「何を――!」
「続きだ。おい賢吾、逃げるなよ」
「やっ……せめて灯りを――オおおッ!? うう、ぐうう……」
抵抗などまるで構わず、持ち上げたお母さんの下半身ごと、伯父はその巨体を沈めた。重さのせいか、お母さんは苦しそうに呻いた。
お母さんは伯父の下敷きにされた。裏返った脚が、無様に天井に向いている。伯父が身体を揺らすのに合わせ、その脚がビクビクとうねり、お母さんのくぐもった声が聞こえてくる。
「動くぞ」
伯父は宣言するや腰を上下に動かし始めた。
「んッ、ん、んッ、んんっ、うう、ぐ、うあ、あ――ッ!」
醜い毬のような尻が跳ね、見え隠れするお母さんの陰部と伯父の下半身とが、太い肉茎で繋がれていた。規則正しく短い悲鳴がその向こうから聞こえてくる。
「やめっ、あ、う、ぐうぅ……みな、い、んああッ、それ、シ、シぬ、アッ、ああッ!」
伯父は上半身でお母さんを抑え込むと、男根を深くに突き刺したまま腰だけで責め続けた。逃げられないお母さんは脚を虚しく泳がせ、縋る物を探した手を伯父の首に回した。
「ううッ、ウッ、アッ、イイッ、い、ンッ、いいいいいいいいいッ!」
目を見開いて、歯を食い縛り、狂ったような叫びを上げる。見えないお母さんの顔が手に取るように分かる叫びだった。耐えようにも抑え切れない何かに、お母さんは口を閉じたまま咆哮していた。
「やめて……」
震える唇で呟くのが精一杯だった。
やめて。やめて下さい。お母さんが壊れてしまう。
「ううう……はぁ、はぁ……あんッ、や、ああ……」
伯父は緩急をつけながら、徹底的にお母さんを撞き続けた。速度を緩めた時、お母さんは息も絶え絶えに、背筋がゾクゾクするような切なげな声を上げた。
「ううううッ! ぬッ、ぐゥ、んんんンンンあアア――ッ! 」
そして動きが激しくなると、またお母さんは性感に溺れた悲鳴を漏らす。
気付けばヌチャヌチャ、ビチビチと音を立て、二人の体液が辺りに染みを生んでいた。
「そろそろ出すぞ」
言うと叔父は、これまでお母さんを潰し続けた上半身を持ち上げ、速く、そして深くへと腰の動きを激しくした。
「や――ッ!? あっ? アアッ!? ア、ア、アアッ! い、いつもは、こんなッ……! こんなにィいいいいッ!?」
「もう隠す必要も、ないからな」
「おッ!? お、おオッ! おアアアアア――――ッ!」
部屋中に、きっと外にも響く金切り声を上げて、お母さんは何度も訪れた絶頂を飛び越えた。性についてほとんど知らない僕でも、お母さんのその咆哮が、極まった歓喜の声であることは、本能が知っていた。
ぶるりと身震いをした。快感が股間を駆けのぼった。
異常で異様な光景に、あまりに現実感を欠いた情事に、お母さんのよがり声に、びゅくびゅくと腰の砕ける吐精をした。
しばらくの間伯父はお母さんと繋がったままじっとしていたが、やがて愛液の泡に汚れてテラテラと光る、三本目の脚のように立派な物を抜くと、
「今日は良かったぞ清子。明日からが楽しみだ」
と言い捨てて、さっさと布団を敷いて鼾をかき始めた。
やっとの思いでお母さんへ這い寄ると、白く美しい肌が、体液に濡れて艶めかしい輝きを放っていた。
「お母さん」
声をかけると、お母さんは一気に引き戻された現実に、血の気を失い唾液と涙と鼻水で汚した顔を背けた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
涙声は繰り返しくりかえし、壊れた音盤のように呟き続けた。
「あああっ! もう……もうっ……! アアッ!」
「口をきく暇があるなら尻を振れ」
パンッ――と、何かの破裂するような音が響く。
「いッ!?」
お母さんが短い悲鳴を上げた。
あれから夜毎、襖越しにお母さんと伯父の情事を聞くようになった。耳をそばだてているわけではないが、とても眠れるような状況ではなかった。顔を背け耳を塞いでも、畳や壁や柱から伝わる振動が、僕の股間の物を痛くさせた。
伯父のそれとは、もやしと大根くらい違って見えた。お母さんの喘ぎ声を聞いていると、あの夜の光景が頭に浮かぶ。身の堅い真面目なお母さんをこじ開ける力強い挿入。それを真似るように、自分の手で握り込める勃起を、かくかくと前後に揺する。
すぐに何時間も小便を我慢したような射精感に襲われて、白い液体が手を汚す。
僕が一人自慰を終えても、伯父はまだ満足していない。
「おまえが達するたびに休んでいたら夜が明ける」
「そ、んなぁ……こと、ォ……お、オオう、ウ……アッ!」
一際大きな肉のぶつかる音がした。少し間があって、
「駄目!」
お母さんの短い拒否の声がした。「唇は……」
性交をしているくせにかと言いたげに、伯父は鼻を鳴らした。
ごそごそ身体を動かす音がしたと思うと、ギシギシと家全体が軋むような激しさに変わった。肉のぶつかるたぷたぷとした音がする。伯父が動いているのだ。お母さんの大事な所を、凶悪な物で穿っている。
お母さんの噛み潰した喘ぎ声は、やがて大きくなっていく。
「アあアアっ! お、オ、オ、むオっ! だ、駄目……いけませんっ……あ、アの子にぃ、イ、イい、聞こえッ……」
「今更だ。もう賢吾は知ってるぞ」
「そ、それはァ! あ――ッ! く、ク……くるゥ……う、ウううう――ッ!」
「それに女の悦ばせ方を教えてやった方が良いだろう。なァ清子。え? 次郎でこんなに感じたか」
ガタガタと暴れる音と、お母さんの絶叫が響く。襖に何かがぶつかる音がする。すぐそばで、お母さんが女になっている。お父さんの悪口を言われているのに、抗議することもできないほど無我夢中なのだ。
「清子が俺を満足させられねェから、俺が動いてやってるんだ。なァ? おい」
「アアああッ! おクッ! クる、苦し、イ、イっ、いぐうう、だめ――ッ!」
一際高い破裂音は、たぶんお母さんの叩かれる音だ。
僕は襖の前で涙を流しながら、さっき出したというのに、またガチガチに股間が硬くなるのを感じていた。
「ごめんなさい……お母さん、ごめんなさい……」
僕が弱いせいで……僕のせいで……。
蛍を見に行った日――身体を清め終えたお母さんは、浴衣姿で現れた。襦袢を寝巻とする人も多いそうだが、洋装の習慣の強いお母さんは、必ず上に浴衣を着ていた。
濡れた艶髪を簡単に纏め、しずしずと歩む浴衣姿を見ていると、さっきまで伯父に犯され、狂乱していたとは信じられなかった。
まだ起きていた僕に悲しげな流し目を向けなければ、あれは夢だったと思えただろう。
お母さんは僕の前に、わずかに衣擦れの音だけさせて座ると一言訊ねた。
「平気?」
僕はあれこれと考えて答えた。
「もう血は止まったから」
「そう……」
気まずい沈黙に、伯父の高鼾が割り込んでくる。まるで僕とお母さんの間に、あの巨体をねじ込まれている気がした。
「ごめんなさい」
お母さんは瞬きもせずに、じっと開いた眼からはらはらと涙を零した。
「ねえ……どうして? 一緒に逃げよう」
僕の言わねばならないことは、その二つきりだった。ごめんなさいと繰り返すお母さんを責める気にはなれなかった。どう見ても喜んで不貞を働いているようには思えない。
「他に行く当てなんて……」
短く僕の提案を退けると、お母さんは淡々と告白をした。
僕もそうだったが、平静なふりをしていなければ、おかしくなってしまいそうなのだろうと思えば、その落ち着きが悲しかった。
「冬になって賢吾が毎日学校へ行けるようになったけど、春になればまた家の仕事が増えてしまうでしょう。お母さんはあなたに、たくさん勉強をして、次郎さんのように立派な人になって欲しいから、それは嫌だった。だから一郎さんにお願いしたんです。どうかあの子を学校へ行かせてやってくださいって。代わりにあの子の分は私が働きますからって頭を下げたの。そうしたらあの人は……私を要求した。馬鹿にしないでって、頬を張ったけど……他に頼る当てもない以上、結局厄介になるしかないと思って受け入れたんです。不義には違いないけど、生きるためだから……あなたのためだから……私が我慢しなければと、思って……」
お母さんの長く反った睫毛が、小刻みに震えていた。瞬きをすればたちまち零れそうな涙が瞳を濡らしている。
僕のせいだ。
僕がいなければ、きっとお母さんはもっと身軽で、逃げ出すこともできたはずだ。
うつむいた僕にお母さんは厳しい口調で言った。
「男が泣くものではありません」
はっと顔を上げて瞼を拭うと、お母さんは精一杯の微笑みを僕に向けくれた。それから誰にも聞かれてはならぬというふうに声を絞る。
「日本は遠くないうちに負けてしまいます。そうなれば皆、きっと気が付きます。力で支配する野蛮な時代はもうおしまいにしようと。賢吾。あなたはそういう世の中で、立派な人になるんでしょう」
僕は膝の上で拳を強く握って二度肯いた。
「だったらお母さんのことは気にせず、しっかり勉強をなさい。戦争が終われば、空襲がなくなれば、すぐにでも家へ戻って、次郎さんが帰って来るのを、二人で待とう。ね?」
鼻をすすり、何度も何度も肯いた。
辛い目に遭わないことよりも、僕の将来を考えることが、お母さんにとっての希望なのだ。そうと思えば、逃げようとも、やめてとも言えず、そして高鼾をかく伯父の寝込みを襲うことも、どうしてもできなかった。