「全く…お戻りになられたのは嬉しいですし、気持ち良かったですが、あんなにしなくてもいいじゃないですか。」
「お前の体が素晴らしいからいけないのだ。」
5度目の中出しでイきすぎて失神したリースを介抱した翌日。リースはぷりぷりと怒っていた。
「誉めてるつもりかもしれませんが、そういう発言はセクハラですからね。」
「魔王がセクハラして何が悪い。」
「魔王なら魔王らしく威厳を持って欲しいんです!部下の信頼を無くしますよ!?」
「今はお前しかいないわけだが。」
「ぐぅ~、ああ言えばこう言う…!っていうか、私の信頼はいいってことですか!?」
「お前には嘘をつきたくないだけだ。」
「はぁ…もういいです…。」
諦めたのか、リースが雰囲気を切り替える。
「それで、これからどうなさいますか?」
「うむ、まずはこの世界の様子を知るところからだな。380年も経ったのだ。さすがにいろいろと変わっているだろう。」
「そうですね、あの頃とは人間も含め様々な国が生まれ消え、技術や常識も変わっています。」
「俺より強い奴はいるか?」
「それは分かりませんが…。ライド様亡き後、魔王という絶対的な司令塔を失った多くの魔族は魔界に帰り、他の強者達もそれぞれの故郷などに散り散りになってしまいました。それによって、人間も倒す目標となる強敵もおらず、強くなる理由がほとんどありません。なので、平均的な装備や技術の質は上がっても、突出した強者はあまりいないでしょう。」
「張り合いは無いが、こっちとしては都合が良さそうだな。」
「はい。ただ、聖剣だけは行方知れずで…。申し訳ありません。」
「ふん…。大方、女神どもが回収したのだろう。アレは確かに魔族に対して強大な力を発揮するが、魔族以外に対しても十分危険な代物だからな。そういえばバルグとやらはどうなった?」
「ああ、聖剣でライド様を切り裂いた輩ですか。すぐに幹部達に八つ裂きにされましたよ。あっけない最期でした。」
そう言いながら、リースは無表情を取り繕っているかのようだった。当時何があったかは推して分かる。
「とりあえず人間の街を見に行きますか?」
「そうだな。お前が用意してくれた服のおかげでどこからどう見てもただの人間にしか見えんだろう。お前も
「それでは、ここから最も近いダルトの街に行きましょう。」
「ほう、ダルトは残っているのか。」
「はい。尤も、支配国であったイヴルスは滅び、今はガウレードという新しい国に属していますが。」
―――――――――――――――――――――――――
「へい、旦那!昼食はどうだい?」
「いらん。」
「回復薬はいかがですか?ダンジョンに行くなら必需品ですよ!」
「間に合っている。」
「宿を探しているなら、お安くしていますよ!今なら2人部屋で2000シルズ!」
「考えておく。」
380年という歳月でどれほど変わっているか。それを見に足を運んだものの、ライドの機嫌はいささか悪い。今はベンチに座って難しい顔をしている。
「どうかされましたか、ライド様。」
「あまり変わっていないようだな。確かに家屋や装備、消耗品、その他さまざまな物があの頃より断然良くなっている。しかし、画期的なものが見当たらん。ケータイほどは期待していなかったが、うーむ…。」
「ケータイ…ですか?」
「ああ、お前に喚ばれる前の世界の物だ。誰でもすぐに遠く離れた者と連絡が取れるこのぐらいの機械でな。」
「連絡ぐらい、遠隔魔法を使えば良いと思いますが。」
「む…確かにそうだが…なるほど、そういう事か。」
一人納得しているとリースが首をかしげる。
「なに、どうして380年も経って大して進歩していないのかと思ってな。しかし考えてみれば魔法があるのだ、技術の進歩が遅いのも当然という訳だ。…ふむ、ところで魔法の進歩はどうなのだ?」
「魔法はより誰でも使えるように体系化が進み、初等学校を卒業する頃には落ちこぼれでもない限り基本的な魔法は一通り使えるようになるようです。中等学校以降は自身の得意な武芸や魔法を習熟し、一人前となります。50年ほど前には複合魔法の体系が作られ、大きく進歩したようです。…まあ、ライド様からすれば大したことは無いかもしれませんが。」
「ふん、確かに俺からすればまだまだだな。とはいえ複合魔法を人の身で使えるようになるとは、感心といったところか。」
ライドの以前の知識では普通の人間は同時に複数の属性を操れない。それが出来るのは天性の才を持つほんの一握りだった。学びさえすれば誰でも出来るなら大躍進と言える。
「あれが今の冒険者か。」
目の前の店で買い物をしている4人組のパーティを見やる。
「はい。戦いに向いている者はああしてパーティを組んでダンジョンに行き、その戦利品で稼いでいます。」
「緊張感が無いな。」
「彼らにとっては半分遊びのようなものです。相手は統率の無いダンジョンのモンスターですし、装備や能力もありますから。しかし、もしかつてのような日常に放り込まれたら、アッサリ死んでしまうでしょうね。想定外の事が起きるなんて一ミリも思っていないでしょう。」
「真の戦いを知らん雑魚共、ということか。」
「さすがに危険なダンジョンを生業とする者は別ですが、大抵の冒険者はあんなものです。特にダルト程度の平和な街では尚更です。都レベルになれば、強者も見つかるかと。」
少し顎に手を当てて考えたあと、ライドが立ち上がる。
「視察はこれで十分だろう。お前はアウズを探しに行け。ガメル族のアウズだ。」
「かしこまりました。ライド様はどうなさるのですか?」
「俺はいくつか買う物がある。ダンジョンで待っているぞ。」
そう言うとライドは街中へと戻っていった。
―――――――――――――――――――――――――
「ただいま戻りました、魔王様。」
「おお、魔王様、お久しぶりでございます…!いや、話には聞いていましたがお若くなられましたな。」
リースがアウズを連れてダンジョンに戻ってくると、ライドは椅子に座って本を読んでいた。
「2,3日かかるかと思ったがさすがだなリース。そして久しぶりだな、アウズよ。」
「ほっほ。なに、リース殿が魔王様を復活させるのを手伝ったこともあってな。居場所は教えてあったんじゃよ。ちぃーーとばかし遠いがの。」
「ほう、そうだったのか。礼を言うぞ。後で高級ワインでも届けさせよう。」
「お安い御用じゃわい。それで、この老いぼれジジイを呼びつけてどうなさるおつもりかな。」
「これから話す俺の計画を聞いてもらおうと思ってな。無敗の知将と呼ばれたお前なら話す価値がある。」
「魔王様の計画…。」
ライドは2人に席へ座るのを促し、テーブルに紙を広げる。
「何故俺は380年前に死んだのか。それは、俺が魔族で、そして魔王だったからだ。これを克服せねば、たとえ力をつけても再び地に伏す事となるだろう。」
「俺は今、別の世界から喚ばれることによって人間の肉体を得た。これで半分はクリアしている。だがもう片方の魔王。最初これはどうしようもないと思った。俺が魔王である事実は覆せん。どんなおとぎ話でも魔王は最後に死ぬ。」
「しかし、魔族が魔王に逆らえんように、人間にもまた絶対的にひれ伏す者がいる。分かるか?」
「…まさか、本気ですかな?」
「ククク……そう、神だ。幸せな時も、絶望の瞬間も、人は必ず神に祈る。ならば、俺が神になればいい。魔王であり神であるとなれば全ての者が俺に逆らうことはできなくなる。いや、逆らうという発想すらなく、崇めるだけになる。俺が絶対的な支配者となるのだ。」
ライドが話し終えると、沈黙が流れた。ライド以外の者が言えば一蹴され、相手にもされない考え。しかし、ライドならそれを実現するだろうという漠然とした感覚がその場にあった。
「なんという計画。それが実現すれば確かに魔王様は無敵でしょうな。しかし、神になる方法などわしには見当も…。」
「フハハハ…。神を手に入れればいい。神を倒し、地に伏せさせればよいのだ。神を手に入れること、すなわち神の力を手に入れること。人間の崇める神が俺に従えばいいのだ。」
「神に挑むのですか、魔王様…。」
ライドに全幅の信頼を置くリースもさすがに不安の表情を隠しきれない。
「無論、危険は承知だ。しかしやらねばならないことだ。その時がくるまで、奴らに俺が戻ったことを感づかれてはならない。逆に気づかれなければ勝機がある。聖剣は奴らから人間へと渡され、それを人間が使うことで初めて力を発揮するのだ。気づかれさえしなければ恐るるに足りん。」
「その通りですな、魔王様。このアウズ、全力でその計画をサポートしましょうぞ。」
「うむ、頼りにしているぞ。まずは力をつけるところからだ。」
そう言うとライドは紙をそれぞれに渡し、話を続けていった…
知将アウズ:かつて魔王ライドの右腕として様々な計画を立てたガメル族の「無敗の知将」。肉体は衰えてきているものの、その慧眼と魔法の知識は随一。ライドが天才肌とすれば、アウズは生粋の努力家である。
ガメル族:非常に長寿な種族で、その寿命は数千年とも数万年とも言われるが、多くはその前に死亡するため定かではない。