幾多の性を謳歌する 作:のーる
帝国の騎士達を狩ったことで、数多くの防具や武器。
そしてゴブリンには生産出来ない、布等の品々を手にする事が出来た。
部族のゴブリンには人間の肉を喰らう事は禁じている為、装備を剥いだ後の騎士や学生の死体は放置したが、馬は殺してから、今夜の食料として荷物持ちのゴブリンに肉を運ばせる。
学生ではあるが、魔法の知識を持つランゴバルトの身柄を確保することにも成功したし、今回の狩りはこれで帰還するべきだろう。
下手に欲張って多くの品物を得ても、それを持ち帰れなければ意味がない。
それに今は部族の存在を人間に、知られたくはなかった。
危険なゴブリンの集団がいると知られれば、この辺りなら帝国、または王国が討伐に乗り出さないとも限らない。
無論、俺が自ら戦えば大抵の敵は蹴散らせるだろうが、せっかく部族を築いたのに、それではつまらない。
俺が率いるブルザ部族を何処まで成長させられるか。
今回の姿では、その限界に挑戦してみたいと思っている。
「お前はマジックキャスターか!? 何位階まで使えるのだ?」
「だ、第一位階だ……、です」
「……第一位階か。 いやいや、まあいい。 人間達の魔導の知識を学べば、私は更なる魔法の力を得られるかも知れんからなぁ。 では、さっそく――」
荷物を纏めていくゴブリン達を眺めていたところ、歓喜に弾んだメルケの声が聞こえてくる。
ふと横の方向に目をやれば、怯えて体を縮こまらせたランゴバルトにメルケが盛んに話しかけている。
メルケの種族、ゴブリン・メイジは生まれながらの魔法の力を持つ種族。
ユグドラシルではプレイヤーも得ることが出来るクラスであり、レベルがあがる毎に魔法職と同じく三つの魔法を習得することが出来る。
この世界でも、ゴブリン・メイジは成長するにつれて数々の魔法を獲得していくが、それは精々第二位階まで。
第三位階まで到達するには種族的な能力ではなく、技能としての魔法を習得することが必要とされており、今回その切っ掛けを得られたかも知れないのだから、メルケがはしゃぐのも無理はない。
しかし、今はまずランゴバルトを自分の置かれた状況に慣れさせ、協力させるように取り計らう事が先決だろう。
「それは帰ってからにしろ、メルケ」
俺はメルケを制止し、ランゴバルトと目を合わせた。
「すまないな、メルケは魔法の事となると自制心を忘れる癖があるんだ。 さて、ランゴバルトよ、歓迎するぞ。 お前は異種族ではあるが、俺は能力のある者には相応の扱いを与える。 奴隷のような待遇では無く、れっきとした部下として迎え入れようではないか。 ………くく、まあお前としては直ぐには受け入れられんだろうがな」
ゴブリン達の準備が整ったのを見計らい、俺は全員に号令をかける。
ランゴバルトは常に目の届く位置に置いておけるように、すぐ横を歩かせる事にした。
彼はトブの大森林に踏み込む時は流石に躊躇したようだったが、俺が軽く促すと、首輪を付けられた野良犬のように肩を落としながらついてくる。
名前からして貴族のようだし、今はまだ家の者が助けを寄越してくれる可能性や、逃げる手段を探す事を諦めてはいないだろう。
だがブルザ部族の本拠地は、このモンスターが蠢くトブの大森林の奥地。
並みの冒険者では森の浅い部分に踏み込む事すら命の危険が伴う冒険であり、そもそも広大な森の奥地にいるランゴバルトを探すことが出来る人間は多くは無いだろう。
彼の方から助けを呼ぼうにも、そういった場合に便利な《伝言/メッセージ》は第二位階魔法だし、先程のメルケへの言葉が本当ならば使用することは出来ないはず。
すぐに彼の希望は断たれ、その後は生き残る為に周囲の環境に順応するしかない。
勿論、それを後押しする為に幾つかの方策が必要となるだろうが……。
それは帰ってから考える事にして、俺達は住処への帰途へとついた。
――――――――――――――
「これは……」
「今朝、流れてきやしてね。 俺の一存じゃあ決められねえと思って、ブルザ様を待っていたんですが……、どうしやす?」
帝国の騎士達を襲ってから三日目の昼頃、俺達は住処へとたどり着いた。
行きよりも時間は掛かったが、荷物を持っている事を考えると仕方がない。
歩き通しでここまで帰った事で、俺以外の者達は疲労困憊の様子だったが、住処の前では驚きの光景が広がっていた。
それは俺の部族ではない、数十人程のゴブリン達の集団。
見ると女や子供が多く、男は十人程度しかいない。
彼らは地面に座り込んでいたが、ラーガが群れの方へと歩き、男達の一人に何かを呟くと、一人の体格のいいゴブリン……いや、ホブゴブリンがこちらへと向かって来る。
「ブルザ部族の族長、ブルザ様とお見受けする。 我々はタオパ部族に所属していた者達だが、三日程前に部族が襲撃を受け、壊滅しました。 僅かな戦士達は女子供を連れて逃げ延びたが、もはや帰る所は有りません……。 一年程前から、様々なゴブリンを積極的に受け入れていると噂に聞く、ブルザ部族に入れて貰えないかと頼みに来たのです」
「タオパ部族……か」
渡りと呼ばれる、部族を渡り歩くゴブリンから、その部族は聞いたことがある。
ここから歩いて二日程の距離に住処を構えており、族長が知恵に長けているようで、かなりの勢力に成長していたようだ。
その数は聞いた限りでは、少なくとも三千以上。 一般的には弱いゴブリンとは言え、三千も集まれば並のモンスターでは手を出す事すら躊躇するはず。
一体、どのような存在がタオパ部族を壊滅に追いやったのか……、それが気になった。
「ふむ……、その襲撃者は?」
「白い翼が生えた者達を使役する多数――少なくとも数十人の人間……、そしてギガントバジリスクも見ました」
「………そうか」
表面上は冷静に頷いた俺だが、心の中で舌打ちしていた。
確かに話に聞くタオパ部族の住処は森の境界に近すぎるきらいはあったし、襲撃者が人間であることも想定はしていた。
だが、恐らく天使と思われる存在を使役出来る人間が数十人、更にはギガントバジリスクという要素を加えると、それ程の戦力を投入出来る勢力は一つしかない。
(スレイン法国……、こんなところまで出張ってくるとは……)
予想通りにスレイン法国がタオパ部族を襲撃したとすると、恐らくはスレイン法国の独断行動だろう。
タオパ部族は森の中でも帝国寄りの場所にあったし、もし帝国がタオパ部族を討伐したいと思えば、わざわざ他国に借りを作らずに、騎士団を動かす筈。
なのにいきなりスレイン法国による襲撃が行われたということは、帝国はこの一件を認識していない可能性すら有り得る。
俺としては、過激な人間至上主義を唱えるスレイン法国自体に悪い印象はない。
元人間として、異形種となった今も俺の美意識は人間だった頃のままだし、人間社会が無くなってしまっては人生における楽しみが減ってしまう。
スレイン法国が人類の守り手として大きな役割を果たしているのは事実なのだ。
かと言って、自国と隣接していないトブの大森林にまで手を伸ばしてくるのは勘弁して貰いたかった。
(仕方ない、これからはスレイン法国にも気をつけるか。 ここは森の奥だし、比較的見つかりにくいとは思うが………)
スレイン法国に対しての思考を一段落させた俺は、次は目の前の集団の処遇について考える。
十人、二十人の増加なら蓄えも足りるだろうが、ざっと数えて七十人程のゴブリン達が部族に加わるとなると……。
しかし、これほどのゴブリンが部族に加われば一気に勢力を伸ばす事が出来るし、女を大量に確保出来れば戦士達の指揮も上がるだろう。
俺が悩む様子を見て、群れの代表であるホブゴブリンが訴えかけてくる。
「お願い申し上げる。 三日前は百人以上いた我々も、今では七十人程まで減ってしまったのです。 他に行く宛も思いつかず、ここで追い払われては、我々は野垂れ死ぬしかありません。何卒……!」
「……仕方ない、な。 いいだろう、迎え入れよう。 しかし俺の部族に加わるからには、俺達のルールに従ってもらうぞ」
「そ、それは勿論」
交渉は成立し、彼らはブルザ部族に合流することに決まった。
確かに住処の拡張や、彼らがブルザ部族に馴染むまでは大変だろうが、これで部族の規模を一気に拡大することが出来たと捉えよう。