この作品は、Team Salvato制作のビジュアルノベルゲーム、『Doki Doki Literature Club!(ドキドキ文芸部!)』を題材とした二次創作作品です。
この作品はお子様や精神を乱されやすい方には向いておりません。
『Doki Doki Literature Club!』本編とは一切関係はありません。
また、一部描写・設定が改変されています。
以上にご理解頂ける方のみ、ご覧くださいませ。
四ヶ月前――
俺はいつものように登校中の他の学生たちに紛れ、学校へと登校していた。
いつもの交差点に差し掛かり、歩行者用信号が青になるのを待つ。
ここの交差点の信号は、特段車通りが多いわけでもないのに、やけに赤信号状態が長い。
もしかしたら俺がせっかちなだけなのかもしれないが、せっかちになるのも無理もないと思う。
何故なら――
「待ってよ〜〜〜っ!!」
寝癖のついた髪を揺らしながら、こちらに大急ぎで走ってくる鴇色髪の少女。
彼女の名は"サヨリ"。幼少期から今まで、腐れ縁ではあるものの、共に日々を過ごしてきた俺の幼馴染だ。
だからこれは最早いつもの光景であり、その姿を見て額に手を当てて溜め息をつくのも、いつものことだ。
「……全く。今日も大遅刻だな、サヨリ」
「セ、セーフだよ! 今日もちゃんと追いついたでしょ!?」
「アウトだよ。ほら」
櫛と手鏡をサヨリに投げ渡す。
こんな時の為に、俺はいつも最低限の身嗜みを整えられる道具を普段から持ち歩いている。
おかしな話ではあるが。
おっとと、と焦りつつ、サヨリはそれらをキャッチする。
「女の子なんだから、それくらい自分でやれ」
「むー、男女差別を感じる! 君がやってくれた方が早く終わると思うなー! 歩きながらだと危ないしなー!」
「学校着いてからトイレで整えればいいだろ。そろそろ脱『俺』をしろ」
いつもの角度でサヨリの跳ねた髪目掛けてチョップをかまし、いつものように彼女はぴえっと声を上げる。
後ろから来ていた仲の良さそうな男子生徒ふたりが、こちらの様子を伺いながら通り過ぎていく。
その顔はニヤついていて、どんなことを二人が想像しているかは丸わかりだ。
そんな二人から目を外し、サヨリを連れて青になった横断歩道を渡る。
周りの視線にも慣れたものだ。
こんな事を、もう何年も続けているのだから。
頭を摩りながら、サヨリはふと口を開く。
「そういえばさ、新学期始まってからもうすぐひと月だけど、もう部活どこに入るか決めた?」
「部活? いや、今年も帰宅部を貫き通すつもりだけど」
「え〜〜っ!?」
こいつはいちいち反応がうるさい。
大げさに口に手の平をあて、今度は両手を腰にあて、ぷりぷりと怒り出す。
「新学期になったら、どこでも良いから部活に入ってよ、って私あんなに言ったじゃん!」
「そんな事言ってたっけ? 全く覚えてないんだが」
――いや待てよ、もしかしたら何処かでそんな話もしたかもしれない。
サヨリはとにかくお喋りな奴で、俺はたまに話題を聞き流してしまう事があるのだ。
ちゃんと話を聞いてなかった事に、少しだけ罪悪感を覚える。
「心配なんだよ、いつもアニメやゲームばっかりで、他に関心が無いんだから。もっとちゃんとした趣味持たないと、この先の将来、困った事になるよ!? 男の子なんだから、もっとかっこいい趣味をもちなさい!」
「おっと、今の発言には男女差別を感じるな? アニメ鑑賞も、ゲームするのも、立派な趣味だ。お前はかっこいいと思わないかもしれないが、他にかっこいいと思ってくれる女の子もいるかもしれない。そうだろ?」
「むー……心配して言ってるのに。それに今話してるの、私だもん……」
ぶすっと頬を膨らませ、サヨリは自分の人差し指の先を合わせる。
これはサヨリがいじけている時の合図みたいなものだ。
俺は頭を掻き、溜め息をつく。
「――わかった、悪かったよ。今日の放課後にでも、適当に部活見学してみる。それでいいか?」
「ほんと!?」
サヨリは顔をばっと上げ、目を輝かせ俺の顔を見る。
「ああ」、と俺が答えると彼女は全身を使って喜びを表現する。
……やっぱりうるさい奴だ、こいつは。
嫌いにはなれないうるささだけどな。
この快活なテンションこそ、サヨリの取り柄であり、魅力のようなものだ。
「えへへ〜。私の気持ちが通じてくれたみたいで嬉しいよ〜」
「見学するだけって言ったからな。まだ入部するとは一言も言ってないぞ」
「わかってるわかってる〜!」
スキップしながら楽しそうに目の前を歩くサヨリ。
うん、ありゃ多分わかっちゃいないテンションだな。
こいつ、普段はボケっとしてる癖に、妙に計算高いところがあるし、もしかして俺はこいつに上手くのせられたんじゃないか……?
一株の不安を覚えながら、俺はサヨリと共に学校へと歩みを進めるのだった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
そして放課後。
誰もいない教室の中で、俺は自分の席に座りながら、部活案内の冊子とにらめっこしていた。
本来であれば、自分の友達の部活を覗いてみるのが一番楽なのだろうが、まだ新学期も始まったばかりで、俺はまだ友達らしい友達は作れていなかった。
俺が人と話すのが苦手なのもあると思うが、一番の原因は……やはり趣味の問題だろうか。
周りは野球やらサッカーやら、所謂一般的な趣味をもつ人ばかりで、普段からスポーツ番組やらニュースやらを見ない俺は話に着いていけず、教室の隅で漫画を読む、俗に言う日陰者となっていた。
サヨリにはさっきああ言ったものの、彼女の言ってることも間違いじゃなかったのかもしれない。
頭を悩ませながら冊子を捲っていると、教室のドアがノックされる。
そちらに顔を向けると、半開きになっているドアの隙間から、サヨリがこちらに手を振っていた。
「やっほ、もう部活見学、どこにするか決めた?」
「まだ。色々あるならな。今のところ興味を惹かれてるのは、『アニメ鑑賞部』だが」
こちらに手を振りながら歩み寄ってきていたサヨリは、俺の言葉に意気消沈し、ずっこける。
「そ、それじゃあいつもと変わらないよ! アニメ見るのが家から学校になるだけじゃん!」
「そうだな」
「そうだな、じゃなくて……。もぉー」
サヨリは牛のように長く鳴き、溜め息をつく。
「あのね、迷ってるなら……その、ウチの部活に来ない?」
もじもじと身動ぎながら、サヨリは提案してきた。
実はサヨリは、今年新しく創設された文芸部の副部長を務めている。
変わった奴ではあるが、意外にもしっかりしているところもあり、その生真面目さを活かして部を支えているらしい。
——まあ、俺が思うに多分文芸部に入った動機は、目新しさに惹かれたのと、部活創設に初めて賛同した人物だという名誉みたいなもの欲しさだと踏んではいるが。
ともかく、俺はそのサヨリが所属している文芸部にたった今誘われたわけだが……。
「いやです」
と、その誘いを、一刀両断する。
サヨリは驚く仕草を見せ、大袈裟に叫ぶ。
「な、なんでーーーっ!?」
「あのな、そもそも俺は小説なんて読まない。読んだとしてもライトノベルとか、世間一般ではまだまだ地位の低いと言えるであろうものしか読んでないんだよ。そんな初心者丸出しの俺が、突然文学なんて奥の深い世界を追求する部活なんかに入ってみろ。俺は死ぬ」
と、色々理由は挙げてみたものの、内心はやはり面倒くさいからだったりする。
あと、幼馴染と同じ部活に入ったなんて噂が流れようものなら、俺の平穏に満ちた日常は失われるだろう。
それだけは阻止せねばならない。
「うぅ……困ったなあ、どうしよう……」
「——困った?」
サヨリの様子に嫌な予感がする。まさか、こいつ――
「……なあ、お前もしかして、文芸部の部員さんたちに俺のことを話したりしたんじゃないだろうな?」
「え、えへへ〜……。実は、そうだったり」
頬をぽりぽりと掻くサヨリ。
こんなにしつこく部活の見学を迫ってたのは、そういう事だったのか!
「お願い! 部員の子が来るって聞いてカップケーキ作ってきてくれちゃったりしてさ、もう引き下がれなくなっちゃってるっていうか……」
「あのなあ、お前の悪い癖だぞ。出来ない約束なんてするなよ、全く!」
俺は肩を落とし、溜め息をつく。
こうなってはもう仕方がない。サヨリの言葉に期待した文芸部の部員さんたちや、そのカップケーキを焼いてくれたという子にも申し訳ないし、文芸部に顔を出すとしよう。
「ああもうわかったよ。行けばいいんだろ、行けば」
俺の言葉に、サヨリは目を輝かせる。
「えへへ〜、ありがとう! じゃあ早速いこ! みんな待ってるよ!」
……やはり、こいつの手のひらで踊らされている感じが拭えない。
俺が断れないのわかっててやってるだろ……。
そう思いつつも口には出さず、俺はサヨリの後を着いていく。
そういえば、カップケーキを焼いたってことは、その子はもしかして、女子なのだろうか……?
そんな下心丸出しの期待をしてしまう。
――待て待て、最近は『スイーツ男子』という言葉もあるらしい。
あまり期待はしないほうが賢明だろう……。
けどもし、女子の手作りカップケーキを部活見学をするだけで頂けるというのであれば、今回の件は悪くない話でもないな……?
そんな事を考えつつ、俺たちは普段立ち寄ることのない、上階の3年生が使用するフロアへと足を運ぶ。
そして、サヨリはある一室の前で立ち止まり、扉を開く。
「みんな、おまたせ!」
「ど、どうも。お邪魔します……」
勝手知るように部屋へと入り込んでいくサヨリの後ろから、おずおずと俺も彼女に着いて教室へと足を踏み入れる。
教室を見渡す前に、俺とサヨリの前に一人の人物が教室の奥から姿を現わす。
「待っていたわ。ようこそ文芸部へ! ってね。ふふ。お久しぶりね」
「モ、モニカ!? どうしてここに?」
黄金色の髪にエメラルド色の瞳をもつ、眉目美麗の彼女の名は"モニカ"という。
文武両道であり、天才を絵に描いたような存在で、所謂学園のアイドルだ。
「去年はディベート部に所属していたのだけど、色々あって辞めてしまってね。今年の新学期から新しくこの文芸部を立ち上げたの。サヨリと、あと二人と一緒にね」
モニカの後ろからもう一人、顔を覗かせる人物がいる。
紫がかったロングヘアーの大人しめな印象を受ける少女だ。
「は、初めまして。サユリさんからいつもお話を伺っております。わ、私は、ユリと申します」
「こ、これはご丁寧にどうも……」
彼女——ユリと同時に、俺は深々と礼をする。
とても礼儀正しい人のようだ。
まさに文芸部員という感じがする。
その光景を、何がおかしかったのかサヨリはケラケラと笑っている。
「二人ともよそよそし過ぎだよ〜!」
「へえそうかい。俺にはお前が馴れ馴れし過ぎるような気がするんだが」
サヨリは「ひどーい!!」とまた仰々しくむくれている。
そんな俺たちを見て、ユリはくすくすと笑う。
「お二人とも、本当に仲がよろしいのですね」
「それはユリの誤解だ。腐れ縁ってやつだよ、こいつとは。それより、もう一人ってのは? 姿が見えないようだけど」
辺りを見回すが、それらしい人影は見えない。まだ来ていないのだろうか?
サヨリが隣に寄ってくる。
「あ、えっと――あ」
彼女が何かに気付いたのか、声をあげる。
「あんた、いい度胸じゃない。え"ぇ"っ"!?」
俺はそいつが近づいてきた事に気付く間も無く、そして俺の左足の甲に衝撃が走る。
「――っい!?」
痛みに耐えかねてしゃがみ込んだ俺は、悶えながら前方を見上げる。
そこには、桃色髪の小悪魔少女が、腕を組んで俺を睨みつけている姿があった。
それが俺と彼女——ナツキとの出会いだった。