※この作品はR-18です。

僕のハーレム聖騎士団   作:もっちもっち

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一章
1話 出会い


 城下町の広場は、奇妙な緊張に包まれていた。

 急ごしらえの立て看板を、多くの若者が見上げているのだ。

 彼らの顔はほとんど、期待と不安という隣り合わせの感情に覆われていた。

 それもそのはず、立て看板には、彼らの未来が記されているのだ。

 

【王立軍入隊試験 合格者発表】

 

 一番上の目立つところに、太字で書かれた文字列。

 それこそが、この看板の名前であり、役割であった。

 だが、若者たちが見上げて探すのは、目立つ文字列ではない。

 余白などないほど、敷き詰められた合格者の名前。

 そこに紛れた、自分の名前を探しているのだ。

 見つかれば合格、見つからなければ……

 

「落ちたかぁ……」

 

 落選を表明する、嘆き。

 それを、誰よりも早くつぶやいたのは、一人の少年だった。

 きれいに整えられた黒髪に、優しげな顔立ち。

 背丈は周囲の若者たちより低く、若いというより幼いという印象が強い。

 

「うまくやれたと思ったんだけどなぁ……」

 

 少年はそう言うと、看板に背を向けて歩きはじめる。

 内心では落選を覚悟していたのか、あるいは他にやることがあるのか。

 どちらにせよ、少年は落選したその他大勢のまま、大通りの人込みに溶け、流されて消えようとしていた。

 

「そこの少年。待ってくれないか」

 

 若く、凛々しい女性の声が、それを止める。

 少年が反射的に振り返ると、そこには見覚えのある女性兵士がいた。

 試験会場で何度か見かけただけの関係だが、それでも覚えていたのは美人だからだ。 

 長い金髪と、切れ長の青い瞳、すらりと伸びた長身。

 兵士の制服と鎧を着ていてなお……いや、だからこそ素材の美しさが際立つ女性であった。

 

「ええと、僕ですか?」

 

「そう、君だよ。確か……イオ君だったね」

 

 女性は足早に近づき、少年の名を呼んだ。

 いよいよ人違いではないと確信した少年……イオは、姿勢を正して会話に応じる。

 

「はい。お姉さんの名前は……」

 

「おっと、名乗るのが遅れたね。わたしの名はリリア。入隊試験では様々な雑務を担当していた。まあ、たくさんいた雑用係の一人さ」

 

 リリアはそう言うと、近くのベンチに視線を向け、問う。

 

「イオ君、少しでいいんだ。話をする時間をもらえないだろうか」

 

「話って……まあ、構いませんよ」

 

 イオは首を傾げてから頷き、リリアが示したベンチに座る。

 何の用かも聞かずに安請け合いしたのは、きれいなお姉さんへの興味だけではない。

 実は合格でした……とまでは行かずとも、いい話の気配を感じ取ったからだ。

 

「ありがとう。まず、試験は残念だったね。イオ君もとてもよかったのだが、今年はちょっと豊作すぎたようだ」

 

「とてもよくても落とされた方は、たまったもんじゃないですよ」

 

 リリアの慰めに、イオは苦笑いした。

 とてもよくても落ちるという矛盾は、今回の入隊試験に関しては事実だ。

 なぜなら……

 

「そうだろうね。だが、事実だ。いずれ英雄と呼ばれてもおかしくない人材がごろごろしていた。わたしのような雑用係の耳にも、試験官のうれしい悲鳴が聞こえてきたほどさ」

 

「確かに、すごいのがいっぱいいましたよね。剣術がすごいのとか、力がすごいのとか、足がすごく早いのとか」

 

 イオの語彙が『すごい』で占領されてゆく。

 そうとしか言いようがないほど、無茶苦茶な奴らが大勢いたのだ。

 

「だが、君もすごかったよ。覚えているかな、小隊を組んでの洞窟探検」

 

「ああ、あれですか。あれはきつかったなあ……」

 

 リリアの言葉に、イオは頷きながら思い返した。

 国の管理する洞窟を使った試験で、指定された鉱石を採取して戻ってくるというものだ。

 道中には様々な罠が仕掛けられ、アクシデントへの対応力も試される大がかりなものだった。

 

「甘い匂いのするガスが出てきたときは、どうなることかと思いましたよ。僕以外、ばたばた倒れ出すんですから」

 

 イオは、その中でも一番きつかった罠を口にした。

 麻痺効果のあるガスが散布されるというものだが、なぜかイオには効きが悪かった。

 おかげで、倒れた連中を一人で救助することになったのだ。

 

「ははは。試験官もあのガスはやりすぎたと言っていたよ。実際、イオ君たちのあと……あの罠は撤去されたそうだ。誰も対応できないと判断されたんだろうね」

 

 リリアは途中まで苦笑いをしていた。

 しかし、咳ばらいを一つすると、その表情が引き締まる。

 イオは、美と真剣さの合わさった圧力に、ごくりと唾を飲んだ。

 

「だが、イオ君は対応した。仲間を見捨てず、ガスの届かない場所まで引きずって助けた。そんな君のことが、どうにも惜しくなってしまってね」

 

「惜しくなったって、それって……合格ってことですか?」

 

 イオは首を傾げた。

 単純に合格にするなら、ここまで長い前置きはいらない。

 看板に名前を書いておけば済む話なのだ。

 

「いや、少し違う。イオ君さえよければ、わたしの所属する部隊……第十三辺境警備隊にどうかと誘いに来たんだ」

 

「辺境警備……それって、王都からは……」

 

「ああ。かなり離れることになるが、イオ君は確か……身寄りがないから兵士を志したんだろう。衣、食、住を保証できれば、来てもらえるのではないかと思ったのさ」

 

 リリアの言葉は、事実だった。

 イオは物心つく前に両親を亡くし、王都に住む祖父母に育てられた。

 そして、一年前に祖母が、十日前に祖父が亡くなったのだ。 

 孤独になったイオの前には、孤児院など、しかるべき施設の世話になるという道もあった。

 しかし、そうせずに兵士を目指したのは、祖父が元兵士だったからだ。

 大きく出世はできなかったが、堅実な働きぶりから皆に慕われ、それを誇りにしていた。

 そんな祖父への憧れと、働かねば生きていけないという現実が、イオを試験に挑ませたのだ。

 全て、試験の申込書に記載した略歴だ。

 

「そうです。兵士になれば給料も出るし、兵舎に住み込めるって聞いていたので……」

 

 イオは頷き、答え、考えた。

 今すぐに王都を出るなど、思ってもみなかった選択肢である。

 祖父母の遺品の整理だって、まだ終わっていない。

 ならば、答えは決まったようなものだ。

 

「……あの、少し時間を」

 

 いただけませんか。

 そう言おうとして、イオは気がついた。

 ほんの少しだけ、周囲の物音が遠くなっているのだ。

 都会の生み出す様々な生活音の前に、薄皮がかかったような違和感。

 それが、イオの言葉を途切れさせた。

 

「すばらしい(・・・・・)」

 

 同時に、リリアが微笑んだ。

 これまでの、凛々しい女性兵士のそれではない。

 獲物を前にした獣のように、背筋をざわつかせるような笑顔だった。

 

「……リリアさん?」

 

 イオは、反射的に名を呼んだ。

 その声に混じった疑念に、リリアはためらわず答える。

 

「この状況は、わたしのような聖娼(せいしょう)騎士のたしなみの一つ。周囲の世界と少しだけズレた空間を作り出し、あるいは侵入する魔法さ。テレポートのような空間操作の一種だよ」

 

「ち、ちょっと待ってください。せい……しょう?」

 

 イオの混乱は深まるばかりだ。

 答えの中に、新たな疑問を散りばめられては、そうなるほかない。

 

「清く、淫らに、美しく……淫魔を滅ぼす騎士のことさ」

 

 リリアは、そう言って指を鳴らす。

 同時に、光がはじけた。

 

 テレポート。

 

 さきほどリリアが引き合いに出した、転移魔法の光であった。

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