「またお会いしましたわね、冒険者ライド。先日は付き合って頂いて大変有意義でしたわ。」
「キルカか。俺に何か用か?」
今日もまたダンジョンを軽く潰してアーティファクトなど出ないいつも通りの結果に何を思うこともなく、ガウレイユの喫茶店でライドは休んでいた。昼下がりの午後に果肉たっぷりのジュースを飲みにくるのが最近の日課である。
「いえ、今日はたまたまこのお店のカルスジュースを飲みに来ただけですわ。」
「あのでかでかと宣伝しているやつか。」
″みずみずしいカルスの果肉たっぷりジュース!弾ける美味しさをお試しあれ!″
「口の中で本当に弾けますのよ。貴方も飲んだかしら?」
「いや、まだ飲んでないな。炭酸のようなものか。」
「たんさん…?」
「ああ、前に似たようなものを飲んだことがあってな。そういう呼び方だったのだ。」
うっかり口に出してしまったが、この世界では前の世界における化学的な言葉が通じないことが多い。技術や魔法の発展で同じ見地に到っているものもそれなりにあるが、相違点は多々存在するのである。
「んっ…んっ…はぁ…良い味ですわ。前よりも更に美味しくなったかしら。」
「そこまで言うなら俺も今度飲んでみるとしよう。」
「きっと気に入りますわ。」
そんな談笑をしている2人の元へ、男が駆け寄ってきてくる。ライドの視線が一瞬鋭くなるが、特に攻撃の意思は無いと見ると普通の顔に戻る。
「探しましたぞ、キルカ嬢。ご予定をすっぽかしてこんなところにいらっしゃるとは。」
「オルゾフ…。わたくしはまだそのつもりは無いと言ったはずですわ。」
「困りますな、貴女もいつまでも自由な王女では済まないのですぞ。王の容態も芳しくない今、早急にお世継ぎを…!」
「貴方こそ、民の前でそのような話をするのはおやめになった方がよろしくては?」
「むう…この話はまた明日にでもさせて頂きますぞ。しかし今日は食事会もありますゆえ、夕刻にはお帰りください。」
「分かっていますわ。さあライド、行きましょう。」
席を立ち上がったキルカはライドの手を引っ張って去ろうとする。
「ふん…また冒険者か。ライドといったな。夢を見ないことだ。キルカ嬢とは釣り合わんぞ。」
「ご忠告感謝する…とでも言えばいいのか?あいにく俺は現実しか見ないものでな。」
「そうだと嬉しいがね。」
オルゾフの睨みを無視し、キルカに従って離れた公園の木陰まで付いていく。キルカは苛ついた仕草で木にもたれ掛かって座ると、ぽつりぽつりと話し出した。
「…さっきのは大臣のオルゾフですわ。一も二もなく世継ぎ世継ぎと…政治の手腕は確かですが、参りますわ。」
「王の容態が良くないと言っていたが。」
「わたくしの父、キルドス王は一年半ほど前からお体の調子が優れないのです。専属の治療師も完治は厳しいと。」
「なるほどな。もし王が亡くなった場合は、キルカが女王になるのか?」
「いえ、ガウレイユは代々男性が王となる習わしですの。血縁に男性が含まれるまでは、オルゾフが代理を務めることになる可能性が高いですわ。」
以前にリース達が集めた情報との合致を確認しつつ、オルゾフが怪しい動きをしていることを知ると、ライドの頭の中で計画が立てられていく。
「それにオルゾフがわたくしと結婚させようとしている相手は息子のオルフレッドなのです。彼は優秀ですが、オルゾフに似て政治や権力を求めていますの。正直言って、あまり好きにはなれませんわ。」
「つまり、どう転んでもオルゾフの思う壺ということか。」
「オルゾフはシビアすぎるのです。民の心が分からない政治では、民はついてきません。以前は父と2人でうまくやっていましたのに…。」
「民のために、オルゾフ1人だけに任せられないと考えているわけだな。」
「ええ。しかし情けないことに、わたくしもまだどうすればいいのか分かりませんの。今はこうして先延ばしにすることしか…。」
「俺も今すぐ助けてやることはできん。だがキルカの民への想いは聞かせてもらった。もしどうしようなくなったら手を貸してやろう。」
「…わたくしは王女キルカです。わたくしのいざこざに冒険者の力をお借りすることはできません。お気持ちだけでも有り難く受け取っておきますわ。」
「そうか。なら、せいぜい気を付けることだな。」
「ええ、分かっていますわ。わたくしの話を聞いてくださってありがとう。」
「なに、大したことはない。」
「…貴方は本当に不思議な方ですのね。自信に満ち溢れていて、政治を知り冒険者として生きている…昔はどこかの国の皇族だったのかしら。」
「かもしれんな。キルカこそ、行き詰まったら冒険者にでもなればいい。どこでもやっていけるだろう。」
「わたくしの使命はガウレイユの民を導くこと。それ以外にありませんわ。」
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「ツギヤさん、あそこのお店行ってみませんか?」
「ん…そうだね。最近のノノは良い調子だし、今日はゆっくりしようか。」
すれ違った老齢の男がなにやら王女について呟いているのを聞いたが、頭の中でどうでもいいこととして処理する。ただの年老いた市民の政治や皇族への文句など冒険者には何の意味も無いのだ。
「うーん…どれにしようかな…。」
「あたしはカルスジュースだね。口の中で弾けるんだよ。ノノもどうだい?」
「私、そういうのはあんまり…この甘いミルミルジュースにしますね。」
「そうかい?…店員さん!カルスとミルミル1つずつ頼むよ!」
手持ち無沙汰になったところで、ノノは自身の剣をテーブルに置く。アーティファクト″フリージア″の鞘を抜く練習を日々続けることで、それなりに望んだときに抜けるようになってきていた。
「よく扱えるようになってきたね。これもガウレイユの鍛冶屋のおかげかな?」
「はい、″アーティファクトは理解してやることが大事だ″って言われて、いろいろ考えて…。まだちゃんと分かれてないところもあると思うけど、一緒に頑張ろうって思うと抜けやすいんです。」
「そうやってそいつのことを考えてやってれば、いつかノノの無二の相棒になってくれるよ。」
「はい…!頑張ろうね、フリージア。」
「ご注文のお飲み物になります。」
剣を仕舞って店員からジュースを受け取るとさっそくコップに口をつける。
「こくっ…わっ、あまい…!これすっごく美味しいです!ツギヤさんもどうですか!?」
「いいのかい?んっ…うん、本当だ、美味しいよ。」
「私、こういうのしてみたかったんです。ちょっと夢叶っちゃいました。」
「なんだい夢って?」
「こんな風に友達とお店でジュース飲んだりすること、したかったなあって…あ、すみません!やっぱりなんでもないです!」
出会ったばかりのノノが一度だけツギヤに話した事。それが関係しているのであろうことは容易に察しがついた。それについてツギヤの方から触れることはない。そんなことをしてもノノが傷つくだけだと分かっていたからだ。
「…さて、これからどうしようか。このままダンジョン攻略を続けるかい?豊穣祭も近づいてきたし、お金も溜めときたいからね。」
「私、フリージアをもっと使いこなせるようになりたいです。ダンジョンで使ってもいいけど、それだけじゃダメな気がしちゃって…。ツギヤさんにもいつも迷惑かけちゃってるし…。」
「あたしはいいんだよ、好きでやってるんだから。でも、そしたら魔法都ラスティアスかねぇ。あそこなら何か分かるかも。」
「本当ですか!?魔法都ラスティアス…!」
「かもって可能性だよ。ガウレイユも大きいけど、三大都市には及ばないからね。一番近いラスティアスがいいかと思っただけさ。」
「可能性だけでも十分です!フリージアが求めているものが分かるなら…!」
「行くのはいいけど、3週間後の豊穣祭は厳しいかもね。ラスティアスまで片道5、6日はかかるし向こうに着いたらやることもたくさんあるだろうし。それでも行くかい?」
「その、私、実はそんなにお祭り得意じゃないので…。別にいいかなって。ユイさんとかと一緒に行けたら楽しそうだけど、どこにいるのか分からないですし…。お友達たくさんいそうだし…。あ、ツギヤさんとでも楽しいですよ!?」
「あはは、分かってる分かってるって。あの子達も一緒ならもっと楽しいのはあたしもさ。」
空になったコップを置くと、2人は席を立つ。
「よし、それじゃあラスティアス行きの馬車を探すかね。稼げるやつを。」
「え、稼ぐ…?」
「護衛だよ。お金はいくらあっても困らないからね。ダンジョンを攻略するだけが冒険者じゃないってことさ。」
「べ、勉強になります…!」