灰色のひめしずか 作:かわいそうなのでも抜ける猫
「リンク、見てください!」
遠き昔のハイラルで、嬉しそうに声を上げる少女が一人。
晴天に恵ませた下、自然の花畑の中でゼルダがはしゃいでいた。鮮やかな色を灯す草花を一つ一つ、シーカーストーンでウツシエに収めては、嬉しそうにそれらを眺めている。
そんな様子を横で見つめていたリンクは、彼女にばれないように少しだけ頬を綻ばした。真面目な人だと思っていたが、こんな顔もするんだなって。少しだけ、彼女のことを知れたと実感する。
「……あ」
不意に、ゼルダはその声を萎ませた。
視界に映る一輪の花を前に、ただ静かにそれに寄り添おうとする。
「……これは、姫しずかという花なんです」
首を傾げるリンクに、彼女はそう言葉を繋げて。
「絶滅危惧種で、人工栽培もなかなかうまくいかなくて……」
そのまま、きゅっと少しだけ口を閉じる。そうして、おずおずと、言いたくなさげに喉を震わせた。
「……絶滅するかもしれない、姫なんです」
不安そうだ。
哀しそうだ。
今まで見てきた怒った顔や不満げな顔。そして、嬉しそうにはしゃぐ彼女の表情とも。そのどれもとも異なる、不安そうな眼差しに、リンクは少し胸が締め付けられる。
姫がこんな顔をするなんて。
何か不安に思っていることがあるのか。
困っていることがあるのだろうか――――。
そんな思いを口にしようにも、それは上手く言葉にならなかった。
常に模範たれと、寡黙に生きてきた彼にとって。無駄をそぎ落として生きてきた彼にとっては、一人の少女にかける言葉などまるで思い浮かばなかったのである。
しかし、それでも何か言おうとした彼を遮るように、ゼルダが大きな声をあげた。
「あっ!!」
そのまま、獲物を見つけた猫のように、彼女は両手を振り被る。
そうして何かを捕まえて、リンクの前に差し出してきた。
「見てくださいっ、この子は最近見つけた珍味の食用種なんですけど! 最近の研究でっ、身体能力を向上させる効能があることが分かったんです!」
やたら早口でまくしたてる彼女の手の中には、一匹のカエルがあった。混乱した様子で喉を鳴らす、小さなカエル。
ゼルダは、なおも言葉を重ねる。リンクの反応にも構わず、語り続ける。
「類稀なる身体能力を誇る貴方にも、ぜひこれを試してもらいたくて! さぁっ、さぁっ!!」
少女は、嬉しそうに腕を突き出した。
困惑する少年の姿に少しだけ頬を染めながら、彼との会話を楽しむかのように。
そんな、遠い昔の平和だった日々を、少女はただ夢に見るのである。
「……んっ……」
半ば途切れかけた意識の中で、彼女は顔を上げる。
青天の下ではない。花畑でもない。
怨念と闇で形作られた、宵闇色の肉の世界。厄災ガノンの中で、その触手にねぶり上げられながら、少女は肩で呼吸した。
少女は、自分に言い聞かす。
だめだ。ここで眠っては駄目だ。意識を保ち続けなければ駄目だ。
ガノンを解き放ってはいけない。来たる時まで、封印し続けなければならない。
「……負けちゃだめ。……頑張るのよ、私……!」
そう言い聞かせる彼女の瞳には、どこか希望の色があった。
相変わらず、彼女の視界は灰色に染まってしまっているけれど。それでも、心の隅に湧いた希望を、彼女は大事に抱きかかえている。
――――リンクが、目を覚ました。
ゼルダの叫びに呼応して、リンクがとうとう目を覚ましたのだ。
そこからは、目覚ましい活躍をしてくれている。数多くの魔物を倒し、魔物に襲われる人々を救い、このハイラル城を目指して前進を始めている。
もう少し。もう少しで、リンクが来てくれるんだ。
そう思うと、ゼルダの中に勇気が湧いた。ガノンに負けないという意識が、屈しないという思いが、どんどん強くなっていく。
ガノンは、それをも感じ取っていた。
各地の自らの分身に力を送り、眠らせていた神獣を暴走させる。
赤き月の夜には、ゼルダを苗床にして作った子どもたちを、一斉に各地に送る。そうして、目障りな勇者を仕留めようと躍起になるが。
きっと、最も気に入らないのは、この少女に対してだろう。
自らがしゃぶり尽くし、苗床にしようとも、その心を保ち続けている。それどころか勇者の目覚めに勢いづいて、その瞳に色を灯し始めた。
このままではいけない。そう思ったガノンが次の取った手は――――。
どろりと、ガノンから伸びた触手が光る。
光り、その輪郭線を溶かし合い、一つの体へと合体し始めた。
「えぅ……?」
垂れ下がったそれらが混ざり合って、大きな影となっていって。
それは、まごうことなきカエルだった。追憶の先でゼルダが掌に乗せていたあのカエル。それを丸々巨大化させて、さらにガノンの触手特有の色で染めた悍ましいカエル。それも、二匹。
「……カエル……? なんで……」
あまりにも唐突に現れたそのカエルたち。それに、少女は動揺した。
彼女は気付いていない。長い時間をかけて共依存に似た関係を作りあげたガノンにとっては、彼女の記憶を読み取ることすら造作もないということに。
そこには、彼の意思や何かが伴う訳ではなく。ただ機械的に、彼女の心を折るためのガノンの一手だったのだ。
カエルが、寄ってくる。二匹が彼女を見定めて、囲うようにその周りを歩き始める。ゆったりとした動作ながらも彼女から目を離さないそれは、まるで獲物の隙を伺う肉食獣のようだった。
それに、少女は身を竦ませる。いつかの、イーガ団の刺客に取り囲まれた時のように。怯えるままに、二匹を交互に見続けて。
直後、カエルが跳んだ。跳んで、少女に覆い被さるように両腕を振るう。
「あっ……!?」
そんな悲鳴を上げた頃には、彼女はとうに組み敷かれていた。その水かきのついた手で、一匹には尻を、もう一匹には顔を、荒い手付きで掴まれる。
四つん這いにさせられた少女は、はっと息を呑んだ。
目の前に迫る、ヒノックスもかくやというほどに巨大な舌を前に、彼女は思わず歯を食い縛って。
また舐め回されるのか。
そう覚悟して、ぎゅっと両目を瞑るゼルダだったが――カエルの行為は、そんな彼女の上をいくものだった。
「……っ!? むーっ!!」
舐める、なんて生易しいものではない。
口にした。彼女の顔を、頭を、その上半身まで。全て包み込むように、大口を開けて咥え込んだのだ。
それに少女は必死にもがき、手足をバタバタさせるけど。噛みついた頭は、そのまま彼女を抑え込む。水かきでその細い両腕を塞ぎ、暴れる体を無理矢理床に押し付けた。
カエルの口内は熱い。桃色に染まったそれは、強烈な熱気に染まっていた。
糸を引く涎は、思わず吐き気を催すような臭みの塊だ。それが、少女の上半身へと降り掛かっていく。ねっとりと滴るそれに彼女の白い肌は濡れ、汗と混ざり、独特の臭いへと変貌し始めた。
「~~~~っ!!」
纏わりつく舌が、少女の顔を舐め回す。濡れた髪をさらに汚す。乳房をも撫でて、その果汁を吸収していく。
そんな悍ましい感覚に、ゼルダ思わず悲鳴を上げた。声にならない拒否の悲鳴が、カエルの喉奥で反響する。
一方で、彼女の下半身を抱えていたもう一匹のカエルは。何も言わず、彼女に準備をさせる訳でもなく、ただ胎内に管を滑り込ませた。
「っっ!!?」
その管は、かなり細いものだった。
何度も性器を入れられて、時には裂けかねないほどの太さをもったものまで受け入れてきた彼女だ。突然挿入されたことによる驚きこそあったものの、優しく彼女の中に入り込む感触は、彼女をそこまで強張らせることはなかった。
痛みを覚悟したゼルダに、むしろ圧迫しないその感触が一時的な安堵を与える。与えるが、次に抱かせたのは別の疑問。
このカエルは、細いそれをぴったりと入れたまま、身動き一つしなかった。ただがっちりと彼女の腰を抱え込んで、その管を子宮口へと口づけている。
「……??」
上半身を咥えられ、そのまましゃぶられる感覚。
息もできずにただ悶え続ける一方で、全く動かれない下半身の感触。
見えない向こうで、鎮座し続けるカエルの姿。
一体、一体何がしたいのか。
もはや感覚が麻痺した彼女は、そう疑問に感じるが――――。
「……っ!? んん~~っ!!」
突然鳴り響く、膣が押し広げられる音。
細かった管は突然膨れ上がり、秘部の入り口から子宮に向けて、奥へ奥へとその膨らみを押し上げていく。
まるで、輸送だ。何かを彼女の中に送り届けようとする、不気味な輸送。
固い訳じゃない。猛烈な痛みが伴う訳でもない。ただ、ぶよぶよとした嫌な感触が、彼女の奥へと送られていく。
「……っ、っ……っ!」
顔中を吸い上げられて、声も出せないゼルダのその下腹部に。彼女の秘裂の、奥の奥へと。
奇妙な感触が入り込んだ。子宮の中へ、その独特の弾性をもったものが押し込められる。生温かいその感触に、少女はただ呻くしかなかった。
胎内の感覚だけでは、一体何を出されているのかが分からない。分からないけど、それは絶対に良くないものなのだろうと。少女は、頭に浮かぶ嫌な予感に打ち震える。
できるだけ最悪を想定しよう。少しでも心の負担を軽くするために。真相を知った時、まだマシだと安心できるように。彼女は、必死にそう考えた。
しかしそれが具体的なものを描くよりも早く、その不気味な何かが彼女の腹を重くした。鳴り響くは、子宮の壁と柔らかいそれが舐め合うような音。
ぶよぶよとしたそれが、子宮をいっぱいにする。
それでも送られるものが、いよいよ子宮に入り切らなくなる。
子宮口から、溢れ出る。
溢れたものが、さらに溢れたものに押し返され、少女の小さな穴をさらにさらに押し広げていく。
ぼとぼと、と。膣内にすら入り切らなくなったものが、秘裂の隙間から零れ落ちた。
ぬめぬめの粘液に包まれた、小指の先ほどの小さな粒が。無数の塊となって零れ落ちた、不気味なその黒色が。少女の下半身から、とめどもなく溢れ返っていく。
「……っ……」
ずるりと、ゼルダはカエルから吐き出された。
ようやく口から解放された。ようやく離してもらえて、臭い空間から解き放たれた。
そんな安心感も束の間。やっと許された呼吸に襲われる。視界が霞むくらいに絞り取られた意識に、少女はただ倒れ込むしかない。そうして苦しそうに、口からカエルの涎を吐いた。
「かはっ……っ……はぁーっ、はぁーっ……あっ、あぁ……っ」
絶え絶えの息で。虚ろな瞳で。
下腹部の不快感も考えられず、少女はただ呼吸に勤しむのだが――。
「あうっ……」
じゅぽん、なんて音とも引き抜かれたその管に、小さな悲鳴を上げた。
その拍子であの謎の物体が跳ね飛ばされて、彼女の体に降り注ぐ。
どろどろの液体に包まれた、黒い色の無数の粒。それが彼女の灰色の視界に映り込んだ。どこか見覚えのあるようなそれが、彼女の心を蝕んだ。
「……う、そ……これ……たま……ご……?」
カエル特有の、透明の膜のようなものに包まれた卵。無数に集まったそれが、今彼女の体中を、そして子宮の中一杯に撒き散らされている。
あの細い管は、雌のカエルが卵を温め、孵化させるための手段。そう、あの管は――卵を産みつけるための管だったのだ。
ようやく準備ができた。そう言わんばかりに、先程まで彼女の頭を味わっていた個体が立ち上がる。ゆっくりと重い腰を上げながら、動けない少女の背後へと回り込んだ。
「……あ"っ……っ!」
そのまま、挿入。
大粒の精子を放つあの触手さながらの肉棒が、彼女を貫いた。子宮の奥の卵すらも潰しかねない勢いで。猛烈に、乱雑に。ただ繁殖だけを求めた機械的な動きで、彼女の膣を激しく掻き回す。
「あっあぁっ……はぁっ、あああぁぁっ……!」
挿入直後から全速力のそれに、動けない少女はただ叫んだ。されるがままに、突き上げられるままに、悲痛な声を上げ続ける。
その直後、放射。あまりにも速いピストンに、あまりのも早い解放だった。
ただでさえ卵で一杯になった彼女の子宮に、これまた粘り気の強い精液が注がれていく。
太い肉棒に子宮の入り口を塞がれて。
ぴっちりとくっついたそれに逃げ場を奪われて。
精子と卵は、子宮の奥へと逃げ始める。その射精の勢いもあってか、ゼルダの腹は高速で膨らみ始めた。
「あっ……痛いっ、痛い痛い痛い……っ!」
妊婦のように膨らんで、細い腰回りを無理矢理押し広げられて。
そうして鞠のように膨らんだ自分の腹を見て、少女は一筋の涙を溢す。
――――まるで、リンクとの思い出すら汚されてしまったような。そう思うと、彼女の涙は止まらなかった。
「あっあっ……いやぁ……っ」
ぼとぼとと、彼女の中から赤子が産まれ落ちる。
痛みはなかった。あの太い触手の赤子を何度も孕み、自分の体ほどの肉棒に貫かれた彼女にとっては、小振りなオタマジャクシを産まれさせるなど造作もないことだった。
その事実が、彼女の心を締め付ける。ガノンの凌辱に慣れてしまった自分に、ただひたすら嫌悪する。
「こんなっ、こんな体になって……こんなので、どうリンクに会えば……っ」
淡い色の花びらが粘液で染まり、ぴちぴちと跳ねるオタマジャクシに撫で回されて。
体中をガノンに穢されてしまった。
人間ではない異形のものを、何度も孕まされてしまった。
そう考えるだけで。そんな彼女を見たリンクの顔を想像するだけで。
少女の勇気は、少しずつ揺らぐのだった。