※この作品はR-18です。

耕される母   作:M-NTR

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五

 

 声を殺して泣いていると、いきなり襖が開かれた。闇の中、浴衣を羽織っただけの伯父がのそりと立っている。

「片付けておけ」

 短く命令をすると、伯父は外へ出て行った。井戸水で身体を流すらしい。

 僕は水を張った桶と手拭いを勝手から運ぶ。

 伯父が満足するまで徹底的に凌辱されたお母さんは、壊れた人形のように四肢を投げ出し、意識があるのかないのか、時々痙攣するように身震いする他は、ぐったりと倒れていた。両胸の膨らみの重さに潰れる様子が、お母さんそのもののように思えた。

 僕に隠す必要が無くなったせいで、お母さんは伯父の思うさま犯されていた。肉体通りの旺盛な性欲は、とてもお母さんの身体では受け止めきれずに、行為の後にはいつもお母さんはぐったりしてしまい、しばらく帰って来られなかった。

 傍へ寄ると甘いような、酸っぱいような、生暖かい性のにおいが、お母さんからむわっと立ち昇っている。不快な伯父の臭いの奥にある、ほのかなお母さんの香りだけが、僕を励ましてくれる。

 濡らした手拭いで全身を拭き清めていく。あんな男の汗を、唾液を、精液を、その臭いさえ、この清らかな肌に残してなるものかと懸命に磨いた。

 乱れた髪を整える。虚ろな瞳。閉じきらぬ口には泡が付き、涎が蛞蝓の這ったような跡を残す。嫌悪感があっても、望まぬことであっても、性の快楽は等しく強烈なのだと、その表情は物語る。

 ズクズク股間が疼く。頭を振って煩悩を追い払い、僕は作業を続けた。

 ぷっくり膨れて鳥肌の立った乳輪に、痛々しい歯型が付いている。痛めないようにそっと手拭いで擦る。乳房を持ち上げると、にゅるとした感触が裏にあって、唾液臭くなっている。うっすら浮いた肋骨。真赤に腫れたお尻は、叩かれたものだろうか。

 ぽろりと、お母さんの肌に涙が零れた。

 愛液に汚れた陰毛を綺麗にしてから、擦れて赤くなった女性器周りを拭く。

 開きっぱなしの唇から、生々しい肉の道が覗いていた。何かをねだるようにくぱくぱ蠢いている。そのたび、奥から精液が溢れてくる。拭っても拭っても、尽きることはない。いつの間にか伯父が戻り、鼾をかいていた。何度綺麗にしても、奥から奥から伯父の精がお母さんを汚してしまう。

「けん……ご」

 うわ言のようにお母さんが口を開いた。「そんなとこ……きたないわ……」

「汚くない」

 僕は言い返す。

 お母さんに汚い所など、一つでもあるものか。

 赤く腫れた女を傷つけぬように、丁寧に丁寧に伯父の精液を取っていると、視界の端でお母さんが僕を手招きした。

 その手をはしと取って、お母さんの顔を覗き込んだ。疲れ切った顔で優しく微笑んでいる。

「ごめんなさいね。きっと……きっとじきに、帰れますからね……」

 自分のほうが辛いだろうに、僕を励まそうとするお母さんに、僕は涙を見せないように肯くことしかできなかった。

「男がなくものではありません」と叱るように、「大丈夫だからね」と慰めるように、お母さんは僕の手を、ぎゅうっと握った。

 

 

 戦争に敗れても電車の動くことが、僕には不思議でならなかった。硬い木製の椅子にもぞもぞしながら、長い長い帰り道をひた走った。

 ただの普段着だった、今では一張羅のようなブラウスを着たお母さんは、ずっと楽しそうにしていた。

「賢吾、これ食べなさい」

 と、伯父の家で拵えた握り飯を僕に渡す。僕らは二人で、梅干しの酸っぱさに顔をしかめながら車中の昼食を摂った。

「何があっても出て行きます」

 お母さんは震える手で僕の手を取りながら言った。僕も何かあれば、きっとお母さんを守るのだと身構えていた。しばらく考えるふうをした伯父は「そうか。困ったら頼れ」と呟いたきりだった。

 妙にあっさりした様子に不安なものを覚えたが、それは山をいくつか越え、田畑の減り始めた頃から、目の前に現れ出した。

 綺麗な町並みはどこにもなく、瓦礫の平原に廃材で作った小屋や、壊れ残っただけの家屋があるばかり。新聞で空襲の被害は知っていたが、それでもこんなに惨憺たる有様だとは、全く想像していかなった。

 いや――おそらくは、東京へ帰りさえすればという希望を繋ぐために、無意識のうちに楽観視していた。

 お母さんもそれは同じだったらしい。とても信じられないという顔で、都心へ近付くほど増える焼け野原を、黙って見つめていた。

 電車に乗り合わせた人々の口数も少ない。東京へ入り、赤羽を過ぎても、ひたすらに廃墟が広がっている。途切れがちに聳えるビルディングも、焼け焦げた跡が生々しい。見える人影までも、死にきれなかった亡霊のように思えた。

「家は無事かしら……」

 初めて目にした惨状を黒い瞳に映して、お母さんはぽつりと言った。

 上野駅に降り立って、僕が嗅いだのは異臭だった。

 まだ何かが燃え残るように焦げ臭く、便所のような臭いまでする。

 泥に汚れボロ切れを着た子供らの群れや、傷痍軍人の列、まともそうな人たちでさえ、垢に汚れた顔をしている。その中で綺麗な洋装のお母さんは嫌に目立ち、周囲からは、じっと獲物を見定めるような視線が飛んできた。

 僕らは手を取り合い、逃げるように駅前から離れた。

 あんまり見通しが良くて道を見失いながら、汗みずくになった夕方、ようやく辿り着いた我が家は……いや、我が家だった場所は更地になっていた。燃え残った電柱が、黒く傾いでいるばかりだった。

 ほんの数丁離れた場所は、ごく当たり前に家が並んでいるというのに、辺りは焼け野原と急拵えの小屋があるばかり。

 僕らは帰るべき場所を失った。

 知人を訪ね歩き、見知らぬ人の情けに縋り、廃材で作った屋根の下で夜を明かし、どうにか一週間を過ごしたが、僕らはどうしようもなくて、有り金を使い果たして伯父の家へ戻った。

 ともかくそうすれば食うには困らない。浮浪者や野犬に襲われずに眠る場所がある。命は繋ぐことができる。

 それが例えあの伯父の家であったとしても、逃げ込める場所あるのだという気持ちが、僕らを弱くしたのだろうと思う。何としてでもあの東京で生きて行く術を見つけるべきだったのではないかと、頭のどこかで思いながら、僕とお母さんは話すべき言葉も見つからず、ただ手を繋いだまま列車に揺られた。

 どんどんと冷たくなるお母さんの手を、離すまいと強く握っていた。

 お互いの手の感触だけが確かなものだった。

 

 

「んっ……いや……駄目、いけません……そんなところ……ああっ……」

 夜の静けさにピチャピチャと水音が絶え間なく続き、甘く切なそうな声で、お母さんがイヤイヤと声を上げている。

 襖の隙間から覗くと、伯父が畳に突っ伏して、大きく広げさせたお母さんの股を味わっていた。

 ズズ、と汁をすすって伯父は息継ぎをする。

「蕾をこんなに膨らませて、嫌も何もねェだろ」

 伯父の手が股間に伸びるとお母さんは、「ア!」と甲高く鳴いて顔をそらした。快感に打ち震えながらも、それを否定するように目を強く閉じ、伯父を押し返そうとしている。

 しばらく指先でお母さんを虐めてから、伯父は立ち上がるとお母さんの手を取って、自らの股間に導いた。

「それともこれが欲しいか」

「そ、そんなこと……」

 突き離そうとするお母さんに、伯父はぐいぐいと股間を押し付けるように追い立てる。お母さんの綺麗な手に、さらりとした髪に、ふっくらやわらかい頬に、汚い排泄器官が触れているのかと思うと、僕は泣いてしまいそうになる。

「これがいらねェって言うんなら、別に舌でも指でもいいな。俺は清子の感じてる声が好きなんだ」

 そう言うと、伯父はごろりとお母さんの身体を倒して、身体の上下を互い違いにして女陰を舐め始めた。

 肌の門を舌でこじ開け、奥の肉襞に指し入れて、肉の蕾を吸い、時々内腿に唾液と淫液にまみれた舌を這わせる。

 絶え間のない小さな刺激にお母さんは甘く鳴き続けた。

「清子も舐めろ」

「そんな……こんな物……」

「舐めろ」

 抗弁しようとしたお母さんは、その短い命令に屈して、伯父の陰茎を舐め始めたらしい。伯父の気ままな舌の音にまぎれて、お母さんの甘い声と躊躇いがちな水音が、小さく混ざった。

「ん、あ……ぇろ、ろ……ァ、イイ……ああ……んァ……もごっ!? ぼ、お、うぉ……ぷぁ……んァ……」

 二人はそのまま夜が更けるまで、お互いの性器を舐め合い続けた。

 一度東京へ戻ってから、伯父の責めは変化した。

 こうして性器を舐めるだけで終わったり逆に一晩中舐めさせたり、指で弄り倒してそれでお終いという日が増えた。何日も、あるいは一週間や二週間もの間、お母さんはそうしてあの手のこの手で弄ばれた。

 狂乱した咆哮がない代わりに、まるで一枚一枚母という殻を剥いていくように、お母さんは牝の顔をのぞかせていった。いつものお母さんがじわじわと、そうして快楽に溶かされているような気がして、僕は余計に不安だった。

 七日もそんな夜が続くと、お母さんは昼であっても、ぽーっと熱に浮かされたような顔をして、物欲しそうに自分の人差し指を咥えていたりする。

 僕が「お母さん」と声をかけると、はっと指を口から離した。生々しい唾液の糸が、てろりと橋をかける。

「あら、賢吾。おかえりなさい」

 どこか虚ろな瞳で、妖しく微笑むお母さんをとても遠くに感じた。

 そんな母親を繋ぎ止めようと、僕は必死に訴えた。

「あの……お母さん。今日、試験が返ってきたよ。高等科でも、ちゃんと一番だったんだ」

「そうなの……えらいわね……」

 いっそううっとり目を細め、僕の頭を撫でてくれる。けれども反対の手は、太ももの上から滑り落ちて、股をゆっくりと押さえ、なんとか刺激を得ようとしている。

 そうして焦らしに焦らした後、伯父は必ず一晩中お母さんを抱いた。

「い、いぐッ! そこ……おッ、おグゥウううっ! イヤっ! アアッ! おかしくなるっ! おかシく、アああアアッ!」

 ほとんど悲鳴に近い嬌声が家に木霊した。伯父の身体に縋り付いて、全身をビクビクと震わせて、ガクガク腰を振り続けていた。

「やッ!とめ、止めて……ずっとイってるからぁああ!」

 自分で腰を動かしていることさえわからぬまま、お母さんは意識を失うまで性交に溺れた。

 このごろ僕は、お母さんが伯父との性行為を受け入れ始めたように思う。気持ち良いことに従順になっているように見えた。

 逃げ道のない苦痛を耐えるには、苦痛自体を受け入れる他ない。

 東京の家という逃げ場を失って、お父さんの帰りを待つためという細い支柱だけでは、お母さんは、そして僕ももう限界だった。

 お礼として当然のことなのだと、気持ち良いのだから仕様がないのだと、自己弁護をして行為の正当性を見出さなければ、きっとお母さんは壊れてしまう。

 そうして快楽に没頭して、ようやく自分を保てるほどに追い込まれていた。

 僕も将来立派になるためにとか、お母さんの気持ちを無駄にしたくないとか、いろんな言い訳を並べ立て、伯父に反抗する勇気がないことを、必死に忘れようとしていた。

 いつか来る救いの日を、僕らはそうして待ち望んでいた。

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