※この作品はR-18です。

赤い龍と龍の巫女   作:ローランシア

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ex02 ソーナと婚約騒動 その④

コッ……コッ……コッ……

 

ゲームフィールドへの転送魔法陣に向かい歩き出す

 

兵藤と話した後からずっと考えていた

あの後ろからの攻撃をかわしながら、前からの本体の攻撃を避ける方法を……

 

一週間、身近で「兵藤一誠」という男の近くで修行を共にした

彼は戦闘に置いて色々な事を私に教えてくれた

 

攻撃の効率の良い回避方法

回避行動を取った時に崩れた体制をどう立て直すか……

攻撃を避ける際、どれほどの距離で避けられるようにすればより攻撃チャンスが増えるのか

体力作りがなぜ重要なのか

戦闘の技術だけではなく、戦術の事も多く学ぶ事ができた

 

兵藤は私と同じ年だ

同じ年とは思えぬ知識と経験量、そして実力を持っている

ゲームの前に彼に指導を受けられたのは幸運と言えるだろう

 

兵藤なら、どうやって戦うだろうか

兵藤の実力が今の私と同じくらいだったとして……

彼なら……

 

……!

 

これか?兵藤……

 

ああ、そうだ。きっと彼ならばそうするはずだ

彼ならば相手が強いからと言って決して諦めたりしないはずだ。

 

兵藤は人間から悪魔に転生し、すぐ赤龍帝に修行をつけてもらったと聞く

ただの人間だった者があそこまでの高みに上るまでの修行は、

それこそ泥にまみれ無様に転げ、血反吐を吐くものだっただろう

想像を絶する痛みと苦しみと辛さ、己の不甲斐なさにまみれながら谷底から這い上がったはずだ……

彼はそうして倒れるたび立ち上がり、これまでの道のりを歩いてきたはずだ

 

「考える事をやめるな」

 

ああ、そうだな。君の言うとおりだよ。兵藤

諦めず、考え抜いたから、考えが一つのやり方に辿り着いたよ

 

「戦術」とは違う言葉を用いるなら「考え方」だ

考え方ひとつで戦い方は大きく変わる

 

今までの私なら、こんな考えは思いつかなかったはずだ

 

見ていてくれ兵藤

見ていてください会長。

 

私はこの戦いの中で、必ず相手を倒す方法を見つけて見せます……!

 

「ゲームフィールド中央の少し開けた広場に出る」

 

木陰から久我が姿を現す

 

「……よろしく。巡巴柄だ」

「こちらこそ、よろしく。久我司です」

 

一切表情が読めない……何を考えているのかさっぱりだ

 

久我は強い……

正直真っ向から勝負を挑んだのではあっという間に負けるだろう

実力差があるからこそ、戦いの主導権だけはこちらが握らなければいけない!

 

少々の策は考えてきた……!

後は、それが有効な手なのか試すだけだ

 

学べ、試せ、工夫しろ……でしたよね、ティアマット先生……!

 

「第三試合……開始カウント始めます……!

10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……始めてください!」

 

「っ!」

開始前に目星をつけておいた背後の巨木へ飛び、

即座に巨木を背につけながら納刀した刀に手をかけ居合のの構えを取る

 

あの後ろからの攻撃は「影心離心流」の「影刀」のはずだ……!

 

「……へぇ、驚いたな。「影刀」の事知ってる人がいるなんて思わなかった」

「……私も剣士の端くれだからな。他の流派にどんな技があるのか学ぶさ……!」

「なるほど。それもそうか。でも、その状況ってさ……!」

 

久我が一足飛びで距離を詰めてくる

 

……!

遅い……!

見える!久我の動きが……!

兵藤の動きに比べれば、遅すぎる!

 

「ただ、壁に追い詰められただけとも言えるよね!」

 

袈裟懸けの斬撃を拳四つ分で避ける

 

「っ……!」

 

即座に逆袈裟懸けの斬撃を振り上げてくるがそれも拳四つ分で回避する

 

見える……!

久我の……攻撃が見える……!

兵藤はもちろんだが、修行中に何度も手合わせをした木場の斬撃よりも遅い!

 

だが!

 

安心はしない……

慢心もしない……!

 

相手が、自分より遥か高みにいるというのは間違いない事実だ

 

今だって、後ろからの攻撃が来ない状況を作り出し、相手の攻撃が避けられるほどの速度だというだけだ

私と「退魔の神童・久我司」の差はそんなものでは埋まらない……!

この攻撃も余裕でよけられているわけではない!

 

全身の神経を……

目を、耳を、嗅覚を、あらゆる情報を「攻撃を避ける」

という事につぎ込んでいるからこそ避けられているんだ

 

少しでも気を抜けばあっさりと切り伏せられるだろう……!

 

だからこそ、一度だと言ったはずだ。兵藤は……!

そのただ一回限りのチャンスを待つ……!

その時までは、久我の攻撃を回避し続けて待つ!

 

「巡さん……、試合開始してから一度も攻撃をしていない……。これは一体……どういう……」

「……巡は攻撃を捨てて回避に専念して、相手の体力を削り切る気だな」

「え、攻撃を一切しないで、避けるだけ……?どういう事……?」

「……木場は「イージス理論」って、知ってるか?」

「……イージス?いや……知らないね。何だい?それは……?」

「100の戦力を持つ者と、101の戦力を持つ者が戦った時。101の戦力が勝つ。これは当然だよな?」

「うん」

「で、100の戦力を持つ者が勝つためには相手の戦力を100以下にするか0にするしかない……」

「うん」

「技術や才能、神器の強さ……いくら実力差があっても、相手の体力も無限ではないはずだ。絶対に限界はある。

巡は相手を疲弊させて戦力をほぼ0にする事で勝機を見いだせると踏んだんだ」

「あの久我って騎士は巡より技術もスピードも、おそらく実戦経験も上だと思う」

「うん……。巡さんには申し訳ないけど、僕もそう思うよ」

「それを踏まえて巡は考えたんだ。これだけ戦力差があるなら、下手に真っ向から挑むより。

巡がこの一週間で積み上げてきたもので戦ったほうが勝ち目があると考えたはずだ」

「巡さんが一週間で積み上げたもの……?……そうか、スタミナ……!?」

「ああ、ドライグが前に言ってただろ?「相手が疲弊したところを狙うのは常套手段だ」って」

「うん!なんだか、僕にも勝機が見えてきた気がするよ!」

「ああ、真正面から戦いを挑むのだけが戦いじゃない」

「……僕ももっと基礎訓練頑張ろっと……」

「修行に関してはドライグの言う通り修行してれば間違いないさ。なんたって戦いのプロだからな」

「うん!ドライグ先生!これからもよろしくお願いします!」

≪ククク……!、相棒の周りは変わった奴が多いな。きつい修行を自ら望むとは≫

「はい!僕イッセー君みたいになりたいんです!」

≪ククク!相棒のように、か?ならば木場よ?これからもビシビシ行くから覚悟しておけ……!≫

「はいっ!」

 

巡視点

 

兵藤は言った

 

「いいか?巡。戦い続けて疲弊した相手を狙うのは戦場では常套手段だ。

疲弊した状態で剣を振っても速度も遅く威力も弱い。

そこにつけ入る事が出来れば勝てる可能性はあるはずだ

けど疲弊しているだけじゃ避けたり受けたりされるかもしれない。

だから、攻撃する時は確実に攻撃を当てられる状況を作り出すんだ」

 

私が一週間という短い修行期間で得られたものは……、10キロ走り切った後息を切らさないスタミナだ

回避訓練は苦手で、一時間全てを避け切る事ができたのも修行最終日の終了一時間前だった。

 

この一週間の赤龍帝の修行は厳しい物だった

何度修行中に尻もちをついて息を切らし泣き事を言いたくなったかわからない

 

相手がどれだけ自分より高みにいようが、関係ない。勝って見せる

 

私がこれまで積み重ねてきた修行の成果、そして一週間という短い期間で得た経験、情報……

 

そして、兵藤がくれた助言……。その全てを使って勝って見せる

 

「はぁっ……はぁ……」

「ふっ……どうした?息があがっているぞ?」

「はぁ……ふぅっ……!……避けてばかりでなぜ攻撃してこないんですか」

「そちらの攻撃を避けるだけで精一杯で、攻撃をする隙を見つけられなくてね」

「……っ」

「ほら、私はまだまだ元気だぞ?かかって来い!」

 

剣とは、武器とは重いものだ

鉄や銅……。何らかの金属でできているため持つだけでもそれなりに力も体力も必要とする

その重いものを振るのだ、当然スタミナは減る

 

あの黒い剣の重さがどれくらいなのか知らないが

「振る」「薙ぐ」「突く」などの剣術の基本の動作を行うだけでも体力は消耗する。

あのような長剣であればたわみのモーメントが生じさらに負荷はかかるはずだ。

片手持ちで構えている彼のスタイルならば尚更きき腕にかかる負荷は増え

そこに相手へ接近する時の体力も当然減る……これは相当な負担だ。

 

もちろんこちらも回避しているため体力は減るが。

武器を振り回す事に比べると回避を行う際のスタミナの減り方は圧倒的に少ない

 

修行期間に気が付いた事だが、疲労とは少々休んだところで抜けないものだ。

彼が疲弊したところで休憩を入れたとしても疲れは当然残っている。

休んだとしてせいぜい息を整えられる程度だ

そして、彼が休めるという事は私も休めるという事……

つまり差が縮まるわけではない

 

そしてあの剣は神器だ

神器は出しておくだけでも精神力を使う

あの剣を持っておくだけで、精神力も、魔力も、体力も摩耗するはずだ

 

対して私の武器はただの日本刀だ

神器でも何でもない、ただの無銘の刀だ

精神力も必要なければ、神器を扱うときの魔力も必要ない

納刀状態で刀に手をかけてはいるが、手に持ち振っているのに比べると段違いに体力の摩耗具合は軽い

 

性能的には絶対的な差がある

まさに、「比べ物にならない」

 

だが、逆にそれが勝機の鍵を握る

 

私は戦闘の技術で君に遠く及ばない

実戦の経験も君には遠く及ばない

 

だが……私にも積み上げてきたものがある……!

私は君ほどの強者を相手にして、綺麗に勝てるなど最初から思っていない……!

 

さぁ、酷い試合をしよう……!

 

私の体力が尽きれば君の勝ち、君の体力が尽きれば私の勝ちだ……!

 

試合開始してから10分が経過しようとしていた

段々と久我の動きに鈍さを感じ出す

 

ああ、いいぞ、その調子だ……!

その調子で体力を使い果たし、一振りすら辛く感じるくらいになれ……!

 

久我の額に汗がにじみ出してくる

 

「くっ!?はぁっはぁっ……」

 

ああ、そうだな、

久我、お前はその類稀な才能で今まであっという間に勝負を決めてきたはずだ!

だから、ここまで一回の勝負で時間がかかった事がないはずだ……!

 

久我?お前は経験した事がないだろう?

一発も攻撃を当てられず、一発も攻撃をされないまま……

体力が尽き無様に膝をつき泥まみれになりながら、

泣き言を口にする情けなさや惨めさなど……!

 

あまつさえ、手合わせしていた相手に「おい、大丈夫か?」等と

涼しい顔で見下ろされながら心配される悔しさなど……!

 

久我の体がフラフラと揺れ出し、剣を振る速度も緩やかになってきた

 

「はーっ……はーっ……!!」

 

……ここだ!

 

私は試合開始からずっと後ろからの攻撃を受けないように木を背に戦う事を徹底してきた……!

久我の剣を寸前でかわす

疲弊しているためか速度はだいぶ落ちている

速度が落ちているという事は、威力もそれほどはないという事……!

 

そして!この第二試合のゲームフィールド……!

木が生い茂り障害物が多数ある中

長物の得物を振り回すのは非常に戦いにくいものだ

 

 

ティアマット先生は言っていた……

魔法を……、

攻撃を当てられる状況をいかに作るか、学べ、試せ、そして工夫しろ。と──────────

 

ガッ……!

 

久我が横薙ぎに薙いだ際、木に食い込ませる

疲弊しきっている体と、試合開始からずっと振り続けた剣により腕に力も入らないのだろう

久我が剣が抜けず一瞬の隙を作る

 

「っ……!?くっ!?抜けない……!」

 

ああ、役に立つ……!

私がこの一週間で学んだ事、得たもの……全部役に立つよ……!

 

「これで……、終わりだ!」

 

その隙を見逃さず、居合抜きで切り伏せる

 

「クハッ……!?」

 

ブシャアアアアッ……!!

 

一刀の太刀の元、体から血飛沫を上げながら崩れ落ちる久我

 

「シトリー眷属・巡巴柄、勝利!」

 

 

私は観客席を見上げる

 

兵藤、見ているか?

私も君と同じ道を歩み始めたよ

考えて、悩んで、試して、上手くいかず落ち込んで……

それでも顔を上げ再び修練を積み重ね、考え悩み試す……

それは終わりのない自己研鑽の道……

 

 

君が前を歩く道を、私も歩き始めたよ。兵藤──────────

 

 

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