あいえむっ! ―I AM…ALL OF ME…R18異伝ー 作:ヱ子駈 ヒウ
あと誰このガチレズが主役ですが、気になった方は本編、読もう!(誘導)
朴月姫燐はレズである。
情熱的な鮮やかさを湛えた赤いショートカットに、思わずため息と共に凝視してしまいたくなる金色の瞳。背が高く、胸や尻といった出すべき所は無責任に放り出し、腹回りや顔回りといった部分はしっかりと節制した、女性として標準以上を備えた抜群のプロポーションは、一見して近寄りがたい雰囲気を纏ってしまいそうである。
だが、対してクリっとした大きく円らな瞳や、旋毛辺りから生えたちょっと間が抜けたようないわゆるアホ毛、そして何より表情豊かで明るい立ち振る舞いが、姫燐という少女には良く似合い、不思議と緊張感や威圧感などを感じさせない絶妙なバランスを保っている。
異性から持て囃されそうな要素を概ねコンプリートした、美少女とカテゴライズしても全く遜色ない彼女であったが、あえてもう一度言おう。
朴月姫燐はレズビアン。いわゆる、同性愛者である。
「はぁぁ……」
血色のよい頬から、ため息が漏れる。
同性愛者である彼女でも、年頃の少女に違わず、それなりに悩み事は多い。
ただ、平凡とは若干遠い悩みであることは本人も自認しているため、迂闊な相談もできないことがまた、溜息の色を濃くしていく。
突如到来した侵略者、絶対天敵。
結成されることになった、各国の代表候補生たちで構成されたチーム。
何の因果か、二つに分けられた隊のリーダーを任されるようになってしまった心労。
正体不明であり、明らかに地球上の生命とかけ離れた怪物たちとの戦いは、姫燐の心身共に削る激闘の日々であったが、同時に新たな仲間たちと心通わせる青春の日々でもあった。
「……どうかしたの、朴月姫燐」
今は部屋を同じとするこの戦友も、その一人だ。
青白い肌や、直視した者を震え上がらせるような切れ目。姫燐と同じ赤髪でありながらも、その長髪は滴り落ちる鮮血すら連想させる、冷然とした女戦士。
地獄の名を冠するギリシャ代表候補生、ベルベット・ヘル。
大層な名にまるで恥じぬ、専用機『ヘル・アンド・ヘヴン』を用いた冷酷なまでに的確な援護に、姫燐も何度助けられたか分からないが、
「疲れが顔に出ているわよ」
「ああ、どうしても解決法が思い浮かばない問題が一つ、な」
「そう、なら一度リフレッシュした方がいいわ。コンディションの調整を怠っていいほど、貴女が背負う物は軽くないはずよ」
「いや、まぁ……そうなんだが」
家族、クラスメイト、無辜の人々、そして戦友。
姫燐としても言われるまでもなく、誰一人として、絶対天敵の魔手に触れさせるつもりなど毛頭ない。
ない……のだが、
「そう、この『ヒメちゃん』も――貴女が護ってあげないといけない、大切な『妹』でしょう?」
架空の妹のために戦う覚悟も、ハナっから姫燐は持ち合わせていなかった。
ベルベットが見せつける、彼女自身のPCのデスクトップにデカデカと表示された、ゴスロリ服のロリっ子。
それは姫燐にとっては黒歴史としか言いようがない、昔の自分の姿であり、
「ところで、その……悩みが解決していない所、悪いのだけど……」
戦場でさえ鋼鉄の上に氷壁をコーティングしたような鉄面皮を崩さない彼女が、露骨に目を逸らしてしどろもどろに、しかし何よりも強く要求してくる、
「貴女の妹は……ヒメちゃんは、いつだったら学園に来れるのか、聞いてくれたかしら?」
絶対天敵がミリも関係ない、これこそが目下、姫燐が抱える最大の問題であった。
♡♡♡
ベルベットは人付き合いが、どうにも苦手であると姫燐が察知するのに、時間はかからなかった。
絶対天敵へのカウンターとして、IS学園に招集された各国の代表候補生。すなわち新たな転校生たちはみな揃って優秀ではあったが、それと反比例するように個性の塊のような連中でもあった。
そんな連中のトップに立つことになってしまった姫燐は、彼女たちを纏め上げるため四苦八苦することになったが、現状はなんとか深刻な諍いもなく親交を深めていけていた。
口には出さないが、結成からまだ日が浅いというのに、確かな結束力のようなモノも芽生え始めていると姫燐は感じ取れており、なるほど確かにこの人事は正解であったのかもしれないと他人事のようで、しかし同時に誇らしくも思っていた。
だが、
「でね、姫燐! 次の戦闘では、私がもーっと、前に突っ込むべきだと思うのよ!」
「いや乱、それはだなぁ」
「それは無謀よ、凰乱音」
どうにも姫燐としても、他の面子にしても、付き合い方を掴みかねているのが、彼女こと、ギリシャ代表候補生のベルベットだった。
例えば、このようなミーティング中での冗談半分のような会話でも、
「貴女の機体、甲龍・紫煙は突出した能力に欠けるわ。大人しく、いつも通り味方のフォローに徹していなさい」
「う、うぐっ……」
この有様である。
台湾の代表候補生、凰乱音も、どうせまた従姉の鈴と下らない事で喧嘩して、いつまでも子供扱いする鈴に、自分の実力を分かりやすく誇示したいがために、一番目立つポジションに立とうとしたのだろう。
だが実際、乱の機体はどちらかと言えば味方の支援において本領を発揮するタイプであり、姫燐も却下するつもりではあったのだが、無下にはせず論理立てて徐々に納得させるような形でするつもりであり、ここまでバッサリと切り捨てるつもりはなかった。
「な、なによ! アンタも私が頼りないって」
「ええ、頼りないと断言できるわ。そんな突破力に欠ける機体で先陣を切るだなんて、敵に集中狙いされて無駄死にするだけよ。それでも構わないなら、好きにすればいい」
「ぐ……うぅ……」
反論の余地がない正論の刃で滅多切りにされ、もはや涙目すら浮かべる乱音。
間違ったことを言ったのは事実だし、言うべきことは大概言われた。
ならば、あと投げかけてやる言葉はリーダーとしてのものだけだと、姫燐は流れを変えるように一つ咳払いをして、
「ほい乱、さいしょはグー」
「えっ? えっ?」
困惑しながら反射的に、乱もグーを出し、
「じゃーんけーん、ほいっ」
「?」
何が何だか分からないままパーを出した乱に対し、微妙に遅れてチョキを出し、自分の勝利を確認した姫燐は、
「はい、オレが勝ったから前衛はまた今度な」
「なっ、なによそれぇ!?」
雑極まりない対応で、乱の意見への最終決議を下した。
「文句は受け付けませーん、審議の末に決まった厳正かつ公平な決定は絶対なのですー」
「よくもまぁ只のジャンケンをそこまで御大層に言えるわね! しかも後出しで!」
今にも掴みかからんとする乱の勢いと砕けた空気に、静聴していた他のメンバーもすかさずフォローに入ってくる。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ乱! プリンセスの命令は聞くべきもの。多少のワガママは甘んじて受け入れるのが、ナイトたる我々の使命さ!」
「じゃあ命令だ、今すぐオレの事プリンセス言うの止めろロラン」
とまあこんな感じで、毎度毎度発言が若干おかしいオランダ代表候補、ロランツィーネ・ローランディフィルネィが場を緩和させ、
「えぇー? でも今のひめりんはみんなを纏めるリーダーさんで、いつも通りに可愛いんだから、お姫様でもおかしくないと思うけど~?」
「全くだ! 君の意見はいつだって正鵠を得ているよ本音!」
姫燐を『ひめりん』という独特のセンスでつけられたあだ名で呼ぶ、幼馴染の布仏本音が乗っかり、さらにすっとぼけ、
「得てねぇし可愛くねぇ! お前もそう思うよなヴィシュヌ!」
「えっ!? あ、いや私もリーダーはどちらかと言えば……ほ、本題が逸れていますよ! 次のミッションにおいて試すフォーメーションなのですが、実は私にも一つアイデアがありまして」
委員長気質のタイ代表候補生、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーが会話を仕切りなおし、
「でも乱ちゃん、どうして急に切り込み役をやりたいって思ったの?」
「正直、私とオニールならあんまりやりたくないわよ、そんな危険なポジション」
「ううう……だって鈴の奴がぁ」
アイドルでもあるカナダの代表候補、二人で一つのISを操るという特異なスタイルで戦うオニール・コメットにファニール・コメットが、息の合った連携で相談に乗ってやることで、なんとか事なきを得てミーティングは続行されていった。
完璧に空気を入れ替えることに成功し、これで一安心と、姫燐は有能なチームメイト達に心底感謝しながらも、心中で深く深くため息をつき、ベルベットを見やる。
「……………」
自分の発言がいたずらにミーティングの進行を妨げたのを反省しているのか、それとも単純に不満不平を喉元に押し込んでいるのかすらも分からない、冷淡としたポーカーフェイス。
しかし、姫燐はおそらく、ベルベットは単純に言葉選びが下手なだけであり、後者は無いのだろうと当たりはつけていた。
なぜならば、
「あ、あのね……」
「っ!? な、なにかしらクーリェ」
「ルーちゃんがね……ごめんなさいは、ちゃんと言わないとダメって」
「そ、そう、ね。ルーちゃんの言う通り、だわ」
と、年若い学生ばかりのIS学園でもひときわ幼い、年端もいかない程の少女が、隣の何も置かれていない空間とベルベットを見比べ、まるで通訳でもしているかのように話しかける。
クーリエ・ルククシェフカは、ロシアの代表候補生だが、その幼さや特殊な生い立ちもあって自分の中に、イマジナリーフレンドと一般定義される仮想人格を作っており、それを「ルーちゃん」と呼び慕っている。
姫燐にとってはどんな時でも熊のぬいぐるみを決して手放さない姿が、『どっかの誰かさん』を思い出させるので、どうにも複雑な感情が抜けきらないが、ベルベットは違い、
「凰乱音ッ!」
「は、はいっ!」
「……………」
「な、なによ……は、反省はしてるわよ。もう、ミーティングであんなこと」
「…………………」
もう一度だけ『頑張って』と、純粋無垢にエールを送るクーリエの眼差しを横目で確認し、通常の三割ほど険しさを増した面持ちで、
「ご……」
「え?」
「…………………………ご、ごめん……なしゃ……い………」
微妙に噛みつつ、不器用全開な謝罪を乱へと送った。
♡♡♡
「てなことがさっきあってなぁー、かた姉ぇ―」
「ふふっ、お疲れ様でした。ヒメちゃん」
チーム内のミーティングで決まったことを報告するために立ち寄った生徒会室。
学園内でも、重要で公的な決議が動くことが珍しくない一室で、姫燐はぐでーっと机に身体を投げ出し、その姿勢のまま大変行儀悪く芋羊かんを頬張っていた。
本来ならば速攻で咎められるべき、単純に女としても度を越しただらしなさであったが、そんな彼女を愛おしい家族を眺めるような表情で見守っている人物こそが、この部屋の主。
IS学園生徒会長、更識楯無に他ならないのだから、誰も文句をつけられる筈もなかった。
「流石ヒメちゃん。私が見込んだ通り、みんなと上手くやっていけてるみたいで、お姉さん一安心だわ」
「オレは何もしてねぇよ、アイツ等が優秀なだけさ」
ミーティングの結果をまとめたレポートに目を通し終えた楯無は、姫燐にも見せるように、自分が座るひと際立派な会長用の机に、用紙を並べる。
「始めは増えてきた専用機を、もっと効率的に、効果的に運用する方法を模索するのが目的の、試験的なチーム分けだったけれど、正直期待以上の成果。ほんと、驚いちゃうぐらい」
「かた姉、それ身内贔屓入ってねぇか」
「もう、私が仕事に、そういうのを持ち込むタイプに見える?」
「心配だからって、ほんちゃんをウチにねじ込んだ奴が言う台詞かそれが」
朴月姫燐と、更識楯無には血の繋がりは無い。
一年ほど、とある事情で更識家と家族ぐるみの交流があった二人は、互いの事を姉妹と呼び合い、その交友関係は形こそ少し変わったが今もこうして続いている。
ただ、いつまでもじゃれ合っている訳にも行かず、半分ぐらい仕事モードに頭を切り替えて、楯無は分隊長兼妹からの相談内容を改めて口にした。
「でもベルベットちゃんは確かに、あとちょっとでいいから、皆と打ち解けて欲しいわよねぇ」
次の芋羊かんを口に運びながら、椅子に背中を投げ出して、口内に広がるような柔らかな甘さとは全く無縁のしかめっ面を姫燐は思い浮かべた。
先ほどのミーティングでの辛辣な物言いも、あれはあれで改善した部分であり、昔は無視やシカトがデフォルトだった有様の門前払いっぷりで、少なくとも自発的に意見を述べることなど皆無に等しかった。
だが、チームを結成し、共に戦場に立ち、死線を越えていくうちに、こと戦闘に関してはよく口を開くようにはなってくれており、その私情や偏見を一切挟まない客観的な意見には姫燐も大いに助けられている。
ただ、この成果も裏を返せば、戦闘が絡まなければ前まで通りということを意味しているのだが……。
「悪い奴じゃないってのは、みんな分かってるんだけどな」
乱への暴言スレスレの忠告も、口調は悪すぎたが内容は共に戦う自分やチームではなく、単純に乱の身を気遣ったものであったし、クーリエに背を押されてではあったが謝ることもできていた。
さらに言えば、彼女は彼女で、自分達とは違う、明確な『使命』を抱いてこの戦いに身を投じている。
その重さは当人以外には測りかねないが、彼女があえて人を遠ざけているような言動は、そこから来ているのだと皆、言わずとも理解できているため、致命的な諍いは起きていない。
あくまで、今のところは、であったが。
「これが上手くいったら、一夏達との面子入れ替えも検討してるんだろ?」
「ええ、そうね。セシリアちゃんなんか、今すぐにでもヒメちゃんと同じチームに入れて欲しいって息巻いてたわよぉ?」
「へぇ、セシリアが? いいな、オレのブリッツ・ストライダーとアイツのブルー・ティアーズを含めた連携パターンも、今度考えとくか」
「あー、うん……それはともかく、あっちの子達ってほら、ちょっと元気な子が多いじゃない?」
楯無の濁したような懸念は、姫燐としても全くおなじ心配をしていたため、何の齟齬なく伝わっていた。
「確かに、プライド高いのが多いからなぁ。本音とロランも、常に一緒に居るとは限らねぇし」
今回のトラブルでも、すっとぼけているようで真っ先に事態の収拾に動いてくれた二人のことを、姫燐は内心で誰よりも欠かせない人材だと考えていた。
どちらもどちらでマイペース極まりないが、彼女たちがそれを前面に押し出してくるのは、大体チームの結束が大なり小なり綻びかけた瞬間だけだ。
あえて自分の世界に皆を引きずり込むことによって、これ以上諍いを続けさせず、互いの溝を広げないようカバーするように、今まで何度も動いてくれている。
チームのここまで早期の結束は、彼女達の努力無しでは有り得なかっただろう。
その上で戦闘やISの整備においてまで頼れるというのだから、文句の付けようが――隙あらば弄り倒してくること以外は――ない。
「ええ、最終的には代表候補生達は、五人一組で一つのミッションに当たらせることを想定しているわ。その中に、本音ちゃんかロランちゃんをずっと入れる……というのは、現実的ではない」
「だな、いくらなんでもオーバーワークだ」
「他にも、実戦データ収集やら国家イメージやら、グローバルな事情もたくさん絡むのだけれど、それは私や織斑先生のお仕事というわけで」
楯無も、軽く自分の肩を労わるように叩きながら、自分の分の湯呑に口をつけ、
「ヒメちゃん。ベルベットちゃんについてなんだけれど、お姉さんにいい考えがあるわ」
同じように口に含んだ緑茶の渋みが、どえらい勢いで増していく台詞を吐き出した姉を、姫燐は睨みつける。
「やっぱり、コミュニケーションの基本は好きなものから、根掘り葉掘り引き出していくものじゃない?」
絶対に親交を深める際に使うものではない言葉をのたまいながら、楯無は手首のスナップと共に扇状に複数枚の写真を取り出し、
「ぐげっ!? かた姉っ、まままさかそれ」
「ええ、ええ。一夏くん情報なんだけれど、ベルベットちゃんって結構フリフリとか好きなんでしょう? さらにクーちゃんみたいな小っちゃな子が好きとくれば、これ以上にない程の適任がいるじゃない♪」
分かる。確かにベルベットの趣味趣向は、時間を重ねていくにつれてある程度は理解できていたし、もし彼女に会わせたならば一体どれだけ興味を示すのだろうと考えたこともあった。
しかし、この写真に映る少女を連れてくることは絶対に不可能な、あらゆる意味で世迷言なのだ。
だから姫燐も、考えるのもアホ臭いと諦めていたのだが、
「まぁまぁ、あくまで必要なのは、ベルベットちゃんとの会話の切っ掛け。別に本人を連れてくる必要はないし、この写真に映った子が『貴女じゃなくても』問題は無い訳じゃない?」
「え、あ、あー…………あぁぁぁぁ……」
マジかよと頭を抱えながらも、姫燐は楯無が立案したプランの真意を理解し……今日の空き時間をすべて生徒会室で過ごすほど悩みまくりはしたが、結局その写真を――まだ、ゴスロリ趣味で自分の事を『お姫様』だと公言しまくっていた痛々しい黒歴史の数々を、数枚借り受けることにした。
♡♡♡
そして話は冒頭まで遡り、結論から言えば、あの時の自分はとりあえず銃殺刑に処した後、谷底に蹴り落とすべきだと姫燐はガッツリ後悔していた。
確かに、楯無の『いい考え』を試してみてからベルベットはさらに角が取れ、学園に来た当初のような周囲を凍てつかせるようなオーラは成りを潜めて久しい。
それどころか、相変わらずクールではあるがよく柔和な笑顔を見せるようになり、クーリエ以外の年少組からも慕われるような包容力まで見せるようになってきたのだから、結果的には大成功と言って良いだろう。
これらの成果に、姫燐はあのことわざは事実なのだと確信する。そう、
「はぁ……ヒメちゃん……」
恋は、確かに女を変えるのだと。
前々からクーリエに向ける視線が若干、箒やヴィシュヌを視姦している時の自分と同類的なものを感じてはいたのだが、まさかここまで本気でロリコン拗らせているとは隊長の目を以てしても見抜けなかったと、姫燐は己の節穴っぷりを恨む。
楯無から借りた昔の写真を、「オレの妹の写真」だと偽ってベルベットに見せてからと言うものの、ベルベットが姫燐に『ヒメちゃん』のことを尋ねない時は一日たりともなく、正直本当に妹が居たとしても絶対に会わせようとは思わないレベルの食いつきっぷりを見せていた。
「ベ、ベルベット、お前な。ヒメの奴が忙しいのは知ってるだろ?」
「ええ……海外留学なのでしょう。貴女の父親と付き添って」
「ああ、だからいつ帰ってくるのか、オレにも分かんねぇんだって。機械オンチだから、自分の携帯とかも持ってねぇし……」
「は? なんですって」
「ひぇっ」
ベルベットの眼が光る。
「心配よ……万が一、迷子になった時や、危ない目に合った時に連絡手段が無くてどうするの。昨今は絶対天敵襲来による治安の悪化から、変質者も多いと聞くわ。
けれど、貴女も隊長業に手を取られているし、だったら、その……もし、よければ……私が、ヒメちゃんに、教えてあげても、良いけど……わ、私ならヒメちゃんの、は、初めての、れ、練習相手にも、なって、あげられるわ……!」
「分かった心配すんな大丈夫ですッ! こここ、今度オレが教えとくから。絶対、絶対に!」
ずずいっと顔面を近づけ、真顔で圧をかけてくるベルベット。
最近分かったことだが、彼女の台詞に区切りが多くなっている時は、極度に興奮している時の合図であり――つまり割と、手遅れなぐらい発情していることを意味している。
(怖ぇえよぉ……ガチのロリコンマジ怖ぇえよぉ……)
姫燐より高い身長と、普段が冷静な分、一度加熱すると熱暴走待ったなしなテンション。
どう考えても『妹にちょっと会わせて欲しいだけ』という名分をオーバードライブした頼み方は、姫燐に今まで感じたことがないジャンルの恐怖を植え付けていく。
(なんで妹って設定にしちまったんだよオレぇ……!)
これが本当に妹なら、今すぐお前には絶対に会わせねぇからなと蹴り飛ばして終わるのだが、何分『ヒメちゃん』は過去の自分なのが精神衛生上、非常によろしくない。
実際に会わせることも出来ない上に、幼い頃とは言え、ここまで邪気を感じる好意をぶつけられることに、姫燐はまるで耐性を持ち合わせていなかったのだ。
誰かに相談しようにも、万が一にでも姫燐に対して、若干過保護が入ってる楯無や本音の耳にでも入ろうものなら、
――ええ、殺すわ♡
――うん、殺すねぇ♡
と、血を血で洗う、まさしく血戦の火蓋が切られる未来が易々とイメージできてしまい、『私のために争わないで』なんて台詞をリアルで口にしたくない姫燐は、この悩みをしまい続けることしかできなかった。
姫燐のメンタルが削られる速度と反比例するように、日に日にベルベットの症状は深刻さを増していき、私室PCのデスクトップをこのためだけに買ったというスキャナーでヒメちゃん写真にするなど、まだ可愛い方であり、
「それとさぁ、ベルベットよ。お前宛の荷物、また届いてたんだが」
「……受け取ってくれたのね、ありがとう。貰っておくわ」
「……あのさ、聞きたいんだけど、これについて」
ピクリと僅かに硬直したベルベットへと見せるように、部屋に届いていた小包に書かれた品名を姫燐は指差し、
「この品名のとこにある『玩具類』って、お前そんなホビー趣味あったっけ……? 最近、めっちゃ頼んでるみたいだけど、部屋に飾ったりもしてねぇし、まさかとは思うが『誰かさん』のために買ってるんじゃないだろうな」
「……………ああ、それのことね」
何事でもないようにベルベットは腕を組んで、
「と、当然、自分用のモノに決まってるじゃない……た、ただ、その、確かにヒ、ヒメちゃんにも、悦んで貰えたらとは、たまに考えたりもするけれど……い、いえ何でもない、今後は……少し出費を減らすことにするわ」
自分用のモノとか言ってる時点でバレバレなんだよ決まってるとか言っときながら結局ターゲット決めてんじゃねぇか減らすんじゃなくてやめろください毎晩聞こえてんだよ本当にお願いします。
そんな言いたいことも言えない世の中を悲観しながら、姫燐は自分も通販で頼んでいた荷物から新しい胃薬を取り出すと、水で溶かし、一気に飲み干すのだった……。
♡♡♡
絶対天敵の連中、もっと気合入れて攻めて来ねぇかな。
最近、こんなことばかり考えている自分自身に嫌気が刺している姫燐とは裏腹に、今日もつつがない大勝利を収めて帰還したIS学園のドックは、完全に祝勝会の形相を呈していた。
「ハッハッハ! レクイエム級恐れるに足りず! 蝶よりも可憐に、しかして蜂よりも鋭く! 白百合のワルキューレたる我々に、もはや敵は存在しないといったところかな?」
「ふっふーん♪ 最近の私達、ちょっと無敵すぎない? あのデカブツだって、もうあっという間に倒せちゃってるじゃない」
「慢心は厳禁ですが、ええ。客観的に見ても、最近の我々の戦果は目覚ましいものがあると自負してもいいと思います」
皆が皆、勝利に酔いしれている状態であったが無理もない。
都市部へと侵攻せんと進路を取っていた、絶対天敵――その中でも、ISが子供のように見えるほどの巨体と、それに違わぬパワーを秘めた難敵、レクイエム級。
それが十体もの大軍で隊列を組んでいるとIS学園に緊急出撃要請が下った時は、かの織斑千冬ですら固唾を飲み込み、過去類を見ない緊迫感が指令室に漂っていた。
一夏達が別任務で出払っている今、部隊を差し向わせても、都市部への侵攻を防げないどころか、最悪全滅することすら有り得る――そんな絶望的な戦況を、たった九人で覆してのけた少女たちが居る。
「ど、どうしようオニール! もう取材のオファーがひっきりなしに来てるだって!」
「ふぇえ……この前、一日中インタビュー受けたばっかりだよね? 戦闘よりこっちの方がずっとハードだよぉ」
「ま、また、知らない人、いっぱい来るの……?」
本人たちからすれば、これからひっきりなしに押しかけてくるだろうマスコミの方が余程手強いと、嫌味にすら取られかねないほどの余裕すら残した、完全勝利。
彼女たちが叩きだした戦果は、間違いなく称えられるべき偉業。
しかし、そんな中でも、まだ本当の脅威は去っていないと言わんばかりに、険しい表情を崩さず、緊張感に身を固めたままの戦士が、二人居た。
「どうしたのぉ、ひめりん、べるちーも」
本音がのほほんと、しかし心配したように、姫燐とベルベットに話しかける。
「……気にしなくて良いわ、本音。この勝利は、私にとっては明日の余興に過ぎない……それだけだから」
「あしたのー?」
最近は抑えめになっていたミステリアスな言動に眉をひそめながらも本音は、今度は顔を手で覆うようにして俯いている幼馴染の顔を覗き込んでみて、
「ちっくしょおぉぉ……もう少し踏ん張れよ絶対天敵の連中よぉ……明日まで粘ってくれりゃ、いくらでも言い訳きいたってのに……ぬか喜びさせやがって……あんのド根性無し共がぁぁ……」
「ひ、ひめりん!?」
青筋を立てまくり、美少女がしていい表情の水準を軽くオーバーしながら、絶賛ブチ切れまくっている様子を目撃してしまった。
「そ、そうだぁー! みんなー、先生の所に報告に行こうよー!」
「む、どうしたんだい本音……う、うん!?」
唐突に、珍しく声を張り上げた本音と、その横のなんかもう悪魔でも召喚できてしまいそうなオーラを放つ姫燐を見比べ、ロランも火急を悟り、
「な、なるほど、いいアイデアだね! 善は急げ、我々は早速この歴史的戦果を、凱歌と共に蕾達やブリュンヒルデへと報告に参ろうじゃないか!」
「えっ、ですがまだ、後処理や報告書の準備が」
「なに、そこは我らが隊長が万事抜かりなくやってくれるとも! ではプリンセス、君はしっかりゆっくり落ち着いて出来るだけリラックスしてから後を追ってくるといい!」
「じ、じゃあねぇ~あとは頼んだよ、ひめりん~!」
と、何事かと訝しむ一団を本音とロランが強引に引き連れていき、喝采に賑わっていたドッグはロックの扉が閉まると共に、一瞬で静寂に満たされていった。
そして、誰も居なくなったドッグで一人、姫燐は、
「明日どうすんだよもぉぉぉぉ!!? 昔のオレなんて連れて来れるわけねぇだろぉぉぉ!!? なんで約束とかしちゃうかなぁもぉぉぉぉぉ!!?」
もう、絶望的に八方塞がりな現実なんぞ見たくないと、幼子のように床を転がりまわった。
「でもでもアイツ、最近オレの顔面をことあるごとにガン見し始めるんだぞ!? 絶対オレとヒメの奴を重ねてるじゃねぇか! 事あるごとに『今のうちに練習しておこうかしら』とか小声で呟き始めるしよぉ!? 明確な日にち決めて抑え込まねぇと、オレがレズレイプされてたっての! オレは悪くねぇ、オレは悪くねぇぇぇ!!!」
びったんびったん、水揚げされたマグロのようにのたうち回りながら、ここ最近の百合乱暴秒読み状態な近況を喚き散らそうとも、体力を消耗するばかりで何も変わりはしない。
今更、ヒメちゃんは実は昔の自分でしたテヘペロと種明かしをしても遅いだろう。騙されたベルベットは前以上に心を閉ざすか、逆上して自分に襲い掛かってくるか――どちらにせよ、姫燐にとってはバッドエンドしか待っていない。
「ひっ、ヒヒヒっ……もう知らねぇ、知ったこっちゃねぇよ……最後に全員ぶち犯してやる……! どいつもこいつもドスケベボディしくさりやがって……! オレが実は肉食系のサークラクソレズキャラだってことをその身体に思い知らせて…………はぁぁ……」
自分が久しぶりにガチレズだということを思い出したところで、それ以前に多くの責務を背負った隊長であることも同時に思い出した姫燐は、疲労を限界間近まで詰め込まれた身体をのっそりと引き起こし、
「後処理……やろ……」
哀れなほど真面目に、その職務を全うすることにした。
ISスーツに付いた埃を払い、姫燐はドッグの端に置かれたコンテナボックス――その上蓋に付けられた外部操作端末へと、開放コードを打ち込む。
このボックスは、各自の機体に備え付けられた小型の収集装置で集められた、飛び散った絶対天敵の破片などと言った、研究対象である希少物質を一時的に保管するための物だ。
ここから残骸は全世界の研究機関へと移送され、未だに謎が多い絶対天敵の正体を掴む手掛かりや、新たな対絶対天敵用の兵器を造り出すための実験素材として使われていくため、これを怠ることは必然的にIS学園内の問題だけでは済まない。
無論、今回相手をしたレクイエム級クラスの大きさとなれば、流石に運搬回収するのは専門のチームが行うが、いま、姫燐が直で後処理を行おうとしている『ある鉱石』だけは別である。
「はいはい、時空石は出力安定っと……」
時空石。
絶対天敵の襲来とほぼ同時期に存在を確認された、この七色の光を放つ鉱石は、有史以来、地球上で発見されたあらゆる鉱物と構成物質が合致しない、実在したモノストーン。
これの回収も、姫燐たちの任務の一つであった。
「……なんなんだろな、これ」
一つではただの物珍しい輝石なのだが、これが複数個まとめて近くに置けば、只ならぬ力を発現し、文字通り時空すら歪めるような不可逆の奇跡を発露する。
戦闘中の時を巻き戻したかのような回復効果など序の口で、時間でしか回復しない概念の修復や、果てはISが持つ特性の変質まで、その恩恵があるからこそ、人類は絶対天敵と戦えていると言っても過言ではない。
時空という、万物不変の概念を崩壊させる輝き。
これが絶対天敵との戦闘中に発見される関係性は?
果たして、これは人類の手に余るモノなのか?
半分以上の現実逃避も入ったシリアスな考察を巡らせながら、今回の戦利品を各研究機関に送るために分配を続け、
「……あー……お前もなぁ……こう、チェックポイントからロードできるような機能でもあればなぁ……」
本来ならば『15』と入力する個数分配の部分を、余計なことを考えつつ、今までの心労に加え、戦闘後の疲労まで合わさったボケにボケた頭が、
「……ん? 間違ったかな」
最も危険な、大規模時空干渉を引き起こす『150』の数字を入力したことに、姫燐が気付く可能性は、
「え、何の光――――」
これからしばらく、時を歪める閃光の中へと消えていくことになる――。
♡♡♡
皆が、姫燐の行方が分からなくなったのに気付いたのは、報告が終わり、思い思いの自由時間になって少し。まだ後処理が完了していないと、山田真耶からの連絡が寄越されてからであった。
ドッグには既におらず、コンテナを操作していた痕跡だけは発見できたが、そこからの足取りがパッタリと途絶えている。
通信を飛ばしても返ってこず、こういう所では律儀で真面目な彼女が、大切な事後処理を長時間サボるとも考え難く、それは勝利の美酒に浸っていた一同の酔いが吹き飛ぶには、充分すぎる破壊力を秘めた一報であった。
「くっ……完全に私の不覚だ……! あの時、私が姫燐を一人にしなければ……!」
「……今は、悔いている場合ではないわロランツィーネ。責任なら、私たち全員にある」
例の組織の襲撃も視野に入れ、手が空いている専用機持ちは全員参加な一大捜索となった姫燐探しには、当然ベルベットやロランの姿もあった。
ロランと本音は特に責任を感じて思い詰めており、本音にはヴィシュヌが、ロランにはこうしてベルベットが付く形でフォローしていたが、ここは人工島を隅々まで使った広大なIS学園。
隅々まで探すとなれば、ただでさえ不足している人手を、いつまでも非効率的に動かしている場合ではないとロランは意を決し、
「ベルベット! 私はいい、君は寮の方を頼めるかい!」
「……了解したわ!」
その決意を受け取ったベルベットは、迷わずロランとは別の分かれ道を駆け、別行動へと移る。
夜の帳が落ち切った学園は果てしない闇が横たわっており、探し人がこれに飲み込まれてしまったと想像するだけで、脳をかきむしられるような焦燥感が募っていく。
(……皆を不安がらせるだなんて、貴女らしくもない。いったい、どこへ……っ!)
薄暗がりを走り抜けていた視界の片隅に、赤色が過る。
紅く塗れただけの自分とは違う、どんな暗闇でも絶えない眩さを称えた彼女の赤髪。
それが、寮の部屋へと入って行くのを捉えた気がして立ち止まった。
「朴月姫燐……?」
間違ってはいないと思うが、何かが食い違っていた気がして確信できない。
噛み合わない歯車のような現実と認識を埋めるため、彼女が消えていった一室へとベルベットも踏み込む。
部屋へと突入し、冷静に周囲を分析――するまでもなく、ざっと見渡しただけでも、そこは数か月とはいえ最早慣れ親しんだ、自分と姫燐の私室であった。
最後に部屋を出たきり、変わった所や、何もおかしな所は……、
「おかえりなさい、ベルお姉ちゃん♪」
ただ一つ。ただ一人で、ベッドの上でちょこんとベルベットを出迎えていた。
姫燐でない声、聴きなれない色、それだけで厳戒態勢を敷かれたIS学園内では、即鎮圧対象にされかねない不穏分子。
だが、彼女を即座に取り押さえるような真似は、今のベルベットのように誰も出来はしないだろう。
月光を受けて浮かぶシルエットは完全に、年端もいかない子供のそれであったからだ。
小鳥のように子気味よく通る声。
長く、やわらかで、上質なルビーを溶かし、糸状に束ねたかのように美しい赤髪。
纏った桃色のドレスから伸びた、未発達で小さな手足は穢れ一つなく、まるで精巧なドールが、録音されていた音声を再生でもしているのかとベルベットは錯覚する。
「どうしたの? じっーと見て」
だが、こちらをくまなく撫で上げるように動く黄金の瞳は、まごうことなく生物が宿す輝きを抱いており、錯覚は錯覚でしかないことを悟ったベルベットの脳裏に、ある可能性が電撃的に走り抜けていった。
「貴女……ま、まさか」
「ぶーっ、貴女じゃないよ」
頬を不機嫌に膨らませながらも、すぐに許すと秋空のように唇を笑みへと変えてベッドから降り、
「ヒメはお姫様だから、ヒメなの! だからヒメって呼んで、ベルお姉ちゃん♪」
小さな両手を目一杯広げて、ぽすりと、ベルベットの下腹部へと抱き付いた。
♡♡♡
なぜ、明日来るはずの彼女がここに居るのか。
どうやって、学生寮まで一人でやって来たのか。
そもそも、どうして自分の名前を知っているのか。
結局、姫燐はどこへ行ったのか。
疑問は尽きず、異常に異常が折り重なった、何一つ光明が刺さない霧中であっても、
「えへへ、ベルお姉ちゃんのお膝、柔らかいね」
「あ……あぁ……あわわ……」
なんかもう、ベルベット的にはどうでも良くなってきていた。
ベッドに腰掛けるベルベットの膝に、すっぽりと収まるように座った少女。
基本、ベルベットはその氷の女王などと揶揄される第一印象から子供に敬遠されやすく、その度にいつも虚しさと寂しさに心を凍てつかせてきた。
これはベルベット自身も自覚していない事であったが、ここ連日の色々と行き過ぎた言動には、生涯初の一目惚れをした相手にまで避けられてしまったらという不安とトラウマからの逃避も含まれていたのだ。
しかし今、そんな恐怖がすべて氷解していく温もりを、膝の上から感じる。
「ひっ……ひひ、ヒメ……ちゃん?」
「んー? どうしたの、お姉ちゃんっ」
「………はぅッ」
多分、人をキュンキュンで殺せるなら五回は死んでいる。
彼女を知る人間が見たら、驚愕で顎が外れかねないほど発熱して緩み切った表情が、その温もりの破壊力を物語っており、気を抜けばそのふやけた口から抜け出してしまいそうな魂を、
「!!???!?」
「んふふー、こっちのがヒメ好きぃ」
身体ごとギュッとヒメが抱き止めた。
小さな四肢を懸命に使い、母親にしがみ付くコアラのように、手足を絡めてベルベットの腹部へと抱き付くヒメ。
頭は丁度、クッションにでも顔を沈めるようにベルベットの豊満な胸に押し当てられており、その奥で脈打つ心臓はもはや完全に制御不能なドラムビートを刻んでいる。
ハンマーでぶっ叩かれているような勢いで崩れ去っていくベルベットの情緒であったが、ヒメの絨毯爆撃じみたじゃれつきは止まることを知らず、
「お返しにね、ベルお姉ちゃんもヒメのこと、ギュ~っとしていいよ?」
「ギュッと!!?」
どうしよう、ほんとうにどうしよう。
あれだけイメトレしておきながら、いざ実戦となると完全に加減が分からず動かなかった両腕が、少女の背中へと、国宝にでも触る小市民のようなオタオタした手つきで伸ばされる。
そんなヘタレ丸出しの姉の姿を前にしても、ヒメは呆れや失望などを微塵も見せず、むしろ姉の未熟すぎる手管を愛おしむように、見上げて、ベルベットの眼鏡を外す。
「いいんだよ、我慢なんてしないで」
天真爛漫な今までとは打って変わった、女豹の魔性を声色に乗せて、
「お姉ちゃんが好きなように、望むままに、いっそ壊しちゃうぐらい……」
その子供の身体からは、得体の知れなさすら感じてしまうほど蠱惑的に、妖艶に、淫靡に、
「ヒメのこと、抱いて?」
人として決定的な尊厳を破壊するおねだりを、ベルベットへと投げかけた。
「………あ、ぶっ、あっ、ああ」
荒ぶる呼吸のまま、渦巻く劣情のまま、溶け堕ちる理性のまま。
「ひ、ひ、ひ……ヒメちゃんッ!!!」
ベルベット・ヘルは、人を捨て、幼子を食らうケダモノになった。
力任せに抱きしめ、ベッドへと抱き込み、押し倒すようにして、ヒメの存在全てをベルベットは貪りつくす。
「ヒメちゃん、ヒメちゃんヒメちゃんヒメちゃん!」
名前を叫びながら膝を織り込み、少女の足を内股で感じ取る。
それだけでベルベットの脳内には白濁としたスパークが駆け抜けていき、処女膜を余さず突き破っていくような背徳感が、脳内麻薬を洪水のように吐き出していく。
「あはっ♡ ベルお姉ちゃん、ずっとお預けされてたワンちゃんみたい……んんっ♡」
全身をプレスされるような抱擁に窒息感を覚えながらも、まだ小悪魔的な余裕を崩さない口が、キスで強引に塞がれた。
ファーストキスの甘酸っぱさなど欠片もない、むしろキスというより捕食に近い、相手のことを慰み者扱いするかのような接吻。
ベルベットの所業は傍目から見ればもはや悪辣な強姦でしかなかったが、それを許可した本人には当然のように嫌がる素振りがなく、むしろ更なる激しさを求め、ケダモノの前へとエサを吊るしていく。
「ぷはっ♡ お姉ちゃん、ボタンが痛いよぉ」
「えっ……あっ、ご、ごめんなさい! すぐに脱ぐから」
ヒメからの指摘を受け、ベルベットは迷わず制服を脱ぎ捨て、自らの肢体を外気に晒す。
普段は青白さすら目立つ肌はすっかり興奮で紅葉しきっており、血色が良くなったベルベットの肉体は、もはや饒舌に尽くしがたい艶を秘めていた。
黒のレース下着を纏う鍛え抜いた長身には、無駄な肉など一切ついていないのに、胸だけは矛盾するようにIS学園の女子達の中でもひと際大きく、女としてこれ以上望むべくもない、女帝と呼ぶに相応しい極上の身体つき。
だが、首から上は完全に粗相をしてしまった、不出来な下女の困惑に染まり切っており、実際、それだけでは50点と王女は嘲け笑う。
「もー、ボタンが付いてるのは、お姉ちゃんの服だけじゃないよ?」
「…………へっ?」
「ほら、ヒメのお洋服にも……一杯あるの♡」
服従した犬のように無防備にピンクのドレスの胸元をさらけ出し、存在だけを強烈に示しながらも、見せつけたまま不動。
期待感に濡れきった吐息を至近距離で浴びたベルベットは、その意図を余すところなく理解できてしまっていた。
「じゃ……じゃあ、ぬぬ、脱がす……わね?」
100点満点を悦ぶ笑みを、正解と受け取った手が、ひとつ、ふたつと、ボタンを外していく。
外すたびに開かれていく、珠の汗を弾く瑞々しい地肌。
もしこの瞬間にでも、誰かが部屋に入って来てしまったら――下着で幼女へと馬乗りになり、服を脱がそうとしている鬼畜の姿を目撃してしまったら――破滅への導火線に火が付くか付かないかの瀬戸際が、余計にベルベットをふしだらに焚きつけていく。
背徳感を燃料にして止まらない手が、最後の一つを外し終え、まだブラを必要としない、ヒメの未成熟な胸板が露わになった。
「んふふっ、ヒメのおっぱい、どう? お姉ちゃん」
またフリーズしていた攻め下手なベルベットを誘導するように、鈴の音のように可愛らしく、無邪気な声色で感想を尋ねる。
「かかっ……可愛い……わ」
「どんな風にー?」
「ちっ……小さくて、ちょっと膨らんでて……ピンク色の乳首も、美味しそうで」
「美味しそう?」
「えハっ……!? そ、その、今のは……!」
うっかり口走ってしまった変態的言動を聞き返され、喉奥に杭を打ち込まれたような感覚に襲われるが、
「ふーん……じゃあ、ヒメのおっぱい、食べてみる?」
それすらも受け止めるように、更なる享楽への導をベルベットへと叩きつけた。
妄想の中でしか届かなかった全てが、ここにはある。
中途半端なモラルや外聞は、もはや彼女の枷たり得ない。
「んっ♡ あぁ……♡」
鉄面皮とすら揶揄された女の濡れた唇が、年端もいかぬ少女の乳房へと恐る恐る吸い付けられる。
年相応の青さを殆ど残さない一端の女が、自分よりも遥かに幼い少女の乳を、空腹の赤子のように一心不乱にしゃぶり続ける。
テクニックや加虐的な目的もないが、愛だけはあるそれはまさに授乳であり、子供が大人へと乳をやるという倒錯しきった光景が夜の一室で繰り広げれられた。
「はぁぁっ……♡ ベルお姉ちゃんってば、ほんと赤ちゃんだね……♡」
幼いといっても、乳首が敏感であるという人体構造上の共通点は同じであり、そこを蒸れた舌で責められ、焼けてしまいそうな吐息で炙られ、女の喜悦が少女を侵していく。
しかし、ようやく火が入ったといったヒメの様子とは裏腹に、もはや脳が焼け爛れきったベルベットの行動は、もはや欲望と性欲だけを指標に暴走しきっていた。
「っ……べ、ベルお姉ちゃん?」
「んじゅ♡ じゅぷ♡ ひんっ♡ んんぅぅううう♡」
自らの秘部を、小さな膝小僧に押し当て、擦りつけ、腰を振る。
もはや下着の上からでもハッキリと形が分かるほどに濡れた蜜壺を、所有権を主張するかのように薄桃の肌へと塗りたくる。
言い逃れ出来ないほどに変態的な、幼女の未発達な身体で行うオナニーに、いつの間にかベルベットは陶酔しきっていた。
「ひっ、ひっ、いいっ、すべすべっ、ちっちゃい、ちっちゃいちっちゃいイイい」
膝から、脛も、太ももまで。
形状だけで言えば、今まで使ってきた玩具の方がよほど女を鳴かせるには適していたが、性的快感の本分はどこまで色香に酔えるかにある。
SMから始まり、コスプレや人妻、時には二次元、幼児性愛すらも貴俗分け隔てなく、本質は全て、配合が違う桃色のカクテル。
ヒメという理想そのものから差し出された美酒は、ベルベットを完全にヤバい方向へと悪酔いさせていた。
「はっ♡ おっ♡ すきっ、ヒメちゃん♡ いいっ♡」
はしたない喘ぎ声を漏らしながら、髪を振り乱し、愛液滴る股を擦り続ける。
溜まりに溜まったモノがすべて噴き出していくように、下着も半分脱ぎ、何度も軽い絶頂を迎えながらも、まだ足りないと、まだ満たされないと、角度などを変えつつ自慰に没頭していく。
(あと……少し♡ もう少し、でっ……)
しかし募り続ける恋情と劣情を発散するために、普段から買い揃えていた玩具で慣らされ過ぎた性器が、これほどのシチュエーションでも本気の絶頂を拒む。
一度なにかに熱中すると、眼前のことしか見えなくなりがちである。
それが、自分でも気付いていないベルベットの悪癖であり、その悪癖を咎めるように、
「……えいっ」
剥き出しになっていた彼女の陰核が、力任せに抓りあげられた。
「んぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
女の急所へと襲い掛かった、唐突かつ鮮烈な鋭痛。
眼球が白目を剥き、食いしばった口元から涎が零れ、絶頂に揺れた蜜壺が潮を吹きだす。
「あ……へ……ぇ……?」
今まで味わったことがない、潮を吹いてしまうほどの絶頂。
余韻のままトんでしてしまいそうになる意識を、強引に引き戻したのは、
「うわぁ、こっちのベルベット、マジでひでぇな……どうしてこうなるまで放置してたんだよ」
「あ……? えっ……ヒメ、ちゃんぴぐっ!?」
「ロリを押し倒して、おっぱい吸って、こんなマンコびしょびしょにするぐらいガチオナするか普通? オレ達の世界でもドン引きです、本当に本当に以下省略」
「あうぅぅぅ、やめと、止め、止めてぇぇぇ!」
じゅぽじゅぽとスポイトするように容赦なく、完全にとろけきっていた膣内をかき回す、か細い異物の感触だった。
「ま、これはこれで、イイ感じに倒錯しまくっててオレ好みだけど、なっ」
「ヒにいぃぃぃぃ!!?」
ベルベットが覆いかぶさっており、見えているわけがないのに、工房から慣れ親しんだ工具を取るかのような自然さでクリトリスを指で潰され、噛み殺しきれない嬌声が部屋中に響き渡る。
「あれれー? もしかしてベルお姉ちゃん、ちっちゃな子にいい様にされて、みっともなくイかされるのが大好きなドM系だったりー?」
「はぁ、ハァ、くっ……そ、そんな訳……ないでしょう……!」
「おっ?」
見るからに足腰がガクガクと震え、内股からは洪水のように愛液が溢れ漏れているが、ベルベットの瞳と覇気は、完全に外敵へと向ける矢じりの鋭さを取り戻していた。
「何者なの、貴女。ヒメちゃんじゃ……ないわね」
「んー、いやまぁ、ヒメちゃんには違いないっていうか、元ヒメちゃんというか……」
「何を、訳の分からないことをッ!」
ヒメちゃんを――いや、幼子の姿をしているだけの、指で糸を引く愛液を舐め取る得体のしれない魔性へと、最大限の警戒を募らせながらベルベットは吠える。
ISは先ほどの情事で、待機形態である眼鏡を外されてしまい、服もブラだけを纏ったほぼ全裸な状態であったが、別段問題とは思わない。
鍛え上げられた戦士としての肢体は、徒手空拳であろうとも、このような子供に後れを取る訳がなく、迅速かつ完璧に無力化させられることだろう。
「はいはい慌てない慌てない、体力あんまり使わない方がいいよ~?」
しかし、ヒメと名乗っていた存在は、被っていたあどけなさを完全に脱ぎ捨てた、余裕と下卑た感情を隠そうともしない笑みで対応する。
まるで、我が物顔で水を切る魚が、実は既に生け簀の中へと閉じ込められていることに気付いてない滑稽さを、嘲笑うかのように……、
「だって、もうベルお姉ちゃんは」
隣のベッドに巧妙に隠してあった、カメラ付きのノートパソコンを取り出して、
『はっ♡ おっ♡ すきっ、ヒメちゃん♡ いいっ♡』
「もう、ヒメの肉玩具になるしかないんだから、ね?」
始めから録画していた、今までのベルベットの痴態を大音量で流し始めた。
「ちなみにこれ、わざと画質落としてるけど、さっきまで生放送してたんだよ? ほら、コメントも……うわ、ヤバッ、もうIS学園内の寮だって特定されてるし、キモッ♡」
身体が打ち震える。
プライドに縋り、戦士として奮い立たされた先程とは違い、
「頭のいいお姉ちゃんなら察してると思うけど、画質完璧なマスターデータも別口で用意してて、ヒメやパソコンをここで抑えても意味なしと、まぁそういう訳で」
最初から敗北していた哀れで無様なメスの絶望に、膝が折れ、
「じゃ、まずはヒメでも遊びやすいよう、屈んでもらおっかな。大股開いて、指でそのロリコン処女オマンコおっぴろげな、が、ら♡」
ベルベット・ヘルの戦いは、これより、快楽と恥辱へと抗い続けるだけの、戦いと呼ぶにはあまりに淫らで救いのない、蜜悦の沼底へと貶められていく事になる……。
♡♡♡
「んっんー♪ 愉しかったぁ♡」
大きく背伸びし、ヒメはその第二次成長期特有のなだらかな身体を逸らしながら、自らの赤い長髪を軽く手串で整えた。
寮の窓から差し込む月光を存分に浴び、そして同じ光が照らし出す中には、
「あ……へ……あえっ……おごっ……♡」
気絶しながらも、この短時間で開発された秘部とアナルに詰め込まれたバイブから絶え間なく送る刺激にイかされ続ける、うつ伏せでベッドに打ち捨てられたベルベットの無残な姿があった。
蛙の亡骸のように開かされた大股からは失禁跡の臭いとシミが広がり、冷徹なまでの凛々しさを称えていた面貌は、自らの涙と鼻水と涎で汚しつくされ、誰にも触らせたことなど無かった玉のヒップには、スパンギングの小さな手形がいくつも残されている。
「まだまだ序の口なのに、もうアヘって気絶しちゃうだなんて、ほんとこっちの代表候補生クソザコすぎ♡ もしかして、他の連中もそうなのかなぁ? やっぱり……」
状況を理解すれば理解するほど背筋を駆け抜けていく、小躍りするほどの高揚感をもう抑えきれないと、
「みんな、こういうのも出来なかったりするのかな?」
ずるりと、角が、少女の米神から、生えた。
「ふひっ、ふひひひひっ♪」
変化はそれだけに留まらず、背中からは蝙蝠のような羽根が、尾てい骨からは文字通りのスペードのような先端を揺らす尻尾が現れ、
「やっべぇ……そう思うとマジ濡れてきた……♡」
最後に、全身をどこからか発生した黒い霧が包んだかと思えば、その場に立っていたのはもう、年端もいかぬ少女ではなかった。
「はー、やっぱこっちだよなぁ。昔の姿はガキンチョすぎてムードが足りねぇ」
調子を確かめるように腕を回すその姿は、いつも通りの朴月姫燐――に、先ほどの角、羽根、尻尾が生えた、人類の遺伝子が作る井出達とは明確に異なる、異形の魔物。
一見すればコスプレか何かかと勘違いしそうな錯覚を、固定具の類など何一つない裸体が嘲る。
朴月姫燐の姿をした悪魔が、そこには居た。
「んひひひっ、いやいや、正直最初はどうしたもんかと思ったし、帰る方法は当然探すにしても、だ。難しいことは追々考えるとして」
背徳こそが我が使命と、まさしく悪鬼がごとく肢体を揺らし、
「淫魔なオレを呼んだんだから、そりゃあ求められてることは一つ……だよなぁ?」
「ぁ――んおぉぉぉぉぉ♡」
ぺろりと舌なめずりをして、一気にベルベットのバイブを引っこ抜き、歪んだ時空から捧げられたこの生贄を、とりあえず骨まで味わい尽くすことにした。
登場キャラを度が過ぎた変態にしたり、淫魔化とか当たり前にやる小説です、ご注意ください。