馴れ初めだった。それからよく、ラケルとラプラは一緒に居てお互いに落ち着く相手なのか、行動を共にすることが多くなった。そのうちに自然と人見知りも緩和されてどんどん付き合いが広くなり、今では全員に顔を知られ、可愛がられている存在だ。
アウロラと秘密の仲になってからの最近は少し距離が開いたが、それでも二人の間の信頼は変わっていない。競い合い、助け合う、良きライバルでもあり友でもある…と。ラケルはそう認識していた。
その日の夜。ラケルは広い医務室に一人、ぼーっと窓の外の星を眺めていた。ここスオムス空軍に所属するウィッチは多い。ゆえに最悪の事態を想定して医務室も広く設計されているが、今はそれがただ虚しいばかりだ。普段はあの輪の中に居る仲間たちの賑やかな声も、遠くから響いてくるだけ。もっとも近しい存在であるアウロラもなかなか暇を見つけられずにいるのか、長い時間誰とも話すことは無かった。
「…………」
その静寂は自分の腹の虫の音によって切り裂かれた。そういえば、と昼頃に出撃してから何も食べていなかったのを思い出す。普段からあまり食べない方だが、もっと栄養を摂取すればアウロラのようにグラマラスな体型になれるのかな、などと考えているとノックが響いた。
「ラケル、居るか」
「はっ、はい!」
心の中で呟いたことが聞かれているはずもないのに、慌てて返事をするとドアが開く。そこには親しみを感じさせる木のトレイに食器を載せたラプラが立っていた。
「夕飯、持ってきた」
「あ……ありがとうございます」
つかつかと歩み寄り、置かれたままの椅子に腰掛けるラプラ。近くで見てみるとトレイには二人分の食事があり、その疑問を見透かしたかのようにラプラは口を開く。
「皆と食べられないの、寂しいだろうと思ってな」
心配してくれていたのだろう。ラケルが小さい頃から寂しがり屋だというのをよく知っている彼女なりの気遣いだ。しかし、今更照れくさくなったのか、気まずそうに目を逸らし始める。
「…私が寂しさを和らげられるかは分からんが…そもそも、寂しがってるかって話でもあるな…」
それを見て。いつも無愛想な彼女が珍しく照れているのがおかしくて、ラケルはくすくすと笑みをこぼした。
「ふ、ふふふっ…いいえ、嬉しいですよ。たぶん一人だったら、食べる気も起きなかったと思いますから」
「……そうか」
怪我をしているというのに沈むことなく、笑顔を見せてくれる仲間に安堵し、皿を渡してくるラプラ。肉と野菜がたっぷり入れられた具沢山のスープと二切れのパン。少食なラケルにとってはちょうどいい分量だ。同じものをトレイと一緒に自分の膝の上に載せて、ラプラが先に食べ始める。ラケルのためにわざわざ自分で取り分けて持ってきたため、きっとお腹が空いていたのだろう。待ちに待った食事を前に、これ以上腹の虫が唸る前にスープを口に運ぼうとする…が。
「あぐっ…!」
「! 大丈夫か?」
「あ、う…いたた…」
スープを掬ったスプーンに顔を近付けるのに姿勢が前かがみになる。それだけで耐え難い痛みが走り、思わず手に持ったそれを取り落としてしまった。
「…一人で食べられそうもないな」
「うう…ご、ごめんなさい…」
「…………」
するとラプラは皿を取り上げ、その中の液体を掬うとラケルの前に差し出す。
「私が食べさせる」
「え?で、でも…」
「…お腹、空いてるだろ」
「そんな、子供じゃないんですから…」
それでもスプーンを引っ込める気配はない。自力で食べるのも難しく、出来たとしても相当時間はかかる。この場合、駄々をこねているのは私の方だと、多少恥ずかしいが最終的に折れたのはラケルの方だった。
「……じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて…」
「それでいい。ほら、口を開けろ」
「あ、あー…」
「もっとだ」
「あーー……ん…」
「…………」
目を伏せたラケルの、小さな口がおずおずと開かれる。中に覗くピンク色の舌の控えめな動きがやけに艶めかしく見え、ラプラは思わず生唾を飲んだ。
「…美味しいです…けど、や、やっぱり恥ずかしいです、これ…」
「仕方ないだろ、こうしないと負担がかかる」
「それは、そうですけど…」
「ほら、次だ」
「ん……あーー…」
スプーンを差し出され、素直に口を開くラケル。髪を搔き上げる仕草から目が離せないほど、魅力的に見えてしまう。与えられたものを口では半ば拒みつつも欲求には逆らえないのか、従順に受け入れる姿はラプラに言いようのない支配感をもたらした。一口で食べられるようちぎったパンなんかは飼い猫のように手から直接食べてくれる。食物が通る度、動く喉が愛おしい。指先でつまんだパンのかけらを一生懸命啄んでくる唇が愛おしい。傍から見れば普段とまるで変わらない平静を保ちながら、ラプラの中では大きな欲望が動いていた。
食事を終えるとラプラは食器を片付けに戻った。ひとりになると、先ほどまで誰かと一緒に居たからか静寂が余計に強く感じる。が、それよりも昼間の戦闘での疲れと満腹感によって心地良い睡魔がやってきた。どうせベッドの上にいるので、このまま身を任せて眠りに就こうと目を閉じる……が、それは来客によってすぐに吹き飛ばされる。
「入るぞ」
「もう入ってるじゃないですか…」
部屋に戻ってきたラプラは手に濡らしたタオルを持っていた。
「服を脱いでくれ」
「…えっ!?」
ベッドの上で服を脱げと言われ、驚いて頬を染めるラケルを見て初めて自分の言葉に気付き、照れ隠しに咳払いをひとつ。
「そういう意味じゃない。今だとシャワーを浴びるのも辛いだろうから、身体を拭いてやろうとだな」
「あ、ああ…は、早とちりしちゃいました…」
ふと、ここでラケルも気付く。
「…ラプラさんが拭くんですか?」
「当たり前だ」
「ま、待ってください!これくらいなら私ひとりでも大丈夫ですので!」
「女同士で何を恥ずかしがってるんだ。いいから脱げ」
恥じらいを露わにするラケル。ラプラが正論を口にしても食い下がろうとする。
「ほ、ほんとに大丈夫ですから…タオル、貸してください…」
「……なら両手を上げてみろ、扶桑人のバンザイみたいにだ」
「…こ、こうですか」
ゆっくり、ゆっくり両手を伸ばしていく。が、それが頭の高さぐらいまで来たところで胸が痛み出した。
「あ、うぅっ…!い、いたた…!」
「ほら見ろ、そんな調子で自分で出来るわけないだろ」
「い、今のはうっかり方向を間違えただけで…」
「言い訳はあとで聞いてやる」
痺れを切らしたように、ラプラが服に手を掛けてくる。自分で服を脱ぐのに負担がかかると良くないという配慮からだったが、冷静に自分のしていることを思い返すと急激に心臓が高鳴り出した。目だけを上げてラケルを見れば、先ほどよりも濃く頬を染めたまま目を逸らして羞恥の表情を浮かべている。
「……ラプラさん?」
「…あ、ああ、すまん…」
のそり、と足を踏み出しかけた欲望がラケルの言葉によって引っ込む。あのままの雰囲気でボタンを外し続けていたらどうなっていたのか、想像には難くない。自制心を総動員し、なんとか平静を保ちながら上着とシャツを脱がせて素肌をさらけ出すことができた。
「…いくぞ」
「は、はい…」
まずは背中から。うっすらと縦に入った美しい筋をなぞるようにタオルを当て、下ろしていく。誰の足跡も付いていない新雪のように白い肌は、布越しにでもその艶やかな感触を伝えてくるほどにきめ細やかだ。患部に刺激が届かないよう、可能な限りいたわったつもりだったがそれが逆にくすぐったかったらしく。
「……んっ。んん…」
小さく、喘ぐような声で身を捩る。思わず手が止まりそうになったが動揺を悟らせないため、気を強く持ちながら身体を拭いていく。しかしラプラにとってこれは序の口だった。まだ前が残っている。自分が拭くと言った手前、ここから任せるわけにもいかない。聞こえないように小さく深呼吸をして、背中側から手を伸ばす。
「ひゃっ…」
「……! 変な声を出すな…」
「ご、ごめんなさい…」
胸元へのソフトタッチと同時に、ラケルが声を漏らす。同性とはいえ胸を触られることには抵抗があるのか、不安げに肩を縮めている。それをゆっくりと抱き寄せ、こちら側にもたれさせて負担のかからない姿勢で拭き始める…が、それは結果的にミステイクとなった。肩越しに見える、年相応に起伏のない身体。だが確かにあどけなさと大人への兆しを見せる胸、そのピンク色の蕾がどこまでも魅力的に見えてラプラの理性を狂わせる。
「………っ……」
そして何より間近に漂うミルクのような甘い香り。ほのかなそれは目の前で静かにざわめく彼女の髪が醸し出していて、欲望を引き出しかねない危険極まりない華香そのものだった。それほどまでにラケルを強く想っていたのだ。普段感情を表に出さない分なのか、二人きりになると制御が効かなくなってしまう。
「ラプラ、さん…もう十分じゃ…」
「あ……そう、だな…」
この時も、呼び掛けられなければいつ手を出してしまってもおかしくなかった。看病をしたいという純粋な自分とラケルをモノにしたいという欲望に濡れた自分。どちらもありのままの姿であり、嘘はつけない。故に、今のラプラは不安定な存在だった。
「…これで綺麗になったな」
「あ…ありがとうございます」
それでも固い意志で理性を乗りこなし、自制心を働かせたまま身体を拭き終えることができた。屈託なく笑うラケルを見ると、自分の中の苦労もひとしおと言える。
「あとはもう、寝るだけですので…」
「…なら、自分の部屋の方が安心するだろ」
「え?あ、あの…わっ」
ラケルはこれ以上気にかけなくていいと言いたげだったが、それよりも早く———とはいえ気遣いを感じられる優しい手付きで———背中と足を持ち上げ、所謂お姫様抱っこでベッドから持ち出した。想定していなかっただけに恥ずかしくもあるが、ラプラの優しさを受け止めてこれ以上口出しをするのも野暮だと思えて咎めることはしなかった。
「その、重くないですか」
「…軽いな。心配になるくらいだ」
「え…」
「もっと食べた方がいい。じゃなきゃニパみたいに大きくならないぞ」
「ニパさんみたいって、明らかに胸のことじゃないですか」
「少なくとも脂肪があれば衝撃は殺せる」
ラプラがジョークを口にするのは珍しいと思うと同時に、大切にされているのを嬉しく思う。少しだけ満たされた気持ちで他愛ない会話を交わしながら自室のベッドまで運ばれ、電気を消してようやく本当に寝るだけとなった。
「今日は本当に色々とお世話になりました。その、迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑だなんて思っていない。むしろ、私は……」
小さな声で、目を背けながら。「お前の世話をしてやれるのが嬉しい」と口にしているのを確かに聞き取った。それは怪我をさせた原因が自分にあると思っている後ろめたさもあるのだろうが、ラケル自身それを責める気など毛頭なく、ラプラが頬を染めているという珍しい事態に笑みすら見せていた。
「……ラケル」
「はい?なん、で———」
聞き返すよりも先に。抱き締められているのに気が付く。
「もう二度とこんな辛い目に遭わせない。お前のことは私が守る…必ず守ってやる」
「へ……」
すぐに離れ、目が合った。真摯な声色と、眼差しだった。思わず頬がかあっと熱くなり、鼓動が速度を増していくのを感じる。
「……明日の朝、来る。…おやすみ」
「え、あ……」
それだけ言うとラプラは部屋を出てしまった。
「…おやすみ、なさい…」
ドアが閉まって数秒後、遅れすぎたおやすみを言う。自分の胸に手を当ててみると、そのまま掴めそうなくらいに心臓が跳ね回っていた。アウロラ以外にあんな情熱的なセリフを言われたのは初めてのことで。枕に頭を預け、寝付くまでの間、ずっとラプラのことだけが頭に浮かび続けていた。
翌朝、目を覚ましてしばらくして、起床時間が来るとラプラも部屋にやってきた。
「皆のところに行こう」
寂しがっていたラケルのために今日は仲間たちのところに連れて行ってくれるのだろう。昨夜と同じように背中と足を持ち上げようとするが、そこで抗議が始まる。
「み、みんなの前でそれは……あの、おぶる形じゃダメですか?」
「…それもそうだな」
ほら、と向けられた背中へ手をかけ、ベッドから出る。部屋を後にした宿舎の廊下で、正面からアウロラが姿を現した。
「中尉、おはよう」
「おお、おはよう。なんだ、ラプラが先に来てたのか」
「早く目が覚めたからな」
「そうか。よかったなラケル、友達想いでいてくれて」
「あ、はい…」
部下を前に、あっけらかんとした笑顔を浮かべているアウロラ。昨夜のことを話しておこうか迷ったが、なんだかラプラに悪いような気がして結局言い出すことはできなかった。それからは朝食を食べにウィッチたちが集う食堂へ向かい、昨日の戦いぶりの賞賛や怪我の心配を受けたりして、みんなが気にかけてくれているのを実感することができた。
その後も周りの人々の手を借りる日々が続いたが、幸いにも療養中は大規模なネウロイの襲撃もなくゆっくりと静養でき、見込み通り一ヶ月弱で骨は綺麗にくっついたと診断された。
「これでまた訓練や戦闘もできるんですよね?」
「いいや、まだだ。無茶すればすぐ痛みがぶり返すぞ。もう少し経過を見なきゃならん」
「えー…」
「そうむくれるな。簡単なトレーニングくらいならできるそうだから、少しでも身体の調子を戻しておけ」
「…はいっ。あと、あの…」
「なんだ?」
「お見舞い、来てくれたり身の回りの事とか手伝ってくれたり…色々ありがとうございました。嬉しかったです」
「当然だ。私たちは家族だからな」
ぽん、と頭に手を乗せられるとそれだけで安心感が湧いてくる。アウロラの手はいつ触れられても、かつて過ごしてきた家族を思い起こさせる暖かさがあった。
「えへへ…」
「ラプラにも礼は言っておくんだぞ。あいつも付きっきりで世話してくれたからな」
「はい、もちろんです」
「よし。じゃあ私はそろそろ行くぞ」
「あ……あの、待って!」
「ん?」
「その、ようやく落ち着いたので……」
「…ああ」
踵を返し、部屋を後にしかけたアウロラだが、ラケルが言葉を濁しながら話すとすぐに理解したように戻ってきた。
「最近一度もしてな……んっ、んんー……」
二人が秘密の仲であることを証明する接吻。顎を持ち上げ、半ば強引に奪うようなキスだったがそれを拒むことなく、目を細めて受け入れる。長い空白の時間があったからか、重ねられた唇は息が続く限り離れなかった。
「…ふぁ…」
「もっと味わっていたいが…ここからは完治してからのお楽しみだな」
「はい…」
頬を撫でられ、身を委ねたくなってしまう衝動を抑えながらしっかりと二本の足で立つ。そして愛情を示すかのように額へキスをすると、アウロラは今度こそ部屋を出て行った。まだ熱く感じられる額を愛おしげにさすり、名残惜しさを覚えながらもトレーニングウェアに着替えて訓練室へ向かう。すると訓練室では先に着いていたラプラが手持ち無沙汰といったふうに壁にもたれかかっていた。
「お待たせしました」
「………」
「……ラプラさん?」
声は届いているはずなのに、返事はない。一瞥はしたもののすぐに目を背けられた。何か悪いことでもしたかと思い、顔を覗き込もうとした瞬間。
「きゃっ…!」
素早く手を取られ、そのまま背中と一緒に壁に押し付けられてしまう。驚きに閉じられた目が開くとすでに目の前には精悍な顔付きのラプラがいて、思わず心臓が高鳴り始める。そして、我に返って何かを言う前に。
「——んむぅっ…!?」
唇を、奪われた。
暖かいを通り越して熱さすら覚えるほどの柔肉が釘付けにしてくる。目を見開き、四肢を暴れさせて抵抗しようとするが壁を背にさせられているせいか簡単に抑え込まれてしまう。呼吸もままならず、やがて離れる頃にはすでに息も絶え絶えだった。
「はぁっ、はぁっ…ら、ラプラさん…なにを…」
「ラケル……」
「ひゃっ!?あ、や、やめ…!んうぅっ…!」
そんなラケルにも構わず、今度は首筋に甘く噛み付き、舌を這わせ始める。敏感な部分への湿った感触に身悶えするがそれでも離そうとする気配はない。それどころかどんどん場所を変えて、マーキングするかのように唇を立てて肌を吸い始めた。
「やぁ…!ら、ラプラさん、やめて…!考え直して…!」
「ラケル……ラケル……!」
(ダメ…なんとか、しなきゃ…!)
魔法力を発動させ、固有魔法の斥力によって弾き飛ばそうと試みる。が、今の状況もあって上手く集中できない。本来これほど密着した状態で力を放てば、人体など軽く十数メートルは弾き飛ばせるほどの強力さ。怪我をさせないよう最小限の力で飛ばすコントロールはストライカーユニットによる飛行を維持するよりも難しい。それでも口を一文字に結び、強い意志を持って力を練り上げてようやく準備が整おうとした時だった。
「好き、だ」
「え……」
耳元での囁きに、強い心臓の脈動に。
時間がこの場から姿を消す。
「考え直した、何度も……それでも答えは変わらなかった……お前が好きなんだ、ラケル…!」
心から絞り出したような、切羽詰まった声。それは震えてすらいて、長い年月をかけて積もり積もった想いであることは容易に見て取れる。
「だから、私を受け入れてくれ…」
空いていた手が胸に触れる。揉み上げるようなその手付きで、これからされるであろう行為は想像できた。断らなければならない。自分はアウロラと付き合っている身だ。もし他の者に身体を許したと知れれば酷く落胆されるのは間違いないだろう。ラプラに申し訳なくとも、それだけは避けなければならない。
「っ…!や…わ、私は…」
が、そこで出かけた言葉が詰まる。アウロラには二人の仲を公言してはいけないと散々言われ続けてきた。この場において冷静な判断を下せるほどラケルの精神は育ち切っていない。故にそれから先の言葉を紡ぐことができなかった。
「どうしてだ?理由がないのなら、いいだろ…?」
「ち、違うんです……!私っ、まだ…!」
「…何も違わない。もう、こんなになってる」
「ふあぁっ!!?」
股座に差し入れられた手が、指先が、花園の門をなぞる。たったそれだけだというのに腰が浮くほどの、狂おしいまでの快感が駆け抜けた。
(うそ——なんで、濡れて……)
自分でも驚愕すらしていた。望まぬ相手との行為を迫られているのに身体はすっかり受け入れようとしている。ここ何週間も預けられ続けた快楽への期待が弾ける寸前とでも言うのだろうか。それを自覚した途端急速に熱が上がってきて、胸の頂点も大事な部分もさっさと刺激を寄越せと言わんばかりに甘美な疼きを持ち始めた。
「あ、ぁ、あっ!だめっ、ダメです!ん、あぁっ…!」
制止を呼びかけてもお構いなしにラプラは求めてくる。強引でありながらズボン越しに秘部を撫でる手付きはアウロラ以上に優しく、入念にほぐすかのようで抵抗の意思が根こそぎ奪い去られてしまいかねない。せめて抗おうと両手で手首と腕を掴んで、己を蝕む甘い毒を払い除けようとするが迸る快感に身体が痺れてそれどころではない。むしろ自分から縋るような格好にすらなってしまっている。
「感じてるんだろ?」
「そ、んな…ことっ……く、ぅん…!」
「隠さなくていい…ここも辛そうだな」
「きゃぅ、んんっ!!?」
布越しに擦られたのは、密かに自己主張をする突起の部分。あまりに強烈な快感が下腹部から脳天にまで駆け抜けて、思わず仰け反ってしまうほど。女を悦ばせる場所などお見通しかの如く、今度はズボンの中に手を差し入れて直接刺激してくる。
「あぅ、あっあっ、〜〜〜ッ!!」
「ここ、好きなのか?」
「んやぁっ…!ひゃ、らめっ、いじめないでぇ…!」
まともな返事ができなくなる。呂律も回らなくなる。女を狂わせるためだけに存在している部分を、弦楽器のように爪弾かれる快楽は理性を丸ごと色欲の虜に変えてしまう。どう足掻いても下腹部から上がってくる熱が、疼きが、快楽が縛り付けて離してくれない。
「やっ、だめ、ダメダメだめっ…!も……ん、あぁーーーっ…!!」
執拗すぎる愛撫にさらされ、禁断の扉に向かって上り詰める身体。ささやかな抵抗など最初からなかったかのように虚しく、掴んでいた手は袖に縋り付き、根を失った足は歓喜に震え、やがてそれは全身にまで轟いて大きな、大きな絶頂を迎えた。
「はぁっ…!はぁっ…!ぁ、あ……っ、ん…」
その余韻もまた深く、支えられていなければ床に崩れ落ちていたことだろう。そして壁に背中を付かせたまま、ズボンを下ろしたラプラの下腹部には今にもはち切れんばかりに怒張した男根がそびえ立っていた。詳しい原因は判然としないためあくまで通説だが、ウィッチに具現化するそれは強い欲望や想いの象徴とも言われ、同時に精神的に不安定になると起きやすい現象らしい。彼女がいつから抱えていたとも知れない欲望そのものを、ぐったりとしたまま見ていることしかできないラケル。
(止めなきゃ…止め、ないと……私、このままじゃ……アウロラ、さん……)
頭では分かっていても体が思考について行かない。強い絶頂による疲労感で指先ですら動かすのに酷く重く感じてしまう。ウィッチといえど女は女。こうして至上の快楽で責められれば形無しだ。ろくな抵抗もままならないうちに片脚を抱えられ、今にもその身を貫かんと秘所に逞しいモノがグラインドさせられる。
「は、ぁんっ…」
自分の口から出た声に心底驚愕する。そこには一切の嫌悪も拒絶も含まれていなかった。それどころか期待すらしてしまっているのが嫌でも理解できて。自分の意思じゃないと言い聞かせようにも上がってくる快感はそれを許さず、本能に身を委ねてしまえと甘い囁きを繰り返してくる。この快楽の味を知っているが故に理性はまともに働かなかった。そしてぴたりと狙い澄ました男根に押し進められ、閉じたみちみちと肉を割って開かれる。
「あっ、あ…!んんんぅ〜〜ッ……!!」
「く、あっ…みっちり締め付けて、くる…」
(そん、な…奥まで、
自分の中にある確かな雄の感触。アウロラ以外に初めて許してしまったそれの存在は強く、大きく感じられて。挿入されているだけで心臓が痛いくらいに跳ね回り、呼吸を荒いものへと変えていく。
「動く、ぞ…」
「ひうっ…!?や、だめっ…!」
ラプラがほんの少し腰を揺らしただけで伝わる膣肉への刺激は、アウロラとする時よりも大げさなほどに強く感じてしまう。そんなのは駄目だ、なんで、どうしてと自問して抵抗しなければならないのにそれらは全てくだらないと言わんばかりに強烈なまでの快感が塗りつぶしてくる。
「んっ、あぁ…!ダメ、抜いてぇっ…!こんな、の……ダメです、からぁ……!」
「お前もこんなに感じてるじゃないか…悦んでるのが伝わってくるぞ…」
「〜〜〜っ……!!?」
耳元で囁かれ、言い知れぬ感覚がぞくぞくと背筋を駆け抜ける。
それはアウロラ以外の、恋人でもない人間とこんな行為をして、感じてしまっているという背徳感に違いないものだったが今の彼女はそれを知る由もなく。
「ラケルっ…!」
「んっ、んむぅ…!」
強引に唇を奪われ、そして舌を捩じ込まれる。酸素を求めて開いた咥内を蹂躙され、逃げようと引っ込んだ舌を絡め取られて執拗な愛撫にさらされる。瞳に涙を滲ませながら見たラプラの眼はこれ以上ないくらいに切なそうで、滾っていて。繋がったまま、打ち付けられる下半身からその感情の全てが伝わる。どうしようもなく抑えつけられないほどに膨らんだ恋慕の激情。自分を求めてくる果てしない欲望。それらを打ち込むように女陰を突き上げ、激しく犯してくる。
「んうっ、はぁ…ぁん!んん、ぁむっ…!」
弛緩しきった身体に、奥をこつこつとノックされる快楽は暴力的だった。突かれる度に全身に伝わる痙攣が終わるよりも早く次がやってきて快楽が上乗せされ続ける。キスでまともに呼吸を紡ぐことすらできず、酸欠で思考までが蕩かされていく。
「はっ…はっ……出すぞっ、ラケル…!」
「やぁっ…!?だっ、だめ、それっ、はぁ…!」
その言葉に理性が警鐘を鳴らす。しかし壁に押し付けられ、脚を抱えられたまま突き上げられる快楽で麻痺した身体は別人のように言うことを聞かない。
「あ、あ、あぁっ、イっ、ーーーーっっ!!」
もはや抵抗の余地などなく、強く腰を打ち付けられた瞬間、目の前に火花が炸裂するような快楽と共に深く咥え込んだ肉棒がびくびくと大きく跳ね上がるのを感じた。噴水のように打ち上がる白濁で、最奥を、己の中を激しく犯されていく感覚。
「ぁ……あ…っ、ぅ……」
「はぁ……はぁ……」
オーガズムの反動は自分を支えて立っていることすらできないほどで、ラプラが脚を下ろすと同時に壁からずるずるとその場に崩れ落ちてしまう。
「ラケル…」
「……ん、ぁ…」
何も考えられなくなる、強烈すぎる絶頂。いまだ思考に靄がかかっていてぼーっとした目で虚空を見つめるラケル。その目の前に差し出された、二人の交わった証である液体に濡れた男根をゆっくりと咥えた。
ラプラとの関係はそれだけで終わりを迎えることはなかった。
「…ラケル」
「ひゃっ…!」
二人きりになると身を寄せてくるラプラ。彼女もまた秘密の仲であろうとしていたらしく、慎重に立ち回り、周りの人物にバレるようなことは一切しなかった。
「やっ…だ、ダメ、ラプラさん…私たちそんな関係じゃ…」
「好きだ、ラケル…」
「んむっ…!ん、んぅ…!」
始まりはいつも強引だった。拒絶しても迫ってきて、突き放そうとした腕を取って唇を奪ってくる。
「…ここか?…気持ちいいのか」
「ぁ、ううっ…!そん、な…こと…!」
「…可愛いぞ」
「んうぅっ…!」
そのくせ愛撫は狂おしいほどに優しくて、丁寧で。刻み付けられた快感に身体が疼きを覚えてもしつこく焦らして受け入れる準備をさせてくる。
「挿れるぞ、ラケル…っ!」
「ま、まって、らめ…ぇ…!あっ、ひっ!あんっ、やぁ!はげ、しいの、だめっ!」
そして最後にはまた激しく責め立てられる。どこをどうすれば、何をすれば悦ぶのか。全て手に取るように理解されているようだった。
「……私、また…」
なし崩し的に始まった関係はウィッチとして部隊に復帰した後も続いていた。毎回断り切れない自分に嫌悪感を抱きながらも、迫るラプラを拒絶することもできない。どころか、快楽に溺れてすらいるのではないかと自責の念ばかりが募り、それもこれも自分の弱さが招いた事態だと罪悪感でアウロラに告白することすらできずにいた。
「ラケル、どうした?」
「あ……な、なんでもありません、へいきです…えへ…」
チャンスは幾度となくあった。ラプラがラケルのもとに来るタイミングは大抵誰とも関わることの無いプライベートな時間で、それはアウロラとの逢瀬のタイミングでもあったからだ。だが自分を信じて誇らしげな笑顔を浮かべてくれている彼女に、自分が他の女と身体を重ねたなどと言ってしまえばそれだけで心が壊れてしまいかねない。こうして拒否し続けていればいつか終わると淡い希望を抱いていたがゆえに。
「…ラケル」
「あ……っ!」
「っ……」
伸ばされた手。何よりも大好きで愛おしく思っていた手が髪に触れた瞬間、それを振り払った。自分でも驚いたことで、アウロラもラケルも何が起きたのか分からないように目を丸くしていた。
「…すまん、そういう気分じゃなかったか」
「あ……!わ、私っ…そんな、つもりじゃ…」
「いい、気にするな。また今度にしよう」
「……はい…」
気まずい空気を打ち消そうと、あっけらかんとした笑みを浮かべながら頭をぽんぽんとされる。確かにそれは暖かくて、誰にされるよりも安心できる無二の物であるはずなのに。考えるのは「この手に縋れたら」という叶わぬ願いばかりだった。
それからも。
「ラケル……ラケル……!」
「はっ、あっ、あ、んんっ!」
ラプラとの行為の回数は減るどころか日毎に増していった。ラケルの部屋からシャワー室、果ては格納庫まで。人気が無いところになるとラプラは溢れ出る劣情と愛欲を抑えることができず、すぐに迫ってきた。
「はぁ……はぁ……ラケル…」
「んっ…!ま、待って、ください…汗っ、かいてて…せめてシャワーだけでも…あんっ…!」
ぎゅう、と抱き締められ、首筋に鼻先を押し当てられて匂いを嗅がれていても拒絶するどころか準備をさせてくれと申し出るようにまでなっている。そうなるくらいに最早この関係は当たり前だった。
「じゃあ、行ってくる」
「無事に帰ってきてくださいね」
「ああ、もちろんだ」
ハンガーにて、墜落したウィッチの回収に向かうアウロラを見送る。彼女の姿が見えなくなったあと、陰から現れたラプラ。そっと腰を抱くように回された手に、ラケルは逃げる素振りも見せない。
「ラケル…」
「んんっ…ダメ…また、こんなっ…」
人気のないハンガー。資材を詰めた箱に寝そべり、その上からマウンティングするように腕を押さえられるラケル。下ろされたズボン、無防備な秘部はすでに厭らしく蜜を垂らして雄を誘い込んでいる。
「…もう、自分でも分かってるだろ?」
「っ……なに、を…」
「ひとつも嫌なんかじゃないくせに、嫌がるフリをして」
「そ、そんなっ…私、そんなこと…」
「だったらこれはなんなんだ」
「ひうっ!?」
割れ目に沿って当てがわれた男根がグラインドされる。絡んだ愛液がにちゃにちゃと耳を犯すような水音を立てていく。さらに揺れる尻肉を叩かれ、素直に答えるよう尋問までされているようだった。
「こんなに濡らしておいて、嫌はないだろ」
「ち、ちが…わたし…」
「嘘を吐くな」
「きゃんっ!?」
「欲しいんだろ?これが…」
「あ、ぅ……」
焦らすように男根を擦り付けられる。嫌でもその感触は伝わり、それに対してふりふりとお尻を揺らすことしかできない。それは抵抗なのかあるいは早くとせがんでいるのか。ラプラにはラケルが落ちているのがはっきりと分かっていた。
「お前は…これがなきゃ生きていけないんだっ…!」
「ん、ううぅぅ〜〜〜っ……!!」
ずぶずぶと侵入してくる肉棒。快楽が、ラプラという魔性の遣い手が、どろどろの沼に引きずり込んでくる。抗おうともすでに肩まで浸かってしまったそこから逃げおおせることなどできず、ついに自覚できるほどの背徳感に溺れ切ってしまう。そう、これがなければ生きていけない。アウロラという恋人が居ながらラプラとのセックスに明け暮れて与えられる快楽を貪るという行為。罪悪感は背徳感へと化け、無限に昂らせてくれる。屈伏させられるような体位も、ケモノの交尾のように力強く犯してくるラプラの腰使いも何もかもが麻薬のように迸る快楽のスパイスとなる。
「あっ、あっ、んっ♡そこっ、おくっ、〜〜っ♡」
吐き出される嬌声にはもはや嫌悪や拒絶など一切含まれていない。あるのはただ雌の悦びと掻き回される歓喜の鳴き声だけだ。押さえつけられた腕の先が悩ましく握り締められる。最も熱く、感じる部分をごりごりと突かれる度にどうしようもなく中が締まって悦んでいるのを感じさせられる。これまでに味わったことの無い快感に溺れ、沈み、やがて破滅を迎えるまでひた走ることしか道は残されていなかった。
「あっ、や、イく、イくっ♡ふあ、ああぁぁーーーーっ♡」
激しく全身を震わせ、そして中に咥え込んだモノも強く締め上げられて脈打ちながら精を吐き出していく。もう何度も注がれたこの白濁。白く染め上げられて、自分とラプラの境界があいまいになっていって、やがてこうして交わって。
「ふぁ…ぁ……っん…♡」
「……ラケル…」
押さえつけられていた手が上から握り締められる。耳元で名前を呼ばれ、ぴくりと肩を震わせて。
「…お前は…私の…」
「……ん……♡」
こくり、と小さく頷くラケルを見て。
ラプラは昏いばかりの薄い笑顔を浮かべていた。