灰色のひめしずか 作:かわいそうなのでも抜ける猫
遡るは、数日のことだ。
英傑のリーダーである、退魔の剣を持つ剣士、リンク。
ハイラル王国でおそらく最も強い彼も、ガーディアンの猛攻を凌ぎ切ることはできなかった。逃亡の末に、東の果ての砦でついに倒れてしまう。
同時に封印の力へと目覚めた王女――ゼルダは、シーカー族の部下に彼を託し、マスターソードをコログの森へ収め、そして単身でガノンの巣食うハイラル城へと向かった。
これから始まる、恐ろしいまでの苦難に、その身を震わせながら。
「……これは……」
かつて、自らの父にしてこのハイラル王国の国王が謁見していた間。自らが長を務めた英傑衆が集い、ここで王より激励の言葉を賜った場所。
そこを、我が物顔でうろつく黒い影。
――例えるなら、黒いもやでできたイノシシだ。
ハイラルで日常的に見られるそれに、よく似ているその姿。しかしどす黒い色に染まり、明らかに異質だと感じさせられるその姿。
「……ガノン……」
イノシシといっても、その体躯はせいぜい成人のハイリア人を上回る程度しかない。
しかしその影は違った。今ゼルダの目の前にあるその影は、ゴロン族もかくやというほどに巨体である。明らかに大きすぎるそれが、ゼルダの姿を見るや否や鼻息を荒立てた。
ガノンとは一体なんなのか。
元はゲルド族だったという説がある。
魔物の統領にして闇から生まれたものだとする説もある。
諸説は様々だが、その正体は掴めていない。とはいえ、例えそれの元がゲルド族だったとしても。今や、その面影は一片たりとも残っていなかった。
もはや言葉を交わすことなど不可能――――。ゼルダは、本能的にそう察する。
「……貴方がなんであろうと、私はここで、貴方を止めてみせます……っ!」
封印の力がどれだけ強力であろうと、ここまで膨大な魔力を前にすれば封印し切るのは非常に困難である。
そのために、厄災ガノンの力を削り切る神獣と退魔の剣は、厄災討伐において欠かすことのできない要であった。
故に、ゼルダは察する。
自分ができるのは、時間稼ぎだと。リンクが目を覚ますまで、耐えるしかないのだと。
ガノンが、飛び出した。
敵意を剥き出しにしたイノシシの如く、目の前の少女を跳ね飛ばそうと。その巨躯をもって、一直線に駆け出していく。
「……っ!」
それに向けて、ゼルダは右手を掲げた。
想像以上の迫力に身が竦む。それでも彼女は歯を食いしばって、紋章の浮かぶ右手を向けた。
瞬間、眩しい光が解き放たれる。猛烈な光の渦か、波動の奔流か。
さながら暴風雨のような音を立て、この天守閣は軋んだ。ガノンの突進を正面から受け止め、野太い悲鳴が響き渡る。
「……効いた……。ガノンに、力が効いた」
ガノンの反応も、また想像以上だった。
もしかしたら。もしかしたら、自分一人でこの災厄を抑え込めるんじゃないかって。全ての仇を、自分だけで封印し切ることもできるんじゃないかって。
そんな淡い期待が、彼女の中で芽吹き始める。
――――しかし。
「……笑って……る?」
黒いイノシシが、笑ったように見えた。
とうとう見つけたぞとでも言わんばかりに、その顔を歪ませている。様相が変わった影の様子に、ゼルダはそう悪寒を感じ――――。
「――きゃっ……!?」
突然弾け飛んだガノンに、悲鳴を上げた。思わず両手で顔を覆い、穢れの波動から目を守る。
一瞬離した、ガノンの姿。それが悪手だった。
イノシシの姿が弾け飛んだのではない。イノシシの背中が弾け、そこから黒い触手が飛び出したのだった。
まるで腸を押し固めたような、どこか芋虫を彷彿とさせるようなその腕は、一直線にゼルダに襲い掛かる。大量の触手が、一瞬視界を絶ったゼルダへと牙を剥いた。
「あっ……!?」
人の力で殴られる、なんてレベルではない。常人であれば即死の一撃だった。
幸い、今の彼女には封印の力がある。生半可な物理攻撃は一切受け付けない。殴り飛ばされ、壁に激突したゼルダだったが――傷一つ、つくことはなかった。
「……くっ……!」
それでも、慣れない衝撃に彼女は動揺した。その足取りは覚束なく、ふらついた様子で立ち上がる。
一方のガノン。ようやく見つけた女神の力を感じ、そのまま殺して奪おうとしたのだが――そうはいかないことを感じ取った。
対極に当たる力故に、物理的に殺すことは困難。
体を壊して奪うことはできない。
ではどうするか?
――――心を、壊せ。
当然、ガノン自身にはそこまで深く考えることができるほどの、はっきりとした意識は残っていないだろう。
これはもはや、半ば生存本能だったのかもしれない。ガノンが君臨し、この地上に存在し続けるためにはどうすればいいのか。どこから栄養を補給すればいいのか。
――目の前に、極上の餌があるということ。それを、本能的に察したからかもしれない。
触手が、伸びる。
イノシシが、駆ける。
未だふらつくゼルダに、黒い腕が絡みついて。それに飽き足らず、巨体は彼女の体を押し倒し、馬乗りするかのように組み敷いた。
「あっ……!? な、何を――――」
そう、彼女が言葉を繋げ切る前に。
触手が彼女の衣服の中に入り込み、無理矢理引き裂いた。
「きゃあっ!?」
儀式のために丁寧に拵えられた純白のドレスが、儚く散っていく。
ところどころ残った布も、ガノンから零れ落ちる濁った粘液に触れて溶けていった。
「……っ!?」
思わぬガノンの行動に、彼女の頭は真っ白になった。
目の前で、鼻息を荒立てるイノシシがいる。
自らの全身に絡みつく、生々しい触手がある。
服も下着も全て剥がされ、生まれたままの姿となった自分がいる――――。
まさか、とは彼女は思った。
でもそれも、まさかという思いで掻き消そうとした。
ガノンの下腹部からそそり立つ、悍ましい肉棒を見るまでは。
「ひっ……い、一体、一体何を……」
頭では、ガノンが何をしようとしているかは分かっているはずなのに。
思考が、理性が追い付かない。
「何、なんで、なんで――ひっ……」
自身の秘部に、それが当たる。
柔らかくも固い、熱く重い感覚が、自らの花びらを通して彼女の脳に伝わった。
そこで何をどうするか、彼女も一通りの知識を持ち合わせている。
勉強家である彼女だ。書物を通して、どのように扱うかは把握しているつもりだった。
しかし彼女は王女であり、同時に巫女でもある。純潔さが求められる立場にあり、なおかつ自身もそれについてはさほど興味をもたぬままであったために、彼女の秘部は未だに前人未踏の聖域であったのだ。
いつかそれを果たすなら、密かに想いを寄せている御付きの騎士に、なんて。そんなことを夢見るほどに、彼女は乙女だった。
それを無慈悲にも引き裂こうと、ガノンは唸る。腰を振るい立たせ、獣は荒い息を奏で始める。
「うそ、うそうそうそ……こんな、こんな……」
あまりのも残酷な現実を前に、彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
首を横に振って、焦点の合わない瞳を見開いて。必死に、必死に抵抗する。
が、ガノンがそれに甘んじるはずもなく。
唐突に、その腹を開かせた。イノシシらしい丸みを帯びたその腹を、縦に切り裂いて。そこから、まるでオクタロックのような、頭足類状の手足を展開し始める。イソギンチャクのように密度の濃い触手が、彼女の柔肌へと絡みついた。
「ひゃんっ……いや、いやぁ!!」
ゼルダは、必死に叫ぶ。拒絶の思いを乗せて、必死に叫ぶ。
それでも、触手は止まらない。彼女の豊かな乳房に絡みつき、その弾力性に富んだ果実の味を堪能し始めた。先に芽吹いた桜の蕾を、くすぐるように弄り始めた。
脇や首筋に絡みついたものは、舌の如くその肌を舐め回し、顎や耳へとその手を伸ばす。それに思わずゼルダは叫ぶのをやめ、悍ましいそれが口に入らないように強く歯を噛み締めた。
その一瞬で、ガノンは唸る。突如ゼルダの体を横へと転がし、その体勢を反転させた。
仰向けだった彼女の体は、這いずるような姿勢にさせられて。それを触手で羽交い絞めにされ、秘部には肉棒をあてがわれて。
「やだっ、やだぁ! リンク……助けてっ、リン――――」
助けを乞う声は、破瓜の音色で掻き消された。
言い切る前に響いた破裂音。満足そうに唸る、厄災の野太い声。
ドロドロの黒い粘液の中に、鮮血が散った。
「……あっ……あぁ、あぁぁぁ……」
声にならない悲鳴が、この無人の楼閣に響く。嗚咽のような声が、風の中に溶けていく。
明らかに、人間のサイズではない。初めての相手がこれなんて、あまりにも酷なほど、その剛直は立派だった。彼女の腕の太さほどはあるのではないだろうか。
それがぴったりと、いやむしろかなり押し広げて。今まで誰も入ってこなかったその肉壁を、力強く掻いた。その奥に閉じた口を抉じ開けんと言わんばかりに、激しく掻き回した。
「あっ、あぁん……うっ、うごっ、動かっ……ないでぇ……っ!」
処女には、いや処女じゃなくとも。ハイリア人であれば誰にとっても荷が重すぎるその動き。凹凸が擦られ、その度に彼女の体は前に突き上げられる。
それはもう、喘ぎでも何でもなく、正真正銘の悲鳴だった。身を裂かれる痛みからくる、純粋な悲鳴。
「あ、あっ……こんなのやだぁ……っ」
ゼルダは、泣き叫ぶ。顔をくしゃくしゃにして、泣き叫ぶ。
こんなことになるなんて、まるで想定していなかった。そう訴えるが如く、彼女は子どものように泣いた。
しかし、ガノンはそんなことにはまるで意を介さない。
どころか、その全体重を押し付けて、全身で跨るように彼女の体に身を乗せた。腕で高さを保っていた上半身も、巨体の重みに押し潰される。胸も腹も、彼女の整った顔でさえ床に無理矢理密着させられた。
「うぅ、うっ、うぅぅ……!」
圧迫されて、声が出ない。悲鳴すら押し潰され、ゼルダはただひたすらに泣いた。
下腹部を圧迫される痛みと、全身を抑えつけられる痛み。
体中をくまなく弄られる不快感。
塗りたくられる粘液の、鼻を穿つような臭み。
あの、自分だけでガノンを封じられるんじゃないかと彼女の中で芽吹いた希望の花は、一片の花びらを残すこともなく散っていった。
今はただ、ただひたすらに凌辱され続けている。彼女の意思など無関係に、ただひたすら腰を振るわれている。
ガノンは、吠えた。
先程まで激しく振っていた腰を、さらに加速させる。イノシシのくすんだ肉と、ゼルダの柔らかな尻がぶつかり合う音が、より一層音を立てた。張りの良い音が響き、響く度に彼女の悲鳴が押し潰される。
「……っ! っ、っっ……! っ~~っっ!!」
何故、ガノンは加速させたのか。
ただでさえ大きかった肉棒が、徐々に膨らみ始めた感触。それが膣から伝わって、ゼルダの脳裏に大きな不安が押し寄せた。
彼女は、豚の繁殖についても本で目を通したことがあった。
豚の交尾は、どのようなものなのか。
交尾は、何をもって受精とするのか。
そして、今どんどん膨らんでいく災厄の剛直に、一体何が貯まっていっているのか。
彼女は、それを察してしまった。
「……っ! むぅっ……っはぁっ、はぁっはぁっ……離してっ離してぇ……!」
必死に抵抗して、声を取り戻して。
ガノンの猛攻から逃れようと、彼女は必死に身じろいだ。
しかしあまりにも重いその体に抑えつけられて、触手に全身を絡み取られ。
彼女には、逃げようがなかったのだ。
「……いや……いや、いやいやいや……っ! いやぁ――――っ!!」
天に吠えるようなその声が響き。
同時に、液体の跳ねる音が、この天守閣に鳴り響いた。
「――はぁ、はぁ……っ……う、うぅ……」
ゼルダは、呻く。
未だに抜かれず、突き刺さったままの肉棒が跳ね、その度に熱く重いものが自分の奥に注がれて。その感覚に怖気が走り、嫌悪感に満ちた表情を溢す。
あれから、既に数十分が経過していた。
それでもガノンは肉棒を抜くことを知らず、未だに彼女を貫いている。彼女の奥の、そのまた奥へ。強く口を閉じていたそれを抉じ開けて、子宮を自らの精液で満たそうとするかのように。ただひたすら、彼女の中に射精し続けた。
その度に肉棒がうねり、彼女が苦悶の声を漏らす。もはや虚ろな目で、抵抗することも諦めて、彼女はただひたすら、その生々しい液体を腹の奥で飲まされていた。
「…………?」
不意に、彼女の体が持ち上げられる。
全身にまとわりついた触手によって、彼女の体はいとも容易く持ち上げられた。
「なに、を……」
虚ろな瞳でガノンを見ようとして、しかしそれをする前に、彼女の視界は触手で埋まっていって。
彼女に絡んでいた触手は、ガノンの中へ還ろうとしていた。腹を縦に裂いて伸びた触手が、ガノンの体内へと還ろうとしていた。
同時に、ゼルダも持ち上げて。この程度では力を得られないと、ならばこのまま呑み込んでしまおうと。ガノンは、ゼルダを腹に生まれた口をもって、呑み込もうとしたのである。
「あ……」
苛烈な凌辱に心身ともに疲弊し切ったゼルダだったが、全身をよりいっそう激しく撫で回す触手の感触には、無反応ではいられない。小さな呻き声を漏らし、そっとその首を持ち上げる。
不意に、唇に触手が走った。舐め回す接吻のように、彼女の綺麗な唇に絡みつく。
「……ぅ……」
まるで俺のものだと言わんばかりに。触手が、ゼルダの唇を撫で回して。
その感覚に、彼女の意識は覚醒した。
「――――――――っ!!」
力尽き、倒れ込んだリンク。
ガーディアンに囲まれる中、彼の体を必死に抱き締める自分。
剣の声を聞いて、部下に彼を託して。
――別れ際に、彼の唇へそっと落とした自らの口。
純潔は奪われても、初めての口づけだけは、自分が想う人に捧げたのだ。そんな思いが、彼女の中で発芽したのだった。
それが引き金となり、再び彼女の右手が光る。
ゆったり彼女を取り込もうと、緩慢な動作で腹の口を閉じようとしていたガノンから、眩しい光が瞬いた。
一瞬の咆哮、からの悲鳴。全身を覆い尽くすその光に、ガノンは自らの力を急激に抑え込まれる。怨嗟のこもった声が、ハイラル全土に響き渡った。
ハイラル城本丸、天守閣。
かつて王が謁見の間として利用していたその厳かな舞台は、今や寂れた廃墟と化していた。しかしところどころが怨念の染みに穢されて、ただならぬ空気を吐き出していた。
そんな空間の天井には、まるで心臓のように鼓動する不気味な物体がある。
自身の魔力を、封印の力によって抑え込まれた厄災ガノン。自らの力を解き放つ前に、王女の力を呑み込む前に。球状の物体へと封じられてしまった憎悪と怨念の権化。
そんな、脈動する塊の中には、一人の少女の姿がある。
封印を破ろうとするガノンの凌辱に必死に耐えながら、一人の騎士を待つ少女の姿があった。
今日もまた、誰もいないこの場所で、少女の悲鳴が響いている。