椿姫視点
第一試合が終わり、インターバルタイムに入った為、一旦選手控室に戻る
「……ただいま戻りました」
「お疲れ様。椿姫。よくやってくれたわ……」
ああ、会長そんなに辛そうな目で見ないでくださいよ
私の怪我が痛々しいのはわかってますから……
「みんな?椿姫にタオルとスポーツドリンクを。あと傷テープも貼ってあげて?」
「「「はいっ」」」
「お疲れ様です……!椿姫さん」
「さすがです。副会長」
「すごかったです!さすが椿姫さん!まさかあんなすごい隠し玉を持ってるなんて思いませんでしたよ!」
選手控室の椅子に座り込むと、先ほどの試合の疲れがどっとやって来る
瑠々子と巴柄達がゲームの結果を称賛しながらタオルやスポーツドリンクを渡してくれる
花戒が傷テープを火傷した場所へ貼ってくれる際激痛が走る
「つっ……!?」
「あっ!?ご!ごめんなさい!?椿姫さんっ!」
「あ……、いえ、大丈夫です。気にしないで……」
今回のゲームは勝ち抜き戦形式だ。倒れてリタイアするか自分でリタイアするまで続行可能だ
ティアマット先生は私が相手チームの2人か3人目まで倒せると言っていた……
先ほどのヴァルグロとのゲームで重傷を負い、体力も戻っていない状態だ……
最低でもあと一人……あと一人倒さなければ技を温存して戦っていた意味がない……!
会長はお優しい方だ……
恐らく……会長は次に口を開く時こう言うだろう……
椿姫?その怪我で次の試合に出るのは危険だわ。次の第二試合は棄権しなさい。と────────
ヴァルグロは私の持つ全ての技と魔法、神器……その全てのカードを使って戦っていれば完勝することも出来た相手だ
だが、私はそれをしなかった。それは第二試合、第三試合へと続く試合があり、その先のゲームでも勝つために技を温存したのだ。
ここで棄権したのではこの怪我を負った意味がない……。
そして、ティアマット先生が私に寄せてくださっている期待にも……応えられない
だから……それはできない相談です。会長……
「椿姫?その怪我で次の試合に出るつもりね?」
……
会長の口から予想していた言葉と違う言葉が出て少し面食らいながら口を開く
「はい。そのつもりで力と技を温存しながら戦っていましたから……」
「……そう、やっぱり……。それなら、任せるわ。あなたに……」
「……!はい!私に任せてください!」
「ええ、頼りにしてるわ。でも、これだけは約束して?本当に危ないと思ったらリタイアする事……」
「承知しております、会長。私にはまだ……、会長の夢を手伝うという大役が残ってますから……」
「ええ。それがわかってくれているのなら安心しました」
会長が、私の気持ちを汲んでくださった……!
私が力を温存し、戦っていたことなどお見通しで、
なぜそうする必要があったのかまで考えてくださった……
この続投の許可は……私への信頼の証だ……
この信頼に応えなければ……
ビーッ!
「ただいまを持ちまして、インターバルタイムは終了です。試合に出られる方はゲームフィールド転送魔法陣へお入りください」
「じゃあ、行ってきます……!」
「椿姫さんっ!無理しちゃダメですよっ!まだ後ろに私達もいるんですからっ」
「副会長……。ご武運を願っております」
「椿姫。行ってらっしゃい」
「はいっ!会長……!」
皆の応援を背に私はゲームフィールドへの転送魔法陣に入る
シュ……ン!
転送魔法陣が輝き、光の柱が立った次の瞬間ゲームフィールドへ転送される
先ほどヴァルグロと戦った時の何もない戦闘フィールドではなく、第二試合は木々が鬱蒼と生い茂る森だった
どうやら、試合ごとに違う戦闘フィールドが用意されているらしい
「先ほどの第一試合で勝利を収めたシトリー眷属・「女王」神羅椿姫!続投のようです!
対するグラシャラボラス眷属は……騎士・久我司!」
相手は騎士……
騎士の駒は行動速度を速める効果を持っている
騎士の駒も魔法職が苦手とするタイプだ、
少し手札を多めに出してでも早めに片付けなければ私の体力が持ちそうにない
出来るなら3人目まで倒してからリタイアをしたい……!
ザッ……!ザッ……ザッ……!
鬱蒼と生い茂る木々の奥から足音が聞こえてくる
木陰に姿を現したのは学生服姿の男子、
もう夏服の時期だというのに冬の学生服を纏っていた
背格好は私より少し低い少年……
年の頃は中学生くらいだろうか
黒髪で黒い瞳……
幼さを残す端正な顔立ちで野暮ったい感じはあるが、美少年と言えるだろう
「……驚いたな。ヴァルさんを倒した女王が連戦を仕掛けて来るとは思わなかったよ」
「私はまだ戦えますからね。よろしくお願いします」
「……とてもそうは見えないけど。ま、いいや。やるのなら遠慮はしないよ」
「ええ、もちろんです。ありがとう」
こちらは全身に包帯や傷テープを貼られ、体力も回復し切っていない状態だ
パっと見は満身創痍に見えても仕方ないだろう
だけど、そんな事は相手には関係ない。やるのであれば遠慮はしないなんて当然だ
「……ありがとう?おかしな事を言う人だな……」
「今この場にいる以上、女だとか怪我人だとか関係ないわ。ただの一人の「戦士」なのだから。
あなたもそうでしょう?だからこそ、私に対して遠慮をしないと言ったのが嬉しくてね」
「その通りだよ、僕は戦うためにここにいる。だからあなたが女だろうが怪我人だろうが関係ない」
一切の表情を動かさず言葉を紡ぎだす少年
その表情からは何も読み取れない……
現状でわかる事と言えば、学生服で剣も黒いという事だけ……
これは、手ごわい相手かもしれない……
「それでは!第二試合開始のカウント始めます!10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……始めてください!」
スタートと同時に後ろに飛び相手から距離を取り、多重詠唱で魔法を詠唱し始める
「っ……!」
「……さて、始めようか?」
彼はゆっくりと黒い剣を抜き構える
……?
一刀流なのに、片手で構えている……?
一刀流なら両手で剣を握り、正眼に構えるのが一般的なはずだ
それがなぜか片手で構えて……
ズシャアッ!!
「っ……!?」
後ろから背中を何者かに斬りつけられる
「……!?」
即座に後ろを向き確認するが誰もいない
ッ!?
「……」
次の瞬間いつの間にか前から久我が接近してきて逆袈裟に斬りつけられる
咄嗟にバックステップで後ろに飛んでかわそうとするが、斬りつけられた腕に深い傷を受ける
「……戦闘中にどこ見てるのさ?」
「くっ……!」
短時間に背中と腕を深く斬りつけられ、血が勢いよくダラダラと流れ出す
このままじゃまずい!
召喚を呼び出さないと……!
上空に飛び「追憶の鏡(ミラー・アリス)」!
神器を発動させようとするが、発動しない……!?
久我が空中に富んだ私を見上げ口を開く
「不思議そうな顔してるね?僕は漫画のキャラみたいに手品の種を明かしたりしないよ」
「っ!?」
やっぱり、こちらの魔力を封じられている!?
その次の瞬間彼が剣を構える、
私とは10M以上は離れている状態で剣を構える……
……まさか!?
振り返ろうとした瞬間……、後ろから背中を斬りつけられ地面に叩きつけられる
ズシャッ!!!
ダンッ……!
「カッ……ハ……!」
地面に叩きつけられながら確信した、あの剣は神器で、距離がある相手でも斬りつける事が出来る上に、
斬りつけた相手の魔力を封じる力を持っている……!
魔法職にとって最悪の相手だ……!
防御結界は掌から魔法陣を展開させるため、前方にしか張れない……
全身にかけるタイプの防御結界を纏っているから、倒れていないようなもので、
かかっていなければとっくに死んでいるレベルの致命傷を受けている……
先ほどから震えが止まらず、冷たい汗が全身から吹き出してくる
汗が私の体を冷やし悪寒にも似た寒気に襲われる
両手で体を支えながら体を起こそうとした時────────
「……もうリタイアしなよ。お姉さん」
私の手に黒い剣が突き立てられる
「があっ……!!!!?」
久我が剣をグリグリと左右に動かしながら傷を広げていく
「ねえ?聞こえてるんでしょ?」
くっ……
せ、せめて、一撃だけでも……!
真正面にいる久我に私に残された全ての魔力を費やし魔力砲を打ち込む
「……」
久我が即座に剣を抜き取り後ろに飛び、剣で魔力砲を真っ二つに斬る
「くっ……!」
「ラストチャンスに5秒あげる。リタイアして?しなかったら、……殺す」
「5……4……3……」
私の全力の魔力砲をこともなげに切り捨てられ、私の心は完全に折られた
これは……勝てない……!
すみません……!会長……
「……参りました。リタイアします」
「……グラシャラボラス眷属・騎士!久我司勝利!」
「……手負いの状態で戦場に出てくるなんて自分に酔いすぎ。「戦い」を舐め過ぎだよ。お姉さん……」
そう勝ち名乗りをあげながら、剣を振り着いた血を振り払う
ビッ……!
私の血が飛び散り、血で綺麗な円形を作り出す
その光景と言葉を最後に私の意識は遠のいていった
その次の瞬間私はリタイアの光に包まれる
目を覚ました時、最初に目に入ったのは白い天井
「あ……?」
「っ!?ソーナ!目が覚めたみたいよっ!」
「椿姫っ!?」
「副会長!」
「椿姫さんっ!」
「副会長……よかった……目が覚めた……」
「副会長さんっ!よかった……」
「副会長、良かったです、目が覚めて」
「目が覚めてよかったですわ……椿姫さん……」
「ふうむ、あの剣士の存在は予想外だったな……」
「良かった。目が覚めましたか。副会長」
「くっ!?ゲーム、は……?会長……」
体を起こそうとするとまだ若干の痛みが走り顔が強張る
「あっ!?ダメよ!椿姫っ!寝てないとっ!」
会長が私の肩に手をやり無理やり寝かされる
「う……っ!すみません……会長……」
負けた悔しさがこみあげてきて布団で顔を隠す
「椿姫。いいのよ。あなたはよくやってくれたわ、あなたが生きていて本当によかった」
「っ……!」
会長のその言葉に喉がつまり、涙がこみあげてくる
必死にその悔しさや申し訳なさを噛み殺すため布団を強く押し付ける
1分ほどして少し、気持ちが落ち着いたため布団を顔からのけてうかがってみる
「あの、ゲーム、は……?もしかして……もう全部終わったんですか?」
「今はまだゲーム間のインターバルタイムよ。もうじき試合開始になるから戻らないといけないけど……」
「っ!それなら私も観客席に……行きます。」
「っ!?何言ってるの!?アーシアさんが怪我を治してくれたとは言えまだ安静にしていなさい!」
「いえ……!いさせてください。おとなしくしていますから……。せめてみんなの応援だけでも、させてください……!」
「もう、言い出したら聞かないんだから……」
「会長……」
「もう、わかったわ。だけどおとなしく座って見てるのよ?椿姫……」
「はい、もちろんです。会長。……お役に立てず申し訳ありません……」
「何を言ってるのよ、あなたは立派に戦ったわ。椿姫……」
「しかし……」
「だっ!大丈夫ですって!椿姫さん!まだ一勝一敗でイーブンじゃないですか!
これから巻き返したらいいんですって!私がんばりますからっ!」
「と、とにかくあの剣士と戦ってわかった事を伝えておきます」
「次は私です。副会長」
「巴柄……。あの剣士と戦ってわかった事は、彼の剣は斬りつけた相手の魔力を吸い取る神器だという事がわかりました。
それと、おそらく神器の能力で後ろからも攻撃ができます」
「あれは神器「漆黒の英雄の剣」だ」
「ティア?知ってるのか?あの剣の事」
「ああ、噂程度だがな」
「漆黒の英雄の剣」
ヨーロッパのとある小国を救った英雄が使っていた剣だ。
内戦、紛争、戦争、略奪……過去ヨーロッパではあらゆる争いが起こった
とある小国に住む兵士がいた、その兵士は戦争を終わらせるために数多の戦場を駆けた
「私のこの手が血に染まろうとも、戦争を終わらせてやる」
と敵を殺しまくった。
良いか悪いかは置いておいて、己の信念に従い戦った戦士だったそうだ。
その英雄は敵の返り血を浴びても血が目立たぬよう黒のローブを纏っていたそうだ。
そして剣も主に似てか、敵の返り血を浴び続け剣は黒く変色した」
「いつしか、その風体から彼を「死神」と呼ぶ者さえいた」
「……人間とは身勝手なものでな?
彼が一人目の兵士を殺した時、世間は「あいつは人殺しだ」と責め、
彼が10人殺した頃は「あいつは殺人鬼だ」と罵った。
彼が千人の兵士を殺す頃には「英雄」と称えた」
「彼はただの人間だったため、魔力を持たず生まれてきた。
当時は現代以上に魔力や魔法と言った、魔術が戦争に使われていた時代だったため
彼は魔力に対し強い憧れを持っていたそうだ」
「しかし英雄と称えられた彼に平穏は長く与えられなかった。
戦争が終わったら今度は「魔女狩り」が盛んになった。その英雄の最後は「魔女」として民衆に処刑された
「あんなに強い力を持つ者が自分たちと同じ人間であるわけがない。
「あいつは魔女だ」生かしておけばいずれ自分達に危害を与えるかもしれない」という理由でな。
彼がそれまで信じてきた仲間や恋人、守ろうとしてきた民衆に裏切られ彼は絶望の中処刑台に送られ処刑された」
「っ!そんな……!」
「まあ……、よくある話だ……」
「……その強い怨念が、想いが、剣に宿り神器と呼ばれる武器になるまでに昇華した
あの剣で魔力を持つ者を斬ると魔力を吸い取るのだ」
「皮肉なものだと思わんか。魔力を持たず生まれてきた者が、魔力を欲し羨みながら生き「魔女」の汚名を着せられ殺されたのだからな」
「魔力とは、魂に流れるオーラを元にしたエネルギーの総称だ。それを吸い取られるという事は……わかるな?」
「っ……!」
冷たい汗が背中を伝う
「魔力を吸い取られるという事は、魂を吸い取られるという事と同義だ。
あの剣で殺されたものは転生に必要な魂の量が足らず転生も出来ない」
「放出系の魔力砲などは無意識に「これ以上使えば命に関わる」という
ブレーキがかかるため「魔力が枯渇した」と感じるのだ」
「……という事は、あの後ろから斬りつけられたのは何かの技でしょうか」
「……あれは私にもわからんな……」
「そうですか……」
「……あれには心当たりがあります……」
「えっ……!?巴柄……!」
「私が悪魔に転生する前の……。私が退魔士だった頃の、同業者です。久我司は……」
ビーーーーーッ
「第二試合を開始いたします!出場される方はゲームフィールド転送魔法陣にお入りください!」
「っ……!始まりますね。行ってきます!会長!」
「ええ。頑張って……。でも、決して無理はしないで……?」
「わかってます。……必ず勝ちます……!」
「巡さん!気を付けて!
「巡!私達は修行であれだけしごかれたんだ!勝てよ!」
「……ああ!任せてくれ!」
巴柄視点
今日、ゲームに出場するチームメンバーの一覧が電光掲示板に表示された時……息を飲んだ
弱冠6歳にして退魔士の資格を取り、以降5年程の間彼の活躍を聞かない週はなかった
悪霊、悪魔、堕天使、妖怪……あらゆる人に仇成す存在を屠ってきた退魔士。
「退魔の神童」とまで謳われる少年……「久我司」
同じ退魔業だったため彼の噂は嫌というほど耳にした
大型の悪霊や妖怪を討伐した話など数えきれないほどだ
それに比べると私の退魔士としての経歴は平凡そのものだ
大物と呼ばれる妖魔を討伐したことなど一度もない……
しかし、この勝負、負けるわけにも、逃げるわけにもいかん……!
嫌な汗が頬を伝う
勝てるのか?私に……
「巡?ちょっと耳貸せ」
「な、なんだ?兵藤」
そんな事を考えていると、後ろから兵藤に話かけられ動揺してしまう
「いいから、ちょっと耳貸せ」
「え……」
「いいか?───────────」
「……それ、本気で言ってるか?」
「もちろん」
「……兵藤、出来ると思うか?私に……」
「出来なきゃ、死ぬか負けるだけだ」
「……そうだな。やるしかあるまい……」
「ただし、チャンスは一回だ。一回だけ有効な手だと考えてくれ」
「わかった……」
久我司 視点
……次は、騎士か
次も勝たないとな……
僕は戦う為にここにいるんだから……
第二試合を終えた僕はゲームフィールドに残ったまま
インターバルタイムを過ごしていた
待っている間に僕は再度確認する
何故自分はここにいるのか
何故自分が戦うのかを……
確認するため過去を思い出す
───────「五大宗家」の一つ「百鬼」
「百鬼」の現当主が妾に産ませた子供
その類稀な能力も手伝って一族からつまはじきにされた
思い出せる中で一番古い記憶は、6歳の頃だ。
本家の偉い人に命じられ、法術で動きを封じられている子供の妖怪を殺す事だった
「お前は才能がある。類稀な退魔の才能がな。
お前が一族のはみ出し者として自覚があるのならその能力を一族の為に使え」
子供の頃の事で思い出すのは、
この神器「漆黒の英雄の剣」を狙う魔物に命を狙われる日々ばかりだ
そして、そんな僕のせいで、母も妖怪に命を狙われ死んだ
唯一の肉親だった母を亡くした僕に待っていたのは地獄だった
天涯孤独となった僕を本家の人たちは僕を苛め抜いた。
「妾の子の癖に神器など宿して生意気だ」
と何度集団によるリンチをうけたかわからない
食べる物もその日の本家の人たちの残飯や余った食材を盗み食うくらいだった
食材を盗み食いした事が判明するとまた集団で殴る蹴るの暴行を受けるのは、わかってはいたが空腹には耐えられなかった
そんな生活を続ける中、夜中に目が覚めると、応接間に人の気配を感じそっと聞き耳を立てる
そこでは……
「あの妾の子をどうやって処分すればいいと思う?
本家の子より秀でている妾の子なぞ生かしておくのは一族の恥ぞ」
そうはっきりと聞こえ、声を出しかけるが僕はハッと息を飲んだ
「私達が直接手を下したとなれば問題が明るみにでよう。
妖怪の仕業に見せかけ殺すのはどうだろうか」
などと僕を殺そうとする相談が行われていた
その夜は恐ろしくて一睡もできず、次の朝を迎えた。
「このままこの家にいたら殺される!」
そう思った僕はその朝早く、まだ夜が明けきらない内に身支度を済ませ家を出た
こうして僕は10歳の時に「百鬼」と「五大宗家」を捨てた。
雨風をしのげる家も食べる物も満足にない状況の……いわゆるホームレスになった。
幸運にも僕には神器と呼ばれる異能の力があり「退魔」を生業とすることができた。
僕はどうやら退魔士としては優秀だったらしく、すぐに食べる物、寝る場所を得るだけの収入は得られるようになった
退魔士としての収入があるので食べるにも寝る場所にも困らなかったが、いくら金があろうが所詮は10歳の子供だ。
身元保証人がいなければ家を借りる事も携帯を作る事すらも出来ない
そんな根無し草な日々を送る中、「虚空連」という五大宗家のはみ出し者が集まる異能者の組織から勧誘を受けた
直ぐには判断できなかったものの、いつまでもホームレスでいるわけにもいかないと決断し加入した
「虚空連」は異能者の集まりらしく様々な人たちがいた、その中には僕と似たような境遇の子供もいた。
他人と初めて「友達」という関係を築けたのは幸運だった
その「虚空連」で「斎藤小百合」という名の少女と僕は出会い、友人となる
この日本の中では各陣営が自分の陣地を守っている。
その中で唯一「京都」だけは「五大宗家」「虚空連」
……二つの人間だけで構成する組織によって守られている
「虚空連」で退魔士として沙百合ちゃんと一緒に任務を与えられた時だった
討伐目標の魔物を倒した直後の事だった。僕たちは40体ほどの堕天使達に襲撃を受けた
堕天使たちの言い分では僕たちが神器を持っているため、それを抜き取り手に入れるのが目的だったらしい
40体以上の堕天使たちに取り囲まれ、血まみれになりながら死を覚悟した。
無意識に僕は沙百合ちゃんをかばうため覆いかぶさった時だった
もう、ダメだ。殺される!
そう思い諦めようとした次の瞬間……
「ぎゃああああああ!??あちぃ!?あちぃぞぉぉ!?」
堕天使たちの群れを中心に爆発が起き、火炎にまみれる堕天使たち
「いよう?楽しそうなパーティしてやがるな?クソ堕天使ィ!?」
「俺たちも混ぜてくれよ!?酒にも女にも飽きて来てよぉ!暴れてえ気分なんだ!」
その声の主は、ゼファードルさんとヴァルさんだった
その二人の後ろには50人ほどの悪魔たちがずらりと並んでいた
突然現れた悪魔たちと堕天使の激しい交戦が始まり……
戦力差を感じた堕天使たちは逃げ去っていった
「おい、ガキ?生きてんのか?死んでんのか?どっちだ」
「う……ぁ……」
「カッ……!生きてやがるよ、こいつ。いい根性してるぜ」
「くっくっく……。おいヴァルグロ見てみろよ。こいつイカスぜ!
てめえも大怪我負ってるのに女の上に覆いかぶさってかばおうとしてやがる」
「……なあ、ゼファードルさん?こいつ連れて帰って生かして……いいか?」
「……はぁ?」
「……こいつよ。この女を生かそうとしたから余計に怪我を負ったんだと思うんだよな。……俺そういう奴好きなんだわ」
「……お前も妹をクソ堕天使に殺されたんだったっけか」
「ああ……。だから、どうにも……、こいつを、こいつらをほっとくってのが……」
ヴァルグロが頭を押さえながら苦し気に言葉を出す
「……ふぅ……。お前生かすたってなぁ、ここまで深い傷となるとな……」
「……ダ、ダメか……?死ぬのか?こいつ……」
「……生かすには悪魔に転生させるしか方法はねえかもな」
「た、助かるのか!?こいつ!」
「……この女の方は俺にゃわかんね……。スーラのバーさんに見せてどう言うか……」
「つ、連れて帰って良いんだな!?」
「……言っとくが、この女は俺の眷属にゃ入れねえからな?俺はロリコンじゃねえんだ」
「わかってるって!さすがゼファさんだぜ!」
「とりあえず、こいつだけ先に悪魔に転生させちまうか。今にも死んじまいそうだ」
こうして僕は「悪魔」になった───────
命を、救ってもらった恩を僕は返さなければいけない
僕には大層な志なんて何もない
ゼファードルさんや、ヴァルさん、他の眷属のみんな……
僕や沙百合ちゃんに親切にしてくれた、仲良くしてくれた、
優しくしてくれた
僕と僕の大事な友人の命を救ってくれた……
だから僕は受けた恩を返したい
僕が戦う理由はそれだけで十分だ───────