「ガウレイユか…。なかなか立派なものだな。」
ダルトやイヴリスなどが属しているガウレード国。その首都ガウレイユにライドは足を運んでいた。その隣にはミオナとエリンも従っている。
「いいのですか?私が外に出ても…。」
「エリンの里から遠いここなら、知り合いもいないだろう。」
「万が一のときはライド様が何とかしてくれますよ。」
ミオナはまるでライドの付き人かのように振る舞い、″様″をつけても違和感がない。そうであるのが当然と言わんばかりの面持ちである。一方のエリンは平静そうに済ませつつも、慣れない都会もあってかキョロキョロとすることが多かった。
「教会は西のほうにあるようです。でも、本当に行くんですか?浄化されちゃったりとかしないですよね…?」
「俺はゴーストの類いじゃないんだぞ。それに今はかなり力を抑えているからな、俺に気づくことはない。それと教会に入っても入り口までだ。今日はただ拝みに来ただけだけだからな。」
それなりに強そうな男とそれに付き従うエルフ、人間の少女。やや珍しい光景とはいえ十人十色の冒険者の中では、そんなやつもいるんだな程度にしか認識されることはない。故に何の障害もなく教会の大きな扉をくぐると、そこには長い参列椅子の列の奥に巨大な像が立っていた。
「豊穣の神ハーベル…。あれが神像というわけか。」
「ガウレード全体が資源に恵まれているのはハーベル様のおかげなんですよね。」
「そう言われていますね。おかげでガウレードは他国と比べても安定しています。ところでライド様、どうやって神様を倒すのですか?」
「さあな。神が住む天界に行く術は持っていない以上、向こうがこっちに来たところを狙うしかないが…。」
「問題はいつ、どうやって来るかですね。」
「そうだ。教会の人間なら何か知っているかもしれん。俺では少々リスクがあるからな。頼んだぞ2人共。」
「はい、任せてください!」
外で行動することの無かったエリンと初仕事のミオナが張り切っているのを見届けると、ライドは町中へと戻っていく。ガウレイユを掌握しなければ神との対決には不利極まりない。この国を調べるよう、既にリースとサラを諜報に当てていた。
「流石に首都だけあってイヴリスより冒険者の質は良いな。店も多いし、広場もいくつかある。手に入れる価値はあるか。」
ベンチに座って町を眺めていると、金髪に赤い服の派手な少女が近付いて話しかけてきた。
「あなた、この町に来たばかりの冒険者かしら?」
「そうだが…人に尋ねるときはまず名乗ることを教わらなかったのか?」
「あら、わたくしを知らないなんて余程遠くから来たのかしら。わたくしはキルカ=ガウレイユ。ガウレードの王、キルドスの娘ですわ。以後、お見知りおきを。」
「俺はライドだ。王女様というわけか。それで、その王女様が俺に何の用だ?」
「あまり驚きませんのね。」
「俺もそういうのに関係が無いわけでもないからな、慣れているだけだ。」
「お言葉遣いは荒いようですが、座り方や仕草を見れば分かりますわ。ふふ…ふさわしいですわね。」
ベンチを少し動くと、キルカに座るよう促す。ガウレイユどころかガウレードを牛耳る側の人間となれば情報源として逃す手はない。
「わたくしとダンジョンを攻略して頂けないかしら。勿論、報酬は出しますわ。」
「初対面の男に頼むことではないと思うがな。」
「わたくしの目は確かですわ。身の程を弁えない者と組む気はありません。わたくしの隣に立てるのはそれ相応の者だけ。例え一時的にパーティーを組むとしても。」
「ふん…分かった、いいだろう。報酬は100万でいいか?」
「あら、随分ですわね。」
「俺を雇うならこれでも安いぐらいだ。ただ少し王女様に―――キルカに興味が沸いただけだ。」
「なかなかの自信ですこと。わたくしが納得できましたら100万でも出しますわ。歩合制ということで。」
「落としどころだな。それで、どのダンジョンに行くかは当てがあるのか?」
「ええ、南にある浸水しているダンジョンですわ。レベル30程度あればいけるはずですの。」
「その程度、何の問題もない。」
2人してベンチを立って町の外へと歩いていくと、町民や冒険者達がライドを探るように目を向けてくる。王女様に何かあれば許さないとでも言わんばかりである。無論、ライドも今日のところは手を出す気は無い。今日のところは。
「見事な髪だな。」
ダンジョンに向かう道中でリースに
「お母様ゆずりだそうですわ。お母様はわたくしが幼い頃に亡くなられたそうで、覚えていませんが…。誰にでもお優しい、素晴らしい女性だったと聞いています。」
「そうか。その輝く金の髪は大切にしておくといい。寂しくはないのか?」
「わたくしは王女ですし、お父様しかいないので寂しく思うこともありますが、民がいます。為政者は孤独ですが、1人ではありませんわ。あなたも王族の関係なら分かりますでしょう?」
「その年でなかなか考えられているな。下の者が支え、上の者が守る。それが出来ない組織など長くはない。」
魔王と王女では大きな隔たりがあるものの、通ずるところはある。冒険者という表向きもあってか、まるでここだけの話であるかのように互いに少し饒舌になっていた。
「ここのようですわね。早速、お手並み拝見とさせて頂こうかしら。」
「ああ。適当に離れて見ているといい。」
ガウレイユで買ったばかりの剣を抜くと、モンスターを斬り飛ばしていく。的確に急所を突いて流れるように十数体を倒すと、鞘に納めてキルカの元へと戻る。
「まあ、こんなところだ。お気に召したかな?」
「想像以上ですわ…!ガウレイユ軍の腕利きでも足元にも及ばないかもしれませんわね。」
キルカはショーを見た子供のようにキラキラと目を輝かせていた。
「今度はそっちのを見せてみろ。」
「あなたのと比べると大したことはありませんが…。」
そう言って杖を取り出すと、かたまっている3匹のモンスターに狙いを定める。
「パラライズホールド!スチームパニッシャー!」
電撃で捕まえて動けなくなったところへ、高温の蒸気を放ち、相乗効果で一網打尽にしてしまう。その手際に一切の淀みはない。
「ほう、上手いものだ。それだけ複属性の魔法を自在に使えるとは。」
「わたくしの特技のようなものです。物心ついた時には簡単な複属性魔法は使えましたのよ。」
互いに力を見せ合った後は、ダンジョンを攻略していく。自然とライドがざっくりと薙ぎ払い、キルカが少数の残ったモンスターを倒す流れが出来上がる。
「ところで聞いておきたいことがあったのだが。」
「何かしら?」
「何故わざわざ金を払ってまで冒険者とこんなことをする?」
「いつかわたくしが後を継ぐことになったとき、どんな人々がいるのかを知っておく一環ですわ。あなたは―――ライドはかなり特別のようですが、冒険者は皆1人1人違います。見聞を広げるには出来るだけ多く会って話をしておきたいのです。」
「殊勝なことだ。…キルカはガウレイユの王女であることが誇りなのだな。」
「ええ、勿論ですわ。」
数十分ほどで難なくダンジョンのモンスターを全滅させ、武器を収める。2人共疲れた様子は無く、まるで準備運動をした程度の涼しい顔である。
「100万シルズ、後でお支払い致しますわ。宿を教えてもらっても?」
「いや、結構だ。俺も良い話を聞けたからな。」
「あら、ではお言葉に甘えて。それだけ強ければ稼ぎ口はいくらでもありますわね。」
「次に機会があればそのときは支払ってもらうぞ?」
「ふふ、不思議な方ですわね。それなら今受け取ればよろしいのに。また機会があればよろしくお願いしますわ。」
町へ戻ってどちらともなく別れると、人々の警戒の目が解かれる。よほどキルカは大事にされているらしい。
「お帰りなさいませ、魔王様。皆さんの集めた情報を整理していたところです。」
「ライド様はどうしていたんですか?」
「王女様の戯れに付き合っていたところだ。」
「え、王女様って、キルカ様!?」
「向こうから話しかけられてな。あれは良い。」
「あ、ちょっと目がやらし~。」
「はぁ…いつものことです。」
おほん、とリースが一息いれると通信用のオーブを取り出してユイ、メル、アウズにも聞こえるようにし、整理した情報を挙げていく。
「まずはガウレイユの方から。1年ほど前から税金が上がっており、大きく困るほどではありませんが人々の生活は少し苦しくなっているようです。噂ではキルドス王が倒れ、代理として大臣のオルゾフが執政しているとか。」
「ほう?キルカからはそんな話は聞けなかったが…冒険者に話す内容でもないか。」
「豊穣の神ハーベルですが、誰も会うどころか声すら聞いたことが無いようです。それでも伝承では毎年行われる豊穣祭で顕現すると思われています。」
「祭りか…。神を讃える祭りなら信仰も高まるし、顕現するには打ってつけだな。」
「豊穣祭は来月末の2日間の開催です。どういたしますか?」
「当然狙いどころだろう。逃したらまた1年後だ。」
「でも、誰も会ったこと無いんですよね。本当に現れたりするのでしょうか。」
「エリン、神というのはその特徴の大部分が人々の信仰の集合なのだ。故に豊穣祭には現れるだろう。」
「なるほど…でも、どうして会えないのでしょうか。」
「ハーベルについて他に情報はないか?」
「ええと、″作物や動物を育てて我々の生活を豊かにしてくれる″とか″いつも我々を見守ってくださるこの世界の母″とか言っていたと思います。」
「それだな。おそらく集合意識は″常に一歩引いて見守る母親″に近い像だろう。何しろ人々は全員が神に守られていると思っているわけだからな。目の前に名乗って現れてはそれが満たされない。」
「おおー、なるほどね!ってことは、お祭りなのに一歩引いた感じの母親っぽい雰囲気の人が実はハーベル様かもしれないってこと?」
「そういうことだ。」
なんとなくイメージがついたのか、全員の顔が前に進んだのを示す。
「アウズ、お前はどう思う。」
『異論ありませんぞい、魔王様。付け加えるなら、人々が祭りが成功したと認識し、神を信じることが必要じゃの。』
「成功ですか…。豊穣祭は寄付された作物とかで料理を振る舞ったり、他には踊ったり王様が演説したりするんですよね。」
「それでしたら、寄付がたくさん集まればよいのではないでしょうか。目に見えるぐらい、いつもより多ければ成功したと思えそうです。」
「それがいいだろうな。あと1ヶ月、どうやって集めるか…。」
『はいはい!皆で森系のダンジョンを攻略するっていうのは?』
『ユイ、いくらなんでも脳筋すぎない…?』
「いや、悪くないぞ。今回のハーベルとの戦いに参加させるつもりは無いが、お前達にも力はつけて欲しいからな。」
「そうですね、一石二鳥です。」
『ワシも賛成じゃぞい。』
「「「『えっ』」」」
その夜、向こう1ヶ月に渡って戦利品を集め続けることが決まった。
ガウレード:ダルトやイヴリスなどが属している国。首都ガウレイユはガウレードの中心にある。豊穣の神ハーベルの加護によって一帯が資源に富んでおり、それがガウレードの強さの源である。
ガウレイユ:380年前より以後にイヴルスなどに勝利し、辺りを治めている国。現王はキルドス=ガウレイユ。